説明

流動状油脂組成物

【課題】 流動状油脂組成物、特にパーム系油脂を多く使用しても、またトランス脂肪酸を含有せずとも、経日的に固液分離を起こすことがなく、広い温度域で良好な流動性を有する流動状油脂組成物を提供すること。
【解決手段】 油相中に、パーム軟部油をエステル交換して得られた油脂を15〜50質量%(油相基準)及び極度硬化油脂を1〜10質量%(油相基準)含有し、且つ、該油相のSFCが、10℃で5〜20であり、20℃で1〜10であって、該油相を80〜100質量%(組成物基準)含有することを特徴とする流動状油脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経日的に、固形脂が沈殿したり、液状油が表面に分離する等の固液分離を起こすことがなく、広い温度域で良好な流動性を有する流動状油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バタースポンジケーキ等に用いられるケーキ練込用油脂や、大量生産のために機械化されたラインでパンを製造する際に用いられる製パン練込用油脂には、古くから、常温で固形を呈する可塑性油脂組成物ではなく、また液状油でもなく、一定の量の固形脂や乳化剤を液状油や微水添油に分散させた、常温で流動性を呈する流動状油脂組成物(例えば特許文献1、非特許文献1参照)が使用されている。
【0003】
また、この流動状油脂組成物は、上記用途以外に、ソフトな食感を有するディップクリーム、シュガークリーム、バタークリーム、焼き残りクリーム等のクリーム状食品練込用油脂としても、広く使用されるようになってきている。
【0004】
しかし、この流動状油脂組成物は、普通に固形脂や乳化剤を液状油や微水添油に分散させただけでは、保存条件によっては、経日的に固形脂の油脂結晶が粗大化して、固形脂が沈殿したり、液状油が表面に分離する等して、固液分離を起こしてしまう。特に、パーム系油脂を使用した場合は、パーム系油脂に多く含まれる対称型油脂によって、粗大結晶が早い段階で発生して、固液分離が起こり、流動状油脂組成物としての機能を失ってしまう。
【0005】
さらに、このような固液分離しやすい流動状油脂組成物を用いると、バターケーキ等では、生地製造時の起泡性が悪化することに加え、ケーキ表面に粒状の模様が発生してしまう等の問題を生じ、また、パンでは、練り込まれにくくなることに加え、パンの体積減少、パンが老化しやすい等の問題を生じ、また、特にクリーム状食品では、固液分離に加え、耐熱性の低下、さらには、白色化、食感のざらつきを生じる等の問題があった。
【0006】
このため、固液分離し難い流動状油脂組成物、特にパーム系油脂を使用しても良好な性能を持つ流動状油脂組成物を得るために、様々な改良が行なわれてきた。例えば、異性化水添した油脂と極度硬化油脂とをエステル交換した機能性油脂を配合した油脂組成物(例えば特許文献2参照)、ナタネ微水添油、パーム中融点部及び極度硬化油脂からなる油脂組成物(例えば特許文献3参照)等のトランス脂肪酸の機能を利用した改良が行われてきた。
【0007】
しかし、特許文献2及び3それぞれに記載の油脂組成物は、固液分離耐性に乏しいことに加え、特許文献2に記載の油脂組成物は、異性化水添とエステル交換とを組み合わせて製造するため、製造方法が煩雑であるという問題があった。また、特許文献3に記載の流動状油脂組成物は、広い温度域では物性の変化がやや大きく、特に低温域(10℃以下)では使用し難いという問題があった。
また、特許文献2及び3それぞれに記載の油脂組成物は、いずれも1〜12%のトランス脂肪酸を含むものであるが、近年では、実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有する流動状油脂組成物が望まれている。
【0008】
【非特許文献1】「食用固形油脂」柳原昌一、昭和50年12月15日刊、P262〜272
【特許文献1】特開昭59−17937号公報
【特許文献2】特開平7−203847号公報
【特許文献3】特開昭56−110798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、特にパーム系油脂を多く使用しても、またトランス脂肪酸を含有せずとも、経日的に固液分離を起こすことがなく、広い温度域で良好な流動性を有する流動状油脂組成物を提供することにある。
