説明

活性酸素生成抑制物質およびそれを含む機能性食品素材

【課題】 生体内の組織や細胞に損傷を与える酸素障害に関与する活性酸素の生成を効果的に抑制する物質、およびこの活性酸素生成抑制物質を含む機能性食品素材を提供する。
【解決手段】 鳥類の羽毛をアルカリ処理して得られた水溶性ケラチン誘導体および/またはそれに高エネルギー線を照射して得られた改質水溶性ケラチン誘導体からなる活性酸素生成抑制物質、および前記活性酸素生成抑制物質を有効成分として含む機能性食品素材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性酸素生成抑制物質およびそれを含む機能性食品素材に関する。さらに詳しくは、本発明は、生体内の組織や細胞に損傷を与える酸素障害に関与する活性酸素の生成を効果的に抑制する物質、およびこの活性酸素生成抑制物質を含む機能性食品素材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、急速な高齢化の時代を迎えつつあるなかで、動脈硬化、虚血性心疾患、糖尿病、がん、痴呆症等の成人病の予防、治療が大きな問題となっているが、これら疾病の発症に、反応性に富んだ活性酸素と呼ばれる一連の分子種による障害(酸素障害)が関与することが明らかにされている。
【0003】
本来、人などの動物の体内では、恒常的に酸素を消費する過程で、またエネルギー消費が激しい時ほど多量に、活性酸素を発生するが、これらを消去する防御系が存在し、また白血球による殺菌作用にみられるように、活性酸素を生体防御機構にも利用している。
【0004】
前記の活性酸素を消去する防御系としては、活性酸素の消去や鉄の封鎖に有用なアルブミンやトランスフェリンなどタンパク質、脂質系ラジカル消去に有用なビタミンEやカロチンなど脂溶性低分子成分、水層での活性酸素を消去する尿酸やビタミンCなど水溶性低分子成分、そしてスーパーオキシドジスムターゼやグルタチオンペルオキシダーゼなどの酵素等が挙げられ、これらが二重、三重に防御系を構成している。
【0005】
しかしながら、若い時期には、例え酸素障害を受けたとしても、上記の防御系による修復機能が働くため問題が生じないが、加齢とともにこのような修復機能が低下して前記の疾病を引き起こすといわれている。
【0006】
ところで、空気中の酸素分子は三重項酸素()と呼ばれており、それ自体では安定な物質であるが、細胞がからHOへと4電子還元を利用してエネルギー生産を行う過程で、順次一電子ずつ還元されてスーパーオキシドアニオンラジカル(O)、過酸化水素(H)、ヒドロキシルラジカル(・OH)など反応性に富む分子種が生じる。これにの光励起などで生じる一重項酸素()、およびミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase)により産生される次亜塩素酸イオン(OCl)を加えて、これらは活性酸素と呼ばれている。
【0007】
さらにOから派生するヒドロペルオキシドラジカル(HOO・)や金属−酸素錯体、脂質酸化の関連の脂質ヒドロペルオキシド(LOOH)やそれから生じるフリーラジカルとして脂質ペルオキシラジカル(LOO・)、脂質アルコキシルラジカル(LO・)、脂質アルキルラジカル(L・)などの過酸化脂質などを加えて、広義に活性酸素と呼ぶことがある。
なお、前記一重項酸素()は、OClとHとの反応によっても生じる。
【0008】
これらの活性酸素は、例えば加齢などにより防御系の修復機能が低下した場合に、酸素障害による様々な疾病を引き起こす。したがって、このような場合には、活性酸素生成抑制物質の摂取が重要となる。
【0009】
一方、ミエロペルオキシダーゼ(以下、MPOと略記することがある。)は、ヘムa類似のヘムをもつ酵素であって、主に白血球の好中球に存在している。生体内では白血球による生体防御において、活性酸素が重要な役割を果たす。例えば白血球中の代表的な好中球は、食菌において盛んに活性酸素の一種であるOを産生する。このOは、自発的不均化反応によってHとなる。また、生体内にはClが存在し、前記MPOの作用により、HとClからOClが生成し、強力な殺菌作用を示す。しかし、このMPOが過剰に存在したり、あるいはその活性が強すぎたりすると、活性酸素の一種であるOClによる生理的障害、例えば全身性エリテマトーデス、橋本甲状腺炎、重症筋無力症、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群および糸球体腎炎などを引き起こす原因となる。このような場合、MPO活性阻害物質の摂取が重要となる。
【0010】
