説明

洗濯廃液の処理方法

【課題】非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液の蒸発濃縮時の発泡を抑制できる洗濯廃液の処理方法を提供する。
【解決手段】洗濯廃液収集タンク2から排出された、非イオン界面活性剤、および洗濯時に衣類から溶出した高級脂肪酸、高級アルコールおよび汗(塩分)を含む洗濯廃液が、陽イオン交換樹脂が充填されたイオン交換樹脂塔26に供給される。洗濯廃液に含まれたカチオン成分(例えば、Naイオン)が陽イオン交換樹脂によって除去され、洗濯廃液のpHが低下する。洗濯廃液が洗濯廃液収集タンク2とイオン交換樹脂塔26の間で循環されて洗濯廃液のpHが3.0〜7.5の範囲内の値、例えば、6.0になったとき、イオン交換樹脂塔26への洗濯廃液の供給が停止され、洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液が加熱器7に導かれて加熱され、濃縮缶5に供給される。pH6.0の洗濯廃液が濃縮缶5で蒸発濃縮される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯廃液の処理方法に係り、特に、原子力プラントおよび核燃料再処理施設等の放射性物質取り扱い施設で発生する洗濯廃液の処理に適用するのに好適な洗濯廃液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核燃料物質等の放射性物質を取り扱う放射性物質取り扱い施設では、放射線管理区域を設定し、放射性物質による汚染防止、放射性物質の拡散防止、作業者が受ける放射線量の抑制、および放射線管理等の放射線防護手法が適用されている。放射線管理区域内で作業を行う作業者が、放射線管理区域専用の作業着を着用し、点検および工事等に従事することも、放射性物質取り扱い施設における放射線防護の一つである。
【0003】
作業者が着用する、手袋、下着、靴下および作業着等の衣類は、放射性物質取り扱い施設(例えば、原子力プラント)内で洗濯され、放射性物質で汚染されていないことを確認した上で、再使用される。一方、作業着等を洗濯したときに発生する廃液(以下、洗濯廃液と言う)は、放射性物質を含んでいる可能性があるため、原子力プラントが設置された原子力発電所内で処理し、放射性物質を含んでいないことを確認した後、環境に排水され、あるいは、原子力発電所内で再利用される。
【0004】
洗濯廃液の処理方法としては、蒸発缶を用いて洗濯廃液を蒸発濃縮する方法が知られている。この蒸発濃縮法の一例が特開平11−319890号公報に記載されている。ろ過器を通過した洗濯廃液は、紫外線酸化反応器を経て蒸発濃縮器に送られ、蒸発濃縮される。蒸発濃縮器は、洗濯廃液を加熱して洗濯廃液に含まれた水分を蒸発させ、洗濯廃液を濃縮する。蒸発によって発生した蒸気は凝縮され、凝縮水として再利用される(または環境に排水される)。蒸発濃縮器で濃縮された放射性核種を含む洗濯廃液は、セメント等で固化される。蒸発濃縮器で洗濯廃液を濃縮する際に生じる発泡を抑制するために、特開平11−319890号公報に記載された蒸発濃縮法では、蒸発濃縮器に洗濯廃液を供給する前に、洗濯廃液を紫外線反応器に供給し、紫外線反応器内で洗濯廃液に過酸化水素またはオゾンを添加してこの洗濯廃液に紫外線を照射する。紫外線反応器内で洗濯廃液に対してそのような処理を行うことにより、洗濯廃液に含まれた発泡因子が脱離され、TOC成分の一部が酸化分解される。このように紫外線酸化処理された洗濯廃液は、蒸発濃縮器での蒸発濃縮における発泡を抑制する。
【0005】
「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行(2007年6月11日発行)は、32頁に、界面活性剤の種類として、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤および両性界面活性剤を記載している。「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行、pp53−56(2007年6月11日発行)は、さらに、高級脂肪酸および高級アルコール結合したエステル化合物は、非イオン系の界面活性剤として作用する可能性を有することも記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−319890号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行、p32、pp53−56及びpp77−79(2007年6月11日発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
蒸発濃縮器である濃縮缶において、洗濯廃液の蒸発濃縮処理が繰り返されると、濃縮缶内で、洗剤成分、衣類から溶出した有機物および作業者の汗、皮脂等の成分が濃縮される。洗濯廃液には作業者の汗等に含まれる塩素が含まれるため、一般的には数10ppm以上の塩素イオンが洗濯廃液に含まれている。塩素濃度が高くなると、濃縮缶の構造材の腐食が進んで濃縮缶の劣化が生じるため、一般的に、濃縮缶内の塩素濃度が所定値以上にならないように管理して運転される。
【0009】
特開平11−319890号公報に記載されたように、洗濯廃液に、金属配管等の金属部材に対して腐食性の高いオゾンまたは過酸化水素を添加した場合には、オゾンまたは過酸化水素を含む洗濯廃液と接触する金属製の配管及び機器の内面が、洗濯廃液に含まれるオゾンまたは過酸化水素によって腐食する可能性がある。
【0010】
