説明

流動床式ガス化炉、流動床式ガス化システム、アグロメーション物質分離方法

【課題】被ガス化原料を、流動媒体を有する流動床式ガス化炉を用いてガス化処理する際に、アグロメーション物質が生成した時に該アグロメーション物質を前記ガス化炉外へ取り出して分離し、流動媒体の流動障害を防止することにより、高温で効率よくガス化処理を行えるようにすること。
【解決手段】ガス化炉本体に、流動媒体を流動させるためのガスを供給するガス供給孔を有する仕切り部材を設け、該仕切り部材の仕切り面を傾斜面とする構造にすることで、アグロメーション物質を重力の作用により、傾斜面に沿って傾斜面の下端部に移動させ、傾斜部の下端部に対応する箇所に、被取り出し物を取り出し可能な取り出し部を備えることにより、アグロメーション物質をガス化炉本体外へ取り除くようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動床式ガス化炉、流動床式ガス化システム、アグロメーション物質分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物や有機性廃棄物等の被焼却材を燃焼させて焼却処理することを目的として使われる焼却炉に流動床式焼却炉がある。この流動床式焼却炉では、焼却炉本体の下部に流動床が設けられており、該流動床は通常珪砂(主成分は二酸化ケイ素:SiO)の粒体で構成されている。
【0003】
一方、焼却処理される産業廃棄物や有機性廃棄物等の被焼却材の中には、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属やカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属及びこれらの塩等のいわゆるアルカリ性物質を多く含んでいるものがある。例えば、植物系バイオマスでは稲わら、動物系バイオマスでは鶏糞などがカリウム等の前記アルカリ性物質を多く含んでいる。
【0004】
前記流動床式焼却炉において、ガス化効率を上げるためかなり高い温度(800℃以上)で燃焼処理を行うが、前記アルカリ性物質が多く含まれる被焼却材をかなり高い温度で燃焼処理すると、該被焼却材中に含まれる、例えばカリウムやナトリウム等と珪砂中のSiOとが反応して低融点化合物であるカリガラス(KO・3SiO)やソーダガラス(NaO・3SiO)等が生成する。そしてその融点はカリガラス(KO・3SiO)は約750℃、ソーダガラス(NaO・3SiO)は約635℃である。この低融点化合物は800℃以上の高温では融解して、流動媒体である珪砂の粒子表面に付着する。
その結果、該粒子同士が接触した際に粒子表面に融解状態で付着している低融点化合物の部分で粒子同士が互いにくっ付いて、流動媒体である珪砂の粒子が大粒化する大粒化現象、いわゆるアグロメーションを引き起こす。そして、この大粒化現象によって生成されたアグロメーション物質が、流動媒体である珪砂を流動しにくくさせるため、流動媒体の流動障害という問題が発生する。
【0005】
そこで、前記流動障害を防止するための技術の一例として、特開平10−185154号公報に記載されている、流動床式焼却炉による汚泥を含む産業廃棄物の処理方法が挙げられる(特許文献1)。この処理方法は、流動床の流動媒体として通常用いられる珪砂の代わりに、焼却処理する前記汚泥中に含まれていた固形分及び/又はその残渣を用いて炉床部に流動床を形成し、この流動床に下方からエアーを供給し該流動床を流動させるようになっている。
【0006】
しかし、特許文献1に記載された方法では、被焼却材(汚泥)の種類や性状の変動が大きいため、前記汚泥中に含まれていた固形分及び/又はその残渣を用いて流動床を安定して形成することは容易ではなく実用的ではなかった。
【0007】
