説明

流体ディスペンサ弁用のリング

投与対象の流体を格納した貯蔵器(1)に圧着式の口金などの固定要素(50)を用いて取り付けられるエアゾールディスペンサ弁(20)の弁本体(21)の周囲を囲むように配設されるリング(10)であって、外側部分(15)と、前記弁本体(21)に接する内側部分(11,11´)とを少なくとも有し、実質的な堅さを有する単一部品の形で作られており、前記外側部分(15)は、固定要素(50)の貯蔵器(1)に装着される際にリングの材料が変形することによって貯蔵器(1)の一部と漏れを生じない形で接する状態になるように作られている、というリング。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアゾールディスペンサの弁に用いられるリングに関する。
【背景技術】
【0002】
エアゾールディスペンサの弁(特に、投与対象の流体を格納した貯蔵器に取り付けられる計量弁)と共にリングを用いることは公知である。このようなリングは、弁の中でも特に、定量分(dose)の流体が放出される間、逆さまの状態(すなわち、弁の位置が貯蔵器より下となる状態)で使用される弁において用いられる。一般に、こうしたリングが実現する主な機能は2つある。
【0003】
第1に、弁が逆さまの動作位置にある時に、前記弁の流入口の下方に位置するデッドボリュームを小さくすることで、貯蔵器に格納された流体のうち最大限の量が投与されることを保証する。
第2に、こうしたリングは、流体とネックガスケット(neck gasket)との接触を抑制する役割を果たす。ネックガスケットは一般に、貯蔵器のネック部と固定用のフープ(hoop(たが))または口金(弁を容器に固定する働きをするもの)との間に配置される。ガスケットと貯蔵器に格納された流体との接触を抑制することで、前記ガスケットから浸出する抽出物によって流体が汚染される危険は小さくなり、さらに、流体(特に推進用ガス)との接触の結果生じるガスケットの劣化も抑制される。しかしながら、ガスケットと流体との接触を制限しても、前記流体に容認できない汚染が生じる可能性は残る。
【0004】
一般に、リングを弁本体に組み付ける際には、前記弁本体をリングの内側縁部が径方向に締め付ける形で、具体的には無理嵌めによって固定する。そうした構造に見られる問題は、径方向の締め付けが強すぎる場合、時間の経過と共に、弁本体(特に、その内部)が変形する可能性があるという点であり、そうした変形は弁の故障の原因になり得る。
多くの弁では、摺動する弁部材と弁本体との間の隙間が比較的狭くなっている。従って、弁本体が径方向に変形すると、摩擦が生じて前記弁部材が詰まってしまう事態さえ起こり得る。特に、固定用口金が圧着式の口金である場合は、圧着によって貯蔵器のネックが径方向に変形する可能性があり、そうなると、リングに加わる径方向の圧縮力も大きくなる。こうして大きくなった径方向の圧縮力はリングの内側縁部に伝わるため、弁本体に加わる圧力も大きくなり、そうすると前記弁本体が変形する。圧着中に加わりやすい力を解消する目的で、変形可能なタブ(tab)または壁を備えるリングも存在する。しかし、そうしたリングは形状が相当に複雑であり、そのため、製造コストも比較的高くなる。その他に、貯蔵器内に無理嵌めで固定されるリングもあるが、そうしたリングは、特に製造公差のために、組立作業は複雑になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/038874号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の問題の生じないリングと、当該リングを有するエアゾールディスペンサ装置とを提供することである。
より具体的に言えば、本発明の目的は、弁本体に径方向の圧力が過度に加わらないようにする、エアゾールディスペンサ装置用のリングを提供することであり、それによって、特に弁を貯蔵器に圧着固定する作業中に、弁本体が過度に変形してしまう危険を小さくすることである。
【0007】
本発明はまた、弁本体に加わる径方向の圧力の増大なしに、製造公差のばらつきの補償を可能にするリングを提供することを目的とする。
本発明はまた、貯蔵器の内容物のうち投与できる量を最大にするリングを提供することを目的とする。
本発明はまた、ネックガスケットと貯蔵器に格納された流体との接触を排除するリングを提供することを目的とする。
【0008】
