説明

流体圧シリンダ

【課題】ピストンロッドが最もストロークしたときの倒れに対するタフネスを向上させると共に、配管を簡易にするようにした流体圧シリンダを提供する。
【解決手段】流体圧(油圧)シリンダ10において、シリンダチューブ12の内部に収容される主ピストン20と、その両側から延ばされるピストンロッド22と、主ピストン20の両側に配置される第1、第2の副ピストン24a,24bと、第1から第4の油室を備え、ピストンロッド22は、第1、第2の給排ポートs1,s2を介して第1、第2の油室26a,26bに同一の油圧が供給されるとき、中立位置Nに位置すると共に、第3または第4の油室26c,26dに油圧(流体圧)が供給されるとき、中立位置Nから前進する前進位置Dまたは後進する後進位置Rに移動可能に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は流体圧シリンダに関し、より具体的には中立位置を含む複数の位置を容易に得ることができるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の流体圧シリンダとして、特許文献1,2記載の技術が知られている。特許文献1記載の技術にあっては、径の異なる2個のシリンダ(シリンダチューブ)を直列かつ同軸上に連結し、2組のシリンダとピストンの位置を組み合わせることにより、3段階のストローク位置を得ることを可能にしている。
【0003】
特許文献1記載の技術にあっては、4ポートからなる2組の流体圧給排ポートを備え、それぞれに個別の流体圧を供給するように構成されることから、シリンダやピストンのストロークに屈曲可能な4本の配管が必要となり、装置が複雑かつ大型化する不都合があった。
【0004】
そのため、特許文献2記載の技術において、第1のシリンダのピストンと第2のシリンダのシリンダを兼用すると共に、第1のシリンダを経由して第2のシリンダに流体圧を供給し、第1、第2のシリンダのピストンの両側の圧力室に給排する流体圧を2つの電磁弁で制御して4段階のストロークを得るように構成することで、特許文献1記載の技術の不都合を解消している。
【0005】
他方、その構成ではストローク位置によって2つの電磁弁を同時に切り換える必要があり、部品ばらつきによって所望のストロークが得られない不都合が新たに生じる。そこで、特許文献2記載の技術においては、同時に切り換えることなく、所望のストロークが得られるように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−296211号公報
【特許文献2】特開平8−109905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2記載の技術にあっては、ピストン、より正確にはピストンロッドが片持ち構造であるため、ピストンロッドが最もストロークしたとき、軸方向の支持スパンが短くなり、倒れに対するタフネスが不足する恐れがある。
【0008】
また、特許文献2記載の技術にあっては上記したように、2つの電磁弁を同時に切り換えることなく、所望のストロークが得られるように構成することで特許文献1記載の技術の屈曲可能な4本の配管を必要とする不都合を解消しているが、そのために流体圧の給排経路を別にすることで微妙なセッティングが必要となっている。
【0009】
この発明の目的は上記した課題を解決し、ピストンロッドが最もストロークしたときの倒れに対するタフネスを向上させると共に、配管を簡易にするようにした流体圧シリンダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するために、請求項1に係る流体圧シリンダにあっては、シリンダチューブと、前記シリンダチューブの端部を閉塞する第1、第2のキャップと、前記第1、第2のキャップの内方において前記シリンダチューブの内壁に固定される第1、第2の隔壁と、前記第1、第2の隔壁で形成される空間に摺動可能に収容される主ピストンと、前記第1、第2のキャップと第1、第2の隔壁を貫通するように前記主ピストンの両側から延ばされる第1、第2のピストンロッドと、前記主ピストンを前記第1、第2の隔壁で形成される空