説明

活性炭及びその製造方法

【課題】活性炭に含まれる灰分を効果的に除去し、容易にケイ素含有量が少ない活性炭が得られる製造方法を提供する。また、ケイ素含有量が少なく、高静電容量、低電気抵抗を示す電気二重層キャパシタ電極用の活性炭を提供する。
【解決手段】本発明の活性炭の製造方法は、炭素原料を賦活処理した賦活物を、アルカリ金属水酸化物の濃度が5〜30質量%であるアルカリ性溶液及び酸成分の濃度が3〜20質量%である酸性溶液で、この順で又は逆の順で洗浄することを特徴とする。また、本発明の活性炭は、ケイ素含有量が200ppm〜3000ppmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素成分の含有量を低減した活性炭、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
活性炭は、その高い比表面積と発達した細孔構造から各種吸着用途等に用いられており、近年では電気二重層キャパシタ用電極等の電子材料への展開も盛んに行われている。しかし、活性炭には、原料として使用される炭素含有材料(例えば、ピッチ)に含まれる金属成分や、賦活処理に使用される賦活剤(例えば、水酸化カリウム)に由来する金属成分が残存することが知られている。活性炭に残存する金属成分は、吸着剤や電子材料への使用において、その性能面で障害となることもあるため、このような金属成分を除去する方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、原料として金属含有ピッチを用いて繊維状活性炭を製造する場合、賦活物を酸又はアルカリで洗浄して、活性炭表面の金属又は金属化合物を除去することが提案されている。なお、特許文献1では、酸洗浄のみで金属成分が除去できることが示されている(特許文献1(表1)参照)。特許文献2には、原料として廃タイヤを用いた場合に、廃タイヤ由来の重金属成分を除去するために、賦活物を塩酸溶液で処理し、さらに水又は希アルカリ溶液で洗浄することが提案されている。なお、特許文献2では、酸洗浄と水洗の組合せにより、金属成分が除去できることが示されている(特許文献2(段落[0016]〜[0020])参照)。
【0004】
特許文献3には、水処理用活性炭を製造するにあたり、賦活物に含まれるアルカリ金属の酸化物を酸で中和し、活性炭に保持された酸をアルカリ洗浄により除去することが提案されている。なお、特許文献3では、金属成分の除去ではなく、中和を目的としているため、使用される塩酸水溶液は0.01〜0.15規定と低濃度のものが使用され、アルカリ溶液も0.01規定と低濃度のものが使用されている(特許文献3([請求項1]、[表3])参照)。特許文献4には、賦活物を塩基性物質を含有する液体で洗浄し、さらに塩酸水で洗浄することにより、アルカリ金属の総含有量を100ppm以下とすることが提案されている(特許文献4(実施例B1、D5)参照)。なお、特許文献4では、活性炭のアルカリ金属含有量を低減するため、洗浄に用いる塩基性物質としては、アルカリ金属を含まない塩基性物質が使用されている(特許文献4(第10頁第13〜19行)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−217982号公報
【特許文献2】特許第3376431号公報
【特許文献3】特許第4272586号公報
【特許文献4】国際公開第2004/011371号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが検討した結果、従来の製造方法で得られる活性炭には灰分が残存しており、この灰分内には酸洗浄では除去が困難である原料由来のケイ素(Si)成分が多く含まれていることが明らかとなった。このようなケイ素成分は、他の金属不純物(Fe、K、Ni、Cu等)のように、例えば、電気二重層キャパシタ電極においては、使用される電解液を分解して容量を低下させたり、抵抗を上昇させたりする可能性は低い。しかし、ケイ素含有量が多いと、活性炭における電気二重層形成に寄与する炭素成分の割合を減少させるため、活性炭正味の比表面積が低下し、静電容量の低下の原因となる。
【0007】
