流体封入式防振装置
【課題】防振対象振動の入力時に目的とする防振効果が有効に発揮されると共に、衝撃的な大荷重の入力時には受圧室内の負圧に起因すると考えられる異音や振動が低減乃至は回避される、新規な構造の流体封入式防振装置を提供すること。
【解決手段】オリフィス通路92の一方の端部から直角に屈曲して受圧室84に向かって開口する連通孔88が形成されて、オリフィス通路92の一方の端部が連通孔88を通じて受圧室84に連通されることで、オリフィス通路92と連通孔88の接続隅部に死水領域95が形成される一方、死水領域95の壁部を構成する底壁部96の一方の面が連通孔88を通じて受圧室84に直接に臨まされると共に、他方の面が平衡室86に晒され、更に底壁部96にはオリフィス通路92及び連通孔88よりも小さな断面積の短絡孔97が形成されて、両室84,86がオリフィス通路92の死水領域95において短絡孔97で連通される。
【解決手段】オリフィス通路92の一方の端部から直角に屈曲して受圧室84に向かって開口する連通孔88が形成されて、オリフィス通路92の一方の端部が連通孔88を通じて受圧室84に連通されることで、オリフィス通路92と連通孔88の接続隅部に死水領域95が形成される一方、死水領域95の壁部を構成する底壁部96の一方の面が連通孔88を通じて受圧室84に直接に臨まされると共に、他方の面が平衡室86に晒され、更に底壁部96にはオリフィス通路92及び連通孔88よりも小さな断面積の短絡孔97が形成されて、両室84,86がオリフィス通路92の死水領域95において短絡孔97で連通される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動伝達系を構成する部材間に配設されて、それら振動伝達系を構成する部材を相互に防振連結乃至は防振支持せしめる防振装置に係り、特に、内部に封入された非圧縮性流体の流動作用に基づく防振効果を利用する流体封入式防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、自動車のパワーユニットと車両ボデーのような防振対象部材間に装着されて、それら防振対象部材を相互に防振支持乃至は防振連結せしめる防振装置の一種として、内部に非圧縮性流体を封入して、封入流体の流動作用に基づく防振効果を利用した流体封入式防振装置が知られている。かかる流体封入式防振装置としては、例えば、第一の取付部材を筒状の第二の取付部材の軸方向一方の開口部側に離隔配置して、それら第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で相互に弾性連結すると共に、第二の取付部材の軸方向他方の開口部を覆蓋するように可撓性膜を配設することで、第二の取付部材の内周側の領域において本体ゴム弾性体と可撓性膜の対向面間に、外部空間から隔離されて非圧縮性流体が封入された流体室を形成する一方、第二の取付部材で支持される仕切部材を流体室内に配設して、仕切部材を挟んだ軸方向一方の側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成された受圧室を形成すると共に、仕切部材を挟んだ軸方向他方の側には、壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室を形成し、更に、仕切部材には、それら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路を形成した構造のものがある。
【0003】
このような流体封入式防振装置においては、防振対象荷重が第一の取付部材と第二の取付部材の間に及ぼされると、壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成された受圧室に内圧変動が惹起されて、容積変化が許容されて内圧が略一定に維持される平衡室との間に相対的な圧力差が生ぜしめられる。そして、両室間でオリフィス通路を通じての流体流動が生ぜしめられて、流体の共振作用等の流動作用に基づく防振効果が発揮されるようになっている。
【0004】
ところで、流体封入式防振装置では、第一の取付部材と第二の取付部材の間に衝撃的な荷重が入力された場合に、異音や振動が発生するという問題があった。この異音や振動は、大荷重の入力に伴って受圧室内が負圧になることによるキャビテーション現象に起因するものと考えられており、車室内の静粛性や乗り心地に悪影響を及ぼすことから解決の方法が様々に模索されている。
【0005】
このようなキャビテーション異音の問題を解決する手段として、例えば、受圧室と平衡室を相互に連通する短絡孔を設けることが提案されている。即ち、問題となる異音や振動は、受圧室内の圧力低下によって引き起こされることから、受圧室と平衡室をオリフィス通路よりも短い通路長さで相互に連通する短絡孔を形成することにより、オリフィス通路を通じた流体の流動が追従し切れない場合にも、短絡孔を通じて平衡室から受圧室へ流体が移動せしめられる。これにより、受圧室内の負圧が速やかに解消されて、かかる負圧に起因すると考えられる異音や振動の発生を防ぐことができる。
【0006】
ところが、このような短絡孔を設けた流体封入式防振装置では、防振対象振動の入力に際して、防振性能の低下が問題となるおそれがあった。即ち、短絡孔が常時連通状態で形成されていることにより、防振対象振動の入力時にも、短絡孔を通じて受圧室と平衡室の間で流体が流動せしめられる。それ故、オリフィス通路を通じての流体流動量が十分に得られず、オリフィス通路による防振性能が大幅に低下するおそれがあった。
【0007】
そこで、このような問題を解決するために、例えば、特許文献1(特開2007−100875号公報)には、オリフィス通路よりも短い通路長さで受圧室と平衡室を相互に連通させ得る短絡路を形成すると共に、短絡路の受圧室側開口部を本体ゴム弾性体を利用して構成された弁体によって、連通状態と遮断状態に切り換えることが出来る流体封入式防振装置が示されている。これによれば、キャビテーションが問題となる衝撃的な大荷重の入力時には、弁体を開作動せしめて、短絡路を連通状態とすることにより、短絡路を通じて流体を両室間で流動せしめて、受圧室内の負圧が速やかに解消されるようになっている。しかも、防振対象荷重の入力時には、弁体によって短絡路を閉塞せしめることにより、受圧室内の液圧が短絡路を通じて平衡室側に逃げるのを防いで、オリフィス通路を通じての流体流動を有効に惹起せしめることが出来、キャビテーション異音の低減乃至は回避が実現されるようになっている。
【0008】
しかしながら、特許文献1等に示されているように、短絡路を開閉させる弁体を備えた構造の流体封入式防振装置では、長期に亘って繰り返し作動せしめられる弁体の耐久性が問題となり易い。更に、特定の荷重入力によって短絡路の連通状態と遮断状態を高精度に切り換え得るように弁体の作動をチューニングするのは、極めて困難な場合があった。また、弁体が特別に設けられている場合には、部品点数の増加や構造の複雑化も問題となり易く、簡易な構造と少ない部品点数で、防振対象振動に対する有効な防振効果と、キャビテーション異音の低減乃至は回避を、両立して実現し得る流体封入式防振装置が求められていたのである。
【0009】
【特許文献1】特開2007−100875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、部品点数の少ない簡単な構造で、防振対象振動の入力に際して目的とする防振効果が有効に発揮されると共に、衝撃的な大荷重の入力に際しては、受圧室内の圧力変動を抑えて、受圧室内の負圧に起因すると考えられる異音や振動が低減乃至は回避される、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意な組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0012】
すなわち、本発明は、第一の取付部材が筒状部を備えた第二の取付部材の一方の開口部側に配置されると共に、それら第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で相互に連結されて、該第二の取付部材の一方の開口部が該本体ゴム弾性体で閉塞されていると共に、該第二の取付部材の他方の開口部が可撓性膜で閉塞されて、該第二の取付部材の内周側においてそれら本体ゴム弾性体と可撓性膜の対向面間に外部空間から隔てられて非圧縮性流体が封入された流体室が形成されている一方、該流体室には仕切部材が該第二の取付部材で支持されて配設されており、該仕切部材を挟んだ一方の側に壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成された受圧室が形成されると共に、該仕切部材を挟んだ他方の側に壁部の一部が該可撓性膜で構成された平衡室が形成されて、更に、それら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路が該仕切部材に形成された流体封入式防振装置において、前記オリフィス通路の一方の端部側が前記仕切部材の広がる面方向で延びていると共に、該オリフィス通路の該一方の端部から直角に屈曲して前記受圧室に向かって開口する連通孔が形成されており、該オリフィス通路の該一方の端部が該連通孔を通じて該受圧室に連通されていることにより、該オリフィス通路の該受圧室側開口部分では該オリフィス通路の延びる方向に対して直角に立ち上がる該オリフィス通路の終端面が形成されて該オリフィス通路と該連通孔との接続隅部において該オリフィス通路の底面と終端面との直交壁面で死水領域が形成されている一方、該死水領域の直交壁面を構成する該オリフィス通路の該一方の端部における底壁部がその一方の面において該連通孔を通じて該受圧室に直接に臨まされていると共に、該底壁部の他方の面が該オリフィス通路を外れた部分で前記平衡室に対して直接に晒されており、かかる底壁部において該オリフィス通路および該連通孔よりも小さな断面積の短絡孔が形成されて、該受圧室と該平衡室が該オリフィス通路の該死水領域において該短絡孔により連通されていることを特徴とする。
【0013】
このような本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、オリフィス通路の受圧室側開口部分において、オリフィス通路の底壁部に短絡孔が形成されており、受圧室と平衡室が短絡孔によって連通されている。これにより、第一の取付部材と第二の取付部材の間に衝撃的な大荷重が入力された場合には、短絡孔を通じて両室間で流体が流動せしめられることにより、受圧室に過大な圧力変動が及ぼされるのを防いで、受圧室の圧力低下に伴うキャビテーション現象に起因すると考えられる異音や振動を低減乃至は回避することが出来る。
【0014】
さらに、オリフィス通路の一方の端部側が仕切部材の広がる面方向に延びていると共に、連通孔がオリフィス通路の一方の端部から直角に屈曲して受圧室に向かって開口する連通孔が形成されていることにより、オリフィス通路の一方の端部と連通孔との接続隅部には、流体が滞留せしめられる死水領域が形成されている。更に、短絡孔が、死水領域に開口するように形成されている。
【0015】
そして、オリフィス通路がチューニングされた周波数域の振動荷重が入力された際には、オリフィス通路を通じて積極的な流体流動が生ぜしめられることにより、死水領域に開口する短絡孔が実質的な遮断状態とされて、封入流体が受圧室と平衡室の間で短絡孔を通じて流動せしめられるのを防ぐことが出来る。これにより、防振対象振動の入力時には、オリフィス通路を通じて充分な流体流動を生ぜしめることが出来て、流体の流動作用に基づく防振効果を有効に得ることが可能となっている。
【0016】
要するに、本発明に係る流体封入式防振装置によれば、通常の荷重入力時における充分な防振性能と、衝撃的な大荷重入力時におけるキャビテーション異音の抑制を、両立して有利に実現することが出来るのである。
【0017】
しかも、本発明において、短絡孔の実質的な連通状態と遮断状態の切換えは、短絡孔を特定の位置に形成して、オリフィス通路を流動する流体の共振時における流動経路を巧く利用することによって、実現されている。それ故、本発明によれば、上記の如き目的とする防振性能とキャビテーション異音の解消が、弁手段として特別な部材を設けることなく、少ない部品点数で、且つ、簡単な構造をもって実現される。
【0018】
なお、オリフィス通路の壁部の一部に短絡孔を形成する構造は、例えば、特表昭62−501868号公報や特公平6−105095号公報等にも示されている。しかし、これらの特許出願に係る発明は、あくまでもオリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波数の振動が入力された場合における低動ばね効果を実現するために、オリフィス通路の壁部に短絡孔を形成したものであって、衝撃的な荷重入力時におけるキャビテーションによる異音の低減と、防振対象振動の入力時における有効な防振性能を、簡易な構造で両立して実現するという本発明の解決すべき課題については、何等の示唆も為されていない。要するに、これらの先願特許に係る発明は、本発明とは全く違う課題を解決すべく提案されたものであって、発明の思想においてさえ本発明とは大きく異なっているのである。
【0019】
そして、このように基本的技術思想が異なる上記二つの先願特許に係る発明は、何れも本発明が特徴とする構造を備えていないのである。以下に、本発明の特徴的な構造であって、上記二つの先願特許に係る発明が備えていない構造について付言する。
【0020】
先ず、本発明においては、連通孔がオリフィス通路の端部から直角に延びるように形成されている。これにより、本発明では、連通孔とオリフィス通路の接続隅部において、オリフィス通路内の流れがオリフィス通路の壁面から剥離し易くなっており、オリフィス通路の底面と終端面との直交平面によって死水領域が積極的に形成されるようになっている。そして、死水領域を巧く使うことによって、受圧室内の圧力が短絡孔に対して直接的に作用するのを効果的に抑えて、短絡孔の実質的な連通状態と遮断状態の切換えが実現されるようになっている。
【0021】
一方、特表昭62−501868号公報には、オリフィス通路の受圧室側端部(連通孔)が、オリフィス通路の一方の端部から鈍角に屈曲して受圧室側に向かって延びるように形成された構造が示されている。このように連通孔とオリフィス通路が鈍角に屈曲せしめられていると、オリフィス通路内において流体が壁面に沿って流れ易く、連通孔とオリフィス通路の接続隅部において死水領域が形成され難い。
【0022】
以上より明らかなように、オリフィス通路に対して直角を為す連通孔を形成するという特定構造を採用して、死水領域を積極的に形成すると共に、死水領域を巧く利用して、受圧室内の圧力が短絡孔に対して直接的に作用するのを効果的に抑えるという本発明の基本的技術思想は、特表昭62−501868号公報に開示されていない。
【0023】
次に、本発明では、短絡孔が形成されるオリフィス通路の底壁部における一方の面が、連通孔を通じて受圧室に臨まされると共に、他方の面が、平衡室に対して直接に晒されており、オリフィス通路の受圧室側端部である連通孔と、平衡室が、短絡孔を通じて相互に連通されるようになっている。そして、オリフィス通路の共振状態においては、短絡孔の一方の開口部が、死水領域によって実質的に閉塞されると共に、短絡孔の他方の開口部が、略一定の圧力に維持される平衡室に対して直接に開口せしめられることにより、オリフィス通路の短絡が防止されているのであって、オリフィス通路を通じて流動する流体の流動作用に基づく防振効果が安定して発揮せしめられるようになっている。
【0024】
一方、特公平6−105095号公報においては、短絡孔の一方の開口部がオリフィス通路の受圧室側端部内に開口せしめられていると共に、他方の開口部がオリフィス通路の平衡室側端部内に開口せしめられている。これにより、オリフィス通路の長さ方向中間部分が短絡孔によって連通されており、オリフィス通路の実質的な通路長さが、短絡孔を通じての流体流動によって変化せしめられて、中乃至高周波数域の振動入力時において、低動ばね効果が発揮されるようになっている。
【0025】
しかしながら、このようにオリフィス通路自体が短絡孔によって短絡される構造を採用すると、オリフィス通路の共振状態下においても、オリフィス通路を通じて流動する流体の流動方向に沿った方向では、短絡孔を通じての流体流動が生じ易く、オリフィス通路のチューニング周波数が変化して、目的とする防振効果が有効に得られないおそれがある。
【0026】
要するに、特公平6−105095号公報に記載の構造では、短絡孔がオリフィス通路内の両端部付近に開口せしめられていることから、オリフィス通路の共振状態下では、短絡孔の両側開口部に対して相対的な圧力差が及ぼされる。そして、この相対的な圧力差によって、短絡孔に圧力勾配が生じて、短絡孔を通じての流体流動が生じ易くなる。一方、本発明では、オリフィス通路の共振状態下において、短絡孔の一方の開口部が、死水領域を介して受圧室に向かって開口せしめられていると共に、他方の開口部が、平衡室に対して直接に開口せしめられている。それ故、短絡孔の両側開口部に対して及ぼされる相対的な圧力差が抑えられて、短絡孔を通じての流体流動が効果的に防がれるようになっている。
【0027】
