説明

流体軸受用潤滑剤、及びこれを有するスピンドルモータ並びに磁気ディスク装置

【課題】ハードディスクドライブのスピンドルモータに用いられる流体軸受において、軸受を構成する部材の摩耗を抑制し、かつ使用中の蒸発が少ない潤滑剤を得ること。
【解決手段】エステルなどの基油に、ナフテン酸塩、2位直鎖アルキルイミダゾール化合物及び脂肪族アミン化合物を配合する。また、必要に応じて、酸化防止剤、油性剤、極圧剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、防錆剤、腐食防止剤、金属不活性剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、導電性付与剤、加水分解安定剤などの添加剤を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体軸受用の潤滑剤、及びこの潤滑剤を用いた流体軸受を搭載したスピンドルモータ、並びにこのスピンドルモータを有する磁気ディスク装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体軸受は従来から磁気ディスク装置(ハードディスクドライブ)など情報記録装置におけるディスク駆動用スピンドルモータの軸受として広く使用されている。とくに近年は、ハードディスクドライブの小型化に対する要望が強く、磁気ディスクを駆動するスピンドルモータ等のモータの小型化が求められている。小型のハードディスクドライブは、携帯用の小型音楽記録再生装置に組み込む用途などが特に増加し、車載機器及び携帯電話などへの搭載も見込まれている。
【0003】
上記の用途の小型ハードディスクドライブは、一般のパーソナルコンピュータに組み込まれているハードディスクドライブに比べると、電源のオン・オフを行う機会が多く、そのたびにハードディスクドライブのモータが起動・停止を繰り返す。このようなモータに組み込まれている流体軸受では、モータの起動及び停止の際に、軸がスリーブなどの金属支持部材に接触することがある。そのため、軸及びスリーブが摩耗するのを避けられない。長期間にわたって安定した回転精度などの性能を有するハードディスクドライブを得るためには、この摩耗を極力抑制する必要がある。
【0004】
流体軸受を構成する金属部材の摩耗を抑制する従来の手段としては、流体軸受に充填されている潤滑剤に、リン酸エステルなどのリン系化合物を添加剤として加える方法がある(例えば特開2001−240885号公報を参照)。リン系化合物は、金属の表面に極圧膜を形成するので、金属部材同士の接触が起こりにくくなり、摩耗が抑制される。極圧膜とは、リン系化合物等の極圧剤と摩耗により活性化された金属の新生面とが摩擦熱によって反応して形成される、金属よりも比較的軟らかい膜のことである。
モータの小型化にともなって流体軸受も小型化する必要があるが、小型の流体軸受では、軸受内の潤滑剤の量も少ない。流体軸受では高温時には使用中に潤滑剤が若干蒸発するが、元々少ない潤滑剤の一部が蒸発して減少すると、流体軸受の寿命に大きな影響を与えることになる。
【0005】
潤滑剤の蒸発は以下の作用により生じるものと考えられている。
潤滑剤の基油として用いられる一般的な有機化合物は熱及び酸化により分子構造の一部の結合が切れ、低分子量の化合物が生成する。この化合物は蒸気圧が高いため、容易に蒸発することになる。さらに、この低分子量の化合物を生成する反応は金属の触媒作用によって加速されることが知られている。
小型のハードディスクドライブは、高速回転化が進んでいるうえ、車載機器にも採用され始めているため、従来より高い温度での使用が避けられない。また、携帯用の機器は屋外の直射日光の下で使用されることがあるので、使用中に高い温度になることがある。そのため、潤滑剤の耐熱性の向上も重要な課題である。
【特許文献1】特開2001−240885号公報
【特許文献2】特開2002−348586号公報
【特許文献3】特開2003−221588号公報
【特許文献4】特開2004−155873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モータが小型化するとともに、起動・停止の繰り返し頻度の高い機器に使用されるようになると、流体軸受の潤滑剤に前記のリン酸エステル等の極圧剤を添加する方法では、流体軸受内の金属部品の摩耗を良好に抑制することが困難になってきた。
本発明は、携帯用機器のハードディスクドライブ用途向けなど、小型でかつ耐摩耗性が要求される流体軸受においても軸受内の金属部品の摩耗が良好に抑制される潤滑剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の潤滑剤は、潤滑剤の主要材料としての基油、前記基油に添加した、添加剤(A)としてのナフテン酸塩、及び添加剤(B)としてのアルキルイミダゾール化合物を有する。
