説明

流体噴射ヘッド、流体噴射装置および流体噴射方法

【課題】簡単な構成で定期的なフラッシングを確実に行える流体噴射ヘッド、流体噴射装置および流体噴射方法を提供する。
【解決手段】本発明の流体噴射ヘッドは、圧力室31と、圧力室31内に圧力変動を生じさせる圧電素子25と、圧力室31にそれぞれ連通するとともに流路抵抗が互いに異なる第1ノズル17および第2ノズル77と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射ヘッド、流体噴射装置および流体噴射方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体噴射装置は、流体を噴射可能な噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の流体を被記録材等に向けて噴射する装置である。流体噴射装置の代表的なものとして、例えば、インクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッド(噴射ヘッド)のノズルから液体状のインク(流体)をインク滴として記録紙等の被記録材に向けて噴射、着弾させてドットを形成することで記録を行うインクジェット式記録装置がある。
【0003】
このような流体噴射装置では、ノズルから噴射される流体の良好な噴射状態を維持又は回復するためのクリーニング処理を定期的に行っている。その具体的なクリーニング動作として、例えば、インクの増粘が進まないように各ノズルからインクを噴射させるフラッシング動作などが挙げられる。これは、流体噴射ヘッドの圧力室内の増粘インクを定期的に噴射させることによって除去し、常に新しいインクを圧力室内に供給するようにしている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−174766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特にライン型の記録ヘッドの場合はその位置が固定されているので、フラッシング動作を実施する際には、プラテンなどの搬送装置を移動させるかメンテナンスユニットを上昇させる必要がある。この場合、メンテナンス処理が終了するまでに時間がかかる。また、その間は当然に印刷を行なうことができないので、印刷効率が低下してしまうという問題があった。また、印刷中は、記録ヘッドの下方を常に記録紙が通過しているために、印刷途中で定期的なフラッシング動作を行うことが困難であった。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、簡単な構成で、定期的なフラッシングを迅速且つ確実に行える流体噴射ヘッド、流体噴射装置および流体噴射方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の流体噴射ヘッドは、上記課題を解決するために、ノズルから流体を噴射させる流体噴射ヘッドにおいて、圧力室と、前記圧力室内に圧力変動を生じさせる圧電素子と、前記圧力室にそれぞれ連通するとともに流路抵抗が互いに異なる第1ノズルおよび第2ノズルと、を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、同一の圧力室に流路抵抗の異なる第1ノズルと第2ノズルとが連通していることから、圧電素子に印加される電圧の大きさ(圧力室内の圧力変動の大きさ)等に応じて、第1ノズルおよび第2ノズルのいずれか、あるいは両方から流体が噴射されることになる。すなわち、用途に応じて流体が噴射されるノズルを選択することが可能となっており、例えば、記録時とフラッシング時とで流体を噴射するノズルを選択することができる。フラッシング時では、媒体に噴射するのではなく圧力室内に流体を流通させるために一方のノズルから流体を噴射させることで、他方のノズルによる記録品質を維持できる。また、流体噴射ヘッドを移動させることなくフラッシング動作が可能になるので、記録動作中にもフラッシングすることが可能である。
【0008】
また、前記第1ノズルのみが前記媒体に向けて流体を噴射することが好ましい。
本発明によれば、第1ノズルのみから噴射される流体によって媒体に対する記録が行われるようになっている。このため、フラッシング時には第2ノズルから圧力室内の増粘した流体を噴射させることで、第1ノズルの目詰まり等を防止でき、ドット抜けが生じるのを阻止することが可能となる。
【0009】
また、前記第2ノズルは、前記第1ノズルよりも流路抵抗が小さいことが好ましい。
本発明によれば、第1ノズルよりも第2ノズルの流路抵抗の方が小さいことから、圧電素子に印加される電圧の大きさ(圧力室内の圧力変動の大きさ)等に応じて、第1ノズルおよび第2ノズルの打ち分けを確実に行うことができる。また、第1ノズルよりも第2ノズルから噴射される流体の量の方が多くなるので、増粘した流体を圧力室内から効率よく除去することが可能である。
【0010】
