説明

流体とその流体を用いた表示装置、およびマイクロマシーン

【課題】電界によって流動する異方性流体の移動速度を促進する流体を提供する。
【解決手段】異方性流体8は、誘電率異方体を含み、電界によって流動する誘電性流体と、電界印加により前記誘電性流体を加速することのできる電荷移動錯体とを混合状態で含み、さらに前記誘電率異方体と異なる特性を有する微粒子9を分散した流体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置およびマイクロマシーンに関する。
【背景技術】
【0002】
光散乱性微粒子を液晶に分散し、電界を印加することによって例えば電気泳動により微粒子の位置を制御し、表示を切換える液晶表示装置が知られている。
【0003】
特開2003−098556号は、誘電率異方性を有し、電界によって流動する媒体中に光散乱性微粒子を分散させ、一対の基板間に収容した表示装置を開示する。一方の基板には透明電極、他方の基板には表示用開口部を除く領域に選択的に不透明電極を形成する。電極間に電圧を印加して、媒体に電界を印加し、表示を制御する。
【0004】
図6(A)は、特開2003−098556号の提案の一部を再現する。一方の透明基板101の表面にはストライプ状の不透明電極102が配置され、他方の透明基板105の表面には交差する方向のストライプ状透明電極106が配置される。電極102,106を覆って配向膜103,107が塗布される。両基板はスペーサ109を介して対向し、基板間の空間に光散乱性微粒子114を分散した液晶112を収容する。液晶は、誘電率異方性を有し、電界によって流動する媒体である。透明電極106が存在し、不透明電極102が存在しない領域が表示領域を形成する。
【0005】
不透明電極102と透明電極106との間に電圧を印加する。例えば、媒体と微粒子は陽極から電気的引力を受け、陰極から電気的斥力を受ける。微粒子が透明電極106に引き寄せられると表示領域内で光が散乱され、白表示となる。微粒子が不透明電極102に引き寄せられると、表示領域内が透明となる。光吸収膜116を基板105外面上に形成している場合は黒表示となる。
【0006】
微粒子をどちらの電極に引き寄せるかにより、選択的な表示が可能である。なお、印加電圧を取り除いても表示形態は記憶機能を有する。ストライプ状単純マトリクスの変わりに、全面透明電極と開口部を画定する不透明電極などを用いてもよい。
【特許文献1】特開2003−098556号公報 横田他、日本機械学会論文集(C編)66巻、642号(2002−2)、pp627/633は、電気共役流体を応用したマイクロモータ(ステ-タ電極形マイクロモータ)を提案する。デカン二酸ジブチルなど特有の化学構造を有する電気絶縁性(誘電性)の電気共役液体は、直流高電圧を印加すると、活発な流動を生じる。高電位側電極から低電位側電極にジェットが生じる。
【0007】
図6(B)に示すように、接地電位端子121と高電圧端子122を備えたセル123内に電気共役流体であるデカン二酸ジブチル124を収容する。接地端子121を接地し、高電圧端子122に高電圧を印加すると、高電圧端子122から接地端子121に向かう電気共役液体のジェット126が生じる。
【0008】
図6(C)に示すように、円形の容器123内の中央にマイクロモータのロータを配置し、その周囲に周期的に高電圧端子122、接地端子121をステ-タ電極として配置す
ると、マイクロモータを構成することができる。ステ-タ電極間にジェットを生じさせる
ことにより、矢印128で示すようなジェット流を生じさせ、ロータ129を回転させることができる。
【非特許文献1】横田他、日本機械学会論文集(C編)66巻、642号(2002−2)、pp627/633 一般に、有機物の結晶は、中性分子が構成要素となっており、それらがファンデルワールス力で凝集している。有機分子が正イオンや、負イオンの状態となって無機イオンや他の有機イオンと塩を作る場合もある。この場合も、有機分子は閉殻構造となり、不対電子を持たないのが普通である。
【0009】
しかし、有機分子の中にもラジカル荷電状態が安定なものもある。結晶中に、不純物としてではなく、有機分子の正または負の有機ラジカルイオンを含むものを電荷移動錯体と呼ぶ。
【0010】
又、一般に有機物の固体は電気を通しにくい絶縁体である。これは、多くの有機固体の構成要素が不対電子を持たないためである。近年、研究の伸展により、有機固体であっても電気を通す物質が開発された。このような導電性有機固体(合成金属とも呼ばれる)は、大きく分けて2種類を含む。その1が共役高分子であり、他の1が電荷移動錯体である。ただし、全ての共役高分子、電荷移動錯体が導電性であるわけではない。
【0011】
導電性電荷移動錯体の研究は、ペリレン・臭素が高導電性の有機半導体であるとの赤松らの報告により緒が開かれた。1972年には金属的な導電性を示すTTF・TCNQが合成された。1980年には、TMTSF・PF6で超伝導現象が確認された。
