説明

活性キャリア濃度の評価方法並びに発光素子及び発光素子の製造方法

【課題】発光素子中の活性キャリアの濃度を高精度かつ簡易に評価することのできる活性キャリア濃度の評価方法と、活性キャリア濃度が低い発光素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも、エピタキシャル成長によって形成した化合物半導体基板または発光素子チップをエピタキシャル成長方向に沿って断面を露呈させ、該露呈した断面の表面に探針を接触させて、前記化合物半導体基板または発光素子チップの断面の表面において、少なくともp型クラッド層から活性層、n型クラッド層にかけて又は少なくともn型クラッド層から活性層、p型クラッド層にかけてSCM(走査型静電容量顕微鏡:Scanning Capacitance Microscope)によってdc/dv信号を測定し、該測定値を基に少なくとも前記活性層中の活性キャリア濃度を評価することを特徴とする活性キャリア濃度の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性キャリア濃度の評価方法並びに発光素子及び発光素子の製造方法に関わり、特に発光素子の発光層である活性層近傍の活性キャリアの濃度を高精度に評価するのに好適な評価方法と、それを利用した発光素子及び発光素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超高輝度型発光素子を製造する場合、MOVPEのリアクター内にてGaAs基板の上に4元発光層・光取り出し用の窓層を成長させ、取り出した後、HVPEのリアクターに入れて、窓層の上に更に厚い窓層を成長させた後にチップ化するタイプ(AS−Type)の発光素子がある。このように窓層を厚くすることによって、発光素子側面からの光の取り出し効果を上げている。
【0003】
ところで、発光層から放たれた基板側への光は、成長用基板であるGaAs基板により吸収されてしまう。
そこで、この基板側へ放出される光を取り出して光取り出し効率を上げるために、GaAs基板を湿式エッチングにより除去して、基板を除去したエピタキシャルウェハーと、透明基板であるGaP基板との直接接合を行い、発光層から発光した光を、上部窓層と直接接合により貼り合わされている透明基板より外部に取り出すタイプ(TS−Type)の発光素子もある。
【0004】
また、上述のTS−TypeはGaAs基板を湿式エッチングにより除去して、成長基板を除去したエピタキシャルウェハーと、透明基板であるGaP基板との直接接合を行っているが、GaP基板を接合せず、除去面にGaP層をエピタキシャル成長させて光を外部に取り出すタイプ(ATS−Type)の発光素子もある。
【0005】
このような高輝度〜超高輝度型発光素子に移行するに従い、GaAs基板上に成長させたエピタキシャル層に加わる熱履歴が増え、ドーパントの拡散による発光素子の不良(輝度低下、ライフ低下)を起こしているため、発光素子中のドーパント、更に具体的には発光層となる活性層とその近傍の活性キャリアの濃度や分布が重要である。
【0006】
従来から、この発光素子のキャリア分布を調査する方法として、SIMS(二次イオン質量分析:Secondary Ion Mass Spectrometry)による深さ方向(デプスプロファイル)分析、SEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)観察による方法が行われている(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−128452号公報
【特許文献2】特開2005−294374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、SIMSにてドーパントの分布を調査しても顕著な差がみられない不都合がある。そして、仮に差があっても、ドーパント濃度の差が小さいため、データを見てもSIMSのデータを見慣れない技術者や、エピ構造を熟知していない技術者には非常にわかりにくいとの問題がある。また、データの縦軸や横軸を変更する等の工夫を施しても、極わずかな差の違いがあるのがわかる程度しか情報が得られない。そもそも、SIMSではドーパントの量がわかるのみで、活性キャリアの分布はわからない。そしてSEMでは、ドーパントによるコントラストは観察できるが、活性キャリアの分布はわからないという問題があった。
【0009】
上記のようなSIMSやSEMによる測定・評価で得られるドーパント分布は、化合物半導体の内部に存在するドーパントであり、ドーパント=活性キャリアではない。
