説明

活性物質として置換2−アミノチアゾールを含む抗真菌マニキュア剤

本発明は、(A)抗真菌性置換2−アミノチアゾールの化合物類由来の薬剤効果のある化合物、(B)前記化合物のマニキュア剤を含む組成物に関するものである。本発明は更に、爪甲真菌症および真菌感染によって引き起こされる指の爪あるいは足の爪の他の病気を治療するための、真菌マニキュア剤に関するものである。特に、本発明は、爪に塗布され、そこから抗真菌薬が放出され、爪に浸透しうるような被膜を形成する、抗真菌マニキュア剤に関するものである。前記方法は、真菌感染に対して、あるいは真菌感染の予防としてヒトおよび動物の爪を治療するためのものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、爪甲真菌症の治療、および手指あるいは足指の爪に感染する他の真菌感染に対する抗真菌マニキュア剤に関するものである。さらに詳細には、本発明は、被膜を形成させるために爪に塗布される、抗真菌活性マニキュア剤に関するものであり、その被膜から、抗真菌薬が放出され、爪に浸透しうる。この方法は、ヒトあるいは動物の爪の真菌感染を治療するために、あるいは予防するために使用することができる。
【0002】
2.先行技術の状況
一般に爪甲真菌症と呼ばれる爪の真菌感染は、皮膚糸状菌によって通常引き起こされるが、カビ類や酵母菌によってもまた、引き起こされる可能性がある。混合感染も引き起こされる。爪甲真菌症にはそれゆえ、カビや酵母を含む他の菌類によって引き起こされる感染に加えて、爪板および爪の皮膚糸状菌感染が含まれる。さらに、爪甲真菌症は、例えば、皮膚糸状菌貯蔵の役目を果たしうるため、その結果、足白癬の治療の失敗、足白癬の再発につながる。
【0003】
最も一般的には、爪甲真菌症は、紅色白癬菌、毛瘡白癬菌、および有毛表皮糸状菌によって引き起こされる。皮膚糸状菌ではないものによる爪甲真菌症は、通常カンジダ菌の種によって引き起こされる。
【0004】
爪甲真菌症は爪の肥厚および変退色を招き、爪の損失や破壊さえ引き起こす可能性があり、さらには、痛み、不十分な血液循環、歩行時の障害および他の望ましくない結果を招く可能性がある。
【0005】
従来の爪甲真菌症の治療としては、爪の感染部分を除去、あるいは全体の爪を除去するものがあげられる。しかしながら、この治療の形態は、爪の永久的な損傷につながる可能性がある。さらに、ゆがんだ形で爪が生え変わるかもしれない。加えて、爪の除去によって、爪甲真菌症が完全に治癒するという保証は何もない。
【0006】
爪を除去する代わりに、種々の抗真菌薬で爪甲真菌症を治療することも可能である。抗真菌薬は例えば、経口投与することができる。しかしながら、この種の治療は、体全体にストレスをかけ、またごく少量の抗真菌活性物質だけが爪床を経て爪に届く。さらに、経口投与には、足の爪に対して少なくとも12週間、指の爪に対して約6から8週間の治療継続期間が必要であるという欠点がある。このような長い治療継続期間は、治療に高いコストを発生させるものである。また、患者のコンプライアンスも著しく低減する。加えて、経口治療は、例えば、胃腸炎症、吐き気、有害な薬物−薬物相互作用、薬物による発疹、および他の望ましくない副作用、のような副作用の危険性を増加させる。さらに、吸収と代謝の変化の割合により、爪甲真菌症の経口治療がより困難なものとなる。
【0007】
爪甲真菌症の他の治療方法としては、抗真菌薬を含む薬剤の局所塗布があげられる。抗真菌薬を含むマニキュア剤で爪甲真菌症を治療することが知られている。
【0008】
ヒトさらに動物の、手指および足指の爪を含む爪に感染する爪甲真菌症および同様の真菌感染の治療に対するマニキュア剤が知られている。
【0009】
幾つかの例が、特許文献中に記載されている。これに関連して下記で述べられうる:米国特許第4,957,730号(水不溶性被膜形成剤中の1−ヒドロキシ−2−ピリドン);米国特許第5,120,530号(第4級アンモニウムアクリレート共重合体中のアモロルフィン);米国特許第5,264,206号(水不溶性被膜形成剤中のチオコナゾール、エコナゾール、オキシコナゾール、ミコナゾール、トルナフテート、塩酸ナフチフィン);米国特許第5,346,692号(可塑剤として尿素およびジブチルフタレートを使用したもの);米国特許第5,487,776号(コロイド懸濁液中のグリセオフルビン)。
