説明

活性エネルギー線硬化型スクリーンインキ組成物およびそれを用いた印刷物

【課題】 本発明は、光情報記録媒体の基材上に熱転写印刷の被記録層を形成することのできるインキ組成物であって、転写性が良好で、重ねておいてもディスク同士の貼りつきが無い活性エネルギー線硬化型スクリーンインキ組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】 平均粒子径が10μm以下であるフィラー、単官能アクリレートモノマーおよび多官能エポキシアクリレートオリゴマーを含有する活性エネルギー線硬化型スクリーンインキ組成物。前記のフィラーはインキ中に5〜50質量%含有することが好ましい。また前記の単官能アクリレートモノマーとして、フェノキシポリエチレングリコールアクリレートが好ましく用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光情報記録媒体等の基材上に熱転写プリンタで良好に印刷でき、ディスクを積み重ねておいてもディスク同士が貼りつくことの無い被印刷層(熱転写インキの受理層)を形成する活性エネルギー線硬化型スクリーンインキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンパクトディスク(以後CDとも表記する)、DVD等の光情報記録媒体は音楽、映画等のコンテンツを販売する際の主要なメディアの一つである。またコンピュータ関連のデータ、映像、画像、音楽等を記録するのに利用される光情報記録媒体であるCD−R、CD−RW、DVD−R、DVD−RW等は、業務用および個人的用途の情報記録媒体として広く普及している。
【0003】
前記の光情報記録媒体の表面には、タイトルや曲名等の文字情報、絵柄やデザイン等がスクリーン印刷、オフセット印刷、水なし平版印刷等の方式で印刷されており、その多くに紫外線等の活性エネルギー線により硬化するインキ組成物が用いられている。最近は、パーソナルコンピュータ等により作成したデザイン画、写真画像や文字情報等をインクジェットプリンタにて印刷できる被記録層(受理層ともいう)を有するCD−R、DVD−R等が販売されている。
【0004】
しかしながら、インクジェットプリンタには通常は水性インクが使われているため耐水性が弱く、インクジェットプリンタで印刷したCD−R等の印刷物を高湿度の環境に置いておくと、にじみが発生しやすいという欠点がある。これに対し、熱転写プリンタの印刷物は耐水性が高く、印刷物を高湿度の環境に置いておいても、にじみが発生することは無い。
【0005】
本発明における熱転写プリンタとは、インクリボンと呼ばれるフィルムを被記録層に熱圧着し、インクリボンの基材上に塗られた着色剤を含む樹脂層を、被記録層に転写する方式のプリンタをいう。
【0006】
CD−R等のディスクの表面に熱転写プリンタで印刷するための被記録層を形成するための方法として、活性エネルギー線硬化型インキ組成物であって、その硬化した皮膜が熱転写プリンタのインクリボンの樹脂層を受理若しくは受容する性質を持つものをスクリーン印刷により前記のディスクの表面に印刷若しくは塗布する方法がある。
【0007】
ディスクの被記録層に求められる特性としては、熱転写プリンタの転写性とともに、ディスクを積み重ねておいても、ディスク同士が貼りつかないことが重要である。熱転写プリンタの転写性には、被記録層の硬度が重要な役割を果たしており、単官能アクリレートを多く用い、活性エネルギー線による硬化性を低下させると、熱転写印刷の転写性は向上する。ただし、あまり硬化性を低下させると、ディスク同士が貼りつきやすくなるという欠点がある。
【0008】
特許文献1には、水溶性モノマーと該モノマー可溶性の疎水性ポリマーと平均粒径が0.1〜30μmのフィラーを含んでなる紫外線硬化型インキを受理層として用いることが記載されている。この特許文献には、ディスク同士の貼りつきに関する記載は無い。実施例では、紫外線で硬化するアクリル系の材料のうち単官能の水溶性モノマーが93%以上を占めており、湿度の高い条件ではディスク同士が貼りつきやすい問題があると考えられる。
特許文献2には、ガラス転移点が25〜80℃であるアクリル樹脂を重合性モノマーに溶解した熱転写印刷の被記録層形成用放射線硬化性インキが記載されている。モノマー可溶性のアクリル樹脂は一般に重合度が低く、耐薬品性や耐候性に劣るという問題がある。
【0009】
【特許文献1】特開2000−43435号公報
【特許文献2】特開2002−348497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、光情報記録媒体の基材上に熱転写印刷の被記録層を形成することのできるインキ組成物であって、転写性が良好で、重ねておいてもディスク同士の貼りつきが無い活性エネルギー線硬化型スクリーンインキ組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、熱転写プリンタの被記録層皮膜を形成するインキ組成物の設計において、単官能アクリレートモノマーと多官能エポキシアクリレートオリゴマーの組み合わせを基本として、更に特定のフィラーを組み合わせることにより前記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明の活性エネルギー線硬化型スクリーンインキ組成物は、平均粒子径が10μm以下であるフィラー、単官能アクリレートモノマーおよび多官能エポキシアクリレートオリゴマーを含有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の活性エネルギー線硬化型スクリーンインキ組成物により、CD−RやDVD−R等の情報記録媒体の表面に被記録層が形成されたディスクは、熱転写プリンタでの転写性が良好で、ディスクを積み重ねておいてもディスク同士の貼りつきも無い。また表面の平滑性が高く、熱転写プリンタの印刷画像が鮮明である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。尚、本明細書においては特記しない限り、部または%はすべて質量基準である。
【0015】
