説明

流体圧緩衝器

【課題】本発明はピストン速度に応じた作動流体の流通量を確保することを課題とする。
【解決手段】流体圧緩衝器10は、シリンダ20と、ピストン30、ピストンロッド40と、圧縮行程用減衰力発生機構50Aと、伸長行程用減衰力発生機構50Bと、ベースバルブ部60とを有する。圧縮行程用減衰力発生機構50Aは、第1調圧弁80と、第1リリーフ弁90とを有し、伸長行程用減衰力発生機構50Bは、第2調圧弁100と、第2リリーフ弁110とを有する。ベースバルブ部60は、連通路120と、逆止弁130と、第3調圧弁140と、第3リリーフ弁150と、第4リリーフ弁160と、第5リリーフ弁を有する。流体圧緩衝器10はピストン速度の中速域、高速域では、圧縮行程用減衰力発生機構50A及びベースバルブ部60の各弁の開弁タイミングをずらすように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体圧緩衝器に係り、特に建物などの構造物の振動を緩衝するように構成された流体圧緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、地震による建物の振動を緩衝する流体圧緩衝器としては、ユニフロー形流体圧緩衝器(例えば、特許文献1参照)と、バイフロー構造の流体圧緩衝器(例えば、特許文献2参照)がある。
【0003】
ユニフロー形流体圧緩衝器は、ピストン部に下室から上室への流通のみを許容するチェック弁が設けられ、ベースバルブ部にリザーバ室(充填室)から下室への流通のみを許容するチェック弁が設けられている。そして、圧縮行程のときは、ピストン部のチェック弁が開弁し、シリンダの下室が正圧(圧力室)となり、ロッド移動体積分の作動流体(作動油)が減衰力発生機構を流れることで減衰力を発生する。また、ピストン移動体積分からロッド移動体積分を除いた作動流体は、リザーバ室に供給される。
【0004】
また、伸長行程のときはピストンのチェック弁が閉じ、シリンダ内の上室(第1室)が正圧(圧力室)となり、ピストン移動体積分からロッド移動体積分を除いた作動流体が減衰力発生機構を流れることで減衰力を発生する。これと同時に、シリンダの下室(第2室)側では、負圧となり、ベースバルブのチェック弁を通じてリザーバ室からシリンダ内部へ作動流体が供給される。
【0005】
バイフロー構造の流体圧緩衝器は、ピストン内部に伸長、圧縮用の減衰力発生機構を有し、ベースバルブ部にはリザーバ室から下室への流通のみを許容するチェック弁と、下室からリザーバ室へ圧縮時ロッド移動体積分の作動流体を流通させる減衰力発生機構を有する。また、伸長行程では、上室側のピストン移動体積分からロッド移動体積分を除いた作動流体がピストン部の減衰力発生機構を通り、同時にベースバルブ部のチェック弁を通じてリザーバ室から下室へロッド移動体積分の作動流体が供給される。
【0006】
同様に、圧縮行程時は、下室のピストン移動体積分からロッド移動体積分を除いた作動流体がピストン内部の減衰力発生機構を通じて上室へ流通し、ロッド移動体積分の作動流体がベースバルブ部の減衰力発生機構を通じて下室からリザーバ室へ流通する。
【0007】
上記流体圧緩衝器では、免震ビル用としての要求特性として、第1減衰係数が例えば、ピストン速度が0.3m/sまで第1線形特性を有し、このピストン速度を過ぎてピストン速度が例えば、1.5m/sまで第1減衰係数よりも小さい第2減衰係数の第2線形特性で推移するバイリニアと呼ばれる仕様がある。
【0008】
このバイリニアの流体圧緩衝器においては、第1線形特性を得るための第1減衰係数用の減衰力発生機構と、第2線形特性を得るための第2減衰係数用の減衰力発生機構とを有する構成となる。そして、バイフロー構造の流体圧緩衝器では、ピストン内部に、伸長行程用の第1減衰係数発生弁及び第2減衰係数発生弁と、同様に圧縮行程用の第1減衰係数発生弁及び第2減衰係数発生弁とが配され、ベースバルブ部には圧縮行程用の第1減衰係数発生弁及び第2減衰係数発生弁が配される。
【0009】
上記バイフロー構造の流体圧緩衝器は、圧縮行程において、ピストン速度が低速域から高速域までピストンとベースバルブ部の流通量をピストン断面積、ロッド断面積相当に割り振ることは困難であり、双方の流通量がアンバランスとなると減衰力−変位特性を表す波形の乱れや要求される減衰力との差違(ずれ)が発生する。
【0010】