【0012】
電荷移動錯体は、通常の金属に較べ、電子相関および電子格子相互作用の強い、また次元性の低い伝導体である。このため、多くの新規な現象が見出されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
電界印加時の液晶等、誘電率異方性を有し、電界によって流動する媒体の移動速度は十分高速とは言えない。
【0014】
本発明の目的は、動作速度を促進した流体を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、この流体を用いた装置を提供することである。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、電荷移動錯体により異方性流体の動作速度を促進することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の1観点によれば、誘電率異方性を有し、電界によって流動する誘電性流体と、電界印加により前記誘電性流体を加速することのできる電荷移動錯体とを混合状態で含み、さらに、前記誘電性流体と異なる特性を有する微粒子を分散した流体が提供される。
【0018】
本発明の他の観点によれば、対向基板と、前記対向基板間の空間に保持された上記流体と、前記流体に電界を印加できる電極と、前記対向基板間の流体中に動作可能に配置された作動子と、を有するマイクロマシーンが提供される。
【0019】
本発明のさらに他の目的によれば、対向基板と、前記対向基板の上に形成された1対の電極と、前記対向基板間の空間に保持された上記流体と、を有する表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0020】
電荷移動錯体を誘電率異方性を有する流体に添加すると、電界印加時に流体の移動速度を促進することが可能となる。電荷移動錯体の添加量の増加、電界の増加により移動速度が促進される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実験に用いたサンプルセルの構成、および観察の形態を概略的に示す平面図、断面図、斜視図である。
【図2】図1のサンプルセルを用いて動画の変化を観察した結果を示すグラフである。
【図3】他のサンプルセルの構成を概略的に示す平面図及びグラフである。
【図4】実施例による液晶表示セルの構成、動作を示す断面図、およびこのセルを用い測定したレスポンス特性を示すグラフである。
【図5】電荷移動錯体を添加した液晶の交差電極近傍の移動の様子を示す概略平面図、および他の実施例によるマイクロマシーンの構成を概略的に示す平面図である。
【図6】従来技術による微粒子分散型液晶表示装置及び電界共役液体を利用した装置の構成を概略的に示す断面図及び平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明者等は、電荷移動錯体を液晶に添加することにより、電界印加時の液晶の移動速度が促進されることを見出した。実験には、電荷移動錯体として、ドナーであるn―ブチルイソキノリニウムアイオダイド(BIQI)を用いた。
【0023】
図1Aは、実験に用いたサンプルセルの構成を示す平面図である。透明ガラス基板1、
2の表面上に、インジウム−錫酸化物(ITO)で形成されたT字型透明電極3、6を形成した。透明電極3、6は、透明基板1,2の上に広い交差部を形成する。図1Bは、観察に用いた交差部の断面形状を示す。透明基板1,2、透明電極3,6を覆って、垂直配向膜を塗布し、加熱処理して厚さ500Åのアルキル鎖付きポリイミドからなる垂直配向膜4、7を形成した。垂直配向膜4,7が対向するようにガラス基板1,2を貼り合わせ、実験用のサンプルセル10を作成した。
【0024】
対向ガラス基板1,2の画定する空間内にBIQIを混合した液晶8を注入した。使用した液晶は、正の誘電異方性を有する。BIQIの分子は、液晶分子と同程度の大きさを有する。基板間の間隔は、75μmとした。実験においては、液晶に散乱用微粒子は添加せず、偏光顕微鏡で電圧印加時の液晶の変化(動き)を観察した。
【0025】
BIQIの添加量を、(S1)0wt%、(S2)0.0009968wt%、(S3)0.0049188wt%、(S4)0.0070979wt%、(S5)0.03835wt%と変化させた5種類のサンプルを準備した。以下、各サンプルの特性もS1、S2、S3、S4、S5で示す。
【0026】
図1Cは、観察の形態を示す。偏光顕微鏡のクロスニコル配置の一対の偏光子P1,P2の間に液晶セル10を挟んで観察する。2枚のガラス基板上の電極間に、直流の電圧を印加し、クロスニコル配置の偏光顕微鏡で観察した。液晶分子は細長い形状を有し、光学的に異方性を有している。偏光顕微鏡で観察することにより液晶分子の配向状態を観察することができる。