また、本発明のさらなる目的は、ソフトで、口溶けが良好でありながら、耐熱性も良好なディップクリーム、シュガークリーム、バタークリーム、焼き残りクリーム等のクリーム状食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、パーム軟部油をエステル交換して得られた油脂、及び極度硬化油脂を使用することにより、上記目的を解決し得ることを知見した。
【0011】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、油相中に、パーム軟部油をエステル交換して得られた油脂を15〜50質量%(油相基準)及び極度硬化油脂を1〜10質量%(油相基準)含有し、且つ、該油相のSFCが、10℃で5〜20であり、20℃で1〜10であって、該油相を80〜100質量%(組成物基準)含有することを特徴とする流動状油脂組成物、及び該流動状油脂組成物を含有することを特徴とするクリーム状食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特にパーム系油脂を多く使用しても、またトランス脂肪酸を含有せずとも、経日的に、固形脂が沈殿したり、液状油が表面に分離する等の固液分離を起こすことがなく、広い温度域で良好な流動性を有する流動状油脂組成物を提供することができる。また、該流動状油脂組成物を使用したディップクリーム、シュガークリーム、バタークリーム、焼き残りクリーム等のクリーム状食品は、口溶けが良好でありながら、耐熱性も良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の流動状油脂組成物について詳述する。
【0014】
本発明に用いられるパーム軟部油は、アセトン分別やヘキサン分別等の溶剤分別、ドライ分別等の無溶剤分別等の方法によって、パーム油を分別した際に得られる低融点部であり、通常、ヨウ素価52〜70のものである。本発明に用いられるパーム軟部油としては、とりわけ、ヨウ素価が55以上のパームスーパーオレインを使用することが、より固液分離し難い流動状油脂組成物を得ることが可能な点、及び低温域(10℃以下)でも良好な流動性を得られる点で好ましく、ヨウ素価60以上のパームスーパーオレインを使用することがさらに好ましい。
また、本発明の流動状油脂組成物では、より良好な固液分離防止効果が得られる点で、アセトンを使用して分別されたパーム軟部油を使用することが好ましい。
【0015】
本発明の流動状油脂組成物は、油相中に、上記パーム軟部油をエステル交換した油脂を、油相基準で15〜50質量%、好ましくは20〜45質量%含有する。
【0016】
上記エステル交換の反応は、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよく、また、ランダムエステル反応であっても、位置選択性のエステル交換反応であってもよいが、化学的触媒又は位置選択性のない酵素を用いた、ランダムエステル反応であることが好ましい。
【0017】
上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒が挙げられ、また、上記位置選択性のない酵素としては、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes) 属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus) 属、ムコール(Mucor) 属、ペニシリウム(Penicillium) 属等に由来するリパーゼが挙げられる。なお、該リパーゼは、イオン交換樹脂あるいはケイ藻土及びセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
【0018】
本発明の効果は、上記のパーム軟部油をエステル交換して得られた油脂に代えて、未分別パーム油、未分別パーム油のエステル交換油脂、あるいはパーム硬部油のエステル交換油を使用した場合は得られない。
ここで、未分別パーム油、未分別パーム油のエステル交換油脂、あるいはパーム硬部油のエステル交換油を使用した場合には効果がなく、パーム軟部油をエステル交換して得られた油脂を使用した場合のみが、本発明の効果を奏する理由は以下の通りである。
【0019】
未分別パーム油は、対称型油脂を多く含むものであり、粗大結晶化しやすく、該パーム油を使用した流動状油脂組成物は、固液分離耐性が極めて低いものである。