従って、特公平6−105095号公報に示された発明では、短絡孔が形成されることにより、流体封入式防振装置本来の防振効果が安定して得られ難く、仮にキャビテーション異音の低減効果が得られたとしても、目的とする防振性能との両立が困難であった。それに対して、本発明は、キャビテーション異音の低減効果と防振装置本来の防振性能を、両立して実現することを目的としているのであって、特公平6−105095号公報に示された発明とは、別異の着想に基づいて為されていることが明らかである。
【0028】
また、本発明に係る流体封入式防振装置では、前記死水領域の直交壁面を構成する前記オリフィス通路の前記一方の端部における底壁部において、前記短絡孔の中心軸が、前記連通孔の中心軸方向での投影領域内で該オリフィス通路の長さ方向の中央と前記終端面との間に位置せしめられていることが望ましい。
【0029】
これによれば、短絡孔が、連通孔の中心軸方向での投影領域内で、オリフィス通路の長さ方向の中央と終端面の間に位置するように形成されることで、短絡孔の受圧室側開口部が、終端面と底面との直交壁面で形成される死水領域に、安定して開口せしめられる。従って、短絡孔に対して受圧室の圧力が直接的に作用するのを有利に防ぐことが出来る。
【0030】
また、本発明に係る流体封入式防振装置においては、前記仕切部材の外周部分を周方向に一周以下の長さで延びるようにして前記オリフィス通路が形成されており、該オリフィス通路の周方向一方の端部において、該オリフィス通路における前記受圧室側の壁部を貫通して前記連通孔が形成されていると共に該オリフィス通路における前記平衡室側の壁部を貫通して前記短絡孔が形成されていても良い。このようにして本発明に従う構造を実現することにより、オリフィス通路の長さの設定自由度が大きくなって、目的とする防振性能とキャビテーション異音の低減効果の両立を、有効に実現することが可能となる。
【0031】
一方、本発明に係る流体封入式防振装置においては、前記仕切部材の外周部分を周方向に一周以下の長さで延びる上段周溝を設けて、該上段周溝の周方向一方の端部における前記受圧室側の壁部を貫通して前記連通孔を形成すると共に、該上段周溝の周方向一方の端部における前記平衡室側の壁部には該平衡室側に開口する連通凹所を形成して該平衡室側の壁部厚さを薄くしそこに前記短絡孔を形成する一方、該仕切部材の外周部分における該上段周溝よりも該平衡室側の領域には、該連通凹所の形成領域を外れた周上の一周以下の領域で該上段周溝の周方向他方の端部から折り返して周方向に延びる下段周溝を形成し、該下段周溝の端部を該平衡室に連通せしめることにより、それら上段及び下段の周溝によって前記オリフィス通路を形成しても良い。
【0032】
このような構造を採用することにより、上下で少なくとも二段とされたオリフィス通路を備える流体封入式防振装置にも本発明を適用することが出来て、上記の如き通常振動入力時の防振性能と、衝撃荷重入力時のキャビテーションによる異音や振動の低減乃至は回避を両立して実現することが出来る。しかも、短絡孔が形成される部分におけるオリフィス通路の壁部厚さが、連通凹所によって薄肉とされていることにより、仕切部材の質量が必要以上に大きくなるのを防ぐことが出来ると共に、短絡孔の通路長を短くすることで、受圧室内の過大な圧力変動がより速やかに解消されるようになっている。
【0033】
また、上述のように、仕切部材の外周部分にオリフィス通路を形成することにより、仕切部材の中央部分において、可動膜や可動板等による液圧吸収機構を設けることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0035】
先ず、図1,図2には、本発明に係る流体封入式防振装置の一実施形態として、自動車用エンジンマウント10が示されている。この自動車用エンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12が筒状の第二の取付部材としての第二の取付金具14の軸方向上側の開口部付近に離隔配置されると共に、それら第一,第二の取付金具12,14が本体ゴム弾性体16で相互に連結された構造を有している。なお、以下の説明において、上下方向とは、第二の取付金具14の軸方向である図1中の上下方向を言うものとする。
【0036】
より詳細には、第一の取付金具12は、中実で直線的に延びる小径のロッド形状を有しており、鉄やアルミニウム合金等の高剛性の材料で形成されている。また、第一の取付金具12は、円形断面を有して軸方向に延びる固着部18の上端部に、上方に向かって突出する板状の取付部20が一体形成された構造を有している。また、取付部20の上端部分には、取付部20を厚さ方向で貫通する円形のボルト挿通孔22が形成されている。なお、第一の取付金具12は、第一の取付部材の一例であって、例えば、固着部18の上端部から上方に向かって突出する取付ボルトが一体形成された構造の第一の取付部材等も、採用可能である。
【0037】
また、第一の取付金具12の外周側には、中間スリーブ24が配設されている。中間スリーブ24は、薄肉大径の略円筒形状を有しており、本実施形態では、鉄やアルミニウム合金等の金属材で形成されている。また、中間スリーブ24の軸方向中間部分には、図中に明示されてはいないが、段差部が形成されており、中間スリーブ24において該段差部を挟んだ上側部分が大径部26とされていると共に、下側部分が小径部28とされて、中間スリーブ24が全体として段付き円筒形状を呈している。更に、中間スリーブ24の軸方向中間部分には、一対の窓部30,30が形成されている。この窓部30は、径方向一方向で対向する部分にそれぞれ形成されており、中間スリーブ24の周壁を貫通している。また、本実施形態において、窓部30は、周方向で半周弱の長さで開口形成されている。なお、本実施形態では、窓部30が上記段差部を跨いで形成されており、窓部30の上端部が大径部26に至ると共に、下端部が小径部28に至るように形成されている。
【0038】
また、第一の取付金具12が中間スリーブ24に対して同一中心軸上に配設されて、固着部18が中間スリーブ24の上側開口部から挿し入れられる。これにより、第一の取付金具12は、固着部18が中間スリーブ24の内周側に径方向で所定距離を隔てて位置せしめられると共に、取付部20が中間スリーブ24から上方に突出せしめられる。
【0039】
そして、径方向で相互に離隔して配置された第一の取付金具12と中間スリーブ24の間には、本体ゴム弾性体16が介装されて、それら第一の取付金具12と中間スリーブ24が本体ゴム弾性体16で相互に連結されている。本体ゴム弾性体16は、全体として厚肉の略円形ブロック形状を有している。更に、本体ゴム弾性体16には、その中心軸上を延びるようにして第一の取付金具12の固着部18が挿し入れられて、第一の取付金具12が本体ゴム弾性体16の上端部分に加硫接着されていると共に、中間スリーブ24の内周面が本体ゴム弾性体16の外周面に重ね合わされて加硫接着されている。要するに、本実施形態において、本体ゴム弾性体16は、第一の取付金具12と中間スリーブ24を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0040】
また、本体ゴム弾性体16の上端部には、上方に向かって開口するすぐり部32が形成されている。このすぐり部32は、上方に向かって開口する凹所状であって、径方向中央側に行くに従って軸方向での深さが大きくなっている。このようなすぐり部32が形成されることにより、本体ゴム弾性体16の上端面が径方向中央側に向かって下傾するテーパ面とされている。更に、本体ゴム弾性体16の下端部には、下方に向かって開口する円形凹所34が形成されている。円形凹所34は、開口部に向かって次第に大径となる逆向きの略すり鉢形状を呈している。
【0041】
更にまた、本体ゴム弾性体16には、一対のポケット部36,36が形成されている。ポケット部36,36は、第一の取付金具12の固着部18を挟んで径方向一方向で対向位置するように形成されており、本体ゴム弾性体16の外周面に開口せしめられている。また、ポケット部36,36は、それぞれ、外周側に行くに従って次第に軸方向開口幅が大きくなる拡開形状をもって、周方向半周弱の長さで形成されて、中間スリーブ24に形成された一対の窓部30,30を通じて外周面に開口せしめられている。なお、本実施形態では、本体ゴム弾性体16で構成されたポケット部36の軸方向上壁部が軸方向下壁部よりも薄肉とされている。
【0042】
また、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品には、第二の取付金具14が嵌め付けられている。第二の取付金具14は、全体として薄肉大径の略段付き円筒形状を有しており、段差部38を挟んで軸方向上側が大径筒部40とされていると共に、軸方向下側が小径筒部42とされている。また、第二の取付金具14の内周面は、薄肉のゴム弾性体で形成されたシールゴム層44によって略全体が覆われている。そして、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品が第二の取付金具14の大径筒部40に対して内挿された状態で、第二の取付金具14に対して八方絞り等の縮径加工を施すことにより、第二の取付金具14が中間スリーブ24に対して外嵌固定されている。なお、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品は、中間スリーブ24が第二の取付金具14の段差部38に対して上方から重ね合わされることにより、第二の取付金具14に対して軸方向で位置決めされるようになっている。
【0043】
このように、第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に対して組み付けられることによって、本体ゴム弾性体16の外周面に開口せしめられたポケット部36,36の開口部が、第二の取付金具14によって流体密に閉塞されている。これにより、一対のポケット部36,36を利用して、非圧縮性流体が封入された一対の液室46,46が、径方向一方向で対向位置して形成されている。なお、液室46,46に封入される非圧縮性流体としては、特に限定されるものではないが、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油,それらの混合液等が好適に採用され、特に後述する流体の流動作用に基づく防振効果を有効に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体が望ましい。また、液室46,46への非圧縮性流体の封入は、第二の取付金具14の中間スリーブ24への嵌着を、非圧縮性流体中で行うことにより、有利に実現出来る。また、本実施形態において、一対の液室46,46は、何れも、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されており、軸直角方向での荷重入力時に内圧変動が及ぼされるようになっている。
【0044】
さらに、中間スリーブ24の小径部28と第二の取付金具14の径方向対向面間には、オリフィス部材48が嵌め付けられている。オリフィス部材48は、図1,図2に示されているように、全体として大径の円筒形状を有しており、鉄やアルミニウム合金等の金属材や硬質の合成樹脂材で形成されている。また、オリフィス部材48には、上下で離隔して周方向にそれぞれ一周弱の長さで延びる凹溝が形成されており、それら凹溝の周方向一方の端部が相互に接続されて、周方向に二周弱の長さで延びる第一周溝50が形成されている。
【0045】
そして、オリフィス部材48が、中間スリーブ24の段差部と、第二の取付金具14の段差部38との軸方向間において、中間スリーブ24と第二の取付金具14の径方向対向面間に配設されている。かかる配設状態において、オリフィス部材48の外周面は、シールゴム層44を介して第二の取付金具14に対して密着されており、第一周溝50の開口部が第二の取付金具14によって覆われて流体密に閉塞されている。また、第一周溝50の一方の端部が連通路52を通じて一方の液室46に連通されていると共に、他方の端部が図示しない連通路を通じて他方の液室46に連通されている。これによって、一対の液室46,46を相互に連通する絞り通路54が、第一周溝50を利用して形成されている。なお、本実施形態において、絞り通路54は、軸直角方向でエンジンシェイクに相当する振動荷重が入力された場合に、流体の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮されるようにチューニングされている。
【0046】
また、第二の取付金具14の上端開口部が本体ゴム弾性体16で閉塞されていると共に、第二の取付金具14の下端部には、可撓性膜としてのダイヤフラム56が固着されている。ダイヤフラム56は、薄肉の略円板形状を有するゴム膜で形成されており、充分な弛みを有して、弾性変形が容易に許容されるようになっている。なお、本実施形態におけるダイヤフラム56は、径方向中央部分が厚肉とされている。そして、ダイヤフラム56は、第二の取付金具14の下端部に設けられた小径筒部42に加硫接着されており、第二の取付金具14の下端開口部がダイヤフラム56で閉塞されている。本実施形態では、ダイヤフラム56が第二の取付金具14の内周面を覆うように形成されたシールゴム層44と一体形成されている。なお、本実施形態では、ダイヤフラム56が第二の取付金具14に対して直接に加硫接着されているが、例えば、略円環形状の固定金具の内周面にダイヤフラム56の外周面が加硫接着されて、該固定金具が第二の取付金具14の下端部に嵌着固定されることにより、ダイヤフラム56が第二の取付金具14の下端部を覆うように配設されていても良い。
【0047】
このように、第二の取付金具14の上端開口部が本体ゴム弾性体16で流体密に閉塞されると共に、第二の取付金具14の下端開口部がダイヤフラム56で流体密に閉塞されることにより、第二の取付金具14の内周側の領域において、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム56の軸方向対向面間には、外部空間及び一対の液室46,46から隔てられた流体室58が形成されている。この流体室58には、一対の液室46,46に封入された非圧縮性流体と同様の流体が封入されている。なお、例えば、第二の取付金具14を備えたダイヤフラム56の一体加硫成形品を、非圧縮性流体を充たした水槽中で、中間スリーブ24を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に対して嵌着固定することにより、流体室58への非圧縮性流体の封入を容易に実現することが出来る。
【0048】
さらに、流体室58には、仕切部材60が収容配置されている。仕切部材60は、図3〜7に示されているように、全体として厚肉の略円板形状を有しており、仕切部材本体62と蓋金具64と可動ゴム板66を備えている。
【0049】
仕切部材本体62は、厚肉の略円板形状を有しており、本実施形態では鉄やアルミニウム合金等の高剛性の金属材で形成されている。なお、仕切部材本体62は、硬質の合成樹脂材等で形成されていても良い。また、仕切部材本体62の上端部分には、外周面から径方向外側に向かって突出する当接支持部68が一体形成されている。更に、仕切部材本体62の径方向中央部分には、上端面に開口する円形の収容凹所70と、下端面に開口する円形の中央凹所72が、それぞれ形成されている。また、仕切部材本体62の外周縁部には、第二周溝74が形成されている。第二周溝74は、仕切部材本体62の当接支持部68よりも下側において、外周面に開口するように形成されている。また、本実施形態において、第二周溝74は、略一定の断面形状をもって周方向に一周弱の長さで延びるように形成されている。
【0050】
また、蓋金具64は、薄肉の略円板形状を有しており、仕切部材本体62と同様に、鉄やアルミニウム合金等の高剛性の金属材で形成されている。そして、蓋金具64は、仕切部材本体62の上端面に重ね合わされる。なお、図中には明示されていないが、例えば、仕切部材本体62の上端面に突設された係止部と蓋金具64に形成された係止孔を係止させる等の係止機構を設けて、仕切部材本体62と蓋金具64が相互に係止固定されるようになっていても良いし、例えば、接着剤等を用いて、仕切部材本体62と蓋金具64を接着固定しても良い。
【0051】
このように仕切部材本体62と蓋金具64が重ね合わされることにより、仕切部材本体62に形成された収容凹所70の開口部が蓋金具64で覆蓋されている。これにより、収容凹所70を利用して仕切部材本体62と蓋金具64の対向面間に収容領域が形成されている。
【0052】
また、この収容領域には、可動部材としての可動ゴム板66が配設されている。可動ゴム板66は、略円板形状を有するゴム弾性体で形成されており、径方向外周縁部に軸方向両側に突出する円環状の外周支持部76が一体形成されていると共に、径方向中央部に軸方向両側に突出する中央支持部78が一体形成されて、外周縁部及び中央部が径方向中間部分に比して厚肉とされている。また、可動ゴム板66の径方向中間部分には、軸方向両側に突出する緩衝当接部80が一体形成されている。緩衝当接部80は、全周に亘って連続して延びる突条であって、外周支持部76及び中央支持部78よりも突出高さが小さくされている。特に本実施形態では、緩衝当接部80が突出先端側に向かって次第に狭幅となる断面形状を有しており、径方向で離隔して二条の緩衝当接部80が形成されている。
【0053】
そして、可動ゴム板66が収容凹所70に嵌め入れられると共に、仕切部材本体62と蓋金具64が軸方向で重ね合わされることにより、外周支持部76と中央支持部78がそれぞれ仕切部材本体62と蓋金具64の対向面間で挟圧支持されて、可動ゴム板66が収容領域に収容配置されるようになっている。なお、可動ゴム板66の径方向中間部分は、緩衝当接部80の形成箇所を含めた全体が、仕切部材本体62と蓋金具64の何れからも離隔せしめられている。