そのため、実際の活性キャリア分布を知るには、発光素子中の化合物半導体内の活性キャリア濃度を評価する方法が必要になる。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、発光素子中の活性キャリアの濃度を高精度かつ簡易に評価することのできる活性キャリア濃度の評価方法と、活性キャリア濃度が低い発光素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明では、少なくとも、エピタキシャル成長によって形成した化合物半導体基板または発光素子チップをエピタキシャル成長方向に沿って断面を露呈させ、該露呈した断面の表面に探針を接触させて、前記化合物半導体基板または発光素子チップの断面の表面において、少なくともp型クラッド層から活性層、n型クラッド層にかけて又は少なくともn型クラッド層から活性層、p型クラッド層にかけてSCM(走査型静電容量顕微鏡:Scanning Capacitance Microscope)によってdc/dv信号を測定し、該測定値を基に少なくとも前記活性層中の活性キャリア濃度を評価することを特徴とする活性キャリア濃度の評価方法を提供する。
【0012】
このように、化合物半導体基板または発光素子チップをエピタキシャル成長方向に沿って断面を露呈させ、該露呈した断面に対して、少なくともp型クラッド層から活性層、n型クラッド層にかけて又は少なくともn型クラッド層から活性層、p型クラッド層にかけてSCMによってdc/dv信号を測定する。
SCMによるdc/dv信号の測定を行うことによって、少なくともp型クラッド層から活性層、n型クラッド層にかけて又は少なくともn型クラッド層から活性層、p型クラッド層に沿った空乏層の状態を評価することができる。そしてこの空乏層の状態はその測定した領域の活性キャリアの濃度に比例する。従って、上述のようにSCMによって化合物半導体基板または発光素子チップのdc/dv信号を評価することで、活性層近傍の活性キャリア濃度やその分布を評価することができることになる。すなわち、SIMSやSEMに比べて、高精度かつ簡易に活性層近傍の活性キャリア濃度を評価することができる。
【0013】
また、本発明では、少なくとも、エピタキシャル成長によって形成した化合物半導体基板または発光素子チップをエピタキシャル成長方向に沿って断面を露呈させ、該露呈した断面の表面に探針を接触させて、前記化合物半導体基板または発光素子チップの断面の表面において、少なくともp型クラッド層から活性層、n型クラッド層にかけて又は少なくともn型クラッド層から活性層、p型クラッド層にかけてSNDM(走査型非線形誘電率顕微鏡:Scanning Non−linear Dielectric Microscopy)によってAcos(dc/dv)信号を測定し、該測定値を基に少なくとも前記活性層中の活性キャリア濃度を評価することを特徴とする活性キャリア濃度の評価方法を提供する。
【0014】
このように、化合物半導体基板または発光素子チップをエピタキシャル成長方向に沿って断面を露呈させ、該露呈した断面に対して、少なくともp型クラッド層から活性層、n型クラッド層にかけて又は少なくともn型クラッド層から活性層、p型クラッド層にかけてSNDMによってAcos(dc/dv)信号を測定する。
SNDMによるAcos(dc/dv)信号の測定を行うことによって、活性キャリアの分布に依存した電圧分布を測定することができる。従って、上述のようにSNDMによって化合物半導体基板または発光素子チップのAcos(dc/dv)信号を評価することで活性層近傍の活性キャリア濃度やその分布を評価することができる。すなわち、SIMSやSEMに比べて、上述のSCM同様高精度かつ簡易に活性層近傍の活性キャリア濃度を評価することができる。
【0015】
ここで、前記化合物半導体基板または発光素子チップは、前記n型クラッド層、前記活性層、前記p型クラッド層の他に、少なくともセットバック層を含むことができる。
このように、本発明の活性キャリア濃度の評価方法は、n型クラッド層や、活性層、p型クラッド層の他に、ノンドープのセットバック層を含んでいてもよく、測定対象の化合物半導体基板や発光素子チップがセットバック層を有するものであっても、活性層等やセットバック層中の活性キャリア濃度を評価することができるものである。
【0016】
そして、本発明では、少なくとも、n型クラッド層と、活性層と、p型クラッド層とがこの順にエピタキシャル成長によって形成された化合物半導体基板を用いて作製された発光素子であって、該発光素子は、エピタキシャル成長方向に沿ってSCMによってdc/dv信号を測定し、前記p型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を1、前記n型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を−1とした時に、前記活性層のdc/dv信号値がその領域すべてで0.5以下のものであることを特徴とする発光素子を提供する。
