説明

洞房結節If電流阻害剤およびカルシウム阻害剤の新規な組み合わせならびにそれを含む医薬組成物

【課題】洞房結節I電流阻害剤及びカルシウム阻害剤の組み合わせによるアンギナ処置のための医薬組成物の提供。
【解決手段】イバブラジンのような洞房結節I電流阻害剤と、アムロジピンのようなカルシウム阻害剤とを組み合わせることによって、カルシウム阻害剤の効果を増強できるだけではなく、心臓への有害作用である下肢の浮腫及び頭痛等の改善を伴う二重効果が示され、より安全性の高いアンギナの処置に使用が可能になる等の有益な併用効果を有することを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的かつ特異的な洞房結節I電流阻害剤およびカルシウム阻害剤の新規な組み合わせに関するものである。さらに具体的には、本発明は、式(I):
【0002】
【化1】

【0003】
のイバブラジン、すなわち3−{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−7,8−ジメトキシ−1,3,4,5−テトラヒドロ−2H−3−ベンゾアゼピン−2−オン、ならびにその水和物、結晶形態、および薬学的に許容される酸とのその付加塩である選択的かつ特異的な洞房結節I電流阻害剤と、カルシウム阻害剤、さらに特定的には、ジヒドロピリジンクラスからのカルシウム阻害剤との新規な組み合わせに関するものである。
【0004】
選択的かつ特異的な洞房結節I電流阻害剤、さらに特定的にはイバブラジンならびにその水和物、結晶形態、および薬学的に許容される酸とのその付加塩、さらに特定的にはその塩酸塩は、非常に有益な薬理学特性および治療上の特性、特に負の変時作用(心拍低下)を有し、これらの特性によって、これらの化合物は、狭心症、心筋梗塞および関連する調律異常などの心筋虚血の様々な臨床状態の治療または予防に、ならびに調律異常、特に上室性調律異常を伴う様々な病態および心不全にもまた有用となっている。
【0005】
イバブラジンおよび薬学的に許容される酸とのその付加塩、さらに特定的にはその塩酸塩の調製および治療上の使用は、欧州特許明細書EP0534859に記載されている。
【0006】
本出願人は、驚くことに、カルシウム阻害剤、さらに特定的にはジヒドロピリジンクラスのカルシウム阻害剤と併用された、選択的かつ特異的な洞房結節I電流阻害剤、さらに特定的にはイバブラジン、すなわち3−{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−7,8−ジメトキシ−1,3,4,5−テトラヒドロ−2H−3−ベンゾアゼピン−2−オンが、アンギナの処置においてこれらの阻害剤が併用されることを可能にする非常に有益な特性を有することを今回見出した。
【0007】
カルシウム阻害剤は、カルシウムに対する細胞膜の特定のチャネルの透過性を遮断する基本的特性を有する化合物である。カルシウム阻害剤は、電位依存性チャネルの小孔の開口を阻止して、それによって血管平滑筋線維へのカルシウムの流入を妨害する。カルシウム阻害剤は、細胞内遊離カルシウムレベルを低下させ、それによって、末梢血管および冠状血管の平滑筋緊張を低減する結果となる。したがって、これらの化合物、さらに特定的にはジヒドロピリジンクラスに属するこれらの化合物は、静脈環流を低減することによって左心室への作業負荷を低減することから、ならびにこれらの化合物は、一方で心筋酸素消費を低下させて、他方で心外膜の大動脈に及ぼす血管拡張作用のおかげで冠血流量を改善することから、アンギナの処置に特に適応がある。ジヒドロピリジン類の末梢血管拡張作用の結果の一つは、狭心症について処置されている患者に、持続しうる反射性頻拍症をもたらすことである。心拍の増加と冠状動脈患者における心血管死亡率との間に強い関係が存在することが知られている。これは、ジヒドロピリジン類に関して報告された心血管死亡率増加および心筋梗塞のリスクの可能性と結びつくに違いない。
【0008】
ジヒドロピリジン類で最も頻繁に直面する有害作用は、頻拍、動悸、頭痛、および下肢の浮腫であり、これらは用量依存性である。したがって、これらの化合物の正の作用から利益を得ることを可能にするが、これらの化合物の安全域、特にこれらの化合物の心血管安全域を増加させる新規な処置の真の必要性が存在する。
【0009】
本出願人は、驚くことに、選択的かつ特異的な洞房結節I電流阻害剤、さらに特定的にはイバブラジンが、カルシウム阻害剤、さらに特定的にはジヒドロピリジンクラスに属するカルシウム阻害剤の効果を増強できるだけではなく、これらのカルシウムアンタゴニストの安全性プロファイル、さらに特定的には心臓への有害作用、下肢の浮腫および頭痛を見事に改善できることがさらに示されたことを今回見出した。この二重効果によって、使用の安全性増加を伴うアンギナの処置に、本発明による組み合わせの使用を考慮することが可能になる。
