説明

流体制御弁

【課題】スリーブのインレットポートから連通室内へ流入する作動油の流入角度の適正化を図ることで、十分な開口面積を確保する。
【解決手段】スプール3のスプール軸部6と第1ランド21との間に、スリーブ1のインレットポート11からスリーブ1のスプール孔2の内部(連通室7)への作動油の流入角度を制御する絞り段部24を設けたことにより、オーバラップ領域からポート開口領域へ移行する場合であっても、スリーブ1のインレットポート11から連通室7内へ流入する作動油の流入角度が小さいままとなる。したがって、オーバラップ領域とポート開口領域との境界部において、リニアソレノイドのコイルへの供給電力(印加電圧値または供給電流値)に対応した、インレットポート11の開口面積、つまり十分な開口面積を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体制御弁に関するもので、特に自動変速機で使用する作動油(オイル)が流出入する複数のポート間の連通状態を制御するスプールバルブを備えた流体圧力制御弁または流体流量制御弁に係わる。
【背景技術】
【0002】
[従来の技術]
従来より、自動変速機の油圧制御装置に搭載される電磁油圧制御弁(電磁弁)が公知である(例えば、特許文献1参照)。
電磁弁は、図6および図7に示したように、自動変速機に使用する作動油(オイル)の油圧を調圧して出力するスプールバルブと、このスプールバルブを駆動する電磁アクチュエータであるリニアソレノイドとによって構成されている。
スプールバルブは、バルブボディの凹部内に嵌合される円筒状のスリーブ101と、このスリーブ101のスプール孔102内に往復摺動可能に支持されるスプール103と、このスプール103をリニアソレノイド側へ付勢するリターンスプリング104とを備えている。
リニアソレノイドは、シャフト105を介してスプール103に連結したプランジャ106と、電力の供給を受けるとプランジャ106を引き寄せる磁力を発生するコイル107と、このコイル107の内周側に磁路を形成するステータコア108と、コイル107の外周側に磁路を形成するヨーク109とを備えている。
【0003】
スプールバルブのスリーブ101は、スリーブ101の内部と外部とを連通すると共に、スプール孔102の軸線方向に対して垂直な半径方向に延びる複数のポートを備えている。
複数のポートは、作動油が供給されるインレットポート(Inポート)111、作動油が出力されるアウトレットポート(Outポート)112、スプール103をフィードバックするフィードバックポート(F/Bポート)113、および作動油が排出される排出ポート(Exポート)114〜116等により構成されている。
スリーブ101は、スプール軸部117の外周面との間に、Inポート111とOutポート112とを連通する環状凹部(円筒状の連通室)118を備えている。
【0004】
スプール103は、その軸線方向に対して垂直な断面が円形状に形成されている。このスプール103には、Inポート111とOutポート112との間の連通状態を制御する2つの第1、第2ランド121、122を有している。
2つの第1、第2ランド121、122は、スプール103の軸線方向において所定距離を隔てて設けられて、スプール孔102の孔壁面(スリーブ101の内面)を摺動する外面(摺動面)をそれぞれ有している。これらの第1、第2ランド121、122は、スプール軸部117によって連結されている。このスプール軸部117は、各第1、第2ランド121、122よりも小さい直径を有している。
【0005】
スプール103の第1ランド121は、スプール軸部117の図示左端部との間に、スプール103の軸線方向に対して垂直な段差を有している。
スプール103の第2ランド122は、スプール軸部117の図示右端部との間に、スプール103の軸線方向に対して垂直な段差を有している。
ここで、第1ランド121の端縁には、段差の垂直面から第1ランド121の外面まで切り欠くことで形成される2つのノッチ123が形成されている。
【0006】
[従来の技術の不具合]
ところが、従来の電磁弁においては、図8に示したように、リニアソレノイドのコイル107への電流印加時にInポート111から連通室118を経てOutポート112までの流路中に作動油が流れると、Inポート111の開弁方向に対して逆方向(Inポート111の閉弁方向)に流体力が発生し、リニアソレノイドのコイル107への供給電力(供給電流値)に対応したストローク量を得ることができず、十分な開口面積(Inポート111の開口面積)を確保することができないという問題がある。
また、リニアソレノイドのコイル107に対する供給電力(供給電流値)の切替時(特にInポート111の開弁初期)における、スプール103の動作応答性が低下するという問題がある。
【0007】
ここで、Inポート111と第1ランド121とが重なるオーバラップ領域と、Inポート111が開放されるポート開口領域との境界部においては、図8に示したように、Inポート111から連通室118内へ流入する作動油の流れの方向が急変し、オーバラップ領域では作動油の流入角度(θ)が小であったものが、ポート開口領域では作動油の流入角度(θ)が大に変化するため、スプール103のスプール軸部117に沿って流れる流れが大きくなる。つまり連通室118内をInポート111の閉弁方向に長く流れるため、スプール103の第2ランド122に対してInポート111の閉弁方向に作用する流体力が急激に増加するという問題がある。
これにより、リニアソレノイドのコイル107に対する供給電力(供給電流値)の切替時(特にInポート111の開弁初期)、つまりオーバラップ領域からポート開口領域への移行時に、十分な開口面積(Inポート111の開口面積)を確保することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−157270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、第1ポートから連通部内へ流入する流体の流入角度の適正化を図ることで、十分な開口面積および十分な動作応答性を確保することのできる流体制御弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明(流体制御弁)は、軸線方向に延びるスプール孔、およびこのスプール孔の内部と外部を連通する複数のポートを有する筒状のスリーブと、このスリーブのスプール孔内に往復摺動可能に支持されて、前記複数のポートの連通状態を制御する2つの第1、第2ランド、およびこれらの第1、第2ランドを連動可能に連結する小径軸部を有するスプールと、このスプールをその移動方向に駆動するアクチュエータとを備えている。
複数のポートは、スリーブの内面で開口し、且つ外部から内部へ向けて流体を流入させる第1ポート、およびスリーブの内面で開口し、且つ内部から外部へ向けて流体を流出させる第2ポートを有している。
スリーブの内面とスプールの小径軸部の外面との間には、第1ポートと第2ポートとを連通する連通部が設けられている。