【0017】
このように、エピタキシャル成長方向に沿ってSCMによってdc/dv信号を測定し、p型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を1、n型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を−1とした時に、活性層のdc/dv信号値がその領域すべてで0.5以下の発光素子であれば、活性層中の活性キャリア濃度が十分に小さなものであるため、高輝度であり、かつ長寿命の発光素子とすることができる。
【0018】
更に、本発明では、少なくとも、n型クラッド層と、活性層と、p型クラッド層とをこの順にエピタキシャル成長させた化合物半導体基板をダイシングする発光素子の製造方法であって、前記化合物半導体基板作製後に、エピタキシャル成長方向に沿って断面を露呈させ、該断面に沿ってSCMによってdc/dv信号を測定し、前記p型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を1、前記n型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を−1とした時に、前記活性層のdc/dv信号値がその領域すべてで0.5以下のものを良品、0.5より大きい部分があるものを不良品と判定し、良品と判定されたもののみを次工程に送ることを特徴とする発光素子の製造方法を提供する。
【0019】
このように、化合物半導体基板を作製した後に、エピタキシャル成長方向に沿って断面を露呈させ、該断面に沿ってSCMによってdc/dv信号を測定し、p型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を1、n型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を−1とし、そして活性層のdc/dv信号値がその領域すべてで0.5以下のものを良品、0.5より大きい部分があるものを不良品との判定を行う。そして判定で合格したもののみ次工程に送る。
上述のように、活性層のdc/dv信号値がその領域すべてで0.5以下の発光素子は、活性層中の活性キャリア濃度が、高輝度かつ長寿命の発光素子とするのに十分に低いものである。このため、発光素子を形成してライフ試験を行わなくても、製造過程において、化合物半導体基板または発光素子チップのエピタキシャル成長方向の断面をSCM測定するだけで、Mg等のp型キャリアの拡散による発光素子としての良・不良の区別が付き、良品だけをダイシングするようにすれば、確実に歩留りの向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、SIMS等を使用してMg等のp型ドーパントのデプスプロファイルを測定しなくても、サンプルの劈開面を露呈してSCM測定をしてdc/dv信号を測定して規格化したり、SNDM測定をしてAcos(dc/dv)信号の形状を観察することによって、活性層中の活性キャリア濃度を容易に評価することができる。また、発光素子まで加工せずとも、輝度やライフ特性の良不良の区別を発光素子に加工する前に確認することが出来、高品質な発光素子を高効率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】SCMの基本構成の概略の一例を示した図である。
【図2】SNDMの構成要点部の概略の一例を示した図である。
【図3】実験例1での活性キャリア濃度の測定結果の一例を示した図である。
【図4】実験例2での活性キャリア濃度の測定結果の一例を示した図である。
【図5】実験例3での活性キャリア濃度の測定結果の一例を示した図である。
【図6】実験例4の良品の化合物半導体基板のSIMSによるMg,Ga,Alのデプスプロファイルの評価結果の一例を示した図である。
【図7】実験例4の不良品2の化合物半導体基板のSIMSによるMg,Ga,Alのデプスプロファイルの評価結果の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
前述のように、発光素子中の活性キャリアの濃度を高精度かつ簡易に評価することのできる活性キャリア濃度の評価方法と、活性キャリア濃度が低い発光素子およびその製造方法の開発が待たれていた。
【0023】