【0010】
他の例を含むさらなる特許の例としては、例えば,4,636,520;5,002,938;5,110,809;5,219,877;5,391,367;5,464,610;5,696,105;5,814,305;6,224,887;6,495,124およびWO No.01/60325がある。
【0011】
抗真菌薬アモロルフィンを含むマニキュアの効果は、Jean−Paul L.Marty,J.of the European Academy of Dermatology and Venereology,4(Suppl. 1),17−21(1995)に記載されている。マニキュアの被膜形成溶液は、主に活性剤、揮発性溶媒(エタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メチル、塩化メチレン、メチルエチルケトン、イソプロパノール)および水不溶性の高分子(メタクリル酸共重合体、ビニルポリマー)から成り、それは溶媒の除去に続いて、連続的な被膜を形成することを、筆者は述べている。可塑剤(トリアセチン、ジブチルフタレート)は、マニキュア塗料の剥離と磨耗を防ぐために、マニキュアに十分な機械的柔軟性を与える。
【0012】
爪の構造と特性の概説、種々の薬剤の爪甲への浸透性およびアルコール類の浸透性の議論がK.A.Walter and G.L.Flynn:「ヒト爪甲の浸透性特性」,Int.J.of Cosmetic Science,5,231〜246(1983)でなされている。
【0013】
最近では、抗真菌活性マニキュア剤が開発されてきており、これらは、肌および爪の浸透促進剤(エンハンサー)として、2−n−ノニル−1,3−ジオキソランあるいは、関連するジオキサン類およびアセタール化合物を含むものである。これらの浸透促進剤は、被膜形成高分子のための可塑剤として働くことも見出されている。このように、浸透促進剤としてジオキソラン類、ジオキサン類およびアセタール類を含むマニキュア剤は、可塑剤を追加することなく製造することができる。これらの製剤から調製された被膜は、透明性、硬さ、耐水性を維持し、爪への接着性が良好であり、さらには爪に対して十分な量の抗真菌剤を放出する。このような抗真菌活性のマニキュア剤は、WO99/39680において、請求されている。米国特許第5,914,322号および第5,962,433号により、ヒアルロン酸が浸透促進剤として使用されうることが知られている。さらに、効果的な抗真菌マニキュア剤について記載されており、その中では、異なる微生物源から得ることができるヒアルロン酸リアーゼが、浸透促進剤として使用される(WO00/38732)。
【0014】
しかしながら、上述のマニキュア剤で使用される抗真菌剤はすべて、爪甲真菌症の治療に対しては十分な効果がない。なぜならば、爪甲真菌症を引き起こす病原菌に対して、薬剤が十分な効果を有さないからである。成長中、休息中の菌に対する殺菌効果により、抗真菌活性の置換2−アミノチアゾールは、マニキュア剤の形態で塗布されるとき、爪甲真菌症の効果的かつ十分な治療を可能とする。活性剤として置換2−アミノチアゾールを配合する上記のようなマニキュア剤が、本発明の目的物である。
【0015】
本発明の目的物は、(A)抗真菌活性置換2−アミノチアゾール類由来の薬剤活性化合物、および(B)浸透促進剤を含む、この化合物のマニキュア剤、を含む組成物である。
【0016】
抗真菌活性置換2−アミノチアゾール由来の薬剤活性化合物は、米国特許第4,956,370号および第5,104,879号で述べられている。
【0017】
置換2−アミノチアゾールは一般式(I)
【0018】
【化1】

【0019】
式中、
は水素あるいはアルキルを指し、そして
は下記式の置換基を示し、
【0020】
【化2】

【0021】
式中
、R、RおよびRは互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、アルキル、アルコキシ、アルコキシ−カルボニル、ジアルキルアミノ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルフォニル、ハロゲノアルキル、ハロゲノアルコキシ、ハロゲノアルキルチオ、ハロゲノアルキルスルフィニルあるいはハロゲノアルキルスルフォニル、を示し、
