説明

流体動圧軸受およびこれを備えたモータ

【課題】信頼性の高い流体動圧軸受およびこれを備えたモータを提供する。
【解決手段】流体動圧軸受30は、貫通孔41を有するスリーブ32と、貫通孔41内に配置され、かつスリーブ32に対して回転可能であるシャフト13と、貫通孔41の下端部を覆い、かつスリーブ32に固定されるスラストカバー33と、スラストカバー33とシャフト13の下端部との間に配置され、かつシャフト13と接触するスラスト板34とを備える。スラスト板34は、シャフト13側を向いた面であってスリーブ32と接触する上面34aを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体動圧軸受およびこれを備えたモータに関し、より特定的には、信頼性の高い流体動圧軸受およびこれを備えたモータに関する。
【背景技術】
【0002】
モータにおいては、ステータに対してロータを回転可能に支持するために、玉軸受や流体動圧軸受などが用いられている。このうち、流体動圧軸受は回転時に発生する流体の動圧を利用して、シャフトを軸架したものである。流体動圧軸受には、シャフト外周部もしくは、シャフトが挿入されるスリーブ内周部の少なくとも一方に動圧発生用の溝が配置されている。流体動圧軸受の構造としては、シャフトとスリーブの隙間に介在させた流体の発生動圧でラジアル軸受を形成し、さらにシャフト下端部もしくは、シャフト下端部に対向した位置にスラスト受け部材を配置し、同様にシャフト下端部もしくは、スラスト受け部材の少なくとも一方に配置された動圧発生用の溝にて発生した動圧で荷重を受けるスラスト軸受を形成した構造が知られている。なお近年、シャフト下端部に動圧発生用の溝を配置せずに球面形状部を設け、シャフト下端部に対向した位置に動圧発生用の溝を有さないスラスト板を配置して荷重を受けるピボット式のスラスト軸受を、ラジアル軸受と複合させた構造も知られている。
【0003】
流体動圧軸受において、軸受内部に気泡(空気)が介在すると、発生動圧低下等により軸受特性や軸受寿命等の性能悪化を引き起こすことになり、このため、軸受内に気泡を介在させない方法(脱気方法)がいくつか提唱されている。
【0004】
第1の脱気方法は、スラスト底部に空気を逃がすための孔を構成し、軸受組立時にその孔から空気を逃がした後、孔を接着剤にて封止するものである。図13は、第1の脱気方法を模式的に示す図である。なお図13において、シャフト以外の部材は断面で示されている。
【0005】
図13を参照して、始めに(a)に示すように、スリーブ232の貫通孔232aの下部がスラストカバー233およびスラスト板234によって塞がれる(スラストカバー233が機械固定される)。スラストカバー233上にはスラスト板234が配置されている。スラストカバー233にはスラスト孔233aが開口されている。スリーブ232とスラスト板234とは接触しておらず、スリーブ232とスラスト板234との間には隙間236が形成されている。隙間236はスラスト孔233aと連通している。次に、貫通孔232aの内壁面と、シャフト231の下端部231aおよび外壁面231bとに必要以上の容積量の流体235を塗布(注油)し、シャフト231が貫通孔232a内に挿入される。流体235は油、オイル、または潤滑剤などよりなる。
【0006】
シャフト231が貫通孔232a内に挿入されると、(b)に示すように、隙間236およびスラスト孔233aを通じて貫通孔232a内から外部へ余剰オイルが排出される。また余剰オイルに含まれる形で、貫通孔232a内に存在していた空気237も気泡として余剰オイルと共に外部に押し出される。
【0007】
余剰オイルが全て排出された後、(c)に示すようにスラストカバー233の下面全体に接着剤238が塗布される。これにより、スラスト孔233aが塞がれ(接着封止され)、スリーブ232の底部が封止される。第1の脱気方法を用いて製造された流体動圧軸受は、たとえば下記特許文献1および2に開示されている。
【0008】
図14は、特許文献1および2に開示された流体動圧軸受の構造を示す図である。
【0009】