そこで、本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、化合物半導体基板または発光素子チップをエピタキシャル成長方向に沿って断面を露呈させ、該露呈した断面に対して、少なくともp型クラッド層から活性層、n型クラッド層にかけて又は少なくともn型クラッド層から活性層、p型クラッド層にかけて、SCMによってdc/dv信号を測定するか若しくはSNDMによってAcos(dc/dv)信号を測定することによって、活性層近傍の活性キャリアの濃度を高精度かつ容易に評価することができることを発見した。
また、SCMによるdc/dv信号値を評価した時に所定の関係を満たす化合物半導体基板や発光素子チップは、活性キャリア濃度が低く、高輝度かつ長寿命であることも判った。そしてこの知見を応用することによって、高輝度かつ長寿命の発光素子を高歩留りで製造できることを発見し、本発明を完成させた。
【0024】
以下、本発明について図を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、SCM(走査型静電容量顕微鏡:Scanning Capacitance Microscope)について、AFMを利用するタイプを参照して図1を用いて説明する。図1はSCMの基本構成の概略の一例を示した図である。
【0025】
図1において、試料10は、例えば測定する表面の裏面側にコンタクト電極104が予め形成された基板101からなるものである。そして、基板101は、その断面を測定表面として露呈させるように加工されており、この加工時に試料表面には例えば自然酸化膜からなる絶縁膜105が形成される。
【0026】
そして、試料10の絶縁膜105に導電性(通常、金属製)の探針11をコンタクトさせ、探針11とコンタクト電極104との間に可変直流電源12から直流バイアスを印加すると、試料10中には、探針直下の局所領域に活性キャリア濃度に依存する厚みを有する空乏層が生成される。
この状態で、探針11とコンタクト電極104との間に変調電源(交流電源)13から交流電圧を印加すると、接地電位の探針11に対するコンタクト電極104の電圧が正あるいは負の方向に交互に変化するとともに電圧振幅が変化し、この電圧変化に追随して前記空乏層の幅が広がったり狭くなったりし、探針・コンタクト電極間の試料の静電容量が変化する。
【0027】
そこで、交流電圧の振幅変化に対する容量変化(dc/dv)を検出するために、探針11に公知のキャパシタンスセンサ14を接続し、その出力をロックインアンプ15により増幅することにより容量の変化を検出することにより、試料中の空乏層の状態を間接的に観察することができる。
この際、dc/dvを検出し易いように、可変直流電源12から供給する直流バイアスを適切な値に設定している。そして、観察位置を走査的に変化させるために、探針11および試料10の少なくとも一方の位置を変化させる、例えばピエゾスキャナ16により試料10の位置を水平面内で微細に変化させるように構成されており、検出位置を走査させることにより結果を画像で表示することが可能である。
なお、探針11のコンタクト位置を検出するために、レーザービーム照射装置17および反射ビーム検知装置18の対が配設されている。
【0028】
次にSNDM(走査型非線形誘電率顕微鏡:Scanning Non−linear Dielectric Microscopy)について、図2を参照して説明する。
図2は、SNDMの構成要点部の概略の一例を示した図である。
【0029】
SNDMは、強誘電体材料表面の誘電率分布を高分解能に観察・測定することのできる走査型プローブ顕微鏡である。図2にSNDMの構成要点部の概略の一例の図を示す(探針走査機構は図1とほぼ同様の機構であり、図2では省略する)。
【0030】
図2に示すように、プローブ24は、帰還部に探針21がセットされた(自励発振型の)LC共振器26と、アース電位に接地された高周波のリターン回路用金属リング22とで構成されている。この構成でプローブ24は、探針21と直下の試料20間の静電容量Csおよび発振器内蔵のコイル(インダクタンスL)により構成されたLC共振器26に同調して発振している(約1.2GHz)。この状態で、試料20のある金属ステージ201側から低周波電界(約5〜100kHz)を印加すると、試料20のもつ非線形誘電効果によりCs(t)が変化し、その変化が発振周波数を変調する(FM波)。
そして印加電圧源23による交流電界(周波数ω)の印加と試料の非線形性により、プローブ24直下の静電容量は交流的に時間変化する。またFM波はFM復調器27をへてロックインアンプ25へ送られる。
【0031】
ここで、測定試料の線形あるいは非線形誘電率を次のように定める。すなわちε(2)は線形の誘電率、ε(3)、ε(4)およびε(5)は、それぞれ最低次の非線形誘電率、それより1次高次の非線形誘電率および2次高次の非線形誘電率とすると、このSNDMを用いることで各誘電率を測定することができる。具体的には、FM復調された信号に対して、ロックインアンプを用いて印加電圧と同じ周波数成分を検出すればε(3)が、2倍の周波数成分の検出ではε(4)が、3倍の周波数成分の検出ではε(5)が、それぞれ他の非線形応答から分離して測定することができる。