また、前記第2ノズルは、前記第1ノズルよりも孔径が大きいことが好ましい。
本発明によれば、孔径の大きい第2ノズルから増粘した流体を効率よく除去させることが可能になる。
【0011】
また、前記第2ノズルから噴射される前記流体を回収する流体回収部を備えていることが好ましい。
本発明によれば、流体回収部によって、第2ノズルから噴射される(増粘した)流体を圧力室から回収することができる。また、流体噴射ヘッドを移動させることなくフラッシング動作を実施することが可能なため、固定されたライン型ヘッドであっても、定期的なフラッシング動作を迅速且つ確実に実施することができる。
【0012】
また、前記流体回収部が、複数の前記第2ノズルからなるノズル列に沿って設けられていることが好ましい。
本発明によれば、流体回収部が、複数の第2ノズルからなるノズル列に沿って設けられていることから、ノズル列を構成している全ての第2ノズルから噴射された流体を回収することが可能である。
【0013】
また、複数の第2ノズルからなるノズル列が複数列形成されており、前記流体回収部が、複数の前記ノズル列に共通であることが好ましい。
本発明によれば、流体回収部が隣り合うノズル列に共通して設けられていることから、流体回収部の数が減ってヘッド構成が簡素化される他、コストを削減できる。また、流体回収部から流体を回収する作業数を減らすことができるので手間も省ける。
【0014】
また、隣り合う前記ノズル列に対応する前記圧力室の列間に前記流体回収部が設けられていることが好ましい。
本発明によれば、流体回収部を内蔵したヘッドとすることができる。
【0015】
また、前記第1ノズルと前記第2ノズルとで前記流体の噴射方向が異なることが好ましい。
本発明によれば、第2ノズルの流体噴射方向を第1ノズルの流体噴射方向と異ならせることによって、第2ノズルから噴射された流体が記録に影響するのを阻止できるとともに、所望容量の流体回収部を形成することが可能となる。
【0016】
本発明の流体噴射装置は、圧力室と、前記圧力室内に圧力変動を生じさせる圧電素子と、前記圧力室にそれぞれ連通するとともに流路抵抗が互いに異なる第1ノズルおよび第2ノズルと、を備えた流体噴射ヘッドと、前記第1ノズルおよび前記第2ノズルからの前記流体の噴射状態を制御する制御装置と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明の流体噴射装置によれば、制御装置によって第1ノズルおよび第2ノズルからの流体の噴射状態を制御することによって、記録動作とフラッシング動作とに応じて流体を噴射するノズルを選択することができる。
【0018】
また、制御装置が、記録動作とフラッシング動作とで前記圧電素子に印加する電圧値を制御することが好ましい。
本発明によれば、制御装置によって記録動作とフラッシング動作とで圧電素子に印加する電圧値を制御することによって、流体を噴射させるノズルを選択することができる。このように、記録時とクリーニング時とにおいて第1ノズルと第2ノズルとの打ち分けを行うことが可能である。これにより、記録に使用される第1ノズルの目詰まりを防止することが可能となる。したがって、第1ノズルの噴射特性を良好に維持することができ、記録品質が低下してしまうのを阻止することができる。
【0019】
本発明の流体噴射方法は、流路抵抗が異なる第1ノズルおよび第2ノズルを複数有する流体噴射ヘッドを備えた流体噴射装置を用いた流体噴射方法であって、記録時に前記第1ノズルおよび前記第2ノズルの両方から流体を噴射させ、フラッシング時に前記第2ノズルのみから前記流体を噴射させることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、フラッシング動作において第1ノズルからは流体を噴射させず、第2ノズルからのみ流体を噴射させることが可能になる。これにより、圧力室内の増粘した流体を除去することができるので、第1ノズルの噴射特性を維持できる。したがって、記録用の第1ノズルの噴射特性を良好に維持することができ、記録品質が低下してしまうのを阻止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る流体噴射装置の一実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。本実施形態では、本発明に係る流体噴射装置として、インクジェット式プリンタを例示する。
【0022】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態のインクジェット式プリンタ(以下、インクジェットプリンタ100と称す)の概略構成図、図2は、記録ヘッド13の周辺の要部平面図である。
インクジェットプリンタ100は、図1及び図2に示すように、記録対象物である記録紙12(媒体)に対して記録を行う記録部10と、記録部10のクリーニング処理を行うメンテナンス部11とを有している。
【0023】
