説明

流体動圧軸受の製造方法

【課題】軸受素材表面に対する四三酸化鉄(Fe)皮膜の形成を容易にする。
【解決手段】軸受内周面に動圧発生溝を形成した粉末焼結金属からなる流体動圧軸受の製造方法であって、45μm以下の粒子を少なくとも70(重量)%以上含む金属粉末を圧粉成形、焼結金属素材に動圧発生溝を形成した後に水蒸気処理を施して多孔質表面に四三酸化鉄(Fe)皮膜を形成するようにした。粉末焼結軸受素材の原料粉末の粒子径が略均一に細かいために粒子間の隙間が小さくなり、均一で小さな気孔となり、その結果水蒸気処理による表面封孔が容易となり、動圧がリークしなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非接触で回転軸を支持する流体動圧軸受の製造方法に関し、軸受内周面に動圧発生溝を形成した焼結金属からなる流体動圧軸受の、とくに内周表面および端面に対する四三酸化鉄(Fe)皮膜の形成による封孔効果を十分に高め、しかも寸法精度および動圧効果を、より一層向上させるとともに、焼結強度の向上をはかり、これによりモータの耐久性および回転精度の向上ならびに低ノイズ化をはかることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
近年AV機器やOA機器類等の高精度化に伴い、とくにハードディスクドライブや、DVD並びにCD、更にはブルーレイディスク等に代表される光学ディスクドライブ用のスピンドルモータ、プロジェクターに使用されるカラーホイールモータ、LBPポリゴンミラースキャナーモータ、あるいはファンモータ等のモータの回転精度向上、低ノイズ化の要請が著しく高まりつつあり、これらの要請に応えるべく非接触でモータ軸を支持する流体動圧型の軸受が注目されている。
【0003】
流体動圧型の軸受は、軸受内周面や端面に溝を形成し、潤滑オイルを充填することで動圧を発生させ、非接触でモータ軸を支承することを可能とするものである。このような流体動圧型の軸受の製法としては、その多くは真鍮やステンレス鋼等の溶製材を中心とした素材ブランクを軸受状に切削加工した後、その内周面に切削や転造などにより溝を形成することがおこなわれている。
【0004】
流体動圧型の軸受の素材として一般的に、真鍮を選択した場合は、切削性に優れるが、モータ起動・停止時や、外的負荷・振動などによる、瞬間的なモータ軸との接触による耐久性が劣るばかりでなく、ステンレス製モータ軸との熱膨張係数の差異から、環境温度変化による適正クリアランスの維持が難しく、そのためモータの使用環境温度範囲が狭いことが指摘される。軸受の素材としてステンレス鋼を選択した場合は、回転軸との接触による耐久性に優れ、熱膨張係数の差異が少ないことによる適正クリアランスの維持が可能であるが、切削性にやや難がある。
【0005】
いずれの材料においても、素材ブランクを軸受状に切削加工する場合には、NC旋盤、マシニング等によるきわめて高精度な加工が必要であり、大量生産および低コスト化に難があるところから、軸受形状のニアネットシェイプ化が図れ、大量生産および低コスト化が可能な、粉末焼結金属を素材とした流体動圧軸受が検討されるようになった。
【0006】
具体的にいえば、粉末冶金法により作製した焼結金属を素材とした場合においては、金属材料の選択自由度が高いために、ステンレス製モータ軸との熱膨張係数の差が少ない鉄系材料を選択できるばかりでなく、ニアネットシェイプ化が図れるため、難切削材である素材ブランクを軸受状に切削加工する工程が省けることになり、大量生産と低コスト化に大きく寄与することが可能である。
【0007】
しかし、一方で粉末焼結金属素材は金属粉末を原料とした多孔質体であるために、これを流体動圧軸受として用いた場合に、軸受内周面に働く動圧がリークしてしまうこと、またモータ軸と軸受内周面の隙間に規定量注入する油が、多孔質体内に吸い込まれることで、安定した動圧発生に必要な油面が下がってしまうこと等の致命的ともいえる難点がある。