しかしながら、特許文献1、2のように、酸洗浄のみでは活性炭表面の金属成分は除去できるものの、高比表面積を有する活性炭では、細孔内に存在する灰分が十分に除去できないという問題がある。また、特許文献3のように洗浄液の酸成分やアルカリ成分が低濃度の場合や、特許文献4のように塩基性成分としてアルカリ金属以外の塩基性成分を使用する場合にも、灰分が十分に除去できないという問題がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、活性炭に含まれる灰分を効果的に除去し、容易にケイ素含有量が低減された活性炭を得られる製造方法を提供することを目的とする。また、ケイ素含有量が少なく、高静電容量、低電気抵抗を示す電気二重層キャパシタ電極に適した活性炭を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することができた本発明の活性炭の製造方法は、炭素原料を賦活処理した賦活物を、アルカリ金属水酸化物の濃度が5〜30質量%であるアルカリ性溶液及び酸成分の濃度が3〜20質量%である酸性溶液で、この順で又は逆の順で洗浄することを特徴とする。前記洗浄は、アルカリ性溶液で洗浄した後、酸性溶液で洗浄することが好ましい。前記賦活処理は、水蒸気賦活が好ましい。前記炭素原料は、紙フェノール樹脂積層体の炭化物が好ましい。
また、本発明の活性炭は、ケイ素含有量が200ppm〜3000ppmであることを特徴とする。前記活性炭の比表面積は1600m2/g以上、平均細孔径は2nm以上が好ましい。本発明には前記活性炭を電極材料として用いた電気二重層キャパシタ用電極、及び、該電極を備えた電気二重層キャパシタも含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、所定の濃度を有する酸性溶液及びアルカリ金属水酸化物溶液により賦活物を洗浄することにより、効果的に灰分を除去することができ、ケイ素含有量が低減された活性炭を容易に得られる。
また、ケイ素含有量の少ない活性炭を電気二重層キャパシタ用電極に使用すれば、静電容量が高く、電気抵抗が低減された電気二重層キャパシタが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】製造例の活性炭を使用して製造した電気二重層キャパシタを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の活性炭の製造方法は、炭素原料を賦活処理した賦活物を、所定の濃度を有するアルカリ性溶液及び酸性溶液で洗浄することを要旨とする。こうすることで、アルカリ性溶液のみによる洗浄若しくは酸性溶液のみによる洗浄、又は、低濃度のアルカリ性溶液や酸性溶液による洗浄では除去できなかった灰分(ケイ素成分)を効果的に除去することができる。
【0013】
前記炭素原料としては、木質材料(木材、おが屑、ヤシガラ等)、セルロース系繊維(紙、綿繊維等)、合成樹脂(フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリアクリロニトリル(PAN)等)、石油ピッチ、コールタールピッチ、メソフェーズピッチ及びこれらの複合物等の炭素質物質;石炭、石油コークス、石炭コークス、石油ピッチコークス、石炭ピッチコークス、木炭等の炭化物;が挙げられる。
【0014】
前記炭素原料としては、比較的大きい細孔(メソ孔:直径2.0nm超50nm未満の細孔)が形成されやすい炭素原料(以下、「メソ孔形成原料」と称する場合がある)と比較的小さい細孔(ミクロ孔:直径2.0nm以下の細孔)が形成されやすい炭素原料(以下、「ミクロ孔形成原料」と称する場合がある)との複合物を用いることが好ましい。炭素原料として、メソ孔形成原料とミクロ孔形成原料との複合物を用いれば、賦活処理を複数回行うことなく、一回の賦活処理でミクロ孔とメソ孔とをバランスよく有する活性炭が得られる。ミクロ孔とメソ孔とをバランスよく有する活性炭は、吸着量と吸着物質の移動速度とがバランスよく両立され、例えば、電極材料に用いれば、高静電容量及び低抵抗を示す電気二重層キャパシタが得られる。
【0015】
前記メソ孔形成原料としては、例えば、セルロース系繊維、木質材料等のセルロース系原料等が挙げられる。前記ミクロ孔形成原料としては、例えば、フェノール樹脂、フラン樹脂等の合成樹脂系原料等が挙げられる。これらのメソ孔形成原料、ミクロ孔形成原料は、それぞれ少なくとも1種以上使用する。なお、メソ孔形成原料とミクロ孔形成原料との配合比は、所望とする活性炭の物性に応じて適宜変更すればよい。メソ孔形成原料とミクロ孔形成原料との複合物としては、例えば、紙フェノール樹脂積層体が挙げられる。
【0016】