Xは、酸素、硫黄、スルフィニルあるいはスルフォニルを示し、そして
Arは、置換されていてもよいアリール部分、およびその生理学的に許容できる酸付加塩を示す。
【0022】
式(I)の化合物は、式(Ia)および(Ib)の互変異性化合物と平衡状態にある。
【0023】
【化3】

【0024】
式中、それぞれのRおよびRは、上述の意味を指す。
【0025】
特に効果的なのは、R=H、

【0026】
【化4】

【0027】
である式(I)あるいは(Ia)あるいは(Ib)の化合物である。
【0028】
有効成分はアバファンジン(Abafungin)(英薬局方による)と呼ばれる。
【0029】
アバファンジンが用いられうるマニキュアシステムは、従来記載のシステム(例えば、Poucher’s Perfumes, Cosmetics and Soaps,ed.H.Butler,Kluwer Academic Publishers,Dordrecht,Boston,London2000,330−343;Sudaxshina Murdan,Int.J.Pharmaceutics,236(2002)1−26参照)、上述の特許、これらの出版物および特許に述べられている文献に対応する。
【0030】
このマニキュアシステムは、使用しやすく、すぐに固まり、乾燥が速く、耐水性であり、接着がよく、弾性があり、剥離や磨耗に耐性がなければならない。使用される原料は、毒性がないものであってもよく、皮膚科学的に無害でなければならない。そのようなマニキュアシステムの主な成分は、被膜形成剤、高分子、可塑剤及び溶媒である。さらに、本マニキュア剤において、皮膚あるいは爪の浸透促進剤を使用することができる。上述のように、被膜形成高分子に対する可塑剤としても機能する促進剤があることを、発明中で述べているものもある。
【0031】
本発明は、先行技術よりも重要な進歩をもたらすものである。なぜならば、抗真菌活性置換2−アミノチアゾール類に由来する活性剤を含む本発明のマニキュア剤の使用により、爪甲真菌症および他の真菌感染、乾癬を含めた細菌感染および炎症の治療が成功する可能性があるからである。
【発明の開示】
【0032】
発明の説明
本発明の薬剤は、置換2−アミノチアゾール類に由来する抗真菌活性化合物(米国特許第4,956,370号および第5,104,879号)の薬剤学的な有効量を含むものである。特に、効果的な薬剤製剤は、活性薬剤として、アバファンジンを含む。活性薬剤として置換2−アミノチアゾールを用いたこれらのマニキュア剤は、治療用として、あるいは予防用として使用することができる。置換2−アミノチアゾールは、抗炎症剤および/または、例えば抗菌剤や抗ウイルス剤のような他の抗菌薬と組み合わせて使用することもできる。
【0033】
置換2−アミノチアゾール、特にアバファンジンの濃度は、薬剤中に溶解状態で存在しうる最大量を超えてはならない。大部分の適用形態では、0.05%〜20%(薬剤の全重量に対する重量パーセントとして表されるパーセント)の量で、置換2−アミノチアゾール類由来の薬剤活性物質を含む。好ましくは、化合物量が、1%から12%(重量パーセント)、より好ましくは、1%〜10%(重量パーセント)の間であり、最も好ましくは、1.5%〜8%(重量パーセント)の間である。
【0034】
薬剤製剤は、爪および/または細胞膜すなわち皮膚のような生体組織層を通過する薬剤活性薬の量を促進させることができる、細胞膜に適合する浸透促進剤を含むことができる。「膜適合性浸透促進剤」という語は、本発明においては、損傷を与えることなく、爪や皮膚への薬剤活性化合物の浸透を促進させる化合物という意味である。
【0035】
例えば、加水分解、表皮剥奪、変性あるいは爪および/または皮膚に損傷を与える他の機構のようなメカニズムにより機能する浸透促進剤が存在することが知られている。このような浸透促進剤の例としては、尿素、スルフヒドリル基を含むアミノ酸、アルキルスルホキシドおよび関連化合物があげられる。爪や皮膚の構造を壊すことによって、このような促進剤は機能するが、この場合、薬剤活性薬が好ましからず皮膚の深層に浸透する可能性があり、あるいは皮膚層を完全に通過する可能性さえあり、結果として望ましくない副作用を引き起こす可能性がある。