スプールの第1ランドと小径軸部との間には、第1ポートから連通部への流体の流入角度を制御する絞り段部が設けられている。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、スプールの第1ランドと小径軸部との間に、第1ポートから連通部への流体の流入角度を制御する絞り段部を設けることにより、オーバラップ領域とポート開口領域との境界部において、第1ポートから連通部内へ流入する流体の流れの方向が急変するような不具合の発生が生じ難くなるので、第1ポートから連通部への流体の流入角度を小さく抑制することができる。これにより、スプールの第2ランドに印加される流体力(第1ポートの開口面積を小さくする側(閉弁方向)に作用する流体力)が急激に増加することはない。
あるいはポート開口領域においても、第1ポートから連通部への流体の流入角度が小さい状態が継続されるため、第1ポートから連通部を経て第2ポートへ向かう流体の流量の変化に応じて、スプールの第2ランドに印加される流体力が連続的に滑らかに変化する。 したがって、オーバラップ領域とポート開口領域との境界部、あるいはポート開口領域において、第1ポートの開口面積を確保することができる。また、アクチュエータの動力を利用してスプールをその軸線方向へ移動(ストローク)させる際の、スプールの動作応答性を向上することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、スリーブの第1ポートの開口周縁に、スプールの第1ランドの外面が摺接するシールを設けている。
第1ランドは、スリーブのシートに対する移動量に応じて第1ポートの開口面積を変更するバルブ機能を有している。
なお、スプールを、スリーブのシートに対する移動量に応じて第1ポートの開口面積を変更する圧力制御弁(流量制御弁)の弁体に適用しても良い。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、スプールのストローク量が第1所定値以下の時には、第1ランドと第1ポートとの重なり面積が最大となる。つまり第1ランドが第1ポート全面を完全に閉鎖する。これにより、第1ポートと第2ポートとの連通状態が遮断されるので、第1ポートから連通部を通って第2ポートへ流体が流れない。
請求項4に記載の発明によれば、スプールのストローク量が第1所定値よりも大きい第2所定値以上の時には、第1ランドと第1ポートとの一部が重なる。つまり第1ランドが第1ポートを部分的に開放する。あるいは第1ランドと第1ポートとの重なり面積が最小となる。つまり第1ランドが第1ポート全面を完全に開放する。これにより、第1ポートと第2ポートとが連通するので、第1ポートから連通部を通って第2ポートへ流体が流れる。
【0014】
請求項5に記載の発明によれば、第1ランドの連通部側の端面に、第1ランドの外面からスプールの中心軸線側の所定位置までスプールの軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に切り込まれて形成されるノッチを設けている。これにより、スプールのストローク変化(移動量)に対して第1ポートの開口面積が緩やかに変化する特性(ストローク−開口面積特性)を備えたスプールバルブを構成できる。
なお、スプールバルブは、少なくともスリーブとスプールとにより構成される。
請求項6に記載の発明によれば、第1ランドの連通部側の端面に、第1ランドの外面から絞り段部の外面と一致する位置までスプールの軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に切り込まれて形成されるノッチを設けている。
請求項7に記載の発明によれば、第1ランドの連通部側の端面に、第1ランドの外面から小径軸部の外面と一致する位置までスプールの軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に切り込まれて形成されるノッチを設けている。
請求項8に記載の発明によれば、スプールの軸線方向に対して垂直な断面が楕円形状に形成されている。これにより、スリーブの周方向に対するスプールの移動が規制される。
【0015】
請求項9に記載の発明によれば、アクチュエータは、電力の供給を受けると磁力を発生するコイルを有し、コイルへの供給電力に応じてスプールをその軸線方向に移動(ストローク)させる電磁アクチュエータである。
請求項10に記載の発明によれば、第1ポートまたは第2ポートが、スリーブの軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に開口している。
請求項11に記載の発明によれば、第1ポートおよび第2ポートが、互いにスプール孔の軸線方向に所定距離を隔てた位置で開口している。
請求項12に記載の発明によれば、スプールの第1ランドと絞り段部との間に、スプールの軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に延びる第1段差を設けている。
請求項13に記載の発明によれば、スプールの絞り段部と小径軸部との間に、スプールの軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に延びる第2段差を設けている。
【0016】
請求項14に記載の発明によれば、スプールの軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向における、第1段差の高さをy1、スプールの軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向における、第2段差の高さをy2、スプールの軸線方向における、絞り段部の奥行きの長さをL1、スプールの軸線方向における、2つの第1、第2ランド間の距離の半分の長さをL2としたとき、y1とL1との比(y1/L1)は、
0.5×(y2/L2)<y1/L1<1.5×(y2/L2)
の関係を満足する値に設定されている。
すなわち、y1とL1との比(y1/L1)を、{0.5×(y2/L2)}よりも大きく、且つ{1.5×(y2/L2)}よりも小さい値に設定することにより、オーバラップ領域とポート開口領域との境界部での、第1ポートから連通部内へ流入する流体の流れ方向の変化が小さくなるため、より効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】スプールバルブを備えた電磁油圧制御弁を示した断面図である(実施例1)。
【図2】(a)はスプールバルブのスプールを示した側面図で、(b)は(a)のA−A断面図で、(c)はスプールバルブのスプールを示した側面図で、(d)は(c)のB−B断面図である(実施例1)。
【図3】(a)はオーバラップ領域における流入角度、スプールに印加される流体力を示した説明図で、(b)はポート開口領域における流入角度、スプールに印加される流体力を示した説明図で、(c)はスプールに印加する流体力に対するIn−Out流量の変化特性を示した特性図である(実施例1)。
【図4】(a)はスプールバルブのスプールを示した側面図で、(b)は(a)のC−C断面図で、(c)は(a)のJ部の拡大図である(実施例1)。
【図5】(a)はスプールバルブのスプールを示した側面図で、(b)は(a)のD−D断面図で、(c)はスプールバルブのスプールを示した側面図で、(d)は(c)のE−E断面図で、(e)はスプールバルブのスプールを示した側面図で、(f)は(e)のF−F断面図である(実施例2)。