【0054】
また、収容領域の天壁部及び底壁部(上下の壁部)には、それぞれ複数の透孔82が形成されている。透孔82は、図3〜7に示されているように、それぞれ周方向に所定の長さで延びて、周方向で所定距離を隔てて隣り合うように形成されている。そして、可動ゴム板66の外周支持部76と中央支持部78の径方向間に形成された薄肉部分が、透孔82を通じて外部に露出せしめられている。なお、本実施形態において、透孔82は、それぞれ周方向に略四分の一周弱の所定長さで延びる断面形状を有する四つの孔であって、径方向中央から径方向で四方に延びる腕状の天壁部乃至は底壁部によって周方向で相互に隔てられている。
【0055】
このような構造とされた仕切部材60は、流体室58に収容配置される。即ち、仕切部材60が第二の取付金具14の上側開口部から挿入されて、当接支持部68が第二の取付金具14の段差部38に対して重ね合わされる。これにより、仕切部材60が第二の取付金具14に対して軸方向で位置決めされて、仕切部材本体62の上端部及び蓋金具64が第二の取付金具14の大径筒部40の内周側に離隔位置せしめられると共に、仕切部材本体62の下部が小径筒部42の内周側に挿入される。そして、その後に、オリフィス部材48と本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品が、第二の取付金具14に対して上側開口部から挿入されると共に、第二の取付金具14に八方絞り等の縮径加工が施されることにより、仕切部材60が第二の取付金具14で固定的に支持されて、流体室58内で軸直角方向に広がるように配設されている。
【0056】
このように仕切部材60が流体室58内で軸直角方向に広がって配設されることにより、流体室58が仕切部材60を挟んだ両側に二分されており、仕切部材60を挟んだ一方の側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成された受圧室84が形成されていると共に、他方の側には、壁部の一部がダイヤフラム56で構成された平衡室86が形成されている。なお、本実施形態では、受圧室84が本体ゴム弾性体16の大径側端面に開口するように設けられた円形凹所34を利用して形成されていると共に、平衡室86が仕切部材本体62の下端中央部分に下方に向かって開口するように形成された中央凹所72によって、充分な容積をもって形成されるようになっている。
【0057】
また、仕切部材60が第二の取付金具14に組み付けられると、仕切部材本体62の外周部分が第二の取付金具14に対してシールゴム層44を介して流体密に重ね合わされて、仕切部材本体62に形成された第二周溝74の外周側開口部が第二の取付金具14で流体密に覆蓋される。
【0058】
さらに、第二周溝74の一方の端部には、連通孔88が形成されている。この連通孔88は、略一定の断面形状で形成されて、仕切部材本体62及び蓋金具64を貫通して軸方向上方に向かって直線的に延びている。そして、第二周溝74の一方の端部において、周方向に延びる第二周溝74に対して直角に交わるように接続されている。更にまた、第二周溝74の他方の端部には、仕切部材本体62を貫通して軸方向下方に向かって直線的に延びる連通部90が形成されている。
【0059】
これによって、第二周溝74と連通孔88と連通部90を利用して、周方向に一周弱の所定長さで延びて、受圧室84と平衡室86を相互に連通するオリフィス通路92が、仕切部材60に形成されている。このオリフィス通路92は、第二周溝74を利用して形成された長さ方向中間部分が、仕切部材60の広がる面である軸直平面上で周方向に延びている。
【0060】
さらに、オリフィス通路92は、連通孔88を利用して形成された一方の端部が、中間部分に対して直角を為して受圧室84側である軸方向上方に向かって延びて、受圧室84に連通されている。そして、オリフィス通路92の周方向一方の端面が、オリフィス通路92の底壁面に対して直角に立ち上がって広がる終端面93とされている。特に本実施形態において、終端面93は、仕切部材60の軸方向及び径方向に広がっており、周方向に延びるオリフィス通路92の長さ方向に対して略直交せしめられている。なお、終端面は、オリフィス通路の長さ方向に対して直交する方向に広がっていれば良く、例えば、オリフィス通路の受圧室84側端部付近が径方向に延びている場合には、終端面は、当該径方向に対して直交する方向で広がっていれば良い。更にまた、連通部90を利用して形成された他方の端部が、中間部分に対して直角を為して平衡室86側である軸方向下方に向かって延びて、平衡室86に連通されている。
【0061】
また、本実施形態において、オリフィス通路92は、エンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に軸方向で入力された場合に、有効な防振効果が発揮されるようにチューニングされている。なお、絞り通路54やオリフィス通路92のチューニング周波数は、絞り通路54やオリフィス通路92を通じて流動せしめられる流体の共振周波数として解されるものであって、絞り通路54やオリフィス通路92の通路長と通路断面積の比を適当に設定することによってチューニングすることが出来る。
【0062】
また、仕切部材60が流体室58に収容配置されると、可動ゴム板66の一方の面に受圧室84の液圧が及ぼされると共に、他方の面に平衡室86の液圧が及ぼされる。そして、可動ゴム板66は、受圧室84と平衡室86の相対的な圧力差に基づいて、軸方向での微小変位乃至は微小変形が許容されるようになっている。なお、本実施形態では、外周支持部76と中央支持部78の弾性変形によって、可動ゴム板66の微小変位が実現されるようになっている。
【0063】
このような構造とされた自動車用エンジンマウント10は、例えば、第一の取付金具12のボルト挿通孔22に挿通される図示しない取付ボルトが、自動車のパワーユニットに対して螺着されることにより、第一の取付金具12がパワーユニットに対して固定的に取り付けられるようになっている。更に、例えば、第二の取付金具14に外嵌固定される筒状ブラケット94に設けられた一対の取付片が、車両ボデーに対してボルト固定されること等により、第二の取付金具14が筒状ブラケット94を介して車両ボデーに対して固定的に取り付けられるようになっている。以上により、本実施形態に係る自動車用エンジンマウント10は自動車のパワーユニットと車両ボデーの間に介装されて、パワーユニットと車両ボデーがエンジンマウント10によって相互に防振連結されるようになっている。
【0064】
そして、エンジンマウント10の自動車への装着状態下において、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に軸直角方向である水平方向の振動が入力されると、一対の液室46,46間で相対的な圧力差が生ぜしめられる。そこにおいて、入力振動が自動車のエンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動の場合には、絞り通路54を通じて一対の液室46,46間で流体流動が生ぜしめられる。これにより、絞り通路54を通じて流動する流体の共振作用等の流動作用に基づく防振効果が発揮されるようになっている。
【0065】
また、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に軸方向である鉛直方向の振動が入力されると、受圧室84に内圧変動が及ぼされて、受圧室84と平衡室86の間で相対的な圧力差が生ぜしめられる。そこにおいて、入力振動が自動車のエンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動の場合には、両室84,86間の相対的な圧力差に基づいて、受圧室84と平衡室86の間でオリフィス通路92を通じて流体流動が生ぜしめられる。これにより、低周波数域にチューニングされたオリフィス通路92を通じて流動せしめられる流体の共振作用等の流動作用に基づいて、高減衰効果による有効な防振効果が発揮されるようになっている。
【0066】
なお、低周波大振幅振動の入力に際して、可動ゴム板66は、収容凹所70を利用して形成された収容領域の軸方向一方の内壁面に押し当てられて、変位が阻止されるようになっている。これにより、可動ゴム板66の微小変位による液圧吸収が防がれて、オリフィス通路92を通じての流体流動が有利に生ぜしめられるようになっている。特に本実施形態では、可動ゴム板66の径方向中間部分に、突出先端側に行くに従って狭幅となる複数条の緩衝当接部80が形成されており、可動ゴム板66の収容領域内壁面への当接を緩衝的に実現することが出来て、当接打音の発生を有利に低減することが出来る。
【0067】
また、軸方向での入力振動が、自動車の走行こもり音等に相当する高周波小振幅振動の場合には、受圧室84と平衡室86の相対的な圧力差によって、可動ゴム板66が軸方向で微小変位せしめられて、受圧室84に及ぼされる内圧変動が平衡室86側に逃される。そして、このような液圧吸収作用によって発揮される低動ばね作用に基づいて、高周波数域の振動入力時にも、振動絶縁効果による優れた防振性能が実現されるようになっている。
【0068】
ここにおいて、本実施形態に従う構造の自動車用エンジンマウント10では、オリフィス通路92に死水領域としての滞留領域95が形成される。この滞留領域95は、オリフィス通路92の受圧室84側端部が、第二周溝74で構成された中間部分に対して直角を為して延びる連通孔88で構成されていることによって、オリフィス通路92の中間部分と受圧室84側端部との接続部分の隅部において形成される。
【0069】
すなわち、オリフィス通路92を通じて封入流体が積極的に流動せしめられる場合には、流動流体の主たる流れは、オリフィス通路92の屈曲部分において、オリフィス通路92の壁面に沿うことが出来ずに壁面から剥離する。これにより、オリフィス通路92の受圧室84側の屈曲部分において、オリフィス通路92の底面と終端面93で構成された直交壁面と、剥離流線(図8中の二点鎖線)の間には、流体が、オリフィス通路92における流体の主たる流動方向(共振作用によってオリフィス通路92内を積極的に流動する流体の流動方向)に実質的に流下することなく、渦流を生じて第二周溝74と連通孔88の接続隅部に滞留する、滞留領域95(図8中の薄墨による着色領域)が形成される。
【0070】
なお、パイプ(ここでは、オリフィス通路92)中の流水断面の急拡縮等に際して、流れが壁面に沿うことが出来ずに剥離点で壁面から剥離し、この剥離流線と固定壁面との間に渦領域が発生してそこでは流体が回転するだけで流下せず、流水断面積がその分だけ減少したものと考えられる。そして、この剥離点から下流域の渦領域が死水領域として定義されている。
【0071】
また、図8においては、滞留領域95が薄墨を施すことによって明示されていると共に、流体の流動領域の境界(流動経路の内外限界)が二点鎖線によって示されている。また、上記の説明からも明らかなように、滞留領域95は、受圧室84及び平衡室86との間で流体の流入と流出が実質的に無い状態とされている。
【0072】
また、オリフィス通路92の受圧室84側端部には、オリフィス通路92の壁部の一部を構成する底壁部としての下壁部96が設けられている。下壁部96は、第二周溝74の受圧室84側端部における下側壁部であって、オリフィス通路92の壁部で軸方向の投影において連通孔88と重なる部分に設けられている。要するに、下壁部96は、オリフィス通路92において滞留領域95が形成される部分の底壁部である。
【0073】
また、下壁部96は、その一方の面が、連通孔88を通じて受圧室84に面していると共に、他方の面が、オリフィス通路92を外れた部分で平衡室86に対して直接に晒されている。換言すれば、下壁部96の一方の面に対して、連通孔88を通じて受圧室84内の圧力が及ぼされると共に、下壁部96の他方の面に対して、直接的に平衡室86内の圧力が及ぼされるようになっている。
【0074】
さらに、この下壁部96には、滞留領域95に開口するように短絡孔97が形成されている。短絡孔97は、軸方向に直線的に延びる円形の貫通孔であって、オリフィス通路92及び連通孔88よりも断面積が充分に小さくされている。
【0075】
また、短絡孔97は、連通孔88と接続される第二周溝74の一方の端部において、オリフィス通路92の底壁部の一部である第二周溝74の下壁部96を貫通して形成されている。そして、短絡孔97は、その一方の開口部が滞留領域95に向かって開口せしめられていると共に、他方の開口部が平衡室86に向かって開口せしめられている。換言すれば、短絡孔97は、一方の開口部が連通孔88を通じて受圧室84に開口せしめられていると共に、他方の開口部が直接的に平衡室86に開口せしめられている。
【0076】
要するに、短絡孔97は、図3,5,6に示されているように、連通孔88と軸方向で対向する位置に形成されており、本実施形態においては、短絡孔97が軸方向視で連通孔88の略中央に位置するように形成されている。
【0077】
また、後述する滞留領域95による遮断状態を有利に実現するために、好適には、直交壁面を構成する下壁部96において、短絡孔97の中心軸が、連通孔88の中心軸方向(図6中、上下)での投影領域内でオリフィス通路92の長さ方向の中央と終端面93の間に位置せしめられている。換言すれば、下壁部96において、短絡孔97の中心軸は、連通孔88の中心軸方向での投影領域内における周方向中央と、終端面93との間に位置せしめられることが望ましい。要するに、本実施形態では、図8において、一点鎖線で示された連通孔88の中心軸上乃至は中心軸よりも終端面93側である図中の左側に、短絡孔97の中心軸が位置していることが望ましい。なお、下壁部96における連通孔88の中心軸方向での投影領域内とは、下壁部96において、図3中で連通孔88を通じて視認可能な部分を言う。
【0078】
また、本実施形態においては、短絡孔97が軸方向視で連通孔88の中央に位置するように形成されているが、短絡孔97は受圧室84側の開口部が滞留領域95に開口するように形成されていれば良く、周方向でより端部壁面に接近した位置に形成されていても良い。また、短絡孔97は、その断面積が、好適には、オリフィス通路92の断面積の1/2〜1/100程度、より好適には、1/5〜1/50程度、更に好適には、1/10〜1/30程度とされている。なお、短絡孔97の直径は、好適には、2.5mm以上4mm以下とされており、本実施形態では、短絡孔97の直径が3mmとされている。
【0079】
そして、短絡孔97の一方の端部が、連通孔88を通じて受圧室84に開口せしめられると共に、他方の端部が平衡室86に開口せしめられることにより、受圧室84と平衡室86が短絡孔97を通じて相互に連通されるようになっており、オリフィス通路92よりも短い通路長で受圧室84と平衡室86を相互に連通する短絡通路が、短絡孔97によって形成されている。
【0080】
このような短絡孔97を備えたエンジンマウント10においては、例えば車両の段差乗越え等によって、衝撃的な大荷重が第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に軸方向で入力されると、受圧室84と平衡室86をオリフィス通路92よりも短い経路で相互に連通する短絡通路(短絡孔97)を通じて、両室84,86間での流体流動が生ぜしめられて、受圧室84と平衡室86の相対的な圧力差が可及的速やかに解消乃至は軽減される。
【0081】
これにより、受圧室84に及ぼされる負圧を軽減して、受圧室84内に封入された非圧縮性流体の気相分離によるキャビテーション現象とそれに伴う異音や振動の発生を、有利に低減乃至は回避することが出来る。また、受圧室84に過大な正圧が及ぼされることによる高動ばね化を防ぐことも出来て、目的とする防振性能を安定して実現することも可能となる。
【0082】
なお、本実施形態に従う構造のエンジンマウント10における異音や振動の低減効果は、図9に示されている伝達荷重を測定した測定結果からも確認することが出来る。即ち、図9には、短絡孔97を備えた本実施形態に係るエンジンマウント10(実施例)と、短絡孔97を形成していない従来構造のエンジンマウント(比較例)に同一の振動荷重を入力して、それぞれ伝達荷重を測定した。ここで、同一の振動荷重が入力された状態において、測定される伝達荷重値が大きくなるのは、キャビテーションに起因する水撃圧が生じているためであると考えられることから、本発明に係る実施例では、従来構造に係る比較例に比して、キャビテーションによる衝撃波を低減して、衝撃荷重が車室に伝達されることによって生じる異音や振動の問題を改善出来ることが、実測結果においても示されている。
【0083】
しかも、短絡孔97がオリフィス通路92の滞留領域95に向かって開口形成されていることにより、オリフィス通路92がチューニングされた防振対象振動の入力時には、短絡孔97が実質的な遮断状態とされて、オリフィス通路92を通じた流体流動を有効に生ぜしめることが出来る。
【0084】