図14を参照して、この流体動圧軸受においては、軸受の組立時に空気を外部に逃がすための連通孔241aがスラスト受板241に設けられている。また固定部材242には保持溝242aが設けられており、軸受の組立時に軸受部より溢れ出る潤滑流体が保持溝242aによって保持されている。スラスト受板241は、接着剤243により固定部材242に固着されている。接着剤243は連通孔241aを塞いでいる。
【0010】
一方、第2の脱気方法は、スリーブの貫通孔の下部をスラストカバーによって封止した状態(スラスト封止状態)で軸受底部のみに注油した後、シャフトを貫通孔に対して垂直に挿入するものである。第2の脱気方法に関する技術は、たとえば下記特許文献3に開示されている。
【0011】
図15は、特許文献3に開示された流体動圧軸受の組み立て工程を示す図である。
【0012】
図15を参照して、注油の工程では、注油ノズルを用いてオイルがスリーブ251の中のスラスト受け253上に注油される。軸挿入(1)の工程では、オイルを注油したスリーブ251に、回転軸252を垂直に挿入することで、スリーブ251内部の空気を追い出しながら、回転軸252の先端が注油溜り部251b内のオイルの液面に達する。軸挿入(2)の工程では、回転軸252がスラスト受け253に突き当たるまで、注油溜り251b内のオイルの液面は空気を押し出しながら上昇する。その結果、組付後には注油溜り部251bから空気が排除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平9−72343号公報
【特許文献2】特開平9−60645号公報
【特許文献3】特開2000−346075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記第1の脱気方法には、残存する気泡の量(残存空気量)にばらつきが生じ、流体動圧軸受の信頼性が低いという問題があった。すなわち、上記第1の脱気方法では、排出させる流体の量(排出オイル量)の管理が難しく、流体動圧軸受内の流体の封入量および残存する気泡の量にばらつきがあった。その結果、排出させる流体の量が適切でなかった場合には、図13(c)に示すように空気(気泡)237が残存することが多かった。
【0015】
上記第2の脱気方法は、シャフト先端と接触したオイルの液面が軸受内空気を上方に追い出しながら上昇するものであるが、この脱気方法にも流体動圧軸受の信頼性が低いという問題があった。図15を参照して、注油されたオイルは、周囲の気泡をかみこみながらスラスト板外周部の領域A201(スラスト受け253の外周とスリーブ251との隙間)に毛細管現象によって回り込む。したがって、領域A201は完全にオイルで充填されず、領域A201には空気が残りやすかった。そして領域A201に回り込まなかったオイルは、余剰なオイルとして外部に排出されていた。その結果、領域A201に残った空気が回転軸252のラジアル側(回転軸252の外壁面とスリーブ251の内壁面との間)に回り込み、ラジアル側の動圧発生に悪影響を及ぼしていた。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、信頼性の高い流体動圧軸受およびこれを備えたモータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一の局面に従う流体動圧軸受は、貫通孔を有するスリーブと、貫通孔内に配置され、かつスリーブに対して回転可能である回転軸と、貫通孔の一方の端部を覆い、かつスリーブに固定されるスラストカバーと、スラストカバーと回転軸の一方の端部との間に配置され、かつ回転軸と接触するスラスト板とを備え、スラスト板は、回転軸側を向いた面であってスリーブと接触する面を含む。
【0018】
上記流体動圧軸受において好ましくは、スリーブとの接触部が弾性変形した状態でスラスト板は配置される。
【0019】
上記流体動圧軸受において好ましくは、少なくとも回転軸の外径側端面と貫通孔の内径側端面とにより第1の空間が構成され、少なくともスラスト板の外径側端面と貫通孔の内径側端面とにより第2の空間が構成され、第1の空間と第2の空間とはスラスト板とスリーブとの接触部により隔てられる。
