説明

活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体組成物

【課題】組成物中に含まれるグラフト共重合体とアクリルオリゴマーとが互いに良好に相容し、活性エネルギー線の照射により速やかに硬化して、基材との密着性、硬度、耐水性、耐久性等に優れる被膜等を形成する活性エネルギー線硬化性組成物の提供。
【解決手段】アミノ基を有する重合体と、活性エネルギー線硬化性官能基を有する重合体のいずれか一方を幹部とし他方を枝部とする活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体および(メタ)アクリロイル基を1個以上有する分子量100〜5,000の活性エネルギー線硬化性化合物を含有する活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体および特定の活性エネルギー線硬化性化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物に関する。詳しくは、本発明は、紫外線や電子線などの活性エネルギー線で硬化するインキ、塗料、被覆剤、接着剤、フォトレジストインキ、カラーフィルター、ドライフィルムなどに有効に用いることのできる活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体をベースとする活性エネルギー線硬化性組成物に関する。本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、顔料の分散性、基材との密着性、活性エネルギー線による硬化性、硬化硬度などの特性に優れている。
【背景技術】
【0002】
紫外線などの活性エネルギー線硬化性のコーティング剤として、顔料、分散剤およびアクリルオリゴマー等の活性エネルギー線硬化性化合物を組み合わせたものが従来から知られている。アクリルオリゴマーを用いたコーティング剤は紫外線などの活性エネルギー線による硬化性には優れているが耐候性や顔料分散性に劣っており、一方、分散剤は、顔料の分散を促進するが活性エネルギー線硬化性に劣っていることから、前記コーティング剤は、アクリルオリゴマーと分散剤を併用することによって互いの性能不足を補おうとするものである。
【0003】
前記したコーティング剤などでは、分散剤として、従来、ポリカルボン酸およびその塩に代表されるアニオン性化合物、脂肪族アミンおよびその塩に代表されるカチオン性化合物、アミノ酸やベタイン化合物に代表される両性化合物、非イオン系やフッ素系の高分子化合物が汎用されてきた。例えば、非特許文献1に紹介されているように、このような従来技術では、顔料の表面にある酸点や塩基点に対して分散剤や樹脂中の酸性官能基や塩基性官能基が不可逆的に吸着し、それによって顔料の分散性が向上すると考えられている。高分子重合体系の分散剤では、分散性能の点からは極性基を有するものの方が極性基を持たないものよりも優れていると考えられるが、実際上は、極性基を有する高分子重合体では極性基間で水素結合を起こすことにより高粘度化して分散性能が低下するという問題がある。そのため、従来は、高分子系の分散剤として、上記のように、増粘しない非イオン系の高分子分散剤が好ましいものとして使用されてきた。
【0004】
近年、産業界では軽薄短小化が求められており、それと共にコーティング剤、インキ、カラーフィルターなどの分野では高度の分散性および透明性が求められている。
液晶表示素子や固体撮像素子に用いられるカラーフィルターの製造方法としては、印刷法、染色法、電着法、顔料分散法などが知られている。これらの方法のうち、顔料分散法は、顔料を活性エネルギー線硬化性組成物に分散させてフォトリソグラフ法によりカラーフィルターを製造する方法である。この顔料分散法は、顔料を使用していることにより、耐光性や耐熱性に優れ、しかもフォトリソグラフ法であるために位置精度に優れているという長所があり、汎く採用されている。
しかし、従来の活性エネルギー線硬化性組成物では、顔料の分散性が悪いために光の透過性に劣り、しかも時間の経過に伴って顔料が凝集するという問題がある。さらに、ガラス基板との密着性が悪いために、基板から剥離し易いという欠点がある。
【0005】
このため、上記顔料分散法に用いられる活性エネルギー線硬化性組成物において、顔料の分散性を改良することを目的として、ポリスチレン、ポリベンジルメタクリレート、ポリアルキル(メタ)アクリレートなどを枝部とするグラフト共重合体を分散剤として用い、それに顔料、アクリルオリゴマーを混合した活性エネルギー線硬化性組成物(放射線硬化性組成物)が提案されている(特許文献1〜5を参照)。
しかし、ポリスチレン、ポリベンジルメタクリレート、ポリアルキル(メタ)アクリレートなどを枝部とするグラフト共重合体は、分散性能が不十分であり、光透過性にも劣っているため、分散剤を併用する必要がある。しかも、グラフト共重合体が活性エネルギー線硬化性の官能基が持たないため、活性エネルギー線で硬化した後に生成する被膜や塗膜は、硬度、耐水性、耐久性が不十分である。
【0006】
【非特許文献1】「色材」第70巻第1号、1997年、p11〜16
【特許文献1】特開平9−179299号公報
【特許文献2】特開平9−197118号公報
【特許文献3】特開平10−36622号公報
【特許文献4】特開平11−60657号公報
【特許文献5】特開平11−64628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題を解決することにあり、顔料の分散性に優れ、グラフト共重合体とアクリルオリゴマーとの相容性に優れ、活性エネルギー線硬化性が高く、基材との密着性に優れ、しかも硬度、耐水性、耐久性などに優れる被膜や塗膜などを形成することのできる、活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体をベースとする活性エネルギー線硬化性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を行ってきた。その結果、アミノ基を有する重合体を幹部とし活性エネルギー線硬化性官能基を有する重合体を枝部とするグラフト共重合体、およびアミノ基を有する重合体を枝部とし活性エネルギー線硬化性官能基を有する重合体を幹部とするグラフト共重合体のうちの少なくとも1種と、特定の活性エネルギー線硬化性化合物(アクリルオリゴマー)を含む組成物が、該グラフト共重合体と活性エネルギー線硬化性化合物との間の相容性、顔料分散性に優れていて、該組成物に活性エネルギー線を照射すると、速やかに硬化して、基材との密着性、硬度、耐水性、耐久性などに優れる被膜や塗膜を形成することを見出して、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1) (A)アミノ基を有する重合体を幹部とし活性エネルギー線硬化性官能基を有する重合体を枝部とする活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体(A1)およびアミノ基を有する重合体を枝部とし活性エネルギー線硬化性官能基を有する重合体を幹部とする活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体(A2)から選ばれる少なくとも1種の活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体;並びに、
