説明

流体噴射装置、流体噴射ユニット、制御装置、流体噴射装置の制御方法および手術装置

【課題】流体室の容積を圧電素子により変化させて流体の吐出動作を行う際に、流体の吐出制御をより高精度に行うこと。
【解決手段】流体噴射装置1は、圧電素子401の個体差を補正するための補正率βおよび温度特性の補正率αnを脈動発生部100の波形補正メモリ702に記憶し、脈動発生部100には、圧電素子401近傍の温度を検出する温度センサ701が設置されている。また、制御部30には、基本パルス波形を記憶したメモリ32が備えられている。そして、制御部30の制御回路33が駆動波形出力処理を実行することにより、温度センサ701によって検出された温度に応じた補正率αnと、圧電素子401の個体差を補正する補正率βとによって、圧電素子401に印加する電圧パルス波形を補正し、圧電素子401の出力が基準のレベルと一致するよう制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を噴射して対象部位を切断可能な流体噴射装置、流体噴射ユニット、制御装置、流体噴射装置の制御方法および手術装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織を切開または切除する流体噴射装置として、ポンプ室の容積を圧電素子により変化させて流体の吐出動作を行うマイクロポンプと、マイクロポンプの出口流路に一方の端部が接続され、他方の端部が出口流路の直径よりも縮小された開口部(ノズル)が設けられた接続流路と、接続流路が穿設されマイクロポンプから流動される流体の脈動を前記開口部に伝達し得る剛性を有する接続管と、が備えられ、流体は脈動波群と休止部との繰り返しで流動され、高速で開口部から噴射される流体噴射装置というものが知られている(例えば、特許文献1)。
特許文献1記載の技術によれば、脈動する流体を高速で噴射することが可能であり、その制御も容易である。また、脈動する流体の噴射は手術等において組織の切開能力が高い一方、流体量が少なくてすむため、術野に流体が滞留することが少ない。従って、視認性が向上し、組織の飛散を防ぐ効果があった。
【特許文献1】特開2005−152127号公報(第7,8頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1記載の技術を含め、圧電素子を用いて、流体の収容室(以下、「流体室」と言う。)の容積を変化させ、流体を吐出させる流体噴射装置においては、流体室で発生される圧力にばらつきが生じることがあり、この場合、流体の吐出速度や吐出量が変化することとなる。
即ち、流体室の容積を圧電素子により変化させて流体の吐出動作を行う従来の流体噴射装置においては、流体の吐出制御をより高精度に行うことが望まれていた。
本発明の課題は、流体室の容積を圧電素子により変化させて流体の吐出動作を行う際に、流体の吐出制御をより高精度に行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
以上の課題を解決するため、第1の発明は、
流体が流入する流体室(例えば、図2の流体室501)と、前記流体室の容積を変更する圧電素子を備えた容積変更手段(例えば、図2の圧電素子401およびダイヤフラム400)と、前記流体室に連通する入口流路および出口流路と、を有する脈動発生部(例えば、図2の脈動発生部100)と、一端が前記出口流路に連通し、他端が流体噴射口に連通する接続流路を有する流路管(例えば、図2の接続流路管200)と、前記入口流路に流体を供給する流体供給手段(例えば、図1の流体容器10およびポンプ20)と、前記圧電素子に駆動信号を印加し、前記容積変更手段による前記流体室の容積の変更を制御する制御手段(例えば、図4の制御部30)と、前記圧電素子の特性に基づいて、前記圧電素子の駆動信号を補正する駆動信号補正手段(例えば、図4の制御部30、温度センサ701および波形補正メモリ702)とを備えることを特徴としている。
このような構成により、圧電素子の特性が想定した特性と異なっている場合であっても、圧電素子の特性に応じて駆動信号を補正し、流体室に目的とする圧力を発生させることができる。
したがって、流体室の容積を圧電素子により変化させて流体の吐出動作を行う際に、流体の吐出制御をより高精度に行うことが可能となる。
【0005】
また、第2の発明は、
前記駆動信号補正手段が、個体差を有する前記圧電素子と基準とする圧電素子との特性の差に応じて、前記圧電素子の駆動信号を補正することを特徴としている。
このような構成により、圧電素子の個体差を補正して、基準とする圧電素子の特性と一致する出力を得ることができ、圧電素子の個体差によるばらつきをなくして、より高精度に流体の吐出制御を行うことができる。
【0006】
また、第3の発明は、
前記駆動信号補正手段が、前記圧電素子が有する温度特性を基に、基準とする温度下における出力に合わせて前記圧電素子の駆動信号を補正することを特徴としている。
このような構成により、圧電素子の圧電特性が温度によって変化した場合であっても、圧電素子の温度特性に従って、基準温度下の圧電特性と一致する出力を得ることができ、温度変化による影響をなくして、より高精度に流体の吐出制御を行うことができる。
【0007】
また、第4の発明は、
前記駆動信号補正手段は、前記圧電素子の温度を検出する温度検出手段(例えば、図4の温度センサ701)と、前記圧電素子の個体差を補正するための補正データ(例えば、図4の波形補正メモリ702が記憶する補正率β)および前記圧電素子の温度特性に基づく補正データ(例えば、図4の波形補正メモリ702が記憶する補正率αn)を記憶する波形補正メモリ(例えば、図4の波形補正メモリ702)と、前記圧電素子へ印加される基準となる駆動信号を記憶している基準駆動信号メモリ(例えば、図4のメモリ32)と、前記圧電素子の温度と、前記圧電素子の個体差を補正するための補正データおよび前記圧電素子の温度特性に基づく補正データと、前記基準となる駆動信号とに基づいて、前記圧電素子の個体差および温度特性に応じて前記基準となる駆動信号を補正した駆動信号を生成する制御回路(例えば、図4の制御回路33)とを備え、前記波形補正メモリは前記脈動発生部に実装され、前記基準駆動信号メモリは前記制御部に実装されていることを特徴としている。
このような構成により、使用後に脈動発生部が使い捨てられるような使用形態であっても、基準となる駆動信号を記憶している基準駆動信号メモリは継続して使用できるため、ランニングコストの増大を抑制することができる。
【0008】
また、第5の発明は、