また、生体内、例えばヒトの老化脳神経細胞のリポフスチン中や、Apo欠損マウス動脈硬化病巣にジチロシンが存在することが知られている。このジチロシンは、タンパク質中のチロシン残基が、活性酸素の作用によりラジカルとなって二量体を形成することにより、生成すると考えられている。例えば、前記MPO生成酸化生成物には、ジチロシンが、ニトロチロシン、メチオニンスルホキシド、脂質過酸化生成物と共に存在することが知られている。このジチロシンは動脈硬化症や痴呆症に関与していることも考えられる。
【0011】
生体内におけるジチロシンの検出は、例えばジチロシンポリクローナル抗体によって行うことができる(例えば、特許文献1参照)。
【0012】
ところで羽毛などのケラチン組成物を可溶化処理して得られた可溶化ケラチンの用途として、該可溶化ケラチンを無機担体上に表面修飾してなる光学分割用充填剤が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、その可溶化ケラチンの用途は、本発明の水溶性ケラチン誘導体の用途とは全く異なるものである。
【特許文献1】特開平11−279200号公報
【特許文献2】特開平7−311189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような事情のもとで、生体内の組織や細胞に損傷を与える酸素障害に関与する活性酸素の生成を効果的に抑制する物質、およびこの活性酸素生成抑制物質を含む機能性食品素材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、鳥類の羽毛をアルカリ処理して得られたケラチン誘導体、および該ケラチン誘導体にさらに高エネルギー線を照射して得られた改質ケラチン誘導体は、いずれも易水溶性であって、各種の活性酸素の生成を効果的に抑制し得ることを見い出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、
(1) 鳥類の羽毛をアルカリ処理して得られた水溶性ケラチン誘導体および/またはそれに高エネルギー線を照射して得られた改質水溶性ケラチン誘導体からなる活性酸素生成抑制物質、
(2) 活性酸素が、、OCl、・OH、OおよびHの中から選ばれる少なくとも1種である上記(1)項に記載の活性酸素生成抑制物質、
(3) ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase)活性を阻害する上記(1)または(2)項に記載の活性酸素生成抑制物質、
(4) ジチロシン生成を抑制する上記(1)ないし(3)項のいずれか1項に記載の活性酸素生成抑制物質、
(5) 水溶性ケラチン誘導体および改質水溶性ケラチン誘導体の分子量が、それぞれ5〜50kDaである上記(1)ないし(4)項のいずれか1項に記載の活性酸素生成抑制物質、
(6) 上記(1)ないし(5)項のいずれか1項に記載の活性酸素生成抑制物質を有効成分として含むことを特徴とする機能性食品素材、および
(7) さらに、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、これらのビタミン類の類縁体、テルペノイド類、フラボノイド類および他のフェノール化合物の中から選ばれる少なくとも1種の天然系抗酸化活性物質を含む上記(6)項に記載の機能性食品素材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、生体内の組織や細胞に損傷を与える酸素障害に関与する活性酸素の生成を効果的に抑制する物質、およびこの活性酸素生成抑制物質を含み、生体内抗酸化能の増強が期待できる機能性食品素材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の活性酸素生成抑制物質は、鳥類の羽毛をアルカリ処理して得られた水溶性ケラチン誘導体および/またはそれに高エネルギー線を照射して得られた改質水溶性ケラチン誘導体からなるものである。
【0018】
前記水溶性ケラチン誘導体や改質水溶性ケラチン誘導体の原料として用いられる鳥類の羽毛としては特に制限はなく、各種の鳥類の羽毛を用いることができるが、大量に入手可能で、かつ資源の有効利用の観点から、家禽類の羽毛が好ましい。家禽類としては、食肉用ブロイラー、産卵鶏、アヒル、カモなどが例示されるが、それらの中でブロイラーおよび産卵鶏が、羽毛の大量入手性の点から、工業的に好適である。
【0019】