この発明の潤滑剤を用いる流体軸受では、添加剤(A)のナフテン酸塩と摩耗により活性化された金属の新生面が摩擦熱によって反応することにより、金属の表面に極圧膜が形成される。また、添加剤(B)のアルキルイミダゾール化合物のイミダゾール基と金属との反応により、金属の表面に反応生成被膜が形成されると推測される。金属の表面には、前記極圧膜と反応生成被膜の特定の組合せがもたらす相乗効果により、緻密で強固な被膜が形成されると推測される。これにより潤滑が増すとともに金属同士の接触が抑制されて摩耗が減少する。
【0008】
本発明の他の観点の潤滑剤は、潤滑剤の主要材料としての基油、及び前記基油に添加した、添加剤(A)としてのナフテン酸塩、添加剤(B)としてのアルキルイミダソール化合物、及び添加剤(C)としての脂肪族アミン化合物を有する。
この発明の潤滑剤を用いる流体軸受では、添加剤(A)のナフテン酸塩と摩耗により活性化された金属の新生面が摩擦熱によって反応することにより、金属の表面に極圧膜が形成される。また、添加剤(B)のアルキルイミダゾール化合物のイミダゾール基と金属との反応により、金属の表面に反応生成被膜が形成されると推測される。さらに添加剤(C)の脂肪族アミン化合物が金属の表面に接すると、極性を有するアミノ基が金属の表面に静電気的に吸着されると推察される。これら前記の極圧膜、反応生成被膜及び吸着膜の特定の組合せがもたらす相乗効果により、金属の表面に緻密で強固な被膜が形成されると考えられ、これにより潤滑性が増すとともに、金属同士の接触が抑制されて、摩耗が減少する。
【0009】
本発明の流体軸受は、請求項1から13のいずれかに記載の潤滑剤が充填されている。本発明のスピンドルモータは請求項14に記載の流体軸受を搭載している。本発明の磁気ディスク装置は、請求項15に記載のスピンドルモータを使用している。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑剤は、基油に前記の3種の添加剤(A)、(B)及び(C)を配合したことにより、特有の相乗効果が得られ、従来のリン系化合物のみを配合した場合に比べると、流体軸受内の金属部材の摩耗を抑制することができる。そのためモータの起動停止が頻繁に行われる用途のハードディスクドライブのモータの流体軸受の潤滑剤として用いた場合、信頼性の向上を図ることができる。
また、添加剤(A)、(B)及び(C)を配合すると金属の触媒作用による潤滑剤の劣化も抑制できるため、蒸発量が少なくなり、流体軸受を有するモータの長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明の最良の実施の形態を説明する。
本発明の潤滑剤は、ポリ―α―オレフィン系化合物群、エステル系化合物群、エーテル系化合物群、フッ素系化合物群、アルキルベンゼン系化合物群等から選択した少なくとも1種の化合物を基油として用いる。
この基油に添加剤の必須成分として、
添加剤(A)のナフテン酸塩、及び添加剤(B)のアルキルイミダゾール化合物を配合する。
添加剤(A)及び(B)に加えて更に、添加剤(C)の脂肪族アミン化合物を配合する。
【0012】
前記添加剤(A)のナフテン酸塩の具体例としては、ナフテン酸リチウム、ナフテン酸マグネシウム、ナフテン酸アルミニウム、ナフテン酸カルシウム、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸バリウム、ナフテン酸鉛などが挙げられる。中でもナフテン酸亜鉛が極圧性能が高く、環境負荷が小さいため好ましい。
前記添加剤、(B)及び(C)のそれぞれの具体的な化合物名は、添加剤(B1)の2位直鎖アルキルイミダゾール、及び添加剤(C1)の第1級アミン化合物である。
【0013】
前記添加剤(B1)の2位直鎖アルキルイミダゾールの具体例としては、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、2−ブチルイミダゾール、2−ペンチルイミダゾール、2−ヘキシルイミダゾール、2−ヘプチルイミダゾール、2−オクチルイミダゾール、2−ノニルイミダゾール、2−デシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ドデシルイミダゾール、2−トリデシルイミダゾール、2−テトラデシルイミダゾール、2−ペンタデシルイミダゾール、2−ヘキサデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−オクタデシルイミダゾールなどが挙げられる。中でも2−ウンデシルイミダゾールが汎用性や被膜形成能力が高いため好ましい。
【0014】