また、減衰力−変位特性を表す波形の乱れは伸長行程のときに現れる。これは、圧縮行程時、ピストンの減衰力発生弁を通過して下室から上室へ流れる作動流体量Q1と、シリンダのベースバルブ部に設けられた減衰力発生弁を通過してシリンダの下室からリザーバへ流れる作動流体量Q2とが、Q1<Q2となった場合、この条件では、上室に供給される作動流体量Q1が不足し、シリンダの上室が真空状態になるため、伸長行程に移った時に減衰力の立ち上がりの遅れ(波形くずれ)が起きるという問題がある。
【0011】
また、上記条件とは逆にQ1>Q2の場合は、ピストン速度が高速域のときに伸長行程時の圧縮側の減衰力が上昇する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−278820号公報
【特許文献2】特開2009−287609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、波形くずれが少ない流体圧緩衝器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は以下のような手段を有する。
(1)本発明は、作動流体が充填されるシリンダと、
該シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内を第1室と第2室とに画成するピストンと、
一端が前記ピストンに連結され、他端が前記シリンダの前記第1室側から外部に延出されたピストンロッドと、
前記ピストンに設けられ、前記第1室と前記第2室とを連通する複数のピストン部通路と、
前記シリンダに設けられ、前記ピストンの動作方向に応じて前記作動流体が充填される充填室と前記第2室との間を開閉するベースバルブ部と、
前記ベースバルブ部に設けられ、前記作動流体が充填される充填室と前記第2室との間で前記作動流体を流通させる複数のベースバルブ部通路と、を備え、
前記ピストン部通路は、少なくとも前記第2室から前記第1室への作動流体を流通させるように開閉するピストン部調圧弁及びピストン部リリーフ弁を有し、
前記ベースバルブ部通路は、少なくとも前記第2室から前記充填室への作動流体を流通させるように開閉するベースバルブ部調圧弁及びベースバルブ部リリーフ弁を有し、
これらの前記各弁は、前記ピストンの圧縮動作に伴い前記ピストン部調圧弁、前記ベースバルブ部調圧弁、前記ピストン部リリーフ弁、前記ベースバルブ部リリーフ弁の順に開弁することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、波形くずれを減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による流体圧緩衝器の一実施例の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図2】流体圧緩衝器の減衰力特性を示すグラフである。
【図3】ベースバルブ部の構成を示す縦断面図である。
【図4】図3中X−X線に沿う縦断面図である。
【図5】流体圧緩衝器の伸長行程の動作を説明するための縦断面図である。
【図6】流体圧緩衝器の圧縮行程の動作を説明するための縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【実施例1】
【0018】
〔流体圧緩衝器の構成〕
図1は本発明による流体圧緩衝器の一実施例を模式的に示す縦断面図である。図1に示されるように、流体圧緩衝器10は、例えば、建物等の構造物の振動を緩衝するバイフロー構造の免震用油圧ダンパであり、シリンダ20と、ピストン30、ピストンロッド40と、ピストン部減衰力発生機構50と、ベースバルブ部60とを有する。尚、シリンダ20の内部には作動流体(図1中、梨地模様で示す)が充填されている。
【0019】
シリンダ20は、ピストン30が往復動する内側シリンダ22と、作動流体が貯留されるリザーバ室(充填室)70を形成する外側シリンダ24とを有する。リザーバ室70は、内側シリンダ22と外側シリンダ24との間の筒状空間に形成される。尚、リザーバ室70は、内側シリンダ22と外側シリンダ24との間に形成する構成としても良いし、あるいはシリンダ20の外側に別室として設ける構成としても良い。
【0020】