ここで、洗濯廃液の蒸発濃縮処理に際して、濃縮缶内において水質によっては泡が生成する場合がある。泡の生成が大きくなると、濃縮缶内の空隙が泡で満たされ、さらに泡が成長すると、泡が濃縮缶で発生した蒸気に含まれるミストを除去するデミスタにまで達する。この場合、洗濯廃液が泡となってデミスタに移行してしまう。デミスタへ移行した泡(廃液)は、デミスタ底部配管より、再び洗濯廃液収集タンクへ回収されるが、濃縮缶からデミスタへの移行量が大きく、洗濯廃液の供給が間に合わずに、濃縮缶内の水位が制御レベルを逸脱して低下することで濃縮運転が継続できない事例が経験されている。このため、予め発泡性の少ない洗剤(例えば、非イオン界面活性剤を含む洗剤)を使用する等、濃縮缶内において発泡が生じないよう配慮されている。しかしながら、衣類からの溶出物あるいは、作業衣に付着した汚れ成分により、洗濯廃液の発泡性が大きく変化し、洗濯廃液処理装置の稼動に支障をきたすことを回避できる新たな洗濯廃液の処理方法が望まれている。
【0011】
本発明の目的は、非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液の蒸発濃縮時の発泡を抑制できる洗濯廃液の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液のpHを3.0〜7.5の範囲に調節し、pHが3.0〜7.5の範囲の値になった洗濯廃液を蒸発濃縮することにある。
【0013】
発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいる洗濯廃液を、pHを3.0〜7.5の範囲に調節した後に、蒸発濃縮するので、洗濯時に洗濯廃液に含まれた高級脂肪酸および高級アルコールを基に洗濯廃液内で発泡成分が形成されるのを抑制することができる。このため、非イオン界面活性剤を含んでいる洗濯廃液の蒸発濃縮時における発泡を著しく抑制することができる。
【0014】
好ましくは、洗濯廃液のpHを6.0〜7.0の範囲内の値に調節することが望ましい。
【0015】
好ましくは、洗濯廃液のpHの調節が、洗濯廃液に含まれているカチオン成分を陽イオン交換樹脂で除去することによって行われることが望ましい。
【0016】
好ましくは、洗濯廃液のpHの調節が、洗濯廃液の電解により洗濯廃液に含まれているカチオン成分を除去することによって行われることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液を蒸発濃縮する際に発生する発泡を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置の構成図である。
【図2】洗濯廃液の沸騰時における発泡の測定方法を示す説明図である。
【図3】高級脂肪酸の発泡性の測定結果を示す説明図である。
【図4】高級脂肪酸ナトリウム塩の発泡性の測定結果を示す説明図である。
【図5】100ppmのステアリン酸ナトリウムを含む試験液のpHを変化させたときにおける発泡性の測定結果を示す説明図である。
【図6】イオン交換樹脂を用いて模擬廃液のpHを調整した試験結果を示す図である。
【図7】洗濯廃液の電解を行う電解装置の一例の構造の概要図である。
【図8】図7に示す電解装置を用いて模擬廃液のpHを調節した実験の結果を示す説明図である。
【図9】本発明の他の実施例である実施例2の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置の構成図である。
【図10】本発明の他の実施例である実施例3の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、洗濯廃液に含まれる発泡成分を特定するために、放射性物質取り扱い施設である原子力プラント内で使用される、作業員の衣類から溶出する成分を分析した。衣類の付着成分をメタノールにより溶解・抽出し、その後、ガスクロマトグラフ−質量分析法により分析した。この結果、衣類にはステアリン酸およびパルチミン酸等の高級脂肪酸類、およびオクタコサノール、トリアコンタノール等の高級アルコール類の成分、さらには高級脂肪酸と高級アルコール結合したエステル化合物も検出した。同時に、洗剤中には、ナトリウム塩が含まれていることも確認した。
【0020】
衣類から検出された高級脂肪酸およびナトリウムにより生成する高級脂肪酸ナトリウム塩は、アニオン系の界面活性剤(石鹸)として作用し、発泡性を加速する性質を有する(「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行、pp77−79参照)。また、高級脂肪酸と高級アルコール結合したエステル化合物は、非イオン系の界面活性剤として作用する可能性を有する(「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行、pp53−56参照)。
【0021】
発明者らは、上記の分析結果および「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行に記載された情報に基づいて、濃縮缶内における発泡は、洗濯に用いる洗剤自身が発泡性を有していない場合であっても、洗濯すると衣類に付着している高級脂肪酸および高級アルコールが洗濯廃液内で、アニオン系の界面活性剤および非イオン系の界面活性剤を形成することにより発泡が生じることを新たに見出した。ただし、非イオン系の界面活性剤は、アニオン系及界面活性剤に比べ相対的に発泡性は低くなっている。
【0022】
発明者らは、この新たな知見に基づいて、洗濯廃液を、この洗濯廃液に含まれる界面活性成分が作用し難い水質条件に調整することにより、濃縮缶における発泡を抑制する可能性を検討した。この結果、発明者らは、洗濯廃液のpHを3.0〜7.5の範囲、好ましくは、6.0〜7.0の範囲に調整した後、このようにpHを調整した洗濯廃液を蒸発濃縮すれば、濃縮缶内における発泡を抑制できることを発見した。
【0023】
上記の新たな知見を得た具体的な検討結果を以下に説明する。
【0024】