すなわち、オリフィス通路92のチューニング周波数域の振動が入力されると、図8に示されているように、オリフィス通路92の滞留領域95を外れた領域において、流体が、充分に速い流速をもって積極的乃至は能動的にオリフィス通路92を通じて流動せしめられる。そして、共振作用によってオリフィス通路92を充分に速い流速で流動する流体の流れが、直角に屈曲せしめられたオリフィス通路92の受圧室84側端部において、オリフィス通路92の壁面から剥離することにより、該流体の流れとオリフィス通路92の壁面との間に滞留領域95が形成される。この滞留領域95が短絡孔97の受圧室84側開口部上に形成されることから、短絡孔97の受圧室84側の開口部が実質的に閉塞せしめられて、短絡孔97を通じた受圧室84と平衡室86の間での流体流動が実質的に無くなるようになっている。
【0085】
特に、短絡孔97が、受圧室84に対してオリフィス通路92の受圧室84側端部を通じて連通されていると共に、平衡室86に対して直接的に連通されていることにより、オリフィス通路92の防振対象振動が入力されると、短絡孔97の閉塞状態が有利に維持される。即ち、オリフィス通路92の防振対象振動が入力された状態では、オリフィス通路92を通じて流動する流体の流れを挟んで受圧室84と反対側に形成される滞留領域95に対して、受圧室84内の液圧が作用し難くなる。従って、滞留領域95の形成状態が安定して維持されて、短絡孔97の実質的な遮断状態が有効に実現される。
【0086】
なお、短絡孔97が実質的に遮断される、或いは短絡孔97を通じての流体流動が実質的に無くなるとは、短絡孔97を通じての流体流動量が、オリフィス通路92を通じての流体流動を充分に確保できる程度に少なくなることを言うものであって、目的とする防振性能を実現する上で問題とならない程度の流体流動が、短絡孔97を通じて生ぜしめられる場合も、本実施形態で言うところの短絡孔97の実質的な遮断状態や短絡孔97を通じた流体流動が無い状態に含まれる。
【0087】
換言すれば、このようなオリフィス通路92の共振状態においては、オリフィス通路92の流動抵抗が著しく低下して、オリフィス通路92を通じての流体流動が積極的に発現される。そして、このオリフィス通路92を通じて流動する流体の流れを隔てて受圧室84と反対側において滞留領域95が形成されて、短絡孔97が滞留領域95に開口せしめられる。このように、短絡孔97の受圧室84側の開口部が、受圧室84に対してオリフィス通路92を通じた共振状態の流れを隔てた位置に開口せしめられることにより、オリフィス通路92の共振状態下において、短絡孔97には、受圧室84の液圧が作用し難く、流動抵抗が大きくなる。従って、短絡孔97を通じての流体流動量が減少乃至は実質的に無くなることとなる。
【0088】
このように、本実施形態に係るエンジンマウント10において、オリフィス通路92の防振対象振動が入力された場合には、短絡孔97を通じて受圧室84内の液圧が平衡室86に逃されるのを防いで、オリフィス通路92を通じての流体流動量を充分に確保することが出来る。従って、オリフィス通路92を通じて流動せしめられる流体の流動作用に基づく高減衰効果を、有効に発揮せしめることが出来る。
【0089】
なお、図10には、本実施形態に係るエンジンマウント10において、軸方向入力振動に対して発揮される減衰効果の実測値が示されている。これによれば、本実施形態において車両特性上要求される3b(N・s/mm)以上の減衰効果が、有効に実現されている。このように、本発明に係る流体封入式防振装置では、短絡孔97の形成によっても、有効な防振効果を実現出来ることが、実測結果からも明らかである。
【0090】
以上のように、本実施形態に従う構造の自動車用エンジンマウント10では、チューニング周波数域の振動荷重が入力された場合におけるオリフィス通路92を通じた積極的な流体流動に着目することによって、オリフィス通路92上の特定部位において滞留領域95が積極的に形成されている。そして、この滞留領域95を巧く利用することにより、短絡孔97を連通状態と遮断状態に切り換える実質的な弁手段が実現されている。これにより、特別な弁部材を設けることなく、短絡孔97の連通状態と遮断状態を切り換えて、目的とする防振性能と、キャビテーション異音の防止を両立して実現することが可能となっている。
【0091】
すなわち、オリフィス通路92が予めチューニングされた防振対象荷重の入力時には、滞留領域95を利用することにより、短絡孔97を実質的な遮断状態として、目的とする高減衰効果を有効に得ることが出来る。一方、衝撃的な大荷重の入力時には、短絡孔97を通じて両室84,86間で流体が流動せしめられて、受圧室84内の圧力が著しく上昇或いは下降するのを防ぐことが出来ることから、異音乃至は振動の発生や防振性能の低下といった問題を解消することが出来るのである。
【0092】
なお、例えば、外周縁部を延びるオリフィス通路を外れた部分である径方向中央部分等において、仕切部材を貫通する短絡孔を形成した場合には、上記の如きオリフィス通路の流体流動を利用した滞留領域が、短絡孔の受圧室側開口部上に形成され得ないことから、短絡孔が常時連通状態とされる。それ故、オリフィス通路の防振対象振動が入力された場合にも、受圧室内の液圧が短絡孔を通じて平衡室側に逃されてしまう。従って、このような構造では、キャビテーション異音の低減を実現し得たとしても、防振対象振動に対する目的とする防振効果を両立して有効に得ることが出来ず、本発明による効果を充分に実現することが出来ないのである。
【0093】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0094】
例えば、短絡孔97の断面形状は、必ずしも円形である必要はない。また、必ずしも全長に亘って一定の断面形状で形成されている必要はなく、例えば、テーパ状の内周面を有して、何れか一方の端部側に向かって次第に拡開していても良い。また、前記実施形態においては、一つの短絡孔97が形成されているが、短絡孔は複数が形成されていても良く、例えば、小径の円形孔をオリフィス通路92の受圧室84側端部に複数形成しても良い。なお、複数の短絡孔を形成する場合には、それら複数の短絡孔の断面積の合計が、オリフィス通路92の断面積よりも小さくされる。
【0095】
また、前記実施形態に示された仕切部材60は、仕切部材の具体的な構造の一例を示すに過ぎず、何等限定的に解釈されるものではない。
【0096】
具体的には、例えば、図11に示されている仕切部材98を採用することも出来る。より詳細には、仕切部材98には、外周面に開口して周方向に一周弱の長さで延びる上段周溝100が形成されている。この上段周溝100の周方向一方の端部には、上側壁部を貫通して直線的に延びる連通孔88が形成されている。また、仕切部材98の外周縁部には、上段周溝100に対して軸方向下方に所定距離を隔てて、下段周溝102が形成されている。下段周溝102は、上段周溝100と同様に、仕切部材98の外周面に開口して周方向に一周弱の長さで延びており、周方向一方の端部には、下側壁部を貫通する連通部90が形成されている。
【0097】
それら上段周溝100と下段周溝102は、周方向他方の端部で相互に接続されて、全体として中間部分で折り返して周方向に二周弱の長さで延びる周溝104が構成されている。そして、仕切部材98が、前記実施形態に示された仕切部材60と同様に、第二の取付金具14に内挿されて嵌着固定されることにより、周溝104の外周側開口部が第二の取付金具14によって流体密に覆蓋されて、周方向に二周弱の所定長さで延びて、受圧室84と平衡室86を相互に連通するオリフィス通路106が、周溝104と連通孔88と連通部90を利用して形成されている。
【0098】
ここにおいて、上段周溝100の周方向一方の端部における下壁部96には、平衡室86に開口する連通凹所108が形成されている。この連通凹所108は、短絡孔97及び連通孔88よりも断面積が大きくされており、連通凹所108の内周側の領域が実質的に平衡室86の一部を構成している。また、連通凹所108が形成されることによって、オリフィス通路106の受圧室84側端部における下壁部96の壁厚さが薄肉となっている。そして、薄肉とされた下壁部96に短絡孔97が形成されており、短絡孔97が、連通孔88を通じて受圧室84に連通されていると共に、平衡室86の一部である連通凹所108に連通されている。なお、下段周溝102は、図11に示されているように、連通凹所108の形成領域を外れた部分に形成されている。
【0099】
また、例えば、図12に示されているような仕切部材110を採用することも出来る。この仕切部材110は、図11に示された仕切部材98に比して、下段周溝102が、周方向中間部分で折り返されて周方向に二周弱の長さで延びており、オリフィス通路106が、周方向に二周以上の長さで形成されている。
【0100】
これら図11,12に示された構造の仕切部材98,110を備えた流体封入式防振装置においても、通常の防振対象振動が入力された際における目的とする防振性能の実現と、衝撃的な大荷重が入力された際におけるキャビテーション異音の低減乃至は解消を、何れも有効に実現することが出来る。なお、図11,12に示された構造を説明するに際して、前記実施形態と実質的に同一の部材乃至部位については、前記実施形態と同一の符号を付すことにより、説明を省略する。また、図11,12に記載の仕切部材98,110は、前記実施形態に記載の仕切部材60と同様に、自動車用エンジンマウント等の流体封入式防振装置に採用されて、受圧室84と平衡室86を仕切るように配設される。
【0101】
また、図11,12に示された仕切部材98,110では、連通凹所108を形成することによって、オリフィス通路106の受圧室84側端部における下壁部96の厚さを抑えて、仕切部材98,110の軽量化が実現されている。更に、連通凹所108に開口するように短絡孔97を形成することによって、短絡孔97の通路長が冗長になるのを防ぐことが出来る。
【0102】
要するに、オリフィス通路は、一周以上の長さで延びるように形成されていても良く、その場合には、オリフィス通路98,110の下壁部96が、その一方の面が、連通孔88を通じて受圧室84に対して直接に面するようにされていると共に、その他方の面が、連通凹所108を通じる等して、オリフィス通路98,110を外れた部分で平衡室86に対して直接に面するようにされており、下壁部96に貫通形成された短絡孔97が受圧室84と平衡室86に対して面する各壁面にそれぞれ開口せしめられるようになっている。
【0103】
また、前記実施形態においては、本発明に係る流体封入式防振装置の一種として、軸直角方向の振動入力に対して有利に防振効果を得られるように、軸直角方向で対向して形成された一対の液室46,46と、それら液室46,46を相互に連通する絞り通路54を形成するオリフィス部材48とを備えた構造のエンジンマウント10が示されている。しかしながら、本発明に係る流体封入式防振装置において、このような軸直角方向での振動入力に際して有効な防振効果を発揮する液室46,46や絞り通路54は、必須ではない。具体的には、例えば、特公平6−105095号公報の図1に記載されているように、非圧縮性流体の封入領域として、仕切部材を挟んだ両側に形成された一組の受圧室と平衡室を有すると共に、それら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路を備えた、一般的な構造の流体封入式防振装置にも、本発明は適用可能である。
【0104】
さらに、前記実施形態では、本体ゴム弾性体16の外周面に加硫接着された中間スリーブ24に対して第二の取付金具14を外嵌固定することにより、第二の取付金具14を本体ゴム弾性体16に対して間接的に固定しているが、第二の取付金具14を直接的に本体ゴム弾性体16に加硫接着せしめても良い。更にまた、仕切部材において、可動ゴム板66等の液圧吸収機構は、要求される防振性能に応じて適宜選択されて設けられるものであり、異なる構造の液圧吸収用デバイスが設けられていても良いし、液圧吸収機構を備えていなくても良い。
【0105】
また、前記実施形態におけるオリフィス通路92は、周方向に延びているが、オリフィス通路は、必ずしも周方向に延びるように形成されていなくても良い。具体的には、例えば、径方向に直線的に延びていたり、螺旋状に延びていたりしても良い。更に、オリフィス通路92では、その中間部分の全体が、仕切部材60の広がる面上において延びるように形成されているが、オリフィス通路は、少なくとも、連通孔88との接続部分である受圧室84側端部において、仕切部材60の広がる面方向に延びていれば良く、中間部分において軸方向や軸方向に傾斜した方向に延びる部分を有していても良い。なお、ここで言う仕切部材60の広がる面方向とは、前記実施形態における軸直角方向であって、受圧室84と平衡室86を仕切る仕切部材60が広がる平面方向、換言すれば仕切部材60を挟んで対向位置する受圧室84と平衡室86の対向方向に対して直交する方向を意味する。
【0106】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の一実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面図であって、図2におけるI−I線断面図。
【図2】図1におけるII−II線断面図。
【図3】図1に示されたエンジンマウントを構成する仕切部材を示す平面図。
【図4】図3に示された仕切部材の底面図。
【図5】図3に示された仕切部材の側面図。
【図6】図3におけるVI−VI線断面図。
【図7】図3に示された仕切部材を概略的に示す斜視図。
【図8】図1に示されたエンジンマウントの要部をモデル的に示す説明図。
【図9】図1に示されたエンジンマウントの異音レベルの測定値を示すグラフ。
【図10】図1に示されたエンジンマウントの減衰性能の測定値を示すグラフ。
【図11】本発明の別の一実施形態としてのエンジンマウントを構成する仕切部材を概略的に示す斜視図。
【図12】本発明のまた別の一実施形態としてのエンジンマウントを構成する仕切部材を概略的に示す斜視図。
【符号の説明】
【0108】
10:自動車用エンジンマウント,12:第一の取付金具,14:第二の取付金具,16:本体ゴム弾性体,56:ダイヤフラム,58:流体室,60:仕切部材,84:受圧室,86:平衡室,88:連通孔,92:オリフィス通路,93:終端面,95:滞留領域,96:下壁部,97:短絡孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動伝達系を構成する部材間に配設されて、それら振動伝達系を構成する部材を相互に防振連結乃至は防振支持せしめる防振装置に係り、特に、内部に封入された非圧縮性流体の流動作用に基づく防振効果を利用する流体封入式防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、自動車のパワーユニットと車両ボデーのような防振対象部材間に装着されて、それら防振対象部材を相互に防振支持乃至は防振連結せしめる防振装置の一種として、内部に非圧縮性流体を封入して、封入流体の流動作用に基づく防振効果を利用した流体封入式防振装置が知られている。かかる流体封入式防振装置としては、例えば、第一の取付部材を筒状の第二の取付部材の軸方向一方の開口部側に離隔配置して、それら第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で相互に弾性連結すると共に、第二の取付部材の軸方向他方の開口部を覆蓋するように可撓性膜を配設することで、第二の取付部材の内周側の領域において本体ゴム弾性体と可撓性膜の対向面間に、外部空間から隔離されて非圧縮性流体が封入された流体室を形成する一方、第二の取付部材で支持される仕切部材を流体室内に配設して、仕切部材を挟んだ軸方向一方の側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成された受圧室を形成すると共に、仕切部材を挟んだ軸方向他方の側には、壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室を形成し、更に、仕切部材には、それら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路を形成した構造のものがある。
【0003】
このような流体封入式防振装置においては、防振対象荷重が第一の取付部材と第二の取付部材の間に及ぼされると、壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成された受圧室に内圧変動が惹起されて、容積変化が許容されて内圧が略一定に維持される平衡室との間に相対的な圧力差が生ぜしめられる。そして、両室間でオリフィス通路を通じての流体流動が生ぜしめられて、流体の共振作用等の流動作用に基づく防振効果が発揮されるようになっている。
【0004】
ところで、流体封入式防振装置では、第一の取付部材と第二の取付部材の間に衝撃的な荷重が入力された場合に、異音や振動が発生するという問題があった。この異音や振動は、大荷重の入力に伴って受圧室内が負圧になることによるキャビテーション現象に起因するものと考えられており、車室内の静粛性や乗り心地に悪影響を及ぼすことから解決の方法が様々に模索されている。
【0005】
このようなキャビテーション異音の問題を解決する手段として、例えば、受圧室と平衡室を相互に連通する短絡孔を設けることが提案されている。即ち、問題となる異音や振動は、受圧室内の圧力低下によって引き起こされることから、受圧室と平衡室をオリフィス通路よりも短い通路長さで相互に連通する短絡孔を形成することにより、オリフィス通路を通じた流体の流動が追従し切れない場合にも、短絡孔を通じて平衡室から受圧室へ流体が移動せしめられる。これにより、受圧室内の負圧が速やかに解消されて、かかる負圧に起因すると考えられる異音や振動の発生を防ぐことができる。