(B)(メタ)アクリロイル基を1個以上有する分子量100〜5,000の活性エネルギー線硬化性化合物;
を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体組成物である。
【0010】
そして、本発明は、
(2) 活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体(A)として、重量平均分子量が3,000〜300,000であり、アミノ基の含有量が該グラフト共重合体1g当たり0.03〜2meqであり、且つ活性エネルギー線硬化性官能基の含有量が二重結合当量で該グラフト共重合体1g当たり2×10-4〜40×10-4eqであるグラフト共重合体を用いる、前記(1)の活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体組成物;および、
(3) 活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体(A):活性エネルギー線硬化性化合物(B)の重量比が30:70〜80:20である前記(1)または(2)の活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体組成物;
である。
また、本発明は、
(4) 顔料を更に含有する前記(1)〜(3)のいずれかの活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、組成物を構成するグラフト共重合体(A)とアクリルオリゴマーとが互いに良好に相溶し、活性エネルギー線を照射すると速やかに硬化して、基材との密着性、硬度、耐水性、耐久性などに優れる被膜や塗膜を形成する。
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、前記した優れた特性を活かして、紫外線や電子線などの活性エネルギー線で硬化するインキ、塗料、被覆剤、接着剤、フォトレジストインキ、カラーフィルター、ドライフィルムなどの種々の用途に有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、上記のように、活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体(A)と活性エネルギー線硬化性化合物(B)を含有する。
活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体(A)としては、アミノ基を有する重合体を幹部とし活性エネルギー線硬化性官能基を有する重合体を枝部とする活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体(A1)[以下単に「グラフト共重合体(A1)」ということがある]を単独で用いてもよいし、アミノ基を有する重合体を枝部とし活性エネルギー線硬化性官能基を有する重合体を幹部とする活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体(A2)[以下単に「グラフト共重合体(A2)」ということがある]を単独で用いてもよいし、またはグラフト共重合体(A1)とグラフト共重合体(A2)を併用してもよい。
【0013】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物で用いるグラフト共重合体(A)における幹部をなす重合体および枝部をなす重合体は、いずれも重合可能な不飽和基を有する単量体(以下「単量体」という)の重合により得られる重合体である。
活性エネルギー線硬化性組成物において、グラフト共重合体(A)を用いる代わりに、アミノ基を有する重合体と活性エネルギー線硬化性を有する重合体とが互いにブロック状に結合してなるブロック共重合体の使用も考えられるが、通常、イオン重合では極性を有する単量体の重合が困難であってそのようなブロック共重合体の製造が困難であることから、本発明では、グラフト共重合体(A)を用いるものである。グラフト共重合体(A)は活性エネルギー線硬化性組成物中で分散剤として機能する。
【0014】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物で用いるグラフト共重合体(A)において、その幹部をなす重合体の好ましい分子量は、数平均分子量で1,500〜100,000であり、特に好ましくは2,500〜50,000であり、重量平均分子量で3,000〜300,000であり、特に好ましくは5,000〜100,000である。
また、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物で用いるグラフト共重合体(A)において、枝部をなす重合体の好ましい分子量は、数平均分子量で1,000〜20,000であり、特に好ましくは1,500〜20,000であり、重量平均分子量で2,000〜40,000であり、特に好ましくは3,000〜40,000である。
本発明の硬化性組成物で用いるグラフト共重合体(A)全体では、その好ましい分子量は、数平均分子量で1,500〜100,000、特に2,500〜50,000であり、重量平均分子量で3,000〜300,000であり、特に好ましくは5,000〜100,000である。
グラフト共重合体(A)の重量平均分子量が3,000を下回ると、それを含む組成物を硬化して得られる塗膜や被膜の強度が低下するため好ましくない。また、グラフト共重合体(A)の重量平均分子量が300,000を超えると高粘度となり、それを含む組成物の塗布時のレベリング性が低下するため好ましくない。粘度を低下させるためには、組成物中での分子中に(メタ)アクリロイル基を1個以上有する分子量100〜5,000のアクリルオリゴマー量を増やすこともできるが、分散性能が低下するため好ましくない。
なお、本明細書でいう数平均分子量および重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算での分子量をいう。