【0008】
つまり通常の工程では、粉末焼結金属素材を構成する金属粒子間の空隙による連通孔の存在を完全に無くすことが不可能であるところから、軸受内周表面で発生した動圧が上記した連通孔を通じて漏れることで軸受剛性が低下し、回転精度、さらにはモータ寿命に悪影響を及ぼしやすく、また油量の管理が非常に難しいという大きな問題がある。
【0009】
そこで、粉末焼結金属素材に樹脂を含浸させて気孔を封孔するようにした動圧軸受がすでに提案されている(特開平8−221897号公報参照)。また純鉄では粉末焼結金属素材に樹脂を含浸させて気孔を封孔した後に表面硬度不足を補うためにメッキを施すこともおこなわれている。さらに粉末焼結金属素材に、樹脂あるいは金属、ガラスなどの物質を含浸させて気孔を封孔した後に軸受表面に金属粒子や樹脂粒子を用いたショットブラストを施すことにより気孔開口部を縮小させることも考えられている。
【0010】
また粉末焼結金属素材に水蒸気処理を施すことにより表面を封孔することにより、表面粗さの改善および耐食性や耐摩耗性を改善はかるようにした流体動圧軸受も提案されている(特開2007−57068号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−221897号公報
【特許文献2】特開2007−57068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、真鍮やステンレス鋼等の溶製材を中心とした素材ブランクを軸受状に切削加工した後、その内周面に切削や転造などにより溝加工を形成する場合には、NC旋盤などによりきわめて高精度に実施する必要があるところから必然的に高コストになるのを避けられない。また粉末焼結金属素材に樹脂を含浸させる場合においては、通常の工程において樹脂含浸材が軸受材表面に残留しやすい。
【0013】
軸受材表面に樹脂含浸材が残留すると寸法精度に悪影響を及ぼしやすく、また樹脂表面にはメッキが付き難く、樹脂含浸前の空孔が大きい場合には後処理としてのメッキ処理が不完全になりがちであること、さらに純鉄では表面硬度不足を補う必要から軸受材の表面にメッキ処理を施すが、空孔内のメッキ液の完全除去が困難であるところから、残留メッキ液による金属腐食を招き易い等の、さらなる課題が残る。
【0014】
また樹脂含浸処理を施した場合には、個々の軸受材について洗浄作業をおこなう必要があるが、これらを纏めておこなうと軸受材同士が当たって打痕ができるところから、打痕を嫌う場合には各軸受材を個別洗浄する必要があるところからコストの著しい上昇に繋がり、また含浸させた樹脂が流体動圧軸受ユニットに用いられる潤滑油などの流体と反応して膨潤や収縮を起こす場合があり品質・精度上の不安材料となりがちである。
【0015】
さらに、粉末焼結金属素材に樹脂その他の物質を含浸させて気孔を封孔した後に軸受表面にショットブラストを施す場合においては、一般的に軸受の表面粗さが悪化し、流体動圧用軸受としては不向きとなるのみならず、寸法精度も悪化して製品バラツキを生ずるほか、軸受材に残留するショット粉除去のための洗浄工程を別途必要とするために、かえってコスト高となる等の問題もある。
【0016】
さらに、粉末焼結金属素材に水蒸気処理を施すことにより軸受表面を封孔し、表面粗さの改善、かつ耐食性や耐摩耗性を改善するようにした流体動圧軸受の場合においても、一般的には粉末焼結金属素材の表面および内部の気孔径には分布があることから、封孔効果にも著しいバラツキがあり、安定した動圧の維持が難しく、動圧軸受として必ずしも十分な機能を発揮できるわけではない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで本発明は、上記した従来技術では不十分とされる粉末焼結金属素材に水蒸気処理を施すことにより得られる流体動圧軸受の課題を解決し、内周表面および端面に対する四三酸化鉄(Fe)皮膜の形成による封孔効果をより一層十分に高め、しかも動圧発生溝の形成に適した流体動圧軸受の製造を可能とするものである。