鳥類の羽毛には、タンパク質の一種であるケラチンが多く含まれている。ケラチンは、一般に不溶性の細胞内タンパク質であり、ジスルフィド結合が多数存在する。ケラチンタンパク質は1種類のタンパク質分子ではなく、αヘリックスを形成したものが9+2本の形でロープ状にらせんを形成しているαケラチンと、ポリペプチド鎖間に水素結合したβ構造をもつβケラチンが、典型的なX線回折像から知られている。羽毛ケラチンにはβケラチンが多く含まれている。
【0020】
本発明においては、鳥類の羽毛をアルカリ処理して、羽毛ケラチンを水溶性ケラチン誘導体に変換する。このアルカリ処理においては、原料羽毛を細断してそのままアルカリ処理してもよく、あるいはダウン部と芯部を分別して、別々にアルカリ処理してもよい。アルカリ処理には、一般に水酸化アルカリ金属などの水溶性アルカリの水溶液が用いられる。この水溶性アルカリの水溶液としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの水溶液が挙げられるが、これらの中で、工業的な面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。また、反応終了液からの脱塩を回避する目的で、水難溶性または水不溶性アルカリ、例えば水酸化カルシウム、活性白土、イオン交換樹脂なども用いることができる。
【0021】
アルカリ処理条件は、原料羽毛中のケラチンに異常反応を惹起させない条件であればよく、特に制限はない。例えばアルカリとして、水酸化アルカリ金属の水溶液を用いる場合、その濃度としては、局所的な強アルカリ状態を回避できる濃度であればよく、特に制限はないが、通常1〜20質量%、好ましくは2〜12質量%の範囲で選定される。また、この水溶液の使用量は、羽毛に対し、水酸化アルカリ金属として、好ましくは2〜15質量%、より好ましくは4〜10質量%の割合になるように選定される。
【0022】
反応温度は、タンパク質の熱変性温度以下が好ましく、通常20〜80℃の範囲で選定される。また、反応方式としては、不均一反応であるため、羽毛とアルカリとが効率よく接触できる方式であればよく、特に制限されず、回分式および連続式のいずれであってもよい。処理時間については、使用するアルカリの濃度や量、反応温度などに左右され、一概に定めることはできないが、通常羽毛が実質上溶解してしまうまでアルカリ処理を行うのが有利である。また、アルカリ処理後、必要に応じ、常法に従って脱色処理や脱臭処理を施してもよい。
【0023】
前記の各処理が終了後、アルカリ水溶液を用いた場合には、適宜の酸、好ましくは塩酸で中和後、限外ろ過膜などを用いる膜処理によって脱塩および低分子量画分をカットし、一方、水不溶性または水難溶性アルカリを用いた場合には、そのまま常法に従ってろ過などの固液分離を施し、さらに低分子量画分をカットすることにより、目的の水溶性ケラチン誘導体を含む水溶液が得られる。
【0024】
このようにして得られた水溶性ケラチン誘導体を含む水溶液は、常法に従って所定濃度まで濃縮し、「水溶性ケラチン誘導体(以下、「MFP」と略記することがある。)」水溶液製剤としてもよく、またこのものに、常法に従ってさらに乾燥処理、例えば蒸発乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥などの処理を施し、MFP粉剤としてもよい。
【0025】
一方、前記MFPに高エネルギー線を照射して得られる改質水溶性ケラチン誘導体(以下、「UVP」と略記することがある。)は、以下のようにして製造することができる。
【0026】
前記MFPに高エネルギー線を照射する方法としては、MFPを含む水溶液、例えば前述の乾燥処理する前のMFPを含む水溶液を適当な濃度、具体的には1〜20質量%程度、好ましくは2〜10質量%に調整し、これに紫外線、好ましくは200〜290nmの波長域の紫外線を適宜の照射強度で、80℃以下の温度にて2〜100時間程度照射させる方法を用いることができる。
【0027】
この紫外線照射終了液に、必要に応じ、限外ろ過膜などを用いる膜処理を施し、好ましくは分子量5000以下、より好ましくは10,000以下の副生低分子化合物を除去する。次いで、このものを常法に従って所定濃度まで濃縮し、UVP水溶液製剤としてもよく、またこのものに、常法に従ってさらに乾燥処理、例えば蒸発乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥などの処理を施し、UVP粉剤としてもよい。
【0028】
このようにして得られたMFPおよびUVPは、主としてオリゴβケラチン誘導体であり、多重複合化環状構造体と推定される。これらの分子量は5〜50kDaの範囲にあることが好ましく、一般的には数十kDaの平均分子量を有している。
【0029】
本発明においては、このようにして得られたMFPおよび/またはUVPを活性酸素生成抑制物質として用いる。