【0010】
本発明による組み合わせ中の選択的かつ特異的な洞房結節I電流阻害剤は、さらに特別には、イバブラジン、ザテブラジンおよびシロブラジンであり、ならびにそれらの水和物、結晶形態および薬学的に許容される酸または塩基との付加塩でもある。
【0011】
本発明による組み合わせ中のカルシウム阻害剤は、さらに特別には、ジヒドロピリジンクラスに属するカルシウム阻害剤である。いかなる限定を意味することなく、本発明による組み合わせ中のカルシウム阻害剤は、アムロジピン、ニフェジピン、フェロジピンならびにそれらの水和物、結晶形態および薬学的に許容される酸または塩基との付加塩、さらに特定的にはベシル酸塩またはマレイン酸塩である。
【0012】
本発明は、さらに特定的には、イバブラジン、またはその水和物、結晶形態および薬学的に許容される酸との付加塩のうちの一つ、さらに特定的にはその塩酸塩と、カルシウム阻害剤、またはその水和物、結晶形態および薬学的に許容される酸との付加塩のうちの一つとの間の組み合わせに関するものである。
【0013】
なおさらに好ましくは、本発明は、イバブラジン、またはその水和物、結晶形態および薬学的に許容される酸との付加塩のうちの一つ、さらに特定的にはその塩酸塩と、アムロジピン、またはその水和物、結晶形態および薬学的に許容される酸との付加塩のうちの一つ、さらに特定的にはそのベシル酸塩もしくはマレイン酸塩との間の組み合わせに関するものである。
【0014】
本発明はまた、選択的かつ特異的な洞房結節I電流阻害剤およびカルシウム阻害剤の組み合わせを、一つ以上の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて含む医薬組成物に関するものである。
【0015】
本発明は、さらに特定的には、イバブラジン、またはその水和物、結晶形態もしくは薬学的に許容される酸との付加塩、さらに特定的にはその塩酸塩である選択的かつ特異的な洞房結節I電流阻害剤と、カルシウム阻害剤、さらに特定的にはジヒドロピリジンクラスからのカルシウム阻害剤との組み合わせを、一つ以上の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて含む医薬組成物に関するものである。
【0016】
本発明による医薬組成物の中で、さらに特定的には、経口、非経口または経鼻投与、錠剤、糖衣錠、舌下錠、カプセル剤、トローチ剤、坐剤、クリーム剤、軟膏剤、皮膚用ゲル剤などに適した医薬組成物、およびプログラム放出、遅発放出、持続放出または遅延放出を有する医薬組成物も挙げることができる。
【0017】
選択的かつ特異的な洞房結節I電流阻害剤およびカルシウム阻害剤以外に、本発明による医薬組成物は、一つ以上の希釈剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、吸収剤、着色料、甘味料などより選択される賦形剤または担体を含む。
【0018】
非限定的な例として、以下を挙げることができる:
・ 希釈剤として:乳糖、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、グリセロール、
・ 滑沢剤として:シリカ、タルク、ステアリン酸ならびにそのマグネシウム塩およびカルシウム塩、ポリエチレングリコール、
・ 結合剤として:ケイ酸アルミニウムおよびケイ酸マグネシウム、デンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびポリビニルピロリドン、
・ 崩壊剤として:寒天、アルギン酸およびそのナトリウム塩、発泡性混合物。
【0019】
有用な投与量は、患者の性別、年齢および体重、投与経路、その疾患の性質および任意の関連処置の性質により変動し、24時間あたりイバブラジン1〜500mgの範囲、さらに好ましくは1日15〜20mgの範囲、また好ましくは1日5〜15mgの範囲である。カルシウム阻害剤の投与量は、それだけで投与される場合に使用されるよりも少ないことがある。
【0020】
以下の実施例は本発明を例示するが、いかなる方法でも限定するわけではない。
【0021】
医薬組成物
それぞれイバブラジン10mgおよびアムロジピン5mgを含む錠剤1000個についての調製処方
イバブラジン塩酸塩 10g
ベシル酸アムロジピン 5g
乳糖一水和物 62g
ステアリン酸マグネシウム 1.3g
ポビドン 9g
無水コロイドシリカ 0.3g
セルロースグリコール酸ナトリウム 30g
ステアリン酸 2.6g
【0022】
本発明による医薬組成物のその他の例を、いかなる限定を意味することなしに本明細書の以下に示す:
実施例1
【0023】
【表1】