間内で移動可能に前記主ピストンの両側に配置されると共に、同一の軸方向長さを有する第1、第2の副ピストンと、前記第1のキャップと第1の隔壁の間に形成される第1の空間に流体圧を給排可能な第1の流体圧給排ポートと、前記第2のキャップと第2の隔壁の間に形成される第2の空間に流体圧を給排可能な第2の流体圧給排ポートと、前記第1の隔壁と主ピストンの間に形成される第3の空間に流体圧を給排可能な第3の流体圧給排ポートと、前記第2の隔壁と主ピストンの間に形成される第4の空間に流体圧を給排可能な第4の流体圧給排ポートとを備え、前記ピストンロッドは、前記第1、第2の給排ポートを介して前記第1、第2の空間に同一の流体圧が供給されるとき、中立位置に位置すると共に、前記第3または第4の空間に流体圧が供給されるとき、前記中立位置から前進する前進位置または後進する後進位置に移動可能に構成した。
【0011】
請求項2に係る流体圧シリンダにあっては、前記第1、第2の副ピストンはそれぞれ、一端が前記第1または第2の隔壁に係合可能であると共に、他端が前記主ピストンに係合可能に構成した。
【0012】
請求項3に係る油圧シリンダにあっては、前記第1、第2の副ピストンはそれぞれ、前記ピストンロッドに嵌装可能なスリーブ状部材からなると共に、前記第1、第2の隔壁のピストンロッドが貫通する貫通孔に摺動可能に挿入される如く構成した。
【0013】
請求項4に係る流体圧シリンダにあっては、前記主ピストンに油路切替用のランドが形成される如く構成した。
【0014】
請求項5に係る流体圧シリンダにあっては、前記第1、第2の副ピストンは前記主ピストンより小径に構成した。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る流体圧シリンダにあっては、シリンダチューブの端部を閉塞する第1、第2のキャップの内方においてシリンダチューブの内壁に固定される第1、第2の隔壁と、第1、第2の隔壁で形成される空間に摺動可能に収容される主ピストンと、第1、第2のキャップと第1、第2の隔壁を貫通するように主ピストンの両側から延ばされる第1、第2のピストンロッドと、主ピストンを第1、第2の隔壁で形成される空間内で移動可能に主ピストンの両側に配置されると共に、同一の軸方向長さを有する第1、第2の副ピストンと、第1のキャップと第1の隔壁の間に形成される第1の空間に流体圧を給排可能な第1の流体圧給排ポートと、第2のキャップと第2の隔壁の間に形成される第2の空間に流体圧を給排可能な第2の流体圧給排ポートと、第1の隔壁と主ピストンの間に形成される第3の空間に流体圧を給排可能な第3の流体圧給排ポートと、第2の隔壁と主ピストンの間に形成される第4の空間に流体圧を給排可能な第4の流体圧給排ポートとを備え、ピストンロッドは、第1、第2の給排ポートを介して第1、第2の空間に同一の流体圧が供給されるとき、中立位置に位置すると共に、第3または第4の空間に流体圧が供給されるとき、中立位置から前進する前進位置または後進する後進位置に移動可能に構成、即ち、第1、第2のピストンロッドが第1、第2のキャップと第1、第2の隔壁を貫通するように主ピストンの両側から延ばされると共に、流体圧の供給に応じて中立位置から前進あるいは後進位置に移動するように構成したので、ピストンロッドが最も移動(ストローク)したときの倒れに対するタフネスを向上させることができる。
【0016】
また、ピストンロッドは第1、第2の給排ポートを介して第1、第2の空間に同一の流体圧が供給されるとき、中立位置に位置するように構成したので、同一の流体圧を供給すれば足りることとなり、流体圧供給機構の構成も簡易できる。また、同一の流体圧を供給すれば足りるため、センサで位置を検出してフィードバック制御するなどの複雑な構成を必要とすることがない。
【0017】
また、基本的には1個のシリンダチューブと主ピストンからなる油圧シリンダに副ピストンを追加しただけの構成であるので、特許文献1,2記載の技術のように2個のシリンダチューブと2個のピストンを組み合わせてなる構成に比し、構造が容易となる。
【0018】
