説明

流体機械羽根の製造方法

【課題】三次元的に湾曲した平面を有する、複雑な形状の翼本体の表面又は内部への穴加工を容易に行うことができる流体機械羽根の製造方法を提供する。
【解決手段】流体機械の翼部材10の全部又は一部となる平面状の板状部材1に穴2・3を形成する工程と、この穴に充填物を詰めた状態で前記板状部材1を羽根形状となるように曲げ加工する工程と、から流体機械羽根100を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心ポンプ、斜流ポンプ、軸流ポンプなどの流体機械の羽根に適用される技術である。
【背景技術】
【0002】
一般に、流体機械の羽根は、プレス機械等を用いた板金加工により製作される。
例えば、特許文献1に示されるポンプ用吐出ボウルでは、鋼板を略円筒状に成形して同心状に配置した内胴の外周面と外胴の内周面に接合する案内翼を、鋼板をプレス成形することで製作するようにしている。
【0003】
また、特許文献2に示される遠心ポンプでは、回転する羽根車から出た流体を減速させるディフューザー部と、該ディフューザー部を通過した流体を吐出側に導くリターンベーンと、これらディフューザー部及びリターンベーンが固定される主板とを板金にて製作するようにしている。
【0004】
また、引用文献3に示されるポンプでは、回転軸のハブ外周に設けられる羽根車を板金加工により製作するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−83232号公報
【特許文献2】特開2004−183486号公報
【特許文献3】特開2010−31738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記引用文献1〜3に示される流体機械の羽根には、冷却空気による冷却効率を高めるため、又は材料の使用量を減少させることによる低コスト化/軽量化を図るために、羽根の翼高さ方向、又は空気の流れ方向に穴を設けることが行われている。しかしながら、翼の内部に穴を形成する場合には、鋳造や機械加工の精度に限界があり、希望通りの穴開け加工ができないという問題があった。
特に、図5に示されるような羽根50の翼部材51は、三次元的に湾曲した形状であり、矢印で示すような空気(流体)の流れ方向に沿って、翼内部に穴や溝をする場合、このような三次元形状の翼部材51への穴加工や溝加工が非常に難しいという問題がある。
【0007】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、三次元的に湾曲した平面を有する、複雑な形状の翼本体の表面又は内部への穴の形成を容易にすることができる流体機械羽根の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明の流体機械羽根の製造方法では、流体機械の翼部材の全部又は一部となる平面状の板状部材に穴を形成する工程と、前記板状部材を羽根形状となるように曲げ加工する工程と、を有することを特徴としている。
【0009】
そして、上記のような工程を有する本発明では、流体機械の羽根の全部又は一部となる平面状の板状部材に穴を形成した後で、該板状部材を羽根形状となるように曲げ加工するようにしたので、三次元的に湾曲した平面を有する翼本体の表面又は内部への穴加工を容易に行うことができ、かつ鋳造や機械加工の精度に影響されない複雑な穴加工が可能となる。
【0010】
また、本発明では、前記板状部材を羽根形状となるように曲げ加工することにより、回転軸のディスクに設置される翼部材となることを特徴とする。
【0011】
また、本発明では、前記穴は、前記翼部材の高さ方向に沿って形成されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明では、前記穴は、前記翼部材の流体の流れ方向に沿って形成されることを特徴とする。
【0013】
そして、上記のように構成された本発明では、板状部材の高さ方向又は流体の流れ方向等に沿って穴を形成した後、板状部材を羽根形状となるように曲げ加工して、回転軸のディスクに設置される翼部材を形成した。そして、板状部材に形成する穴の形態(板状部材の高さ方向又は流体の流れ方向等に沿う穴など)を選択的に形成することで、該翼部材の冷却空気による冷却効率を高める、又は材料の使用量を減少させることによる低コスト化/軽量化を図ることができる。
【0014】
また、本発明では、前記穴形成後にその穴の内部に充填物を詰めることを特徴とする。
【0015】