【0027】
同じ配向状態になっている部分を画像として追っていくことにより、液晶の動きの速さをおおよそ見積もれると仮定し、画像処理によって速度を測定した。画像の変化量が、流体の移動速度を反映すると考えられる。BIQIの添加量を変化させた各サンプルセルにおいて、電極間に印加する電圧を変化させ、画像の変化量を観察した。
【0028】
図2(A)は、印加電圧を10V〜50Vに変化させた時の画像の変化量を任意単位で示す。横軸は印加電圧を単位Vで示し、縦軸は画像の変化量を任意単位で示す。
【0029】
BIQIの添加量はサンプルセルS1、S2、S3、S4、S5の順に増加している。BIQIを添加していないサンプルセルS1においては、印加電圧を増加していっても画像の変化量はほとんど増加しない。BIQIを添加したサンプルS2−S5においては、電圧印加と共に明確に画像が変化し、印加電圧の増加と共に立ち上がり部での画像の変化量が増加している。
【0030】
さらに、添加量が少ないサンプルセルS2〜S4では、印加電圧の増加と共に画像の変化量が一旦増大し、その後減少している。添加量の増加に応じて、最大の画像の変化量は増大し、最大値を示す印加電圧は徐々に高圧側に移動している。BIQIの添加量を増加すると、液晶の移動速度が増加するのであろうと考えられる。BIQIが液晶分子を加速する機能を有するのであろう。
【0031】
液晶分子が配向方向を変えれば、画像としての観察はできなくなる。ピークを示す現象が、液晶の移動速度を示しているのか、液晶内での液晶分子の配向変化を示しているのかは、この実験からは不明である。
【0032】
図2Bは、印加電圧の範囲を5V〜100Vに拡大し、BIQIの添加量をさらに増加させたサンプルセル、(S6)0.1805wt%、(S7)0.254wt%、(S8)0.5973wt%を追加した。
【0033】
BIQIの添加量を、0.03835wt%以上にしたサンプルセルにおいては、大きな画像の変化量が得られているが、最大値は添加量0.03835wt%のものであり、その以上BIQIを添加しても、画像の変化量は明白には増加していない。すなわち、BIQIの添加量による画像の変化量の増大は、濃度約0.04wt%で飽和していると考えられる。印加電圧も、5V〜50Vの領域においては、印加電圧増大と共に画像の変化量も増加しているが、それ以上の電圧を印加しても,画像の変化量は明白には増加していない。印加電圧に関しては、約50V程度で動画の変化量はほぼ飽和していると考えられる。
【0034】
この実験結果のみから考察すれば、BIQIの添加量は、約0.04wt%以下、印加電圧は約50V以下とすることが無駄を省くために有効であろうということになる。実用的には、0.6wt%以下の僅かな添加量で、液晶を高速化でき、コストの増加は僅かである。
【0035】
BIQIの添加量の増加に応じて画像の変化量の最大値が増加する現象は、BIQIの添加量の増加に応じて液晶の移動速度が増加することを示唆すると考えられる。より正確に液晶の移動速度を観察するため、液晶に微粒子を添加し、画像の変化量の代りに、直接微粒子の移動を観察する実験を行なった。微粒子は液晶中に懸濁され、液晶の移動速度が増加すれば、微粒子の移動速度も増加するであろう。
【0036】
図3Aは、実験を行なったサンプルセルの構成を概略的に示す。上ガラス基板1にはストライプ状の電極3が形成され、下ガラス基板2には交差する方向のストライプ状電極6が形成されている。ガラス基板間の距離は75μm程度である。両基板を対向させ、その間にBIQIを添加した液晶を注入した。液晶には、白色微粒子0.20wt%を添加した。微粒子を観察するため、微粒子の濃度は、電気泳動表示素子で通常採用される微粒子濃度より2桁程度低くしている。
【0037】
BIQIの添加量は、(S11)0wt%、(S13)0.0049188wt%、(S14)0.0070979wt%、(S15)0.03835wt%とした。サンプル番号の第1桁は、サンプルS1−S5のBIQI濃度に対応している。電極3,6の交差部分の外側近傍Dで、微粒子の移動速度を測定した。2枚のガラス基板上の電極間に直流の電圧を印加し、顕微鏡下で微粒子の移動速度を観察した。
【0038】
図3Bは、微粒子の移動の様子を概略的に示す。微粒子は、一方の電極から他方の電極に向って移動する性質を有するが、電極の交差部近傍においては、図に示したように一旦一方の基板から他方の基板側に移動した粒子が外側で還流し、ループ状に移動する。印加電圧を反転すると、移動の向きも反転する。
【0039】