請求項2に係る流体圧シリンダにあっては、第1、第2の副ピストンはそれぞれ、一端が第1または第2の隔壁に係合可能であると共に、他端が主ピストンに係合可能に構成したので、上記した効果に加え、ピストンロッドを中立位置に一層確実に位置させることができる。
【0019】
請求項3に係る油圧シリンダにあっては、第1、第2の副ピストンはそれぞれ、ピストンロッドに嵌装可能なスリーブ状部材からなると共に、第1、第2の隔壁のピストンロッドが貫通する貫通孔に摺動可能に挿入される如く構成したので、上記した効果に加え、構成を一層簡易にすることができる。
【0020】
請求項4に係る流体圧シリンダにあっては、主ピストンに油路切替用のランドが形成される如く構成したので、上記した効果に加え、前進位置または後進位置への移動の自由度を上げることができると共に、外の油圧要素への油圧の供給・遮断を物理的に切り替えることが可能となり、フェールセーフ上有用となる。
【0021】
請求項5に係る流体圧シリンダにあっては、第1、第2の副ピストンは主ピストンより小径に構成したので、上記した効果に加え、第1、第2の副ピストンを動作させてピストンロッドを中立位置に位置させるときの流体圧を、然らざる場合に比し、低くすることができ、省エネルギにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の第1実施例に係る流体圧シリンダの縦断面図である。
【図2】図1に示すその流体圧シリンダの推し力と戻し力を説明する説明図である。
【図3】図1に示す流体圧シリンダの基本動作を説明する説明図である。
【図4】図3に示す油圧シリンダの基本動作における流体圧供給を示す説明図である。
【図5】図1に示す油圧シリンダをDCTのギヤ選択機構に接続した場合を示す説明図である。
【図6】図1に示す油圧シリンダを二輪自動車の変速機に接続した場合を示す説明図である。
【図7】第1実施例に係る流体圧シリンダの油圧供給機構の変形例を示す縦断面図である。
【図8】この発明の第2実施例に係る流体圧シリンダの縦断面図である。
【図9】図8に示す構成において油圧給排に伴う主ピストンの位置(変位)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照してこの発明に係る流体圧シリンダを実施するための形態について説明する。
【実施例1】
【0024】
図1はこの発明の第1実施例に係る流体圧シリンダの縦断面図、図2はその流体圧シリンダの推し力と戻し力を説明する説明図、図3はその流体圧シリンダの基本動作を説明する説明図、図4は図3の基本動作における流体圧供給を示す説明図である。
【0025】
以下説明すると、符号10は流体圧シリンダを示す。尚、この明細書において作動流体としては作動油、流体圧としては油圧(作動油の圧力)を用いることから、以降、「流体圧シリンダ」を「油圧シリンダ」という。油圧シリンダ10は例えば車両の変速機のマニュルバルブなどに接続される。
【0026】
油圧シリンダ10は、図1に示す如く、シリンダチューブ12と、シリンダチューブ12の端部〔両端〕を閉塞する第1、第2のキャップ14a,14bと、第1、第2のキャップ14a,14bの内方においてシリンダチューブ12の内壁12aに固定される第1、第2の隔壁(ストッパリング)16a,16bと、第1、第2の隔壁16a,16bで形成される空間に摺動可能に収容される主ピストン20と、第1、第2のキャップ14a,14bと第1、第2の隔壁16a,16bを貫通するように主ピストン20の両側(図において左右両側)から延ばされる第1、第2のピストンロッド22a,22bと、主ピストン20を第1、第2の隔壁16a,16bで形成される空間内で移動可能に主ピストン20の両側(図において左右両側)に配置されると共に、同一の軸方向長さを有する第1、第2の副ピストン(リターンピストン)24a,24bとを備える。
【0027】
第1、第2の副ピストン24a,24bは主ピストン20より(径方向の長さにおいて)小径に構成されると共に、主ピストン20と第1、第2のピストンロッド22a,22bは別体あるいは一体に構成される。
【0028】
第1、第2の副ピストン24a,24bはそれぞれ、第1、第2のピストンロッド22a,22bに嵌装可能なスリーブ状部材からなると共に、第1、第2の隔壁16a,16bにおいて第1、第2のピストンロッド22a,22bが貫通する貫通孔に摺動可能に挿入されるように構成される。