【0020】
上記流体動圧軸受において好ましくは、スラストカバーは貫通孔内に通じる孔を含まない。
【0021】
本発明の他の局面に従うモータは、ステータと、ロータと、ロータをステータに対して回転可能に支持する上記のいずれかの流体動圧軸受とを備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、信頼性の高い流体動圧軸受およびこれを備えたモータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態における流体動圧軸受が適用されたポリゴンミラースキャナモータの一例を示す断面図である。
【図2】図1のポリゴンミラースキャナモータに含まれる流体動圧軸受の構成を示す拡大図である。
【図3】本発明の一実施の形態におけるポリゴンミラースキャナモータの製造方法の第1の工程を示す図である。
【図4】本発明の一実施の形態におけるポリゴンミラースキャナモータの製造方法の第2の工程を示す図である。
【図5】本発明の一実施の形態におけるポリゴンミラースキャナモータの製造方法の第3の工程を示す図である。
【図6】スラスト孔を有するスラストカバーを用いた流体動圧軸受が適用されたポリゴンミラースキャナモータの構成の一例を示す図である。
【図7】図6のスラスト板付近の構成を示す拡大図である。
【図8】図6および図7に示すスラスト板付近の構造と、図1に示すスラスト板付近の構造とを比較して示す拡大図である。
【図9】スラストカバーの取り付け方法の変型例を示す断面図である。
【図10】スラストカバーの取り付け方法の他の変型例を示す断面図である。
【図11】本発明の一実施の形態の流体動圧軸受が適用されたインナーロータ型のモータの一例を示す断面図である。
【図12】本発明の一実施の形態の流体動圧軸受が適用された平面対向型のモータの一例を示す断面図である。
【図13】従来の第1の脱気方法を模式的に示す図である。
【図14】特許文献1および2に開示された流体動圧軸受の構造を示す図である。
【図15】特許文献3に開示された流体動圧軸受の組み立て工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0025】
本実施の形態においては、レーザビームプリンタなどのレーザスキャニングに用いられるポリゴンミラースキャナモータに流体動圧軸受が適用された場合に付いて説明する。しかし本実施の形態の流体動圧軸受は、どのような部品に適用されてもよく、ポリゴンミラースキャナモータの他、たとえばHDD(Hard Disk Drive)のディスクを回転駆動するためのHDDスピンドルモータなどに適用されてもよい。
【0026】
[ポリゴンミラースキャナモータの構成]
図1は、本発明の一実施の形態における流体動圧軸受が適用されたポリゴンミラースキャナモータの一例を示す断面図である。以降の説明において、「外径側」とは、シャフト13から外部へ向かう側を意味しており、「内径側」とは、外部からシャフト13へ向かう側を意味している。
【0027】
図1を参照して、本実施の形態におけるポリゴンミラースキャナモータは、ロータ10と、ステータ20と、流体動圧軸受30と、基板40と、ポリゴンミラー50とを主に備えている。ロータ10は流体動圧軸受30によって、ステータ20に対して回転可能に支持されている。ロータ10は、ロータフレーム11、マグネット12、およびシャフト13を備えている。ロータ10において、シャフト13は、ロータフレーム11の中心部(図1における中央部)を貫くように図1における上下方向に延在している。ロータフレーム11は、シャフト13を中心としてシャフト13とともに回転可能である。マグネット12は、ステータ20と対向するようにロータフレーム11に取り付けられている。
【0028】