また、前記流動障害を防止するための技術の他の例として、特開平11−132426号公報に記載されている、流動床式焼却炉における流動媒体の固化防止方法が挙げられる(特許文献2)。この固化防止方法は、被焼却材が低融点物質(例えばアルカリ金属)を多く含むSAレジン(ソルビン酸カリウム)等である場合に、被焼却材(SAレジン等)をカオリンクレーと混合して燃焼させることで、該被焼却材中のアルカリ金属とカオリンクレーとの反応により高融点を持つ鉱物を直接生成させ、低融点の化合物の生成を抑制することが意図されている。
【0008】
しかし、特許文献2に記載された方法では、被焼却材に対してカオリンクレーを均一に混合することが簡単ではなく、前記高融点化合物の生成反応を安定して進行させることは難しかった。そのため、低融点化合物が生成し、前記流動障害の問題が発生する虞があった。
【0009】
また、特許文献2に記載された方法は、流動媒体に珪砂を用いるので、カオリンクレーの添加によって低融点化合物(KO・3SiOカリガラス等)の生成割合を低下することはできるが、それでも低融点化合物は必ず生成する。焼却炉本体内の温度は、焼却を目的とする炉であることから850〜900℃(段落0045)の高温に維持されている。そのため、生成した前記低融点化合物は、焼却炉本体内で十分に融解してしまい、融解状態の前記低融点化合物を起点として流動媒体である珪砂の粒子が大粒化する大粒化現象(アグロメーション)を引き起こす問題がある。
【0010】
よって、特許文献1および特許文献2に記載された方法では、アグロメーションによるアグロメーション物質の生成を完全に抑制することは困難であった。
【0011】
以上においては、前記流動媒体の大粒化現象による前記流動障害を、流動床式焼却炉における問題として説明したが、この問題はバイオマス等の被ガス化原料を不完全燃焼させてガス化し、合成ガス(一酸化炭素と水素を含む混合ガス)を生成する流動床式ガス化炉においても、同様に生じる。
【0012】
なお、流動床式焼却炉ではないが、廃棄物を熱分解して処理する際の熱分解残留物の分別を行う技術として、特開2002−21947号公報に記載されている流動層分別装置があげられる(特許文献3)。この流動層分別装置は、空気噴出孔が形成された傾斜多孔板を流動層分別装置内に設け、熱分解残留物を噴出空気と流動媒体とにより流動化して、熱分解残留物の熱分解カーボン等の粉体と比較的重量のある残渣を分別する装置である。
【0013】
しかし、特許文献3に記載された技術において、分別される比較的重量のある残渣は、粉砕不適物などの瓦礫や金属等でありアグロメーション物質ではない。特許文献3に記載されている技術では、通常、熱分解反応器内で450℃程度に加熱して廃棄物を熱分解処理し、当該処理によって生成した熱分解ガスと熱分解残留物を排出装置によって分離した後、熱分解残留物の方は冷却装置を経てから当該流動層分別装置に投入される。従って、流動層分別装置内の温度は約40〜50℃程度となり、アグロメーション物質が生成するような高温にならないため、アグロメーション物質は生成しない。
【0014】
つまり、特許文献3に記載された流動層分別装置は、単なる分別装置であって、焼却炉ではないためアグロメーション物質が生成する状態になく、装置自体がアグロメーション物質を除去することを目的としていない。そして、分別装置であることから流動床式焼却炉と、例えば耐火性や稼動するための使用部品等の点で構造が全く異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平10−185154号公報
【特許文献2】特開平11−132426号公報
【特許文献3】特開2002−219417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、その目的は、被ガス化原料であるバイオマス等の有機性廃棄物や産業廃棄物等を、流動媒体を有する流動床式ガス化炉を用いてガス化処理する際に、アグロメーション物質が生成した時に該アグロメーション物質を前記ガス化炉外へ取り出して分離し、流動媒体の流動障害を防止することにより、高温で効率よくガス化処理を行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために本発明の第1の態様である流動床式ガス化炉は、ガス化炉本体と、流動媒体を流動させるためのガスを供給するガス供給孔を有する仕切り部材を備えた流動床式ガス化炉であって、前記仕切り部材の仕切り面は傾斜面に形成され、前記ガス化炉本体の前記傾斜面の下端部に対応する箇所に、被取り出し物を取り出し可能な取り出し部を備えていることを特徴とするものである。