本発明はまた、製造および組立が簡単かつ安価なリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明は、投与対象の流体を格納した貯蔵器に圧着式の口金などの固定要素を用いて取り付けられるエアゾールディスペンサ弁の弁本体の周囲を囲むように配設されるリングであって、外側部分と、前記弁本体に接する内側部分とを少なくとも有し、実質的な堅さを有する単一部品の形で作られており、前記外側部分は、固定要素の貯蔵器に装着される際にリングの材料が変形することによって貯蔵器の一部と漏れを生じない形で接する状態になるように作られていること、を特徴とするリングを提供する。
【発明の効果】
【0010】
また、効果的な構成として、前記リングの寸法は、固定要素の貯蔵器への装着がなされて初めて貯蔵器と前記リングとが漏れの生じない形で接する状態になるように決められていること、とする。
また、効果的な構成として、固定要素が貯蔵器に装着される前は、前記外側部分は滑らかであり、鏡面仕上げの状態であること、とする。
【0011】
また、効果的な構成として、少なくとも1つの前記内側部分と弁本体との接触面積が小さいこと、とする。
また、効果的な構成として、前記リングは、弁本体の一部と接する、径方向の第1の内側部分と、弁本体の別の部分と接する第2の内側部分とを有すること、とする。
また、効果的な構成として、リングは、弁本体と接触する内側部分を1つだけ有すること、とする。
【0012】
また、効果的な構成として、ネックガスケットとリングの頂上面とは、前記ネックガスケットの底面の大部分において接触すること、とする。
また、変形例では、前記リングはネックガスケットと接触しないこと、とする。
また、効果的な構成として、前記リングと前記弁本体とは、リングの内側部分の接続部分でつながった状態で一体的に形成されていること、とする。
【0013】
また、効果的な構成として、固定要素が貯蔵器に装着される際に、前記外側部分に、貯蔵器の一部に沿ってクリープ現象を生じ、当該クリープ現象が生じた位置で密封が実現されること、とする。
また、本発明は、これまでに述べたリングを有する流体ディスペンサ弁を提供する。
また、本発明は、上記の流体ディスペンサ弁を貯蔵器に搭載した形で有する流体ディスペンサ装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態を構成するリングを有するエアゾールディスペンサ装置を直立状態で示す概略断面図である。
【図2】図1の装置の一部を詳細に示す拡大図である。
【図3】本発明の別の実施の形態を示す概略断面図である。
【図4】図3と同様の図であり、本発明の更に別の実施の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に関する、上記の特徴および効果、そして他の特徴および効果については、非限定的な例として挙げる本発明のいくつかの実施の形態に関する以下の詳細な説明を、添付の図面を参照しながら読むことで明らかになる。
図面を参照する。本エアゾール装置は、投与対象の流体を格納した貯蔵器1を有する。流体の種類は薬剤であり、エアゾール弁20(望ましくは計量弁)によって流体を投与するために、推進ガスを入れておく場合もある。エアゾール弁は弁本体21を有し、当該弁本体内部では弁部材30が摺動する。弁本体21は、固定用のフープまたは口金50(特に、圧着型のもの)によって貯蔵器1のネック部に組み付けられ、両者の間にはネックガスケット40が、密封を目的として挿入されている。図に示す弁は、特に逆さまの状態で使用されるものである(すなわち、定量分が放出される間、弁は貯蔵器より下の位置にある)。弁本体21は開口部22を1又は複数有し、それによって、貯蔵器からの流体で弁を満たすことができる。図における開口部は、側面に設けられた細長いスロットの形となっており、弁本体21の高さの一部分に延びている。ただし、変形例では、上記の目的のために、異なる形状の開口部を1又は複数設けることもできる。
【0016】
本発明では、リング10は弁本体21を囲む形に配置されている。
リング10の働きは、具体的には、弁が逆さまの動作位置にある時に弁本体21の開口部22の下側の端より下に位置するデッドボリュームを最小にすることで、貯蔵器の中身が可能な限り使い切られるようにすることである。リング10は、弁本体21と接する内側部分11を少なくとも1つ有する。好ましい構成として、内側部分11は、リング10のうち径方向に見て最も内側に位置する部分である。また、弁本体の別の部分と接する第2の内側部分11´を設けるのが効果的である。こうした構造とすることで、リング10から弁本体21に加わる径方向の圧力を、1ヶ所の固定領域で受け止めるのでなく、2ヶ所以上の固定領域に分散することができる。それによって、先ず、前記固定領域の各々に加わる径方向の圧力を小さくすることができ、更に、弁本体21に対してリング10が摺動する事態も実質的に回避することができる。前記リングが、2ヶ所の異なった位置で前記弁本体を締め付ける形になるからである。