炭素原料として、前記炭素質物質を用いる場合、炭化処理を施した炭化物(例えば、紙フェノール樹脂積層体の炭化物)を用いることが好ましい。炭素質物質の炭化処理は、通常、不活性ガス雰囲気下で加熱処理を行う。該炭化処理の温度は、400℃以上が好ましく、より好ましくは500℃以上であり、950℃以下が好ましく、より好ましくは900℃以下である。また、炭化処理時間は、0.5時間以上が好ましく、より好ましくは1.0時間以上であり、4.0時間以下が好ましく、より好ましくは3.0時間以下である。
【0017】
前記炭素原料の平均粒子径は10mm以下が好ましく、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは2mm以下である。なお、炭素原料の平均粒子径の下限は特に限定されるものではないが、平均粒子径が小さすぎると粉体のハンドリングが悪くなる(例えば、作業時に粉体が舞い上がってしまう)傾向がある。そのため、炭素原料の平均粒子径は1μm以上が好ましく、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。なお、平均粒子径とは、水に分散させた試料を、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所製の「SALD(登録商標)−2000」)により測定して、求められる体積基準メディアン径である。
【0018】
前記賦活処理としては、薬品賦活(例えば、アルカリ賦活)、ガス賦活(例えば、水蒸気賦活)のいずれも採用することができ、薬品賦活及びガス賦活の両方を行ってもよい。また、賦活処理は一回のみ行ってもよいし、複数回行ってもよい。これらの中でも、賦活物への薬品成分(アルカリ金属等)の付着等を抑制できることから、水蒸気賦活が好適である。前記水蒸気賦活では、賦活原料を所定の温度まで加熱した後、水蒸気を供給することにより賦活処理を行う。賦活原料の加熱は、不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。なお、不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等を用いることができる。
【0019】
賦活処理を行う際の温度(炉内温度)は400℃以上が好ましく、より好ましくは450℃以上であり、1500℃以下が好ましく、より好ましくは1300℃以下である。また、賦活処理を行う際の加熱時間は0.5時間以上が好ましく、より好ましくは1.0時間以上であり、10時間以下が好ましく、より好ましくは5時間以下である。
【0020】
賦活処理中に供給する水蒸気の総量は、炭素原料100質量部に対して50質量部以上が好ましく、より好ましくは100質量部以上、さらに好ましくは200質量部以上であり、10000質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは5000質量部以下、さらに好ましくは3000質量部以下である。供給する水蒸気の総量が炭素原料100質量部に対して50質量部以上であれば、賦活反応による細孔形成がより良好となり、10000質量部以下であれば、賦活反応がより効率良く進行し、生産性を向上できる。
【0021】
水蒸気を供給する態様としては、水蒸気を希釈せずに供給する態様、水蒸気を不活性ガスで希釈して供給する態様のいずれも可能であるが、賦活反応を効率良く進行させるために、不活性ガスで希釈して供給する態様が好ましい。水蒸気を不活性ガスで希釈して供給する場合、該混合ガス(全圧101.3kPa)中の水蒸気分圧は40kPa以上が好ましく、より好ましくは50kPa以上、さらに好ましくは70kPa以上である。
【0022】
本発明の活性炭の製造方法では、賦活物を、アルカリ性溶液及び酸性溶液で洗浄する。アルカリ性溶液による洗浄及び酸性溶液による洗浄はそれぞれ1回のみ行ってもよいし、複数回行ってもよい。なお、経済性の観点から、それぞれ1回ずつ行うことが好ましい。アルカリ性溶液による洗浄と酸性溶液による洗浄を行う順序は特に限定されないが、アルカリ性溶液で洗浄した後、酸性溶液で洗浄することが好ましい。こうすることにより、得られる活性炭中の灰分(ケイ素成分)を効果的に除去するとともに、アルカリ金属成分(例えば、カリウム(K)成分)も低減することができる。
【0023】
前記アルカリ性溶液に使用するアルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。これらのアルカリ金属水酸化物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ性溶液の溶媒は特に限定されないが、水が好ましい。
【0024】