【0029】
第1、第2の副ピストン24a,24b、即ち、それを構成するスリーブ状部材の一端にはフランジ24a1,24b1がシリンダキャップ12に向けて径方向に形成され、第1または第2の隔壁16a,16bに係合可能に構成されると共に、他端が主ピストン20に当接(係合)可能に構成される。
【0030】
尚、以降、第1、第2の名称を付すと共に、末尾に添え字a,bを付して示す部材を総称するときは、添え字a,bを省略し、例えばピストンロッド22と示す。
【0031】
油圧シリンダ10はさらに、第1のキャップ14aと第1の隔壁16aの間に形成される第1の油室(空間)26aに油圧(流体圧)を給排可能な第1の油圧(流体圧)給排ポートs1と、第2のキャップ14bと第2の隔壁16bの間に形成される第2の油室(空間)26bに油圧(流体圧)を給排可能な第2の油圧(流体圧)給排ポートs2と、第1の隔壁16aと主ピストン20の間に形成される第3の油室(空間)26cに油圧(流体圧)を給排可能な第3の油圧(流体圧)給排ポートm1と、第2の隔壁16bと主ピストン20の間に形成される第4の油室(空間)26dに油圧(流体圧)を給排可能な第4の流体圧給排ポートm2とを備える。
【0032】
油圧給排ポートsn(s1,s2),mn(m1、m2)は油室26への作動油の供給と油室26からの作動油の排出用のポートを兼用する。尚、符号30はサークリップを示す。
【0033】
図示の構成において、シリンダチューブ12と、キャップ14と、隔壁16と、主ピストン20と、ピストンロッド22と、副ピストン24と、油室26と、油圧給排ポートsn,smは、側面視(第1、第2のピストンロッド22a,22bの軸方向から見たとき)において全て円筒形状を呈すると共に、シリンダチューブ12を除き、平面視において左右対称の構造を有する。
【0034】
図示の如く、油圧シリンダ10は油圧供給機構32に接続され、そこから油圧を給排されて動作する。
【0035】
油圧供給機構32は、図1の下部に示す如く、作動油を貯留するリザーバ32aと、油圧ポンプ32bと、レギュレータバルブ32cと、2個の切替バルブ32d1,32d2を備える。
【0036】
即ち、リザーバ32aに貯留された作動油(例えばATF)は車両のエンジンで駆動される油圧ポンプ32bで汲み上げられて加圧され、レギュレータバルブ32cで所定圧に調圧された後、第1、第2の油室26a,26bに供給される。
【0037】
このように、油圧供給機構32においては油圧シリンダ10の第1、第2の油圧給排ポートs1,s2から第1、第2の油室26a,26bに同一の油圧が供給されるように構成される。
【0038】
また、レギュレータバルブ32cで調圧された油圧は、並列に配置された2個の切替バルブ32dに送られる。2個の切替バルブ32dはそれぞれ、ECU(電子制御ユニット)34によってソレノイドが励磁・消磁されるとき油路を切り替えるように構成される。
【0039】
従って、レギュレータバルブ32cで調圧された油圧は、第3の油圧給排ポートm1あるいは第4の油圧給排ポートm2を介して第3の油室20cあるいは第4の油室20dに供給される。
【0040】
図2に示す如く、ピストンロッド22には、矢印で示す軸方向(図で左右方向)への推し力と戻し力が作用する。
【0041】
ここで、図3と図4を参照して油圧シリンダ10の基本動作を説明する。図3に示す構成は、ピストンロッド22をマニュアルバルブ(図示せず)に接続した場合である。
【0042】
副ピストン24などは左右対称に構成されることから、油圧給排ポートs1,s2を介して第1、第2の油室26a,26bに同一の流体圧、より具体的にはmnへの供給圧に対して小さいパイロット圧PLを供給すると、ピストンロッド22は中立位置Nに位置すると共に、油圧給排ポートm1またはm2を介して第3の油室26cまたは第4の油室26dに油圧を供給するとき、中立位置Nから(図3において)前進する前進位置Dまたは後進する後進位置Rに移動するように構成される。
【0043】