【0015】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物で用いるグラフト共重合体(A1)の幹部、およびグラフト共重合体(A2)の枝部が有するアミノ基は、3級アミノ基であることがグラフト共重合体(A1)またはグラフト共重合体(A2)の製造の容易性、工業的に入手可能、アミン分解やマイケル付加反応等による副反応の抑制などの点から好ましい。具体的には、アミノ基は、グラフト共重合体(A1)の幹部またはグラフト共重合体(A2)の枝部の製造に用いられるアミノ基を有する単量体(以下「アミノ基含有単量体」という)に由来する3級アミノ基であって、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、等のジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ビニルベンジルジメチルアミンなどの3級アミノ基を有する不飽和単量体に由来する3級アミノ基であることが好ましい。そのうちでも、アミノ基は、塩基性の強い不飽和単量体である、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどに由来する3級アミノ基であることがより好ましい。
【0016】
グラフト共重合体(A1)の幹部、およびグラフト共重合体(A2)の枝部が有するアミノ基の量は、グラフト共重合体(A1)およびグラフト共重合体(A2)を構成する全単量体単位の重量に基づいて、アミノ基含有単量体単位の割合が0.5〜30重量%、特に1〜25重量%になるような量であることが好ましい。例えば、アミノ基含有量単量体の分子量が157である場合は、グラフト共重合体(A2)および/またはグラフト共重合体(A2)の1g当たり、アミノ基を約0.03〜2meqの割合で含有することが好ましい。アミノ基の含有量(アミノ基含有単量体単位の含有量)が、前記した5重量%(例えば0.03meq)未満であると分散性能が不足となり、一方30重量%(例えば2meq)を超えると、着色の増大や耐水性の低下などを生じ易くなる。
【0017】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物に用いるグラフト共重合体(A1)の枝部およびグラフト共重合体(A2)の幹部が有する活性エネルギー線硬化性官能基としては、活性エネルギー線を照射したときに硬化反応を生ずる基であればいずれでもよい。不飽和二重結合を有する基は、反応性の程度に差はあっても、活性エネルギー線の照射によって硬化反応を生ずるので、いずれも活性エネルギー線硬化性の官能基として採用することができる。そのうちでも、グラフト共重合体(A1)およびグラフト共重合体(A2)における活性エネルギー線硬化性の官能基は(メタ)アクリロイル基であるのが好ましい。(メタ)アクリロイル基は紫外線や電子線などの汎用の活性エネルギー線を照射したときに、活性が高く速やかに硬化反応する。
なお、本明細書でいう「活性エネルギー線硬化性」とは、紫外線などの光線(光エネルギー)、電子線、X線、α線、β線、γ線、中性子線などの放射線などの活性エネルギー線を照射したときに反応して硬化する性質を言う。
【0018】
グラフト共重合体(A1)の枝部およびグラフト共重合体(A2)の幹部が有する活性エネルギー線硬化性官能基の含有量は、ヨードまたはブロム付加反応を利用した滴定法により測定することができ、グラフト共重合体(A1)および/または(A2)1g当たり、該官能基が有する不飽和二重結合の量で2×10-4〜40×10-4eqであることが好ましく、2.5×10-4〜35×10-4eqであることがより好ましい。活性エネルギー線硬化性官能基の量が2×10-4eq未満であると、活性エネルギー線による硬化性が低下し、一方40×10-4eqを超えると活性エネルギー線を照射しても硬化反応せずに未反応のまま残留する活性エネルギー線硬化性官能基の量が増えて無駄になり、好ましくない。
【0019】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物組成物に用いるグラフト共重合体(A)の製法は特に制限されず、アミノ基を有する重合体および活性エネルギー線硬化性官能基を有する重合体のいずれか一方を幹部とし、他方を枝部とするグラフト共重合体(A)を製造し得る方法であればいずれも方法で製造してもよい。
そのうちでも、本発明で用いるグラフト共重合体(A)のうちで、アミノ基を有する重合体を幹部とし、活性エネルギー線硬化性官能基を有する重合体を枝部とするグラフト共重合体(A1)は、例えば、
(i−a) カルボキシル基を有するマクロモノマーの存在下に、3級アミノ基含有単量体および他の単量体を共重合して、3級アミノ基を有する重合体を幹部としカルボキシル基を有する重合体を枝部とするグラフト共重合体(a1)を製造する工程;および、
(ii−a) 前記の工程(ii−a)で得られたグラフト共重合体(a1)の枝部中のカルボキシル基にエポキシ基と活性エネルギー線硬化性官能基を有する単量体を反応させて、枝部に活性エネルギー線硬化性官能基を導入する工程;
を順次行うことにより製造することができる。
【0020】
また、アミノ基を有する重合体を枝部とし、活性エネルギー線硬化性官能基を有する重合体を幹部とするグラフト共重合体(A2)は、例えば、
(i−b) アミノ基を有するマクロモノマーの存在下に、カルボキシル基含有単量体および他の単量体を共重合して、3級アミノ基を有する重合体を枝部としカルボキシル基を有する重合体を幹部とするグラフト共重合体(a2)を製造する工程;および、
(ii−b) 前記の工程(i−b)で得られたグラフト共重合体(a2)の幹部中のカルボキシル基に、エポキシ基と活性エネルギー線硬化性官能基を有する単量体を反応させて、幹部に活性エネルギー線硬化性官能基を導入する工程;
を順次行うことにより製造することができる。
【0021】
グラフト共重合体(a1)を製造するための上記の工程(i−a)で用いるカルボキシル基を有するマクロモノマー、およびグラフト共重合体(a2)を製造するための上記の工程(i−b)で用いるアミノ基を有するマクロモノマーは、いずれも数平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算で、1,000〜20,000であることが好ましい。マクロモノマーの数平均分子量が1,000を下回ると最終的に得られるグラフト共重合体(A1)およびグラフト共重合体(A2)の分散性が低下し易くなり、一方20,000を超えるとマクロモノマーと単量体との共重合性が低下して所望の分散性を有するグラフト共重合体(A1)およびグラフト共重合体(A2)が得られにくくなる。
【0022】
グラフト共重合体(a1)を製造するための上記の工程(i−a)で用いるカルボキシル基を有するマクロモノマーの合成方法としては、酸無水物添加法、酸分解法、加水分解法などが挙げられる。そのうちでも、酸無水物添加法は、水酸基含有不飽和単量体を共重合した後に、二塩基酸無水物、例えば無水コハク酸を水酸基と付加反応させる方法であり、装置の材質、付帯設備やコスト、水や酸・アルカリ触媒を除去する必要が無い点で、好ましい製法である。
【0023】