【0018】
本態様によれば、流動床式ガス化炉内で大粒化現象が起こり、そして、この大粒化現象(以下「アグロメーション」という)によって大粒化物質(以下「アグロメーション物質」という)が生成した場合であっても、生成したアグロメーション物質は、粒径が流動媒体よりも大きくなることにより、同じ流動化ガス量では浮遊しにくくなり、流動媒体中を沈んでいき流動床の下方へ集まり、そして、仕切り部材の仕切り面が傾斜面を形成していることから、傾斜面に沿って傾斜面の下端部へ移動し取り出し部からガス化炉本体の外へ取り出される。したがって、流動床中にはアグロメーション物質は通常の流動床式ガス化炉と比較して少なく、流動媒体の流動障害の発生を抑制する効果を有している。またアグロメーション物質が生成しても自動的にガス化炉本体の外へ取り出すことができるため、アグロメーション物質が生成するような高温でガス化炉を稼動させても、ガス化効率の低下を招くことがない。
【0019】
本発明の第2の態様である流動床式ガス化システムは、第1の態様の流動床式ガス化炉と、前記ガス化炉の前記取り出し部から取り出された被取り出し物から、流動媒体を分離する第1分離部と、前記第1分離部で分離された流動媒体を、前記流動床式ガス化炉内に戻す第1戻し手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0020】
本態様によれば、ガス化炉の取り出し部から取り出された被取り出し物から、第1分離部によって流動媒体を分離し、分離した流動媒体を再び流動床式ガス化炉に戻すことで効率よくガス化を行うことができる。
例えば、アグロメーション物質とともに流動床式ガス化炉から取り出された流動媒体を、第1分離部によってアグロメーション物質と分離して流動床式ガス化炉内に戻すことにより、再度流動媒体として使用できるので、取り出されて減少した分の流動媒体を全量新たに加えることなく、少量加えればよいので、効率よくガス化を行うことができる。
【0021】
本発明の第3の態様である流動床式ガス化システムは、第2の態様の流動床式ガス化システムにおいて、前記被取り出し物から前記流動媒体が分離された残部に対して粉砕処理する粉砕処理手段と、前記粉砕処理手段による処理物から流動媒体を分離する第2分離部と、前記第2分離部で分離された流動媒体を、前記流動床式ガス化炉内に戻す第2戻し手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0022】
本態様によれば、第2の態様の効果において、被取り出し物から前記流動媒体が分離された残部、例えばアグロメーション物質を粉砕処理手段によって粉砕し第2分離部で流動媒体と低融点物質の溶融物とに分離して、流動媒体を流動床式ガス化炉内に戻すことにより、再度流動媒体として使用できるので、第2の態様によって流動床式ガス化炉内に戻した流動媒体と加えて使用することで、取り出されて減少した分の流動媒体を新たに加えることなく、効率よくガス化を行うことができる。
【0023】
本発明の第4の態様であるアグロメーション物質分離方法は、流動床式ガス化炉の炉内温度を635℃以上にして流動媒体を仕切り部材上で流動化する第1工程と、前記仕切り部材の仕切り面を傾斜面に形成し、流動媒体が大粒化したアグロメーション物質を重力の作用によって、前記傾斜面を介して該傾斜面の下端部に導き、流動床式ガス化炉の本体外に取り出す第2工程と、を有することを特徴とするものである。
【0024】