即ち、図4から明らかな如く、油圧給排ポートs1,s2に油圧を常に供給しておき、ピストンロッド22(換言すれば主ピストン20)を移動させたい方向に対応する側の油圧給排ポートm1あるいはm2に油圧を供給する一方、逆のポートm2あるいはm1から油圧を排出させると、その方向に移動させることができる。尚、油圧給排ポートm1あるいはm2からの油圧の供給を停止すると、ピストンロッド22は中立位置Nに復帰する。
【0044】
図5は油圧シリンダ10をデュアル・クラッチ・トランスミッション(Dual Clutch Transmission)のギヤ選択機構のスリーブドグクラッチ100が連結されるシフトフォーク102に接続した場合を示す説明図である。
【0045】
図示の構成において図3と図4を参照して説明したように油圧シリンダ10を中立位置から動作させると、シフトフォーク102が図で左右に移動し、それに連結されるスリーブドグクラッチ100が中立位置から移動して図で左右に配置されるn速、m速のドリブンギヤのドグクラッチのうちのいずれかと係合する。
【0046】
図6は油圧シリンダ10を二輪自動車の変速機のシフトドラム200に連結されるラチェット202に接続した場合を示す説明図である。同様に油圧シリンダ10を中立位置から動作させると、ラチェット202が図で左右に移動し、それに連結されるシフトドラム200が矢印で示すように回転して変速する。
【0047】
尚、油圧供給機構32の構成は図1に示す他、種々変形可能である。例えば、図7に示す如く、2個の切替バルブ32d1,32d2を直列に配置しても良い。
【実施例2】
【0048】
図8はこの発明の第2実施例に係る流体圧シリンダの縦断面図である。
【0049】
第1実施例と相違する点に焦点をおいて説明すると、第2実施例に係る油圧シリンダ10にあっては、主ピストン20の軸方向長さを増加させ、そこに油路切替用のランドを刻設するようにした。即ち、図示の如く、ポートp1,p2,p3を形成するようにした。ポートp1は油圧源、ポートp2は油圧シリンダ10の外の油圧要素(油圧アクチュエータなど)に接続される。
【0050】
図9(a)(b)(c)は、油圧給排に伴う主ピストン20の位置(変位)を示す説明図である。
【0051】
油圧給排ポートのうち、s1,s2にパイロット圧PLを供給しつつ、m1をドレン,m2を油圧源に接続すると、主パイロット20は図9(a)に示す位置にあり、ポートp1,p2,p3は外部との接続が断たれる。
【0052】
m1,m2を共にドレンに接続すると、主パイロット20は図9(b)に示す位置に変位し、ポートp2から油圧が外の油圧要素に供給される。
【0053】
また、m1を油圧源、m2をドレンに接続すると、主パイロット20は図9(c)に示す位置に変位し、油圧はポートp3からドレンされ、外の油圧要素に供給されない。
【0054】
このように主ピストン20に油路切替用のランドを刻設して外の油圧要素に油圧を供給・遮断可能に構成したので、油圧シリンダ10を第1実施例の図3に示すD,N,Rの3ポジションの切替えに使用するとき、外の油圧要素に供給・遮断される油圧はフェールセーフ上、極めて有用である。
【0055】
即ち、油圧シリンダ10においてD,N,R切り替えピストン(主ピストン)20の物理的な位置に対応して油圧を発生できるということは、個別に切り替えバルブを使用して油圧を供給する場合と比較して車両にフェール事象が発生するまでのフェール数を減少でき、フェール事象発生の確率を低減できるからである。
【0056】
例えば、第2実施例に係る油圧シリンダ10の外の油圧要素をパーキングロックアクチュエータとした場合、主ピストン20がN位置にあるときのみアクチュエータに油圧が供給され、D,R位置(走行中)ではパーキングロックが行われないことを物理的に保証することができる。
【0057】
即ち、一般的なソレノイドを用いて切替える場合、通例はソレノイドがフェールすればパーキングロックが発生してしまうのに対し、第2実施例に係る油圧シリンダ10にあっては、ソレノイドがフェールしたとしても、油圧はN位置以外では遮断されるため、パーキングロックに至ることがない。
【0058】
尚、残余の構成は第1実施例と異ならないので、同一の部材に同一の符号を付して説明に代える。
【0059】