【0018】
具体的には、軸受内周面に動圧発生溝を形成した粉末焼結金属からなる流体動圧軸受の製造方法であって、45μm以下の粒子を少なくとも70(重量)%以上含む金属粉末を圧粉成形、焼結した粉末焼結金属素材に動圧発生溝を形成した後、水蒸気処理を施して多孔質表面に四三酸化鉄(Fe)皮膜を形成するようにした流体動圧軸受の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は上記したように、軸受内周面に動圧発生溝を形成した粉末焼結金属からなる流体動圧軸受の製造方法であって、45μm以下の粒子を少なくとも70(重量)%以上含む金属粉末を圧粉成形、焼結した焼結金属素材に動圧発生溝を形成した後、水蒸気処理を施して多孔質表面に四三酸化鉄(Fe)皮膜を形成するようにしたために、従来のような単に粉末焼結金属素材に水蒸気処理を施した場合に比して、封孔をより完全に行うことができるばかりでなく、軸受表面性状がきわめて良好に改善され、耐食性や耐摩耗性の向上をはかることができる。
【0020】
この場合には、粉末焼結金属素材を構成する原料粉末の粒子径が略均一に細かいために粒子間の隙間が小さくなり、均一で小さな気孔となり、その結果水蒸気処理による表面封孔が容易となり、軸受内周面に働く動圧のリークを防止できるのに加え、油が多孔質体内に吸い込まれなくなることから、モータ軸と軸受内周面の隙間に規定量注入する油量の安定した管理が可能になる。
【0021】
また一般的に鉄系材料は、700℃〜1300℃の範囲で焼結を行うが、45μm以下の粒子を少なくとも70(重量)%以上含む金属粉末を用いて圧粉成形するようにした場合においては金属粉末の粒子径が平均して小さいために焼結性が向上し、流体動圧軸受材として高い焼結強度を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】水蒸気処理後における軸受内周表面の性状をあらわした部分拡大図であって、(A)は本発明品、(B)は従来品をあらわしている。
【図2】水蒸気処理前であり、焼結後の軸受素材の金属断面部分拡大図であって、(A)は本発明品、(B)は従来品をあらわしている。
【図3】金属粉末中の45μm以下の粒子量と、レーザー光回折方式粒度分布径により測定される累積50%径(D50)との関係をあらわしたグラフ。
【図4】金属粉末中の45μm以下の粒子量と、圧粉成形体のラトラ値との関係をあらわしたグラフ。
【図5】金属粉末中の45μm以下の粒子量と、焼結後の軸受素材の圧環強度との関係をあらわしたグラフ。
【図6】金属粉末中の45μm以下の粒子量と、水蒸気処理後の軸受の通気性との関係をあらわしたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下において本発明の具体的な内容を説明すると、本発明は軸受内周面に動圧発生溝を形成した粉末焼結金属からなる流体動圧軸受の製造法である。
【0024】
ここで用いられる金属粉末については好ましくはモータの回転軸との熱線膨張係数差を小さくするために、鉄成分:98(重量)%以上の純鉄粉もしくはステンレス鋼粉末がよいが、鉄を主体とした材料であり、水蒸気処理によって四三酸化鉄(Fe)皮膜を形成し、封孔効果が望める材料であれば、これに限らない。
【0025】
なおここで用いられる金属粉末としては、45μm以下の粒子を少なくとも70(重量)%以上、より好ましくは80(重量)%以上含む必要がある。この場合に45μm以下の粒子が70(重量)%未満であると、焼結体の気孔径が大きくなりすぎるために、その後における水蒸気処理を施しても軸受表面の封孔が不十分か、殆ど達成することができない。