また、未分別パーム油は、2〜10質量%のジグリセリドを含有する。このような部分グリセリドを多く含有する油脂をエステル交換すると、モノグリセリドが副生するため、未分別パーム油のエステル交換油脂は、わずかに乳化性を有するようになる。ただ、未分別パーム油のエステル交換油脂は、副生するモノグリセリドの含量が低いため、該エステル交換油脂を使用することにより流動状油脂組成物において有効なモノグリセリド含量を達成するためには、該エステル交換油脂を多量に配合する必要がある。しかし、該エステル交換油脂は、融点が高いため、多量に配合すると油脂組成物が流動状を呈さなくなってしまう。
また、パーム硬部油のエステル交換油脂は、もとよりジグリセリド含量が未分別パーム油より減少しているため、エステル交換反応によって副生するモノグリセリドが極めて少ない上、融点が極めて高いことから、該エステル交換油脂を使用した流動状油脂組成物では、本発明のような効果は全く得られない。
【0020】
これに対して、パーム油を分別すると、ジグリセリドは低融点部、すなわちパーム軟部油に濃縮される。そして、分別の温度が低い、すなわちヨウ素価が高いパーム軟部油ほどジグリセリドを多く含有する。そのため、ヨウ素価の高いパーム軟部油から得られたエステル交換油脂ほど、エステル交換反応によって副生するモノグリセリドが多く、高い乳化性を有する。従って、パーム軟部油から得られたエステル交換油脂を含有する本発明の流動状油脂組成物は、広い温度範囲で良好な流動性を有し、高い固液分離耐性を有する。
また、無溶剤分別(ドライ分別)やヘキサンによる分別で得られたパーム軟部油のエステル交換油脂を使用した場合に比べ、アセトンによる分別で得られたパーム軟部油のエステル交換油脂を使用した場合の方が、本発明の効果が高い理由は、以下の通りである。即ち、極性物質であるジグリセリドは、非極性溶媒であるヘキサンに対する溶解性が低く、極性溶媒であるアセトンに対する溶解性が高いため、アセトンによる分別で得られたパーム軟部油には、より多くのジグリセリドが濃縮される。よって、アセトンによる溶剤分別で得られたパーム軟部油のエステル交換油脂は、一層高い乳化性を有し、該エステル交換油脂を含有する流動状油脂組成物は、広い温度範囲でより良好な流動性を有し、一層高い固液分離耐性を有するものとなる。
【0021】
また、本発明の流動状油脂組成物は、油相中に、極度硬化油脂を油相基準で1〜10質量%、好ましくは1〜5質量%含有する。
【0022】
上記極度硬化油脂は、原料油脂に対し、ヨウ素価が好ましくは10以下、さらに好ましくは5以下、最も好ましくは1未満となるまで水素添加し、実質的に構成成分である不飽和脂肪酸をほぼ完全に飽和することによって得られる油脂であって、その融点は、好ましくは50℃以上、より好ましくは55℃以上である。
【0023】
また、上記極度硬化油脂は、上記極度硬化油脂を更に分別した硬部油、あるいは1種又は2種以上の極度硬化油脂をエステル交換したものであってもよく、また、極度硬化油脂と、飽和脂肪酸や、飽和脂肪酸を主体とする部分グリセリド等とをエステル交換したものであってもよい。本発明では、これら全てを極度硬化油脂として扱う。
【0024】
本発明の流動状油脂組成物においては、上記極度硬化油脂の中でも、微細結晶が得られ、固液分離耐性が特に優れている点において、結晶形がβプライム型である極度硬化油脂を使用することが好ましい。
【0025】
結晶形がβプライム型である極度硬化油脂の好ましい例としては、下記(1)〜(5)の油脂が挙げられる。
(1)「牛脂、豚脂、乳脂等の奇数酸を多く含む動物油脂や、ハイエルシン菜種油、魚油等の長鎖脂肪酸を多く含有する油脂」を原料油脂とした極度硬化油脂。
(2)「構成脂肪酸の平均鎖長が異なる2種又は3種以上の油脂からなる油脂配合物を、化学的あるいは酵素的にエステル交換して、構成脂肪酸の鎖長をばらつかせた油脂配合物」を原料油脂とした極度硬化油脂。
(3)「1種又は2種以上の油脂に、該油脂と構成脂肪酸の平均鎖長が異なる飽和脂肪酸又は該飽和脂肪酸を主体とする部分グリセリドを添加してなる油脂配合物を、化学的あるいは酵素的にエステル交換して、構成脂肪酸の鎖長をばらつかせた油脂」を原料油脂とした極度硬化油脂。
(4)構成脂肪酸の平均鎖長が異なる2種以上の極度硬化油脂をエステル交換した油脂。
(5)「1種又は2種以上の極度硬化油脂に、該極度硬化油脂と構成脂肪酸の平均鎖長が異なる飽和脂肪酸又は該飽和脂肪酸を主体とする部分グリセリドを添加してなる油脂配合物」を、化学的あるいは酵素的にエステル交換して、構成脂肪酸の鎖長をばらつかせた油脂。
本発明では、これらの中でも、ハイエルシン菜種油の極度硬化油脂、魚油の極度硬化油脂等、長鎖脂肪酸を多く含む油脂を原料油脂とした極度硬化油脂が、固液分離が特に少ない流動状油脂組成物を得られる点で好ましく使用される。