内側シリンダ22の内部は、ピストン30により第1室(上室)22Aと第2室(下室)22Bとに画成される。ピストンロッド40は、一端がピストン30の端面中央に連結され、他端がシリンダ20の第1室22Aを囲む壁部(上側)を貫通して外部に延出している。尚、第1室22Aの壁部には、ピストンロッド40の外周をシールするシール部材42が設けられている。
【0021】
ピストン部減衰力発生機構50は、圧縮行程用減衰力発生機構50Aと、伸長行程用減衰力発生機構50Bとを有する。圧縮行程用減衰力発生機構50Aは、第1調圧弁(ピストン部調圧弁)80と、第1リリーフ弁(ピストン部リリーフ弁)90とを有する。また、伸長行程用減衰力発生機構50Bは、第2調圧弁100と、第2リリーフ弁110とを有する。なお、減衰力発生機構50は本実施の形態では調圧弁、リリーフ弁が各1個ずつとしたが、それに限らず複数個使用してもよい。
【0022】
流体圧緩衝器10は、圧縮側の減衰力が上昇することを抑制するため、第2室22Bからリザーバ室70に流れる作動流体の流量を減らすことなく、中速域ではピストン30を通過して第1室22Aに移動する作動流体の流量が不足しないようにするため、圧縮行程用減衰力発生機構50A及びベースバルブ部60の各弁の開弁タイミングをずらすように設けられている。
【0023】
尚、各弁の開弁タイミングをずらす方法としては、各弁の通路面積の大きさを変えることで各弁体の受圧面積を変える方法(各弁の他の条件は同じとする)と、上記各弁のコイルバネのばね力を各弁毎に変える方法(各弁の他の条件は同じとする)とがある。
【0024】
第1調圧弁80は、ピストン30を貫通する通路82と、通路82を開閉する弁体84と、弁体84を閉弁方向に付勢するコイルバネ86と、通路82の流出側に配された流出側開口88とを有する。また、第1調圧弁80は、ピストン30が圧縮行程のとき第2室22Bが圧力室となるため、第2室22Bの圧力Pbが第1室22Aの圧力Paとコイルバネ86のばね力F1と合計した力よりも大きい場合に開弁する(Pb>Pa+F1)。
【0025】
第1リリーフ弁90は、ピストン30を貫通する通路92と、通路92を開閉する弁体94と、弁体94を閉弁方向に付勢するコイルバネ96と、通路92の流出側に配された流出側開口98とを有する。また、第1リリーフ弁90は、ピストン30が圧縮行程のとき第2室22Bが圧力室となるため、第1調圧弁80と同様に、第2室22Bの圧力Pbが第1室22Aの圧力Paとコイルバネ86のばね力F3と合計した力よりも大きい場合に開弁する(Pb>Pa+F3)。
【0026】
第2調圧弁100は、前述した第1調圧弁80と同様な構成であり、ピストン30を貫通する通路102と、通路102を開閉する弁体104と、弁体104を閉弁方向に付勢するコイルバネ106と、通路102の流出側に配された流出側開口108とを有する。また、第2調圧弁100は、ピストン30が伸長行程のとき第1室22Aが圧力室となるため、第1室22Aの圧力Paが第2室22Bの圧力Pbとコイルバネ106のばね力F1と合計した力よりも大きい場合に開弁する(Pa>Pb+F1)。
【0027】
第2リリーフ弁110は、前述した第1リリーフ弁90と同様な構成であり、ピストン30を貫通する通路112と、通路112を開閉する弁体114と、弁体114を閉弁方向に付勢するコイルバネ116と、通路112の流出側に配された流出側開口118とを有する。また、第2リリーフ弁110は、ピストン30が伸長行程のとき第1室22Aが圧力室となるため、第2調圧弁100と同様に、第1室22Aの圧力Paが第2室22Bの圧力Pbとコイルバネ86のばね力F3と合計した力よりも大きい場合に開弁する(Pa>Pb+F3)。
【0028】
尚、第2調圧弁100及び第2リリーフ弁110は、ピストン30が伸長行程のときに開弁するように設けられている。
【0029】
また、ベースバルブ部60は、シリンダ20の第2室22Bを囲む壁部(下側)に設けられており、連通路120と、逆止弁130と、第3調圧弁(ベースバルブ部調圧弁)140と、第3〜第5リリーフ弁(ベースバルブ部リリーフ弁)150、160、170とを有する。尚、ベースバルブ60には、少なくとも第3〜第5リリーフ弁150、160、170が設けられている(図4参照)。
【0030】
連通路120は、リザーバ室70と第2室22Bとの間を連通しており、ピストン30が伸長行程のときリザーバ室70の作動流体を第2室22Bに供給するための通路である。また、逆止弁130は、連通路120の端部に設けられ、ピストン30が伸長行程のとき連通路120を開弁し、ピストン30が圧縮行程のとき連通路120を閉弁する。