本態様によれば、流動床式ガス化炉の炉内温度を635℃以上とすることで、流動床式ガス化炉内におけるガス化反応の効率を低下させないような状態で該ガス化炉を稼動させることができる。さらに、635℃以上とすると前述した低融点化合物が溶融し、これが流動媒体の表面に付着してアグロメーション物質が生成されるが、アグロメーションによって粒径が流動媒体よりも大きくなることにより、同じ流動化ガス量では浮遊しにくくなり、アグロメーション物質は流動床の下方へ集まり、仕切り部材の仕切り面に傾斜面が形成されていることから、重力の作用によって、傾斜面の下端部にまで導かれ流動床式ガス化炉より自動的に取り出すことができる。よって、流動床中の流動媒体の流動障害を防止することができるという効果を有している。
【0025】
本発明の第5の態様であるアグロメーション物質分離方法は、第4の態様のアグロメーション物質分離方法において、前記アグロメーション物質と一緒に取り出された被取り出し物から前記流動媒体を分離して、前記流動床式ガス化炉内に戻す第3工程とを有することを特徴とするものである。
【0026】
本態様によれば、第4の態様の効果に加えて、第3の態様の効果も有している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る流動床式ガス化炉の概略図である。
【図2】本発明に係る流動床式ガス化炉の仕切り部材周辺部の拡大図と仕切り部材の一部拡大図である。
【図3】本発明に係る流動床式ガス化システムの第1の実施形態に係る概略構成図である。
【図4】本発明に係る流動床式ガス化システムの第2の実施形態に係る概略構成図である。
【図5】アグロメーション物質の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る流動床式ガス化炉、流動床式ガス化システム及びそれらを用いたアグロメーション物質分離方法についての実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0029】
図1には本発明に係る流動床式ガス化炉の概略図が示されている。
流動床式ガス化炉1は、縦型で内部に空間を有するガス化炉本体15を備え、ガス化炉本体15の上部にはフリーボード部2が、下部には流動媒体3’で構成された流動床3が設けられている。更に、流動床3の下部には3つに分割されたウィンドボックス41、42、43が設けられ、各ウィンドボックスにはガス供給装置11から流動媒体3’を流動させるためのガスを供給するバルブbが設けられたガス供給管51、52、53が接続されている。
【0030】
流動床3とウィンドボックス41、42、43は仕切り部材6によって仕切られており、仕切り部材6の仕切り面61は傾斜面に形成され、傾斜面下端部Xは被取り出し媒体を取り出すための取り出し部Yとつながっている。このような構造とすることで、例えば、被取り出し媒体である、流動床内で生成された比較的重量が大きいアグロメーション物質Aを、重力の作用によって傾斜面に沿って移動させ傾斜面の下端部Xを経て取り出し部Yへ導き、流動床式ガス化炉1外へ取り出すことができる。
【0031】
仕切り部材6にはガス供給孔62が設けられ、ウィンドボックス41、42、43中にガス供給管51、52、53から供給されたガスを、ガス供給孔62を通じて流動床3に送り込むように構成されている。そして流動床3に送り込まれたガスは、流動媒体3’を流動(浮揚)させるとともに、流動床3において被ガス化原料供給装置7からガス化炉本体15へ投入された被ガス化原料Mを不完全燃焼させて合成ガスを生成するために使用される。
【0032】
ガス供給管51、52、53から供給されるガスは、前述したように流動媒体3’を流動させる流動化ガスとしての役割と、被ガス化原料Mを不完全燃焼させるための役割を果たしており、一般的には空気が用いられる。しかし、酸化作用を有する物質であれば、特に空気に限定されるものではなく、例えば、水蒸気、酸素、酸素富化空気でも良い。
【0033】