【0036】
皮膚や爪の感染治療において、爪や皮膚に損傷を与えることなく、膜適合性浸透促進剤を安全に使用することは可能であるに違いない。
【0037】
おおむね、いかなる膜適合性浸透促進剤あるいは、浸透促進剤の混合物であっても使用することができる。好ましい膜適合性浸透促進剤は、細胞膜中に自身が親和することによってさらに細胞膜の浸透性が増大するように、親油性である。このような親油性浸透促進剤の例としては、大環状の促進剤と同様に、例えば、イソプロピルミリステートおよびミリスチルミリステートのようなアルキルエステルがあげられる。
【0038】
膜適合性浸透促進剤は、爪や皮膚への薬剤活性薬の浸透を促進させる量で、薬剤製剤中で使用される。効果的な量は、当業者に知られており、あるいは容易かつ単純に当業者が決定することが可能である。一般的に、膜適合性促進剤の量は、1%から25%(薬剤製剤全量に対する重量パーセント)の範囲である。
【0039】
薬剤活性製剤は、高分子被膜形成剤あるいは被膜形成剤の混合物もまた、含むことができる。基本的に、薬物活性剤がそこから爪あるいは爪床あるいは例えば皮膚のような細胞膜中に放出されうるような被膜形成剤を形成することができる、どんな高分子も使用することができる。
【0040】
例えば、経皮ドラッグデリバリーにおける使用が知られている、閉塞性および半閉塞性高分子が使用されうる。主目的は、薬剤放出であるから、化粧特性が理想的ではないことから、他の化粧品には適用されないような高分子ですら使用することができる。
【0041】
適切な被膜形成高分子の例としては、アクリル酸、アクリル酸エステルの高分子、およびこれらの共重合体;メタクリル酸、メタクリル酸エステルの高分子、およびこれらの共重合体;酢酸ビニルの高分子、およびこれらとアクリル酸、アクリル酸エステルとの共重合体;メチルビニルエーテルとマレイン酸、マレイン酸アルキルエステルおよびこれらの組み合わせとの共重合体;ビニルピロリドンとスチレンとの共重合体;ポリ(ビニルブチレート);酢酸フタル酸セルロース、酢酸ブチルセルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、ニトロセルロース、硫酸セルロース、エチルセルロースおよび酢酸セルロースのような高分子セルロース誘導体;酢酸ビニルとマレイン酸ブチルおよび酢酸イソボルニルとのターポリマー;ビニルカプロラクタムとビニルピロリドンおよびメタクリル酸ジメチルアミノエチルとのターポリマーがあげられる。被膜形成剤は、固形、例えば、粉末状として使用してもよい。さらに、エマルジョン状で使用してもよい。
【0042】
好ましい被膜形成剤は、第4級アンモニウム基を含むアクリル酸エステル、例えば、エチルアクリレート−[2−メタクリロイルオキシエチル]トリメチルアンモニウムクロライド−メタクリル酸メチル共重合体のようなアンモニオメタクリル酸共重合体として知られるメタクリル酸エステル共重合体、およびアルキル化ポリビニルピロリドンの置換共重合体である。これらの高分子被膜形成剤が好ましいのは、優れた接着特性を示し、耐水性があり、際立った硬さを示すからである。特に好ましいのは、薬剤用途に対する監督官庁に記録されており、日本医薬品賦形剤概論に加えて例えば、ヨーロッパおよび米国薬局方に収載されている高分子被膜形成剤である。
【0043】
適切な被膜形成高分子は、例えばDERMACRYL79(登録商標)、DERMACRYL LT(登録商標)のような、DERMACRYL(登録商標)の商品名でナショナルスターチ社が販売しているアクリル酸共重合体、例えばEUDRAGITs E(登録商標)、RS(登録商標)、RL(登録商標)のような、EUDRAGIT(登録商標)の商品名でローム社が販売しているアミンあるいは第4級アンモニウム基を含むアクリル酸共重合体、例えばGANTREZ ES−3351(登録商標)、GANTREZ ES−425(登録商標)、ES−435(登録商標)のような、GANTREZ(登録商標)の商品名でISP社が販売しているメチルビニルエーテル共重合体;およびまた、例えばAMPHOMER LV−71(登録商標)のような、AMPHOMER(登録商標)の商品名でナショナルスターチ社が販売している第4級アンモニウムアクリル酸共重合体のような市販品を用いることができる。