【0026】
なお、上記極度硬化油脂の結晶形がβプライム型であることを確認するには、極度硬化油脂を80℃で完全溶解した後、0℃で30分保持し、次いで5℃で30分間保持して析出させた油脂結晶について、2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施し、4.1〜4.3オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られることを確認すればよい。
【0027】
本発明の流動状油脂組成物においては、上記のパーム軟部油をエステル交換して得られた油脂、及び上記極度硬化油脂に加え、その他の油脂を、油相のSFCが10℃で5〜20、20℃で1〜10となるように、油相に配合する。
【0028】
上記SFCに調整するために使用するその他の油脂としては、食用に適する油脂であればよく、その代表例としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油等の常温で液体の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂、乳脂、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の常温で固体の油脂も用いることができ、更に、これらの食用油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を使用することもできる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0029】
本発明の流動状油脂組成物では、これらの食用油脂の中でも、10℃において液状である油脂を使用することが、広い温度域で良好な流動性を一層確実に得られる点で好ましく、具体的には、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油、パーム分別軟部油、パーム分別軟部油のエステル交換油の分別軟部油の中から選択される1種又は2種以上の混合油脂が好ましく使用される。
【0030】
また、本発明の流動状油脂組成物は、トランス脂肪酸を実質的に含有しないことが好ましい。なお、ここでいう「トランス脂肪酸を実質的に含有しない」とは、トランス脂肪酸の含有量が、本発明の可塑性油脂組成物に含まれる油脂の全構成脂肪酸中、好ましくは10質量%未満、さらに好ましくは5質量%以下、最も好ましくは2質量%以下であることを意味する。
【0031】
水素添加は、油脂の融点を上昇させる典型的な方法であるが、水素添加油脂は、極度硬化油脂を除いて、通常、構成脂肪酸中にトランス脂肪酸を10〜50質量%程度含んでいる。一方、天然油脂中にはトランス脂肪酸が殆ど存在せず、反芻動物由来の油脂に10質量%未満含まれているにすぎない。近年、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、即ち実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有するものも要求されている。
本発明の流動状油脂組成物においては、パーム軟部油をエステル交換して得られた油脂も、極度硬化油脂も、実質的にトランス脂肪酸を含まないため、上記その他の油脂として、水素添加油脂を使用せずに、実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂を使用することにより、トランス脂肪酸を含まずとも適切なコンステンシーを有する流動状油脂組成物を得ることができる。
【0032】
本発明の流動状油脂組成物における上記その他の油脂の配合量は、油相中に、油相基準で好ましくは30〜84質量%、より好ましくは50〜80質量%である。
【0033】
ここで、油相のSFCが、10℃で5未満及び/又は20℃で1未満であると、流動性が高すぎて、起泡性に乏しく、生地に練り込まれにくい流動状油脂組成物となってしまい、特にクリーム状食品に使用した場合には、耐熱性に乏しいものとなってしまう。また、経時的あるいは温度変動等によって液状成分が分離しやすく、その場合には流動状油脂組成物としての機能を失してしまう。
また、油相のSFCが、10℃で20超及び/又は20℃で10超であると、経時的にあるいは温度変動等によって固化しやすく、その場合には流動状を呈さなくなってしまう。