図3Cは、観察結果を示すグラフである。横軸は電極間の印加電圧を単位Vで示し、横軸は微粒子の移動速度をμm/secで示す。印加電圧は5V〜100Vの領域で変化させた。BIQIを添加しなかったサンプルセルS11においては、電圧を印加しても移動速度はほとんど増加しない。サンプルS13、S14、S15で示すように、BIQIの添加量が増加するにつれ、同一印加電圧での移動速度は増加している。液晶の移動速度が増大すれば、微粒子の移動速度も増加するであろう。又、印加電圧の増大と共に移動速度はほぼリニアに増加している。
【0040】
図3Dは、印加電圧100Vでの速度を、BIQI添加量に対してプロットしたグラフである。BIQI添加量の増加に対して、速度は飽和し始める傾向を示している。
【0041】
この結果から、液晶にBIQIを添加すると、電界印加の下に液晶が移動速度を増大させ、それに伴って微粒子の移動速度も増加させると考えられる。BIQIの添加量の増加と共に微粒子の移動速度が増加することは、BIQIが電界で加速され、BIQIが液晶を加速していると考えられる。
【0042】
BIQI添加量約0.04wt%以下、印加電圧100V以下では、図2A,2Bで見られたような飽和現象は生じていない。微粒子の速度を観察した本実験の結果が、液晶の移動速度をより正確に示しているであろう。図2A,2Bで見られたような飽和、再低下は、液晶分子の配向変化を示す可能性がある。
【0043】
液晶へのBIQI添加量を選択し、かつ印加電圧を適切に選択することにより、液晶の移動速度及び微粒子の移動速度を所望の値に選択することが可能であると考えられる。
【0044】
光散乱性微粒子分散型液晶表示セルにおいて、表示の切り換えには微粒子の移動速度が大きく影響する。液晶にBIQIを添加すれば、電界に応じてBIQIが液晶を加速し、液晶が微粒子を加速する(または搬送する)ことにより、表示の切り換えを高速化できることが期待される。
【0045】
図4Aは、上記実験の結果を考慮した、液晶表示セルの構成を示す。1対の基板1、2
が対向し、液晶セル10を構成している。基板1は透明基板であり、その表面上に例えば
Moで形成された金属製の不透明電極3が形成されている。不透明電極3は、開口部を画
定する。基板1及び不透明電極3を覆って、垂直配向膜4が塗布されている。
【0046】
基板2は、例えばガラス基板であり、その全表面上に光吸収層5が形成されている。光吸収層5の上に、ITO(インジウム錫酸化物)等の透明電極6が開口部に対応する形状に
形成されている。透明電極6及び光吸収層5を覆うように垂直配向膜7が塗布されている。対向基板の画定する空間内に0.005wt%〜0.05wt%程度のBIQIと20wt%程度の粒径約6μmの微粒子9を混合した液晶8が注入されている。液晶は、正の誘電異方性を有する。BIQIの分子は、液晶分子と同程度の大きさを有する。基板間の間隔は、50μm〜200μm、例えば75μm程度である。
【0047】
図4Bは、透明電極6に微粒子9が引き寄せられる極性の電圧を印加した場合の様子を概略的に示す。微粒子9は、不透明電極3の開口部下方の透明電極6上に分布し、開口に入射した外光は微粒子9により反射され、観察者に開口部を白く認識させる。
【0048】
図4Cは、不透明電極3に微粒子9が引き寄せられる極性の電圧を印加した状態を示す。微粒子9は、不透明電極3下方の領域に凝集し、開口内から排除される。このため、開口内は透明となり、外部から入射した光は液晶層8を通り、下方の光吸収層5によって吸収される。観察者は、開口部を黒く認識させる。このようにして、黒、白の表示を選択的に行なうことができる。
【0049】
図4Aのセル構造において、BIQIの液晶に対する添加量を(S21)0wt%、(S25)0.038wt%とし、液晶に対し20wt%の粒径6μmの微粒子を添加した。この微粒子分散液晶をガラス基板間に注入し、直流電圧100Vを印加し、反射のレスポンス特性を評価した。なお、反射のレスポンス特性評価にはLCD−5000(大塚電子製)を用いた。
【0050】
図4Dにおいて、点線はBIQIを添加しなかったサンプルS21の特性を示し、実線はBIQIを0.038wt%添加したサンプルS25の特性を示す。サンプルS21の立上りは5.3sec、立下がりは6.8secであった。サンプルS25の立上りは5.6sec、立下りは3.9secであった。サンプルセルS25は、サンプルセルS21と比較して、立上りはほぼ等しいものの、立下り時間が1/2に短縮された。上述の実験結果から期待されるほどの特性の差は観察されなかったが、特性は明らかに改善されている。
【0051】
又、同じ電圧を印加した時、BIQIを0.038wt%添加したサンプルセルS5の方が黒レベルが優れていた。これは、同じ電圧に対し、微粒子が大きく移動し、開口領域内から微粒子が排斥されていることを示唆している。電荷移動錯体を添加した方が、駆動電圧を低電圧化できることを示唆している。又、電荷移動錯体の添加量を増加させると、微粒子表示型液晶表示装置の表示切換え時間の短縮、切換え電圧の低電圧化が可能であろうと推察される。