圧電素子によって流体を噴射する流体噴射ユニット(例えば、図1の脈動発生部100)と、前記流体噴射ユニットに流体を供給する流体供給装置(例えば、図1の流体容器10およびポンプ20)と、前記流体噴射ユニットにおける流体の噴射を制御する制御装置(例えば、図1の制御部30)とを備える流体噴射装置の流体噴射ユニットであって、流体が流入する流体室と、前記流体室の容積を変更する圧電素子を備えた容積変更手段と、前記流体室に連通する入口流路および出口流路と、を有する脈動発生部と、一端が前記出口流路に連通し、他端が流体噴射口に連通する接続流路を有する流路管と、前記圧電素子の温度を検出する温度検出手段と、前記圧電素子の個体差を補正するための補正データおよび前記圧電素子の温度特性に基づく補正データを記憶する波形補正メモリとを備えることを特徴としている。
【0009】
このような構成により、圧電素子を備える流体噴射ユニットに、圧電素子の特性に基づく補正データを圧電素子と一体に備えることができる。
したがって、脈動発生部が使い捨てられるような使用形態であっても、基準となる駆動信号を記憶しているメモリは継続して使用できるため、ランニングコストの増大を抑制することができる。
また、脈動発生部を付け替えた場合、付け替えられた圧電素子の補正データを記憶している波形補正メモリも同時に付け替えられるため、脈動発生部を付け替えながら使用することが容易となる。
【0010】
また、第6の発明は、
圧電素子によって流体を噴射する流体噴射ユニットと、前記流体噴射ユニットに流体を供給する流体供給装置と、前記流体噴射ユニットにおける流体の噴射を制御する制御装置とを備える流体噴射装置の制御装置であって、前記圧電素子へ印加される基準となる駆動信号を記憶している基準駆動信号メモリと、外部から取得した、前記圧電素子の温度と、前記圧電素子の個体差を補正するための補正データおよび前記圧電素子の温度特性に基づく補正データと、前記基準駆動信号メモリに記憶された前記基準となる駆動信号とに基づいて、前記圧電素子の個体差および温度特性に応じて前記基準となる駆動信号を補正した駆動信号を生成する制御回路とを備えることを特徴としている。
このような構成により、流体噴射ユニットを制御する制御装置に、基準となる駆動信号を記憶する基準駆動信号メモリを備えることができる。
したがって、脈動発生部が使い捨てられるような使用形態であっても、基準となる駆動信号を記憶している基準駆動信号メモリは継続して使用できるため、ランニングコストの増大を抑制することができる。
【0011】
また、第7の発明は、
流体が流入する流体室と、前記流体室の容積を変更する圧電素子を備えた容積変更手段と、前記流体室に連通する入口流路および出口流路と、を有する脈動発生部と、一端が前記出口流路に連通し、他端が流体噴射口に連通する接続流路を有する流路管と、前記入口流路に流体を供給する流体供給手段と、前記圧電素子に駆動信号を印加し、前記容積変更手段による前記流体室の容積の変更を制御する制御手段と、を備える流体噴射装置の制御方法であって、前記圧電素子の特性に基づいて、前記圧電素子の駆動信号を補正する駆動信号補正ステップを含むことを特徴としている。
これにより、圧電素子の特性が想定した特性と異なっている場合であっても、圧電素子の特性に応じて駆動信号を補正し、流体室に目的とする圧力を発生させることができる。
したがって、流体室の容積を圧電素子により変化させて流体の吐出動作を行う際に、流体の吐出制御をより高精度に行うことが可能となる。
【0012】
また、第8の発明は、
流体が流入する流体室と、前記流体室の容積を変更する圧電素子を備えた容積変更手段と、前記流体室に連通する入口流路および出口流路と、を有する脈動発生部と、一端が前記出口流路に連通し、他端が流体噴射口に連通する接続流路を有する流路管と、前記入口流路に流体を供給する流体供給手段と、前記圧電素子に駆動信号を印加し、前記容積変更手段による前記流体室の容積の変更を制御する制御手段と、前記圧電素子の特性に基づいて、前記圧電素子の駆動信号を補正する駆動信号補正手段とを備えることを特徴としている。
これにより、圧電素子の特性が想定した特性と異なっている場合であっても、圧電素子の特性に応じて駆動信号を補正し、流体室に目的とする圧力を発生させることができる。
したがって、流体室の容積を圧電素子により変化させて流体の吐出動作を行う際に、流体の吐出制御をより高精度に行うことが可能となる。
このように、本発明によれば、流体室の容積を圧電素子により変化させて流体の吐出動作を行う際に、流体の吐出制御をより高精度に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。また、以下の説明で参照する図は、図示の便宜上、部材ないし部分の縦横の縮尺は実際のものとは異なる模式図である。
また、本発明による流体噴射装置は、インク等を用いた描画、細密な物体及び構造物の洗浄、手術用のウォーターパルスメス等様々に採用可能であるが、以下に説明する実施の形態では、生体組織を切開または切除することに好適な流体噴射装置を例示して説明する。従って、実施の形態にて用いる流体は、水、生理食塩水、薬液等である。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る流体噴射装置1の概略構成を示す説明図である。図1において、流体噴射装置1は、基本構成として流体を収容する流体容器10と、一定の圧力を発生して脈動発生部100に流体を供給するポンプ20と、流体の噴射を制御する制御部30と、ポンプ20から供給される流体を脈動流動する脈動発生部100と、を備えている。なお、本実施形態において、制御部30とポンプ20とは一体のユニットとして構成され、制御部30と脈動発生部100とは、各種信号を入出力するための信号線によって接続されている。
【0015】
(流体経路の構成)
初めに、流体噴射装置1の流体経路の構成について説明する。
本実施形態において、脈動発生部100は、圧電素子によって発生させた圧力によって流体を噴射する流体噴射ユニットを構成している。なお、流体噴射ユニットは、液体噴射装置1をウォーターパルスメスとして構成した場合、手術等において術者が把持して使用するハンドピースに相当する。
脈動発生部100には、細いパイプ状の接続流路管200が接続され、接続流路管200の先端部には流路が縮小されたノズル211が挿着されている。
【0016】
この流体噴射装置1における流体の流動を簡単に説明する。流体容器10に収容された流体は、接続チューブ15を介してポンプ20によって吸引され、一定の圧力で接続チューブ25を介して脈動発生部100に供給される。脈動発生部100には流体室501(図2、参照)と、この流体室501の容積変更手段とを備えており、容積変更手段を駆動して脈動を発生して、接続流路管200、ノズル211を通して流体を高速で噴射する。脈動発生部100の詳しい説明については、図2、図3を参照して後述する。