記録部10は、インク滴を噴射して記録紙12に画像形成する記録ヘッド13(流体噴射ヘッド)と、記録紙12を搬送する記録紙搬送機構34と、記録ヘッド13に供給するインク(流体)を貯留したインク貯留部15とを有している。
【0024】
記録ヘッド13は、インクジェットプリンタ100が対象とする最大サイズの記録紙12の少なくとも一辺を越える長さ(最大記録紙幅W)に亘って第1ノズル17(図3)が多数配列された、所謂ラインヘッド型の記録ヘッドである。本実施形態においては、少なくとも各色(イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(Bk)に対応した4つの印刷部5Y,5M,5C,5Bkを備えている。各印刷部5Y〜5Bkは、記録紙12の搬送方向に沿って順に配設されている。
【0025】
インク貯留部15は、プリンタ本体16の一側に配置されており、不図示のインク供給手段により後述の記録ヘッド13へインクを供給する。このインク貯留部15は、インクジェットプリンタ100の各色(Y、M、C、Bk)に対応する4色のインクを貯蔵するインクタンク15Y,15M,15C,15Bkを有している。インク貯留部15と記録ヘッド13とは、不図示のインク供給手段を介して接続されており、各インクタンク15Y〜15Bkから各印刷部5Y〜5Bkへとインクが供給される。
【0026】
記録紙搬送機構34は、紙送りモータ(不図示)や、この紙送りモータによって回転駆動される紙送りローラなどを有しており、記録ヘッド13による記録(印字・印刷)動作に連動させて、記録ヘッド13に対向する搬送経路12Aに沿って記録紙12を順次送り出すことができるようになっている。
【0027】
メンテナンス部11は、記録ヘッド13からインクを吸引するキャッピング装置50と、キャッピング装置50によって排出されたインクを回収する廃インクタンク39とを含んでいる。
【0028】
キャッピング装置50は、記録ヘッド13のノズル形成面21Aを封止可能なキャップ部材51と、キャップ部材51と廃インクタンク39とを接続する排出チューブ54と、排出チューブ54上に配置された吸引機構40とを有している。このキャッピング装置50は、記録ヘッド13に対して上下方向に移動可能であり、不図示の移動機構によって印刷位置とクリーニング位置との間で変動する。
【0029】
以下、図3を参照して本発明に係る記録ヘッド13の構成について詳述する。図3(a)は、記録ヘッド13の一部を示す断面図、(b)はノズル形成面21Aの一部を示す平面図である。
図3(a)に示すように、記録ヘッド13は、ヘッド本体18と、ヘッド本体18に接続された流路形成ユニット22とを備えている。流路形成ユニット22は、振動板19と、流路基板20と、ノズル基板21とを備えている。
【0030】
ヘッド本体18は、合成樹脂製のもので、駆動ユニット24を収容する収容空間23と、外部から供給されたインクを流路形成ユニット22に案内する内部流路28とが形成されている。
駆動ユニット24は、収容空間23内に配置され、複数の圧電素子25、複数の圧電素子25の上端を支持する固定部材26、および駆動信号を圧電素子25に供給する柔軟なケーブル27を備えている。圧電素子25は、圧力室31に対応して設けられている。
内部流路28は、ヘッド本体18を図3(a)の上下方向に貫通して形成されており、図示上側から供給されるインクを流通させ、図示下端側の開口端を介して流路形成ユニット22に供給する。
【0031】
流路形成ユニット22は、振動板19、流路基板20及びノズル基板21を積層し、接着剤等で接合一体化したものである。流路形成ユニット22は、ヘッド本体18の内部流路28と接続された共通インク室29と、共通インク室29と接続されたインク供給口30と、インク供給口30と接続された圧力室31とを備えている。
【0032】
振動板19は、例えばステンレス鋼等の金属製の支持板上に弾性フィルムをラミネート加工したものである。振動板19の圧力室31に対応する部分には、エッチングなどにより支持板を環状に除去することで、圧電素子25の下端と接合される島部32が形成されている。島部32はダイヤフラム部として機能する。すなわち、振動板19は、圧力室31上において、島部32の周囲の弾性フィルムの部分が圧電素子25の駆動に応じて弾性変形し、島部32を上下動させる。
【0033】
流路基板20は、シリコン単結晶基板からなり、その厚さ方向両側に振動板19とノズル基板21とが積層されることで形成される、共通インク室29、インク供給口30および圧力室31を有している。
【0034】
圧力室31には、共通インク室29と反対側の端部において一つの第1ノズル17と一つの第2ノズル77とが接続されている。
【0035】
ノズル基板21は、例えばステンレス鋼などの金属からなる板材であり、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で配列された複数のノズル17,77からなるノズル列L1,L2を複数列有している。ノズル列L1は複数の第1ノズル17による一列のラインからなり、ノズル列L2は複数の第2ノズル77による一列のラインからなる。