前記アルカリ性溶液中のアルカリ金属水酸化物濃度は、5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、30質量%以下、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。また、アルカリ性溶液中のアルカリ金属水酸化物濃度は、0.9mol/L以上が好ましく、より好ましくは1.5mol/L以上、さらに好ましくは2.5mol/L以上であり、5mol/L以下が好ましく、より好ましくは4mol/L以下、さらに好ましくは3.5mol/L以下である。
【0025】
アルカリ性溶液による洗浄時間は、0.3時間以上が好ましく、より好ましくは0.5時間以上、さらに好ましくは0.7時間以上であり、2時間以下が好ましく、より好ましくは1.5時間以下、さらに好ましくは1.2時間以下である。また、アルカリ性溶液の温度は、30℃以上が好ましく、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。アルカリ性溶液の温度の上限は特に限定されないが、沸点以下である。アルカリ性溶液で洗浄した賦活物は、水でよく洗浄し、アルカリ成分を除去することが好ましい。
【0026】
前記酸性溶液に使用する酸成分としては、例えば、塩酸、炭酸、硫酸、硝酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、クエン酸等の有機酸が挙げられる。これらの酸成分は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、無機酸が好ましく、塩酸がより好ましい。なお、酸性溶液の溶媒は特に限定されないが、水が好ましい。
【0027】
前記酸性溶液中の酸成分濃度は、3質量%以上、好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、20質量%以下、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。また、酸性溶液中の酸成分濃度は、0.9mol/L以上が好ましく、より好ましくは1.1mol/L以上、さらに好ましくは1.3mol/L以上であり、5mol/L以下が好ましく、より好ましくは4mol/L以下、さらに好ましくは2.5mol/L以下である。
【0028】
酸性溶液による洗浄時間は、0.3時間以上が好ましく、より好ましくは0.5時間以上、さらに好ましくは0.7時間以上であり、2時間以下が好ましく、より好ましくは1.5時間以下、さらに好ましくは1.2時間以下である。また、酸性溶液の温度は、30℃以上が好ましく、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。酸性溶液の温度の上限は特に限定されないが、沸点以下である。酸性溶液で洗浄した賦活物は、水でよく洗浄し、酸成分を除去することが好ましい。
【0029】
酸性溶液での洗浄及びアルカリ性溶液での洗浄を行った活性炭は、さらに水洗、粉砕を行ってもよい。水洗を行うことにより、金属不純物、灰分等を一層除去することができる。粉砕は、ディスクミル、ボールミル、ビーズミル等を用いて行う。なお、活性炭の粒子径は、用途に応じて適宜調整すればよい。
【0030】
本発明の製造方法により得られる活性炭は、ケイ素成分の含有量が低減されている。ケイ素含有量が少ない程、活性炭における電気二重層形成に寄与する炭素成分の割合が増加するため、電気二重層キャパシタ用電極に使用すれば、得られる電気二重層キャパシタの静電容量が向上し、電気抵抗が低減する。前記活性炭のケイ素含有量は3000ppm以下、好ましくは2900ppm以下、より好ましくは2850ppm以下である。なお、ケイ素含有量の下限は特に限定されないが、200ppm以上、好ましくは300ppm以上、より好ましくは500ppm以上である。ケイ素含有量が500ppm未満では、電気二重層キャパシタに使用した場合の静電容量の向上効果、電気抵抗の低減効果が飽和する。またケイ素含有量を200ppm未満とするためには、洗浄を繰り返し行う必要があり経済的でない。
【0031】
前記活性炭の灰分含有量は、2.5質量%以下が好ましく、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。灰分含有量が少なければ、ケイ素だけでなく、金属不純物の含有量も少なくなる。よって、電気二重層キャパシタ用電極に使用した場合に、金属不純物による電解液の分解が抑制され、静電容量が一層向上し、電気抵抗が一層低減する。