前記添加剤(C1)の第1級アミン化合物の具体例としては、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミンが挙げられる。中でもオクタデシルアミンが汎用性や被膜形成能力が高いため好ましい。
上記各添加剤の添加量は以下の通りである。
【0015】
添加剤(A)のナフテン酸塩の添加量は、0.1重量%から5重量%であることが好ましく、0.5重量%から2重量%がさらに好ましい。
添加剤(B)のアルキルイミダゾール化合物の添加量は、0.01重量%から2重量%であることが好ましく、0.05重量%から0.5重量%がさらに好ましい。
添加剤(C)の脂肪族アミン化合物の添加量は、0.01重量%から2重量%であることが好ましく、0.05重量%から0.5重量%がさらに好ましい。
【0016】
これら本発明の添加剤の添加量は前記の下限値未満であれば、摩耗の抑制効果はほとんどない。また、上記の添加量の上限値より多ければ効果はあるものの経済的に不利であるとともに、添加剤の溶解性が低下し、室温以下の低温で析出する場合が生じるため不適当である。
基油の酸化を抑制する目的で、酸化防止剤を1種または2種以上配合することが好ましい。酸化防止剤としては公知の化合物を選択することができる。具体的には、硫黄及び塩素を分子中に含まないフェノール系または同様のアミン系酸化防止剤が最適である。中でも、耐熱性の高い、フェノール基を2個以上含有するフェノール系酸化防止剤が好ましい。この場合、併せてアミン系酸化防止剤も添加すると、相乗効果が得られる場合があり好ましい。酸化防止剤の添加量は0.01重量%から5重量%であることが好ましい。0.01%未満であれば酸化の抑制効果がほとんどない。5%より多ければ効果はあるものの経済的に不利であり、酸化防止剤の潤滑剤に対する溶解性が低下し、室温以下の低温で析出する場合が生じるため、不適当である。より好ましくは、0.05重量%から2重量%である。
【0017】
また、必要に応じて、油性剤、極圧剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、防錆剤、腐食防止剤、金属不活性剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、導電性付与剤などの添加剤を配合してもよい。これらは、基油の性能を向上させ、補完する目的で用いる公知の化合物であり、これらの中から必要に応じて選択することができる。
《実施例1》
【0018】
本発明の実施例1の潤滑剤を以下に説明する。
実施例1の潤滑剤は基油としてエステル系化合物であるセバシン酸ジオクチル(以下、DOSと略す)を用いる。このDOSに添加剤として以下のものを添加する。
実施例1:基油に、ナフテン酸塩であるナフテン酸亜鉛を1重量%及び2位直鎖アルキルイミダゾールである2−ウンデシルイミダゾールを0.1重量%添加。
《実施例2から実施例4》
【0019】
本発明の実施例2から実施例4の潤滑剤を説明する。
実施例2から実施例4の潤滑剤は基油としてDOSを用いる。このDOSに添加剤として以下のものを添加する。
実施例2:基油に、ナフテン酸塩であるナフテン酸亜鉛を1重量%及び2位直鎖アルキルイミダゾールである2−ウンデシルイミダゾールを0.1重量%及び第1級アミン化合物であるオクタデシルアミンを0.1重量%添加。
実施例3:基油に、ナフテン酸塩であるナフテン酸亜鉛を2重量%及び2位直鎖アルキルイミダゾールである2−ウンデシルイミダゾールを0.1重量%及び第1級アミン化合物であるオクタデシルアミンを0.1重量%添加。
実施例4:基油に、ナフテン酸塩であるネフテン酸亜鉛を1重量%及び2位直鎖アルキルイミダゾールである2−ウンデシルイミダゾールを0.5重量%及び第1級アミン化合物であるオクタデシルアミンを0.5重量%添加。
更に酸化防止剤として所望の添加剤を配合するのが好ましい。
【0020】
実施例1から実施例4の潤滑剤、及び下記に挙げる複数の比較例1から比較例7の潤滑剤について耐摩耗性を調べるため、当技術分野ではよく知られているファレックス試験を行った。ファレックス試験では、φ5mmのSUS420のシャフトとNiメッキした真鍮のV字ブロックを用いた。これらは流体軸受に使用される材料と同じ組合せの一例である。そして、シャフトVブロックに荷重10kgを印加して、シャフトを回転させる。シャフトの回転数は300rpmであり、試験時間は3時間である。
3時間の試験後、シャフト及びVブロックの試験前の総重量と試験後の総重量を測定し、試験前後の総重量の差から摩耗量を算出した。
比較例1から比較例7の潤滑剤の成分は以下の通りである。基油はすべてDOSを使用している。
【0021】
比較例1:基油のみ。
比較例2:基油に、リン酸エステル系化合物である、リン酸トリオクチルを1重量%添加。
比較例3:基油に、ナフテン酸亜鉛を1重量%添加。
比較例4:基油に、ナフテン酸亜鉛を2重量%及びオクタデシルアミンを0.1重量%添加。