第1、第2実施例に係る油圧(流体圧)シリンダ10にあっては、シリンダチューブ12と、前記シリンダチューブ12の端部を閉塞する第1、第2のキャップ14a,14bと、前記第1、第2のキャップ14a,14bの内方において前記シリンダチューブ12の内壁に固定される第1、第2の隔壁16a,16bと、前記第1、第2の隔壁16a,16bで形成される空間に摺動可能に収容される主ピストン20と、前記第1、第2のキャップ14a,14bと第1、第2の隔壁16a,16bを貫通するように前記主ピストン20の両側から延ばされる第1、第2のピストンロッド22a,22bと、前記主ピストン20を前記第1、第2の隔壁16a,16bで形成される空間内で移動可能に前記主ピストン20の両側に配置されると共に、同一の軸方向長さを有する第1、第2の副ピストン24a,24bと、前記第1のキャップ14aと第1の隔壁16aの間に形成される第1の油室(空間)26aに油圧(流体圧)を給排可能な第1の流体圧給排ポートs1と、前記第2のキャップ14bと第2の隔壁16bの間に形成される第2の油室(空間)26bに油圧(流体圧)を給排可能な第2の流体圧給排ポートs2と、前記第1の隔壁16aと主ピストン20の間に形成される第3の油室(空間)26cに油圧(流体圧)を給排可能な第3の流体圧給排ポートm1と、前記第2の隔壁16bと主ピストン20の間に形成される第4の油室(空間)26dに油圧(流体圧)を給排可能な第4の流体圧給排ポートm2とを備え、前記ピストンロッド22は、前記第1、第2の給排ポートs1,s2を介して前記第1、第2の油室(空間)26a,26bに同一の油圧(流体圧)が供給されるとき、中立位置Nに位置すると共に、前記第3または第4の油室(空間)26c,26dに油圧(流体圧)が供給されるとき、前記中立位置Nから前進する前進位置Dまたは後進する後進位置Rに移動可能に構成したので、ピストンロッド22が最も移動(ストローク)したときの倒れに対するタフネスを向上させることができる。
【0060】
また、ピストンロッド22は第1、第2の給排ポートs1,s2を介して第1、第2の油室(空間)26a,26bに同一の油圧(流体圧。パイロット圧)が供給されるとき、中立位置Nに位置するように構成したので、同一の油圧(流体圧)を供給すれば足りることとなり、油圧(流体圧)供給機構32の構成も簡易できる。また、同一の油圧(流体圧)を供給すれば足りるため、センサで位置を検出してフィードバック制御するなどの複雑な構成を必要とすることがない。
【0061】
また、基本的には1個のシリンダチューブ12と主ピストン20からなる油圧シリンダ10にピストン(副ピストン)24を追加しただけの構成であるので、特許文献1,2記載の技術のように2個のシリンダチューブと2個のピストンを組み合わせてなる構成に比し、構造が容易となる。
【0062】
また、前記第1、第2の副ピストン24a,24bはそれぞれ、一端が前記第1または第2の隔壁16a,16bに係合可能であると共に、他端が前記主ピストン20に係合可能に構成したので、上記した効果に加え、ピストンロッド22を中立位置に一層確実に位置させることができる。
【0063】
また、前記第1、第2の副ピストン24a,24bはそれぞれ、前記ピストンロッド22に嵌装可能なスリーブ状部材からなると共に、前記第1、第2の隔壁16a,16bのピストンロッド22が貫通する貫通孔に摺動可能に挿入される如く構成したので、上記した効果に加え、構成を一層簡易にすることができる。
【0064】
また、前記主ピストン20に油路切替用のランドが形成される如く構成したので、上記した効果に加え、前進位置または後進位置への移動の自由度を上げることができると共に、外の油圧要素への油圧の供給・遮断を物理的に切り替えることが可能となり、フェールセーフ上有用となる。
【0065】
また、前記第1、第2の副ピストン24a,24bは前記主ピストン20より小径に構成したので、上記した効果に加え、第1、第2の副ピストン24a,24bを動作させてピストンロッド22を中立位置Nに位置させるときの油圧(流体圧)を、然らざる場合に比し、低いパイロット圧にすることができ、省エネルギにすることができる。
【0066】