【0052】
図4Aに示す構成において、上基板上に形成する不透明電極は、ストライプ状の他、表示部を囲む形状等にすることができる。トランジスタ等のスイッチング素子を接続し、アクティブマトリクスとしてもよい。表示部以外の面積をブラックマトリクスなどで覆ってもよい。下基板上の透明電極は、アクティブマトリクスの場合は全面電極とすることができる。添加する微粒子は、粒径6μm程度の球状粒子に限らない。種々の微粒子やマイクロカプセルを添加することができる。
【0053】
液晶に添加する電荷移動錯体は、BIQIに限らない。BIQI同様ドナーとして機能するN,N’−オクタメチレン−ジ‐3.5−ルチジニウムアイオダイド(ODLI2)、n−オクチルイソキノリニウムアイオダイド(OIQI)等を用いることができよう。
【0054】
交差電極の近傍においては、電荷移動錯体を添加した液晶の還流が生じている。この還流を用いてマイクロモータ等のマイクロマシーンを作成することができる。
【0055】
図5Aは、電極交差部周辺での液晶の動きを概略的に示す。液晶が下電極6から上電極3に向かう方向に移動する極性の電界を印加する。下電極6上の液晶は上電極3に向かって矢印で示すように移動する。電極端部においては、ループ状の流れが生じる。電界の極性を反転すれば、移動の向きは反転する。
【0056】
図5Aは、マイクロモータの構成を概略的に示す平面図である。電極3と6を交差するように配置し、交差部近傍にロータ20を回転可能に配置する。電極3、6間に電圧を印加することにより、電荷移動錯体を添加した液晶の移動が生じ、ロータ20が回転される。
【0057】
例えば、ロータの直径を10μm〜1000μm、より好ましくは50μm〜200μmとし、印加電圧を20V〜300V、好ましくは50V〜200Vとし、マイクロモータのロータを回転させる。直流電圧を印加している間、ロータ20は同じ方向に回り続ける。印加電圧の極性を逆にすれば、ロータ20の回転は逆方法になる。簡単な構成によりマイクロモータを構成することができる。
【0058】
なお、マイクロモータに限らず、移動する液晶から力を受け作動するマイクロマシーンを作成することが可能である。
【0059】
図5Bに示すように、例えば、ロータ20をアクチュエータ21に置き換え、スイッチを作動させることが可能である。
【0060】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0061】
1 上基板
2 下基板
3、6 電極
4、7 垂直配向膜
5 光吸収層
8 液晶材料
9 微粒子
10 液晶セル
20 ロータ
21 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電率異方性を有し、電界によって流動する誘電性流体と、電界印加により前記誘電性流体を加速することのできる電荷移動錯体とを混合状態で含み、さらに、前記誘電性流体と異なる特性を有する微粒子を分散した流体。
【請求項2】
前記電荷移動錯体が、n−ブチルイソキノリニウムアイオダイド、N,N’−オクタメチレン-ジ-3,5−ルチジニウムアイオダイド、n−オクチルイソキノリニウムアイオダイドの少なくとも1種を含む請求項1に記載の流体。
【請求項3】
前記誘電性流体が液晶である請求項1または2に記載の流体。
【請求項4】
前記微粒子が光散乱性を有する請求項3に記載の流体。
【請求項5】
対向基板と、
前記対向基板間の空間に保持された請求項1〜4のいずれか1項に記載の流体と、
前記流体に電界を印加できる電極と、
前記対向基板間の流体中に動作可能に配置された作動子と、
を有するマイクロマシーン。
【請求項6】
前記作動子がマイクロモータのロータである請求項5記載のマイクロマシーン。
【請求項7】
対向基板と、
前記対向基板の上に形成された1対の電極と、
前記対向基板間の空間に保持された請求項3または4記載の流体と、
を有する表示装置。
【請求項8】
前記1対の電極は、一方の基板上に形成された透明電極と、他方の基板上に選択的に形成された不透明電極とを含む請求項7記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−275529(P2010−275529A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74175(P2010−74175)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【分割の表示】特願2003−353427(P2003−353427)の分割
【原出願日】平成15年10月14日(2003.10.14)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【出願人】(503282437)
【Fターム(参考)】