また、図中のAおよびθは、検出された信号振幅とその位相を示し、振幅Aは非線形誘電率の大きさ(絶対値)に対応し、位相θは分極の向きに対応し、dc/dvに相当する。よって、通常SNDMで得られた像は、A、θ、Acosθ、cosθのいずれかで表示される。そして本発明ではAcos(dc/dv)を用いる。
【0032】
次に、本発明の発光素子について説明する。
本発明の発光素子は、少なくとも、n型クラッド層と、活性層と、p型クラッド層とがこの順にエピタキシャル成長によって形成された化合物半導体基板を用いて作製されたものである。
そして、エピタキシャル成長方向に沿ってSCMによってdc/dv信号を測定し、p型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を1、n型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を−1とした時に、活性層のdc/dv信号値がその領域すべてで0.5以下となっているものである。
【0033】
このようなエピタキシャル成長方向に沿ってSCMによってdc/dv信号を測定し、p型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を1、n型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を−1とした時に、活性層のdc/dv信号値がその領域すべてで0.5以下となっている発光素子は、少なくとも活性層中の活性キャリア濃度が低く、発光輝度やライフ特性が良好なものである。従って、上述の関係を満たす発光素子は、高品質な発光素子となっている。
【0034】
上記のような、本発明の発光素子は、以下に示すような本発明の発光素子の製造方法によって製造することができる。以下にその一例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
まず、n型GaAs基板上に、GaAsバッファ層、AlGaInPからなり、n型ドーパントがドープされたn型クラッド層や、活性層、p型ドーパントがドープされたp型クラッド層とを、エピタキシャル成長によってこの順に形成する。そしてその後、窓層としてp型GaP層をエピタキシャル成長させる。
このGaAsバッファ層、n型クラッド層、p型クラッド層、GaP層の作製は一般的な方法で行えばよく、例えばn型GaAs基板に、MOVPE法によって気相成長させることができ、その後に、p型GaP窓層をHVPE法によって形成することができる。そして、活性層とp型クラッド層との間に、AlGaInPからなり、n型クラッド層やp型クラッド層よりAl比xが同じか小さいセットバック層を設けることができる。
また、n型GaAs基板にAlGaInPからなる発光層とp型半導体結晶をエピタキシャル成長させた後にn型GaAs基板を除去し、そこにn型GaP基板を貼り付けたり、HVPE法によってエピタキシャル成長させてもよい。
上記手法によって化合物半導体基板を作製する。尚、化合物半導体基板は上記例示に示された組成に限られないことはいうまでもない。
【0036】
次に、作製した化合物半導体基板の一部を切り出し、切り出した化合物半導体基板をエピタキシャル成長方向に沿って断面を露呈させる。
そして、露呈させた断面に沿って、少なくともp型クラッド層から活性層、n型クラッド層にかけて又は少なくともn型クラッド層から活性層、p型クラッド層にかけて上述のようなSCMによってdc/dv信号を測定する。
【0037】
そして測定したdc/dv信号値を解析し、p型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を1、n型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を−1と規格化し、そして活性層のdc/dv信号値を評価する。その評価した活性層のdc/dv信号値が、活性層の領域全てで0.5以下となっているかいないかを評価し、領域全てで0.5以下のものを良品、0.5より大きい部分かあるものを不良品と判定する。
【0038】
そして、良品と判定された化合物半導体基板の残りに対して電極形成、ダイシング等の後工程を行うことによって、活性層近傍の活性キャリア濃度が低い、すなわち高輝度かつ長寿命の発光素子を効率よくかつ確実に製造することができる。
【0039】