ロータフレーム11は、ロータフレーム11内部からの磁界の漏れを防ぐものであり、たとえば磁性体よりなっている。ロータフレーム11は、シャフト13の延在方向に対してたとえば垂直な方向(外周方向、図1における横方向)に延在する天井部14aと、シャフト13の延在方向に対してたとえば平行な方向(図1における縦方向)に延在する側壁部14bとを有している。天井部14aは平面的に見て円形状を有している。天井部14aの中心部にはシャフト13を通すための孔60が設けられており、ロータフレーム11は孔60においてシャフト13に固定されている。天井部14aの上部には、レーザ光を反射させるためのポリゴンミラー50がスプリング51によってシャフト13に固定されている。側壁部14bは、天井部14aの外径側端部から基板40側(図1における下方向)に向かって延在している。側壁部14bは円筒形状であり、外周側を向いた面である外壁面11aと、内周側を向いた面である内壁面11bとを有している。マグネット12は、内壁面11bに取り付けられている。
【0029】
ステータ20は、中央から径方向外側へ放射状に延びるように形成された複数のティース部21aを有するステータコア21と、ティース部21aの周囲に巻回されたステータコイル22とを備えている。ステータ20は、マグネット12と空間を隔てて対向するようにマグネット12よりも内周側に配置されている。ステータ20は、ステータコイル22に電圧が印加されることにより、マグネット12を回転させる磁界を発生可能である。
【0030】
基板40の中心部には孔61が形成されており、シャフト13および流体動圧軸受30のスリーブ32が孔61を貫通している。なお図示しないが、基板40には、マグネット12から受ける磁界の変化に基づいてマグネット12の回転速度を検出するFGパターンや、ブラシレスモータを駆動および制御するための駆動・制御集積回路や、チップ型電子部品(抵抗、コンデンサ)や、各ステータコイル22への電圧の印加をオン/オフするためのパワーMOSアレイなどが形成されていてもよい。
【0031】
図2は、図1のポリゴンミラースキャナモータに含まれる流体動圧軸受の構成を示す拡大図である。なお図2においては、流体動圧軸受の一部のみが示されている。
【0032】
図1および図2を参照して、流体動圧軸受30は、シャフト13(回転軸の一例)と、スリーブ32と、スラストカバー33と、スラスト板34とを含んでいる。シャフト13の外径側端面(外壁面)と、スリーブ32の貫通孔41の内壁面と、スラスト板34の上面34a(シャフト13側を向いた面)とにより構成された空間SP1には、図示しない潤滑剤などの流体が充填されている。流体はたとえば潤滑油(オイル)などの潤滑剤よりなっているが、流体として用いられる材料に特に制約はない。
【0033】
スリーブ32には、ステータ20および基板40が固定されている。スリーブ32は、図2中上下方向に延在する貫通孔41を有しており、シャフト13は、貫通孔41内においてスリーブ32に対して回転可能に配置されている。貫通孔41には、油溜まり41aが設けられていてもよい。またシャフト13の外径側端面および貫通孔41の内壁面のうち少なくとも一方には動圧を発生させるための溝(図示しない)が形成されている。
【0034】
スリーブ32の下端面は階段状になっており、3つの端面43a〜43cと、2つの内壁面44aおよび44bとにより構成されている。端面43a〜43cは、いずれもシャフト13の延在方向に対して平行な法線を有しており、内壁面44aおよび44bは、いずれもシャフト13の延在方向に対して垂直な法線を有している。端面43a〜43cの各々は、内径側から外径側に向かってこの順序で設けられており、かつスリーブ32の上部から下部に向かってこの順序で設けられている。端面43aと端面43bとの間には内壁面44aが設けられており、端面43bと端面43cとの間には内壁面44bが設けられている。
【0035】
スラストカバー33は、貫通孔41の下端部を覆っており、スリーブ32に固定されている。スラストカバー33の上面33a(シャフト13側を向いた面)の外径部分は、端面43bと接触しており、スラストカバー33の外径側端面33bは内壁面44bと接触している。スラストカバー33の上面33aの中央部は、スラスト板34の下面34c(シャフト13とは反対側の面)と接触している。スラストカバー33は貫通孔41内に通じるスラスト孔を含んでおらず、貫通孔41の下端部を完全に塞いでいる。
【0036】