本発明の活性エネルギー線硬化型スクリーンインキ組成物は、平均粒子径が10μm以下であるフィラー、単官能モノマーおよび多官能エポキシアクリレートオリゴマーを含有することを特徴とする。
【0016】
ディスク同士の貼りつきを防止するためには、インキ中にフィラーを添加することが効果的である。その添加量は、5〜50%であることが好ましく、より好ましくは10〜30%である。フィラーを添加しないインキで被記録層を形成した場合、ディスクを積み重ねておくとディスク同士が貼りつく場合がある。特に夏の密閉された室内では高温となり、ディスク同士の貼りつきが発生しやすくなる。フィラーの添加量が50%を超えるとディスク同士の貼りつきは良好となるが、熱転写プリンタの転写性に悪影響を及ぼす。
【0017】
現在CD−RやDVD−R等のディスクの表面に被記録層を形成するには、スクリーン印刷で10μm程度の厚みに印刷されることが一般的であり、フィラーの粒子径が10μmを超えると、被記録層の表面が凹凸となり、熱転写プリンタの転写性が損なわれる。従って、本発明に使用するフィラーの平均粒子径は10μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以下である。
【0018】
熱転写プリンタの転写性には、被記録層の硬度が重要な役割を果たしており、単官能アクリレートを多く用いて活性エネルギー線による硬化性を低下させると、熱転写印刷の転写性は向上する。ただし、あまり硬化性を低下させると、ディスク同士が貼りつきやすくなるという欠点がある。
【0019】
熱転写プリンタの転写性とディスクの貼りつき防止を両立する被記録層の硬度を達成するためには、単官能アクリレートモノマーと多官能エポキシアクリレートオリゴマーが必須である。単官能アクリレートモノマーの代わりに多官能アクリレートモノマーを使用すると、ディスクの貼りつきは良好となるが、被記録層の硬度が上がりすぎ、熱転写プリンタの転写性に悪影響を及ぼす。
多官能エポキシアクリレートオリゴマーの代わりに、別種のオリゴマー、例えば多官能ウレタンアクリレートオリゴマーを使用すると、ディスクの貼りつきが発生しやすくなる。
【0020】
単官能アクリレートモノマーの具体例としては、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコールアクリレート、メトキシ(ポリ)プロピレングリコールアクリレート、エトキシエチルアクリレート、エトキシ(ポリ)エチレングリコールアクリレート、エトキシ(ポリ)プロピレングリコールアクリレート、(ポリ)エチレングリコールアクリレート、(ポリ)プロピレングリコールアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノキシアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシフェノキシプロピルアクリレート、アクリロイロキシエチルコハク酸、アクリロイロキシエチルフタル酸、ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、プロピルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明でインキを硬化させるのに用いられる活性エネルギー線としては紫外線、電子線が挙げられるが、紫外線を使用する場合には該スクリーンインキ中に光重合開始剤を含有させる必要がある。電子線を発生する装置は一般に装置自体が高価であり、かつメンテナンスについて専門的な知識が必要である。故に活性エネルギー線硬化型インキの市場においては紫外線硬化型インキがより多く利用されているのが現状である。
【0022】
用いられる光重合開始剤、および増感剤の具体的な例としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、ベンゾフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンジルジメチルケタール、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン]、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、[4−(メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタノン、エチルアントラキノン、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等を挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0023】
これらの光重合開始剤を、本発明のスクリーンインキ100部中に1〜10部、より好ましくは2〜6部の範囲で使用する。開始剤が10部を越えると、余分な開始剤やラジカル発生後の形成物が密着性、硬度に悪影響を与える場合があり、1部未満では必要な光硬化性が得られない。
【0024】
また、本発明の活性エネルギー線硬化性スクリーンインキ組成物には、用途に応じて非反応性化合物、消泡剤、レベリング剤、滑剤、可塑剤、酸化防止剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、顔料、染料、レオロジー調製剤等を適宜併用することもできる。
【0025】
本発明の活性エネルギー線硬化型スクリーンインキ組成物について使用する成分は安全性を考慮して選択することが好ましい。また、本発明の活性エネルギー線硬化型スクリーンインキを光記録媒体あるいはその他、紙やプラスチック上に塗布する方法としては、膜厚を厚くする目的からはスクリーン印刷法が適するが、これに限定されるものではなく、バーコート法、ブレードコート法、エアナイフコート法、ロールコート法等も用いることができる。
【実施例】
【0026】
次に実施例によって本発明を説明するが、これらは一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
表1に示す配合で実施例1〜2及び比較例1〜4それぞれの原料を配合し、これらを攪拌機で分散させることにより、被記録層を形成するための活性エネルギー線硬化型スクリーンインキ組成物を調製した。
【0028】
【表1】