【0017】
また、リング10は外側部分15を有する。当該外側部分は、好ましい構成として、径方向に見て最も外側に位置する部分であり、軸方向に延びた硬い壁部分を有するが、その硬い壁部分は、口金50を圧着固定する作業の際、塑性変形する。変形可能な壁15の具体的な目的は、固定用口金50を圧着固定する作業中、貯蔵器が径方向内向きに変形する時に、貯蔵器1から加わる圧力の一部を解消、吸収することである。リング1がこうした変形可能な壁部分を有することにより、貯蔵器1の変形の全部が前記リングの内側部分11に伝わることがなくなり、従って、弁本体21にも変形の全部が伝わることがなくなる。従って、弁本体21が変形する危険(それは弁の詰まりや故障が発生する危険にもつながる)は小さくなる。
【0018】
本発明では、リング10があるため、ネックガスケット40と貯蔵器1に格納された流体とが接触することはない。より具体的に言えば、圧着固定の作業において、貯蔵器の、リングの外側の壁15に接して変形する部分は、当該壁に強く押し付けられ、壁を弾性変形させると共に径方向に押さえつける。その結果、リング10の外周部で密封が実現され、流体がネックガスケット40と接触することはなくなる。貯蔵器の一部が変形することによって、リングの外側の壁15にはクリープ現象(creep)が生じる。こうした永続的な形で材料が変形することにより、完全な密封が実現される。好ましい構成として、リング10の寸法を決めるにあたっては、密封が達成されるタイミングが、弁本体21を囲む所定位置にリング10を嵌める時ではなく、圧着固定の作業の完了後となるようにする。これならば、リング10が装着された状態の弁20を貯蔵器1に挿入する作業は容易であり、過度の摩擦がリングと貯蔵器との間に生じる事態は回避される。そのためリングが弁本体上で軸方向に移動することもない。貯蔵器1が可塑的にリング10を変形させて外周部で密封が実現されるのは、口金50の圧着固定の作業が行われている際である。
【0019】
本発明では、リング10は単一部品として作られており、実質的な堅さを有すると共に、ナイロン製とするのが効果的である。リングの変形可能な壁15の外面は、平らかつ滑らかであり、鏡面仕上げとするのが好ましい。ただし、特に表面のコーティングや加工までは行わない。リングが複雑になり、製造コストも高くなるからである。外面を滑らかにしておくことは、組立作業、特に貯蔵器に弁を挿入する作業に都合がよい。外面が滑らかであるため、こうした挿入作業の間にリングと貯蔵器とが軽く接触したとしても、前記貯蔵器に対して滑るため、リングが弁本体上で軸方向に動いてしまう危険はない。
【0020】
ここで、特に図1、2を参照する。効果的な構成として、リング10の頂上面17は、ネックガスケット40の底面の大部分と接触している。加えて、リング10は、効果的な構成として、弁本体と接する2つの接触箇所11、11´を有する。これら接触箇所の面積は小さいため、リング10の組み付けは簡単かつ容易になる。また、効果的な構成として、弁本体の開口部22に流体を導くための円錐面18が設けられている。
【0021】
図3、4は、本発明の別の実施の形態を示す。
図3では、ネックガスケット40は、弁本体21と貯蔵器1との間に直に固定されており、リング10とは接触していない。本発明におけるリング10は、口金50の圧着固定の完了した時点で、外側部分15の周縁に沿って、貯蔵器1と漏れの生じない形で接触する状態となる。好ましい構成として、本変形例におけるリングは、弁本体21との接触箇所11が1つだけであり、当該接触箇所は、前記弁本体の径方向における肩に設けることができる。本変形例の効果は、リングの形状が非常に単純であるため、製造が簡単かつ安価に行えることである。
【0022】
図4では、リング10は弁本体21と一体の形に作られており、リングの内側部分11が接続部となっている。こうした作りでは、弁本体にリングを組み付ける作業が不要となるので、弁の組立作業を簡略化できる。