発明者らは、最初に、衣類に付着している高級脂肪酸とナトリウムの混合により、発泡成分が生成されることの確認を行った。高級脂肪酸として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸およびステアリン酸を用いた。ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸およびステアリン酸のそれぞれの約100ppm水溶液が100ml準備され、水酸化ナトリウムがそれぞれの水溶液に添加され、それぞれの水溶液(試験液)のpHが約11.8に調整された。発明者らは、これらの試験液の発泡性を、図2に示す試験装置を用いて確認した。pH調整後の一種類の試験液(例えば、ラウリン酸)を500mlのビーカーに移し、このビーカーを電気コンロ上で置いた。そして、ビーカー内の試験液を、電気コンロにより加熱して沸騰させた。試験液が発泡性を有する場合には、ビーカー内の試験液の上部に泡の層が形成される。試験液の容積とこの沸騰により生成される泡の容積の合計を発泡容積と定義し、試験液の沸騰性を示す指標とした。pH調整後の他の三種類の試験液を500mlの別々のビーカーに入れ、それぞれのビーカー内の試験液を電気コンロにより加熱し、試験液を沸騰させた。それぞれの試験液について発泡性を確認した。
【0025】
この4種類の高級脂肪酸に対する発泡性を確認した実験結果を、図3に示す。高級脂肪酸と水酸化ナトリウムを添加したそれぞれの試験液は、発泡性を示し、かつ分子量が大きな高級脂肪酸ほど発泡容積が増加する結果を示した。ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸およびステアリン酸の順に、発泡容積が大きくなった。
【0026】
次に、100ppmの高級脂肪酸のナトリウム塩水溶液、すなわち、100ppmのラウリン酸ナトリウム水溶液、100ppmのパルチミン酸ナトリウム水溶液および100ppmのステアリン酸ナトリウム水溶液をそれぞれ調整した。この調整により、ラウリン酸ナトリウム水溶液のpHは8.2に、パルチミン酸ナトリウム水溶液のpHは9.0に、ステアリン酸ナトリウム水溶液のpHは9.5になった。図2に示す実験装置を用いてこれらの水溶液(試験液)に対して発泡性を確認する実験を、ラウリン酸等と同様に行った。これらの発泡性を確認する実験結果を図4に示す。100ppmのラウリン酸ナトリウムを含む試験液は、発泡容積が120mlとほとんど発泡しなかった。これに対して、100ppmのパルチミン酸ナトリウムを含む試験液および100ppmのステアリン酸ナトリウムを含む試験液の各発泡容積は500ml以上となり、図3に示した高級脂肪酸と水酸化ナトリウム混合液(発泡容積:500ml以上)とほぼ同様の発泡性を示した。
【0027】
これらの試験結果により、洗濯により衣類から溶出する高級脂肪酸等の成分が、洗剤に含まれるナトリウムと反応し界面活性を示すことが、洗濯廃液の発泡性を増加させている原因であることを確認することができた。
【0028】
次に、100ppmのステアリン酸ナトリウムを含む試験液のpHが、この試験液に水酸化ナトリウムおよび硫酸を添加することにより、3、7、7.5、8、9.5および12のそれぞれに調整された。それぞれのpHを有する100mlの試験液を別々に500mlのビーカー内に入れ、これらのビーカーを図2に示す電気ヒータの上に置いてビーカー内の試験液を加熱した。それぞれの試験液を沸騰させ、各ビーカー内で発生した泡の上限の容積をそれぞれ測定した。これらの測定結果、図5に示す。100ppmのステアリン酸ナトリウムを含むpH8.0およびpH9.5のそれぞれの試験液では、発泡容積が500ml以上あった。100ppmのステアリン酸ナトリウムを含むpH7.5の試験液では、発泡容積が約180mlまで減少した。さらに、100ppmのステアリン酸ナトリウムを含むpH3.0およびpH7.0のそれぞれの試験液では、発泡容積が130mlで下限値を示した。
【0029】
これらの実験結果に基づいて、発明者らは、洗剤自身が発泡性を有していない場合であって、洗濯物(衣類等)に付着している高級脂肪酸および高級アルコールを基に洗濯廃液内で発泡成分が形成される場合でも、洗濯廃液のpHを7.5以下の範囲にすれば洗濯廃液の沸騰時における発泡を低減できることを発見した。洗濯廃液のpHは、洗濯廃液処理装置の金属部材(例えば、後述の濃縮缶5、加熱器7、廃液供給管14及び濃縮液供給管15等)の腐食を防止するために、3.0以上にする。また、好ましくはpHを7.0以下の範囲にすることにより、洗濯廃液の発泡量を最小に維持できることを発見した。洗濯廃液のpHが極端に低下すると、洗濯廃液の蒸発濃縮工程時において洗濯廃液が濃縮されると、濃縮廃液のpHは蒸発濃縮の前よりもされに低下する。この結果、濃縮缶の構成部材の腐食が進み易くなるため、pHは、7.0以下の範囲で、6.0〜7.0(ほぼ中性)の範囲にすることが望ましい。
【0030】
発明者らは、蒸発濃縮前の洗濯廃液のpHを3.0〜7.5の範囲内に調整する方法について種々検討した。これらの検討に当たっては、洗濯廃液として、原子力発電所にて使用されている非イオン性界面活性剤を主成分とする洗剤を約250ppm含む洗濯液で作業着を洗濯して調整した洗濯廃液の模擬液を用いた。検討の結果、発明者らは、第1の方法として陽イオン交換樹脂を用いる方法を、第2の方法としてイオン交換膜を有する電解装置を用いる方法を見出した。
【0031】