【0029】
(表1の説明)
No.1のシリカAは平均粒子径4μmの市販シリカを使用する。
No.2のシリカBは富士シリシア化学株式会社製サイリシア470(平均粒子径12μm)を使用する。
No.3はフェノキシポリエチレングリコールアクリレートを使用する。
No.4はアクリロイルモルフォリンを使用する。
No.5はEO(エチレンオキサイド)変性トリメチロールプロパントリアクリレートを使用する。
No.6は市販の2官能エポキシアクリレートオリゴマーを使用する。
No.7はダイセルサイテック株式会社製の2官能ウレタンアクリレートオリゴマーであるEbecryl270を使用する。
No.8はチバスペシャリティーケミカルズ製イルガキュア184の50部とダロキュア1173の50部を混合したものを使用する。
No.9の安定剤は製造時の加熱や長期保存による加熱によりゲル化するのを防ぐ目的で添加するものであるが、本実験ではハイドロキノン5部をEO変性ビスフェノールAジアクリレート95部で溶解した溶液を調製して使用する。
No.10の消泡剤は、スクリーン印刷を実施する際の気泡発生を防ぐためのもので、市販の消泡剤を使用する。
【0030】
各インキを未使用のコンパクトディスクの保護膜上に、350メッシュのスクリーンを用いてスクリーン印刷した後、直ちに東京ホトン株式会社製の紫外線照射機ホトキュアにて紫外線を照射して厚さ10μm程度の被記録層を作製した。
【0031】
作製した被記録層の上にリマージュ(RIMAGE)社製熱転写プリンタ(機種名エベレストII)で印刷して転写性の評価を行った。
【0032】
ディスクの貼りつきのは、被記録層を作製したディスク同士を重ね合わせ、その上に1kgの重りを載せたものを35℃60%Rhの環境に3日間置いたもので評価した。
【0033】
表2には実施例及び比較例のインキ組成物の評価結果を示す。◎が優れる、○が実用可能な水準、△は実用が困難、×は実用には全く不可の判定である。
【0034】
【表2】

【0035】
実施例1および2では、転写性、ディスクの貼りつきとも良好な結果である。比較例1〜4では、転写性、ディスクの貼りつきのどちらかが×または△であり、実用上不適である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の活性エネルギー線硬化型スクリーンインキ組成物によりCD−RやDVD−R等の表面に形成された被記録層には、熱転写プリンタにより保存性の良い文字や画像を印字および印刷をすることができる。また、ディスクを積み重ねて高温で保存したときに問題となりやすいディスク同士の貼りつきも発生しない。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が10μm以下であるフィラー、単官能アクリレートモノマーおよび多官能エポキシアクリレートオリゴマーを含有する活性エネルギー線硬化型スクリーンインキ組成物。
【請求項2】
平均粒子径が10μm以下であるフィラーを5〜50%含有する請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型スクリーンインキ組成物。
【請求項3】
単官能アクリレートモノマーがフェノキシポリエチレングリコールアクリレートである請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型スクリーンインキ組成物。
【請求項4】
基材上に請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型スクリーンインキ組成物を用いて熱転写印刷用被記録層を形成した印刷物。






【公開番号】特開2007−291266(P2007−291266A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121918(P2006−121918)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】