尚、上述のケースでは化合物半導体基板をエピタキシャル成長方向の断面を露出させてSCMによってdc/dv信号値の測定を行ったが、このタイミングでしかSCMによるdc/dv信号値の測定を行うことができないわけではなく、電極形成後や、ダイシング、チップ化工程を行った後にエピタキシャル成長方向に沿って断面を露出させ、SCMにてdc/dv信号値を測定して、作製した化合物半導体基板やチップの良・不良の判定を行うことができる。
【0040】
電極形成工程後やダイシング工程後等では、化合物半導体基板作製直後に比べて電極形成工程やダイシング工程、チップ化工程を行っているため、不良品に対してもより多くの作業を行っているため無駄が発生しているように見えるが、実際の素子により近づいた状態での評価を行うことができる。また、長時間に渡るライフ試験を行う場合に比べてSCMによるdc/dv信号値の測定と判定を行うのみであるため、評価にかかる時間は従来に比べて大幅に短縮することができることに変わりはなく、上述のタイミングによる評価であっても歩留り向上を図ることができることはもちろんである。
【0041】
そして本発明の活性キャリア濃度の評価方法について以下に説明するが、もちろんこれに限定されるものではない。
まず、評価を行う化合物半導体基板または発光素子チップを準備する。
そして、エピタキシャル成長方向に沿って断面を露呈させる。
【0042】
その後、露呈させた断面において、少なくともp型クラッド層から活性層、n型クラッド層にかけて又は少なくともn型クラッド層から活性層、p型クラッド層にかけて、図1に示す様な装置を用いて、変調電圧を印加し、AFMの細い針によりマッピングする。このマッピングの際に、針先と表面との間に空乏層が形成される。そしてこの空乏層の形成の状態をdc/dv信号値によって検出すると、露呈させた断面の活性キャリアの濃度や分布を知ることができる。すなわち、化合物半導体基板や発光素子チップのエピタキシャル成長方向にかけてのナノレベルの活性キャリアの濃度分布を得ることができる。
【0043】
このように活性層をまたいだSCMによるdc/dv信号値の測定によれば、活性層やp型クラッド層、n型クラッド層中の活性キャリアの濃度分布が判る。そして、良・不良品の活性キャリア濃度の分布が予め判っていれば、SCMによるdc/dv信号を測定することにより、ドーパントの拡散による発光素子や化合物半導体基板の良・不良の区別をつけることができ、実際に発光素子を作製して、ライフ試験を行うことなく、高輝度かつ長寿命の発光素子かどうかを評価することができる。
【0044】
また、SNDMによってエピタキシャル成長方向に沿って露呈させた断面のAcos(dc/dv)信号を測定することにより、活性キャリアの濃度分布に依存した電圧分布を測定することができ、SCM同様に発光素子とした際の輝度やライフ特性の良・不良の区別をつけることができる。
その手順としては、測定対象の準備までは先に説明したSCMによる評価の時と同様である。
【0045】
そしてその後、露呈させた断面において、少なくともp型クラッド層から活性層、n型クラッド層にかけて又は少なくともn型クラッド層から活性層、p型クラッド層にかけて、図2に示す様な装置を用いて、低周波電界を印加しながらAcos(dc/dv)信号(容量Cの傾きdc/dvを反映)を測定することによって、SCMの時と同様に、化合物半導体基板や発光素子チップのエピタキシャル成長方向にかけてのナノレベルの活性キャリアの濃度分布を得ることができる。従って、SCMによる評価の場合と同様に、発光素子の良・不良をライフ試験を行うことなく容易に、かつ高精度に評価することができる。
【0046】
SIMSは基板内部にドープされているドーパントの総量を求める手段であって、SCMやSNDMのような電気的に活性なキャリアを求める測定手段ではない。更に、厳密にはSIMSは、1次イオンを加速させてサンプル表面をスパッターして深さ方向分布を測定するため、ドーパントの分布には若干ノックオン効果やミキシング効果が含まれる。
このため、活性キャリアの濃度分布を測定するには、SIMSよりSCMやSNDMの方がはるかに好適であり、かつ高精度に評価することができる。
【0047】
以下、実験例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実験例1)
p型クラッド層にp型ドーパントとしてMgをドープし、活性層がAlGaInPからなる実験用の3枚のATS−Typeの化合物半導体基板(成長用の下地基板として用いたn型GaAs基板を除去した後に、n型GaP層をエピタキシャル成長させたタイプ)の半分に電極を形成し、チップ化し、そしてライフ特性試験を行い、良・不良品を見極めるための評価を行った。その結果、3枚中1枚が良品、2枚が不良品であった。