【図6】スプールバルブを備えた電磁油圧制御弁を示した断面図である(従来例1)。
【図7】(a)はスプールバルブのスプールを示した側面図で、(b)は(a)のG−G断面図で、(c)はスプールバルブのスプールを示した側面図で、(d)は(c)のH−H断面図である(従来例1)。
【図8】(a)はIn−Out流量におけるオーバラップ領域を示した説明図で、(b)はIn−Out流量におけるポート開口領域を示した説明図で、(c)はスプールに印加する流体力に対するIn−Out流量を示した特性図である(従来例1)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
本発明は、オーバラップ領域とポート開口領域との境界部において、第1ポートから連通部内へ流入する流体の流入角度の適正化を図ることで、十分な開口面積および十分な動作応答性を確保するという目的を、スプールの第1ランドと小径軸部との間に、第1ポートから連通部への流体の流入角度を制御する絞り段部を設け、オーバラップ領域とポート開口領域との境界部においても、第1ポートから連通部内へ流入する流体の流入角度を小さく抑制したことで実現した。
【実施例1】
【0019】
[実施例1の構成]
図1ないし図3は本発明の実施例1を示したもので、図1はスプールバルブを備えた電磁油圧制御弁を示した図で、図2はスプールバルブのスプールを示した図である。
【0020】
本実施例の油圧制御装置は、自動車に搭載される自動変速機(オートマチックトランスミッション)の変速制御に使用されるものである。
油圧制御装置は、複数の油路を有するバルブボディ(図示せず)と、このバルブボディに取り付けられて、バルブボディの油路L1〜L6と共に油圧回路を構成する複数の電磁油圧制御弁と、ドライバー等から要求された変速状態を実現するように複数の電磁油圧制御弁(電磁弁)を制御する制御ユニット(TCU)とを備えている。
【0021】
バルブボディは、複数の電磁油圧制御弁を保持するバルブ保持部材であって、複数の電磁油圧制御弁を挿入する複数のバルブ挿入溝、およびこのバルブ挿入溝にそれぞれ連通する油路L1〜L6を有している。
TCUは、バルブボディに搭載されて、複数の電磁油圧制御弁を駆動することで、自動変速機の変速制御等を行う。
バルブボディおよびTCUは、トランスミッションケースの下部に取り付けられるオイルパン内に設置されている。
【0022】
複数の電磁油圧制御弁のうちの少なくとも1つの電磁油圧制御弁は、内燃機関(エンジン)により駆動される油圧発生手段であるオイルポンプ(図示せず)によって発生した油圧(ライン圧)を調圧して自動変速機に組み込まれる摩擦係合要素(クラッチまたはブレーキ)へ送るソレノイドバルブである。
電磁油圧制御弁は、ライン油圧を入力すると共に、入力したライン油圧を調圧して出力するスプールバルブと、このスプールバルブを駆動する電磁アクチュエータであるリニアソレノイドとを備えている。
【0023】
スプールバルブは、バルブボディのバルブ挿入溝(凹部)内に嵌合配置される円筒状のスリーブ1と、このスリーブ1のスプール孔2内に往復移動(摺動)可能に嵌合配置されるスプール3と、スリーブ1の軸線方向の一端(前端)に螺子締結されるエンドプレート(プラグ)4と、スプール3とエンドプレート4との間に設置されたリターンスプリング5とを備えている。
ここで、本実施例では、バルブボディとスリーブ1とが別パーツ化されているが、バルブボディとスリーブ1とを一体化することで、バルブボディのバルブ挿入溝の周縁をスプール3を収容するスリーブとして使用しても良い。
【0024】
スリーブ1の内部には、軸線方向の一端側から他端側まで真っ直ぐに延びるスプール孔2が形成されている。このスリーブ1の内周面、つまりスプール孔2の孔壁面と、スプール3の第1小径軸部(スプール軸部6)との間には、連通部である円筒状の連通室7が形成されている。また、スリーブ1の内周面、つまりスプール孔2の孔壁面と、スプール3の第2小径軸部(スプール軸部8)との間には、円筒状のフィードバック室9が形成されている。
スリーブ1には、自動変速機で使用される作動油(オイル)が流出入する複数のポートが、スリーブ1の内部と外部とをスプール孔2の軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に連通している。
【0025】
複数のポートは、バルブボディの油路L1に連通するインレットポート(Inポート)11と、バルブボディの油路L2に連通するアウトレットポート(Outポート)12と、バルブボディの油路L3に連通するフィードバックポート(F/Bポート)13と、バルブボディの油路L4〜L6に連通する排出ポート(Exポート)14〜16とからなる。
インレットポート11のポート開口部の周縁(開口周縁)には、スプール3の外周面が摺接するシート(摺接面)17が一体的に形成されている。また、スリーブ1のソレノイド側の端部には、リニアソレノイドに結合する円環状のフランジ18が一体的に形成されている。
スプール3は、スリーブ1の内径よりも小さい外径を有するスプール軸部6、8と、複数のポート間の連通状態を制御する複数の第1〜第3ランド21〜23とを備えている。また、第1ランド21とスプール軸部6との間には、インレットポート11から連通室7への作動油の流入角度を制御する絞り段部24が一体的に形成されている。
なお、スプールバルブの主要部品であるスリーブ1およびスプール3の詳細は、後述する。
【0026】
リニアソレノイドは、スプール3と一体移動可能に連結した非磁性体製のシャフト31と、スプール3およびシャフト31と一体移動可能に連結した磁性体製のプランジャ32と、通電されると周囲に磁束を発生するコイル33と、このコイル33と外部回路(外部電源や外部制御回路:TCU)との接続を行うための外部接続用コネクタ34と、コイル33の内周側に磁路を形成するコイル内周側固定コア(ステータコア41、42、磁気抵抗部43)と、コイル33の外周側に磁路を形成するコイル外周側固定コア(有底円筒状のヨーク44)とを備えている。
【0027】
プランジャ32は、コイル33が通電されると励磁(磁化)される磁性金属(例えば鉄等の強磁性材料)よりなる磁性移動体である。
プランジャ32は、コイル33への通電に伴って形成される磁気回路の一部を構成する磁性移動体であって、ステータコア42内をその軸線方向に往復摺動可能な可動コア(ムービングコア)である。このプランジャ32は、スプール3に伝わるリターンスプリング5の付勢力によってスプール3、シャフト31と共に、ヨーク44の底面側へ付勢される。また、プランジャ32には、ステータコア42内での変位に伴うプランジャ前後空間の空気の流動を確保するために、プランジャ両端面を連通する呼吸孔35が軸線方向に設けられている。
【0028】
コイル33は、電力の供給を受けると(電流印加または通電されると)、プランジャ32をステータコア41の磁気吸引部36側に引き寄せる磁力を発生する磁束発生手段(磁力発生手段)である。コイル33が通電されると、プランジャ32、ステータコア41、42、磁気抵抗部43およびヨーク44を磁束が集中して通る磁気回路が形成される。