尚、上記SFCは、次のようにして測定する。即ち、先ず、油相を60℃に30分保持して完全に融解した後、0℃に30分保持して固化させる。次いで、25℃に30分保持し、テンパリングを行い、その後、0℃に30分保持する。これをSFCの各測定温度に順次30分保持後、SFCを測定する。
【0034】
本発明の流動状油脂組成物における油相含量は、80〜100質量%、好ましくは90〜100質量%、より好ましくは99質量%〜100質量%である。
また、本発明の流動状油脂組成物における水相含量は、20質量%未満、好ましくは10質量%未満、より好ましくは1質量%未満である。
油相含量が80質量%未満、すなわち水相成分が20質量%以上であると、温度変動等によって固化してしまい、その場合には流動状を呈さなくなってしまう。
【0035】
本発明の流動状油脂組成物は、10〜30℃の全ての温度において、粘度が、20,000mPa・s以上、特に40,000mPa・s以上であることが好ましく、200,000mPa・s以下、特に150,000mPa・s以下であることが好ましい。
10〜30℃のいずれかの温度において粘度が20,000mPa・s未満であると、経日的に固液分離を起こしやすい。また、そのような油脂組成物を使用して得られたクリーム状食品も固液分離を起こしやすく、さらに耐熱性に乏しいものとなってしまうおそれがある。
一方、10〜30℃のいずれかの温度において粘度が200,000mPa・sを超えると、流動性に乏しくなる。また、そのような油脂組成物を使用して得られたクリーム状食品は、ソフト性に乏しいものとなってしまう。
【0036】
また、本発明の流動状油脂組成物は、前述したように、パーム軟部油をエステル交換して得られた油脂が乳化性を有するため、特に合成乳化剤を添加せずとも、良好な流動性及び良好な固液分離防止効果を有し、さらには、水相を含有する場合でも、保存時に離水のない安定な乳化形態を維持することができる。さらに、本発明の流動状油脂組成物を使用した加工食品を製造する際にも、混合性が良好であり、得られた加工食品も、離水や油分分離がないという特徴を有する。
【0037】
上記の合成乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等を挙げることができる。
【0038】
また、本発明の流動状油脂組成物には、合成乳化剤ではない乳化剤を使用することができる。合成乳化剤でない乳化剤としては、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等が挙げられる。
【0039】
本発明の流動状油脂組成物は、上記以外のその他の成分を含有することができる。該その他の成分としては、例えば、ローカストビーンガム、カラギーナン、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等の増粘安定剤、食塩、塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β−カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、ココアマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0040】
次に、本発明の流動状油脂組成物の好ましい製造方法について説明する。
先ず、上記パーム軟部油をエステル交換して得られた油脂を15〜50質量%、及び上記極度硬化油脂を1〜10質量%含有し、SFCが10℃で5〜20、20℃で1〜10とした油相を溶解し、必要により水相を混合乳化する。そして、次に殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。
【0041】
次に、冷却し、結晶化させる。好ましくは冷却可塑化する。冷却条件は、好ましくは−0.5℃/分以上、さらに好ましくは−5℃/分以上とする。この際、徐冷却より、急速冷却の方が好ましい。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンピネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターとの組み合わせも挙げられる。
【0042】
また、本発明の流動状油脂組成物を製造する際のいずれかの工程で、窒素、空気等を含気させてもよいが、本発明の流動状油脂組成物は、気相を含有することにより粘度が高くなり、特に低温度域での流動性が失われるおそれがあることから、気相は含有させないことが好ましい。