尚、上記において、副ピストン24などは(図3などの)平面視において左右対称の構造とし、受圧面積を左右で同一に構成したが、受圧面積を左右で変え、左右位置への作動荷重と中立位置への戻し荷重、即ち、4種類の荷重の大きさをそれぞれ個別に設定しても良い。
【0067】
より具体的には、例えばピストンロッド22を重力方向に平行に配置すると共に、その先端に重量物が接続されるような構成としたとき、その重量物の重量をキャンセルするように受圧面積を設定しても良い。
【0068】
また、作動流体として作動油を開示したが、それに限られるものではなく、水、空気など他の作動流体を用いるシリンダにも適用可能である。
【0069】
また、図示した構成は例示であり、それに限定されるものではない。例えば、必要に応じてオイルシールなどを適宜追加しても良い。
【符号の説明】
【0070】
10 油圧(流体圧)シリンダ、12 シリンダチューブ、14a,14b 第1、第2のキャップ、16a,16b 第1、第2の隔壁、20 主ピストン、22a,22b 第1、第2のピストンロッド、24 第1、第2の副ピストン、26a,26b,26c,26d 第1、第2、第3、第4の油室(空間)、30 サークリップ、32 油圧供給機構、34 ECU、s1,s2 第1、第2の油圧(流体圧)給排ポート、m1,m2 第3、第4の油圧(流体圧)給排ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダチューブと、前記シリンダチューブの端部を閉塞する第1、第2のキャップと、前記第1、第2のキャップの内方において前記シリンダチューブの内壁に固定される第1、第2の隔壁と、前記第1、第2の隔壁で形成される空間に摺動可能に収容される主ピストンと、前記第1、第2のキャップと第1、第2の隔壁を貫通するように前記主ピストンの両側から延ばされる第1、第2のピストンロッドと、前記主ピストンを前記第1、第2の隔壁で形成される空間内で移動可能に前記主ピストンの両側に配置されると共に、同一の軸方向長さを有する第1、第2の副ピストンと、前記第1のキャップと第1の隔壁の間に形成される第1の空間に流体圧を給排可能な第1の流体圧給排ポートと、前記第2のキャップと第2の隔壁の間に形成される第2の空間に流体圧を給排可能な第2の流体圧給排ポートと、前記第1の隔壁と主ピストンの間に形成される第3の空間に流体圧を給排可能な第3の流体圧給排ポートと、前記第2の隔壁と主ピストンの間に形成される第4の空間に流体圧を給排可能な第4の流体圧給排ポートとを備え、前記ピストンロッドは、前記第1、第2の給排ポートを介して前記第1、第2の空間に同一の流体圧が供給されるとき、中立位置に位置すると共に、前記第3または第4の空間に流体圧が供給されるとき、前記中立位置から前進する前進位置または後進する後進位置に移動可能に構成されることを特徴とする流体圧シリンダ。
【請求項2】
前記第1、第2の副ピストンはそれぞれ、一端が前記第1または第2の隔壁に係合可能であると共に、他端が前記主ピストンに係合可能に構成されることを特徴とする請求項1記載の油圧シリンダ。
【請求項3】
前記第1、第2の副ピストンはそれぞれ、前記ピストンロッドに嵌装可能なスリーブ状部材からなると共に、前記第1、第2の隔壁のピストンロッドが貫通する貫通孔に摺動可能に挿入されることを特徴とする請求項1または2記載の流体圧シリンダ。
【請求項4】
前記主ピストンに油路切替用のランドが形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の流体圧シリンダ。
【請求項5】
前記第1、第2の副ピストンは前記主ピストンより小径に構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の流体圧シリンダ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−179644(P2011−179644A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46510(P2010−46510)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】