【0031】
第3調圧弁140は、連通路120と第2室22Bとを連通する通路142と、通路142を開閉する弁体144と、弁体144を閉弁方向に付勢するコイルバネ146と、通路142の流出側に配された流出側開口148とを有する。また、第3調圧弁140は、ピストン30が圧縮行程のとき、第2室22Bの圧力Pbとリザーバ室70の圧力Pcとコイルバネ146のばね力F2と合計した力よりも大きい場合に開弁する(Pb>Pc+F2)。
【0032】
第3リリーフ弁150は、連通路120と第2室22Bとを連通する通路152と、通路152を開閉する弁体154と、弁体154を閉弁方向に付勢するコイルバネ156と、通路152の流出側に配された流出側開口158とを有する。また、第3リリーフ弁150は、ピストン30が圧縮行程のとき、第2室22Bの圧力Pbとリザーバ室70の圧力Pcとコイルバネ156のばね力F4と合計した力よりも大きい場合に開弁する(Pb>Pc+F4)。
【0033】
第4リリーフ弁160は、連通路120と第2室22Bとを連通する通路162と、通路162を開閉する弁体164と、弁体164を閉弁方向に付勢するコイルバネ166と、通路162の流出側に配された流出側開口168とを有する。また、第4リリーフ弁160は、ピストン30が圧縮行程のとき、第2室22Bの圧力Pbとリザーバ室70の圧力Pcとコイルバネ166のばね力F5と合計した力よりも大きい場合に開弁する(Pb>Pc+F5)。
【0034】
また、図1には図示されていないが、後述する図4に示されるように、ベースバルブ部60には、上記第3、第4リリーフ弁150、160の他に第5リリーフ弁170が設けられている。この第5リリーフ弁170は、ピストン30が圧縮行程のとき、第6リリーフ弁160の次に開弁するように弁体が動作する。
【0035】
各弁80、90、140、150、160の通路82、92、142、152、162における各弁体84、94、144、154、164の受圧面積S1、S2、S3、S4、S5が、S1>S2>S3>S4>S5となるように設定されている。そのため、ピストン30の圧縮行程において、各弁体84、94、144、154、164は受圧面積の差により所定時間間隔で一つずつ順次開弁する。また、第5リリーフ弁170の弁体の受圧面積は第4リリーフ弁160の受圧面積S5より小さくなるように設定されている。
【0036】
このように、各弁80、90、140、150、160、170の開弁タイミングがずれることで、ピストンの圧縮動作に伴い第1調圧弁80(ピストン部調圧弁)、第3調圧弁140(ベースバルブ部調圧弁)、第1リリーフ弁90(ピストン部リリーフ弁)、第3リリーフ弁150、160、170(ベースバルブ部リリーフ弁)の順に各弁が開弁するため、各弁の開弁タイミングがずれることで、第2室22Bからベースバルブ60を介してリザーバ室70へ流通する流通量が多すぎるために第1室22Aが真空状態となり、ピストン30の伸び動作に切り替わったときの減衰力の立ち上がり遅れが生じるということを抑えることができる。また、ピストン速度の高速域でピストン30が圧縮側に動作する際の減衰力の上昇を抑えることができる。
【0037】
また、上記各弁80、90、100、110、140、150、160、170の配置数は、本実施例の数に限らず、設置スペースとの関係で適宜、増やしても良い。
〔各弁の変形例〕
上記各コイルバネ86、96、106、116、146、156、166のばね力F1〜F5は、夫々異なるばね定数を有するようにばね材の径、巻数が設定されている場合やばね定数が同一でも取付時の長さを変化させ、本実施例において、ばね力F1<F2<F3<F4<F5となるように調整されている。そのため、ピストン30の圧縮行程において、各コイルバネ86、96、146、156、166のばね力F1〜F5と第2室22Bの圧力Pbの上昇により各弁体84、94、144、154、164は一つずつ順次開弁する。また、第5リリーフ弁170のコイルバネは、第4リリーフ弁160のコイルバネ166のばね力F5の次に大きいばね力になるように設定されている。
〔流体圧緩衝器の減衰力特性〕