【0006】
ところが、このような短絡孔を設けた流体封入式防振装置では、防振対象振動の入力に際して、防振性能の低下が問題となるおそれがあった。即ち、短絡孔が常時連通状態で形成されていることにより、防振対象振動の入力時にも、短絡孔を通じて受圧室と平衡室の間で流体が流動せしめられる。それ故、オリフィス通路を通じての流体流動量が十分に得られず、オリフィス通路による防振性能が大幅に低下するおそれがあった。
【0007】
そこで、このような問題を解決するために、例えば、特許文献1(特開2007−100875号公報)には、オリフィス通路よりも短い通路長さで受圧室と平衡室を相互に連通させ得る短絡路を形成すると共に、短絡路の受圧室側開口部を本体ゴム弾性体を利用して構成された弁体によって、連通状態と遮断状態に切り換えることが出来る流体封入式防振装置が示されている。これによれば、キャビテーションが問題となる衝撃的な大荷重の入力時には、弁体を開作動せしめて、短絡路を連通状態とすることにより、短絡路を通じて流体を両室間で流動せしめて、受圧室内の負圧が速やかに解消されるようになっている。しかも、防振対象荷重の入力時には、弁体によって短絡路を閉塞せしめることにより、受圧室内の液圧が短絡路を通じて平衡室側に逃げるのを防いで、オリフィス通路を通じての流体流動を有効に惹起せしめることが出来、キャビテーション異音の低減乃至は回避が実現されるようになっている。
【0008】
しかしながら、特許文献1等に示されているように、短絡路を開閉させる弁体を備えた構造の流体封入式防振装置では、長期に亘って繰り返し作動せしめられる弁体の耐久性が問題となり易い。更に、特定の荷重入力によって短絡路の連通状態と遮断状態を高精度に切り換え得るように弁体の作動をチューニングするのは、極めて困難な場合があった。また、弁体が特別に設けられている場合には、部品点数の増加や構造の複雑化も問題となり易く、簡易な構造と少ない部品点数で、防振対象振動に対する有効な防振効果と、キャビテーション異音の低減乃至は回避を、両立して実現し得る流体封入式防振装置が求められていたのである。
【0009】
【特許文献1】特開2007−100875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、部品点数の少ない簡単な構造で、防振対象振動の入力に際して目的とする防振効果が有効に発揮されると共に、衝撃的な大荷重の入力に際しては、受圧室内の圧力変動を抑えて、受圧室内の負圧に起因すると考えられる異音や振動が低減乃至は回避される、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意な組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0012】
すなわち、本発明は、第一の取付部材が筒状部を備えた第二の取付部材の一方の開口部側に配置されると共に、それら第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で相互に連結されて、該第二の取付部材の一方の開口部が該本体ゴム弾性体で閉塞されていると共に、該第二の取付部材の他方の開口部が可撓性膜で閉塞されて、該第二の取付部材の内周側においてそれら本体ゴム弾性体と可撓性膜の対向面間に外部空間から隔てられて非圧縮性流体が封入された流体室が形成されている一方、該流体室には仕切部材が該第二の取付部材で支持されて配設されており、該仕切部材を挟んだ一方の側に壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成された受圧室が形成されると共に、該仕切部材を挟んだ他方の側に壁部の一部が該可撓性膜で構成された平衡室が形成されて、更に、それら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路が該仕切部材に形成された流体封入式防振装置において、前記オリフィス通路の一方の端部側が前記仕切部材の広がる面方向で延びていると共に、該オリフィス通路の該一方の端部から直角に屈曲して前記受圧室に向かって開口する連通孔が形成されており、該オリフィス通路の該一方の端部が該連通孔を通じて該受圧室に連通されていることにより、該オリフィス通路の該受圧室側開口部分では該オリフィス通路の延びる方向に対して直角に立ち上がる該オリフィス通路の終端面が形成されて該オリフィス通路と該連通孔との接続隅部において該オリフィス通路の底面と終端面との直交壁面で死水領域が形成されている一方、該死水領域の直交壁面を構成する該オリフィス通路の該一方の端部における底壁部がその一方の面において該連通孔を通じて該受圧室に直接に臨まされていると共に、該底壁部の他方の面が該オリフィス通路を外れた部分で前記平衡室に対して直接に晒されており、かかる底壁部において該オリフィス通路および該連通孔よりも小さな断面積の短絡孔が形成されて、該受圧室と該平衡室が該オリフィス通路の該死水領域において該短絡孔により連通されていることを特徴とする。
【0013】
このような本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、オリフィス通路の受圧室側開口部分において、オリフィス通路の底壁部に短絡孔が形成されており、受圧室と平衡室が短絡孔によって連通されている。これにより、第一の取付部材と第二の取付部材の間に衝撃的な大荷重が入力された場合には、短絡孔を通じて両室間で流体が流動せしめられることにより、受圧室に過大な圧力変動が及ぼされるのを防いで、受圧室の圧力低下に伴うキャビテーション現象に起因すると考えられる異音や振動を低減乃至は回避することが出来る。
【0014】
さらに、オリフィス通路の一方の端部側が仕切部材の広がる面方向に延びていると共に、連通孔がオリフィス通路の一方の端部から直角に屈曲して受圧室に向かって開口する連通孔が形成されていることにより、オリフィス通路の一方の端部と連通孔との接続隅部には、流体が滞留せしめられる死水領域が形成されている。更に、短絡孔が、死水領域に開口するように形成されている。
【0015】
そして、オリフィス通路がチューニングされた周波数域の振動荷重が入力された際には、オリフィス通路を通じて積極的な流体流動が生ぜしめられることにより、死水領域に開口する短絡孔が実質的な遮断状態とされて、封入流体が受圧室と平衡室の間で短絡孔を通じて流動せしめられるのを防ぐことが出来る。これにより、防振対象振動の入力時には、オリフィス通路を通じて充分な流体流動を生ぜしめることが出来て、流体の流動作用に基づく防振効果を有効に得ることが可能となっている。
【0016】
要するに、本発明に係る流体封入式防振装置によれば、通常の荷重入力時における充分な防振性能と、衝撃的な大荷重入力時におけるキャビテーション異音の抑制を、両立して有利に実現することが出来るのである。
【0017】
しかも、本発明において、短絡孔の実質的な連通状態と遮断状態の切換えは、短絡孔を特定の位置に形成して、オリフィス通路を流動する流体の共振時における流動経路を巧く利用することによって、実現されている。それ故、本発明によれば、上記の如き目的とする防振性能とキャビテーション異音の解消が、弁手段として特別な部材を設けることなく、少ない部品点数で、且つ、簡単な構造をもって実現される。
【0018】
なお、オリフィス通路の壁部の一部に短絡孔を形成する構造は、例えば、特表昭62−501868号公報や特公平6−105095号公報等にも示されている。しかし、これらの特許出願に係る発明は、あくまでもオリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波数の振動が入力された場合における低動ばね効果を実現するために、オリフィス通路の壁部に短絡孔を形成したものであって、衝撃的な荷重入力時におけるキャビテーションによる異音の低減と、防振対象振動の入力時における有効な防振性能を、簡易な構造で両立して実現するという本発明の解決すべき課題については、何等の示唆も為されていない。要するに、これらの先願特許に係る発明は、本発明とは全く違う課題を解決すべく提案されたものであって、発明の思想においてさえ本発明とは大きく異なっているのである。
【0019】
そして、このように基本的技術思想が異なる上記二つの先願特許に係る発明は、何れも本発明が特徴とする構造を備えていないのである。以下に、本発明の特徴的な構造であって、上記二つの先願特許に係る発明が備えていない構造について付言する。
【0020】
先ず、本発明においては、連通孔がオリフィス通路の端部から直角に延びるように形成されている。これにより、本発明では、連通孔とオリフィス通路の接続隅部において、オリフィス通路内の流れがオリフィス通路の壁面から剥離し易くなっており、オリフィス通路の底面と終端面との直交平面によって死水領域が積極的に形成されるようになっている。そして、死水領域を巧く使うことによって、受圧室内の圧力が短絡孔に対して直接的に作用するのを効果的に抑えて、短絡孔の実質的な連通状態と遮断状態の切換えが実現されるようになっている。
【0021】
一方、特表昭62−501868号公報には、オリフィス通路の受圧室側端部(連通孔)が、オリフィス通路の一方の端部から鈍角に屈曲して受圧室側に向かって延びるように形成された構造が示されている。このように連通孔とオリフィス通路が鈍角に屈曲せしめられていると、オリフィス通路内において流体が壁面に沿って流れ易く、連通孔とオリフィス通路の接続隅部において死水領域が形成され難い。
【0022】
以上より明らかなように、オリフィス通路に対して直角を為す連通孔を形成するという特定構造を採用して、死水領域を積極的に形成すると共に、死水領域を巧く利用して、受圧室内の圧力が短絡孔に対して直接的に作用するのを効果的に抑えるという本発明の基本的技術思想は、特表昭62−501868号公報に開示されていない。
【0023】
次に、本発明では、短絡孔が形成されるオリフィス通路の底壁部における一方の面が、連通孔を通じて受圧室に臨まされると共に、他方の面が、平衡室に対して直接に晒されており、オリフィス通路の受圧室側端部である連通孔と、平衡室が、短絡孔を通じて相互に連通されるようになっている。そして、オリフィス通路の共振状態においては、短絡孔の一方の開口部が、死水領域によって実質的に閉塞されると共に、短絡孔の他方の開口部が、略一定の圧力に維持される平衡室に対して直接に開口せしめられることにより、オリフィス通路の短絡が防止されているのであって、オリフィス通路を通じて流動する流体の流動作用に基づく防振効果が安定して発揮せしめられるようになっている。
【0024】
一方、特公平6−105095号公報においては、短絡孔の一方の開口部がオリフィス通路の受圧室側端部内に開口せしめられていると共に、他方の開口部がオリフィス通路の平衡室側端部内に開口せしめられている。これにより、オリフィス通路の長さ方向中間部分が短絡孔によって連通されており、オリフィス通路の実質的な通路長さが、短絡孔を通じての流体流動によって変化せしめられて、中乃至高周波数域の振動入力時において、低動ばね効果が発揮されるようになっている。
【0025】
しかしながら、このようにオリフィス通路自体が短絡孔によって短絡される構造を採用すると、オリフィス通路の共振状態下においても、オリフィス通路を通じて流動する流体の流動方向に沿った方向では、短絡孔を通じての流体流動が生じ易く、オリフィス通路のチューニング周波数が変化して、目的とする防振効果が有効に得られないおそれがある。
【0026】
要するに、特公平6−105095号公報に記載の構造では、短絡孔がオリフィス通路内の両端部付近に開口せしめられていることから、オリフィス通路の共振状態下では、短絡孔の両側開口部に対して相対的な圧力差が及ぼされる。そして、この相対的な圧力差によって、短絡孔に圧力勾配が生じて、短絡孔を通じての流体流動が生じ易くなる。一方、本発明では、オリフィス通路の共振状態下において、短絡孔の一方の開口部が、死水領域を介して受圧室に向かって開口せしめられていると共に、他方の開口部が、平衡室に対して直接に開口せしめられている。それ故、短絡孔の両側開口部に対して及ぼされる相対的な圧力差が抑えられて、短絡孔を通じての流体流動が効果的に防がれるようになっている。
【0027】
従って、特公平6−105095号公報に示された発明では、短絡孔が形成されることにより、流体封入式防振装置本来の防振効果が安定して得られ難く、仮にキャビテーション異音の低減効果が得られたとしても、目的とする防振性能との両立が困難であった。それに対して、本発明は、キャビテーション異音の低減効果と防振装置本来の防振性能を、両立して実現することを目的としているのであって、特公平6−105095号公報に示された発明とは、別異の着想に基づいて為されていることが明らかである。
【0028】
また、本発明に係る流体封入式防振装置では、前記死水領域の直交壁面を構成する前記オリフィス通路の前記一方の端部における底壁部において、前記短絡孔の中心軸が、前記連通孔の中心軸方向での投影領域内で該オリフィス通路の長さ方向の中央と前記終端面との間に位置せしめられていることが望ましい。
【0029】
これによれば、短絡孔が、連通孔の中心軸方向での投影領域内で、オリフィス通路の長さ方向の中央と終端面の間に位置するように形成されることで、短絡孔の受圧室側開口部が、終端面と底面との直交壁面で形成される死水領域に、安定して開口せしめられる。従って、短絡孔に対して受圧室の圧力が直接的に作用するのを有利に防ぐことが出来る。
【0030】
また、本発明に係る流体封入式防振装置においては、前記仕切部材の外周部分を周方向に一周以下の長さで延びるようにして前記オリフィス通路が形成されており、該オリフィス通路の周方向一方の端部において、該オリフィス通路における前記受圧室側の壁部を貫通して前記連通孔が形成されていると共に該オリフィス通路における前記平衡室側の壁部を貫通して前記短絡孔が形成されていても良い。このようにして本発明に従う構造を実現することにより、オリフィス通路の長さの設定自由度が大きくなって、目的とする防振性能とキャビテーション異音の低減効果の両立を、有効に実現することが可能となる。
【0031】
一方、本発明に係る流体封入式防振装置においては、前記仕切部材の外周部分を周方向に一周以下の長さで延びる上段周溝を設けて、該上段周溝の周方向一方の端部における前記受圧室側の壁部を貫通して前記連通孔を形成すると共に、該上段周溝の周方向一方の端部における前記平衡室側の壁部には該平衡室側に開口する連通凹所を形成して該平衡室側の壁部厚さを薄くしそこに前記短絡孔を形成する一方、該仕切部材の外周部分における該上段周溝よりも該平衡室側の領域には、該連通凹所の形成領域を外れた周上の一周以下の領域で該上段周溝の周方向他方の端部から折り返して周方向に延びる下段周溝を形成し、該下段周溝の端部を該平衡室に連通せしめることにより、それら上段及び下段の周溝によって前記オリフィス通路を形成しても良い。
【0032】
このような構造を採用することにより、上下で少なくとも二段とされたオリフィス通路を備える流体封入式防振装置にも本発明を適用することが出来て、上記の如き通常振動入力時の防振性能と、衝撃荷重入力時のキャビテーションによる異音や振動の低減乃至は回避を両立して実現することが出来る。しかも、短絡孔が形成される部分におけるオリフィス通路の壁部厚さが、連通凹所によって薄肉とされていることにより、仕切部材の質量が必要以上に大きくなるのを防ぐことが出来ると共に、短絡孔の通路長を短くすることで、受圧室内の過大な圧力変動がより速やかに解消されるようになっている。
【0033】
また、上述のように、仕切部材の外周部分にオリフィス通路を形成することにより、仕切部材の中央部分において、可動膜や可動板等による液圧吸収機構を設けることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0035】
先ず、図1,図2には、本発明に係る流体封入式防振装置の一実施形態として、自動車用エンジンマウント10が示されている。この自動車用エンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12が筒状の第二の取付部材としての第二の取付金具14の軸方向上側の開口部付近に離隔配置されると共に、それら第一,第二の取付金具12,14が本体ゴム弾性体16で相互に連結された構造を有している。なお、以下の説明において、上下方向とは、第二の取付金具14の軸方向である図1中の上下方向を言うものとする。
【0036】
より詳細には、第一の取付金具12は、中実で直線的に延びる小径のロッド形状を有しており、鉄やアルミニウム合金等の高剛性の材料で形成されている。また、第一の取付金具12は、円形断面を有して軸方向に延びる固着部18の上端部に、上方に向かって突出する板状の取付部20が一体形成された構造を有している。また、取付部20の上端部分には、取付部20を厚さ方向で貫通する円形のボルト挿通孔22が形成されている。なお、第一の取付金具12は、第一の取付部材の一例であって、例えば、固着部18の上端部から上方に向かって突出する取付ボルトが一体形成された構造の第一の取付部材等も、採用可能である。
【0037】