まず、陽イオン交換樹脂を用いる第1の方法について説明する。第1の方法は、洗濯廃液に含まれるカチオン成分を陽イオン交換樹脂により選択的に除去する方法である。発明者らは、非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液の模擬液(250ppmの洗剤を含む)にカチオン樹脂を添加し、カチオン樹脂の添加量と模擬液のpHの変化を測定した。この測定結果を図6に示す。図6において、横軸は洗濯廃液に対するカチオン樹脂量の比を示している。初期のpHが約7.5の模擬液に、この模擬液に対するカチオン樹脂の比が0.0009、約1/1000容量であるカチオン樹脂を添加して攪拌すると、その模擬液のpHは約6まで低下した。さらに、このpHが6になった模擬液の沸騰実験を行った結果、発泡容積が約130mlを示した。なお、洗濯廃液に対するカチオン樹脂量の割合が0.0013のときにpHが5になり、その割合が0.0022のときにpHが約4.4に、その割合が0.0043のときにpHが約3.3になった。
【0032】
次に、イオン交換膜を有する電解装置を用いる第2の方法について説明する。電解装置は、図7に示すように、イオン交換器31および直流電源40を有する。イオン交換器31は、容器内にカチオン樹脂膜(陽イオン交換膜)を設置し、カチオン樹脂膜が容器内を陽極が配置された陽極室と陰極が配置された陰極室に仕切っている。非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液の模擬液が充填される容器32が、ポンプ33が設けられた模擬液供給管34によって陽極室に接続される。陽極室に接続された模擬液戻り管35が容器32に接続される。回収液を溜める容器36がポンプ37を設けた回収液供給管38によって陰極室に接続される。回収水戻り管39が陰極室と容器36を接続する。直流電源40が陽極および陰極に接続される。
【0033】
直流電源40から陽極および陰極に電圧を印加した状態で、ポンプ33を駆動して容器32内の洗濯廃液の模擬液を模擬液供給管34によって陽極室に供給する。また、ポンプ37を駆動して容器36内の回収水を、回収水供給管38を通して陰極室に供給する。陽極および陰極に通電しているので、電解により、陽極室に供給された模擬液に含まれたカチオン成分(例えば、Naイオン)がカチオン樹脂膜を通して陰極室に移行する。陽極室内の模擬液は、カチオン成分の陰極室への移行によって、カチオン成分濃度が低下する。カチオン成分が減少した模擬液は模擬液戻り管35によって容器32に戻される。カチオン成分が陰極室に移行することによって、陰極室内の回収水のカチオン成分の濃度が上昇する。カチオン成分の濃度が上昇した回収水は、回収水戻り管39によって容器39に戻される。模擬液は容器32と陽極室の間を循環し、回収水は容器と陰極室の間を循環するので、模擬液のカチオン成分の濃度が徐々に減少し、回収水のカチオン成分の濃度が徐々に上昇する。
【0034】
発明者らは、100ppmの高級脂肪酸のナトリウム塩を含む模擬液を、上記した電解装置を用いて電解する実験を行った。この実験に用いた模擬液は、250ppmの洗剤及び50ppmのNaClを含んでおり、塩素イオン濃度が60ppmである。なお、陽極及び陰極の面積は150cmである。その実験により得られた結果を図8に示す。図8は、模擬液および回収水のNaイオン濃度およびpHの時間変化を示している。模擬液を電解すると、陽極室(模擬液)のNaイオン濃度およびpHが減少し、陰極室にNaイオンが移行して陰極室内で濃縮されるため、陰極室(回収水)のNaイオン濃度およびpHが増加した。このように、発明者らは、電解により、模擬液のpHが減少することを確認した。
【0035】
以上に述べたように、発明者らは、界面活性剤自身が発泡性を有していない場合であって、洗濯物(衣類等)に付着している高級脂肪酸および高級アルコールを基に洗濯廃液内で発泡成分が形成される場合でも、第1の方法または第2の方法を洗濯廃液の処理に適用することによって、洗濯廃液のpHを3.0〜7.5の範囲に調節することができ、蒸発濃縮における発泡を著しく低減できることを新たに見出した。
【0036】
以上に述べた検討結果を反映した、本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0037】
本発明の好適な一実施例である実施例1の洗濯廃液の処理方法を、図1を用いて説明する。本実施例の洗濯廃液の処理方法は、前述した第1の方法である。
【0038】
まず、本実施例の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置1を、図1を用いて説明する。洗濯廃液処理装置1は、洗濯廃液収集タンク2、濃縮缶5、加熱器7、デミスタ10、復水器11およびイオン交換樹脂塔26を備えている。
【0039】
加熱器7は胴体内に複数の伝熱管(図示せず)を設置している。濃縮缶5は、底部に接続される濃縮液供給管15によって加熱器7に接続され、各伝熱管に連絡される。ポンプ6が濃縮液供給管15に設けられる。加熱器7に接続されて各伝熱管に連絡される濃縮液戻り管16が、蒸発缶5に接続される。ボイラー(図示せず)に接続された蒸気管19が加熱器19の胴体に接続される。廃液収集タンク2は、底部に接続されてポンプ3および開閉弁4が設けられた廃液供給管14によって、ポンプ6の下流で濃縮液供給管15に接続される。陽イオン交換樹脂が内部に充填されたイオン交換樹脂塔26は、開閉弁27を設けた配管29によって、ポンプ3と開閉弁4の間の廃液供給管14に接続され、戻り配管30によって洗濯廃液収集タンク2に接続される。pH計28が配管29に設置される。開閉弁8が設けられる濃縮液排出管17が、濃縮液供給管15と濃縮液貯蔵タンク9を連絡する。濃縮液貯蔵タンク9に接続された濃縮液排出管18が乾燥粉体固化装置(図示せず)に接続される。
【0040】
デミスタ10が、蒸気排出管20によって濃縮缶5に接続され、配管23によって洗濯廃液収集タンク2に接続される。蒸気排出管21が、デミスタ10と復水器11を接続し、復水器11内に設けられた複数の伝熱管(図示せず)に連絡される。復水器11に接続されて各伝熱管に連絡された凝縮水供給管22が、凝縮水貯蔵タンク12に接続される。復水器11の胴体には、冷却器(図示せず)に接続された配管25が接続される。