【0044】
高分子被膜形成剤は、爪や細胞膜、すなわち皮膚上に接着性高分子被膜が形成される量で使用される。ある特定の用途における量は、当業者によって簡単に決定されうる。
【0045】
一般的に、多くの用途において、高分子被膜形成剤は、0.1%〜35%(製剤全量に対する重量パーセント)、好ましくは5%〜35%、通常、更に好ましくは10〜25%の量で使用される。
【0046】
本薬剤は、固形成分を溶解するための溶媒をまた含むことができる。概して、いかなる溶媒、および溶媒の組み合わせであっても使用することができる。このような溶媒の例としては、アルコール、エステル、エーテル、芳香族炭化水素、アルデヒド、ケトン、モノ−、ジ−、トリグリセライドなどがあげられる。
【0047】
本発明で使用できる溶媒は、限定されるものではないが、ラッカー剤において生理的に通常安全な有機溶媒の群から選ぶ必要がある。ラッカーが簡単に塗布できること、および許容できる乾燥時間を達成するためにすぐに溶媒が揮発することに、使用される薬剤活性薬の薬剤活性が影響されないことが重要である。
【0048】
通常、以下の溶媒が使用される:エタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、トリアセチン、トリプロピオニン、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸イソプロピルおよび前記溶媒の2またはそれ以上の混合物。
【0049】
塗布後、蒸発が早く、ラッカーが速く乾燥するため、エタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソプロパノール、メチルエチルケトンおよびアセトンは、特に好ましい溶媒である。
【0050】
溶媒は、薬剤中で、全成分が溶解するが、望ましくないほど長い乾燥時間を要することなく、かつラッカー特性に悪影響を与えることがないような量でなければならない。一般的に、30%から80%(重量で)、より好ましくは40%から70%(重量で)の量で、溶媒を使用する。
【0051】
薬剤ラッカー剤の調製中、浸透促進剤、被膜形成剤および溶媒の選択に関しては、様々な因子を考慮しなければならない。好ましい組成物は、固形被膜と、その上に被膜が形成される表面、例えば爪との間の接触面で、薬剤活性薬および浸透促進剤を比較的高い濃度で有する固形被膜を形成することができなければならない。
【0052】
「逃散能」という語は、溶液からの溶質の逃散傾向の尺度を指すために使用され、また溶質の逃散能は理想状態でヘンリーの法則に従うことを言及しておく。
【0053】
薬剤活性薬および浸透促進剤の逃散能を増加させるために、種々の方法を使用することができる。この方法により、接触面での両成分の濃度を増加させることができる。
【0054】
好ましくは、本発明にしたがって使用される塩基性の抗真菌活性置換2−アミノチアゾールについて、同様に塩基性の高分子被膜形成剤を使用することができる。このような塩基性化合物は、電荷分布あるいは極性により互いに反発する傾向がある。その結果、2−アミノチアゾール基由来の薬剤活性薬の逃散能は増加する。塩基性基あるいは塩基性構造要素を有する高分子被膜形成剤の例としては、ジメチルアミノ基を有するアクリル酸共重合体があげられる。
【0055】
置換2−アミノチアゾール類由来の薬剤の逃散能を増加させる他の方法としては、溶液に例えば、トリエタノールアミンのような塩基性化合物を添加することがあげられる。
【0056】
以下に、浸透促進剤の逃散能を増加させる方法を述べる。当該方法は、揮発性溶媒中に浸透促進剤が溶解している薬剤の調製を含む。当該溶媒は、塗布から5分以内に溶媒を蒸発させることができる蒸気圧を有する。さらに共溶媒として、より揮発性に劣る溶媒を薬剤製剤は含むが、その中では、浸透促進剤は最大で5%(重量で)の限界溶解度があるのみである。これは、共溶媒に較べてより速く溶媒が蒸発し、製剤中に共溶媒がより長くとどまることを意味する。この場合、浸透促進剤の逃散能は、増大する。好ましい適切な共溶媒は、プロピレングリコールである。