コイル33は、磁力によってスプール3、シャフト31およびプランジャ32を、スリーブ1とスプール3の軸線方向の一方側(前方側)へ駆動するものである。コイル33は、絶縁性を有する合成樹脂製のボビン37に、絶縁被膜を施した導線を複数回巻装したソレノイドコイルである。
【0029】
コイル33は、ボビン37に巻装されたコイル部、およびこのコイル部より引き出された一対のコイル端末リードを有している。
一対のコイル端末リードは、外部接続用コネクタ34のターミナル(外部接続端子)38を介して、外部回路(外部電源や外部制御回路:TCU)と接続されている。なお、コイル33の外周部、およびコイル33とターミナル38との導通接合部は、絶縁性を有するモールド樹脂材により被覆されて保護されている。
モールド樹脂材の外周部は、ターミナル38の先端を露出して収容する外部接続用コネクタ34のハウジングを形成している。
【0030】
コイル内周側固定コアおよびコイル外周側固定コアよりなる磁気固定子は、コイル33が通電されると励磁(磁化)される磁性金属(例えば鉄等の強磁性材料)よりなる磁性固定体である。
コイル内周側固定コアは、シャフト31およびプランジャ32をその軸線方向に摺動可能に嵌合支持するステータコア41、42と、ステータコア41、42間の磁束の漏れを低減する磁気抵抗部43とを磁性材により一体的に設けた一体部品である。
磁気抵抗部43は、ステータコア41、42を連結する薄肉部によって構成されている。
ヨーク44は、開放された開口端側から奥側まで延びる第1、第2凹部、および第1凹部の底面と第2凹部の底面との間に形成される円筒状の段差45を磁性材により一体的に設けた一体部品である。
なお、ステータコア41とステータコア42とが非磁性材を挟んで連結していても良い。
【0031】
ここで、本実施例の電磁油圧制御弁では、リニアソレノイドのコイル33への印加電圧値または供給電流値等の供給電力が増加する程、初期位置に対する、スプール3、シャフト31およびプランジャ32のストローク量(リフト量、移動量)が大きく(または小さく)なるように構成されている。
また、電磁油圧制御弁では、スリーブ1のフランジ18とステータコア41のフランジ46との外径を一致させ、フランジ18、46をヨーク44の開口端側の薄肉部47の内面に収納した後に、薄肉部47を内側に折り曲げてフランジ18、46をかしめ固定している。また、ヨーク44の段差45で、スリーブ1およびステータコア41、42の同軸をとっている。
これにより、プランジャ32とステータコア41との間に、摺動クリアランスとしても機能する、非常に狭いサイドギャップを形成できるので、スリーブ1、スプール3、シャフト31、プランジャ32、ステータコア41、42およびヨーク44が同軸的に配置される。
【0032】
以上のように構成されたリニアソレノイドでは、ターミナル38を介してコイル33が通電されると、ヨーク44、ステータコア41、プランジャ32、ステータコア42、ヨーク44の順にコイル33の周囲を周回するように磁束が流れる磁気回路が形成される。これにより、ステータコア41の磁気吸引部36とプランジャ32との間に磁気吸引力が作用してプランジャ32が吸引される。
ここで、プランジャ32の先端面には、ステータコア41の軸受け部の摺動孔を軸線方向に摺動可能なシャフト31が当接しているので、プランジャ32の吸引に伴ってシャフト31が軸線方向の前方側(図示左方向)に押し出される。この結果、スプールバルブのスプール3がリニアソレノイドにより駆動される。
【0033】
次に、本実施例のスプールバルブの詳細を図1ないし図3に基づいて説明する。
スプールバルブは、フランジ18がヨーク44の開口端部およびステータコア41のフランジ46に取り付けられた円筒状のスリーブ1と、リニアソレノイドのシャフト31の先端に連結されたスプール3と、スリーブ1の軸線方向の一端側開口部を塞ぐエンドプレート4と、スプール3を軸線方向の他方側(後方側、ソレノイド側)へ付勢するリターンスプリング5とを備えている。なお、エンドプレート4は、スリーブ1に対する捩じ込み位置を調整することで、リターンスプリング5の付勢力(バネ荷重)を調整することが可能である。
【0034】
スリーブ1は、例えばアルミニウム合金等の金属材料によって円筒形状に形成されており、スプール3を摺動自在に支持するスプール支持部材である。
スリーブ1の軸線方向の中央部では、オイルポンプから圧送された作動油を、スリーブ1の外部(油路L1)からスプール孔2の内部(連通室7)に流入させるためのインレットポート11が形成されている。
インレットポート11の図示右隣には、スリーブ1の外部(油路L2)を介して、クラッチ(またはブレーキ)へ作動油を吐出させるアウトレットポート12が形成されている。
インレットポート11の図示左隣には、アウトレットポート12から吐出された作動油を外部に形成された油路L3を介して入力してスプール3をフィードバックするフィードバックポート13が形成されている。
【0035】
インレットポート11およびアウトレットポート12は、互いにスプール孔2の軸線方向に所定距離を隔てた位置で開口している。また、インレットポート11およびフィードバックポート13は、互いにスプール孔2の軸線方向に所定距離を隔てた位置で開口している。
フィードバックポート13の図示左隣には、スリーブ1の外部(油路L4)を介して、作動油をドレンする排出ポート14が形成されている。
アウトレットポート12の図示右隣には、スリーブ1の外部(油路L5、L6)を介して、作動油をドレンする排出ポート15、16が形成されている。
インレットポート11のポート開口部の周縁(開口周縁)には、スプール3の第1ランド21の外周面が摺接する凹曲面形状のシート17が一体的に形成されている。
【0036】
インレットポート11は、スリーブ1の外部(油路L1)からスプール孔2の内部(連通室7)へ向かって作動油を流入させる第1ポート(入力ポート)である。このインレットポート11は、スリーブ1の外周面で開口した第1連通孔、およびこの第1連通孔とスプール孔側で連通すると共に、スリーブ1の内周面で開口した円環状の第1凹溝(入力溝)51を有している。
インレットポート11の第1連通孔は、第1凹溝51の周面で、スリーブ1の軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に開口し、スリーブ1の半径方向に延設されている。
第1凹溝51は、スリーブ1の内周面、つまりスプール孔2の孔壁面に円周方向に延長されている。この第1凹溝51は、スリーブ1の内周面から半径方向の外部側へ凹んでいる。
【0037】
アウトレットポート12は、スプール孔2の内部(連通室7)からスリーブ1の外部(油路L2)へ向かって作動油を流出させる第2ポート(出力ポート)である。このアウトレットポート12は、スリーブ1の外周面で開口した第2連通孔、およびこの第2連通孔とスプール孔側で連通すると共に、スリーブ1の内周面で開口した円環状の第2凹溝(出力溝)52を有している。
アウトレットポート12の第2連通孔は、第2凹溝52の周面で、スリーブ1の軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に開口し、スリーブ1の半径方向に延設されている。 第2凹溝52は、第1凹溝51と同様に、スリーブ1の内周面、つまりスプール孔2の孔壁面に円周方向に延長されている。この第2凹溝52は、スリーブ1の内周面から半径方向の外部側へ凹んでいる。