酸無水物添加法によるマクロモノマーの製法の一例としては、水酸基含有単量体とその他の単量体を、連鎖移動剤としてメルカプトプロピオン酸の存在下で溶液重合させて末端にカルボキシル基を有する重合体を製造した後、例えばグリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有単量体を付加反応させて末端に重合性不飽和二重結合を有し且つ分子鎖中に水酸基を有するマクロモノマーを製造し、次いでこのマクロモノマー中の水酸基に無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などの二塩基酸無水物を付加反応させてカルボキシル基を有するマクロモノマーとする方法などを挙げることができる。
【0024】
酸分解法や加水分解法により得られるマクロモノマーでは、(メタ)アクリル酸、イタコン酸基などの不飽和カルボン酸に由来するカルボキシル基が分子鎖中に懸垂した構造となり、酸無水物添加法により得られるマクロモノマーでは、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリエステルモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体に由来する水酸基が分子鎖中に懸垂し、該水酸基に無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸等の酸無水物が付加反応してカルボキシル基を形成した構造となる。
【0025】
上記の工程(i−a)において、そのようにして得られるカルボキシル基を有するマクロモノマーに、アミノ基含有単量体およびその他の単量体を共重合することによって、アミノ基を有する重合体を幹部とし、カルボキシル基を有する重合体を枝部とするグラフト共重合体(a1)が得られる。グラフト共重合体(a1)におけるカルボキシル基含有マクロモノマーの共重合割合は、グラフト共重合体(a1)の重量(固形分ベース)に基づいて1〜60重量%であることが好ましく、3〜50重量%であることがより好ましい。マクロモノマーの共重合割合が1重量%未満であると最終的に得られるグラフト共重合体(A1)の分散性が低下し、一方60重量%を超えるとグラフト共重合体(a1)を製造する際のマクロモノマーと単量体との共重合性が低下して重合液の白濁を招き、これが原因で硬化物の透明性が損なわれ易くなる。
【0026】
上記の工程(i−a)で使用するカルボキシル基を有するマクロモノマーを酸無水物添加法によって製造する際に好ましく用いられる水酸基含有和単量体の具体例としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリエステルモノ(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する(メタ)アクリレート系化合物を挙げることができる。そのうちでも、酸無水物との反応性および価格面から、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ低級アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、これらのカプロラクトン変性体(例えばダイセル化学株式会社製の「プラクセルFM1」)等の1種または2種以上がより好ましく用いられる。
【0027】
上記の工程(i−b)で使用するアミノ基を有するマクロモノマーは公知の方法で容易に製造できる。一例を示すと、アミノ基含有単量体およびその他の単量体を、連鎖移動剤としてメルカプトプロピオン酸存在下で常法により溶液重合して、末端にカルボキシル基を有する重合体を製造した後、例えばグリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有単量体を該末端のカルボキシル基に付加反応させて末端に重合性不飽和二重結合を導入することにより、アミノ基と水酸基を有するマクロモノマーが容易に得られる。
【0028】
上記の工程(i−b)において、そのようにして得られたアミノ基を有するマクロモノマーに、カルボキシル基含有単量体および他の単量体を共重合させることにより、カルボキシル基を有する重合体を幹部とし、アミノ基を有する重合体を枝部とするグラフト共重合体(a2)が得られる。グラフト共重合体(a2)におけるアミノ基を有するマクロモノマーの共重合割合としては、グラフト共重合体(a2)の重量(固形分ベース)に基づいて1〜60重量%であることが好ましく、3〜50重量%であることがより好ましい。マクロモノマーの共重合割合が1重量%未満であると最終的に得られるグラフト共重合体(A2)の分散性が低下し易くなり、一方60重量%を超えるとグラフト共重合体(a2)を製造する際のマクロモノマーと単量体との共重合性が低下して重合液の白濁を招き、これが原因で硬化物の透明性が損なわれ易くなる。
【0029】
工程(i−b)で、幹部にカルボキシル基を導入したグラフト共重合体(a2)を得るためには、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などのカルボキシル基含有単量体を重合するか、または上記した水酸基含有単量体を重合させて得られる水酸基含有グラフト共重合体と二塩基酸無水物を反応させる方法などを挙げることができる。
【0030】
工程(i−a)でグラフト共重合体(a1)の幹部を構成する重合体中にアミノ基を導入するために用いられるアミノ基含有単量体、および工程(i−b)で使用するアミノ基を有するマクロモノマー中にアミノ基を導入するために用いられるアミノ基含有単量体としては、3級アミノ基を有する単量体が好ましく用いられる。3級アミノ基含有単量体の具体例としては、上記したようにジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ビニルベンジルジメチルアミン等などを挙げることができる。そのうちでも、塩基性の強い不飽和単量体である、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどがより好ましく用いられる。
【0031】
アミノ基含有単量体の使用量は、上記したように、グラフト共重合体(a1)では幹部を構成する重合体の製造に用いる単量体の合計重量に基づいて、またグラフト共重合体(a2)では枝部を構成する重合体の製造に用いる単量体の合計重量に基づいて、いずれも0.1〜50重量%であることが好ましく、0.5〜30重量%であることがより好ましい。
【0032】
グラフト共重合体(a1)の枝部およびグラフト共重合体(a2)の幹部に含まれるカルボキシル基の量は、グラフト共重合体(a1)またはグラフト共重合体(a2)の重量に基づいて、カルボキシル基を導入するために用いたカルボキシル基含有単量体単位の含有量が0.1〜30重量%、特に0.2〜25重量%の範囲になるような量であることが好ましい。カルボキシル基の含有量が少なすぎると、工程(ii−a)または工程(ii−b)において、必要な量の活性エネルギー線硬化性官能基をグラフト共重合体中に導入できにくくなり、一方カルボキシル基の含有量が多すぎると、耐水性の低下、(メタ)アクリロイル基を有する活性エネルギー線硬化性化合物との相溶性が低下などを招き易い。
【0033】