また、第一の取付金具12の外周側には、中間スリーブ24が配設されている。中間スリーブ24は、薄肉大径の略円筒形状を有しており、本実施形態では、鉄やアルミニウム合金等の金属材で形成されている。また、中間スリーブ24の軸方向中間部分には、図中に明示されてはいないが、段差部が形成されており、中間スリーブ24において該段差部を挟んだ上側部分が大径部26とされていると共に、下側部分が小径部28とされて、中間スリーブ24が全体として段付き円筒形状を呈している。更に、中間スリーブ24の軸方向中間部分には、一対の窓部30,30が形成されている。この窓部30は、径方向一方向で対向する部分にそれぞれ形成されており、中間スリーブ24の周壁を貫通している。また、本実施形態において、窓部30は、周方向で半周弱の長さで開口形成されている。なお、本実施形態では、窓部30が上記段差部を跨いで形成されており、窓部30の上端部が大径部26に至ると共に、下端部が小径部28に至るように形成されている。
【0038】
また、第一の取付金具12が中間スリーブ24に対して同一中心軸上に配設されて、固着部18が中間スリーブ24の上側開口部から挿し入れられる。これにより、第一の取付金具12は、固着部18が中間スリーブ24の内周側に径方向で所定距離を隔てて位置せしめられると共に、取付部20が中間スリーブ24から上方に突出せしめられる。
【0039】
そして、径方向で相互に離隔して配置された第一の取付金具12と中間スリーブ24の間には、本体ゴム弾性体16が介装されて、それら第一の取付金具12と中間スリーブ24が本体ゴム弾性体16で相互に連結されている。本体ゴム弾性体16は、全体として厚肉の略円形ブロック形状を有している。更に、本体ゴム弾性体16には、その中心軸上を延びるようにして第一の取付金具12の固着部18が挿し入れられて、第一の取付金具12が本体ゴム弾性体16の上端部分に加硫接着されていると共に、中間スリーブ24の内周面が本体ゴム弾性体16の外周面に重ね合わされて加硫接着されている。要するに、本実施形態において、本体ゴム弾性体16は、第一の取付金具12と中間スリーブ24を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0040】
また、本体ゴム弾性体16の上端部には、上方に向かって開口するすぐり部32が形成されている。このすぐり部32は、上方に向かって開口する凹所状であって、径方向中央側に行くに従って軸方向での深さが大きくなっている。このようなすぐり部32が形成されることにより、本体ゴム弾性体16の上端面が径方向中央側に向かって下傾するテーパ面とされている。更に、本体ゴム弾性体16の下端部には、下方に向かって開口する円形凹所34が形成されている。円形凹所34は、開口部に向かって次第に大径となる逆向きの略すり鉢形状を呈している。
【0041】
更にまた、本体ゴム弾性体16には、一対のポケット部36,36が形成されている。ポケット部36,36は、第一の取付金具12の固着部18を挟んで径方向一方向で対向位置するように形成されており、本体ゴム弾性体16の外周面に開口せしめられている。また、ポケット部36,36は、それぞれ、外周側に行くに従って次第に軸方向開口幅が大きくなる拡開形状をもって、周方向半周弱の長さで形成されて、中間スリーブ24に形成された一対の窓部30,30を通じて外周面に開口せしめられている。なお、本実施形態では、本体ゴム弾性体16で構成されたポケット部36の軸方向上壁部が軸方向下壁部よりも薄肉とされている。
【0042】
また、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品には、第二の取付金具14が嵌め付けられている。第二の取付金具14は、全体として薄肉大径の略段付き円筒形状を有しており、段差部38を挟んで軸方向上側が大径筒部40とされていると共に、軸方向下側が小径筒部42とされている。また、第二の取付金具14の内周面は、薄肉のゴム弾性体で形成されたシールゴム層44によって略全体が覆われている。そして、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品が第二の取付金具14の大径筒部40に対して内挿された状態で、第二の取付金具14に対して八方絞り等の縮径加工を施すことにより、第二の取付金具14が中間スリーブ24に対して外嵌固定されている。なお、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品は、中間スリーブ24が第二の取付金具14の段差部38に対して上方から重ね合わされることにより、第二の取付金具14に対して軸方向で位置決めされるようになっている。
【0043】
このように、第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に対して組み付けられることによって、本体ゴム弾性体16の外周面に開口せしめられたポケット部36,36の開口部が、第二の取付金具14によって流体密に閉塞されている。これにより、一対のポケット部36,36を利用して、非圧縮性流体が封入された一対の液室46,46が、径方向一方向で対向位置して形成されている。なお、液室46,46に封入される非圧縮性流体としては、特に限定されるものではないが、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油,それらの混合液等が好適に採用され、特に後述する流体の流動作用に基づく防振効果を有効に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体が望ましい。また、液室46,46への非圧縮性流体の封入は、第二の取付金具14の中間スリーブ24への嵌着を、非圧縮性流体中で行うことにより、有利に実現出来る。また、本実施形態において、一対の液室46,46は、何れも、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されており、軸直角方向での荷重入力時に内圧変動が及ぼされるようになっている。
【0044】
さらに、中間スリーブ24の小径部28と第二の取付金具14の径方向対向面間には、オリフィス部材48が嵌め付けられている。オリフィス部材48は、図1,図2に示されているように、全体として大径の円筒形状を有しており、鉄やアルミニウム合金等の金属材や硬質の合成樹脂材で形成されている。また、オリフィス部材48には、上下で離隔して周方向にそれぞれ一周弱の長さで延びる凹溝が形成されており、それら凹溝の周方向一方の端部が相互に接続されて、周方向に二周弱の長さで延びる第一周溝50が形成されている。
【0045】
そして、オリフィス部材48が、中間スリーブ24の段差部と、第二の取付金具14の段差部38との軸方向間において、中間スリーブ24と第二の取付金具14の径方向対向面間に配設されている。かかる配設状態において、オリフィス部材48の外周面は、シールゴム層44を介して第二の取付金具14に対して密着されており、第一周溝50の開口部が第二の取付金具14によって覆われて流体密に閉塞されている。また、第一周溝50の一方の端部が連通路52を通じて一方の液室46に連通されていると共に、他方の端部が図示しない連通路を通じて他方の液室46に連通されている。これによって、一対の液室46,46を相互に連通する絞り通路54が、第一周溝50を利用して形成されている。なお、本実施形態において、絞り通路54は、軸直角方向でエンジンシェイクに相当する振動荷重が入力された場合に、流体の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮されるようにチューニングされている。
【0046】
また、第二の取付金具14の上端開口部が本体ゴム弾性体16で閉塞されていると共に、第二の取付金具14の下端部には、可撓性膜としてのダイヤフラム56が固着されている。ダイヤフラム56は、薄肉の略円板形状を有するゴム膜で形成されており、充分な弛みを有して、弾性変形が容易に許容されるようになっている。なお、本実施形態におけるダイヤフラム56は、径方向中央部分が厚肉とされている。そして、ダイヤフラム56は、第二の取付金具14の下端部に設けられた小径筒部42に加硫接着されており、第二の取付金具14の下端開口部がダイヤフラム56で閉塞されている。本実施形態では、ダイヤフラム56が第二の取付金具14の内周面を覆うように形成されたシールゴム層44と一体形成されている。なお、本実施形態では、ダイヤフラム56が第二の取付金具14に対して直接に加硫接着されているが、例えば、略円環形状の固定金具の内周面にダイヤフラム56の外周面が加硫接着されて、該固定金具が第二の取付金具14の下端部に嵌着固定されることにより、ダイヤフラム56が第二の取付金具14の下端部を覆うように配設されていても良い。
【0047】
このように、第二の取付金具14の上端開口部が本体ゴム弾性体16で流体密に閉塞されると共に、第二の取付金具14の下端開口部がダイヤフラム56で流体密に閉塞されることにより、第二の取付金具14の内周側の領域において、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム56の軸方向対向面間には、外部空間及び一対の液室46,46から隔てられた流体室58が形成されている。この流体室58には、一対の液室46,46に封入された非圧縮性流体と同様の流体が封入されている。なお、例えば、第二の取付金具14を備えたダイヤフラム56の一体加硫成形品を、非圧縮性流体を充たした水槽中で、中間スリーブ24を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に対して嵌着固定することにより、流体室58への非圧縮性流体の封入を容易に実現することが出来る。
【0048】
さらに、流体室58には、仕切部材60が収容配置されている。仕切部材60は、図3〜7に示されているように、全体として厚肉の略円板形状を有しており、仕切部材本体62と蓋金具64と可動ゴム板66を備えている。
【0049】
仕切部材本体62は、厚肉の略円板形状を有しており、本実施形態では鉄やアルミニウム合金等の高剛性の金属材で形成されている。なお、仕切部材本体62は、硬質の合成樹脂材等で形成されていても良い。また、仕切部材本体62の上端部分には、外周面から径方向外側に向かって突出する当接支持部68が一体形成されている。更に、仕切部材本体62の径方向中央部分には、上端面に開口する円形の収容凹所70と、下端面に開口する円形の中央凹所72が、それぞれ形成されている。また、仕切部材本体62の外周縁部には、第二周溝74が形成されている。第二周溝74は、仕切部材本体62の当接支持部68よりも下側において、外周面に開口するように形成されている。また、本実施形態において、第二周溝74は、略一定の断面形状をもって周方向に一周弱の長さで延びるように形成されている。
【0050】
また、蓋金具64は、薄肉の略円板形状を有しており、仕切部材本体62と同様に、鉄やアルミニウム合金等の高剛性の金属材で形成されている。そして、蓋金具64は、仕切部材本体62の上端面に重ね合わされる。なお、図中には明示されていないが、例えば、仕切部材本体62の上端面に突設された係止部と蓋金具64に形成された係止孔を係止させる等の係止機構を設けて、仕切部材本体62と蓋金具64が相互に係止固定されるようになっていても良いし、例えば、接着剤等を用いて、仕切部材本体62と蓋金具64を接着固定しても良い。
【0051】
このように仕切部材本体62と蓋金具64が重ね合わされることにより、仕切部材本体62に形成された収容凹所70の開口部が蓋金具64で覆蓋されている。これにより、収容凹所70を利用して仕切部材本体62と蓋金具64の対向面間に収容領域が形成されている。
【0052】
また、この収容領域には、可動部材としての可動ゴム板66が配設されている。可動ゴム板66は、略円板形状を有するゴム弾性体で形成されており、径方向外周縁部に軸方向両側に突出する円環状の外周支持部76が一体形成されていると共に、径方向中央部に軸方向両側に突出する中央支持部78が一体形成されて、外周縁部及び中央部が径方向中間部分に比して厚肉とされている。また、可動ゴム板66の径方向中間部分には、軸方向両側に突出する緩衝当接部80が一体形成されている。緩衝当接部80は、全周に亘って連続して延びる突条であって、外周支持部76及び中央支持部78よりも突出高さが小さくされている。特に本実施形態では、緩衝当接部80が突出先端側に向かって次第に狭幅となる断面形状を有しており、径方向で離隔して二条の緩衝当接部80が形成されている。
【0053】
そして、可動ゴム板66が収容凹所70に嵌め入れられると共に、仕切部材本体62と蓋金具64が軸方向で重ね合わされることにより、外周支持部76と中央支持部78がそれぞれ仕切部材本体62と蓋金具64の対向面間で挟圧支持されて、可動ゴム板66が収容領域に収容配置されるようになっている。なお、可動ゴム板66の径方向中間部分は、緩衝当接部80の形成箇所を含めた全体が、仕切部材本体62と蓋金具64の何れからも離隔せしめられている。
【0054】
また、収容領域の天壁部及び底壁部(上下の壁部)には、それぞれ複数の透孔82が形成されている。透孔82は、図3〜7に示されているように、それぞれ周方向に所定の長さで延びて、周方向で所定距離を隔てて隣り合うように形成されている。そして、可動ゴム板66の外周支持部76と中央支持部78の径方向間に形成された薄肉部分が、透孔82を通じて外部に露出せしめられている。なお、本実施形態において、透孔82は、それぞれ周方向に略四分の一周弱の所定長さで延びる断面形状を有する四つの孔であって、径方向中央から径方向で四方に延びる腕状の天壁部乃至は底壁部によって周方向で相互に隔てられている。
【0055】
このような構造とされた仕切部材60は、流体室58に収容配置される。即ち、仕切部材60が第二の取付金具14の上側開口部から挿入されて、当接支持部68が第二の取付金具14の段差部38に対して重ね合わされる。これにより、仕切部材60が第二の取付金具14に対して軸方向で位置決めされて、仕切部材本体62の上端部及び蓋金具64が第二の取付金具14の大径筒部40の内周側に離隔位置せしめられると共に、仕切部材本体62の下部が小径筒部42の内周側に挿入される。そして、その後に、オリフィス部材48と本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品が、第二の取付金具14に対して上側開口部から挿入されると共に、第二の取付金具14に八方絞り等の縮径加工が施されることにより、仕切部材60が第二の取付金具14で固定的に支持されて、流体室58内で軸直角方向に広がるように配設されている。
【0056】
このように仕切部材60が流体室58内で軸直角方向に広がって配設されることにより、流体室58が仕切部材60を挟んだ両側に二分されており、仕切部材60を挟んだ一方の側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成された受圧室84が形成されていると共に、他方の側には、壁部の一部がダイヤフラム56で構成された平衡室86が形成されている。なお、本実施形態では、受圧室84が本体ゴム弾性体16の大径側端面に開口するように設けられた円形凹所34を利用して形成されていると共に、平衡室86が仕切部材本体62の下端中央部分に下方に向かって開口するように形成された中央凹所72によって、充分な容積をもって形成されるようになっている。
【0057】
また、仕切部材60が第二の取付金具14に組み付けられると、仕切部材本体62の外周部分が第二の取付金具14に対してシールゴム層44を介して流体密に重ね合わされて、仕切部材本体62に形成された第二周溝74の外周側開口部が第二の取付金具14で流体密に覆蓋される。
【0058】
さらに、第二周溝74の一方の端部には、連通孔88が形成されている。この連通孔88は、略一定の断面形状で形成されて、仕切部材本体62及び蓋金具64を貫通して軸方向上方に向かって直線的に延びている。そして、第二周溝74の一方の端部において、周方向に延びる第二周溝74に対して直角に交わるように接続されている。更にまた、第二周溝74の他方の端部には、仕切部材本体62を貫通して軸方向下方に向かって直線的に延びる連通部90が形成されている。
【0059】
これによって、第二周溝74と連通孔88と連通部90を利用して、周方向に一周弱の所定長さで延びて、受圧室84と平衡室86を相互に連通するオリフィス通路92が、仕切部材60に形成されている。このオリフィス通路92は、第二周溝74を利用して形成された長さ方向中間部分が、仕切部材60の広がる面である軸直平面上で周方向に延びている。
【0060】
さらに、オリフィス通路92は、連通孔88を利用して形成された一方の端部が、中間部分に対して直角を為して受圧室84側である軸方向上方に向かって延びて、受圧室84に連通されている。そして、オリフィス通路92の周方向一方の端面が、オリフィス通路92の底壁面に対して直角に立ち上がって広がる終端面93とされている。特に本実施形態において、終端面93は、仕切部材60の軸方向及び径方向に広がっており、周方向に延びるオリフィス通路92の長さ方向に対して略直交せしめられている。なお、終端面は、オリフィス通路の長さ方向に対して直交する方向に広がっていれば良く、例えば、オリフィス通路の受圧室84側端部付近が径方向に延びている場合には、終端面は、当該径方向に対して直交する方向で広がっていれば良い。更にまた、連通部90を利用して形成された他方の端部が、中間部分に対して直角を為して平衡室86側である軸方向下方に向かって延びて、平衡室86に連通されている。
【0061】