【0057】
置換2−アミノチアゾールより水中溶解性が高い浸透促進剤の逃散能を増加させるのと同様に、置換2−アミノチアゾールの化合物類由来の薬剤化合物の逃散能を増加させるための方法のさらなる例としては、20%(重量で)まで、好ましくは1%〜10%(重量で)、さらに好ましくは3%〜7%(重量で)の量で、製剤に水を添加することがあげられる。
【0058】
前述したものは、置換2−アミノチアゾールの化合物類由来の薬剤および浸透促進剤の放出を最適化することに用いることができる方法の例である。
【0059】
形成される高分子被膜の所望の特性を得るために、本発明による薬剤製剤中において、1または2以上の可塑剤を使用することができる。可塑剤の選択、および適用量は、製剤中で使用される浸透促進剤それ自身が、可塑剤の特性を有するかどうかを考慮しなければならない。可塑剤の例としては、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ポリエチレンおよびポリプロピレングリコール、トリアセチン、トリプロピオニン、ヒマシ油、カンファー、フタル酸、特にフタル酸ジブチルおよびフタル酸ジエチル、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールおよびN−メチル−2−ピロリドン、ならびに前記可塑剤の2またはそれ以上の混合物があげられる。
【0060】
本技術によれば、可塑剤は、製剤中に使用される高分子被膜形成剤に適合しなければならない。
【0061】
好ましくは、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレンおよびポリプロピレングリコール、1,2,3−プロパントリオールトリアセテート(トリアセチン)、およびトリプロピオニン、ならびに前記可塑剤の2またはそれ以上の混合物が、本発明の薬剤中で使用される。中でも、プロピレングリコールが好ましい可塑剤である。
【0062】
本発明の薬剤により形成される高分子被膜に対して、所望の特性を提供する適切な量で、可塑剤は使用される。一般的には、可塑剤の量は、1%〜25%(重量で)、好ましくは1%〜10%(重量で)である。
【0063】
本薬剤製剤は、本分野で当業者に公知とされる他の成分をさらに含んでいてもよい。これには、例えば、染料、着色顔料、着色粒子、光沢色素あるいは例えば、酸化チタンのような顔料などの着色剤が含まれる。他の構成成分としては、コロイド安定剤、UV安定剤、例えば塩化セチルピリジニウムおよび塩化ベンザルコニウムのような第4級アンモニウム抗菌剤のような抗菌性の、あるいは静菌性の化合物、例えばBHA、BHT、パラベン、ビタミンEおよびその誘導体のような抗酸化剤、例えばEDTA、クエン酸のような抗菌性のキレート剤、例えばトリエチルアミン、トリエタノールアミン、2−メチル−2−アミノ−1−プロパノール、クエン酸およびソルビン酸のような中和剤があげられる。
【0064】
本発明の薬剤は、被膜を形成することができるどんな方法によっても、爪あるいは細胞膜すなわち皮膚に塗布することができる。薬剤を何層か重ねることによっても、被膜は調製されうる。前の層が乾燥した後に、1または2以上の層を塗布してもよい。定期的に新たな被膜を形成することが、継続的に所望の薬物投与量を提供するために必要とされる。
【0065】
本発明の薬剤のもっとも重要な特徴のひとつは、揮発性、非揮発性のすべての成分が互いに相性がよいことであり、また、例えば−15〜+100℃の温度範囲内の温度のような、室温より上下の広い温度範囲にわたって溶液が安定である、すなわちこの温度範囲内で相分離が起こりえないような溶液が作成されうることである。
【0066】
本発明の他の特性は、溶媒が蒸発して被膜が形成されることであり、他の揮発性成分が強い接着特性と耐水性を有すること、すなわち少なくとも1日、通常は5日あるいはそれ以上の日数、石鹸水で入念に繰り返し通常程度洗浄しても持ちこたえ、接着したままであることである。
【0067】