スラスト板34は、スラストカバー33とシャフト13の曲面状(たとえば半球状)の下端部13aとの間に配置されている。スラスト板34の上面34a(シャフト13側を向いた面)の中央部はシャフト13の下端部13aと接触している。スラスト板34の上面34aの外径部分は端面43aと接触している。スラスト板34の外径部分(円周部分)は、スリーブ32とスラストカバー33とにより圧力が加えられており、その圧力により潰されている。したがってスラスト板34は、その外径部分が弾性変形した状態で、シャフト13とスラストカバー33との間に配置されており、スラスト板34はパッキンとして機能する。
【0037】
ポリゴンミラースキャナモータの組立時の容易性を考慮すると、スラスト板34の直径は内壁面44aの直径よりも小さく、スラスト板34の外径側端面34bと内壁面44aとは接触しないことが好ましい。この場合、スラスト板34の外径側端面34bと、内壁面44aと、スラストカバー33の上面33aとにより空間SP2が構成される。空間SP2は、スラスト板34とスリーブ32との接触部により空間SP1とは隔てられている。なお本実施の形態においては、少なくともシャフト13の外径側端面と貫通孔41の内径側端面とにより構成される空間と、少なくともスラスト板34の外径側端面と貫通孔41の内径側端面とにより構成される空間とが、スラスト板34とスリーブ32との接触部により隔てられていればよい。
【0038】
[ポリゴンミラースキャナモータの製造方法]
続いて、本実施の形態におけるポリゴンミラースキャナモータの製造方法について、図3〜図5を用いて説明する。
【0039】
図3を参照して、基板40およびステータ20が予め取り付けられたスリーブ32に対して、スラスト板34が上に配置された状態のスラストカバー33を、矢印A1で示すように取り付ける。スラスト板34はスラストカバー33よりも弾性率の高い材料よりなることが好ましい。スラスト板34はたとえば樹脂材よりなり、スラストカバー33はたとえば鉄板(鋼板)よりなる。スラストカバー33を取り付ける際、スラスト板34はスラストカバー33に予め固定されていてもよいし、スラストカバー33に仮止めされていてもよい。スラストカバー33は、たとえば圧入などの方法でスリーブ32の貫通孔41の下端部に取り付けられる。スラストカバー33は、接着剤を用いずに機械的結合具(機械的結合手段)によりスリーブ32に取り付けられることが好ましいが、接着剤を用いてスリーブ32に取り付けられてもよい。
【0040】
次に図4を参照して、下端部が塞がれた貫通孔41内に、たとえば潤滑剤35を滴下し、スラスト板34に潤滑剤35を塗布する。
【0041】
続いて図5を参照して、下端部が塞がれた貫通孔41内に、ポリゴンミラー50などが予め取り付けられたシャフト13を矢印A2で示すように挿入する。シャフト13の下端部13aが潤滑剤35と接触すると、潤滑剤35の液面は上昇し、内部の空気は潤滑剤35の液面に押されて貫通孔41の上部から抜ける。その結果、貫通孔41から空気(気泡)が排除される。なお、ポリゴンミラー50などは、このシャフト挿入工程を実施後に取り付けられてもよい。
【0042】
[実施の形態の効果]
続いて、本実施の形態の効果について説明する。
【0043】
図6は、スラスト孔を有するスラストカバーを用いた流体動圧軸受が適用されたポリゴンミラースキャナモータの構成の一例を示す図である。図7は、図6のスラスト板付近の構成を示す拡大図である。なお、以降の図6〜図8において、図1と同一の部材には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0044】