【0017】
なお、圧力発生部としてはポンプ20に限らず、輸液バッグをスタンド等によって脈動発生部100よりも高い位置に保持するようにしてもよい。従って、ポンプ20は不要となり、構成を簡素化することができる他、消毒等が容易になる利点がある。
ポンプ20の吐出圧力は概ね3気圧(0.3MPa)以下に設定する。また、輸液バッグを用いる場合には、脈動発生部100と輸液バッグの液上面との高度差が圧力となる。輸液バックを用いるときには0.1〜0.15気圧(0.01〜0.15MPa)程度になるように高度差を設定することが望ましい。
【0018】
なお、この流体噴射装置1を用いて手術をする際には、術者が把持する部位は脈動発生部100である。従って、脈動発生部100までの接続チューブ25はできるだけ柔軟であることが好ましい。そのためには、柔軟で薄いチューブで、流体を脈動発生部100に送液可能な範囲で低圧にすることが好ましい。
また、特に、脳手術のときのように、機器の故障が重大な事故を引き起こす恐れがある場合には、接続チューブ25の切断等において高圧な流体が噴出することは避けなければならず、このことからも低圧にしておくことが要求される。
【0019】
次に、本実施形態による脈動発生部100の構造について説明する。
図2は、本実施形態に係る脈動発生部100の構造を示す図であり、(a)は断面図、(b)は分解図である。なお、図2(a)は、後述する図3におけるA−A’断面図である。
図2において、脈動発生部100には、流体の脈動を発生する脈動発生手段を含み、流体を吐出する流路としての接続流路201を有する接続流路管200が接続されている。
脈動発生部100は、上ケース500と下ケース301とをそれぞれ対向する面において接合され、4本の固定螺子(図示は省略)によって螺着されている。下ケース301は、鍔部を有する筒状部材であって、一方の端部は底板311で密閉されている。この下ケース301の内部空間に圧電素子401および温度センサ701が配設される。
【0020】
圧電素子401は、積層型圧電素子であってアクチュエータを構成する。圧電素子401の一方の端部は上板411を介してダイアフラム400に、他方の端部は底板311の上面312に固着されている。
また、ダイアフラム400は、円盤状の金属薄板からなり、下ケース301の凹部303内において周縁部が凹部303の底面に密着固着されている。圧電素子401に駆動信号を入力することで、圧電素子401の伸張、収縮に伴いダイアフラム400を介して流体室501の容積を変更する。
ダイアフラム400の上面には、中心部に開口部を有する円盤状の金属薄板からなる補強板410が積層配設される。
【0021】
上ケース500は、下ケース301と対向する面の中心部に凹部が形成され、この凹部とダイアフラム400とから構成され流体が充填された状態の回転体形状が流体室501である。つまり、流体室501は、上ケース500の凹部の封止面505と内周側壁501aとダイアフラム400によって囲まれた空間である。流体室501の略中央部には出口流路511が穿設されている。
出口流路511は、流体室501から上ケース500の一方の端面から突設された出口流路管510の端部まで貫通されている。出口流路511の流体室501の封止面505との接続部は、流体抵抗を減ずるために滑らかに丸められている。
【0022】
なお、以上説明した流体室501の形状は、本実施形態(図2、参照)では、両端が封止された略円筒形状としているが、側面視して円錐形や台形、あるいは半球形状等でもよく限定されない。例えば、出口流路511と封止面505との接続部を漏斗のような形状にすれば、後述する流体室501内の気泡を排出しやすくなる。
出口流路管510には接続流路管200が接続されている。接続流路管200には接続流路201が穿設されており、接続流路201の直径は出口流路511の直径より大きい。また、接続流路管200の管部の厚さは、流体の圧力脈動を吸収しない剛性を有する範囲に形成されている。
【0023】
接続流路管200の先端部には、ノズル211が挿着されている。このノズル211には流体噴射開口部212が穿設されている。流体噴射開口部212の直径は、接続流路201の直径より小さい。
上ケース500の側面には、ポンプ20から流体を供給する接続チューブ25を挿着する入口流路管502が突設されており、入口流路管502に入口流路側の接続流路504が穿たれている。接続流路504は入口流路503に連通されている。入口流路503は、流体室501の封止面505の周縁部に溝状に形成され、流体室501に連通している。
【0024】
上ケース500と下ケース301との接合面において、ダイアフラム400の外周方向の離間した位置には、下ケース301側にパッキンボックス304、上ケース500側にパッキンボックス506が形成されており、パッキンボックス304,506にて形成される空間にリング状のパッキン450が装着されている。
ここで、上ケース500と下ケース301とを組立てたとき、ダイアフラム400の周縁部と補強板410の周縁部とは、上ケース500の封止面505の周縁部と下ケース301の凹部303の底面によって密接されている。この際、パッキン450は上ケース500と下ケース301によって押し圧されて、流体室501からの流体漏洩を防止している。
【0025】
流体室501内は、流体吐出の際に30気圧(3MPa)以上の高圧状態となり、ダイアフラム400、補強板410、上ケース500、下ケース301それぞれの接合部において流体が僅かに漏洩することが考えられるが、パッキン450によって漏洩を阻止している。
図2に示すようにパッキン450を配設すると、流体室501から高圧で漏洩してくる流体の圧力によってパッキン450が圧縮され、パッキンボックス304,506内の壁にさらに強く押し圧するので、流体の漏洩を一層確実に阻止することができる。このことから、駆動時において流体室501内の高い圧力上昇を維持することができる。
続いて、上ケース500に形成される入口流路503について図面を参照してさらに詳しく説明する。
【0026】
図3は、入口流路503の形態を示す平面図であり、上ケース500を下ケース301との接合面側から視認した状態を表している。
図3において、入口流路503は、上ケース500の封止面505の周縁部溝状に形成されている。
入口流路503は、一方の端部が流体室501に連通し、他方の端部が接続流路504に連通している。入口流路503と接続流路504との接続部には、流体溜り507が形成されている。そして、流体溜り507と入口流路503との接続部は滑らかに丸めることによって流体抵抗を減じている。