グラフト共重合体(a1)およびグラフト共重合体(a2)の幹部および枝部を形成するために、マクロモノマーの製造時およびグラフト共重合体の製造時に、アミノ基含有単量体、水酸基含有単量体、カルボキシル基含有単量体と共に用いられる他の単量体の具体例としては、アルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、パーフロロアルキル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル系化合物、カルボン酸ビニルなどを挙げることができ、これらの単量体の1種または2種以上を用いることができる。
上記した単量体のうち、幹部の形成に当たっては、アルキル(メタ)アクリレートおよびベンジルメタクリレートの1種または2種以上が好ましく用いられ、これらの単量体を用いると、最終的に得られるグラフト共重合体(A1)および/またはグラフト共重合体(A2)と、後記する(B)の(メタ)アクリロイル基を有する活性エネルギー線硬化性化合物との相溶性が良好になる。
また、枝部の形成に当たっては、アルキル(メタ)アクリレート、ベンジルメタクリレート、スチレンおよびα−メチルスチレンの1種または2種以上が好ましく用いられ、これらの単量体を用いると、最終的に得られるグラフト共重合体(A1)および/またはグラフト共重合体(A2)の顔料分散性が良好になる。
【0034】
上記の工程(i−a)または工程(i−b)において、グラフト共重合体(a1)またはグラフト共重合体(a2)を製造するに当たっては、通常のラジカル重合で採用されている溶液重合、懸濁重合、乳化重合などを採用することができる。極性基を有する単量体の使用量が多いときや、マクロモノマー中の極性の割合が多いときには、溶液重合を採用すると共重合性の低下を防止することができる。重合温度としては、通常40℃〜160℃、特に60℃〜140℃が好ましく採用される。溶液重合を行う場合の溶剤としては、通常の溶液重合で使用される溶媒のいずれもが使用でき、例えば、芳香族炭化水素類、エステル類、エーテル類、アルコール類などを挙げることができる。好ましく使用される溶剤の具体例としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシプロピル、酢酸ブトキシエチル、プロピオン酸エトキシエチル等の酢酸エステル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピオン酸エステル、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。グラフト共重合体(a1)およびグラフト共重合体(a2)に次の工程(ii−a)または工程(ii−b)で反応させるエポキシ基と活性エネルギー線硬化性官能基を有する単量体と反応しない溶剤を用いることが好ましい。
【0035】
上記の工程(ii−a)または工程(ii−b)において、グラフト共重合体(a1)またはグラフト共重合体(a2)に、エポキシ基と活性エネルギー線硬化性官能基を有する単量体[以下これを「付加反応性単量体(b)」という]を反応させることによって、グラフト共重合体(a1)の枝部中またはグラフト共重合体(a2)の幹部中のカルボキシル基と、付加反応性単量体(b)のエポキシ基との間に反応が生じて、活性エネルギー線硬化性官能基がグラフト共重合体(a1)の枝部およびグラフト共重合体(a2)の幹部に導入されて、アミノ基を有する重合体を幹部とし活性エネルギー線硬化性官能基を有する重合体を枝部とするグラフト共重合体(A1)、およびアミノ基を有する重合体を枝部とし活性エネルギー線硬化性官能基を有する重合体を幹部とするグラフト共重合体(A2)がそれぞれ製造される。
【0036】
付加反応性単量体(b)としては、エポキシ基と共に活性エネルギー線硬化性官能基を有する単量体であればいずれも使用でき、重合性不飽和基は、程度に差はあるが、一般に活性エネルギー線硬化性を有する。そのうちでも(メタ)アクリロイル基が活性エネルギー線硬化性に優れることから、エポキシ基と(メタ)アクリロイル基を有する単量体が好ましく用いられる。そのような単量体の具体例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、アジリジニルメタクリレートなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、グラフト共重合体(a1)およびグラフト共重合体(a2)中のカルボキシル基との反応性が良好である点、価格面などから、グリシジルメタクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレートおよび3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートの1種または2種以上が好ましく用いられる。
【0037】
上記の工程(ii−a)または工程(ii−b)における付加反応性単量体(b)によるグラフト共重合体(a1)およびグラフト共重合体(a2)への付加反応は、溶液中で、3級アミン触媒、4級アンモニウム塩触媒、四級ホスホニウム塩触媒、有機錫化合物触媒の存在下で行うことが好ましく、三級アミン触媒、四級アンモニウム塩触媒、四級ホスホニウム塩触媒等は特に着色を生じにくい。最終的に得られるグラフト共重合体(A)を電子情報材料用途に使用する場合はハロゲン化合物が電気特性、特に絶縁性に悪影響を与えるため、3級アミン触媒が特に好ましい。具体例としては、ジメチルベンジルアミン、ジエチルベンジルアミン、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、トリメチルセチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムブロマイド、ジブチル錫ジラウレートなどを挙げることができる。触媒の使用量は、一般に0.2〜5重量%であることが好ましい。
【0038】
付加反応性単量体(b)の使用量は、グラフト共重合体(a1)の枝部が有するカルボキシル基、またはグラフト共重合体(a2)の幹部が有するカルボキシル基に対して0.1〜1.0倍当量であることが好ましく、0.5〜1.0倍当量であることがより好ましい。一般に60〜100℃の温度で数時間加熱することによって、付加反応性単量体(b)によるカルボキシル基への付加反応が完結し、グラフト共重合体(a1)の枝部およびグラフト共重合体(a2)の幹部に活性エネルギー線硬化性官能基が導入される。活性エネルギー線硬化性官能基の量は、最終的に得られるグラフト共重合体(A1)またはグラフト共重合体(A2)1g当たり活性エネルギー線硬化性の不飽和二重結合量で2×10-4〜40×10-4eqであることが好ましい。2×10-4eq未満であると硬化性が低下し、一方40×10-4eqを超えると活性エネルギー線硬化性の官能基量が多くなり過ぎて、活性エネルギー線を照射したときに反応せずに残留する官能基が増えて無駄になり経済的でない。
【0039】