【0026】
この場合に金属粉末のより詳細な粒度については、レーザー光回析方式粒度分布計によって測定される累積50%径(D50)が20μmを下回ると、粉末流動性が極端に低下することで圧粉成形時の金型内への粉末の充填が困難になるばかりでなく、圧粉体強度の低下により焼結工程に至るまでのハンドリングが悪化し、軸受素材に割れや欠けが生じるおそれがある。
【0027】
また逆にレーザー光回析方式粒度分布計によって測定される累積50%径(D50)が60μmを超えると、焼結体の気孔径が大きくなりすぎて水蒸気処理による表面封孔が達成できなくなる。したがってレーザー光回析方式粒度分布計によって測定される累積50%径(D50)については20〜60μmの範囲内であることが必要である。
【0028】
前記した45μm以下の粒子量とレーザー光回析方式粒度分布計によって測定される累積50%径(D50)との関係については図3にあらわされているように、「45μm以下の粒子が70(重量)%以上」と、「レーザー光回折方式粒度分布計によって測定される累積50%径(D50)が20〜60μm」とが対応していることが解る。
【0029】
この場合に、金属粉末中の45μm以下の粒子量と、圧粉成形体のラトラ値との関係について図4に示す。図4により理解できるように粒子径が小さくなるとラトラ値が高くなり、圧粉体強度が低くなる傾向を示す。このため45μm以下の粒子が100(重量)%のとき、〔つまり累積50%径(D50)が20μmのとき〕に安定した製造のために必要最低限の圧粉体強度となる。この場合に累積50%径(D50)が20μmを下まわると圧粉体の割れや欠けを生ずる懸念がある。
【0030】
上記の金属粉末は、ステアリン酸亜鉛や脂肪酸アミド系ワックスに代表される粉末状潤滑剤を混合した後に圧粉成形し、その後焼結をおこなう。また45μm以下の粒子を少なくとも70(重量)%以上、より好ましくは80(重量)%以上含み、レーザー光回折方式粒度分布計によって測定される累積50%径(D50)が20〜60μmの範囲内である金属粉末を造粒し、粒度調整をして粉末流動性を向上させた後に、圧粉成形するのが望ましい。
【0031】
上記で作製した圧粉成形体は、例えばメッシュベルト式焼結炉やバッチ式焼結炉などを用い、真空及び還元雰囲気もしくは不活性雰囲気等の雰囲気中、700℃〜1300℃の範囲内で、10〜60分間、焼結を行う。焼結炉、焼結温度、雰囲気、焼結時間は、焼結後の軸受素材の寸法精度に与える影響を極力抑えるよう、使用する金属材料に応じ、適宜選択するのが好ましく、またこの条件に限るものではない。
【0032】
なおこの場合に、金属粉末中の45μm以下の粒子量と、焼結後の軸受素材の圧環強度との関係の実験結果を図5に示す。この場合粒子径が小さくなると焼結性が向上し、焼結体の圧環強度が高くなることが明らかとなった。
【0033】
また粉末焼結金属素材は多孔質であり、これを流体動圧軸受として用いる場合には動圧漏れによる圧力低下を招きやすいため、焼結体内部および表面の気孔量削減並びに気孔径縮小のために、再圧縮(サイジング)を施すことにより相対密度を80%以上、さらに好ましくは85%以上に高密度化するのが望ましい。再圧縮により、寸法精度矯正、素材表面粗度の改善、表面気孔の抑制を同時に達成することができる。
【0034】
上記により作製された粉末焼結金属からなる軸受素材に対し、その内周面のモータ軸と摺接する部分に動圧発生溝を加工形成する。動圧発生溝の形成には切削や転造などの加工手段が用いられる。
【0035】
さらに動圧発生溝形成後の軸受素材に対し、多孔質表面の封孔のために四三酸化鉄(Fe)皮膜を形成する。四三酸化鉄皮膜の形成には水蒸気処理が施される。この場合の水蒸気処理の条件等についてはさきの特許文献2(特開2007−57068号公報)に記載されたものなどが適用可能である。