また、n型GaAs基板を除去する前に、基板の一部をバックサンプルとして保存しておいた。このバックサンプルは後述する実験例3でAS−Typeとして使用した。
【0048】
そしてライフ試験により良・不良が明らかになった3枚の残り半分の化合物半導体基板をエピタキシャル成長方向に沿って断面を露呈させた。そしてSCMによってdc/dv信号値を測定し、活性層近傍の活性キャリア濃度の分布を評価した。測定装置は、Veeco社製のNanoScope IVa Dimension 3100を用いた。そして測定条件は、コンタクトモードdc/dv、X−Yモード、変調電圧1.0V、DC1Vとして、室温・大気中の条件で測定を行った。それらの結果を図3に示す。図3は、実験例1での活性キャリア濃度の評価方法の測定結果の一例を示した図である。図3の上側は断面のdc/dv画像(dc/dvの信号強度を2次元的(平面的)に走査し、輝度に変換したもの)、下側はdc/dv信号値の評価結果である。
【0049】
図3に示すように、p型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を1、n型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を−1と規格化して活性キャリア濃度を比較すると、良品の活性層部は全領域で0.5以下となっているのに対し、不良品1,2は、ともに活性層部が0.7−0.5となっており、Mgドープのp型クラッド層に信号値が近い、すなわち活性キャリアが多く存在していることが判った。また、セットバック層の最低の部分は、良品は0.37程度であったのに対し、不良品はともに0.43と、活性キャリアが高く分布していることが判った。
更に、良品を基準に分布線に各部の傾斜の補助線を入れると、良品と不良品で傾きが異なることが判った。
【0050】
そして、この他のロットの化合物半導体基板に対しても同様の評価を行ったが、ライフ特性が良好なものは活性層の領域全てでdc/dv信号値は0.5以下になっており、不良品の場合は0.5以上になる箇所を有していることが判った。このことから、本発明のSCMによる活性キャリア濃度の評価方法は精度が非常に高いことが判った。
【0051】
(実験例2)
実験例1でライフ特性試験を行った良品・不良品2の発光素子チップを、垂直に劈開してエピタキシャル成長方向に沿って露呈させた。そして露呈させた表面に対して、SNDMによってAcos(dc/dv)信号を測定し、活性層近傍の活性キャリア濃度の分布を評価した。測定装置は、SII社製のNanoNavi SPA−400 を用いた。そして測定条件は、コンタクトモードdc/dv X−Yモード、変調電圧10Vとして、室温・大気中の条件で測定を行った。その結果を図4に示す。図4は、実験例2での活性キャリア濃度の評価方法の測定結果の一例を示した図である。
【0052】
図4に示すように、良品と不良品では、検出した値のダイナミックレンジ(最大値と最小値の比率)が異なり、良品は不良品に比べてダイナミックレンジが小さい、すなわち最大値と最小値の比率が小さいことが判った。
また、良品と不良品では、Mgが拡散したために、活性層とセットバック層の部分の信号形状が異なることが判った。
【0053】
(実験例3)
実験例1で準備しておいたAS−Typeであるバックサンプルのうち、良品と不良品2のサンプルの劈開面を露呈させ、実験例2と同様の条件でSNDMによるAcos(dc/dv)信号の評価を行った。その結果を図5に示す。図5は、実験例3での活性キャリア濃度の評価方法の測定結果の一例を示した図である。
【0054】
図5に示す様に、ATS−Typeに比べて熱履歴の小さいAS−Type(成長用基板のn型GaAs基板を除去していないタイプ)であっても、SNDM評価を行った場合、良品の方がダイナミックレンジが小さく、不良品の方がダイナミックレンジが大きいことが判った。
また、良品・不良品の活性層とセットバック層の形状も、実験例2のATS−Typeと実験例3のAS−Typeで似た形状をしていることが判った。
【0055】
(実験例4)
実験例1でSCMによる評価を行った不良品2と良品の化合物半導体基板に対して、SIMSによるMg,Ga,Alのデプスプロファイル分布を評価した。その結果を図6,7に示す。図6は良品の化合物半導体基板のMg,Ga,Alのデプスプロファイルの評価結果の一例を示した図、図7は不良品2の化合物半導体基板のMg,Ga,Alのデプスプロファイルの評価結果の一例を示した図である。図6,7において、MgはSIMSによる測定結果から算出した深さ方向の濃度分布(左側の軸)、Ga,Alは測定された2次イオンの信号強度(右側の軸)である。
【0056】