仕切り部材6の構造は、仕切り部材6周辺の拡大図である図2(A)に示したように、前述したガス供給孔62を覆うように先端部が折り返された部分R’を有するルーバーRを仕切り面61に複数設けるルーバー構造としてもよい。このような構造とすることで、流動床式ガス化炉1の稼動を停止した際、仕切り部材6の一部拡大図である図2(B)に示したように、ルーバーR及びその先端部が折り返された部分R’の部分が、ガス供給孔62を覆うひさしのような機能を果たすため、流動媒体3’がウィンドボックス41、42、43内に落ち込んでいかないという効果を有している。
【0034】
次に、流動床3を構成する流動媒体3’の例としては二酸化珪素を主成分とする珪砂が挙げられるが、珪砂と他の物質の混合物でもよい。例えば、被ガス化原料M中のアルカリ物質と反応して高融点化合物を生成するアルミナを含む混合物でもよく、さらに珪砂、アルミナ及び他の物質との混合物であっても良い。
なお、流動媒体3’の珪砂の平均粒径は約100〜750ミクロン程度のものが通常使用されるが、これに限定されない。
【0035】
さらに、ガス(酸化剤)を流動床3に供給して該流動床3を流動状態に維持する速度、すなわち、流動化ガス速度(Uf)と、ガス(酸化剤)を流動床3に供給し続けて流動媒体3’が流動し始める時の速度、すなわち流動化開始速度(Umf)の比を、ガス化炉本体15の運転状況に応じて所定の数値に設定することにより、流動床3中の流動媒体3’を適切な流動(浮揚)状態にすることができる。流動床3へのガス(酸化剤)供給速度(流動化ガス速度Uf)は、流動床3に供給されるガス(酸化剤)の流量が流量計Fにより計測され、その値がガス供給装置11内に設けられた制御部に送られることにより適切に制御される。
【0036】
被ガス化原料Mは、流動床3の側面に設けられた被ガス化原料供給装置7によって、直接流動床3に供給され、流動している流動媒体3’によって不完全燃焼させられる。上部から投入せずに直接流動床に投入することにより、流動床3内の流動媒体3’と被ガス化原料が投入後直ぐに接触して不完全燃焼することから、効率よくガス化を行うことが出来る。なお、従来のように流動床式ガス化炉1の上部に原料投入口を設け、被ガス化原料を流動床式ガス化炉の上部から投入するようにしてもよい。
【0037】
なお、流動媒体3’は、流動床式ガス化炉1より取り出されないのが理想であるが、重力の作用を利用してアグロメーション物質Aを流動床式ガス化炉1外へ取り出しているため、少なからずアグロメーション物質Aとともに流動床式ガス化炉1外へ取り出される。よって、流動床式ガス化炉1内では、アグロメーション物質Aを構成する分(後述)とアグロメーション物質Aとともに少なからず流動床式ガス化炉1から取り出される分との双方の量の流動媒体3’が減少するので、その減少した分は、適宜、補充用流動媒体供給装置8から補充できるように構成されている。
【0038】
流動床3の温度は635〜900℃に設定するのが好ましい。更に好ましい範囲は650〜750℃である。流動床の温度が635℃より低くなると、流動床式ガス化炉におけるガス化反応が低下しガス化効率が悪くなってしまう。
【0039】
一方、635℃以上とすると前述した低融点化合物が溶融し、これが原因でアグロメーション物質が生成される。しかし、本発明に係る流動床式ガス化炉であれば、アグロメーション物質は、仕切り部材6の仕切り面61に傾斜面が形成されているため重力の作用によって、傾斜面の下端部Xにまで導かれ取り出し部Yで流動床式ガス化炉より取り出すことができる。その結果、流動媒体3’の流動障害を防止することができる。つまり、本発明に係る流動床式ガス化炉1は、ガス化効率を低下させることなく、すなわちガス化炉本体15の温度を高温にして稼動させることができ、かつ流動媒体3’の流動障害を防止することができる。
【0040】
流動床3内の温度は、該流動床3内に設けられた熱電対32によって測定され、温度制御部71に伝えられる。温度制御部71は熱電対31によって測定された測定値を参照しながら、被ガス化原料供給装置7へ電気信号を送り、被ガス化原料Mの流動床3への供給を調整することにより、本発明の実施形態における流動床3の温度がガス化効率の高い設定温度(650〜750℃)に維持されるように流動床3の温度を制御する。