【0036】
またこの場合に従来の一般的な焼結金属素材の表面に対して単に水蒸気処理を施して四三酸化鉄皮膜を施したとしても粉末焼結金属素材の表面が十分に封孔され難く、開放気孔が残存してしまうことから、軸受内周面に働く動圧がリークしてしまうのに加え、油が多孔質体内に吸い込まれることで、モータ軸と軸受内周面の隙間に規定量注入する油量の管理が困難になるなどの不具合を生じやすい。
【0037】
しかし本発明のように、45μm以下の粒子量を少なくとも70(重量)%以上、さらに好ましくは80(重量)%以上含む金属粉末を用いる場合においては、圧粉成形・焼結を経た粉末焼結金属素材の金属粒子間の隙間が均質でしかもきわめて小さくなるために水蒸気処理を施して多孔質表面に5μm程度の四三酸化鉄(Fe)皮膜を被覆形成した場合に、封孔効果がきわめて高くなることにより、焼結体内への油の吸い込みや、モータ軸回転時の動圧のリークがなくなり、また動圧発生溝の形成が容易になり、しかも溝寸法精度が著しく向上する。
【0038】
因みに図1には水蒸気処理後における軸受内周表面の一部を拡大してあらわした概念図が示されており、(A)は本発明による軸受、(B)は従来の軸受をあらわしている。この場合に金属部1内には多数の気孔3が存在するが従来の軸受(B)では金属粉末同士の空隙が大きいために焼結体内部および表面の気孔3の径が大きくなる。
【0039】
その結果、各気孔3の大きさにバラツキがあり、しかもその内周面に水蒸気処理により形成した四三酸化鉄層4を施しても表面に露出した開口気孔2は十分に封孔されていないために軸受内部の気孔3と連通してしまう。これに対し、本発明による軸受(A)では金属粉末同士の空隙が小さいために各気孔3が揃って小さくなるとともに、軸受内周表面に露出した開放気孔は水蒸気処理により形成した四三酸化鉄層4によって容易に封孔することが可能となり、完全に封孔されて軸受内部の気孔3との連通が防止できる。
【0040】
また図2には焼結後の軸受素材の金属断面の部分拡大写真が示されており、(A)は本発明の軸受素材、(B)は従来品の軸受素材をあらわしている。これにより本発明品の軸受素材(A)のほうが金属粒子が小さく微細でしかも均一な気孔を有していることが理解できる。
【0041】
45μm以下の粒子を少なくとも70(重量)%以上、さらに好ましくは80(重量)%以上含む金属粉末を用いた場合における、水蒸気処理の有効性についての実験結果を図6に示す。図6により明らかなように、金属粉末の粒子径が小さくなると、水蒸気処理による軸受素材表面の封孔が容易になり、軸受内部の気孔との連通を防止して通気性が下降することが裏付けられた。
【0042】
本発明は上記したように、45μm以下の粒子を少なくとも70(重量)%以上、さらに好ましくは80(重量)%以上含む金属粉末を用いるために、とくに内周表面および端面に対する四三酸化鉄(Fe)皮膜の形成による封孔効果を十分に高め、しかも寸法精度および動圧効果を、より一層向上させるとともに、焼結強度の向上をはかり、これによりモータの耐久性および回転精度の向上ならびに低ノイズ化をはかることが可能になる。
【実施例】
【0043】
〔金属粉末〕
150μm以下、鉄成分98%以上の純鉄粉であり、45μm以下の粒子がそれぞれ60、70、80、90、100(重量)%となる複数種の金属粉末を調整し、さらにこれらにステアリン酸亜鉛を0.75(重量)%混合した。
【0044】
〔圧粉成形〕
圧粉成形は金型中において、250〜350MPaの加圧力で実施され相対密度が80%以上の圧粉密度が得られるよう適宜調整をした。
【0045】
〔焼結〕
焼結は、メッシュベルトタイプの焼結炉を用い、水素と窒素との混合気流中において温度1000℃の雰囲気温度にて20分間実施した。
【0046】
〔サイジング〕