【0036】
ノズル列L1,L2は、プリンタの4色インクに対応して4列ずつ設けられており、各印刷部5Y〜5Bkにノズル列L1,L2が一列ずつ対応している。なお、図3(b)ではノズル17,77の数を少なく描いている。
【0037】
第1ノズル17及び第2ノズル77はそれぞれ圧力室31に対応して配列されている。すなわち、各圧力室31に第1ノズル17と第2ノズル77とがそれぞれ一つずつ連通する構成とされている。
【0038】
本実施形態において、第1ノズル17(ノズル列L1)は記録用として、第2ノズル77(ノズル列L2)は主にフラッシング用として使用される。そこで、本実施形態では第1ノズル17と第2ノズル77との孔径に差を設けることで互いの流路抵抗を異ならせてある。具体的に、第1ノズル17は、記録紙12の記録に適した所定重量(約1.5ピコリットル)の流体を噴射できる孔径で形成されているのに対し、第2ノズル77は、第1ノズル17の孔径よりも大きい寸法で形成されている。
【0039】
このように、第1ノズル17と第2ノズル77との流路抵抗を異ならせることによって、圧電素子25に印加される電圧値の大きさに応じて流体が噴射されるノズルを選択することができる。すなわち、用途に応じてノズル17,77の打ち分けが可能なプリンタ1となっている。本実施形態においては、記録動作時とフラッシング動作時とで打ち分けを行う。
【0040】
ここで、第2ノズル77は、第1ノズル17よりも孔径が大きく流路抵抗が小さいことから、圧力室31内の増粘インクを効率よく排出させることができる。このため、第1ノズル17の近傍に第2ノズル77を配置することによって、圧力室31内における第1ノズル17近傍の増粘インクを第2ノズル77から効率よく排出させることができるようになっている。
【0041】
そして、各ノズル列L1を構成している複数の第1ノズル17から記録紙12に向けてインク滴が噴射されることにより、記録紙12に画像が記録される。一方、各ノズル列L2を構成している複数の第2ノズル77から噴射されるインク滴は、記録紙12上に着弾することなく後述の流体回収部79において回収されるようになっている。
【0042】
本実施形態における記録ヘッド13は、第2ノズル77から噴射された流体を回収する流体回収部78を備えている。流体回収部78は、各ノズル列L2に対応して複数設けられている。具体的には、ノズル列L2を構成する全ての第2ノズル77から噴射されるインクを回収すべくこれら第2ノズル77の配置方向に沿って延在している。
【0043】
流体回収部78は、内部に凹部78aを有しており、その開口側をノズル形成面21Aに当接させた状態で固定されている。これにより、複数の第2ノズル77およびその周辺が一括して覆われるので、フラッシング動作時に第2ノズル77から噴射されたインクが凹部78a内に受容されて保持されることとなる。
【0044】
流体回収部78の高さhは、その底面78bが記録紙12の表面に接触しない程度に設定され、記録紙12の搬送の妨げにならない大きさで形成されている。また、凹部78aは、複数回のフラッシング動作に対応できる容積を有していることが好ましい。
【0045】
図4は、インクジェットプリンタ100の電気的な構成を示すブロック図である。
本実施形態におけるインクジェットプリンタ100は、全体の動作を制御する制御装置58を備えている。この制御装置58には、インクジェットプリンタ100の動作に関する各種情報を入力する入力装置59と、インクジェットプリンタ100の動作に関する各種情報を記憶した記憶装置60とが接続されている。
【0046】
また、制御装置58には、記録紙搬送機構34、キャリッジ駆動装置7、キャッピング装置50を含むメンテナンス部11等が接続されている。また、インクジェットプリンタ100は、圧電素子25を含む駆動ユニットに入力する駆動信号を発生する駆動信号発生器62を備えている。この駆動信号発生器62は、制御装置58に接続されている。
【0047】
駆動信号発生器62には、記録ヘッド13の圧電素子25に入力する噴射パルスの電圧値の変化量を示すデータ、及び噴射パルスの電圧を変化させるタイミングを規定するタイミング信号が入力される。駆動信号発生器62は、入力されたデータ及びタイミング信号に基づいて、図5(a)に示すような記録用噴射パルスDP1、および図5(b)に示すようなフラッシング用噴射パルスDP2のいずれかを含む駆動信号を発生する。噴射パルスDP1のうち、最高電位VH1と最低電位VL1との電位差である駆動電圧VD1が設定され、噴射パルスDP2のうち、最高電位VH2と最低電位VL2との電位差である駆動電圧VD2が設定される。なお、図5(a),(b)に示す噴射パルスDP1,DP2は一例であり、種々の波形のものを用いることができる。
【0048】
以下、インクジェットプリンタ100の動作の一実施形態について説明する。
(記録動作)