【0041】
次に、流動床3の温度制御について詳述する。
最初に、流動床式ガス化炉1の運転を始める際には、ガス供給装置11からガス供給管51、52、53を通じて流動化ガスとしての酸化剤(例えば空気)をウィンドボックス41、42、43に供給し、ガス供給孔62から流動床3に供給し、流動媒体3’を流動(浮揚)させながら昇温バーナー10で流動媒体3’を加熱する(空気比は約1の状態)。
【0042】
次に、熱電対31によって測定される流動床3内の温度が、所定の温度になったら温度制御部71から被ガス化原料装置7へ電気信号を送り、被ガス化原料Mを流動床3内に投入する(空気比は約0.3〜0.6の状態に調整する)。そして、被ガス化原料Mが流動媒体3’によって不完全燃焼させられ、その際発生する部分酸化(一酸化炭素の生成)の熱によって流動媒体3’自体の温度、つまり流動床3内の温度が維持される。また、熱電対31によって測定される流動床3内の温度が所定の温度よりも上昇して過熱状態になりそうな場合には、温度制御部71から被ガス化原料装置7へ電気信号を送り、被ガス化原料Mの流動床3内への投入量を減らすことにより過熱状態になるのを抑制する。
【0043】
最後に、流動床式ガス化炉1の運転を止める際には、被ガス化原料Mの投入を停止する。ただし、しばらくの間は流動化ガスである酸化剤の供給は続けるようにしておく。これにより、流動床3内の温度を低下させるとともに、流動床3内に残っているアグロメーション物質Aを仕切り部材6の仕切り面61に形成された傾斜面に沿って傾斜面下端部Xに移動させて、つながっている取り出し部Yから流動床式ガス化炉外へ取り出す。
【0044】
なお、流動床3内に投入する被ガス化原料Mが多い場合には、昇温バーナー10の上部に設けられたガス2次吹き込み口12を使用してガス(酸化剤)を供給するようにする。被ガス化原料Mが多いときに、ガス供給装置11から流動化ガスとしての酸化剤を多く供給すると、すなわち酸化剤の流量を多くすると、流動媒体3’が上部に浮揚し過ぎる状態となり、効率よくガス化ができない状態が生じる。そこで、このような状態を生じさせないように、ガス供給装置11から供給する酸化剤の流量をある程度抑えて、その抑えた分のガス(酸化剤)をガス2次吹き込み口12を使用して供給するようになっている。
【0045】
本発明で使用される被ガス化原料Mは、いわゆる産業廃棄物や有機性廃棄物と言われる物である。産業廃棄物としては、金属やプラスチック等が挙げられる。また有機性廃棄物としてはバイオマス、例えば、稲わら、麦わら、籾殻、竹、笹、パーム椰子空果房、パーム椰子の幹、バガス等サトウキビ由来の廃材等の草本系バイオマス、製材所の残材、間伐材(杉、松、檜、ラワン、ブナ、ゴム、イチジク等)、街路樹剪定材、建築廃材、廃電柱、バーク、ダム流木等の木質系バイオマス、畜産系残渣の一例である鶏糞等の畜産由来のバイオマス、更に、発酵残渣、食品残渣、黒液、海藻等が挙げられる。
【0046】
次に、図3から図5を参照しながら本発明に係る流動床式ガス化システム及びアグロメーション物質分離方法について説明する。
図3には、本発明に係る流動床式ガス化システムの第1の実施態様が示されている。
本態様では、前述した本発明に係る流動床式ガス化炉1から取り出された被取り出し物(流動媒体3’、アグロメーション物質A)を、第1分離部100によって流動媒体3’とアグロメーション物質Aに分離し、流動媒体3’は第1戻し手段110を経て流動床式ガス化炉1に戻し、アグロメーション物質Aは廃棄するように構成された態様である。
【0047】
取り出し部Yに移動してきた被取り出し物、本態様では流動媒体3’とアグロメーション物質Aは、取り出し部Yの下流に設けられた流動媒体抜き出し装置9によって、流動床式ガス化炉1から取り出され第1分離部100に送られて、そこで流動媒体3’とアグロメーション物質Aとに分離される。
【0048】