図2は流体圧緩衝器の減衰力特性を示すグラフである。圧縮時、図2に示されるように、ピストン速度0からVaまでの間では、ピストン30の第1調圧弁80が開弁し、第1調圧弁80による減衰力0からCaが発生し、同時にベースバルブ部60の第3調圧弁140の弁体144が開弁する。速度Vaのリリーフ点では、ピストン30の第1のリリーフ弁90の弁体94が開弁する。さらにピストン速度が高められて中速Vbに達すると、ベースバルブ部60の第3リリーフ弁150の弁体154が開弁する。
【0038】
さらに、ピストン速度が高められて中速Vcに達すると、ピストン30の図示せぬリリーフ弁の弁体が開弁する。これにより、ピストン30の圧縮行程における減衰力はCcになる。さらにピストン速度が高められて高速Vdに達すると、ベースバルブ部60の第3リリーフ弁160の弁体164が開弁する。さらにピストン速度が高められると、ベースバルブ部60の第5リリーフ弁170が開弁する。
【0039】
このように、ピストン3の圧縮行程時には、弁80、90、140、150、160、170が一つずつ段階的に開弁することにより図2に示すような減衰特性が得られる。
〔ベースバルブ部60の構成〕
図3はベースバルブ部の構成を示す縦断面図である。図4は図3中X−X線に沿う縦断面図である。尚、図3及び図4に示す構成は、実際の構成の一例を示す。
【0040】
図3及び図4に示されるように、ベースバルブ部60は、逆止弁130と、第3調圧弁140と、第3〜第5リリーフ弁150、160、170とが、シリンダ20の軸線に対して同一半径の各位置に90度間隔で設けられている。また、各弁の周囲には、複数の連通路120が同心円状に配されている。
【0041】
さらに、各第3〜第5リリーフ弁150、160、170の開弁タイミングがずれるように流路面積又はばね力が異なる値に調整されている。そのため、各第3〜第5リリーフ弁150、160、170は、ピストン速度に応じて順次開弁される。
【0042】
また、連通孔120は、圧縮行程時にはシリンダ20の第2室22Bの圧力が上昇して環状に形成された逆止弁130により閉止され、伸長行程時には、シリンダ20の第2室22Bの圧力が負圧になるので、コイルバネ132のばね力により開弁する。このように、ピストン30が伸長行程のときは、複数の連通路120が同時に開弁するため、ピストン速度が高速の場合でもリザーバ室70からの作動流体の供給が不足することがない。
〔ピストン移動方向による作動流体の流れ〕
図5は流体圧緩衝器の伸長行程の動作を説明するための縦断面図である。図5に示されるように、ピストン30が伸長行程のときは、第1室22Aが圧力室になり、第2室22Bが負圧室になる。そのため、第1室22Aの作動流体は、ピストン30の第2調圧弁100、第2リリーフ弁110が開弁して第2室22Bに流入する。これにより、作動流体が第2調圧弁100、第2リリーフ弁110を通過する際に減衰力を発生する。
【0043】
また、第2室22Bが負圧室になるため、逆止弁130が開弁し、リザーバ室70の作動流体が複数の連通路120を通過して第2室22Bに供給される。これにより、第2室22Bで作動流体が不足することはない。このように、圧力側の第1室22Aでの作動流体の不足が解消されるため、ピストン30が伸長行程のときの減衰力特性の波形図の波形くずれが抑制される。
【0044】
図6は流体圧緩衝器の圧縮行程の動作を説明するための縦断面図である。図6に示されるように、ピストン30が圧縮行程のとき、第1室22Aが負圧室で、第2室22Bが圧力室となる。そのため、ピストン速度が低速の場合、第2室22Bの作動流体は、ピストン30の第1調圧弁80が開弁して第1室22Aに流入する。これにより、作動流体が第1調圧弁80を通過する際に減衰力を発生する。
【0045】
また、ピストン速度が中速になると、第2室22Bの圧力Pbが上昇するため、ベースバルブ部60の第3調圧弁140の弁体144が開弁して第2室22Bの作動流体が第3調圧弁140の通路142を通過してリザーバ室70に流入する。
【0046】
さらに、ピストン速度が高速になると、第2室22Bの圧力Pbが上昇するため、ピストン30の第2リリーフ弁90の弁体94が開弁して第2室22Bの作動流体が第2リリーフ弁90の通路92を通過して第1室22Aに流入する。
【0047】
さらに、ピストン速度が高速になると、第2室22Bの圧力Pbがさらに上昇するため、ベースバルブ部60の第3リリーフ弁150の弁体154が開弁して第2室22Bの作動流体が第3リリーフ弁150の通路152を通過してリザーバ室70に流入する。