駆動信号発生器62より記録用噴射パルスDP1が圧電素子25に記録動作用の駆動信号が入力されると、圧電素子25が伸縮し、これによって、振動板19がキャビティに接近する方向及び離れる方向に変形(移動)する。すると、圧力室31の容積が変化して、インクを収容した圧力室31の圧力が変動する。この圧力室31内の圧力の変動によって、各ノズル列L1における複数の第1ノズル17からインク滴が噴射される。そして、各第1ノズル17から噴射されたインク滴によって記録紙12に所望の画像が形成される。
【0049】
ここで、第2ノズル77は、第1ノズル17よりも大きい孔径で形成されているため第1ノズル17よりも流路抵抗が小さい。このため、圧電素子25に記録用の駆動信号が入力されると第1ノズル17からだけでなく、第2ノズル77からもインク滴が噴射される。第2ノズル77から噴射されたインク滴は流体回収部78において回収される。
【0050】
つまり、本実施形態においては、記録紙に対して記録を行っている間に第2ノズル77からインクを流すことによって、常に新しいインクが圧力室31内に供給されるようになる。この結果、第1ノズル17の噴射状態を良好に維持することができるので、ドット抜けなどによって記録品質が低下してしまうのを防止することができる。
【0051】
(フラッシング動作)
フラッシング動作は、露出している第1ノズル17からインク中の水分が蒸発することによって生じた圧力室31内(特に第1ノズル17の近傍)の増粘インクを除去するために実施される動作であって、非記録状態から記録動作へと移行する際、あるいは記録動作途中において適宜実施される。
【0052】
駆動信号発生器62よりフラッシング用噴射パルスDP2が圧電素子25に入力されると、圧電素子25が伸縮し、この圧電素子25の伸縮に伴う圧力室31内の圧力変動に伴ってインク滴が噴射される。図5(a),(b)に示すように、記録用噴射パルスDP1の駆動電圧VD1よりもフラッシング用噴射パルスDP2の駆動電圧VD2の方が小さい。つまり、フラッシング動作時では、記録動作時よりも低電圧にすることで、第2ノズル77よりも流路抵抗が大きい第1ノズル17(ノズル列L1)からインク滴を噴射させることなく、第2ノズル77(ノズル列L2)からのみインク滴を噴射させることができる。
【0053】
このように、インクジェットプリンタ100では、記録動作時とフラッシング動作時とで圧電素子25に印加する駆動電圧値を変化させることにより、インク滴が噴射されるノズル列を選択することが可能である。
【0054】
上述したように、フラッシング動作時には、記録動作時よりも低い電圧を圧電素子25に印加することによって、第1ノズル17からインク滴を噴射させることなく第2ノズル77からのみインク滴を噴射させることができる。孔径の大きい第2ノズル77からインク滴を噴射させることによって、第1ノズル17から噴射させるよりも、圧力室31内の増粘したインクを効率よく除去することができる。
【0055】
これにより、増粘インクに起因する第1ノズル17の目詰まりを防ぐことができるので、記録動作を再開した際にドット抜けなどによって記録品質が低下してしまうのを防止することができる。
また、第2ノズル77から排出されたインクは流体回収部78によって回収されるため、記録位置にある記録ヘッド13を移動させることなくフラッシング動作が可能である。記録ヘッド13の移動が不要であることから、短時間で処理を終了させることができるので、記録動作中の僅かな間であっても定期的にフラッシング動作を実施することが可能である。このように、本実施形態のプリンタ100によれば、簡単な構成で、定期的なフラッシング動作を迅速且つ確実に行えるので、印刷効率が低下してしまうのを防止することができる。
【0056】
なお、流体回収部78にて回収した廃インクのうち、増粘インクを取り除くことで正常なインクのみを再利用することも可能である。
【0057】
(変形例)
図6に示すように、隣り合うノズル列L2,L2同士に共通する流体回収部79を設けても良い。これにより、流体回収部79の数を減らすことができるので、流体回収部79の取付作業が容易になる他、ヘッド自体の構成が簡素化されるためコストを削減できる。また、流体回収部79の幅を広くすることができるので、回収したインクの流通を円滑にすることが可能となる。
【0058】
(第2実施形態)
以下に示す第2実施形態のインクジェットプリンタの基本構成は、上記第1実施形態と略同様であるが、記録ヘッドにおける第2ノズルの位置が異なっている。よって以下では、先の実施形態と異なる部分について詳しく説明し、共通な箇所の説明は省略する。また、説明に用いる各図面において、図1〜図5と共通の構成要素には同一の符号を付すものとする。
【0059】
図7は、第2実施形態におけるインクジェットプリンタの記録ヘッド43の主要部を拡大して示す図、図8は記録ヘッド43のノズル形成面84A側から見た平面図である。
図7に示す記録ヘッド43は、複数の第1ノズル17からなるノズル列L1を各印刷部5Y〜5Bkに対応して複数列有したノズル基板84を備えている。ノズル基板84には、図8に示すようにノズル列L1が4列形成されている。