【0027】
また、入口流路503は、流体室501の内周側壁501aに対して略接線方向に向かって連通している。ポンプ20(図1、参照)から一定の圧力で供給される流体は、内周側壁501aに沿って(図中、矢印で示す方向)流動して流体室501に旋回流を発生する。旋回流は、旋回することによる遠心力で内周側壁501a側に押し付けられるとともに、流体室501内に含まれる気泡は旋回流の中心部に集中する。
そして、中心部に集められた気泡は、出口流路511から排除される。このことから、出口流路511は旋回流の中心近傍、つまり回転形状体の軸中心部に設けられることがより好ましい。従って、本実施形態において、入口流路503は旋回流発生部である。図3では、入口流路503は平面形状が湾曲されている。入口流路503は、直線で流体室501に連通させてもよいが、狭いスペースの中で所望のイナータンスを得るために、入口流路503の流路長を長くする必要性から湾曲させている。
【0028】
なお、図2に示したように、ダイアフラム400と入口流路503が形成されている封止面505の周縁部との間には、補強板410が配設されている。補強板410を設ける意味は、ダイアフラム400の耐久性を向上することである。入口流路503の流体室501との接続部には切欠き状の接続開口部509が形成されるので、ダイアフラム400が高い周波数で駆動されたときに、接続開口部509近傍において応力集中が生じて疲労破壊を発生することが考えられる。そこで、切欠き部がない連続した開口部を有している補強板410を配設することで、ダイアフラム400に応力集中が発生しないようにしている。
【0029】
また、上ケース500の外周隅部には、4箇所の螺子孔500aが開設されており、この螺子孔位置において、上ケース500と下ケース301とが螺合接合される。
なお、図示は省略するが、補強板410とダイアフラム400とを接合し、一体に積層固着することができる。固着手段としては、接着剤を用いる貼着としても、固層拡散接合、溶接等を採用することが可能であるが、補強板410とダイアフラム400とが、接合面において密着されていることがより好ましい。
【0030】
(制御系統の機能構成)
続いて、流体噴射装置1の制御系統の機能構成について説明する。
図4は、流体噴射装置1の制御系統を示す機能構成図である。
図4において、流体噴射装置1の制御系統は、主として制御部30と脈動発生部100とに備えられている。
脈動発生部100は、圧電素子401と、圧電素子401近傍の温度を検出する温度センサ701と、圧電素子401の個体差に基づく補正データおよび温度変化に基づく補正データを記憶している波形補正メモリ702とを備えている。なお、補正データとして、駆動電圧の補正量や補正率、あるいは、圧電素子401が有する個体差や温度特性自体を記憶しておくことが可能であるが、本実施形態においては、駆動電圧の補正率を記憶しておくものとする。
【0031】
温度センサ701は、脈動発生部100において圧電素子401に近接した位置に設置されており、圧電素子401近傍の温度を検出する。そして、温度センサ701は、検出した温度を示すアナログ信号(以下、「温度信号」と言う。)を制御部30のA/Dコンバータ(以下、「ADC」と言う。)に出力する。
波形成形メモリ702は、圧電素子401の製造ばらつきによる個体差を補正し、基準の圧電特性に合わせるための補正率βと、温度特性に従って変化する圧電素子402の圧電特性を補正し、基準温度下(例えば25℃)の圧電特性に合わせるための補正率αn(nは自然数。以下、同様である。)を記憶している。これら個体差を補正する補正率βおよび温度特性を補正する補正率αnは、流体噴射装置1の製造過程において、圧電素子401が脈動発生部100に組み込まれた際に実測して得ることができる。
【0032】
図5は、波形補正メモリ702が記憶している補正率βおよび補正率αnの具体的内容を示す図である。
図5において、波形補正メモリ702の記憶領域には、番号0〜m(mは自然数)までのアドレスが付与されており、アドレス0には、個体差を補正する補正率βが記憶され、アドレス1以降には、所定の温度Tnと、その温度における補正率αnとが記憶されている。
個体差を補正する補正率βは、基準として想定した圧電素子の圧電特性(基準温度下における規定の圧電特性)に対し、圧電素子401の圧電特性が有しているずれ(基準温度下における規定の圧電特性との乖離度合い)に基づいて算出した補正率である。
具体的には、補正率βは、β=(基準の圧電特性)/(個体差を有する圧電素子の圧電特性)として定義される。
【0033】
したがって、例えば、同一の電圧を印加した場合に、圧電素子401の圧電特性が基準の圧電特性に対して20%高く出力されるものである場合、基準の圧電特性に合わせるためには、圧電素子401の出力を100/120≒0.83に補正する必要があり、この補正率0.83が、圧電素子401の個体差を補正する補正率βとして記憶される。
また、温度特性を補正する補正率αnについては、ある温度Tnと、それに対応する補正率αnとが1組のデータとして連続するアドレスに記憶されており、波形補正メモリ702のアドレス1以降には、それぞれ異なる温度Tnに対応する複数組の温度Tnおよび補正率αnが、規定された温度範囲にわたって記憶されている。
【0034】
温度特性を補正する補正率αnは、基準温度から温度が変化した場合に、基準温度下における圧電素子401の圧電特性に対し、各温度下で圧電素子401の圧電特性が示すずれ(基準温度下における圧電素子402の圧電特性から、温度によって圧電特性が変化する度合い)に基づいて算出した補正率である。
具体的には、温度特性における補正率αnは、αn=(基準温度下における圧電特性)/(特定の温度下における圧電特性)として定義される。
したがって、例えば、同一の電圧を印加した場合に、圧電素子401の基準温度下(例えば25℃)における圧電特性に対し、5℃高い温度下(例えば30℃)では、10%低く出力されるものである場合、基準温度下における圧電特性に合わせるためには、圧電素子401の出力を100/90≒1.11に補正する必要があり、この補正率1.11が、基準温度+5℃における圧電素子の補正率αnとして記憶される。
【0035】
図4に戻り、制御部30は、ADC31と、メモリ32と、制御回路33と、駆動波形増幅回路34と、電源回路35とを備えている。
ADC31は、脈動発生部100の温度センサ701から出力された温度信号をAD変換し、デジタル信号として制御回路33に出力する。