図6および図7を参照して、ポリゴンミラースキャナモータの流体動圧軸受130は、シャフト13と、スリーブ32と、スラストカバー133と、スラスト板134と、接着剤136とを含んでいる。スラストカバー133およびスラスト板134は、スリーブ32の下部に設けられており、貫通孔41を塞いでいる。スラスト板134の上面134aおよび外径側端面134bはスリーブ32と接触していない。スラスト板134は、シャフト13と接触する部分以外は弾性変形していない状態で、シャフト13とスラストカバー133との間に配置されている。スラストカバー133はスラスト孔133aを有している。空間SP1には潤滑剤が充填されており、空間SP1と、空間SP2と、スラスト孔133aとは互いに連通している。スラストカバー133は、その下部から接着剤136によって固定されており、スラスト孔133aは接着剤136によって塞がれている(接着封止されている)。スラスト孔133aは接着剤侵入防止用のワッシャにて塞がれていてもよい。図6および図7に示すようにスラスト孔133aを通じて貫通孔41内の空気を外部に逃がす構造においては、スラスト孔133aを接着封止した後で、スラスト板134周辺の空間SP2に空気が残りやすく、この空気がラジアル軸受側に回り込んだ場合には、ラジアル側の動圧発生に悪影響を及ぼす。
【0045】
図8は、図6および図7に示すスラスト板付近の構造と、図1に示すスラスト板付近の構造とを比較して示す拡大図である。(a)は、図6および図7に示すスラスト板付近の構造であり、(b)は、図1に示すスラスト板付近の構造である。
【0046】
図8を参照して、図6および図7に示す流体動圧軸受130は、(a)に示すように空間SP1と空間SP1とが繋がっているのに対し、本実施の形態における流体動圧軸受30は、(b)に示すように、スラスト板34を敢えて潰すようにして貫通孔41をシールしているので、空間SP1と空間SP2とがスラスト板34にて隔てられている。言い換えれば、スリーブ32とスラストカバー33とでスラスト板34を挟み込むことにより、スラスト板34にパッキンとしての機能を持たせている。これにより、空間SP1に充填された潤滑剤が空間SP2に入り込まず、かつ空間SP2の空気が空間SP1(ラジアル軸受側)に入り込まないので、流体動圧軸受の信頼性を向上することができる。また、スラストカバー33にスラスト孔を形成する必要がなくなり、スラスト孔を塞ぐための接着剤を廃止することができるので、流体動圧軸受のスラスト部分を簡単に封止することができ、製造工程を簡素化することができる。
【0047】
また、スラスト板34の潰し量を弾性変形の領域範囲内に設定することにより、ヒートショックなどの影響により、スラスト板34の位置のずれの発生を少なくすることができる。
【0048】
さらに、スラストカバー33を圧入により固定する方式を採用することにより、スラストカバー33の固定位置を管理する場合(高さ管理する場合)と比べて、プレス機の圧力を調節することでスラスト板34の潰し量が管理しやすくなる。その結果、スラスト板34の未潰しや潰しすぎを抑止可能となる。
【0049】
[その他]
上述の実施の形態においては、スラストカバー33が圧入によりスリーブ32に取り付けられる場合に付いて示したが、スラストカバー33はどのような方法でスリーブ32に取り付けられてもよい。スラストカバー33は、たとえば図9に示すように、ネジ38を用いてスリーブ32に取り付けられてもよい。この場合、スリーブ32およびスラストカバー33にはネジ止め用の穴が予め形成されていてもよい。またスラストカバー33は、たとえば図10に示すように、スリーブ32の下端面に形成された凸部32aを、スラストカバー33に形成された孔34dに挿入し、凸部32aをスラストカバー33の下面よりカシメてもよい(潰してもよい)。この場合、たとえば徐々に凸部32aを曲げながらカシメてもよい。
【0050】
上述の実施の形態においては、軸回転型であり、かつアウターロータ型のモータに流体動圧軸受が適用される場合に付いて示した。しかし、本発明の流体動圧軸受は、上述のモータの他、軸固定型のモータに適用されてもよい。軸固定型のモータは、たとえば図1に示すモータとは上下が逆になったような構造を有する。軸固定型のモータにおいては、下方から延在したシャフトの回りを、シャフトの外側に配置された部材が回転する。
【0051】
また本発明の流体動圧軸受は、図11に示すように、外径側に設けられたステータ20に対して内径側に設けられたロータ10が回転するインナーロータ型のモータに適用されてもよい。
【0052】