【0030】
本発明の活性酸素生成抑制物質が適用される活性酸素としては、細胞が三重項酸素()からHOへと4電子還元を利用してエネルギー生産を行う過程で、順次一電子ずつ還元されて生成するスーパーオキシドアニオンラジカル(O)、過酸化水素(H)、ヒドロキシルラジカル(・OH)、あるいはミエロペルオキシダーゼにより産生される次亜塩素酸イオン(OCl)、の光励起やOClとHとの反応によって生じる一重項酸素()などを、さらには、広義の活性酸素に入れることのできるOから派生するヒドロペルオキシドラジカル(HOO・)や金属−酸素錯体、脂質酸化の関連の脂質ヒドロペルオキシド(LOOH)やそれから生じるフリーラジカルとして脂質ペルオキシラジカル(LOO・)、脂質アルコキシルラジカル(LO・)、脂質アルキルラジカル(L・)などの過酸化脂質等を挙げることができる。
【0031】
これらの活性酸素や過酸化脂質などは、例えば加齢などにより、生体における防御系の修復機能が低下した場合に、酸素障害による様々な疾病を引き起こす。
【0032】
本発明の活性酸素生成抑制物質は、前記の活性酸素や過酸化脂質の生成を効果的に抑制することができる。
【0033】
本発明の活性酸素生成抑制物質は、特にミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を効果的に阻害する作用を有している。
【0034】
前記MPOは、ヘムa類似のヘムをもつ酵素であって、主に白血球の好中球に存在している。この好中球は、食菌において盛んに活性酸素の一種であるOを産生する。Oは自発的不均化反応によってHとなる。また、生体内にはClが存在し、前記MPOの作用により、HとClからOClが生成し、強力な殺菌作用を示す。しかし、このMPOが過剰に存在したり、あるいはその活性が強すぎたりすると、活性酸素の一種であるOClによる生理的障害、例えば全身性エリテマトーデス、橋本甲状腺炎、重症筋無力症、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群および糸球体腎炎などを引き起こす原因となる。
【0035】
本発明の活性酸素生成抑制物質は、前記MPO活性を阻害し、OClの生成を効果的に抑制することができる。
【0036】
また、本発明の活性酸素生成抑制物質は、生体内におけるジチロシンの生成を効果的に抑制する作用を有している。
【0037】
生体内において、ジチロシンは、例えばヒトの老化脳神経細胞のリポフスチン中や、ApoE欠損マウス動脈硬化病巣に存在することが知られており、したがって、このジチロシンは、動脈硬化症や痴呆症に関与していることが考えられる。
【0038】
前記ジチロシンは、タンパク質中のチロシン残基が活性酸素の作用によりラジカルとなって二量体を形成することにより、生成すると考えられている。本発明の活性酸素生成抑制物質は、前記ジチロシンの生成を効果的に抑制することができる。
【0039】
なお、生体内におけるジチロシンの検出は、例えばジチロシンポリクローナル抗体によって行うことができる。このジチロシンポリクローナル抗体を用いることにより、生体内におけるジチロシンの局在性が明らかになると共に、該ジチロシンを定量することができる。
【0040】
本発明はまた、前記のMPFおよび/またはUVPからなる活性酸素生成抑制物質を有効成分として含む機能性食品素材をも提供する。
【0041】
本発明の機能性食品素材には、MFPやUVPと共に、天然系抗酸化活性物質を含むことができる。
【0042】
天然系抗酸化物質としては、例えばビタミンA、ビタミンC(L−アスコルビン酸)、ビタミンE(α−トコフェロール)、これらビタミン類の類縁体、テルペノイド類、フラボノイド類および他のフェノール化合物などが挙げられる。
【0043】
テルペノイド類としては、β−カロテン、ゲニポシジン酸、カルノソール、ソイサポニン、クロモサポニンIなどを、フラボノイド類としては、ケルセチン、ミリセチン、ケンフェロール、ケルセチンルチノシド、ビロバライド、ジンクゴライド、タキシフォリン、さらにはエピガロカテキンガレート、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピカテキンなどのカテキン誘導体などを、他のフェノール化合物としては、カフェ酸、クロロゲン酸、ロスマリン酸などのフェノール酸、クルクミン、セサモール、ピノレシノール、ジンゲロンなどを例示することができる。
【0044】
ビタミンC類縁体として、ビタミンCのリン脂質誘導体を用いることができる。水溶性のラジカル捕捉剤であるビタミンCをホスホリパーゼDを用いてリン脂質誘導体とすることにより、水層で発生したラジカルによる脂質過酸化反応を、ビタミンCよりも効率よく抑制することができる。