また、本発明では、前記充填物はフレキシブルな材料であることを特徴とする。
【0016】
そして、上記のように構成された本発明では、穴形成後に内部にフレキシブルな材料等からなる充填物を詰めるようにしたので、その後の板状部材を羽根形状となるように曲げ加工する工程において、該変形によって穴が塞がることを防止でき、羽根形状を有する板状部材に確実に穴を形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、流体機械の羽根の全部又は一部となる平面状の板状部材に穴を形成した後で、該板状部材を羽根形状となるように曲げ加工するようにしたので、三次元的に湾曲した平面を有する翼本体の表面又は内部への穴加工を容易に行うことができ、かつ鋳造や機械加工の精度に影響されない複雑な穴加工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る流体機械羽根の製造方法に関する一実施形態を示す斜視図であって、(A)は板状部材に穴を形成した状態、(B)は板状部材を曲げ加工した状態、(C)翼部材をディスクに設置した図である。
【図2】板状部材の内部に流体の流れ方向に沿う穴を形成した場合の構成を示す斜視図である。
【図3】翼部材の一部に鋳物を用いた構成を示す斜視図である。
【図4】図3の他の形態を示す斜視図である。
【図5】従来より使用されている羽根を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る流体機械羽根(インペラ)の製造方法に関する一実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。
図1(A)は本発明が適用される平面状の板状部材1であって、プレス機等による曲げ加工(後述する)により、最終的には、三次元的に湾曲した形状を有する部材、例えば流体機械の羽根となる。
【0020】
前記平面状の板状部材1には、旋盤などの機械加工によって複数の穴2〜4を形成する。例えば、図1(A)に示されるような板状部材1を厚さ方向に貫通する穴2、板状部材1を高さ方向に貫通する穴3、板状部材1を長さ方向に貫通する穴4、などを必要に応じて選択的に形成する。
【0021】
なお、ここで言う穴2〜4とは、流体機械羽根として使用している場合に、空気などの流体が流れる流路を指すものであり、図1に示す貫通孔の他に、板状部材1の表面に形成された丸溝、V字状溝のような凹部も含むものとする。また、前記穴2〜4は、冷却空気による冷却効率を高めるため、又は材料の使用量を減少させることによる低コスト化/軽量化などの用途に用いられる。さらに、前記穴2〜4は用途に応じて選択的に形成するものであるが、これに加えて図2に示されるように、板状部材1の表面から流体の流れる方向に沿って非直線状に内部を貫通する穴5のような形態であっても良い。
【0022】
次に、図1(B)に示されるように、プレス機械等を用いた板金曲げ加工により、前記穴2が形成された前記板状部材1を三次元的に湾曲した羽根形状とし、これにより翼部材10を形成する。
その後、図1(C)に示されるように、該翼部材10を回転軸11のディスク12に一定間隔となるように取り付けることにより流体機械羽根100を完成する。
【0023】
ここで、翼部材10はそれ自体を回転軸11のディスク12に設置しても良いが、図3に示すように一部を鋳物13として翼部材20を構成しても良い。
図3で示す翼部材20は、鋳物13の表面に図1(A)〜(C)で作成した翼部材10を貼り付けることにより構成したものであるが、これに限定されず、図4に示すように、鋳物13を囲むように図1(A)〜(C)で作成した翼部材10を取り付けることにより翼部材20を構成しても良い。また、図3及び図4では鋳物13を使用しているが、板金加工により得た金属部材を使用しても良い。
そして、このような構成した翼部材10を含む翼部材20では、図3及び図4に矢印で示すように穴5を経由した空気(流体)の流路を形成することができ、翼部材の冷却空気による冷却効率を高める等の効果を得ることができる。
【0024】
以上詳細に説明したように本実施形態に示される流体機械羽根100の製造方法によれば、流体機械の翼部材10・20の全部又は一部となる平面状の板状部材1に穴2〜5を形成した後で、該板状部材1を羽根形状となるように曲げ加工するようにしたので、三次元的に湾曲した平面を有する翼本体の表面又は内部への穴加工を容易に行うことができ、かつ鋳造や機械加工の精度に影響されない複雑な穴加工が可能となる。