【0060】
流路基板83には、その側面に各ノズル列L1に対応するノズル列L2が形成されている。ノズル列L2は、各圧力室31に連通するようにして圧力室31の側壁部となる部分に穿設された複数の第2ノズル77から構成されている。複数のノズル列L2のうち、隣り合うノズル列L2(L21)、L2(L22)同士が互いに対向しており、それぞれ対向するノズル列L21,L22に向かってインク滴が噴射されるようになっている。
【0061】
流体回収部80は、これに連通するノズル列L21,L21の各第2ノズル77から噴射されたインク滴を回収する機能を備え、一対のノズル列L1,L1間に存在する。流体回収部80は、ヘッド本体81、振動板82、流路基板83などに共通する凹部によって構成され、ノズル列L21,L22におけるノズル77の配置方向に沿って延在している。この流体回収部80は、ノズル列L21,L22(各第2ノズル77)によるフラッシング動作を数回行えるだけの容積を有する。
なお、例えば、この凹部内に取替え可能なインク吸収体を設けてもよいし、回収したインクを排出する排出口を凹部に連通するように設けてもよい。
【0062】
このように、本実施形態では、第1ノズル17と第2ノズル77とで流体を噴射する方向を異ならせてあり、ノズル列L21、L22を構成している全ての第2ノズル77が、ノズル列L21、L22間に存在する流体回収部80に連通している。
【0063】
本実施形態の構成によれば、流体回収部80が記録ヘッド43に内蔵された構成とされており、見かけ上は従来の記録ヘッドと殆ど変わらない。
記録ヘッドと記録紙(搬送経路)との間は記録品質を高めるため非常に狭くなっていることが多く、ノズル基板の外面側(ノズル形成面上)に流体回収部を備えるだけの空間的な余裕がないことも考えられる。この場合、流体回収部の形状制限や記録ヘッドと記録紙とのクリアランスを広げる必要がある。
【0064】
これに対し、本実施形態では、流体回収部80を内部に備える構成としたことで、記録ヘッド43と記録紙12(搬送経路)との間隔を流体回収部の大きさに応じて調整したりする必要がない。また、記録ヘッド43の内部に流体回収部80を設けることによって、高さ等の形状制限のある外付けタイプの流体回収部に比べて、十分なインク保持容量を確保することが可能となり多くのインク量を回収することが可能である。
【0065】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもなく、上記各実施形態を組み合わせても良い。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0066】
第1実施形態において、流体回収部78の断面形状が矩形となっているが、これに限らず、半円状など様々な形状に変更することが可能である。
また、記録ヘッド13の長手方向に沿うノズル列L2に対して流体回収部78を設けたが、記録ヘッド13の短手方向に並ぶ複数の第2ノズル77から構成されるノズル列に対して流体回収部を設けるようにしても良い。
また、第1ノズル17および第2ノズル77の孔径の比率は、インクの種類などに応じて適宜設定される。
また、第2実施形態では、流体回収部80が対向するノズル列L2(L21),L2(L22)で共通となっているが、ノズル列L2ごとに設けてもよい。
【0067】
上記実施形態では、インクジェット式のプリンタが採用されているが、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置と、その流体を収容した流体容器を採用しても良い。微小量の液滴を吐出させる流体噴射ヘッド等を備える各種の流体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記流体噴射装置から吐出される流体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう流体とは、流体噴射装置が噴射させることができるような材料であれ良い。
【0068】
例えば、物質が液相であるときの状態のものであれば良く、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての流体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散または混合されたものなどを含む。また、流体の代表的な例としては上記実施例の形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インクおよび油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種流体組成物を包含するものとする。
【0069】
流体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む流体を噴射する流体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる流体を噴射する流体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。