【0045】
本発明においては、前記天然系抗酸化物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0046】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0047】
製造例1 MFPの製造
(1)羽毛のアルカリ処理
成鶏処理場で副生する産卵鶏羽毛を通常の脱毛ラインから直接、鮮度よく採取して狭雑物を除去し、羽毛を超音波洗浄装置で適宜な温度および時間で洗浄したのち、細断機でカットし脱水して密封梱包後、冷暗所に保存したものを原料として使用した。
4質量%NaOH水溶液1kgに前記脱水羽毛200g(乾物質量100g)を加えて室温で攪拌した。羽毛がダウン状になったのち、反応液を加温して70℃に保持し、ダウンおよび芯部が完全に溶解するまで、5時間攪拌を続けた。
反応終了後、反応液を冷却しながら、1モル/L濃度の塩酸を滴下して、残存アルカリおよび硫化物を中和した。なお、反応液中に残存する硫化水素は、硫化水素トラップ剤を加え、加熱して完全に除去した。
次に、この中和処理液を、セライトをろ過助剤に使用して、常法により吸引ろ過した。
【0048】
(2)脱塩・分取
上記(1)で得られたろ液を、以下のようにして限外ろ過し、分子量1万以下、1万超5万以下および5万超の3フラクションを質量比2:7:1の割合で分取した。
・使用装置:アドバンテック東洋(株)製
攪拌型ウルトラホルダー UHP−90K
使用フィルター UK−10(分子量1万以下の物質を透過)
UK−50(分子量5万以下の物質を透過)
・操作:マニュアル通り
各フラクション毎にロータリーエバポレーターで適宜に濃縮し、市販装置で凍結乾燥に供した。1万超5万以下のフラクション(MFP)の乾燥収量は49g(原料からの収率は49%)であった。
【0049】
(3)MFP(分子量1万超5万以下)の特性
(イ)分子量分布(水系GPC法)
下記の装置を使用して、標準タンパク質(下記)と対比させてMFP(1万超5万以下の限外ろ過膜により調製)の相対分子量(kDa)分布を測定した。
結果は、9.6kDa及び10.8kDaにメインピークが測定された。
・装置 HPLC装置 :東ソー(株)製 CCPM−II
カラムオーブン:東ソー(株)製 CO−8020(30℃)
検出器 :東ソー(株)製 SD−8022
データ処理装置:ジーエルサイエンス(株)製 Vstation
Ver.1.65
・カラム:Shodex Asahi Pak GF310 HQ(8mmφ×300m)
適用分子量範囲;〜50,000
・標準タンパク質:1,350〜67,000の分子量範囲の5種のタンパク質
(BIO-RAD Filtration Standard)
・測定条件
バッファー :リン酸水素2ナトリウム 0.1モル/L
同 pH :9.04(無調整)
流速 :0.5ml/min
検体液注入量:20μl
測定時間 :60min
(ロ)溶解特性
水に極めてよく溶ける。油(中性植物油脂)にも僅かに溶け、両親媒性を有する。
【0050】
製造例2 UVPの製造
(1)UV−C照射処理
製造例1においてアルカリ反応液を脱塩し分子量1万超5万以下の限外ろ過液を固形分濃度2質量%に調整して、下記のUV−C照射反応装置に仕込み、除熱しながら室温下で60時間UV−Cの照射処理を行った。
・紫外線照射ランプ:冷陰極殺菌ランプQCGL−5W(岩崎電気(株)製)
波長 UV−C80%(含、180nmを20%)
照射強度 35μW/cm;5cm
800μW/cm;1cm
・反応装置:反応液を入れたガラスビーカーに紫外線ランプを直接挿入し、マグ ネチックスターラーで攪拌する。ビーカーを外部冷却する。
反応終了液を、セライトをろ過助剤としてろ過したのち、常法通り濃縮、凍結乾燥してUVP粉末を収率84%で得た。
【0051】
(2)UVPの特性
(イ)分子量分布
水系GPCスペクトルを測定したところ、原料MFPと類似の分子量分布パターンを示した。
(ロ)溶解性能
水に極めてよく溶け、油にも僅かに溶ける両親媒性を有する。
【0052】
実施例1
MFPによるヒドロキシルラジカル(・OH)の酸化作用抑制効果
フェントン(Fenton)反応によって生成したヒドロキシルラジカルによるデオキシリボースの酸化分解反応によって生成するマロンジアルデヒドを、TBA法(チオバルビツール酸法)によって測定し、MFPによるヒドロキシルラジカルの酸化作用抑制効果を調べた。
【0053】
(1)各試薬の調製
(a)100μモル/L Fe2+/EDTA溶液