また、本実施形態において、オリフィス通路92は、エンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に軸方向で入力された場合に、有効な防振効果が発揮されるようにチューニングされている。なお、絞り通路54やオリフィス通路92のチューニング周波数は、絞り通路54やオリフィス通路92を通じて流動せしめられる流体の共振周波数として解されるものであって、絞り通路54やオリフィス通路92の通路長と通路断面積の比を適当に設定することによってチューニングすることが出来る。
【0062】
また、仕切部材60が流体室58に収容配置されると、可動ゴム板66の一方の面に受圧室84の液圧が及ぼされると共に、他方の面に平衡室86の液圧が及ぼされる。そして、可動ゴム板66は、受圧室84と平衡室86の相対的な圧力差に基づいて、軸方向での微小変位乃至は微小変形が許容されるようになっている。なお、本実施形態では、外周支持部76と中央支持部78の弾性変形によって、可動ゴム板66の微小変位が実現されるようになっている。
【0063】
このような構造とされた自動車用エンジンマウント10は、例えば、第一の取付金具12のボルト挿通孔22に挿通される図示しない取付ボルトが、自動車のパワーユニットに対して螺着されることにより、第一の取付金具12がパワーユニットに対して固定的に取り付けられるようになっている。更に、例えば、第二の取付金具14に外嵌固定される筒状ブラケット94に設けられた一対の取付片が、車両ボデーに対してボルト固定されること等により、第二の取付金具14が筒状ブラケット94を介して車両ボデーに対して固定的に取り付けられるようになっている。以上により、本実施形態に係る自動車用エンジンマウント10は自動車のパワーユニットと車両ボデーの間に介装されて、パワーユニットと車両ボデーがエンジンマウント10によって相互に防振連結されるようになっている。
【0064】
そして、エンジンマウント10の自動車への装着状態下において、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に軸直角方向である水平方向の振動が入力されると、一対の液室46,46間で相対的な圧力差が生ぜしめられる。そこにおいて、入力振動が自動車のエンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動の場合には、絞り通路54を通じて一対の液室46,46間で流体流動が生ぜしめられる。これにより、絞り通路54を通じて流動する流体の共振作用等の流動作用に基づく防振効果が発揮されるようになっている。
【0065】
また、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に軸方向である鉛直方向の振動が入力されると、受圧室84に内圧変動が及ぼされて、受圧室84と平衡室86の間で相対的な圧力差が生ぜしめられる。そこにおいて、入力振動が自動車のエンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動の場合には、両室84,86間の相対的な圧力差に基づいて、受圧室84と平衡室86の間でオリフィス通路92を通じて流体流動が生ぜしめられる。これにより、低周波数域にチューニングされたオリフィス通路92を通じて流動せしめられる流体の共振作用等の流動作用に基づいて、高減衰効果による有効な防振効果が発揮されるようになっている。
【0066】
なお、低周波大振幅振動の入力に際して、可動ゴム板66は、収容凹所70を利用して形成された収容領域の軸方向一方の内壁面に押し当てられて、変位が阻止されるようになっている。これにより、可動ゴム板66の微小変位による液圧吸収が防がれて、オリフィス通路92を通じての流体流動が有利に生ぜしめられるようになっている。特に本実施形態では、可動ゴム板66の径方向中間部分に、突出先端側に行くに従って狭幅となる複数条の緩衝当接部80が形成されており、可動ゴム板66の収容領域内壁面への当接を緩衝的に実現することが出来て、当接打音の発生を有利に低減することが出来る。
【0067】
また、軸方向での入力振動が、自動車の走行こもり音等に相当する高周波小振幅振動の場合には、受圧室84と平衡室86の相対的な圧力差によって、可動ゴム板66が軸方向で微小変位せしめられて、受圧室84に及ぼされる内圧変動が平衡室86側に逃される。そして、このような液圧吸収作用によって発揮される低動ばね作用に基づいて、高周波数域の振動入力時にも、振動絶縁効果による優れた防振性能が実現されるようになっている。
【0068】
ここにおいて、本実施形態に従う構造の自動車用エンジンマウント10では、オリフィス通路92に死水領域としての滞留領域95が形成される。この滞留領域95は、オリフィス通路92の受圧室84側端部が、第二周溝74で構成された中間部分に対して直角を為して延びる連通孔88で構成されていることによって、オリフィス通路92の中間部分と受圧室84側端部との接続部分の隅部において形成される。
【0069】
すなわち、オリフィス通路92を通じて封入流体が積極的に流動せしめられる場合には、流動流体の主たる流れは、オリフィス通路92の屈曲部分において、オリフィス通路92の壁面に沿うことが出来ずに壁面から剥離する。これにより、オリフィス通路92の受圧室84側の屈曲部分において、オリフィス通路92の底面と終端面93で構成された直交壁面と、剥離流線(図8中の二点鎖線)の間には、流体が、オリフィス通路92における流体の主たる流動方向(共振作用によってオリフィス通路92内を積極的に流動する流体の流動方向)に実質的に流下することなく、渦流を生じて第二周溝74と連通孔88の接続隅部に滞留する、滞留領域95(図8中の薄墨による着色領域)が形成される。
【0070】
なお、パイプ(ここでは、オリフィス通路92)中の流水断面の急拡縮等に際して、流れが壁面に沿うことが出来ずに剥離点で壁面から剥離し、この剥離流線と固定壁面との間に渦領域が発生してそこでは流体が回転するだけで流下せず、流水断面積がその分だけ減少したものと考えられる。そして、この剥離点から下流域の渦領域が死水領域として定義されている。
【0071】
また、図8においては、滞留領域95が薄墨を施すことによって明示されていると共に、流体の流動領域の境界(流動経路の内外限界)が二点鎖線によって示されている。また、上記の説明からも明らかなように、滞留領域95は、受圧室84及び平衡室86との間で流体の流入と流出が実質的に無い状態とされている。
【0072】
また、オリフィス通路92の受圧室84側端部には、オリフィス通路92の壁部の一部を構成する底壁部としての下壁部96が設けられている。下壁部96は、第二周溝74の受圧室84側端部における下側壁部であって、オリフィス通路92の壁部で軸方向の投影において連通孔88と重なる部分に設けられている。要するに、下壁部96は、オリフィス通路92において滞留領域95が形成される部分の底壁部である。
【0073】
また、下壁部96は、その一方の面が、連通孔88を通じて受圧室84に面していると共に、他方の面が、オリフィス通路92を外れた部分で平衡室86に対して直接に晒されている。換言すれば、下壁部96の一方の面に対して、連通孔88を通じて受圧室84内の圧力が及ぼされると共に、下壁部96の他方の面に対して、直接的に平衡室86内の圧力が及ぼされるようになっている。
【0074】
さらに、この下壁部96には、滞留領域95に開口するように短絡孔97が形成されている。短絡孔97は、軸方向に直線的に延びる円形の貫通孔であって、オリフィス通路92及び連通孔88よりも断面積が充分に小さくされている。
【0075】
また、短絡孔97は、連通孔88と接続される第二周溝74の一方の端部において、オリフィス通路92の底壁部の一部である第二周溝74の下壁部96を貫通して形成されている。そして、短絡孔97は、その一方の開口部が滞留領域95に向かって開口せしめられていると共に、他方の開口部が平衡室86に向かって開口せしめられている。換言すれば、短絡孔97は、一方の開口部が連通孔88を通じて受圧室84に開口せしめられていると共に、他方の開口部が直接的に平衡室86に開口せしめられている。
【0076】
要するに、短絡孔97は、図3,5,6に示されているように、連通孔88と軸方向で対向する位置に形成されており、本実施形態においては、短絡孔97が軸方向視で連通孔88の略中央に位置するように形成されている。
【0077】
また、後述する滞留領域95による遮断状態を有利に実現するために、好適には、直交壁面を構成する下壁部96において、短絡孔97の中心軸が、連通孔88の中心軸方向(図6中、上下)での投影領域内でオリフィス通路92の長さ方向の中央と終端面93の間に位置せしめられている。換言すれば、下壁部96において、短絡孔97の中心軸は、連通孔88の中心軸方向での投影領域内における周方向中央と、終端面93との間に位置せしめられることが望ましい。要するに、本実施形態では、図8において、一点鎖線で示された連通孔88の中心軸上乃至は中心軸よりも終端面93側である図中の左側に、短絡孔97の中心軸が位置していることが望ましい。なお、下壁部96における連通孔88の中心軸方向での投影領域内とは、下壁部96において、図3中で連通孔88を通じて視認可能な部分を言う。
【0078】
また、本実施形態においては、短絡孔97が軸方向視で連通孔88の中央に位置するように形成されているが、短絡孔97は受圧室84側の開口部が滞留領域95に開口するように形成されていれば良く、周方向でより端部壁面に接近した位置に形成されていても良い。また、短絡孔97は、その断面積が、好適には、オリフィス通路92の断面積の1/2〜1/100程度、より好適には、1/5〜1/50程度、更に好適には、1/10〜1/30程度とされている。なお、短絡孔97の直径は、好適には、2.5mm以上4mm以下とされており、本実施形態では、短絡孔97の直径が3mmとされている。
【0079】
そして、短絡孔97の一方の端部が、連通孔88を通じて受圧室84に開口せしめられると共に、他方の端部が平衡室86に開口せしめられることにより、受圧室84と平衡室86が短絡孔97を通じて相互に連通されるようになっており、オリフィス通路92よりも短い通路長で受圧室84と平衡室86を相互に連通する短絡通路が、短絡孔97によって形成されている。
【0080】
このような短絡孔97を備えたエンジンマウント10においては、例えば車両の段差乗越え等によって、衝撃的な大荷重が第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に軸方向で入力されると、受圧室84と平衡室86をオリフィス通路92よりも短い経路で相互に連通する短絡通路(短絡孔97)を通じて、両室84,86間での流体流動が生ぜしめられて、受圧室84と平衡室86の相対的な圧力差が可及的速やかに解消乃至は軽減される。
【0081】
これにより、受圧室84に及ぼされる負圧を軽減して、受圧室84内に封入された非圧縮性流体の気相分離によるキャビテーション現象とそれに伴う異音や振動の発生を、有利に低減乃至は回避することが出来る。また、受圧室84に過大な正圧が及ぼされることによる高動ばね化を防ぐことも出来て、目的とする防振性能を安定して実現することも可能となる。
【0082】
なお、本実施形態に従う構造のエンジンマウント10における異音や振動の低減効果は、図9に示されている伝達荷重を測定した測定結果からも確認することが出来る。即ち、図9には、短絡孔97を備えた本実施形態に係るエンジンマウント10(実施例)と、短絡孔97を形成していない従来構造のエンジンマウント(比較例)に同一の振動荷重を入力して、それぞれ伝達荷重を測定した。ここで、同一の振動荷重が入力された状態において、測定される伝達荷重値が大きくなるのは、キャビテーションに起因する水撃圧が生じているためであると考えられることから、本発明に係る実施例では、従来構造に係る比較例に比して、キャビテーションによる衝撃波を低減して、衝撃荷重が車室に伝達されることによって生じる異音や振動の問題を改善出来ることが、実測結果においても示されている。
【0083】
しかも、短絡孔97がオリフィス通路92の滞留領域95に向かって開口形成されていることにより、オリフィス通路92がチューニングされた防振対象振動の入力時には、短絡孔97が実質的な遮断状態とされて、オリフィス通路92を通じた流体流動を有効に生ぜしめることが出来る。
【0084】
すなわち、オリフィス通路92のチューニング周波数域の振動が入力されると、図8に示されているように、オリフィス通路92の滞留領域95を外れた領域において、流体が、充分に速い流速をもって積極的乃至は能動的にオリフィス通路92を通じて流動せしめられる。そして、共振作用によってオリフィス通路92を充分に速い流速で流動する流体の流れが、直角に屈曲せしめられたオリフィス通路92の受圧室84側端部において、オリフィス通路92の壁面から剥離することにより、該流体の流れとオリフィス通路92の壁面との間に滞留領域95が形成される。この滞留領域95が短絡孔97の受圧室84側開口部上に形成されることから、短絡孔97の受圧室84側の開口部が実質的に閉塞せしめられて、短絡孔97を通じた受圧室84と平衡室86の間での流体流動が実質的に無くなるようになっている。
【0085】
特に、短絡孔97が、受圧室84に対してオリフィス通路92の受圧室84側端部を通じて連通されていると共に、平衡室86に対して直接的に連通されていることにより、オリフィス通路92の防振対象振動が入力されると、短絡孔97の閉塞状態が有利に維持される。即ち、オリフィス通路92の防振対象振動が入力された状態では、オリフィス通路92を通じて流動する流体の流れを挟んで受圧室84と反対側に形成される滞留領域95に対して、受圧室84内の液圧が作用し難くなる。従って、滞留領域95の形成状態が安定して維持されて、短絡孔97の実質的な遮断状態が有効に実現される。
【0086】
なお、短絡孔97が実質的に遮断される、或いは短絡孔97を通じての流体流動が実質的に無くなるとは、短絡孔97を通じての流体流動量が、オリフィス通路92を通じての流体流動を充分に確保できる程度に少なくなることを言うものであって、目的とする防振性能を実現する上で問題とならない程度の流体流動が、短絡孔97を通じて生ぜしめられる場合も、本実施形態で言うところの短絡孔97の実質的な遮断状態や短絡孔97を通じた流体流動が無い状態に含まれる。
【0087】
換言すれば、このようなオリフィス通路92の共振状態においては、オリフィス通路92の流動抵抗が著しく低下して、オリフィス通路92を通じての流体流動が積極的に発現される。そして、このオリフィス通路92を通じて流動する流体の流れを隔てて受圧室84と反対側において滞留領域95が形成されて、短絡孔97が滞留領域95に開口せしめられる。このように、短絡孔97の受圧室84側の開口部が、受圧室84に対してオリフィス通路92を通じた共振状態の流れを隔てた位置に開口せしめられることにより、オリフィス通路92の共振状態下において、短絡孔97には、受圧室84の液圧が作用し難く、流動抵抗が大きくなる。従って、短絡孔97を通じての流体流動量が減少乃至は実質的に無くなることとなる。
【0088】
このように、本実施形態に係るエンジンマウント10において、オリフィス通路92の防振対象振動が入力された場合には、短絡孔97を通じて受圧室84内の液圧が平衡室86に逃されるのを防いで、オリフィス通路92を通じての流体流動量を充分に確保することが出来る。従って、オリフィス通路92を通じて流動せしめられる流体の流動作用に基づく高減衰効果を、有効に発揮せしめることが出来る。
【0089】
なお、図10には、本実施形態に係るエンジンマウント10において、軸方向入力振動に対して発揮される減衰効果の実測値が示されている。これによれば、本実施形態において車両特性上要求される3b(N・s/mm)以上の減衰効果が、有効に実現されている。このように、本発明に係る流体封入式防振装置では、短絡孔97の形成によっても、有効な防振効果を実現出来ることが、実測結果からも明らかである。
【0090】
以上のように、本実施形態に従う構造の自動車用エンジンマウント10では、チューニング周波数域の振動荷重が入力された場合におけるオリフィス通路92を通じた積極的な流体流動に着目することによって、オリフィス通路92上の特定部位において滞留領域95が積極的に形成されている。そして、この滞留領域95を巧く利用することにより、短絡孔97を連通状態と遮断状態に切り換える実質的な弁手段が実現されている。これにより、特別な弁部材を設けることなく、短絡孔97の連通状態と遮断状態を切り換えて、目的とする防振性能と、キャビテーション異音の防止を両立して実現することが可能となっている。
【0091】
すなわち、オリフィス通路92が予めチューニングされた防振対象荷重の入力時には、滞留領域95を利用することにより、短絡孔97を実質的な遮断状態として、目的とする高減衰効果を有効に得ることが出来る。一方、衝撃的な大荷重の入力時には、短絡孔97を通じて両室84,86間で流体が流動せしめられて、受圧室84内の圧力が著しく上昇或いは下降するのを防ぐことが出来ることから、異音乃至は振動の発生や防振性能の低下といった問題を解消することが出来るのである。
【0092】
なお、例えば、外周縁部を延びるオリフィス通路を外れた部分である径方向中央部分等において、仕切部材を貫通する短絡孔を形成した場合には、上記の如きオリフィス通路の流体流動を利用した滞留領域が、短絡孔の受圧室側開口部上に形成され得ないことから、短絡孔が常時連通状態とされる。それ故、オリフィス通路の防振対象振動が入力された場合にも、受圧室内の液圧が短絡孔を通じて平衡室側に逃されてしまう。従って、このような構造では、キャビテーション異音の低減を実現し得たとしても、防振対象振動に対する目的とする防振効果を両立して有効に得ることが出来ず、本発明による効果を充分に実現することが出来ないのである。