【0038】
フィードバックポート13は、スリーブ1の外部(油路L3)からスプール孔2の内部(フィードバック室9)へ向かって作動油を流入させる第3ポートである。なお、油路L3は、油路L2を介して、アウトレットポート12に連通している。
フィードバックポート13は、スリーブ1の外周面で開口した第3連通孔、およびこの第3連通孔とスプール孔側で連通すると共に、スリーブ1の内周面で開口した円環状の第3凹溝(フィードバック溝)53を有している。
フィードバックポート13の第3連通孔は、第3凹溝53の周面で、スリーブ1の軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に開口し、スリーブ1の半径方向に延設されている。
第3凹溝53は、第1、第2凹溝51、52と同様に、スリーブ1の内周面、つまりスプール孔2の孔壁面に円周方向に延長されている。この第3凹溝53は、スリーブ1の内周面から半径方向の外部側へ凹んでいる。
【0039】
排出ポート14〜16は、スプール孔2の内部からスリーブ1の外部(油路L4〜L6)へ向かって連通室7またはフィードバック室9からリークした作動油を流出させる第4〜第6ポートである。排出ポート14、15は、スリーブ1の外周面で開口した第4、第5連通孔、およびこの第4、第5連通孔とスプール孔側で連通すると共に、スリーブ1の内周面で開口した円環状の第4、第5凹溝(排出溝)54、55を有している。
排出ポート14、15の第4、第5連通孔は、第4、第5凹溝54、55の周面で、スリーブ1の軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に開口し、スリーブ1の半径方向に延設されている。
第4、第5凹溝54、55は、第1〜第3凹溝51〜53と同様に、スリーブ1の内周面、つまりスプール孔2の孔壁面に円周方向に延長されている。これらの第4、第5凹溝54、55は、スリーブ1の内周面から半径方向の外部側へ凹んでいる。
また、排出ポート16は、スリーブ1の外周面で開口した第6連通孔を有している。
排出ポート16の第6連通孔は、スリーブ1の内周面で、スリーブ1の軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に開口し、スリーブ1の半径方向に延設されている。
【0040】
スプール3は、例えばアルミニウム合金等の金属材料によって円柱形状に形成されており、スリーブ1のスプール孔2内に往復移動可能に挿入されている。このスプール3は、その軸線方向に対して垂直な断面が楕円形状に形成されており、スプール軸部6、8、複数の第1〜第3ランド21〜23および絞り段部24を備えている。
スプール軸部6は、第1〜第3ランド21〜23よりも小さい直径(外径)を有し、第1ランド21と第2ランド22とを連動可能に連結している。
スプール軸部8は、第1〜第3ランド21〜23よりも小さい直径(外径)を有し、第1ランド21と第3ランド23とを連動可能に連結している。
ここで、スプール軸部8の外径は、スプール軸部6の外径よりも大きい。
【0041】
複数の第1〜第3ランド21〜23は、スリーブ1の内径と略同一の外径を有している。これらの第1〜第3ランド21〜23の外周面は、スリーブ1のスプール孔2の孔壁面と摺動する摺動部(摺動面)となっている。なお、複数の第1〜第3ランド21〜23の摺動面とスリーブ1のスプール孔2の孔壁面との間には、スプール3の往復摺動を可能とするための摺動クリアランスが形成されている。
第1ランド21は、スプール軸部6、8よりも大きい直径(外径)を有している。
第2ランド22は、スプール軸部6、8よりも大きい直径(外径)を有し、且つ第1ランド21と同一の直径(外径)を有している。
第3ランド23は、スプール軸部6、8よりも大きい直径(外径)を有している。
ここで、第3ランド23の外径は、2つの第1、第2ランド21、22の外径よりも小さい。
【0042】
本実施例のスプールバルブでは、スプール3の移動量(ストローク量)が第1所定値以下の時に、第1ランド21がインレットポート11全面と重なり、インレットポート11を完全に閉鎖する。このとき、スリーブ1のスプール孔2の孔壁面とスプール軸部6の外周との間に形成される連通室7は、少なくともアウトレットポート12に連通している。 また、スプールバルブでは、スプール3のストローク量が第1所定値よりも大きい第2所定値以上の時に、第1ランド21がインレットポート11と部分的に重なり、インレットポート11を部分的に開放する。あるいは第1ランド21がインレットポート11全面を開放する。このとき、スリーブ1のスプール孔2の孔壁面とスプール軸部6の外周との間に形成される連通室7は、インレットポート11とアウトレットポート12とを連通している。
すなわち、スプール3の第1ランド21は、スリーブ1のシート17に対する移動量に応じてインレットポート11の開口面積を変更する機能を有している。また、スリーブ1のスプール孔2の孔壁面とスプール軸部6の外周との間に形成される連通室7は、アウトレットポート12に常時連通している。
また、スプール3の第1ランド21とスプール軸部6との間には、スプール3の軸線方向に奥行き(長さ)を有する1段以上の絞り段部24が一体的に形成されている。
【0043】
本実施例のスプール3は、第1ランド21と絞り段部24との間に設けられて、スプール3の軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に延びる円環状の第1段差61と、スプール軸部6と絞り段部24との間に設けられて、スプール3の軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に延びる円環状の第2段差62と、スプール軸部6と第2ランド22との間に設けられて、スプール3の軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に延びる円環状の第3段差63とを備えている。
これにより、絞り段部24の軸線方向の一端が第1段差61を介して第1ランド21に接続し、また、スプール軸部6の軸線方向の一端が第2段差62を介して絞り段部24に接続し、また、スプール軸部6の軸線方向の他端が第3段差63を介して第2ランド22に接続している。
【0044】
ここで、スプール3の第1ランド21は、図2(a)、(b)および図3に示したように、その連通室7側(スプール軸部6側)の端面(第1段差61)に、第1ランド21の外周面からスプール1の中心軸線側の所定位置(絞り段部24の外周面と一致する位置)までスプール3の軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に切り込まれて形成される複数のノッチ71を備えている。
また、スプール3の第1ランド21は、図2(c)、(d)および図3に示したように、その連通室7側(スプール軸部6側)の端面に、第1ランド21の外周面からスプール1の中心軸線側の所定位置(スプール軸部6の外周面と一致する位置)までスプール3の軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に切り込まれて形成される複数のノッチ72を備えている。