メモリ32は、基準として想定した圧電素子を用いる場合の電圧パルス波形(以下、「基本パルス波形」と言う。)を記憶している。
【0036】
図6は、メモリ32が記憶している基本パルス波形の具体的内容を示す図である。
図6において、メモリ32の記憶領域には、番号0〜x(xは自然数)までのアドレスが付与されており、基本パルス波形ひとつ分の電圧値がデジタル値として記憶されている。具体的には、メモリ32のアドレス0から順に、基本パルス波形における電圧値Vxが所定時間(サンプリング間隔)毎のデジタル値として記憶されている。
制御回路33は、流体噴射装置1全体を制御する機能を有している。具体的には、制御回路33は、ADC31から入力されたデジタルの温度信号と、波形補正メモリ702に記憶された補正率αn,βと、メモリ32に記憶された基本パルス波形と、不図示のフットスイッチ等から入力される吐出開始信号とを用いて、圧電素子401に印加する電圧パルス波形をデジタル信号として駆動波形増幅回路34に出力する駆動波形出力処理(後述)を実行する。なお、吐出開始信号は、対象部位の切開等を行う際、流体噴射装置1から流体の噴射を開始させるために術者がスイッチを操作して入力する信号である。
【0037】
また、制御回路33は、駆動波形出力処理において、流体噴射装置1全体の同期信号となるシステムクロック信号から、圧電素子401に印加する電圧パルス波形の生成に使用する二次クロック信号を生成し、生成した二次クロック信号を駆動波形増幅回路34に出力する。
駆動波形増幅回路34は、制御回路33から入力された電圧パルス波形のデジタル信号(以下、「DAC制御信号」と言う。)をアナログ信号に変換し、そのアナログ信号を増幅して脈動発生部100の圧電素子401に印加する。
図7は、駆動波形増幅回路34の機能構成を示す概略図である。
図7において、駆動波形増幅回路34は、D/Aコンバータ(以下、「DAC」と言う。)34aと、プッシュプル回路34bとを備えている。
DAC34aには、制御回路33から出力された二次クロック信号と、DAC制御信号とが入力される。
【0038】
そして、DAC34aは、二次クロック信号の立ち上がりに同期して、DAC制御信号が示すサンプリング間隔毎の電圧値を順次、アナログの電圧信号として出力していき、階段状の電圧パルス波形を出力する。
プッシュプル回路34bは、極性の異なる2つのトランジスタ(NPN型およびPNP型)が入出力間において対称に接続されている。
プッシュプル回路34bの動作周波数は、10MHz程度のオーダーであるため、DAC34aから入力された階段状の電圧パルス波形は、プッシュプル回路34bを通過することや配線抵抗と容量性負荷である圧電素子のフィルタ効果により波形が平滑化され、滑らかに変化する信号となる。
図4に戻り、電源回路35は、商用電源を流体噴射装置1の電源規格に変換する変換回路であり、流体噴射装置1の各部に変換後の電力を供給する。なお、電源回路35は、リチウムイオン等の二次電池によって構成することも可能である。
【0039】
(動作)
次に、本実施形態における動作について説明する。
(流体噴射装置1の制御動作)
図8は、制御回路33が実行する駆動波形出力処理を示すフローチャートである。
駆動波形出力処理は、流体噴射装置1の電源投入と共に実行が開始され、電源投入中は繰り返し実行される。
図8において、駆動波形出力処理が開始されると、制御回路33は、脈動発生部100の波形補正メモリ702のデータ全体を読み出す(ステップS1)。
次に、制御回路33は、読み出した波形補正メモリ702のデータの中から、個体差の補正率βを取得する(ステップS2)。
【0040】
そして、制御回路33は、吐出開始信号が入力されているか否かを判定し(ステップS3)、吐出開始信号が入力されていないと判定した場合、ステップS3の処理を繰り返す。
一方、吐出開始信号が入力されていると判定した場合、制御回路33は、基本パルス波形の時系列に対応するパラメータiをリセット(i=0)する(ステップS4)。
次に、制御回路33は、脈動発生部100の温度センサ701から出力される温度信号を受信し(ステップS5)、ステップS1において読み出した波形補正メモリ702のデータの中から、温度信号が示す温度に対応する補正率αnを取得して、処理に使用する補正率αに設定する(ステップS6)。
【0041】
続いて、制御回路33は、二次クロック信号を生成するためのタイマをクリアした後、タイマのカウントを開始する(ステップS7)。このとき、タイマは、システムクロック信号を利用してカウントされる。
そして、制御回路33は、タイマの値が二次クロック信号の周期tclockの1/2になっているか否かを判定し(ステップS8)、タイマの値が二次クロック信号の周期tclockの1/2になっていないと判定した場合、ステップS8の処理を繰り返して、タイマのカウントアップを待つ。
一方、タイマの値が二次クロック信号の周期tclockの1/2になっていると判定した場合、制御回路33は、二次クロック信号をハイレベルからローレベルに立ち下げる(ステップS9)。
【0042】
次に、制御回路33は、DAC制御信号が示すデジタル値を、メモリ32のアドレスiに記憶された電圧値Viと、補正率βと、補正率αとの乗算値(Vi×β×α)として算出する(ステップS10)。
次いで、制御回路33は、二次クロック信号を生成するためのタイマをクリアした後、タイマのカウントを開始する(ステップS11)。
そして、制御回路33は、タイマの値が二次クロック信号の周期tclockの1/2になっているか否かを判定し(ステップS12)、タイマの値が二次クロック信号の周期tclockの1/2になっていないと判定した場合、ステップS12の処理を繰り返して、タイマのカウントアップを待つ。
【0043】
一方、タイマの値が二次クロック信号の周期tclockの1/2になっていると判定した場合、制御回路33は、二次クロック信号をローレベルからハイレベルに立ち上げ(ステップS13)、パラメータiを“1”インクリメント(i=i+1)する(ステップS14)。
さらに、制御回路33は、メモリ32に記憶された電圧値Viのうち、時系列における最終の電圧値(以下、「最終電圧値」と言う。)Viを既に読み込んで、DAC制御信号が示すデジタル値を算出したか否かを判定する(ステップS15)。このとき、制御回路33は、パラメータiがメモリ32のアドレスの最大値xを超えているか否かを判定することによって、最終電圧値Viを既に読み込んだか否かを判定することができる。
【0044】