以上、本発明に関し、図面にも示したいくつかの異なる実施の形態を挙げて説明したが、言うまでもなく、本発明はそれらの実施の形態に限定されない。むしろ反対に、当業者であれば、有用な変更をそれらに加えることが可能であろう。具体的に言えば、弁の構造はどのようなものでもよい。さらに、弁本体および開口部の形状は、図示した形状と異なるものにすることが可能であろう。そして、同様のことは貯蔵器(特にネック部)についても言える。一般論として、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲を逸脱しない限り、どのような変更も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投与対象の流体を格納した貯蔵器(1)に圧着式の口金などの固定要素(50)を用いて取り付けられるエアゾールディスペンサ弁(20)の弁本体(21)の周囲を囲むように配設されるリング(10)であって、
外側部分(15)と、前記弁本体(21)に接する内側部分(11,11´)とを少なくとも有し、
実質的な堅さを有する単一部品の形で作られており、
前記外側部分(15)は、固定要素(50)が貯蔵器(1)に装着される際にリングの材料が変形することによって貯蔵器(1)の一部と漏れを生じない形で接する状態になるように作られていること、
を特徴とするリング。
【請求項2】
前記リングの寸法は、固定要素(50)の貯蔵器(1)への装着がなされて初めて貯蔵器と前記リングとが漏れの生じない形で接する状態になるように決められていること、
を特徴とする請求項1に記載のリング。
【請求項3】
固定要素(50)が貯蔵器(1)に装着される前は、前記外側部分(15)は滑らかであり、鏡面仕上げの状態であること、
を特徴とする請求項1または2に記載のリング。
【請求項4】
少なくとも1つの前記内側部分(11,11´)と弁本体(21)との接触面積が小さいこと、
を特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のリング。
【請求項5】
前記リング(10)は、弁本体(21)の一部と接する、径方向の第1の内側部分(11)と、弁本体(21)の別の部分と接する第2の内側部分(11´)とを有すること、
を特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のリング。
【請求項6】
リング(10)は、弁本体(21)と接触する内側部分(11)を1つだけ有すること、
を特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のリング。
【請求項7】
ネックガスケット(40)とリング(10)の頂上面(17)とは、前記ネックガスケットの底面の大部分において接触すること、
を特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のリング。
【請求項8】
前記リング(10)はネックガスケット(40)と接触しないこと、
を特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のリング。
【請求項9】
前記リング(10)と前記弁本体(21)とは、リングの内側部分(11)の接続部分でつながった状態で一体的に形成されていること、
を特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のリング。
【請求項10】
固定要素(50)が貯蔵器に装着される際に、前記外側部分(15)に、貯蔵器(1)の一部に沿ってクリープ現象を生じ、当該クリープ現象が生じた位置で密封が実現されること、
を特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載のリング。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載のリング(10)を有すること、
を特徴とする流体ディスペンサ弁。
【請求項12】
請求項11に記載の流体ディスペンサ弁を貯蔵器に搭載したこと、
を特徴とする流体ディスペンサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−531283(P2010−531283A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514067(P2010−514067)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【国際出願番号】PCT/FR2008/051177
【国際公開番号】WO2009/004270
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(502343252)バルワー エス.アー.エス. (144)
【Fターム(参考)】