【0041】
洗濯廃液処理装置1を用いて行われる本実施例の洗濯廃液の処理方法について、説明する。原子力プラントの定期検査時において、原子力プラントの保守点検作業および補修作業に従事した作業員の作業着等の衣類は、この原子力プラントに対して設けられた洗濯装置で非イオン界面活性剤を含む洗剤を用いて洗濯される。この洗濯により、非イオン界面活性剤、および洗濯時に作業着等の衣類から溶出した高級脂肪酸、高級アルコールおよび汗(塩分)を含む洗濯廃液が発生する。高級脂肪酸、高級アルコールおよび塩分(ナトリウム塩)を含む洗濯廃液が、洗濯装置から配管13を通して洗濯廃液収集タンク2に導かれ、貯蔵される。
【0042】
開閉弁4を閉じて開閉弁27を開き、ポンプ3が駆動されると、洗濯廃液収集タンク2内の、非イオン界面活性剤、高級脂肪酸、高級アルコールおよび塩分を含む洗濯廃液が、廃液供給管14および配管29によって、陽イオン交換樹脂が充填されたイオン交換樹脂塔26に供給される。洗濯廃液に含まれているカチオン成分が、イオン交換樹脂塔26内の陽イオン交換樹脂によって除去される。カチオン成分(例えば、ナトリウムイオン)の濃度が低下した洗濯廃液が、戻り配管30により洗濯廃液収集タンク2に戻される。カチオン成分濃度の低下により、イオン交換樹脂塔26から排出される洗濯廃液のpHも低下する。イオン交換樹脂塔26に供給されるpHがpH計28によって計測される。イオン交換樹脂塔26に供給される洗濯廃液のpHがpHの設定値(例えば、6.0)に低下するまで、ポンプ3の駆動により洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液が継続してイオン交換樹脂塔26に供給される。図示されていないが、pH計28で計測されたpH計測値が制御装置に入力され、この制御装置が、そのpH計測値がpH設定値である6.0になったと判定したとき、開閉弁4を開けて開閉弁28を閉じる。これらの開閉弁の操作により、洗濯廃液のイオン交換樹脂塔26への供給が停止され、洗濯廃液が、洗濯廃液収集タンク2から廃液供給管14および濃縮液供給管15を通って加熱器7に供給される。開閉弁8は閉じている。
【0043】
pHが6.0の洗濯廃液が、加熱器7の伝熱管内で、ボイラーから蒸気管19を通して加熱器7の胴体内に供給される蒸気によって加熱され、温度が例えば100℃に上昇する。加熱器7で加熱された洗濯廃液が濃縮液戻り管16によって濃縮缶5に導かれる。加熱された洗濯廃液は、蒸発分が濃縮缶5で除去されて、濃縮される。ポンプ6が駆動されるので、濃縮缶5内の濃縮液が濃縮液供給管15を通して加熱器7に供給される。濃縮缶5内の濃縮液は、濃縮液供給管15および濃縮液戻り管16により、濃縮缶5と加熱器7の間を循環する。濃縮缶5内での洗濯廃液の蒸発量に見合った洗濯廃液の量を、洗濯廃液収集タンク2から加熱器7に供給することにより、濃縮缶5内の洗濯廃液の水位をほぼ一定に保ちながら連続的に洗濯廃液の濃縮処理を行う。濃縮缶5と加熱器7の間を循環する濃縮液の一部は、濃縮液供給管15から、開いている開閉弁17および濃縮液排出管17を通って濃縮液貯蔵タンク9に導かれる。濃縮液貯蔵タンク9内の非イオン界面活性剤、高級脂肪酸および高級アルコールを含む濃縮液は、濃縮液排出管18を通して乾燥粉体固化装置に送られ、ドラム管内に充填されてセメントにより固化される。
【0044】
濃縮缶5で洗濯廃液の蒸発により生成された蒸気は、蒸気排出管20によってデミスタ10に供給される。この蒸気に含まれるミスト成分が、デミスタ10で除去される。デミスタ10で除去されたミスト成分は、配管23によって洗濯廃液収集タンク2に導かれる。デミスタ10から排気された蒸気は、蒸気排出管21を通して復水器11の各伝熱管内に供給される。冷却器から配管25により復水器11の胴体内に冷却水が供給されるので、伝熱管内の蒸気が、この冷却水によって冷却されて凝縮する。蒸気の凝縮によって生成された凝縮水は、凝縮水供給管22により凝縮水貯蔵タンク12に供給され、凝縮水貯蔵タンク12内に貯蔵される。凝縮水貯蔵タンク12内の凝縮水は、凝縮水排出管24で脱塩器等の浄化装置に送られて浄化され、原子力プラントで再利用水として利用される。
【0045】
本実施例は、イオン交換樹脂塔26により洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液に含まれているカチオン成分を除去して洗濯廃液のpHを3.0〜7.5の範囲内の値、例えば、6.0まで低減し、pHが6.0の洗濯廃液を加熱器7および蒸発缶5により蒸発濃縮するので、発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいる洗濯廃液の蒸発濃縮時における発泡を著しく抑制することができる。本実施例では、洗剤自身が発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいるが、洗濯廃液が洗濯物(衣類等)から溶出した高級脂肪酸および高級アルコールを基に洗濯廃液内で発泡成分が形成される。しかしながら、非イオン界面活性剤を含んでいる洗濯廃液のpHが6.0になるので、前述したように、非イオン界面活性剤を含んでいる洗濯廃液の蒸発濃縮時における発泡を著しく抑制することができる。イオン交換樹脂塔を設けて洗濯廃液のpH調節を行う本実施例は、後述の実施例2等のように電解装置を設けてpH調節を行う場合に比べて電力の消費量が著しく少なくなる。
【0046】
さらに、本実施例では、特開平11−319890号公報のようにオゾンまたは過酸化水素を洗濯廃液に添加していないので、オゾンまたは過酸化水素により洗濯廃液処理装置1の金属部材である濃縮缶5、加熱器7、廃液供給管14及び濃縮液供給管15等が腐食されることが防止できる。