【0070】
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置を採用しても良い。そして、これらのうちいずれか一種の噴射装置および流体容器に本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第1実施形態のインクジェットプリンタの概略構成図。
【図2】第1実施形態の記録ヘッド周辺の要部平面図。
【図3】(a)記録ヘッドの概略構成を示す断面図、(b)記録ヘッドのノズル形成面を示す平面図
【図4】インクジェットプリンタの電気的な構成を示すブロック図。
【図5】(a)記録用噴射パルス、(b)フラッシング用噴射パルス
【図6】ノズル基板の変形例。
【図7】第2実施形態のインクジェットプリンタにおける記録ヘッドの概略構成を示す断面図。
【図8】第2実施形態におけるノズル形成面を示す平面図。
【符号の説明】
【0072】
100…インクジェットプリンタ、13,43…記録ヘッド、17…第1ノズル、77…第2ノズル、L1、L2,L21,L21…ノズル列、31…圧力室、25…圧電素子、29…共通インク室(流体貯留室)、12…記録紙(媒体)、78,80…液滴回収部、58…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから流体を噴射させる流体噴射ヘッドにおいて、
圧力室と、
前記圧力室内に圧力変動を生じさせる圧電素子と、
前記圧力室にそれぞれ連通するとともに流路抵抗が互いに異なる第1ノズルおよび第2ノズルと、を備えた
ことを特徴とする流体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記第1ノズルのみが前記媒体に向けて前記流体を噴射する
ことを特徴とする請求項1記載の流体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記第2ノズルは、前記第1ノズルよりも流路抵抗が小さい
ことを特徴とする請求項1または2記載の流体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記第2ノズルは、前記第1ノズルよりも孔径が大きい
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の流体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記第2ノズルから噴射される前記流体を回収する流体回収部を備えている
ことを特徴とする請求項1〜4記載の流体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記流体回収部が、複数の前記第2ノズルからなるノズル列に沿って設けられている
ことを特徴とする請求項5記載の流体噴射ヘッド。
【請求項7】
複数の第2ノズルからなるノズル列が複数列形成されており、
前記流体回収部が、複数の前記ノズル列に共通である
ことを特徴とする請求項6記載の流体噴射ヘッド。
【請求項8】
隣り合う前記ノズル列に対応する前記圧力室の列間に前記流体回収部が設けられている
ことを特徴とする請求項7記載の流体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記第1ノズルと前記第2ノズルとで前記流体の噴射方向が異なる
ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載の流体噴射ヘッド。
【請求項10】
圧力室と、前記圧力室内に圧力変動を生じさせる圧電素子と、前記圧力室にそれぞれ連通するとともに流路抵抗が互いに異なる第1ノズルおよび第2ノズルと、を備えた流体噴射ヘッドと、
前記第1ノズルおよび前記第2ノズルからの前記流体の噴射状態を制御する制御装置と、を備えた
ことを特徴とする流体噴射装置。
【請求項11】
制御装置が、記録動作とフラッシング動作とで前記圧電素子に印加する電圧値を制御する
ことを特徴とする請求項10記載の流体噴射装置。
【請求項12】
流路抵抗が異なる第1ノズルおよび第2ノズルを複数有する流体噴射ヘッドを備えた流体噴射装置を用いた流体噴射方法であって、
記録時に前記第1ノズルおよび前記第2ノズルの両方から流体を噴射させ、
フラッシング時に前記第2ノズルのみから前記流体を噴射させる
ことを特徴とする流体噴射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−115873(P2010−115873A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291058(P2008−291058)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】