ステップS15において、最終電圧値Viを読み込んで、DAC制御信号が示すデジタル値を算出してはいないと判定した場合、制御回路33は、ステップS5の処理に移行し、最終電圧値Viを既に読み込んで、DAC制御信号が示すデジタル値を算出したと判定した場合、吐出開始信号の入力が中止されたか否かを判定する(ステップS16)。
ステップS16において、吐出開始信号の入力が中止されていないと判定した場合、制御回路33は、ステップS4の処理に移行し、吐出開始信号の入力が中止されたと判定した場合、駆動波形出力処理を繰り返す。
駆動波形出力処理が実行されることにより、圧電素子401の個体差の補正率βおよび温度特性の補正率αnを反映させて、基準温度下における規定の圧電特性と一致させた電圧パルス波形を出力することができる。
【0045】
図9は、流体の吐出が行われる際の制御部30における各種信号の状態を示すタイミングチャートである。
図9において、駆動波形出力処理が実行されることにより、吐出開始信号が入力されている場合(ハイレベルの場合)に、二次クロック信号が生成される。また、二次クロック信号の1周期毎に、メモリ32内の時系列に沿う電圧値Vxの順序(即ち、アドレス番号の小さい順序)にDAC制御信号が示すデジタル値が更新される。
このような動作がメモリ32のアドレス0〜xまでの電圧値について一度繰り返されると、DAC制御信号は、1つの電圧パルス波形を示すデジタル値を出力することとなる。
【0046】
そして、DAC制御信号が示す電圧パルス波形のデジタル値は、DAC34aによって階段状のアナログ信号に変換され、プッシュプル回路34bに出力される。さらに、プッシュプル回路34bを通過した電圧パルス波形は、滑らかに変化する駆動信号となり、圧電素子401に印加される。すると、圧電素子401が流体室の容積を変化させることにより、ノズル211からパルス状に流体が吐出される。
【0047】
(流体噴射装置1全体の動作)
続いて、上記制御動作が行われた場合の流体噴射装置1全体の動作について説明する。
本実施形態の脈動発生部100の流体吐出は、入口流路側のイナータンスL1(合成イナータンスL1と呼ぶことがある)と出口流路側のイナータンスL2(合成イナータンスL2と呼ぶことがある)の差によって行われる。
まず、イナータンスについて説明する。
イナータンスLは、流体の密度をρ、流路の断面積をS、流路の長さをhとしたとき、L=ρ×h/Sで表される。流路の圧力差をΔP、流路を流れる流体の流量をQとした場合に、イナータンスLを用いて流路内の運動方程式を変形することで、ΔP=L×dQ/dtという関係が導き出される。
【0048】
つまり、イナータンスLは、流量の時間変化に与える影響度合いを示しており、イナータンスLが大きいほど流量の時間変化が少なく、イナータンスLが小さいほど流量の時間変化が大きくなる。
また、複数の流路の並列接続や、複数の形状が異なる流路の直列接続に関する合成イナータンスは、個々の流路のイナータンスを電気回路におけるインダクタンスの並列接続、または直列接続と同様に合成して算出することができる。
【0049】
なお、入口流路側のイナータンスL1は、接続流路504が入口流路503に対して直径が十分大きく設定されているので、イナータンスL1は、入口流路503の範囲において算出される。この際、ポンプ20と入口流路を接続する接続チューブは柔軟性を有するため、イナータンスL1の算出から削除してもよい。
また、出口流路側のイナータンスL2は、接続流路201の直径が出口流路よりもはるかに大きく、接続流路管200の管部(管壁)の厚さが薄いためイナータンスL2への影響は軽微である。従って、出口流路側のイナータンスL2は出口流路511のイナータンスに置き換えてもよい。
【0050】
なお、接続流路管200の管壁の厚さは、流体の圧力伝播には十分な剛性を有している。
そして、本実施形態では、入口流路側のイナータンスL1が出口流路側のイナータンスL2よりも大きくなるように、入口流路503の流路長及び断面積、出口流路511の流路長及び断面積を設定する。
【0051】
次に、脈動発生部100の動作について説明する。
ポンプ20によって入口流路503には、常に一定圧力の液圧で流体が供給されている。その結果、圧電素子401が動作を行わない場合、ポンプ20の吐出力と入口流路側全体の流体抵抗値の差によって流体は流体室501内に流動する。
ここで、フットスイッチ等の操作により、制御部30に吐出開始信号が入力され、駆動波形増幅回路34から圧電素子401に電圧パルス波形が印加されたとする。
【0052】
このとき、駆動波形増幅回路34に入力されるDAC制御信号は、制御回路33における駆動波形出力処理によって、圧電素子401の個体差および温度特性が補正され、基準温度下において基準となる圧電素子が動作した場合の出力と一致する電圧値を示すものとなっている。
そして、このような電圧パルス波形が圧電素子401に入力され、急激に圧電素子401が伸張すると、流体室501内の圧力は、入口流路側及び出口流路側のイナータンスL1,L2が十分な大きさを有していれば急速に上昇して数十気圧に達する。
【0053】
この圧力は、入口流路503に加えられていたポンプ20による圧力よりはるかに大きいため、入口流路側から流体室501内への流体の流入はその圧力によって減少し、出口流路511からの流出は増加する。従って、前述した特許文献1による流体噴射装置のような、入口流路側に設けられる逆止弁は必要ない。
しかし、入口流路503のイナータンスL1は、出口流路511のイナータンスL2よりも大きいため、入口流路503から流体が流体室501へ流入する流量の減少量よりも、出口流路から吐出される流体の増加量のほうが大きいため、接続流路201にパルス状の流体吐出、つまり、脈動流が発生する。この吐出の際の圧力変動が、接続流路管200内を伝播して、先端のノズル211の流体噴射開口部212から流体が噴射される。
【0054】
ここで、ノズル211の流体噴射開口部212の直径は、出口流路511の直径よりも小さいので、流体は、さらに高圧、高速のパルス状の液滴として噴射される。
一方、流体室501内は、入口流路503からの流体流入量の減少と出口流路511からの流体流出の増加との相互作用で、圧力上昇直後に真空状態となる。その結果、ポンプ20の圧力と、流体室501内の真空状態の双方によって一定時間経過後、入口流路503の流体は圧電素子401の動作前と同様な速度で流体室501内に向かう流れが復帰する。
入口流路503内の流体の流動が復帰した後、圧電素子401の伸張があれば、ノズル211からの脈動流を継続して噴射することができる。
【0055】
上述のように、駆動波形出力処理が実行されることにより、圧電素子401の個体差や温度特性による流体の吐出速度や吐出量のばらつきを抑制することができ、より高精度な吐出制御を行うことが可能となる。