【実施例2】
【0047】
本発明の他の実施例である実施例2の洗濯廃液の処理方法を、図9を用いて説明する。本実施例の洗濯廃液の処理方法は、前述した第2の方法である。
【0048】
本実施例の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置1Aを、図9を用いて説明する。洗濯廃液処理装置1Aは、洗濯廃液処理装置1においてイオン交換樹脂塔26の替りに電解装置、回収水タンク48、ポンプ49を設けた回収水供給管54、回収水戻り管53およびポンプ50および開閉弁51を設けた回収水排出管55を備えた構成を有する。洗濯廃液処理装置1Aの他の構成は洗濯廃液処理装置1と同じである。
【0049】
洗濯廃液処理装置1Aの洗濯廃液処理装置1と異なっている部分について説明する。電解装置は、イオン交換器41および直流電源47を有する。イオン交換器41は、容器60内に陽極43、陰極45およびカチオン樹脂膜(陽イオン交換膜)46を設置している。カチオン樹脂膜46が、容器60内を、陽極43が配置された陽極室42と陰極45が配置された陰極室44に仕切っている。直流電源47が陽極43および陰極45に接続される。
【0050】
廃液供給管14に接続された配管29が、容器60に接続されて陽極室42に連絡される。戻り配管30が、容器60に接続されて陽極室42に連絡される。回収水戻り管53が、容器60に接続されて陰極室44に連絡され、さらに、回収水タンク48に接続される。回収水タンク48に接続された回収水供給管54が、容器60に接続されて陰極室44に連絡される。ポンプ49が回収水供給管54に設けられる。回収水戻り管53が、回収水タンク48に接続され、さらに、容器60に接続されて陰極室44に連絡される。回収水タンク48に接続された回収水排出管55が、開閉弁8の下流で濃縮液排出管17に接続される。
【0051】
洗濯廃液処理装置1Aを用いて行われる本実施例の洗濯廃液の処理方法について、実施例1と異なる部分を説明する。直流電源47から陽極43および陰極45に電圧が印加されており、開閉弁4が閉じて開閉弁27が開いている。ポンプ3が駆動されて洗濯廃液収集タンク2内の高級脂肪酸、高級アルコール、塩分及び非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液が廃液供給管14および配管29を通って電解装置の陽極室42に供給される。陽極室42内の洗濯廃液は、戻り配管30を通って洗濯廃液収集タンク2に戻される。洗濯廃液の組成は、実施例1と同じである。ポンプ49が駆動されて回収水タンク48内の回収水が、回収水供給管54によって電解装置の陰極室44に導かれ、さらに、回収水戻り管53を通って回収水タンク48に戻される。
【0052】
直流電源47より陽極室42内の陽極43および陰極室44内の陰極45に電圧が印加され、イオン交換器41では、洗濯廃液の電解が行われる。この電解によって、陽極室42内に存在する洗濯廃液に含まれるカチオン成分(例えば、ナトリウムイオン)が、カチオン樹脂膜46を通って陰極室44へ移行する。これにより、陽極室42内の洗濯廃液のカチオン成分の濃度が低下し、陰極室44内の回収水のカチオン成分の濃度が増加する。イオン交換器41を用いた電解により陽極室42内でカチオン成分の濃度が低下した洗濯廃液は、戻り配管30によって洗濯廃液収集タンク2に戻される。その電解により陰極室44内でカチオン成分の濃度が増大した回収水は、戻り配管53を通って回収水タンク48に戻される。
【0053】
洗濯廃液は、洗濯廃液収集タンク2、廃液供給管14、配管29、陽極室42、戻り配管30及び洗濯廃液収集タンク2をこの順番に循環しながら、陽極室42内でカチオン成分濃度を低減する。回収水は、回収水タンク48、回収水供給管54、陰極室44、回収水戻り管53および回収水タンク48をこの順番に循環しながら、陰極室44内でカチオン成分濃度を増大させる。配管29に設けたpH計28により陽極室42に供給される洗濯廃液のpHを測定する。この計測されたpH値が、pH計28から制御装置(図示せず)に入力される。この制御装置は、入力したpH値が3.0〜7.5の範囲内の値、例えば、6.0になったとき、開閉弁4を開いて開閉弁29を閉じてポンプ49を停止させ、直流電源47から陽極43および陰極45への電圧の印加も停止させる。これにより、洗濯廃液の陽極室42への供給及び回収水の陰極室44への供給が停止され、イオン交換器41による洗濯廃液の電解が停止される。回収タンク48内のカチオン成分の濃度が増大した回収水は、開閉弁51を開いてポンプを駆動することによって、回収水排出管55を通り濃縮液貯蔵タンク9に供給される。
【0054】
洗濯廃液収集タンク2内に存在するpHが6.0になっている洗濯廃液が、駆動しているポンプ3によって昇圧され、廃液供給管14および濃縮液供給管15を通って加熱器7に供給される。開閉弁8は閉じている。加熱器7で加熱された洗濯廃液が蒸発缶5に供給される。
【0055】
本実施例においても、実施例1と同様に、洗濯廃液が加熱器7及び蒸発缶5を循環する間に蒸発濃縮され、洗濯廃液に含まれた高級脂肪酸、高級アルコールおよび非イオン界面活性剤が濃縮される。蒸発缶5から排出されたこれらの成分を含む濃縮液が、濃縮液貯蔵タンク9に導かれる。蒸発缶5で発生した蒸気は、実施例1と同様に、デミスタ10を通って復水器11で凝縮される。復水器11から排出された凝縮水が、凝縮水貯蔵タンク12に集められる。
【0056】