分離された流動媒体3’は、第1戻し手段110の戻しライン120を経てその一部を構成する貯留部81に送られ、そこから、これもまた第1戻し手段110の一部を構成する補充用流動媒体供給装置8に送られ、流動床式ガス化炉1に戻される。このように一度、流動床式ガス化炉1から取り出された流動媒体3’を再度使用することにより、新たに使用する流動媒体3’の使用量を節約することができる。なお、貯留部81を経ずに、直接補充用流動媒体供給装置8に分離された流動媒体3’を送り込んでもよい。貯留部81や補充用流動媒体供給装置8に分離された流動媒体3’を送り込む装置としてはコンベア、等を用いることができる。
一方、流動媒体3’と分離されたアグロメーション物質Aは廃棄処理される。
【0049】
ここで、第1分離部は、流動媒体3’とアグロメーション物質を分離できるものであれば公知の装置等が使用できる。例えば振動篩い、トロンメル(回転篩い)、傾斜スクリーン等が挙げられる。アグロメーション物質Aの平均粒径は5〜20ミリ(中にはもっと大きいものもある)であり、流動媒体3’の一態様として使用される珪砂の平均粒径よりも相当大きいので、流動媒体として珪砂を使用した場合には第1分離部100において流動媒体3’とアグロメーション物質Aとは、ほぼ完全に分離することができ、流動床式ガス化炉1に戻される流動媒体3’にはほとんど不純物が含まれずそのまま使用することができる。
【0050】
図4には、本発明に係る流動床式ガス化システムの第2の実施態様が示されている。
本態様の説明においては、第1の実施態様と重複する部分の説明は省略し、本態様の特徴的な部分について説明する。
ここで、図5を参照にしながらアグロメーション物質Aについて説明する。前述したように、本発明に係る流動床式ガス化炉1は高温で稼動させるので(約635℃以上、好ましくは650℃以上)、低融点化合物が溶けた状態の溶融物Bが生成する。
【0051】
図5にアグロメーション物質Aの拡大図が示されているが、アグロメーション物質Aは流動媒体3’と溶融物Bからなり、流動媒体3’の表面に付着している溶融物Bによって流動媒体3’同士がくっつけられて大粒径物、すなわちアグロメーション物質が生成する。
本態様では、第1の実施態様で第1分離部によって分離されたアグロメーション物質を粉砕処理手段230によって粉砕し、粉砕物を第2分離部200によって動媒体3’と溶融物Bに分離し、分離した流動媒体3’を第2戻し手段210の戻しライン210を経て流動床式ガス化炉1に戻すように構成されている。
【0052】
粉砕処理手段230においては、アグロメーション物質から流動媒体3’に付着している溶融物Bが脱落するような粉砕を行い、第2分離部200によって粉砕物を流動媒体3’と溶融物Bとに分離する。そして分離した流動媒体3’は、第2戻し手段210を経てその一部を構成する貯留部81(第1戻し手段と共通)に送られ、そこから、第2戻し手段210の一部を構成する補充用流動媒体供給装置8(第1戻し手段と共通)に送られ、流動床式ガス化炉1に戻される。
【0053】
このように、第2分離部200によってアグロメーション物質Aから溶融物Bと分離した流動媒体3’を流動床式ガス化炉1に戻して、第1分離部100よってアグロメーション物質Aと分離され第1戻し手段110によって流動床式ガス化炉1に戻されている流動媒体3’と一緒にすることにより、流動媒体3’の損失を極力減らすことが可能となる。これにより、前記流動床式ガス化炉1の稼動初期の流動媒体3’の量とほぼ同一の量が確保でき、新たに追加する流動媒体3’の量が極力減らせるので該ガス化炉1の稼動効率を上げることができる。
【0054】
なお、貯留部81を経ずに、直接補充用流動媒体供給装置8に分離された流動媒体3’を送り込んでもよい。貯留部81や補充用流動媒体供給装置8に分離された流動媒体3’を送り込む装置としてはコンベア、気流搬送機等を用いることができる点については、第1の態様と同様である。
一方、流動媒体3’と分離された溶融物Bは廃棄処理される。
【0055】
本発明を使用して生成された合成ガスは、生成ガス排出口13を経て、生成ガス収集装置14で収集された後、精製されてエタノール、メタノール、混合アルコール等の有用な物質の合成に用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