また、グラフト共重合体(A1)は、枝部を構成する重合体が活性エネルギー線硬化性官能基を有しているだけでなく、幹部を構成する重合体がアミノ基と共に必要に応じて活性エネルギー線硬化性官能基を有していてもよい。グラフト共重合体(A2)においても、幹部を構成する重合体がアミノ基と共に必要に応じて活性エネルギー線硬化性官能基を有していてもよい。
そのようなグラフト共重合体(A1)は、例えば、グラフト共重合体(a1)を得るための上記した工程(i−a)において、幹部を形成する単量体として、アミノ基含有単量体、水酸基含有量単量体および他の単量体を用いて、幹部にアミノ基と共に水酸基を有し且つ枝部にカルボキシル基を有するグラフト共重合体を製造し、それにより得られたグラフト共重合体中の水酸基を上記したのと同様に二塩基酸無水物で変性した後、エポキシ基と活性エネルギー線硬化性官能基を有する単量体、すなわち付加反応性単量体(b)を付加反応させる方法;或いは幹部を形成する単量体として、アミノ基含有単量体、カルボキシル基含有量単量体および他の単量体を用いて、幹部にアミノ基と共にカルボキシル基を有し且つ枝部にカルボキシル基を有するグラフト共重合体を製造し、それにより得られたグラフト共重合体中のカルボキシル基に上記したのと同様に付加反応性単量体(b)を付加反応させる方法;などにより製造することができる。
また、グラフト共重合体(A2)の場合は、例えば、アミノ基と共に水酸基を有するマクロモノマーを製造し、その水酸基を二塩基酸無水物で変性してアミノ基とカルボキシル基を有するマクロモノマーとし、このマクロモノマーの存在下にカルボキシル基含有単量体および他の単量体を共重合して、幹部にカルボキシル基を有し且つ枝部にアミノ基とカルボキシル基を有するグラフト共重合体を製造した後、グラフト共重合体中のカルボキシル基に付加反応性単量体(b)を付加反応させて、幹部に活性エネルギー線硬化性官能基を有し且つ枝部にアミノ基と活性エネルギー線硬化性官能基を有するグラフト共重合体とする方法などにより製造することができる。
【0040】
上記で得られる、幹部にアミノ基を有し枝部に活性エネルギー線硬化性官能基を有するグラフト共重合体(A1)、枝部にアミノ基を有し幹部に活性エネルギー線硬化性官能基を有するグラフト共重合体(A2)、またはグラフト共重合体(A1)とグラフト共重合体(A2)の混合物を、(メタ)アクリロイル基を1個以上有する分子量が100〜5,000の化合物からなる活性エネルギー線硬化性化合物(B)(以下「アクリルオリゴマー(B)」ということがある)と混合することによって、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物が得られる。
上記したアクリルオリゴマー(B)は、グラフト共重合体(A)との反応性に優れ、しかも一般に100℃以上の沸点を有していて、大気汚染や皮膚障害などの問題を生じない。アクリルオリゴマーの分子量が100未満の場合にはモノマーの蒸発による毒性問題や、皮膚のカブレ発生などを生ずることがある。一方、アクリルオリゴマーの分子量が5,000を超えると、粘度が高くなり過ぎて作業性が低下したり、溶解性の低下によりグラフト共重合体(A)を完全に溶解できなくなったり、活性エネルギー線硬化性が低下するなどの問題が生じ易くなる。
【0041】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物に用いるアクリルオリゴマー(B)の具体例としては、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ、ジまたはトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ、ジ、トリまたはテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ポリウレタンジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、或いはこれら化合物の原料アルコールをアルキレンオキサイドやカプロラクトンで変性した(メタ)アクリレートなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0042】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物におけるグラフト共重合体(A)およびアクリルオリゴマー(B)の使用量は、グラフト共重合体(A)およびアクリルオリゴマー(B)の分子量、両者が有する活性エネルギー線硬化性官能基の量、分散性などに応じて調節し得るが、一般的には、グラフト共重合体(A):アクリルオリゴマーの重量比が30:70〜80:20であることが硬化性および分散性の点から好ましく、40:60〜80:20であることがより好ましい。
【0043】
また、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、有機溶剤に溶解して溶液状の形態で用いることが好ましい。その場合の有機溶剤としては、グラフト共重合体(A1)およびグラフト共重合体(A2)の製造時に用い得るとした上記各種の有機溶剤を用いることができる。活性エネルギー線硬化性組成物の粘度は用途に応じて調整することができるが、一般に、25℃における粘度が100mPa・s以下であることが、製膜性、取り扱い性などの点から好ましい。
【0044】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、顔料を添加せずに使用することも可能であるが、顔料分散性に優れているため顔料を併用することが好ましい。
顔料の好ましい配合量は、上記グラフト共重合体(A)とアクリルオリゴマー(B)の合計重量、すなわち重合性化合物100重量部当たり、5〜80重量部である。顔料の配合量が5重量部未満であると色純度が上がらず実用的でなく、一方80重量部を超えるとアルカリ現像後に非画像部の地汚れや膜残りが生じ易い。
カラーフィルターやインキ用途で使用する顔料に特に制限はなく、従来公知の無機顔料や有機顔料を用いることができる。無機顔料としては、鉄、コバルト、アルミニウム、カドミウム、鉛、銅、チタン、クロム、亜鉛等の金属酸化物や金属錯体等をあげることができる。有機染顔料としては、C.I.Pigment Yellow、C.I.Pigment Orange、C.I.Pigment Red、C.I.Pigment Violet、C.I.Pigment Blue、C.I.Pigment Green、C.I.Pigment Brown、C.I.Pigment Blackなど挙げることができる。特定のカラーを発現させるために複数の顔料を使用することもできる。
【0045】
活性エネルギー線硬化性組成物中に顔料を分散させる方法は特に制限されず、例えば、フラッシング処理、ニーダー処理、エクストルーダー処理、ボールミル処理、ロールミル処理などによって行うことができる。特に、2本または3本ロールミル処理が、強力剪断力で顔料の二次凝集を防止して一次粒子化できるため好ましく採用される。