すでに述べたように、本発明は、先行技術と較べて重要な進歩をもたらすものである。なぜならば、乾癬を含む菌感染および炎症と同様に、爪甲真菌症あるいは他の真菌感染を本発明のマニキュア剤で治療することができるからである。
【0068】
本発明に述べられているマニキュア剤は、病気の治療においてのみだけではなく、真菌や他の感染にさらされる危険がある健常者に対する予防としてもまた、使用することができる。
【実施例】
【0069】
以下の実施例1から7は、抗真菌剤として置換2−アミノチアゾールを含む、本発明の典型的な薬剤を示したものである。成分の濃度は、薬剤全重量に対する重量パーセントで与えられる。
【0070】
高分子被膜形成剤は、室温で機械的攪拌下、粉末状あるいはペレットとして、溶媒あるいは溶媒の混合物中に溶解する。溶液の調製後、置換2−アミノチアゾールおよび浸透促進剤をそれぞれ攪拌下、添加する。すべてが溶解した後、可塑剤および任意の水を添加する。その後、全混合物を均質になるまで攪拌する。
【0071】
実施例1
(重量%)
アバファンジン 2%
Eudragit RL(登録商標)100粉末 15%
オキサシクロヘキサデカン−2−オン(Firmenich) 15%
(浸透促進剤)
プロピレングリコール 5%
エタノール 60%
水 3%
足爪の爪甲真菌症である8人の患者に、実施例1のマニキュア剤約20〜35mgを日に一回、朝に処置してもらった。処置は、各日繰り返し7日間行った。7日目に各処置サイクルのネイルラッカーをイソプロピルアルコールで除去した。その後、その処置サイクルを100日間、繰り返し行った。45日後、症状の大幅な改善が、すべてのケースにおいて観察された。治療の初期の100日から150日以内で、すべてのケースにおいて完全に治癒した。
【0072】
実施例2
(重量%)
アバファンジン 1.5%
Eudragit RL(登録商標)POペレット 15%
オキサシクロヘキサデカン−2−オン(Firmenich) 15%
(浸透促進剤)
プロピレングリコール 5%
エタノール 60.5%
水 3%
実施例3
(重量%)
アバファンジン 4%
Eudragit RL(登録商標)100粉末 15%
オキサシクロヘキサデカン−2−オン(Firmenich) 15%
(浸透促進剤)
プロピレングリコール 5%
エタノール 58%
水 3%
実施例4
(重量%)
アバファンジン 4%
プロピレングリコール 5%
ヒアルロン酸リアーゼ(2500IU/cm) 1.3%
エデト酸ナトリウム 0.1%
トロメタモール 0.25%
ポリアクリル酸 0.5%
ソルビン酸カリウム 0.1%
水 ad100.00%
実施例5
(重量%)
アバファンジン 2%
ヒアルロン酸リアーゼ(2500IU/cm) 1.3%
非イオン性親水性軟膏(DAB) ad100%
実施例6
(重量%)
アバファンジン 5%
ペンタデカラクトン 10%
Eudragit RL(登録商標)100粉末 25%
イソプロパノール 60%
実施例7
(重量%)
アバファンジン 3%
ペンタデカラクトン 15%
エタノール 82%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

式中、
は水素あるいはアルキルを示し、そして
は下記式の置換基を示し、
【化2】

式中、
、R、RおよびRは互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、アルキル、アルコキシ、アルコキシ−カルボニル、ジアルキルアミノ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルフォニル、ハロゲノアルキル、ハロゲノアルコキシ、ハロゲノアルキルチオ、ハロゲノアルキルスルフィニルあるいはハロゲノアルキルスルフォニルを示し、
Xは、酸素、硫黄、スルフィニルあるいはスルフォニルを示し、そして
Arは、置換されてもよいアリール部分、および生理学的に許容できる酸付加塩を示し、
ここで、式(I)の化合物は、式(Ia)および(Ib)の互変異性化合物と平衡状態にあり、
【化3】

式中、それぞれのRおよびRは、上述の意味を指す;
の置換されてもよい2−アミノチアゾールを含む、爪および皮膚の真菌感染の治療あるいは予防に対する抗真菌活性薬剤。