図6,7に示すように、SIMSのMgのプロファイルにGaやAl等他の不純物の2次イオンの信号強度分布を重ねる等の工夫を行わないと、活性層やセットバック層が何処に分布しているのかが不明であり、そもそも図6,7のMgのデプスプロファイルの活性層やセットバック層の形状は非常に類似しており、ドーパントの差が認識できないことが判った。そしてSIMSで評価できるのはMgの分布のみで、活性化しているか否かの区別はできなかった。
【0057】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0058】
10…試料、 11…探針、 12…可変直流電源、 13…変調電源、 14…キャパシタンスセンサ、 15…ロックインアンプ、 16…ピエゾスキャナ、 17…レーザービーム照射装置、 18…反射ビーム検知装置、 101…基板、 104…コンタクト電極、 105…絶縁膜、
20…試料、 21…探針、 22…リング、 23…印加電圧源、 24…プローブ、 25…ロックインアンプ、 26…LC共振器、 27…FM復調器、 201…金属ステージ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、エピタキシャル成長によって形成した化合物半導体基板または発光素子チップをエピタキシャル成長方向に沿って断面を露呈させ、
該露呈した断面の表面に探針を接触させて、前記化合物半導体基板または発光素子チップの断面の表面において、少なくともp型クラッド層から活性層、n型クラッド層にかけて又は少なくともn型クラッド層から活性層、p型クラッド層にかけてSCM(走査型静電容量顕微鏡:Scanning Capacitance Microscope)によってdc/dv信号を測定し、該測定値を基に少なくとも前記活性層中の活性キャリア濃度を評価することを特徴とする活性キャリア濃度の評価方法。
【請求項2】
少なくとも、エピタキシャル成長によって形成した化合物半導体基板または発光素子チップをエピタキシャル成長方向に沿って断面を露呈させ、
該露呈した断面の表面に探針を接触させて、前記化合物半導体基板または発光素子チップの断面の表面において、少なくともp型クラッド層から活性層、n型クラッド層にかけて又は少なくともn型クラッド層から活性層、p型クラッド層にかけてSNDM(走査型非線形誘電率顕微鏡:Scanning Non−linear Dielectric Microscopy)によってAcos(dc/dv)信号を測定し、該測定値を基に少なくとも前記活性層中の活性キャリア濃度を評価することを特徴とする活性キャリア濃度の評価方法。
【請求項3】
前記化合物半導体基板または発光素子チップは、前記n型クラッド層、前記活性層、前記p型クラッド層の他に、少なくともセットバック層を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の活性キャリア濃度の評価方法。
【請求項4】
少なくとも、n型クラッド層と、活性層と、p型クラッド層とがこの順にエピタキシャル成長によって形成された化合物半導体基板を用いて作製された発光素子であって、
該発光素子は、エピタキシャル成長方向に沿ってSCMによってdc/dv信号を測定し、前記p型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を1、前記n型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を−1とした時に、前記活性層のdc/dv信号値がその領域すべてで0.5以下のものであることを特徴とする発光素子。
【請求項5】
少なくとも、n型クラッド層と、活性層と、p型クラッド層とをこの順にエピタキシャル成長させた化合物半導体基板をダイシングする発光素子の製造方法であって、
前記化合物半導体基板作製後に、エピタキシャル成長方向に沿って断面を露呈させ、該断面に沿ってSCMによってdc/dv信号を測定し、前記p型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を1、前記n型クラッド層のキャリア濃度が一番高い部分のdc/dv信号値を−1とした時に、前記活性層のdc/dv信号値がその領域すべてで0.5以下のものを良品、0.5より大きい部分があるものを不良品と判定し、良品と判定されたもののみを次工程に送ることを特徴とする発光素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−272790(P2010−272790A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125050(P2009−125050)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】