【0032】
前記活性炭のアルカリ金属含有量は、500ppm以下、好ましくは200ppm以下、より好ましくは50ppm以下である。アルカリ金属含有量が上記範囲内であれば、例えば、電極材料に用いた場合に、アルカリ金属成分による電解液の分解等が抑制されるため、高静電容量及び低抵抗を示す電気二重層キャパシタが得られる。
【0033】
前記活性炭のBET比表面積は1600m2/g以上が好ましく、より好ましくは1700m2/g以上、さらに好ましくは1800m2/g以上であり、3000m2/g以下が好ましく、より好ましくは2500m2/g以下、さらに好ましくは2200m2/g以下である。BET比表面積が1600m2/g未満では、活性炭の吸着能力が低くなる。そのため、例えば、活性炭を電気二重層キャパシタ用電極に用いた場合に十分な質量当たりの静電容量(F/g)が得られない。また、BET比表面積が3000m2/gを超えると活性炭の密度が低下し過ぎる。そのため、例えば、活性炭を電気二重層キャパシタ用電極に用いた場合に体積当たりの静電容量(F/cm3)が低下する。
【0034】
前記活性炭の細孔容積は、0.7cm3/g以上が好ましく、より好ましくは0.9cm3/g以上、さらに好ましくは1.2cm3/g以上であり、3.0cm3/g以下が好ましく、より好ましくは2.5cm3/g以下、さらに好ましくは2.0cm3/g以下である。
【0035】
前記活性炭の平均細孔径は2.0nm以上が好ましく、より好ましくは2.1nm以上、さらに好ましくは2.2nm以上であり、3.0nm以下が好ましく、より好ましくは2.6nm以下、さらに好ましくは2.4nm以下である。前記平均細孔径が上記範囲内であれば、吸着物質が活性炭から出入りしやすくなる。そのため、例えば、電気二重層キャパシタ用電極に用いた場合に急速充放電特性が向上する。
【0036】
本発明の製造方法により得られる活性炭は、電気二重層キャパシタ用電極材料として用いることができ、当該電極材料を使用して、電気二重層キャパシタ用電極や電気二重層キャパシタを製造することが可能である。
【0037】
電気二重層キャパシタ用電極としては、例えば、活性炭、導電性付与剤、及びバインダーを混練し、さらに溶媒を添加してペーストを調製し、このペーストをアルミ箔等の集電板に塗布した後、溶媒を乾燥除去したものが挙げられる。
【0038】
前記電気二重層キャパシタ用電極に使用されるバインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系高分子化合物や、カルボキシメチルセルロース、スチレン−ブタジエンゴム、石油ピッチ、フェノール樹脂等を使用できる。また、導電性付与剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等を使用できる。
【0039】
電気二重層キャパシタは、一般的には、電極、電解液、及びセパレータを主要構成とし、一対の電極間にセパレータを配置した構造となっている。前記電解液としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート等の有機溶剤に、アミジン塩を溶解した電解液;過塩素酸の4級アンモニウム塩を溶解した電解液;4級アンモニウムやリチウム等のアルカリ金属の四フッ化ホウ素塩や六フッ化リン塩を溶解した電解液;4級ホスホニウム塩を溶解した電解液等が挙げられる。また、前記セパレータとしては、例えば、セルロース、ガラス繊維、又は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルムが挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0041】
灰分、金属不純物等の含有量
磁製るつぼに活性炭試料を1g入れて、815℃で2時間加熱して灰化し、灰分量を測定し、活性炭中の灰分含有量を算出した。また、蛍光X線分析装置(リガク社製、「ZSX 100e」)を用いて、灰分中の不純物を定性、定量した。
【0042】
比表面積、全細孔容積及び平均細孔径の測定方法
活性炭0.2gを150℃にて真空加熱した後、窒素吸着装置(マイクロメリティックス社製、「ASAP(登録商標)−2400」)を用いて、吸着等温線を求め、BET法により比表面積、全細孔容積を算出した。また、活性炭に形成された細孔の形状をシリンダー状と仮定し、細孔径1.0nm〜30nmの範囲における細孔容積と比表面積に基づき、下記式(1)により平均細孔径を算出した。
【0043】
【数1】

【0044】
電気二重層キャパシタ性能評価