【請求項2】
式(I):
【化4】

式中、
は水素あるいはアルキルを指し、そして
は下記式の置換基を示し、
【化5】

式中、
、R、RおよびRは互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、アルキル、アルコキシ、アルコキシ−カルボニル、ジアルキルアミノ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルフォニル、ハロゲノアルキル、ハロゲノアルコキシ、ハロゲノアルキルチオ、ハロゲノアルキルスルフィニルあるいはハロゲノアルキルスルフォニル、を示し、
Xは、酸素を示し、そして
Arは、置換されてもよいアリール部分、およびその生理学的に許容できる酸付加塩を示し、
ここで、式(I)の化合物は、式(Ia)および(Ib)の互変異性化合物と平衡状態にあり、
【化6】

式中、それぞれのRおよびRは、上述の意味を指す;
の置換されてもよい2−アミノチアゾールを含む、爪および皮膚の真菌感染の治療あるいは予防に対する抗真菌活性薬剤。
【請求項3】
前記浸透促進剤を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の薬剤的な抗真菌活性製剤。
【請求項4】
浸透促進剤がヒアルロン酸リアーゼである、請求項3に記載の抗真菌活性薬剤。
【請求項5】
高分子被膜形成剤を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗真菌活性薬剤。
【請求項6】
被膜形成剤が水不溶性アクリル酸高分子あるいはメタクリル酸高分子の群に属し、アルキルビニルエーテル、無水マレイン酸、アルキル化ポリ(ビニルピロリドン)およびメタクリル酸アンモニウムの化合物類に属する共重合体を含むことを特徴とする、請求項5に記載の抗真菌活性薬剤。
【請求項7】
可塑剤を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗真菌活性薬剤。
【請求項8】
少なくとも一つの溶媒を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗真菌活性薬剤。
【請求項9】
溶媒としてエタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、トリアセチン、トリプロピオニン、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸イソプロピル、あるいは前記溶媒の2またはそれ以上の混合物を含むことを特徴とする、請求項8に記載の抗真菌活性薬剤。
【請求項10】
0.1〜20%の抗真菌剤、
0.5〜35%の浸透促進剤
0.5〜40%の被膜形成剤
5〜80%の揮発性溶媒、および
1.0〜10%の可塑剤
を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗真菌活性薬剤。
【請求項11】
抗真菌性活性成分がアバファンジン(Abafungin)である、請求項1から10のいずれかに記載の薬剤的な抗真菌活性製剤。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の抗真菌活性薬剤を感染した爪に塗布する、真菌感染の治療方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の抗真菌活性薬剤を爪の真菌感染にかかる危険のある対象者の爪に塗布する、真菌感染の予防方法。

【公表番号】特表2007−505051(P2007−505051A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525635(P2006−525635)
【出願日】平成16年1月24日(2004.1.24)
【国際出願番号】PCT/EP2004/000597
【国際公開番号】WO2005/034956
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(506084933)ヨーク ファーマ パブリックリミテッドカンパニー (1)
【Fターム(参考)】