本実施例は、電解装置により洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液に含まれているカチオン成分を除去して洗濯廃液のpHを3.0〜7.5の範囲内の値、例えば、6.0まで低減するので、実施例1と同様に、発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいる洗濯廃液の蒸発濃縮時における発泡を著しく抑制することができる。本実施例では、洗剤自身が発泡性を有していない非イオン界面活性剤を含んでいるが、洗濯廃液が洗濯物(衣類等)から溶出した高級脂肪酸および高級アルコールを基に洗濯廃液内で発泡成分が形成される。しかしながら、洗濯廃液のpHが6.0になるので、前述したように、蒸発濃縮時における発泡を著しく抑制することができる。本実施例は、洗濯廃液のpH調節に電解装置を用いているので、実施例1のように、使用済イオン交換樹脂が発生せず、放射性廃棄物の発生量が少なくなる。
【実施例3】
【0057】
本発明の他の実施例である実施例2の洗濯廃液の処理方法を、図10を用いて説明する。本実施例の洗濯廃液の処理方法は、前述した第2の方法である。
【0058】
本実施例の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置1Bを、図10を用いて説明する。洗濯廃液処理装置1Bも、実施例で用いる洗濯廃液処理装置1Aと同様に、電解装置を設けている。洗濯廃液処理装置1Bは、洗濯廃液処理装置1Aにおいて廃液供給管14および戻り配管30の替りに廃液供給管56,57および制御装置58を設けた構成を有する。洗濯廃液処理装置1Bの他の構成は洗濯廃液処理装置1Aと同じである。洗濯廃液収集タンク2に接続された廃液供給管56が、イオン交換器41の容器60に接続されて陽極室42に連絡される。ポンプ3および開閉弁27が廃液供給管56に設けられる。廃液供給管57が、イオン交換器41の容器60に接続されて陽極室42に連絡され、ポンプ6の下流で濃縮液供給管15に接続される。pH計28が廃液供給管57に設けられる。イオン交換器41の容器60内は、カチオン樹脂膜46によって仕切られ、陽極室42および陰極室44が形成される。
【0059】
洗濯廃液処理装置1Bを用いて行われる本実施例の洗濯廃液の処理方法について、実施例1と異なる部分を説明する。実施例2では、洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液を洗濯廃液収集タンク2、陽極室42および洗濯廃液収集タンク2と循環させるのに対し、本実施例ではそのような洗濯廃液の循環は行わず、洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液を、陽極室42を通して加熱器7に供給する。
【0060】
開閉弁27は開いている。洗濯廃液収集タンク2内の高級脂肪酸、高級アルコール、塩分及び非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液を、駆動しているポンプ3で昇圧し、廃液供給管56によりイオン交換器41の陽極室42に供給する。このとき、回収水タンク48内の回収水が、ポンプ49および回収水供給管54により陰極室44に供給され、回収水タンク48に戻される。直流電源47から陽極43及び陰極45に電圧が印加されているので、イオン交換器41で洗濯廃液の電解が行われる。
【0061】
陽極室42に供給された洗濯廃液に含まれるカチオン成分(例えば、ナトリウムイオン)が、カチオン樹脂膜46を通って陰極室44へ移行する。これにより、陰極室44でカチオン成分濃度が増大した回収水は、戻り配管53を通って回収水タンク48に戻される。回収水が回収水タンク48と陰極室44の間を循環する。
【0062】
陽極室42でカチオン成分濃度が低下した洗濯廃液が陽極室42から廃液供給管57に排出され、この洗濯廃液のpHがpH計28によって計測される。pH計28で計測されたpHは制御装置58に入力される。制御装置58は、入力したpH計測値に基づいて、陽極室42から排出される洗濯廃液のpHが3.0〜7.5の範囲内の値、例えば、6.0になるように陽極43及び陰極45に印加される電圧を調節するために直流電源47を制御する。陽極43及び陰極45に印加される電圧が増大すると陽極室42から排出される洗濯廃液のpHが低下し、その電圧が低下すると陽極室42から排出される洗濯廃液のpHが増大する。このような制御装置58による直流電源44の制御によって、陽極室42に供給された洗濯廃液のpHが6.0に調節される。
【0063】
陽極室42からpH6.0の洗濯廃液が廃液供給管57に排出され、pH6.0の洗濯廃液が廃液供給管57および濃縮液供給管15を通って加熱器7に供給される。開閉弁8は閉じている。加熱器7で加熱された洗濯廃液が蒸発缶5に供給される。
【0064】
本実施例においても、実施例1と同様に、洗濯廃液が加熱器7及び蒸発缶5を循環する間に蒸発濃縮され、洗濯廃液に含まれた高級脂肪酸、高級アルコールおよび非イオン界面活性剤が濃縮される。蒸発缶5から排出されたこれらの成分を含む濃縮液が、濃縮液貯蔵タンク9に導かれる。蒸発缶5で発生した蒸気は、実施例1と同様に、デミスタ10を通って復水器11で凝縮される。復水器11から排出された凝縮水が、凝縮水貯蔵タンク12に集められる。
【0065】
本実施例は、イオン交換器41を含む電解装置で洗濯廃液のpHを3.0〜7.5の範囲内の値、例えば、6.0にしているので、実施例2で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例は、制御装置58が陽極室42から排出された洗濯廃液のpHの測定値に基づいて直流電源47を制御することによって陽極43及び陰極45に印加する電圧を調節して陽極室42から排出される洗濯廃液のpHを3.0〜7.5の範囲内の値にするので、実施例2で行われる、洗濯廃液を洗濯廃液収集タンク2と陽極室42との間で循環させて洗濯廃液のpHが3.0〜7.5の範囲内の値になったときに洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液を加熱器7に供給するバッチ処理ではなく、陽極室42で所定のpH(例えば、6.0)になった洗濯液を連続的に加熱器7に供給することができる。このため、本実施例では、洗濯廃液の蒸発濃縮に要する時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0066】