上述したように、本発明によれば、被ガス化原料を、流動媒体を有する流動床式ガス化炉を用いてガス化処理する際に、アグロメーション物質が生成した時は該アグロメーション物質を前記ガス化炉外へ取り出して分離し、流動媒体の流動障害を防止することにより、高温で効率よくガス化処理を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0057】
1 流動床式ガス化炉 2 フリーボード 3 流動床 3’ 流動媒体 41、42、43 ウィンドボックス 51、52、53 ガス供給管 6 仕切り部材 61 仕切り面 62 ガス供給孔 7 被ガス化原料供給装置 8 補充用流動媒体供給装置、 81 貯留部 9 アグロメ物質等抜出し装置 10 昇温バーナー 11 ガス供給装置 12 ガス2次吹き込み口 13 生成ガス排出口 14 生成ガス収集装置 15 ガス化炉本体 100 第1分離部 110 第1戻し手段 120 第1戻し手段の戻しライン 200 第2分離部 210 第2戻し手段 220 第2戻し手段の戻しライン 230 粉砕処理手段 A アグロメーション物質 B 溶融物 X 傾斜面下端部 Y 取り出し部 b バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス化炉本体と、
流動媒体を流動させるためのガスを供給するガス供給孔を有する仕切り部材を備えた流動床式ガス化炉であって、
前記仕切り部材の仕切り面は傾斜面に形成され、
前記ガス化炉本体の前記傾斜面の下端部に対応する箇所に、被取り出し物を取り出し可能な取り出し部を備えていることを特徴とする流動床式ガス化炉。
【請求項2】
請求項1に記載された流動床式ガス化炉と、
前記ガス化炉の前記取り出し部から取り出された被取り出し物から、流動媒体を分離する第1分離部と、
前記第1分離部で分離された流動媒体を、前記流動床式ガス化炉内に戻す第1戻し手段と、を備えることを特徴とする流動床式ガス化システム。
【請求項3】
請求項2に記載された流動床式ガス化システムにおいて、前記被取り出し物から前記流動媒体が分離された残部に対して粉砕処理する粉砕処理手段と、
前記粉砕処理手段による処理物から流動媒体を分離する第2分離部と、
前記第2分離部で分離された流動媒体を、前記流動床式ガス化炉内に戻す第2戻し手段と、を備えることを特徴とする流動床式ガス化システム。
【請求項4】
流動床式ガス化炉の炉内温度を635℃以上にして流動媒体を仕切り部材上で流動化する第1工程と、
前記仕切り部材の仕切り面を傾斜面に形成し、流動媒体が大粒化したアグロメーション物質を重力の作用によって、前記傾斜面を介して該傾斜面の下端部に導き、流動床式ガス化炉の本体外に取り出す第2工程と、を有することを特徴とするアグロメーション物質分離方法。
【請求項5】
請求項4に記載されたアグロメーション物質分離方法において、前記アグロメーション物質と一緒に取り出された被取り出し物から前記流動媒体を分離して、前記流動床式ガス化炉内に戻す第3工程とを有することを特徴とするアグロメーション物質分離方法。
【請求項6】
請求項5に記載されたアグロメーション物質分離方法において、前記被取り出し物から前記流動媒体が分離された残部に対して粉砕処理する第4工程と、
前記第4工程の処理物から流動媒体を分離する第5工程と、
前記第5工程で分離された流動媒体を前記流動床式ガス化炉内に戻す第6工程と、を有することを特徴とするアグロメーション物質分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−106795(P2011−106795A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265457(P2009−265457)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】