静電容量
充放電装置(楠本化成社製、「ETAC(登録商標) Ver.4.4」)の充放電端子を電気二重層キャパシタの集電板に接続し、集電板間電圧が2.5Vになるまで40mAの定電流充電を行い、続けて、2.5Vの定電圧で30分間充電を行った。充電後、定電流(放電電流10mA)で電気二重層キャパシタの放電を行った。このとき、集電板間電圧がV1、V2となるまでに要した放電時間t1、t2を測定し、下記式(2)を用いて静電容量を求めた。得られた静電容量を、キャパシタ用電極における電極材料層中の活性炭質量で除することにより質量基準静電容量(F/g)を算出し、キャパシタ用電極における電極材料層の総体積で除することにより体積基準静電容量(F/cm3)を算出した。また、下記式(3)を用いて抵抗を求めた。なお、静電容量及び抵抗の測定は、25℃及び−30℃の温度下で行った。
【0045】
【数2】

【0046】
【数3】


I:10(mA)
t1:電気二重層キャパシタ電圧がV1となるまでに要した放電時間(sec)
t2:電気二重層キャパシタ電圧がV2となるまでに要した放電時間(sec)
V1:2.0(V)
V2:1.0(V)
V0:放電開始直後の電圧
【0047】
1.活性炭の製造
製造例1
紙フェノール樹脂積層体の炭化物100gをロータリーキルン内に投入し、窒素流通下(1L/分)で900℃まで昇温した(昇温速度:10℃/分)。900℃に達してからロータリーキルン内に水蒸気(水蒸気分圧:71.2kPa)を窒素とともに供給し、3時間30分水蒸気賦活処理を行った。水蒸気賦活処理後の試料50gを濃度5質量%、温度60℃の水酸化カリウム(KOH)水溶液2L中に1時間浸漬した後、真空ろ過した。ろ過後の試料を60℃の温水で洗浄、真空ろ過した後、濃度5.25質量%の塩酸(HCl)水溶液2L中で1時間煮沸した後、真空ろ過した。ろ過後の試料を60℃の温水で洗浄、真空ろ過を行い、活性炭を製造した。
【0048】
製造例2
洗浄に用いた水酸化カリウム水溶液の濃度を10質量%に変更したこと以外は、製造例1と同様にして活性炭を製造した。
【0049】
製造例3
洗浄に用いた水酸化カリウム水溶液の濃度を20質量%に変更したこと以外は、製造例1と同様にして活性炭を製造した。
【0050】
製造例4
製造例1と同様にして水蒸気賦活処理を行った。水蒸気賦活処理後の試料50gを濃度5.25質量%、温度60℃の塩酸(HCl)水溶液2L中に1時間浸漬した後、真空ろ過した。ろ過後の試料を60℃の温水で洗浄、真空ろ過した後、濃度20質量%の水酸化カリウム(KOH)水溶液2L中で1時間煮沸した後、真空ろ過した。ろ過後の試料を60℃の温水で洗浄、真空ろ過を行い、活性炭を製造した。
【0051】
製造例5
紙フェノール樹脂積層体の炭化物100gをロータリーキルン内に投入し、窒素流通下(1L/分)で900℃まで昇温した(昇温速度:10℃/分)。900℃に達してからロータリーキルン内に水蒸気(水蒸気分圧:71.2kPa)を窒素とともに供給し、3時間30分水蒸気賦活処理を行い、活性炭を製造した。
【0052】
製造例6
紙フェノール樹脂積層体の炭化物100gをロータリーキルン内に投入し、窒素流通下(1L/分)で900℃まで昇温した(昇温速度:10℃/分)。900℃に達してからロータリーキルン内に水蒸気(水蒸気分圧:71.2kPa)を窒素とともに供給し、3時間30分水蒸気賦活処理を行った。水蒸気賦活処理後の試料50gを濃度5.25質量%、温度60℃の塩酸(HCl)水溶液2L中に1時間浸漬した後、真空ろ過した。ろ過後の試料を60℃の温水で洗浄、真空ろ過を行い、活性炭を製造した。
【0053】
製造例7
紙フェノール樹脂積層体の炭化物100gをロータリーキルン内に投入し、窒素流通下(1L/分)で900℃まで昇温した(昇温速度:10℃/分)。900℃に達してからロータリーキルン内に水蒸気(水蒸気分圧:71.2kPa)を窒素とともに供給し、3時間30分水蒸気賦活処理を行った。水蒸気賦活処理後の試料50gを濃度20質量%、温度60℃の水酸化カリウム(KOH)水溶液2L中に1時間浸漬した後、真空ろ過した。ろ過後の試料を60℃の温水で洗浄、真空ろ過を行い、活性炭を製造した。
【0054】
2.電気二重層キャパシタの製造