比較例5:基油に、2−ウンデシルイミダゾールを0.1重量%添加。
比較例6:基油に、2−ウンデシルイミダゾールを0.1重量%及びオクタデシルアミンを0.1重量%添加。
比較例7:基油に、オクタデシルアミンを0.1重量%添加。
【0022】
また、添加剤による金属触媒作用の抑制効果を評価するため、潤滑剤の蒸発量試験を以下の方法で行った。
実施例1から実施例4の潤滑剤、及び比較例1から比較例7の潤滑剤をそれぞれ10g採取し、φ50mmのシャーレに入れる。それぞれのシャーレの潤滑剤の中にSUS420の粉末10gを浸漬し、温度150℃に保って48時間放置する。48時間経過後それぞれ潤滑剤とSUS420の粉末の合計重量を計測する。試験前後の合計重量の差から蒸発量を算出した。
【0023】
前記の2つの試験の結果から得られた摩耗量及び蒸発量を図1及び図2の棒グラフで表す。図1は摩耗量(単位mg)を示し、図2は蒸発量(単位g)を示す。
通常、被膜形成能力を持つ添加剤は、複数添加しても金属表面に最も作用しやすい添加剤の効果しか得られない。しかし、図1及び図2から判るように、実施例1から実施例4の潤滑剤における摩耗量及び蒸発量は、比較例1から比較例7のものより少ない。これらは、本発明の組合せの場合にのみ発現する相乗効果がによるものと推察される。また実施例1から実施例4の潤滑剤を比較すると、実施例2の潤滑剤が摩耗量、蒸発量ともに最も少ない。
【0024】
本発明の潤滑剤を用いて金属部材の潤滑を行うとき、各添加剤により以下のような潤滑作用が生じるものと思われる。
ナフテン酸亜鉛の作用は以下のように推察される。ナフテン酸亜鉛と摩耗により活性化された金属の新生面が摩擦熱によって反応することにより、金属の表面に極圧膜が形成される。この極圧膜が、摺動する2つの金属部材間に介在することにより、金属部材の直接接触を防ぎ摩耗を抑制し焼き付きを防止する。
2−ウンデシルイミダゾールの作用は以下のように推察される。2−ウンデシルイミダゾールのイミダゾール基と金属との反応により、金属の表面に反応生成被膜が形成される。
【0025】
オクタデシルアミンの作用は以下のように推察される。オクタデシルアミンが金属表面に接すると、オクタデシルアミンの極性を有するアミノ基が金属表面に静電気的に吸着され、被膜を形成する。
本発明の潤滑剤は、添加剤(A)による極圧膜、及び添加物(B)による反応生成被膜の特定の組合せがもたらす相乗効果により、金属表面に緻密で強固な被膜が形成され金属同士の接触が抑制されて、摩耗が少なくなると考えられる。
前記添加剤(A)による極圧膜及び添加剤(B)による反応生成被膜に加えて、添加剤(C)による吸着膜が加わると、これらの特定の組合せがもたらす相乗効果により金属の表面にさらに緻密で強固な被膜が形成され、金属同士の接触が抑制されて摩耗が少なくなると考えられる。
【0026】
本発明の実施例1から実施例4の潤滑剤では、前記のように金属の表面に添加剤による緻密で強固な被膜が形成されるため、基油が金属の表面に接触しにくくなる。そのため基油を構成する有機化合物の分子構造の一部の結合の切断を促進する金属の触媒作用が働きにくくなる。その結果として基油の蒸発が抑制される。潤滑剤の蒸発成分は基油であるので、基油の蒸発が抑制されると、潤滑剤の蒸発も抑制されることになる。
《実施例5》
【0027】
実施例5は、前記実施例1から実施例4の潤滑剤を充填した流体軸受を用いたスピンドルモータに関するものであり、その要部の断面を図3に示す。図3に示すスピンドルモータに所定数の磁気ディスク18を取り付けることによりハードディスクドライブが構成される。
図3に示すスピンドルモータは、ベース8に軸10の一端が固定されている。軸10の他端にはスラストフランジ11が取り付けられている。軸10はスリーブ12の軸受孔12aに挿入されている。スリーブ12のスラストフランジ11を含む空間はスラストプレート15により密閉されている。
【0028】
軸10の外周及び軸受孔12aの内周の少なくとも一方に、ラジアル動圧発生溝13が形成されている。またスラストフランジ11、スラストプレート15及びスリーブ12の段部の少なくとも1つに、スラスト動圧発生溝(図示省略)が形成されている。スリーブ12にはハブ16が取り付けられている。ハブ16の内周部にはバックヨーク21及びロータマグネット17が取り付けられている。ベース8には、ロータマグネット17に対向するようにステータコイル19が取り付けられている。
軸10とスリーブ12の軸受孔12aとの間、スラストフランジ11とスラストプレート15との間には、本発明の実施例1から実施例4の少なくとも1種の潤滑剤20が充填されている。
【0029】
ステータコイル19に通電すると、スリーブ12及びハブ16はロータマグネット17に生じる駆動力により回転する。回転により潤滑剤に動圧が発生して、軸10及びスラストフランジ11は、スリーブ12及びスラストプレート15に非接触で回転する。