【0093】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0094】
例えば、短絡孔97の断面形状は、必ずしも円形である必要はない。また、必ずしも全長に亘って一定の断面形状で形成されている必要はなく、例えば、テーパ状の内周面を有して、何れか一方の端部側に向かって次第に拡開していても良い。また、前記実施形態においては、一つの短絡孔97が形成されているが、短絡孔は複数が形成されていても良く、例えば、小径の円形孔をオリフィス通路92の受圧室84側端部に複数形成しても良い。なお、複数の短絡孔を形成する場合には、それら複数の短絡孔の断面積の合計が、オリフィス通路92の断面積よりも小さくされる。
【0095】
また、前記実施形態に示された仕切部材60は、仕切部材の具体的な構造の一例を示すに過ぎず、何等限定的に解釈されるものではない。
【0096】
具体的には、例えば、図11に示されている仕切部材98を採用することも出来る。より詳細には、仕切部材98には、外周面に開口して周方向に一周弱の長さで延びる上段周溝100が形成されている。この上段周溝100の周方向一方の端部には、上側壁部を貫通して直線的に延びる連通孔88が形成されている。また、仕切部材98の外周縁部には、上段周溝100に対して軸方向下方に所定距離を隔てて、下段周溝102が形成されている。下段周溝102は、上段周溝100と同様に、仕切部材98の外周面に開口して周方向に一周弱の長さで延びており、周方向一方の端部には、下側壁部を貫通する連通部90が形成されている。
【0097】
それら上段周溝100と下段周溝102は、周方向他方の端部で相互に接続されて、全体として中間部分で折り返して周方向に二周弱の長さで延びる周溝104が構成されている。そして、仕切部材98が、前記実施形態に示された仕切部材60と同様に、第二の取付金具14に内挿されて嵌着固定されることにより、周溝104の外周側開口部が第二の取付金具14によって流体密に覆蓋されて、周方向に二周弱の所定長さで延びて、受圧室84と平衡室86を相互に連通するオリフィス通路106が、周溝104と連通孔88と連通部90を利用して形成されている。
【0098】
ここにおいて、上段周溝100の周方向一方の端部における下壁部96には、平衡室86に開口する連通凹所108が形成されている。この連通凹所108は、短絡孔97及び連通孔88よりも断面積が大きくされており、連通凹所108の内周側の領域が実質的に平衡室86の一部を構成している。また、連通凹所108が形成されることによって、オリフィス通路106の受圧室84側端部における下壁部96の壁厚さが薄肉となっている。そして、薄肉とされた下壁部96に短絡孔97が形成されており、短絡孔97が、連通孔88を通じて受圧室84に連通されていると共に、平衡室86の一部である連通凹所108に連通されている。なお、下段周溝102は、図11に示されているように、連通凹所108の形成領域を外れた部分に形成されている。
【0099】
また、例えば、図12に示されているような仕切部材110を採用することも出来る。この仕切部材110は、図11に示された仕切部材98に比して、下段周溝102が、周方向中間部分で折り返されて周方向に二周弱の長さで延びており、オリフィス通路106が、周方向に二周以上の長さで形成されている。
【0100】
これら図11,12に示された構造の仕切部材98,110を備えた流体封入式防振装置においても、通常の防振対象振動が入力された際における目的とする防振性能の実現と、衝撃的な大荷重が入力された際におけるキャビテーション異音の低減乃至は解消を、何れも有効に実現することが出来る。なお、図11,12に示された構造を説明するに際して、前記実施形態と実質的に同一の部材乃至部位については、前記実施形態と同一の符号を付すことにより、説明を省略する。また、図11,12に記載の仕切部材98,110は、前記実施形態に記載の仕切部材60と同様に、自動車用エンジンマウント等の流体封入式防振装置に採用されて、受圧室84と平衡室86を仕切るように配設される。
【0101】
また、図11,12に示された仕切部材98,110では、連通凹所108を形成することによって、オリフィス通路106の受圧室84側端部における下壁部96の厚さを抑えて、仕切部材98,110の軽量化が実現されている。更に、連通凹所108に開口するように短絡孔97を形成することによって、短絡孔97の通路長が冗長になるのを防ぐことが出来る。
【0102】
要するに、オリフィス通路は、一周以上の長さで延びるように形成されていても良く、その場合には、オリフィス通路98,110の下壁部96が、その一方の面が、連通孔88を通じて受圧室84に対して直接に面するようにされていると共に、その他方の面が、連通凹所108を通じる等して、オリフィス通路98,110を外れた部分で平衡室86に対して直接に面するようにされており、下壁部96に貫通形成された短絡孔97が受圧室84と平衡室86に対して面する各壁面にそれぞれ開口せしめられるようになっている。
【0103】
また、前記実施形態においては、本発明に係る流体封入式防振装置の一種として、軸直角方向の振動入力に対して有利に防振効果を得られるように、軸直角方向で対向して形成された一対の液室46,46と、それら液室46,46を相互に連通する絞り通路54を形成するオリフィス部材48とを備えた構造のエンジンマウント10が示されている。しかしながら、本発明に係る流体封入式防振装置において、このような軸直角方向での振動入力に際して有効な防振効果を発揮する液室46,46や絞り通路54は、必須ではない。具体的には、例えば、特公平6−105095号公報の図1に記載されているように、非圧縮性流体の封入領域として、仕切部材を挟んだ両側に形成された一組の受圧室と平衡室を有すると共に、それら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路を備えた、一般的な構造の流体封入式防振装置にも、本発明は適用可能である。
【0104】
さらに、前記実施形態では、本体ゴム弾性体16の外周面に加硫接着された中間スリーブ24に対して第二の取付金具14を外嵌固定することにより、第二の取付金具14を本体ゴム弾性体16に対して間接的に固定しているが、第二の取付金具14を直接的に本体ゴム弾性体16に加硫接着せしめても良い。更にまた、仕切部材において、可動ゴム板66等の液圧吸収機構は、要求される防振性能に応じて適宜選択されて設けられるものであり、異なる構造の液圧吸収用デバイスが設けられていても良いし、液圧吸収機構を備えていなくても良い。
【0105】
また、前記実施形態におけるオリフィス通路92は、周方向に延びているが、オリフィス通路は、必ずしも周方向に延びるように形成されていなくても良い。具体的には、例えば、径方向に直線的に延びていたり、螺旋状に延びていたりしても良い。更に、オリフィス通路92では、その中間部分の全体が、仕切部材60の広がる面上において延びるように形成されているが、オリフィス通路は、少なくとも、連通孔88との接続部分である受圧室84側端部において、仕切部材60の広がる面方向に延びていれば良く、中間部分において軸方向や軸方向に傾斜した方向に延びる部分を有していても良い。なお、ここで言う仕切部材60の広がる面方向とは、前記実施形態における軸直角方向であって、受圧室84と平衡室86を仕切る仕切部材60が広がる平面方向、換言すれば仕切部材60を挟んで対向位置する受圧室84と平衡室86の対向方向に対して直交する方向を意味する。
【0106】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の一実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面図であって、図2におけるI−I線断面図。
【図2】図1におけるII−II線断面図。
【図3】図1に示されたエンジンマウントを構成する仕切部材を示す平面図。
【図4】図3に示された仕切部材の底面図。
【図5】図3に示された仕切部材の側面図。
【図6】図3におけるVI−VI線断面図。
【図7】図3に示された仕切部材を概略的に示す斜視図。
【図8】図1に示されたエンジンマウントの要部をモデル的に示す説明図。
【図9】図1に示されたエンジンマウントの異音レベルの測定値を示すグラフ。
【図10】図1に示されたエンジンマウントの減衰性能の測定値を示すグラフ。
【図11】本発明の別の一実施形態としてのエンジンマウントを構成する仕切部材を概略的に示す斜視図。
【図12】本発明のまた別の一実施形態としてのエンジンマウントを構成する仕切部材を概略的に示す斜視図。
【符号の説明】
【0108】
10:自動車用エンジンマウント,12:第一の取付金具,14:第二の取付金具,16:本体ゴム弾性体,56:ダイヤフラム,58:流体室,60:仕切部材,84:受圧室,86:平衡室,88:連通孔,92:オリフィス通路,93:終端面,95:滞留領域,96:下壁部,97:短絡孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材が筒状部を備えた第二の取付部材の一方の開口部側に配置されると共に、それら第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で相互に連結されて、該第二の取付部材の一方の開口部が該本体ゴム弾性体で閉塞されていると共に、該第二の取付部材の他方の開口部が可撓性膜で閉塞されて、該第二の取付部材の内周側においてそれら本体ゴム弾性体と可撓性膜の対向面間に外部空間から隔てられて非圧縮性流体が封入された流体室が形成されている一方、該流体室には仕切部材が該第二の取付部材で支持されて配設されており、該仕切部材を挟んだ一方の側に壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成された受圧室が形成されると共に、該仕切部材を挟んだ他方の側に壁部の一部が該可撓性膜で構成された平衡室が形成されて、更に、それら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路が該仕切部材に形成された流体封入式防振装置において、
前記オリフィス通路の一方の端部側が前記仕切部材の広がる面方向で延びていると共に、該オリフィス通路の該一方の端部から直角に屈曲して前記受圧室に向かって開口する連通孔が形成されており、該オリフィス通路の該一方の端部が該連通孔を通じて該受圧室に連通されていることにより、該オリフィス通路の該受圧室側開口部分では該オリフィス通路の延びる方向に対して直角に立ち上がる該オリフィス通路の終端面が形成されて該オリフィス通路と該連通孔との接続隅部において該オリフィス通路の底面と終端面との直交壁面で死水領域が形成されている一方、該死水領域の直交壁面を構成する該オリフィス通路の該一方の端部における底壁部がその一方の面において該連通孔を通じて該受圧室に直接に臨まされていると共に、該底壁部の他方の面が該オリフィス通路を外れた部分で前記平衡室に対して直接に晒されており、かかる底壁部において該オリフィス通路および該連通孔よりも小さな断面積の短絡孔が形成されて、該受圧室と該平衡室が該オリフィス通路の該死水領域において該短絡孔により連通されていることを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記死水領域の直交壁面を構成する前記オリフィス通路の前記一方の端部における底壁部において、前記短絡孔の中心軸が、前記連通孔の中心軸方向での投影領域内で該オリフィス通路の長さ方向の中央と前記終端面との間に位置せしめられている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記仕切部材の外周部分を周方向に一周以下の長さで延びるようにして前記オリフィス通路が形成されており、該オリフィス通路の周方向一方の端部において、該オリフィス通路における前記受圧室側の壁部を貫通して前記連通孔が形成されていると共に該オリフィス通路における前記平衡室側の壁部を貫通して前記短絡孔が形成されている請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記仕切部材の外周部分を周方向に一周以下の長さで延びる上段周溝を設けて、該上段周溝の周方向一方の端部における前記受圧室側の壁部を貫通して前記連通孔を形成すると共に、該上段周溝の周方向一方の端部における前記平衡室側の壁部には該平衡室側に開口する連通凹所を形成して該平衡室側の壁部厚さを薄くしそこに前記短絡孔を形成する一方、該仕切部材の外周部分における該上段周溝よりも該平衡室側の領域には、該連通凹所の形成領域を外れた周上の一周以下の領域で該上段周溝の周方向他方の端部から折り返して周方向に延びる下段周溝を形成し、該下段周溝の端部を該平衡室に連通せしめることにより、それら上段及び下段の周溝によって前記オリフィス通路を形成した請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項1】
第一の取付部材が筒状部を備えた第二の取付部材の一方の開口部側に配置されると共に、それら第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で相互に連結されて、該第二の取付部材の一方の開口部が該本体ゴム弾性体で閉塞されていると共に、該第二の取付部材の他方の開口部が可撓性膜で閉塞されて、該第二の取付部材の内周側においてそれら本体ゴム弾性体と可撓性膜の対向面間に外部空間から隔てられて非圧縮性流体が封入された流体室が形成されている一方、該流体室には仕切部材が該第二の取付部材で支持されて配設されており、該仕切部材を挟んだ一方の側に壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成された受圧室が形成されると共に、該仕切部材を挟んだ他方の側に壁部の一部が該可撓性膜で構成された平衡室が形成されて、更に、それら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路が該仕切部材に形成された流体封入式防振装置において、
前記オリフィス通路の一方の端部側が前記仕切部材の広がる面方向で延びていると共に、該オリフィス通路の該一方の端部から直角に屈曲して前記受圧室に向かって開口する連通孔が形成されており、該オリフィス通路の該一方の端部が該連通孔を通じて該受圧室に連通されていることにより、該オリフィス通路の該受圧室側開口部分では該オリフィス通路の延びる方向に対して直角に立ち上がる該オリフィス通路の終端面が形成されて該オリフィス通路と該連通孔との接続隅部において該オリフィス通路の底面と終端面との直交壁面で死水領域が形成されている一方、該死水領域の直交壁面を構成する該オリフィス通路の該一方の端部における底壁部がその一方の面において該連通孔を通じて該受圧室に直接に臨まされていると共に、該底壁部の他方の面が該オリフィス通路を外れた部分で前記平衡室に対して直接に晒されており、かかる底壁部において該オリフィス通路および該連通孔よりも小さな断面積の短絡孔が形成されて、該受圧室と該平衡室が該オリフィス通路の該死水領域において該短絡孔により連通されていることを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記死水領域の直交壁面を構成する前記オリフィス通路の前記一方の端部における底壁部において、前記短絡孔の中心軸が、前記連通孔の中心軸方向での投影領域内で該オリフィス通路の長さ方向の中央と前記終端面との間に位置せしめられている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記仕切部材の外周部分を周方向に一周以下の長さで延びるようにして前記オリフィス通路が形成されており、該オリフィス通路の周方向一方の端部において、該オリフィス通路における前記受圧室側の壁部を貫通して前記連通孔が形成されていると共に該オリフィス通路における前記平衡室側の壁部を貫通して前記短絡孔が形成されている請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記仕切部材の外周部分を周方向に一周以下の長さで延びる上段周溝を設けて、該上段周溝の周方向一方の端部における前記受圧室側の壁部を貫通して前記連通孔を形成すると共に、該上段周溝の周方向一方の端部における前記平衡室側の壁部には該平衡室側に開口する連通凹所を形成して該平衡室側の壁部厚さを薄くしそこに前記短絡孔を形成する一方、該仕切部材の外周部分における該上段周溝よりも該平衡室側の領域には、該連通凹所の形成領域を外れた周上の一周以下の領域で該上段周溝の周方向他方の端部から折り返して周方向に延びる下段周溝を形成し、該下段周溝の端部を該平衡室に連通せしめることにより、それら上段及び下段の周溝によって前記オリフィス通路を形成した請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−41740(P2009−41740A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210139(P2007−210139)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]