【0048】
また、第2室22Bが圧力室になるため、逆止弁130は閉弁する。これにより、第2室22Bで作動流体が不足することはない。
【0049】
このようにピストン30のピストン速度に応じて弁80、90、140、150、160が所定時間間隔で順次開弁するため、ピストン速度に応じた減衰力を発生することができると共に、第2室22Bからリザーバ室70へ流入する作動流体も調整することができるので、第2室22Bから作動流体の流出量が不足すること抑制される。
【0050】
本発明によれば、ピストン30の圧縮動作に伴い第1調圧弁80(ピストン部調圧弁)、第3調圧弁140(ベースバルブ部調圧弁)、第1リリーフ弁90(ピストン部リリーフ弁)、第3〜第5リリーフ弁150、160、170(ベースバルブ部リリーフ弁)の順に各弁が開弁するため、各弁の開弁タイミングがずれることで、第2室22Bからベースバルブ部60を介してリザーバ室70へ流通する流通量が多すぎるために第1室22Aが真空状態となり、ピストン30の伸び動作に切り替わったときの減衰力の立ち上がり遅れが生じるということを抑えることができる。また、ピストン速度の高速域でピストン30が圧縮側に動作する際の減衰力の上昇を抑えることができる。
【符号の説明】
【0051】
10 流体圧緩衝器
20 シリンダ
22 内側シリンダ
22A 第1室(上室)
22B 第2室(下室)
24 外側シリンダ
30 ピストン
40 ピストンロッド
50 ピストン部減衰力発生機構
50A 圧縮行程用減衰力発生機構
50B 伸長行程用減衰力発生機構
60 ベースバルブ部
70 リザーバ室(充填室)
80 第1調圧弁(ピストン部調圧弁)
82、92、102、112、142、152、162 通路
84、94、104、114、144、154、164 弁体
86、96、106、116、146、156、166 コイルバネ
88、98、108、118、148、158、168 流出側開口
90 第1リリーフ弁(ピストン部リリーフ弁)
100 第2調圧弁
110 第2リリーフ弁
120 連通路
130 逆止弁
140 第3調圧弁(ベースバルブ部調圧弁)
150、160、170 第3〜第5リリーフ弁(ベースバルブ部リリーフ弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が充填されるシリンダと、
該シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内を第1室と第2室とに画成するピストンと、
一端が前記ピストンに連結され、他端が前記シリンダの前記第1室側から外部に延出されたピストンロッドと、
前記ピストンに設けられ、前記第1室と前記第2室とを連通する複数のピストン部通路と、
前記シリンダに設けられ、前記ピストンの動作方向に応じて前記作動流体が充填される充填室と前記第2室との間を開閉するベースバルブ部と、
前記ベースバルブ部に設けられ、前記作動流体が充填される充填室と前記第2室との間で前記作動流体を流通させる複数のベースバルブ部通路と、を備え、
前記ピストン部通路は、少なくとも前記第2室から前記第1室への作動流体を流通させるように開閉するピストン部調圧弁及びピストン部リリーフ弁を有し、
前記ベースバルブ部通路は、少なくとも前記第2室から前記充填室への作動流体を流通させるように開閉するベースバルブ部調圧弁及びベースバルブ部リリーフ弁を有し、
これらの前記各弁は、前記ピストンの圧縮動作に伴い前記ピストン部調圧弁、前記ベースバルブ部調圧弁、前記ピストン部リリーフ弁、前記ベースバルブ部リリーフ弁の順に開弁することを特徴とする流体圧緩衝器。
【請求項2】
前記ベースバルブ部の通路に、第2のベースバルブ部リリーフ弁を設け、
前記第2のベースバルブ部リリーフ弁は、前記ピストンの圧縮行程のピストン速度の上昇に伴い前記ベースバルブ部リリーフ弁の次に開弁することを特徴とする請求項1に記載の流体圧緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−180861(P2012−180861A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42804(P2011−42804)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】