【0046】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、紫外線、電子線などの活性エネルギー線の照射によって重合を開始させるための光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤の種類は特に制限されず、従来既知のものを使用することができ、具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインアルキルエーテル、9−フルオレノン、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾチアゾール化合物などを挙げることができる。
【0047】
また、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、必要に応じて、充填剤、グラフト共重合体(A)以外の高分子化合物、界面活性剤、密着性改良剤、酸化防止剤、凝集防止剤、有機カルボン酸に代表されるアルカリ溶解性促進剤、製膜助剤、皮張り防止剤などを含有することができる。
【0048】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は紫外線、電子線、γ線、α線、β線、X線などの活性エネルギー線を照射することによって重合・硬化して被膜または塗膜を形成する。そのうちでも活性エネルギー線としては紫外線または電子線が好ましく採用される。紫外線光源としては、波長250〜450nmの光を多く含む高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプなどが挙げられ、実用的に許容されるランプ−被照射物間の距離において365nm近傍の光強度が1〜100mW/cm2程度のものが好ましく採用される。電子線照射装置の種類は特に限定されないが、0.5〜20Mradの範囲の線量を有する装置が実用上適している。
【0049】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、紫外線や電子線などの活性エネルギー線で硬化性のインキ、塗料、被覆剤、接着剤、フォトレジストインキ、カラーフィルターなどに有効に用いることができる。
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物を例えばカラーフィルター用途に使用する場合は、基板に例えばスピンコート、フローコート、ロールコートなどによって塗布した後、80〜100℃で乾燥し、所定のマスクパターンを通して電子線や紫外線などの活性エネルギー線に露光し、次いで現像液で現像した後、水で洗浄し、アフターベイクすることによってカラーフィルターを製造することができる。基板としては、例えばパイレックス(登録商標)ガラス、石英ガラス、シリコンなどが好ましく用いられ、現像剤としては濃度が0.01重量%〜1重量%の水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリエチルアミン等の水溶液が使用される。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例などにより本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されない。以下において部は重量部を表す。
【0051】
《製造例1》[アミノ基を有するマクロモノマーの製造]
(1) プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート95.28部を反応フラスコに仕込み、93℃で攪拌下に加熱した後、窒素気流下で、アゾビスメチルイソブチロニトリル1.0部とプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート30部の混合液を5時間かけて添加し、同時にベンジルメタクリレート84部、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート16部および3−メルカプトプロピオン酸1.5部の混合液を3時間かけて添加して重合を行い、添加終了後さらに同温度で2時間加熱して重合を完結させて、反応生成物を得た(溶媒を含む反応生成物重量227.78部)。
これにより得られた反応生成物(溶液)中の重合体の分析を行った結果、数平均分子量(Mn)=2,100、重量平均分子量(Mw)=4,400であり、溶液の酸価が0.060meq/gである片末端にカルボキシル基を有する重合体であった。
【0052】
(2) 空気バブリングに切り替えて、引き続き同じ反応フラスコ内に、グリシジルメタクリレート2.21部、メトキシフェノール0.046部、触媒としてジメチルベンジルアミン2.28部およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート2.71部を仕込み、110℃で6時間攪拌下に加熱した。これにより得られた反応生成物(溶液)(溶媒を含む反応生成物重量235.03部)の酸価を測定したところ0.001meq/g以下となり、酸反応率が98%以上となったため、反応を終了した。
(3) 上記(2)で得られた反応生成物(溶液)中のマクロモノマーの分析を行った結果、数平均分子量(Mn)=2,200、重量平均分子量(Mw)=4,650であり、且つアミノ基(N,N−ジメチルアミノエチル基)を分子鎖中に有し、片末端にメタクリレート基を有するマクロモノマーであった。200℃で20分間加熱して揮発分を除去した後の固形分を測定した結果、マクロモノマーの収率は44.7%であった。
【0053】
《製造例2》[幹部に活性エネルギー線硬化性官能基を有し枝部にアミノ基を有するグラフト共重合体の製造]
(1) 製造例1の(2)で得られた、揮発分を除去する前のマクロモノマー(分子鎖中にアミノ基を有するマクロモノマー)の溶液66.67部、メチルメタクリレート20.33部およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート57.44部をフラスコに仕込み、85℃で撹拌下に加熱した後、窒素気流下で、メチルメタクリレート40.67部、メタクリル酸9部および3−メルカプトプロピオン酸0.5部の混合液を3時間かけて添加し、それと同時にアゾビスメチルイソブチロニトリル1部とプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート29.33部の混合液を5時間かけて添加して重合を行った。その後さらに110℃に昇温して1時間加熱して重合を完結させて、カルボキシル基を有する重合体を幹部とし、アミノ基を有する重合体を枝部とするグラフト共重合体を含有する溶液を得た(重合時間合計6.5時間)(グラフト共重合体溶液の合計量224.94部)。これにより得られたグラフト共重合体をGPC分析した結果、重量平均分子量(Mw)=25,800、数平均分子量(Mn)=9,800であった。グラフト共重合体の溶液の酸価は0.485meq/gであった。
【0054】