硫酸第一鉄[FeSO・7HO、和光純薬工業(株)製]とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム塩・2水和物[EDTA、(株)同仁科学研究所製]の1mモル/L混合水溶液を調製し、さらにリン酸緩衝液(0.1モル/L、pH7.4)を用い、100μモル/Lに希釈して調製した。
(b)10mモル/L 過酸化水素水
過酸化水素水[H31質量%含有水溶液、三菱瓦斯化学(株)製、特級過酸化水素水]を使用直前に、前記リン酸緩衝液で10mモル/Lになるように希釈して調製した。
(c)10mモル/L 2−デオキシリボース溶液
2−デオキシリボース[2−デオキシ−D−リボース、和光純薬工業(株)製]を、前記リン酸緩衝液を用いて10mモル/Lになるように調製した。
(d)MFP溶液
製造例1で得たMFP粉末を、前記リン酸緩衝液を用いて10mg/mlになるように調製し、さらに各種濃度の希釈液を調製した。
(e)TBA法発色試薬
2.8質量%トリクロロ酢酸溶液[トリクロロ酢酸:和光純薬工業(株)製]、及び1質量% 2−チオバルビツール酸溶液[MERCK社製、2−チオバルビツール酸と50mモル/L NaOH溶液を用いて調製]をそれぞれ調製した。
【0054】
(2)操作
スクリューキャップ付き試験管に、100μモル/L Fe2+/EDTA溶液、10mモル/L 2−デオキシリボース溶液及び各種濃度のMFP溶液を各100μl、前記リン酸緩衝液を全量が0.9mlになるように加え、混合した。
次いで、10mモル/L 過酸化水素水を100μl添加し、攪拌して反応を開始し、37℃、4時間インキュベートした。反応終了後、2.8質量%トリクロロ酢酸溶液、1質量% 2−チオバルビツール酸溶液を0.5mlずつ添加し攪拌後沸騰水中で10分間加熱し発色させた。冷却後、分光光度計[BECKMAN社製、「DU−7500」]を用いて532nmでの吸光度を測定した。測定値は発色時のε=1.56×10−5−1cm−1を用いてマロンジアルデヒドとしてTBARS量を算出した。また使用した各濃度のMFP溶液における酸化作用抑制効果を、下式
酸化作用抑制効果(%)
=[1−OD532(サンプル)/OD532(無添加)]×100
より算出した。なおOD532は532nmでの吸光度である。
結果を表1に示すと共に、図1に示す。図1は、ヒドロキシルラジカルによるデオキシリボースの酸化分解に対するMFPの抑制効果を示すグラフである。
【0055】

【0056】
実施例2
MFPによるヒドロペルオキシドラジカル(・OOH)の酸化作用抑制効果
赤血球膜ゴーストを調製し、ヒドロペルオキシドラジカルによって過酸化脂質を誘導し、生成した過酸化脂質をTBA法によって測定し、MFPによるヒドロペルオキシドラジカルの酸化作用抑制効果を調べた。
【0057】
(1)各試薬の調製
(a)赤血球膜ゴースト
兎保存血液[日本バイオテスト社製]100mlと、等張液(10mモル/Lリン酸、152mモル/L NaCl[和光純薬工業(株)製]、pH7.4)150mlをよく混和し、高速冷却遠心機[日立工機(株)製、「Himac CR20F」]により、4℃、1500G(3500rpm)にて20分間遠心分離処理した。
上清部分(血清など)をデカンテーション法で除去し、沈殿した赤血球を同様に等張液で計3回洗浄した。洗浄した赤血球(20ml)に低張液(10mモル/L リン酸緩衝液、pH7.4)100mlをよく混和し、4℃に15分ほど静置した後、4℃、20000G(11000rpm)で40分間遠心分離処理した。ヘモグロビンを含む上清と緩い沈殿(ゴースト部分)、側底に固着したごく少量の堅い沈殿に分かれるので注意深く上清を除去した。ゴースト部分を同様に低張液で4回洗浄した。次第に赤色が抜けて薄いピンク色がかった赤血球膜ゴースト約20mlを得た。あらかじめ予備テストを行ってTBA法での吸光度が0.3〜0.35程度になるようにゴーストの濃度を調整した。
(b)24mモル/L t−ブチルヒドロペルオキシド溶液
tert−ブチルヒドロペルオキシド溶液[Aldrich Chemical社製、70質量%水溶液]を希釈して、24mモル/L溶液を調製した。
(c)MFP溶液
製造例1で得たMFP粉末を用い、200mg/ml水溶液を調製し、さらに各種濃度の希釈液を調製した。
(d)TBA法発色試薬
2モル/L トリクロロ酢酸の1.7モル/L HCl溶液[トリクロロ酢酸:和光純薬工業(株)製]、および0.67質量% 2−チオバルビツール酸溶液[2−チオバルビツール酸:MERCK社製]を調製した。
【0058】
(2)操作