焼結後の軸受素材に対し、相対密度が85%以上となるように金型内にて再圧縮をおこなった。
【0047】
〔溝加工〕
サイジング後の軸受素材に対し、内周面のモータ軸と摺接する表面部分に動圧発生溝を加工形成した。
【0048】
〔水蒸気処理〕
溝加工後の軸受素材に対し、温度400〜600℃で25〜80分間の範囲内で水蒸気処理を実施した。
【0049】
〔知見結果〕
上記により製造した軸受は、図6に示したように、金属粉末中の45μm以下の粒子量が60(重量)%の場合、四三酸化鉄(Fe)皮膜の形成による封孔効果が不十分で通気量が最大で8cmと多かったが、45μm以下の粒子量が70(重量)%を超えると、表面気孔が均一で微細になることで、四三酸化鉄(Fe)皮膜の形成による封孔効果が高くなり、通気量が3cm以下に極端に減少した。
【0050】
また、素材表面粗さについては、45μm以下の粒子量が70(重量)%を超えると、60(重量)%の場合に比べて、格段に向上したため、動圧発生溝の形成の容易さ、寸法精度にも寄与することがわかった。さらに、図5からわかるように、金属粉末中の45μm以下の粒子量が増えるにつれ、軸受素材の圧環強度
(kgf/mm^2)が高まるため、軸受組付け時の信頼性を向上させることも見出した。
【0051】
以上により、本発明は軸受内周面に動圧発生溝を形成した焼結金属からなる流体動圧軸受の、とくに内周表面および端面に対する四三酸化鉄(Fe)皮膜の形成による封孔効果を十分に高め、しかも寸法精度および動圧効果を、より一層向上させるとともに、焼結強度の向上をはかり、これによりモータの耐久性および回転精度の向上ならびに低ノイズ化をはかることができるという点できわめて良好な流体動圧軸受を得ることができた。
【符号の説明】
【0052】
1 金属部
2 軸受表面の開放気孔
3 気孔
4 四三酸化鉄層

























【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受内周面に動圧発生溝を形成した粉末焼結金属からなる流体動圧軸受の製造方法であって、45μm以下の粒子を少なくとも70(重量)%以上含む金属粉末を圧粉成形、焼結した焼結金属素材に動圧発生溝を形成した後に水蒸気処理を施して軸受内周面/または軸受内周面と端面の多孔質表面に四三酸化鉄(Fe)皮膜を形成するようにした流体動圧軸受の製造方法。
【請求項2】
45μm以下の粒子を少なくとも80(重量)%以上含む金属粉末を用いて圧粉成形するものである請求項1に記載の流体動圧軸受の製造方法。
【請求項3】
レーザー光回析方式粒度分布計で測定される、金属粉末の累積50%径(D50)が、20〜60μmの範囲内である請求項1または請求項2に記載の流体動圧軸受の製造方法。
【請求項4】
45μm以下の粒子を少なくとも70(重量)%以上含む金属粉末を造粒工程によって粒度調整をした後に圧粉成形するようにした請求項1〜3のいずれか1に記載の流体動圧軸受の製造方法。
【請求項5】
金属粉末が、鉄成分:98(重量)%以上の鉄粉もしくはステンレス鋼粉である請求項1〜4のいずれか1に記載の流体動圧軸受の製造方法。
【請求項6】
焼結後の粉末焼結金属素材に対し、再圧縮の工程を行った後に動圧発生溝を形成するようにした請求項1〜5に記載の流体動圧軸受の製造方法。













【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−31965(P2012−31965A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173511(P2010−173511)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(592128788)ポーライト株式会社 (16)
【Fターム(参考)】