(2) 上記(1)で得られたグラフト共重合体の溶液に、空気バブリングしながら、グリシジルメタクリレート15.5部、ジメチルベンジルアミン2.25部、メトキシフェノール0.045部およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート14.80部を追加添加して、110℃で6時間撹拌下に加熱して、グラフト共重合体のカルボキシル基にグリシジルメタクリレートを付加させて、活性エネルギー線硬化性官能基(メタクリロイル基)を有する重合体を幹部としアミノ基を有する重合体を枝部とするグラフト共重合体を含有する薄赤色溶液を得た。GPC分析の結果、これにより得られたグラフト共重合体の重量平均分子量(Mw)=26,800、数平均分子量(Mn)=10,600であった。
【0055】
《実施例1》[活性エネルギー線硬化性組成物の製造]
(1) 製造例2の(2)で得られたメタクリロイル基を有する重合体を幹部としアミノ基を有する重合体を枝部とするグラフト共重合体溶液250部、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(分子量524)90部、ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン(光重合開始剤)9部、顔料(C.I.Pigment Blue 15)100部、レベリング剤(日本ユニカー社製「L−7001」)0.2部、メトキシフェノール(重合防止剤)0.04部およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート790部を混合し、3本ロールミルを用いて十分に分散させた後、フィルターで濾過して、活性エネルギー線硬化性組成物を調製した。
(2) 上記(1)で得られた活性エネルギー線硬化性組成物をガラス基板上に乾燥後の膜厚が2μmになるように塗布した後、100℃で5分間予備加熱して青色膜を形成した。前記青色膜に100mJ/cm2の光エネルギーを有する紫外線照射装置を使用して紫外線を照射して硬化させた。その結果、光沢に優れ、鉛筆硬度4Hの青色膜が得られた。
【0056】
《比較例1》[活性エネルギー線硬化性組成物の製造]
(1) 製造例2の(1)において、アミノ基を有するマクロモノマーの溶液66.76部の代りにポリスチレンのマクロモノマー(東亞合成株式会社製「AS−6」;数平均分子量約6,000)30部を用い、またプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの使用量を36.67部に変えた以外は、製造例1の(1)と同様にして重合を行って、カルボキシル基を有し且つポリメチルメタクリレート主体とする重合体を幹部とし、ポリスチレンを枝部とするグラフト共重合体の溶液を製造した後、製造例2の(2)と同様にして該グラフト共重合体溶液にグリシジルメタクリレートを添加して、グラフト共重合体中のカルボキシル基にグリシジルメタクリレートを付加させて、幹部に活性エネルギー線硬化性の官能基を有するグラフト共重合体溶液を得た。GPC分析の結果、これにより得られたグラフト共重合体の重量平均分子量(Mw)=22,000、数平均分子量(Mn)=8,900であった。
(2) 上記(1)で得られたグラフト共重合体の溶液を用いて、実施例1と同様にして活性エネルギー線硬化性組成物を調製した。
(3) 上記(2)で得られた活性エネルギー線硬化性組成物をガラス基板上に乾燥後の膜厚が2μmになるように塗布した後、100℃で5分間予備加熱して青色膜を形成した。前記青色膜に100mJ/cm2の光エネルギーを有する紫外線照射装置を使用して紫外線を照射して硬化させた。その結果、得られた青色膜の鉛筆硬度は4Hであったが、光沢が悪く、薄曇りが見られた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、組成物を構成するグラフト共重合体(A)とアクリルオリゴマーとが互いに良好に相溶し、活性エネルギー線を照射すると速やかに硬化して、基材との密着性、硬度、耐水性、耐久性などに優れる被膜や塗膜を形成するので、それらの特性を活かして、紫外線や電子線などの活性エネルギー線で硬化するインキ、塗料、被覆剤、接着剤、フォトレジストインキ、カラーフィルター、ドライフィルムなどの種々の用途に有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アミノ基を有する重合体を幹部とし活性エネルギー線硬化性官能基を有する重合体を枝部とする活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体(A1)、およびアミノ基を有する重合体を枝部とし活性エネルギー線硬化性官能基を有する重合体を幹部とする活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体(A2)から選ばれる少なくとも1種の活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体;並びに、
(B)(メタ)アクリロイル基を1個以上有する分子量100〜5,000の活性エネルギー線硬化性化合物;
を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体組成物。
【請求項2】
活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体(A)として、重量平均分子量が3,000〜300,000であり、アミノ基の含有量が該グラフト共重合体1g当たり0.03〜2meqであり、且つ活性エネルギー線硬化性官能基の含有量が二重結合当量で該グラフト共重合体1g当たり2×10-4〜40×10-4eqであるグラフト共重合体を用いる、請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体組成物。
【請求項3】
活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体(A):活性エネルギー線硬化性化合物(B)の重量比が30:70〜80:20である請求項1または2に記載の活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体組成物。
【請求項4】
顔料を更に含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性グラフト共重合体組成物。

【公開番号】特開2007−204755(P2007−204755A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40422(P2007−40422)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【分割の表示】特願2000−82043(P2000−82043)の分割
【原出願日】平成12年3月23日(2000.3.23)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】