スクリューキャップ付き試験管に赤血球膜ゴースト0.45ml、各濃度のMFP溶液0.025mlを入れ、よく混和しておく。これに、24mモル/L t−ブチルヒドロペルオキシド溶液0.025mlを加えて反応開始した。37℃、20分インキュベート後、2モル/L トリクロロ酢酸溶液0.5ml、0.67質量% 2−チオバルビツール酸溶液1mlを加えてよく混和し、沸騰水中で15分加熱した。
発色後直ちに冷却し、卓上遠心分離機[日立工機(株)製、「Himac CT60」]により3500rpmで遠心分離処理したのち、上清を分光光度計[BECKMAN社製、「DU−7500」]を用いて532nmでの吸光度を測定した。測定値はMDA法発色時のε=1.56×10−5−1cm−1を用いてマロンジアルデヒドとしてTBARS量を算出した。
結果を図2に示す。図2は、赤血球膜ゴーストの酸化に対するMFPの抑制効果を示すグラフである。
【0059】
実施例3
赤血球膜ゴーストの酸化の抑制におけるMFPとビタミンE、ビタミンCとの相乗効果について調べた。
【0060】
(1) 各試薬の調製
赤血球膜ゴースト、tert−ブチルヒドロペルオキシド溶液、TBA法発色試薬は実施例2と同様に調製した。
(a)MFP溶液
製造例1で得たMFP粉末を用い、160mg/ml水溶液を調製した。
(b)1.6mg/ml ビタミンE溶液
DL−α−トコフェロール[和光純薬工業(株)製]の1.6mg/ml メタノール溶液を調製した。
(c)1.6mg/ml ビタミンC水溶液
L−アスコルビン酸[和光純薬工業(株)製]を用い、1.6mg/ml 水溶液を調製した。
【0061】
(2)操作
スクリューキャップ付き試験管に赤血球膜ゴースト0.45ml、MFP溶液0.0125mlを入れ、さらに0.0125mlビタミンE溶液あるいはビタミンC水溶液を加えてよく混和しておく。これに、24mモル/L t−ブチルヒドロペルオキシド溶液0.025mlを加えて反応開始した。以下は実施例2と同様の操作を行って反応、発色し、TBARS量を算出した。
結果を図3に示す。
なお、図において、VCはビタミンC、VEはビタミンEを示す。
【0062】
実施例4
MFPによるミエロペルオキシダーゼ活性の阻害効果
(1)各試薬の調製
(a)ミエロペルオキシダーゼ(MPO)溶液
ヒト由来のミエロペルオキシダーゼ[MPC社製]を、リン酸緩衝液[リン酸0.1モル/L、DTPA(ジエチレントリスミン−N,N,N’,N”,N”−ペンタ酢酸(同仁科学研究所製))100μモル/L、pH7.4]で11単位/mlになるように調製した。
(b)10mモル/L チロシン溶液
L−チロシン[和光純薬工業(株)製]を、0.1モル/L HCl溶液で10mモル/L チロシン溶液を調製した。
(c)10mモル/L 過酸化水素水
過酸化水素水[H1質量%含有水溶液、三菱瓦斯化学(株)製、特級過酸化水素水]を使用直前に10mモル/Lになるように調製した。
(d)MFP溶液
製造例1で得たMFP粉末を用い、100mg/ml水溶液を調製し、さらに各種濃度の希釈液を調製した。
(e)10mモル/L ビタミンE溶液
DL−α−トコフェロール[和光純薬工業(株)製]の10mモル/L メタノール溶液を調製した。
(f)1mモル/L ビタミンC水溶液
L−アスコルビン酸[和光純薬工業(株)製]を用い、1mモル/L 水溶液を調製した。
(g)1mg/ml カタラーゼ溶液
カタラーゼ[和光純薬工業(株)製]を用い、1mg/ml カタラーゼ水溶液を調製した。
【0063】
(2)操作
マイクロテストチューブに、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)溶液をMPOが1.1単位/mlになるように、10mモル/L−チロシン溶液をL−チロシンが200μモル/Lになるように、MFP溶液をMFPが0〜10mg/mlになるように、DTPO添加リン酸緩衝液中で混合し、10mモル/L 過酸化水素水を過酸化水素が200μモル/Lになるように添加して反応を開始した。ビタミンE、ビタミンCを加える場合は、それぞれ1mモル/L、0.1mモル/Lになるように、10mモル/L ビタミンE溶液および1mモル/L ビタミンC水溶液を添加した。
37℃で30分間インキュベート後、1mg/mlカタラーゼ溶液を、カタラーゼが25μg/mlになるように加えて、15分間室温に放置して反応を停止した。全量を「ultrafree MC」[ミリポア社製]に移し、高速冷却遠心機[日立工機(株)製、Himac CR15−T]により、4℃、10,000rpmで10分間遠心処理したのち、ろ過液をHPLC分析した。
【0064】
<HPLC条件>