【0045】
複数のノッチ71、72は、第1ランド21の円周方向に所定の間隔(例えば180°の角度間隔)で形成されている。また、複数のノッチ71、72は、スリーブ1の第1凹溝51を伴って油路L1およびインレットポート11の第1連通孔から連通室7へ流入する作動油の流量(特に微少流量)を制御するものである。これにより、スプール3のストローク変化(移動量)に対してインレットポート11の開口面積が緩やかに変化する特性(ストローク−開口面積特性)を備えたスプールバルブを構成できる。
なお、複数のノッチ71、72の幅を、第1段差61の垂直面から第1ランド21の外周面またはノッチ底面へ向かって徐々に狭くしても良い。この場合には、スプール3の移動(ストローク)に伴ってインレットポート11の開口面積が徐々に増加する、滑らかな開口特性となる。これによって、スプールバルブの流量特性は、開口特性に依存するので、急激に流量が増加する特性ではなく、滑らかな流量特性を得ることができる。
【0046】
ここで、本実施例のスプールバルブは、図3および図4に示したように、次の特徴(スプール3の絞り段部24の形状)を備えている。
スプール3の軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向における、第1ランド21の外周面と絞り段部24の外周面との距離(第1段差61の高さ)をy1とし、スプール3の軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向における、スプール軸部6の外周面と第1ランド21の外周面との距離(第1段差61の高さ+第2段差62の高さ)をy2とし、スプール3の軸線方向における、絞り段部24の奥行きの長さをL1とし、スプール3の軸線方向における、2つの第1、第2ランド21、22間の距離の半分の長さをL2としたとき、
y1とL1との比である(y1/L1)は、
0.5×(y2/L2)<y1/L1<1.5×(y2/L2)
の関係を満足する値に設定されている。
なお、y1とL1との比である(y1/L1)と、y2とL2との比である(y2/L2)とを一致させることが望ましい。
【0047】
[実施例1の作用]
次に、本実施例の電磁油圧制御弁の作動を図1ないし図3に基づいて簡単に説明する。 コイル33へ電力が供給されていない場合、スプール3は、リターンスプリング5の付勢力によりソレノイド側の初期位置に止まっている。
つまりスプール3のストローク量が第1所定値以下のとき、スプール3の第1ランド21がインレットポート11を塞ぐ(全閉する)。また、絞り段部24の端面(第2段差62)と第2ランド22の端面(第3段差63)との間で、且つスプール軸部6の周囲を取り囲むように設けられる連通室7が、アウトレットポート12と排出ポート15とを連通する。
【0048】
したがって、オイルポンプからバルブボディの油路L1を経てインレットポート11に流入している作動油は、スリーブ1のスプール孔2の内部への流入が阻止される。また、クラッチ(またはブレーキ)から油路L2を経てアウトレットポート12まで戻された作動油は、連通室7を介して排出ポート15から油路L5へ排出されて、クラッチ(またはブレーキ)に作用している油圧が下降する。
このように、本実施例の電磁油圧制御弁は、コイル33への電力の供給が成されない時に、インレットポート11とアウトレットポート12との連通が遮断されるため、ノーマリクローズタイプのソレノイドバルブ(電磁スプールバルブ)として機能する。
【0049】
一方、コイル33へ電力が供給(電流印加)されると、コイル33を流れる電流の大きさに対応した磁気吸引力でステータコア41の磁気吸引部36にプランジャ32が吸引される。これに伴って、先端にスプール3が連結されたシャフト31が軸線方向の前方側へ押し出されることにより、スプール3がエンドプレート4側へ移動する。
ここで、スプール3がエンドプレート4側に移動してスプール3のストローク量が第1所定値よりも大きい第2所定値以上となったとき、ノッチ71、72を介して、連通室7とインレットポート11とが連通する。これにより、連通室7を介して、インレットポート11の第1連通孔および第1凹溝51とアウトレットポート12の第2連通孔および第2凹溝52とを連通する。
このとき、スプール3は、プランジャ32の推力(磁気吸引力)とリターンスプリング5の付勢力とアウトレットポート12からフィードバックポート13へ入力される作動油の圧力(フィードバック油圧)によりスプール3に作用するフィードバック力(軸力)とが釣り合う位置で停止し、スプール3がエンドプレート4側に移動する程、インレットポート11の第1連通孔および第1凹溝51の開口面積を拡げる。
【0050】
したがって、オイルポンプから油路L1を経てインレットポート11の第1連通孔に流入している作動油は、ノッチ71、72、第1凹溝51を介してスリーブ1のスプール孔2の内部(連通室7)へ流入する。さらに、連通室7から第2凹溝52を介してアウトレットポート12の第2連通孔から油路L2へ出力されて、クラッチ(またはブレーキ)に作用する油圧が上昇する。
さらに、スプール3のストローク量がより大きくなると、スプール3のストローク量の増加に伴ってインレットポート11の第1連通孔および第1凹溝51の開口面積が大きくなる。これに伴ってアウトレットポート12の第2連通孔から油路L2へ出力されて、クラッチ(またはブレーキ)に作用する油圧が大きくなる。つまりスプール3の第1ランド21とインレットポート11との一部が重なるオーバラップ量に応じてクラッチ(またはブレーキ)に出力される油圧が調圧される。
【0051】
[実施例1の効果]
以上のように、本実施例の油圧制御装置のバルブボディに組み込まれる電磁油圧制御弁は、バルブボディに保持されるスリーブ1のスプール孔2内にスプール3を往復摺動可能に収容したスプールバルブと、このスプールバルブのスプール3を動作させる電磁アクチュエータとしてのリニアソレノイドとによって構成されている。
スプール3の第1ランド21の連通室7側(スプール軸部6側)の端面には、スリーブ1のインレットポート11とスプール3の第1ランド21とが重なりインレットポート11が閉鎖状態(遮断状態)となる(オーバラップする)オーバラップ領域から、インレットポート11が開放状態となるポート開口領域へ移行する際に、インレットポート11の開口面積の急変を抑制するためのノッチ71、72が形成されている。
【0052】
そして、スプール3のスプール軸部6と第1ランド21との間に、スリーブ1のインレットポート11からスリーブ1のスプール孔2の内部(連通室7)への作動油の流入角度を制御する絞り段部24を設けている。
ここで、作動油の流入角度とは、第1ランド21の表面(外周面)と第1段差61の端面(垂直面)とが交差する稜線(EL1)から、絞り段部24の表面(外周面)と第2段差62の端面(垂直面)とが交差する稜線(EL2)を通り、スプール軸6の表面(外周面)の所定位置(P)に至る直線(L)とスプール軸6の軸線方向に延びる外形線との角度のことを言う(図4参照)。
【0053】
これによって、オーバラップ領域とポート開口領域との境界部において、インレットポート11から連通室7内へ流入する作動油の流れの方向が急変するような不具合の発生が生じ難くなるので、図3(a)に示したオーバラップ領域から、図3(b)に示したポート開口領域へ移行した場合であっても、インレットポート11から連通室7内へ流入する作動油の流入角度が小さいままとなる。