続いて、流体室501内の気泡の排除動作について説明する。
上述した脈動発生部100の動作において、流体室501が、略回転体形状を有し旋回流発生部としての入口流路503を備えていることと、出口流路511が略回転体形状の回転軸近傍に開設されていることから、流体室501内において旋回流が発生し、流体内に含まれる気泡は速やかに出口流路511から外部に排出される。
【0056】
従って、圧電素子401による流体室501の微小な容積変化においても、気泡によって圧力変動が阻害されることなく、十分な圧力上昇が得られる。
従って、前述した第1実施形態によれば、ポンプ20により一定圧力で入口流路503に流体を供給するため、脈動発生部100の駆動を停止した状態においても入口流路503及び流体室501に流体を供給するため、呼び水動作をしなくても初期動作を開始することができる。
また、出口流路511の直径よりも縮小された流体噴射開口部212から流体を噴出するため、液圧を出口流路511内よりも高めることから、高速の流体噴射を可能にする。
【0057】
さらに、接続流路管200が、流体室501から流動される流体の脈動を流体噴射開口部212に伝達し得る剛性を有しているので、脈動発生部100からの流体の圧力伝播を妨げず、所望の脈動流を噴射することができるという効果を有する。
また、入口流路503のイナータンスを、出口流路511のイナータンスよりも大きく設定していることから、入口流路503から流体室501への流体の流入量の減少よりも大きい流出量の増加が出口流路511に発生し、接続流路管200内にパルス状の流体吐出を行うことができる。従って、前述した特許文献1のように入口流路503側に逆止弁を設けなくてもよく、脈動発生部100の構造を簡素化できるとともに、内部の洗浄が容易になる他、逆止弁を用いることに起因する耐久性の不安を排除することができるという効果がある。
【0058】
なお、入口流路503及び出口流路511双方のイナータンスを十分大きく設定することにより、流体室501の容積を急激に縮小すれば、流体室501内の圧力を急激に上昇させることができる。
また、容積変更手段として圧電素子401とダイアフラム400とを採用する構造にすることにより構造の簡素化と、それに伴う小型化を実現できる。また、流体室501の容積変化の最大周波数を1KHz以上の高い周波数にすることができ、高速脈動流の噴射に最適である。
【0059】
また、旋回流発生部により流体室501内の流体に旋回流を発生させることで、流体を遠心力により流体室の外周方向に押しやり、旋回流の中心部、つまり、略回転体形状の軸近傍に流体に含まれる気泡が集中し、略回転体形状の軸の近傍に設けられる出口流路511から気泡を排除することができる。このことから、流体室501内に気泡が滞留することによる圧力振幅の低下を防止することができ、脈動発生部100の安定した駆動を継続することができる。
【0060】
さらに、旋回流発生部を入口流路503により形成していることから、専用の旋回流発生部を用いることなく旋回流を発生させることができる。
また、流体室501の封止面505の外周縁部に、溝形状の入口流路503を形成しているので、部品数を増やすことなく旋回流発生部としての入口流路503を形成することができる。
また、ダイアフラム400の上面に補強板410を備えていることにより、ダイアフラム400は補強板410の開口部外周を支点として駆動するため、応力集中が発生しにくく、ダイアフラム400の耐久性を向上させることができる。
【0061】
なお、補強板410のダイアフラム400との接合面の角部を丸めておけば、一層、ダイアフラム400の応力集中を緩和することができる。
また、補強板410とダイアフラム400とを積層し、一体に固着すれば、脈動発生部100の組立性を向上させることができる他、ダイアフラム400の外周縁部の補強効果もある。
また、ポンプ20から流体を供給する入口側の接続流路504と入口流路503との接続部に、流体を滞留する流体溜り507を設けているために、接続流路504のイナータンスが入口流路503に与える影響を抑制することができる。
【0062】
さらに、上ケース500と下ケース301との接合面において、ダイアフラム400の外周方向離間した位置にリング状のパッキン450を備えているために、流体室501からの流体の漏洩を防止し、流体室501内の圧力低下を防止することができる。
以上のように、本実施形態に係る流体噴射装置1は、圧電素子401の個体差を補正するための補正率βおよび温度特性の補正率αnを脈動発生部100の波形補正メモリ702に記憶し、脈動発生部100には、圧電素子401近傍の温度を検出する温度センサ701が設置されている。また、制御部30には、基本パルス波形を記憶したメモリ32が備えられている。
【0063】
そして、制御部30の制御回路33が駆動波形出力処理を実行することにより、温度センサ701によって検出された温度に応じた補正率αnと、圧電素子401の個体差を補正する補正率βとによって、圧電素子401に印加する電圧パルス波形を補正し、圧電素子401の出力が基準のレベルと一致するよう制御される。
したがって、流体室において発生される圧力を目的の圧力と一致させることができるため、流体室の容積を圧電素子により変化させて流体の吐出動作を行う場合に、流体の吐出制御をより高精度に行うことが可能となる。
また、本実施形態に係る流体噴射装置1においては、圧電素子401の個体差の補正率βおよび温度特性の補正率αnが脈動発生部100に備えられた波形補正メモリ702に記憶され、基本パルス波形が制御部30のメモリ32に記憶されている。
【0064】
したがって、脈動発生部100が手術等に使用された後、衛生管理の観点から使い捨てられるような使用形態であっても、基本パルス波形を記憶するメモリ32は継続して使用できるため、ランニングコストの増大を抑制することができる。
また、流体噴射装置1に新たな脈動発生部が接続された場合、その脈動発生部に備えられた圧電素子401の個体差を補正する補正率βおよび温度特性の補正率αnを記憶した波形補正メモリからデータが読み出され、目的とする出力となるように、制御部30によって圧電素子401が駆動される。
したがって、液体噴射装置1の脈動発生部を付け替えた場合に、付け替えられた圧電素子の補正データを記憶している波形補正メモリも同時に付け替えられることから、脈動発生部を付け替えながら使用することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1実施形態に係る流体噴射装置1の概略構成を示す説明図である。
【図2】本実施形態に係る脈動発生部100の構造を示す図である。