また本発明の流体動圧軸受は、図1や図11に示すようにロータとステータとが径方向で(周に沿って)対向する周対向型のモータに適用される場合の他、図12に示すように、シャフト13の延在方向に沿った下側に設けられたステータ20に対して、シャフト13の延在方向に沿った上側に設けられたロータ10が回転する平面対向型のモータに適用されてもよい。
【0053】
なお、図11および図12において、図1と同一の部材には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0054】
さらに、本発明の流体動圧軸受がブラシレスモータに適用される場合、そのモータの駆動方式は全波整流方式であってもよいし、半波整流方式であってもよい。
【0055】
上述の実施の形態は適宜組み合わせることができる。たとえば、全波整流方式の平面対向型ブラシレスモータに適用される流体動圧軸受において、スラストカバーがスリーブに対してカシメにより固定されてもよい。
【0056】
上述の実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0057】
10 ロータ
11 ロータフレーム
11a ロータフレーム外壁面
11b ロータフレーム内壁面
12 マグネット
13,231 シャフト
13a,231a シャフト下端部
14a ロータフレーム天井部
14b ロータフレーム側壁部
20 ステータ
21 ステータコア
21a ティース部
22 ステータコイル
30,130 流体動圧軸受
32,232,251 スリーブ
32a スリーブ凸部
33,133,233 スラストカバー
33a スラストカバー上面
33b スラストカバー外径側端面
34,134,234 スラスト板
34a,134a スラスト板上面
34b,134b スラスト板外径側端面
34c スラスト板下面
34d,60,61 孔
35 潤滑剤
38 ネジ
40 基板
41,232a 貫通孔
41a 油溜まり
43a〜43c スリーブ端面
44a,44b スリーブ内壁面
50 ポリゴンミラー
51 スプリング
133a,233a スラスト孔
136,238,243 接着剤
231b シャフト外壁面
235 流体
236 隙間
237 空気
241 スラスト受板
241a 連通孔
242 固定部材
242a 保持溝
251b 注油溜り部
252 回転軸
253 スラスト受け
SP1,SP2 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有するスリーブと、
前記貫通孔内に配置され、かつ前記スリーブに対して回転可能である回転軸と、
前記貫通孔の一方の端部を覆い、かつ前記スリーブに固定されるスラストカバーと、
前記スラストカバーと前記回転軸の一方の端部との間に配置され、かつ前記回転軸と接触するスラスト板とを備え、
前記スラスト板は、前記回転軸側を向いた面であって前記スリーブと接触する面を含む、流体動圧軸受。
【請求項2】
前記スリーブとの接触部が弾性変形した状態で前記スラスト板は配置される、請求項1に記載の流体動圧軸受。
【請求項3】
少なくとも前記回転軸の外径側端面と前記貫通孔の内径側端面とにより第1の空間が構成され、少なくとも前記スラスト板の外径側端面と前記貫通孔の内径側端面とにより第2の空間が構成され、前記第1の空間と前記第2の空間とは前記スラスト板と前記スリーブとの接触部により隔てられる、請求項1または2に記載の流体動圧軸受。
【請求項4】
前記スラストカバーは前記貫通孔内に通じる孔を含まない、請求項1〜3のいずれか1項に記載の流体動圧軸受。
【請求項5】
ステータと、
ロータと、
前記ロータを前記ステータに対して回転可能に支持する請求項1〜4のいずれか1項に記載の流体動圧軸受とを備えた、モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−177452(P2012−177452A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41751(P2011−41751)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(504257302)ミネベアモータ株式会社 (112)
【Fターム(参考)】