オーバラップ領域では、インレットポート11と連通室7とが連通し、連通室7内へ流入した作動油は、スプール軸部6の表面を開弁(X)方向および閉弁(Y)方向双方に流れる。また、ポート開口領域では、インレットポート11と連通室7とが連通し、連通室7内へ流入した作動油は、スプール軸部6の表面を開弁(X)方向および閉弁(Y)方向双方に流れる。
【0054】
すなわち、オーバラップ領域からポート開口領域へ移行した場合であっても、インレットポート11から連通室7への作動油の流入角度を小さく抑制することができる。これにより、スプール3の第2ランド22の端面(第3段差63)に印加される流体力、つまりインレットポート11の開口面積を小さくする側(閉弁方向)に作用する流体力が急激に増加することはない。
【0055】
また、ポート開口領域であっても、インレットポート11から連通室7への作動油の流入角度が小さい状態が継続されるため、インレットポート11から連通室7を経てアウトレットポート12へ向かう作動油の流量(In−Out流量)の変化(増加)に対応して、スプール3の第2ランド22に印加される流体力が連続的に滑らかに変化(増加)する(図3(c)参照)。
具体的には、オーバラップ領域では、開弁方向の流体力(X)と閉弁方向の流体力(Y)とが作用するので、スプール3の第2ランド22の端面(第3段差63)に印加される流体力(Z)は小となる。また、ポート開口領域では、開弁方向の流体力(X)と閉弁方向の流体力(Y)とが作用するので、スプール3の第2ランド22の端面(第3段差63)に印加される流体力(Z)は小のままとなる。
【0056】
したがって、オーバラップ領域とポート開口領域との境界部において、リニアソレノイドのコイル33への供給電力(印加電圧値または供給電流値)に対応したストローク量を得ることができるので、リニアソレノイドのコイル33への供給電力(印加電圧値または供給電流値)に対応した、インレットポート11の開口面積、つまり十分な開口面積を確保することができる。
また、電磁アクチュエータの動力(リニアソレノイドのコイル33の磁気吸引力)を利用してシャフト31、プランジャ32およびスプール3をその軸線方向(ストローク方向)へ移動(ストローク)させる際の、シャフト31、プランジャ32およびスプール3の動作応答性を向上することができる。
【0057】
ここで、スプール3の絞り段部24の理想形状は、y1とL1との比である(y1/L1)と、y2とL2との比である(y2/L2)とが一致している場合である(図4(b)参照)。この場合には、インレットポート11と連通室7とが連通し、インレットポート11から連通室7内へ流入した作動油が、スプール軸部6の表面を開弁方向(X方向)および閉弁方向(Y方向)に均等に流れる。このとき、スプール3の第2ランド22の端面(第3段差63)に対してインレットポート11の閉弁方向に作用する流体力が最小となる。
なお、スプール3の絞り段部24の実際の適用形状は、スリーブ1またはスプール3の製造ばらつきを考慮して、y1とL1との比である(y1/L1)を、{0.5×(y2/L2)}よりも大きく、且つ{1.5×(y2/L2)}よりも小さい値に設定しても良い。この場合、オーバラップ領域とポート開口領域との境界部での、インレットポート11から連通室7内へ流入する作動油の流れ方向の変化が小さくなるため、より効果的である。
【実施例2】
【0058】
図5は本発明の実施例2を示したもので、図5はスプールバルブのスプールを示した図である。
【0059】
本実施例のスプール3は、図5(a)、(b)に示したように、その軸線方向に対して垂直な断面が円形状に形成されており、スプール軸部6、8、複数の第1〜第3ランド21〜23および絞り段部24を備えている。
スプール3の絞り段部24は、実施例1及び2と同様に、y1とL1との比である(y1/L1)と、y2とL2との比である(y2/L2)とが一致する形状となるように設定されている。なお、スリーブ1またはスプール3の製造ばらつきを考慮して、y1とL1との比である(y1/L1)を、{0.5×(y2/L2)}よりも大きく、且つ{1.5×(y2/L2)}よりも小さい値に設定しても良い。
【0060】
ここで、本実施例のスプール3の第1ランド21は、図5(c)、(d)に示したように、その連通室7側(スプール軸部6側)の端面(第1段差61)に、第1ランド21の外周面からスプール1の中心軸線側の所定位置(絞り段部24の外周面と一致する位置)までスプール3の軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に切り込まれて形成される複数のノッチ71を備えている。
また、スプール3の第1ランド21は、図5(e)、(f)に示したように、その連通室7側(スプール軸部6側)の端面に、第1ランド21の外周面からスプール1の中心軸線側の所定位置(スプール軸部6の外周面と一致する位置)までスプール3の軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に切り込まれて形成される複数のノッチ72を備えている。
【0061】
[変形例]
本実施例では、本発明の流体制御弁を、自動車の自動変速機の油圧制御を行う油圧制御装置に組み込まれる電磁油圧制御弁に適用しているが、本発明の流体制御弁を、流体圧制御弁、流体流量制御弁、流路切替制御弁に適用しても良い。
また、流体制御弁として、自動変速機で使用する作動油(ATF、オイル)だけでなく、内燃機関(エンジン)に供給する燃料、内燃機関(エンジン)や自動変速機の摺動部に供給する潤滑油、内燃機関(エンジン)等の高温部に循環供給される冷却水等の流量、圧力を制御する流体制御弁に適用しても良い。
【0062】
本実施例では、本発明のスプールバルブのスプール3を駆動するアクチュエータを、電磁アクチュエータであるリニアソレノイドによって構成しているが、本発明のスプールバルブを動作させるアクチュエータを、電動モータを駆動源とする電動アクチュエータ、電磁式または電動式負圧制御弁を備えた負圧作動式アクチュエータによって構成しても良い。
本実施例のスプール3のノッチ71、72の幅を、第1段差61の垂直面から第1ランド21の外周面へ向かって徐々に狭くしても良い。この場合、スプール3の移動によってインレットポート11の開口面積が徐々に増加する、滑らかな開口特性となる。よって、スプールバルブの流量特性は、開口特性に依存するので、滑らかな流量特性を得ることができる。
【0063】
また、複数のノッチ71、72は、断面形状が凹形状の凹みであるが、凹形状として半円形状、楕半円形状、長半円形状であっても、矩形状であっても構わない。また、ノッチ71、72は、第1ランド21の端面に1個だけ設けても良い。
なお、図4および図5(a)に示したように、複数のノッチ71、72を設けなくても良い。
また、ノッチの代わりに、スリーブ1のインレットポート11の開口周縁の一部、あるいはスプール3の第1ランド21の外周面と第1段差61の垂直面とが交差する稜線(エッジライン:EL1)に、第1ランド21がインレットポート11を閉鎖状態(全閉状態)から開弁し始める開弁初期における特性(スプール3のストローク量−開口面積特性、流量特性)を定めるための面取りを設けても良い。