【0025】
また、上記流体機械羽根100の製造方法によれば、板状部材1の高さ方向又は流体の流れ方向等に沿って穴2〜5を形成した後、板状部材1を羽根形状となるように曲げ加工して、回転軸11のディスク12に設置される翼部材10・20を形成した。そして、穴形成時に、板状部材1に形成する穴2〜5の形態(板状部材1の高さ方向又は流体の流れ方向等に沿う穴2〜5など)を選択的に形成することで、該翼部材10・20の冷却空気による冷却効率を高める、又は材料の使用量を減少させることによる低コスト化/軽量化を図ることができる。
【0026】
(変形例)
上記流体機械羽根100の製造方法では、曲げ加工前で穴2〜5を形成した工程の後に、曲げ加工時に穴2〜5が変形して、穴形状が小さくなったり(本来真円とすべき穴が扁平状になるような変形を含む)、あるいは、閉塞することを防止すべく、曲げ加工前に以下の(1)〜(4)に示す処理を実行しても良い。なお、これら(1)〜(4)の処理は、択一的に、あるいは、その後の加工条件(温度、塑性加工の変形量等)に応じて複数の処理を組み合わせても良い。
【0027】
(1)板状部材1に穴2〜5を形成した後に、はんだ等の低融点合金を穴2〜5に埋め、曲げ加工後に加熱して除去する。
(2)板状部材1に穴2〜5を形成した後に、該穴2〜5部にフレキシブルな棒状の材料を挿入した状態で曲げ加工し、その後、棒状の部材を抜き取る。この変形例の場合、前記棒状の部材として、例えば板状部材よりヤング率が高い等、曲げ加工によって塑性変形し難い材料からなる所定の断面形状(形成すべき穴と同じ断面形状)の線状体を用いれば、板状部材1の曲げ加工による穴2〜5の変形を防止することができる。
(3)板状部材1に穴2〜5を形成した後に、粉体状の材料で穴2〜5を埋め、穴の両端に栓をして、あるいは溶接等で両端を閉じて内部に封止し、曲げ加工後に前記栓を除去して封止を除去する。
(4)板状部材1に穴2〜5を形成した後に、水、油、液体金属等の非圧縮性流体を穴2〜5に入れ、穴2〜5の穴の両端に栓をして、あるいは溶接等で両端を閉じて封止し、曲げ加工後、前記封止を解除して流体を抜く。
【0028】
そして、このような(1)〜(4)を追加した流体機械羽根100の製造方法によれば、穴形成後にその穴2〜5の内部にフレキシブルな材料等からなる充填物を詰めるようにしたので、その後の板状部材1を羽根形状となるように曲げ加工する工程において、該充填物によって穴2〜5が塞がることを防止でき、羽根形状を有する板状部材1に確実に穴を形成することができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、遠心ポンプ、斜流ポンプ、軸流ポンプなどの流体機械の羽根に適用される技術である。
【符号の説明】
【0031】
1 板状部材
2 穴
3 穴
4 穴
5 穴
10 翼部材
11 回転軸
12 ディスク
13 鋳物
20 翼部材
100 流体機械羽根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体機械の翼部材の全部又は一部となる平面状の板状部材に穴を形成する工程と、
前記板状部材を羽根形状となるように曲げ加工する工程と、を有することを特徴とする流体機械羽根の製造方法。
【請求項2】
前記板状部材を羽根形状となるように曲げ加工することにより、回転軸のディスクに設置される翼部材となることを特徴とする請求項1に記載の流体機械羽根の製造方法。
【請求項3】
前記穴は、前記翼部材の高さ方向に沿って形成されることを特徴とする請求項2に記載の流体機械羽根の製造方法。
【請求項4】
前記穴は、前記翼部材の流体の流れ方向に沿って形成されることを特徴とする請求項2に記載の流体機械羽根の製造方法。
【請求項5】
前記曲げ加工の前に前記穴の内部に粉体、液体、または固体の充填物を詰めることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の流体機械羽根の製造方法。
【請求項6】
前記充填物はフレキシブルな線状材料であることを特徴とする請求項5に記載の流体機械羽根の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−172596(P2012−172596A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35608(P2011−35608)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】