図3に示すスピンドルモータは、一般的な軸固定型の流体軸受を有するものであるが、本発明の潤滑剤は、軸回転型の流体軸受を含むあらゆる形式、形状の流体軸受にも適用可能であり、その場合でも前記の図1及び図2に示すように軸受部材の摩耗量が少なくかつ潤滑剤の蒸発量が少ないという効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、小型かつ長寿命のスピンドルモータの流体軸受に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例1から4の潤滑剤と比較例1から7の潤滑剤とを比較した、摩耗量を示すグラフ
【図2】本発明の実施例1から4の潤滑剤と比較例1から7の潤滑剤とを比較した、蒸発量を示すグラフ
【図3】本発明の潤滑剤を充填した流体軸受を有するスピンドルモータの要部断面図
【符号の説明】
【0032】
8 ベース
10 軸
11 スラストフランジ
12 スリーブ
12a 軸受孔
13 ラジアル動圧発生溝
15 スラストプレート
16 ハブ
17 ロータマグネット
18 磁気ディスク
19 ステータコイル
20 潤滑剤
21 バックヨーク



【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤の主要材料としての基油、
前記基油に添加した、添加剤(A)としてのナフテン酸塩、及び
添加剤(B)としてのアルキルイミダゾール化合物
を有する潤滑剤。
【請求項2】
前記添加剤(B)が、2位直鎖アルキルイミダゾール化合物である請求項1記載の潤滑剤。
【請求項3】
前記添加剤(A)がナフテン酸亜鉛、前記添加剤(B)が2−ウンデシルイミダゾールである請求項1記載の潤滑剤。
【請求項4】
前記添加剤(A)の添加量が0.1重量%から5重量%の範囲にあり、
前記添加剤(B)の添加量が0.01重量%から2重量%の範囲にある請求項1から3のいずれかに記載の潤滑剤。
【請求項5】
前記添加剤(A)の添加量が0.5重量%から2重量%の範囲にあり、
前記添加剤(B)の添加量が0.05重量%から0.5重量%の範囲にある請求項1から3のいずれかに記載の潤滑剤。
【請求項6】
潤滑剤の主要材料としての基油、及び
前記基油に添加した、添加剤(A)としてのナフテン酸塩、
添加剤(B)としてのアルキルイミダゾール化合物、及び
添加剤(C)としての脂肪族アミン化合物
を有する潤滑剤。
【請求項7】
前記添加剤(B)が、2位直鎖アルキルイミダゾール化合物であり、前記添加剤(C)が第一級アミン化合物である請求項6記載の潤滑剤。
【請求項8】
前記添加剤(A)がナフテン酸亜鉛、前記添加剤(B)が2−ウンデシルイミダゾールであり、前記添加剤(C)がオクタデシルアミンである請求項6記載の潤滑剤。
【請求項9】
前記添加剤(A)の添加量が0.1重量%から5重量%の範囲にあり、
前記添加剤(B)の添加量が0.01重量%から2重量%の範囲にあり、
前記添加剤(C)の添加量が0.01重量%から2重量%の範囲にある請求項6から8のいずれかに記載の潤滑剤。
【請求項10】
前記添加剤(A)の添加量が0.5重量%から2重量%の範囲にあり、
前記添加剤(B)の添加量が0.05重量%から0.5重量%の範囲にあり、
前記添加剤(C)の添加量が0.05重量%から0.5重量%の範囲にある請求項6から8のいずれかに記載の潤滑剤。
【請求項11】
前記基油が、ポリ―α―オレフィン系化合物群、エステル系化合物群、エーテル系化合物群、フッ素系化合物群、アルキルベンゼン系化合物群から選択した少なくとも1つである請求項1から10のいずれかに記載の潤滑剤。
【請求項12】
さらに、前記基油に、酸化防止剤を添加したことを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の潤滑剤。
【請求項13】
流体軸受用として用いることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の潤滑剤。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載の潤滑剤が充填された流体軸受。
【請求項15】
請求項14に記載の流体軸受を搭載したスピンドルモータ。
【請求項16】
請求項15に記載のスピンドルモータを使用した磁気ディスク装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−291042(P2006−291042A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113827(P2005−113827)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】