【図3】入口流路503の形態を示す平面図である。
【図4】流体噴射装置1の制御系統を示す機能構成図である。
【図5】波形補正メモリ702が記憶している補正率βおよび補正率αnの具体的内容を示す図である。
【図6】メモリ32が記憶している基本パルス波形の具体的内容を示す図である。
【図7】駆動波形増幅回路34の機能構成を示す概略図である。
【図8】制御回路33が実行する駆動波形出力処理を示すフローチャートである。
【図9】流体の吐出が行われる際の制御部30における各種信号の状態を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0066】
1 流体噴射装置、10 流体容器、15,25 接続チューブ、20 ポンプ、30 制御部、31 ADC、32 メモリ、33 制御回路、34 駆動波形増幅回路、34a DAC、34b プッシュプル回路、35 電源回路、100 脈動発生部、200 接続流路管、201 接続流路、211 ノズル、212 流体噴射開口部、401 圧電素子、501 流体室、503 入口流路、511 出口流路、701 温度センサ、702 波形補正メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流入する流体室と、前記流体室の容積を変更する圧電素子を備えた容積変更手段と、前記流体室に連通する入口流路および出口流路と、を有する脈動発生部と、
一端が前記出口流路に連通し、他端が流体噴射口に連通する接続流路を有する流路管と、
前記入口流路に流体を供給する流体供給手段と、
前記圧電素子に駆動信号を印加し、前記容積変更手段による前記流体室の容積の変更を制御する制御手段と、
前記圧電素子の特性に基づいて、前記圧電素子の駆動信号を補正する駆動信号補正手段と、
を備えることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
前記駆動信号補正手段は、個体差を有する前記圧電素子と基準とする圧電素子との特性の差に応じて、前記圧電素子の駆動信号を補正することを特徴とする請求項1記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記駆動信号補正手段は、前記圧電素子が有する温度特性を基に、基準とする温度下における出力に合わせて前記圧電素子の駆動信号を補正することを特徴とする請求項1または2記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記駆動信号補正手段は、
前記圧電素子の温度を検出する温度検出手段と、
前記圧電素子の個体差を補正するための補正データおよび前記圧電素子の温度特性に基づく補正データを記憶する波形補正メモリと、
前記圧電素子へ印加される基準となる駆動信号を記憶している基準駆動信号メモリと、
前記圧電素子の温度と、前記圧電素子の個体差を補正するための補正データおよび前記圧電素子の温度特性に基づく補正データと、前記基準となる駆動信号とに基づいて、前記圧電素子の個体差および温度特性に応じて前記基準となる駆動信号を補正した駆動信号を生成する制御回路とを備え、
前記波形補正メモリは前記脈動発生部に実装され、前記基準駆動信号メモリは前記制御部に実装されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の流体噴射装置。
【請求項5】
圧電素子によって流体を噴射する流体噴射ユニットと、前記流体噴射ユニットに流体を供給する流体供給装置と、前記流体噴射ユニットにおける流体の噴射を制御する制御装置とを備える流体噴射装置の流体噴射ユニットであって、
流体が流入する流体室と、
前記流体室の容積を変更する圧電素子を備えた容積変更手段と、
前記流体室に連通する入口流路および出口流路と、を有する脈動発生部と、
一端が前記出口流路に連通し、他端が流体噴射口に連通する接続流路を有する流路管と、
前記圧電素子の温度を検出する温度検出手段と、
前記圧電素子の個体差を補正するための補正データおよび前記圧電素子の温度特性に基づく補正データを記憶する波形補正メモリと、
を備えることを特徴とする流体噴射ユニット。
【請求項6】
圧電素子によって流体を噴射する流体噴射ユニットと、前記流体噴射ユニットに流体を供給する流体供給装置と、前記流体噴射ユニットにおける流体の噴射を制御する制御装置とを備える流体噴射装置の制御装置であって、
前記圧電素子へ印加される基準となる駆動信号を記憶している基準駆動信号メモリと、
外部から取得した、前記圧電素子の温度と、前記圧電素子の個体差を補正するための補正データおよび前記圧電素子の温度特性に基づく補正データと、前記基準駆動信号メモリに記憶された前記基準となる駆動信号とに基づいて、前記圧電素子の個体差および温度特性に応じて前記基準となる駆動信号を補正した駆動信号を生成する制御回路と、
を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項7】
流体が流入する流体室と、前記流体室の容積を変更する圧電素子を備えた容積変更手段と、前記流体室に連通する入口流路および出口流路と、を有する脈動発生部と、
一端が前記出口流路に連通し、他端が流体噴射口に連通する接続流路を有する流路管と、
前記入口流路に流体を供給する流体供給手段と、
前記圧電素子に駆動信号を印加し、前記容積変更手段による前記流体室の容積の変更を制御する制御手段と、
を備える流体噴射装置の制御方法であって、
前記圧電素子の特性に基づいて、前記圧電素子の駆動信号を補正する駆動信号補正ステップを含むことを特徴とする流体噴射装置の制御方法。
【請求項8】
流体が流入する流体室と、前記流体室の容積を変更する圧電素子を備えた容積変更手段と、前記流体室に連通する入口流路および出口流路と、を有する脈動発生部と、
一端が前記出口流路に連通し、他端が流体噴射口に連通する接続流路を有する流路管と、
前記入口流路に流体を供給する流体供給手段と、
前記圧電素子に駆動信号を印加し、前記容積変更手段による前記流体室の容積の変更を制御する制御手段と、
前記圧電素子の特性に基づいて、前記圧電素子の駆動信号を補正する駆動信号補正手段と、
を備えることを特徴とする手術装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−59792(P2010−59792A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223135(P2008−223135)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】