【符号の説明】
【0064】
1 スリーブ
2 スリーブのスプール孔
3 スプール
6 スプール軸部(第1小径軸部)
7 連通室(連通部)
8 スプール軸部(第2小径軸部)
9 フィードバック室
11 インレットポート(第1ポート)
12 アウトレットポート(第2ポート)
13 フィードバックポート(第3ポート)
17 スリーブのシート(摺接面)
21 第1ランド
22 第2ランド
23 第3ランド
24 絞り段部
51 インレットポートの第1凹溝
52 アウトレットポートの第2凹溝
53 フィードバックポートの第3凹溝
61 第1段差
62 第2段差
63 第2段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)軸線方向に延びるスプール孔、およびこのスプール孔の内部と外部を連通する複数のポートを有する筒状のスリーブと、
(b)このスリーブのスプール孔内に往復摺動可能に支持されて、前記複数のポートの連通状態を制御する2つの第1、第2ランド、およびこれらの第1、第2ランドを連動可能に連結する小径軸部を有するスプールと、
(c)このスプールをその移動方向に駆動するアクチュエータと
を備えた流体制御弁において、
前記複数のポートは、前記スリーブの内面で開口し、且つ外部から内部へ向けて流体を流入させる第1ポート、および前記スリーブの内面で開口し、且つ内部から外部へ向けて流体を流出させる第2ポートを有し、
前記スリーブの内面と前記小径軸部の外面との間には、前記第1ポートと前記第2ポートとを連通する連通部が設けられており、
前記第1ランドと前記小径軸部との間には、前記第1ポートから前記連通部への流体の流入角度を制御する絞り段部が設けられていることを特徴とする流体制御弁。
【請求項2】
請求項1に記載の流体制御弁において、
前記スリーブは、前記第1ポートの開口周縁に設けられて、前記第1ランドの外面が摺接するシートを有し、
前記第1ランドは、前記シートに対する移動量に応じて前記第1ポートの開口面積を変更することを特徴とする流体制御弁。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の流体制御弁において、
前記第1ランドは、前記スプールのストローク量が第1所定値以下の時、前記第1ポートを閉鎖することを特徴とする流体制御弁。
【請求項4】
請求項3に記載の流体制御弁において、
前記第1ランドは、前記スプールのストローク量が前記第1所定値よりも大きい第2所定値以上の時、前記第1ポートを開放することを特徴とする流体制御弁。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載の流体制御弁において、
前記第1ランドは、その連通部側の端面に、前記第1ランドの外面から前記スプールの中心軸線側の所定位置まで前記スプールの軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に切り込まれて形成されるノッチを有していることを特徴とする流体制御弁。
【請求項6】
請求項5に記載の流体制御弁において、
前記第1ランドの外面から前記スプールの中心軸線側の所定位置までとは、
前記第1ランドの外面から前記絞り段部の外面と一致する位置までのことであることを特徴とする流体制御弁。
【請求項7】
請求項5に記載の流体制御弁において、
前記第1ランドの外面から前記スプールの中心軸線側の所定位置までとは、
前記第1ランドの外面から前記小径軸部の外面と一致する位置までのことであることを特徴とする流体制御弁。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のうちのいずれか1つに記載の流体制御弁において、
前記スプールは、その軸線方向に対して垂直な断面が楕円形状に形成されていることを特徴とする流体制御弁。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のうちのいずれか1つに記載の流体制御弁において、
前記アクチュエータは、電力の供給を受けると磁力を発生するコイルを有し、
前記コイルへの供給電力に応じて前記スプールをその軸線方向に移動させることを特徴とする流体制御弁。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のうちのいずれか1つに記載の流体制御弁において、
前記第1ポートまたは前記第2ポートは、前記スリーブの軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に開口していることを特徴とする流体制御弁。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のうちのいずれか1つに記載の流体制御弁において、
前記第1ポートおよび前記第2ポートは、互いに前記スプール孔の軸線方向に所定距離を隔てた位置で開口していることを特徴とする流体制御弁。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のうちのいずれか1つに記載の流体制御弁において、
前記スプールは、前記第1ランドと前記絞り段部との間に、前記スプールの軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に延びる環状の第1段差を有していることを特徴とする流体制御弁。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のうちのいずれか1つに記載の流体制御弁において、
前記スプールは、前記絞り段部と前記小径軸部との間に、前記スプールの軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向に延びる環状の第2段差を有していることを特徴とする流体制御弁。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のうちのいずれか1つに記載の流体制御弁において、
前記スプールの軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向における、前記第1ランドと前記絞り段部との距離をy1、
前記スプールの軸線方向に対して垂直な半径(放射)方向における、前記第1ランドと前記小径軸部との距離をy2、
前記スプールの軸線方向における、前記絞り段部の奥行きの長さをL1、
前記スプールの軸線方向における、前記2つの第1、第2ランド間の距離の半分の長さをL2としたとき、
y1とL1との比(y1/L1)は、
0.5×(y2/L2)<y1/L1<1.5×(y2/L2)
の関係を満足する値に設定されていることを特徴とする流体制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−255508(P2012−255508A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129765(P2011−129765)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】