【0024】
実施例2
【0025】
【表2】

【0026】
実施例3
【0027】
【表3】

【0028】
実施例4
【0029】
【表4】

【0030】
上記医薬組成物についての投与量は、24時間あたりの錠剤1個の経口投与からなる。
【0031】
高血圧であり75歳よりも年齢が高い患者に対応する、リスクのある集団において、経口経路により投与される初回限界用量は、錠剤の形態で24時間あたりイバブラジン5mgおよびアムロジピン5mgである。
【0032】
臨床試験
・ ジヒドロピリジン系カルシウムアンタゴニストで処置されており、(カルシウムアンタゴニストにかかわらず)苦痛のある狭心症発作を依然として訴える患者で実施された二つの臨床試験は、イバブラジンとの同時処置がこれらの発作を大いに実質的に(約60%)低減できることを示した。
【0033】
表1:
組み入れ時およびイバブラジンを1年間投与されたときの、ジヒドロピリジンを投与されている患者における狭心症発作回数の変化
【0034】
【表5】

【0035】
・ さらに驚くことに、イバブラジンとアムロジピンとの組み合わせは、アムロジピンの安全性許容性プロファイルの改善をもたらした。狭心症の処置のためのイバブラジンの臨床開発の過程で、アムロジピンの単独療法またはイバブラジンと組み合わせたアムロジピンと比較したイバブラジンの許容性に関する試験を実施した。結果は、イバブラジンがアムロジピンと組み合わせた場合に、アムロジピンの使用の安全性、とくにその心臓安全性が増加することを示している。
【0036】
表2
100患者年の曝露あたりのアムロジピン単独またはアムロジピン+イバブラジンの組み合わせで処置された冠状動脈患者における有害事象
【0037】
【表6】

【0038】
特に心不整脈型および冠虚血事象型(不安定狭心症、心筋梗塞および冠疾患の悪化)の心臓事象のために、イバブラジンをアムロジピンに添加した場合に、低レベルの有害事象を明らかに見ることができる。アムロジピンについて最もよくみられる有害事象であり、10%近い症例で処置の中止の原因である下肢の浮腫の発生率が、イバブラジンを添加した場合に非常に顕著に減少することに留意することが重要である。これは、頭痛についてもあてはまる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択的かつ特異的な洞房結節I電流阻害剤およびカルシウム阻害剤の組み合わせ。
【請求項2】
選択的かつ特異的な洞房結節I電流阻害剤が、イバブラジン、すなわち3−{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−7,8−ジメトキシ−1,3,4,5−テトラヒドロ−2H−3−ベンゾアゼピン−2−オン、またはその水和物、結晶形態、もしくは薬学的に許容される酸との付加塩のうちの一つである、請求項1記載の組み合わせ。
【請求項3】
選択的かつ特異的な洞房結節I電流阻害剤が、イバブラジン、すなわち3−{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−7,8−ジメトキシ−1,3,4,5−テトラヒドロ−2H−3−ベンゾアゼピン−2−オンの塩酸塩、またはその水和物もしくは結晶形態のうちの一つである、請求項1記載の組み合わせ。
【請求項4】
カルシウム阻害剤が、ジヒドロピリジンクラスに属する、請求項1記載の組み合わせ。
【請求項5】
カルシウム阻害剤が、アムロジピン、またはその水和物、結晶形態もしくは薬学的に許容される酸との付加塩のうちの一つである、請求項1記載の組み合わせ。
【請求項6】
カルシウム阻害剤が、ベシル酸アムロジピンまたはその水和物もしくは結晶形態のうちの一つである、請求項1記載の組み合わせ。
【請求項7】
イバブラジン、またはその水和物、結晶形態もしくは薬学的に許容される酸との付加塩のうちの一つと、アムロジピン、またはその水和物、結晶形態もしくは薬学的に許容される酸との付加塩のうちの一つとを含む、請求項1記載の組み合わせ。
【請求項8】
イバブラジン塩酸塩、またはその水和物もしくは結晶形態のうちの一つと、ベシル酸アムロジピン、またはその水和物もしくは結晶形態のうちの一つとを含む、請求項1記載の組み合わせ。
【請求項9】
有効成分として、請求項1から8のいずれか一項記載の、カルシウム阻害剤と組み合わせた選択的かつ特異的な洞房結節I電流阻害剤を、それだけで、または一つ以上の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて含む医薬組成物。
【請求項10】
有効成分として、ベシル酸アムロジピン、またはその水和物もしくは結晶形態のうちの一つと組み合わせたイバブラジン塩酸塩、またはその水和物もしくは結晶形態のうちの一つを、それだけで、または一つ以上の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて含む、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
アンギナの処置のための医薬の製造に使用するための、請求項9および10のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項12】
アンギナの処置用の医薬組成物を得ることにおける、請求項1から8のいずれか一項記載の組み合わせの使用。

【公開番号】特開2007−169284(P2007−169284A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−343824(P2006−343824)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(500287019)レ ラボラトワール セルヴィエ (166)
【Fターム(参考)】