上記製造例1〜7で得た活性炭を用いて電気二重層キャパシタを製造した。具体的には、活性炭に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末とアセチレンブラックとを、活性炭:PTFE:アセチレンブラック=8:1:1(質量比)になるように混合し、ペースト状になるまで混練した。ついで、ミニブレンダーで粉砕し、500μmのステンレス鋼製篩で篩って粒度を揃えた。次に、直径2.54cmの金型を用い、プレス後の厚みが0.5mmになるように仕込み量を調節し、50.4MPaの圧力でプレス成形して、キャパシタ用電極を作製した。
【0055】
得られたキャパシタ用電極を真空条件下、200℃、1時間の条件で乾燥した後、窒素ガスを流通させたグローブボックス内で電解液(1Mテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートのプロピレンカーボネート溶液)を電極に真空含浸させた。この電極を使用して図1に示すように電気二重層キャパシタを組み立てた。図1に示す電気二重層キャパシタは、前記電解液を含浸させたセパレータ(Celgard社製、「セルガード(登録商標)#3501」)1を前記キャパシタ用電極2で挟み、電極をOリング3で囲繞した後、さらに集電板としてのアルミニウム板4で挟んで作製した。
【0056】
製造例1〜7で得た活性炭の評価結果を表1、表2に示した。また、電気二重層キャパシタの評価結果を表1に示した。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
表1に示すように、アルカリ性溶液及び酸性溶液で洗浄を行った製造例1〜4では、得られた活性炭中のケイ素含有量が少なくなっており、電気二重層キャパシタ評価において、静電容量が高く、抵抗が低いことがわかる。これらの中でも、アルカリ性溶液で洗浄した後、酸性溶液での洗浄を行った製造例1〜3では、得られた活性炭中の灰分量(ケイ素含有量)が低減されている。
酸性溶液による洗浄のみを行った製造例6では、製造例5に対して、得られた活性炭中のアルカリ金属、アルカリ土類金属の含有量が低減されているものの、ケイ素含有量はあまり除去できていない。アルカリ性溶液による洗浄のみを行った製造例7では、製造例5に対して、得られた活性炭中のケイ素含有量が半分程度除去できているものの、まだまだ十分に除去できておらず、5000ppm以上と高い値であった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の製造方法により得られる活性炭は、電気二重層キャパシタ用電極材料として用いることができ、当該電極材料を使用して、電気二重層キャパシタ用電極や電気二重層キャパシタを製造することが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1:セパレータ、2:キャパシタ用電極、3:Oリング、4:アルミニウム板、5:ポリテトラフルオロエチレン板、6:ステンレス鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原料を賦活処理した賦活物を、アルカリ金属水酸化物の濃度が5〜30質量%であるアルカリ性溶液及び酸成分の濃度が3〜20質量%である酸性溶液で、この順で又は逆の順で洗浄することを特徴とする活性炭の製造方法。
【請求項2】
前記賦活処理が、水蒸気賦活である請求項1に記載の活性炭の製造方法。
【請求項3】
前記炭素原料が、紙フェノール樹脂積層体の炭化物である請求項1又は2に記載の活性炭の製造方法。
【請求項4】
前記賦活物を、アルカリ性溶液で洗浄した後、酸性溶液で洗浄する請求項1〜3のいずれか1項に記載の活性炭の製造方法。
【請求項5】
ケイ素含有量が200ppm〜3000ppmであることを特徴とする活性炭。
【請求項6】
比表面積が1600m2/g以上、平均細孔径が2nm以上である請求項5に記載の活性炭。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の活性炭を電極材料として用いたことを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極。
【請求項8】
請求項7に記載の電極を備えたことを特徴とする電気二重層キャパシタ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−23405(P2013−23405A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159233(P2011−159233)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【出願人】(507249993)株式会社MCエバテック (8)
【Fターム(参考)】