1,1A,1B…洗濯廃液処理装置、2…洗濯廃液収集タンク、5…濃縮缶、7…加熱器、9…濃宿液貯蔵タンク、10…デミスタ、11…復水器、12…凝縮水貯蔵タンク、26…イオン交換樹脂塔、28…pH計、41…イオン交換器、42…陽極室、43…陽極、44…陰極室、45…陰極、46…カチオン樹脂膜(陽イオン交換膜)、48…回収水タンク、58…制御装置、60…容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液のpHを3.0〜7.5の範囲に調節し、pHが3.0〜7.5の範囲の値になった前記洗濯廃液を蒸発濃縮することを特徴とする洗濯廃液の処理方法。
【請求項2】
前記洗濯廃液のpHを6.0〜7.0の範囲内の値に調節する請求項2に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項3】
前記洗濯廃液のpHの調節が、前記洗濯廃液に含まれているカチオン成分を陽イオン交換樹脂で除去することによって行われる請求項1または2に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項4】
前記洗濯廃液のpHの調節が、前記洗濯廃液の電解により前記洗濯廃液に含まれているカチオン成分を除去することによって行われる請求項1に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項5】
陽イオン交換膜によって仕切られた、陽極が配置された陽極室及び陰極が配置された陰極室が内部に形成されたイオン交換装置を用いて行われる前記洗濯廃液の電解が、電圧が印加された前記陽極が配置された前記陽極室に、洗濯廃液収集容器から前記洗濯廃液を供給する工程、前記陽極室内の前記洗濯廃液を前記洗濯廃液収集容器に戻す工程、および電圧が印加された前記陰極が配置された前記陰極室に回収液を供給する工程を含み、
前記洗濯廃液の前記蒸発濃縮が、前記洗濯廃液収集容器内のpHが3.0〜7.5の範囲の値になっている前記洗濯廃液を用いて行われる請求項4に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項6】
陽イオン交換膜によって仕切られた、陽極が配置された陽極室及び陰極が配置された陰極室が内部に形成されたイオン交換装置を用いて行われる前記洗濯廃液の電解が、電圧が印加された前記陽極が配置された前記陽極室に、洗濯廃液収集容器から前記洗濯廃液を供給する工程、電圧が印加された前記陰極が配置された前記陰極室に回収液を供給する工程、前記陽極室から排出される前記洗濯廃液のpHを計測する工程、および計測された前記pHに基づいて、前記陽極及び前記陰極に印加する前記電圧を制御して前記陽極室から排出される前記洗濯廃液のpHを3.0〜7.5の範囲内の値に調節する工程を含み、
前記洗濯廃液の前記蒸発濃縮が、前記陽極室から排出されてpHが3.0〜7.5の範囲の値になっている前記洗濯廃液を用いて行われる請求項4に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項7】
前記洗濯廃液のpHの調節が、前記洗濯廃液の電解により前記洗濯廃液に含まれているカチオン成分を除去することによって行われる請求項2に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項8】
陽イオン交換膜によって仕切られた、陽極が配置された陽極室及び陰極が配置された陰極室が内部に形成されたイオン交換装置を用いて行われる前記洗濯廃液の電解が、電圧が印加された前記陽極が配置された前記陽極室に、洗濯廃液収集容器から前記洗濯廃液を供給する工程、前記陽極室内の前記洗濯廃液を前記洗濯廃液収集容器に戻す工程、および電圧が印加された前記陰極が配置された前記陰極室に回収液を供給する工程を含み、
前記洗濯廃液の前記蒸発濃縮が、前記洗濯廃液収集容器内のpHが6.0〜7.0の範囲の値になっている前記洗濯廃液を用いて行われる請求項7に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項9】
陽イオン交換膜によって仕切られた、陽極が配置された陽極室及び陰極が配置された陰極室が内部に形成されたイオン交換装置を用いて行われる前記洗濯廃液の電解が、電圧が印加された前記陽極が配置された前記陽極室に、洗濯廃液収集容器から前記洗濯廃液を供給する工程、電圧が印加された前記陰極が配置された前記陰極室に回収液を供給する工程、前記陽極室から排出される前記洗濯廃液のpHを計測する工程、および計測された前記pHに基づいて、前記陽極及び前記陰極に印加する前記電圧を制御して前記陽極室から排出される前記洗濯廃液のpHを6.0〜7.0の範囲内の値に調節する工程を含み、
前記洗濯廃液の前記蒸発濃縮が、前記陽極室から排出されてpHが6.0〜7.0の範囲の値になっている前記洗濯廃液を用いて行われる請求項7に記載の洗濯廃液の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−73118(P2012−73118A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218200(P2010−218200)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】