高速液体クロマトグラフ:日本分光社製(PU−980,LG−980−2,DG−980−50)のシステムを使用
カラム:Develosil ODS−HG−5(4.6φ×250mm)
溶媒 :0.5質量%酢酸/メタノール容量比=29/1
流速 :0.8ml/min
検出 :蛍光検出器[日本分光社製、「FP−1520S」]を用い、励起300nm、蛍光400nmで行う。
保持時間:約11分
検出されるジチロシンのピークの面積を測定し[島津製作所社製、「クロマトパックC−R6A」]、MFP無添加を1として相対値を算出した。
結果を図4、図5および図6に示す。図4は、MFPによるジチロシン生成に対する抑制効果、図5は、ジチロシン生成抑制におけるMFPとビタミンCの相乗効果および図6は、ジチロシン生成抑制におけるMFPとビタミンEの相乗効果を示すグラフである。
なお、図において、VCはビタミンC、VEはビタミンEを示す。
【0065】
実施例5
UVPは、MFPと同様にヒドロキシルラジカル(・OH)の酸化作用抑制効果、ヒドロペルオキシドラジカル(・OOH)の酸化作用抑制効果及びミエロペルオキシダーゼ活性の阻害効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の活性酸素生成抑制物質は、鳥類の羽毛から得られた水溶性ケラチン誘導体であって、生体内の組織や細胞に損傷を与える酸素障害に関与する活性酸素の生成を効果的に抑制することができ、機能性食品素材として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例1における、ヒドロキシルラジカルによるデオキシリボースの酸化分解に対するMFPの抑制効果を示すグラフである。
【図2】実施例2における、赤血球膜ゴーストの酸化に対するMFPの抑制効果を示すグラフである。
【図3】実施例3における、赤血球膜ゴーストの酸化の抑制に対するMFPとビタミンC、MFPとビタミンEとの相乗効果を示すグラフである。
【図4】実施例4における、MFPによるジチロシン生成に対する抑制効果を示すグラフである。
【図5】実施例4における、ジチロシン生成に対するMFPとビタミンCとの相乗効果を示すグラフである。
【図6】実施例4における、ジチロシン生成に対するMFPとビタミンEとの相乗効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鳥類の羽毛をアルカリ処理して得られた水溶性ケラチン誘導体および/またはそれに高エネルギー線を照射して得られた改質水溶性ケラチン誘導体からなる活性酸素生成抑制物質。
【請求項2】
活性酸素が、、OCl、・OH、OおよびHの中から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の活性酸素生成抑制物質。
【請求項3】
ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase)活性を阻害する請求項1または2に記載の活性酸素生成抑制物質。
【請求項4】
ジチロシン生成を抑制する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の活性酸素生成抑制物質。
【請求項5】
水溶性ケラチン誘導体および改質水溶性ケラチン誘導体の分子量が、それぞれ5〜50kDaである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の活性酸素生成抑制物質。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の活性酸素生成抑制物質を有効成分として含むことを特徴とする機能性食品素材。
【請求項7】
さらに、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、これらのビタミン類の類縁体、テルペノイド類、フラボノイド類および他のフェノール化合物の中から選ばれる少なくとも1種の天然系抗酸化活性物質を含む請求項6に記載の機能性食品素材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−106695(P2007−106695A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298906(P2005−298906)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(599046254)有限会社梅田事務所 (11)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】