【0043】
次に、本発明の流動状油脂組成物の用途について説明する。
本発明の流動状油脂組成物は、固液分離を起こすことがなく、広い温度域で良好な流動性を有するものであり、スプレッド用をはじめ、ソフトな食感を有するバタースポンジケーキ等に用いる練込用や、あるいは大量生産のために機械化されたラインでパンを製造する際に用いる製パン練込用、あるいは、ディップクリーム、シュガークリーム、バタークリーム、焼き残りクリーム等のクリーム状食品練込用等に、特に好適に使用することができる。
【0044】
本発明のクリーム状食品について以下に述べる。
本発明のクリーム状食品は、本発明の流動状油脂組成物を含有してなるものであり、ソフトで、口溶けがよく、適度のチキソトロピー性を有しながら、耐熱性も良好であるという特徴を有する。
【0045】
本発明のクリーム状食品における本発明の流動状油脂組成物の使用量は、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。
【0046】
本発明のクリーム状食品は、従来のクリーム状食品を製造する際に使用する油脂組成物の一部又は全部を、本発明の流動状油脂組成物に置換して製造すればよい。
つまり、本発明の流動状油脂組成物を使用し、各種糖類、脱脂粉乳や全粉乳等の乳製品、食塩等の塩味剤、β−カロチン等の着色料、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、調味料、乾燥果実、粉末果汁、粉末コーヒー、ナッツペースト、香辛料、ココアマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類等の食品素材や食品添加物を加え、常法に従って加工することにより、本発明のクリーム状食品を得ることができる。
【0047】
本発明のクリーム状食品は、サンドクリーム、フィリングクリーム、トッピングクリーム、ディップクリームとして、ベーカリー食品、惣菜食品、畜肉食品等の各種食品に用いることができる。また、本発明のクリーム状食品を各種のベーカリー生地、惣菜生地、畜肉生地等に、サンド、フィリング、トッピング、包餡成形等した後に焼成してもよい。
【実施例】
【0048】
次に、実施例、比較例等を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
【0049】
〔製造例1〕パーム軟部油のエステル交換油Aの製造
ヨウ素価51のパーム油を、パーム油:アセトン=1:2の質量比率で50℃にて混合溶解し、混合物とした。この混合物を1℃/分の冷却速度で25℃まで冷却した後、結晶部(ステアリン画分)を濾別して液状部を得た。該液状部から常法によりアセトンを除去し、続いて常法に従い脱色、脱臭し、ヨウ素価55のパーム軟部油を得た。このパーム軟部油を原料油脂とし、ナトリウムメチラートを触媒として、非選択的エステル交換反応を行なった後、漂白(白土3%、85℃、9.3×102Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×102Pa以下の減圧下)を行い、モノグリセリド含量が0.1質量%であるパーム軟部油のエステル交換油Aを得た。
【0050】
〔製造例2〕パーム軟部油のエステル交換油Bの製造
ヨウ素価51のパーム油を、パーム油:アセトン=1:2の質量比率で50℃にて混合溶解し、混合物とした。この混合物を1℃/分の冷却速度で25℃まで冷却した後、結晶部(ステアリン画分)を濾別して液状部を得た。該液状部から常法によりアセトンを除去し、続いて常法に従い脱色、脱臭し、ヨウ素価60のパーム軟部油を得た。このパーム軟部油を原料油脂とし、ナトリウムメチラートを触媒として、非選択的エステル交換反応を行なった後、漂白(白土3%、85℃、9.3×102Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×102Pa以下の減圧下)を行い、モノグリセリド含量が0.2質量%であるパーム軟部油のエステル交換油Bを得た。
【0051】
〔製造例3〕パーム軟部油のエステル交換油Cの製造
上記製造例2で得られたヨウ素価60のパーム軟部油10kgを原料油脂として、反応温度70℃にて、触媒としてリパーゼQLC(名糖産業(株)製)50gを用いて、15リットルの反応槽でエステル交換反応を行った。反応終了後(反応時間48hr)、漂白(白土3%、85℃、10mmHgの減圧下、30分間)、脱臭(250℃、水蒸気吹き込み量;対油3%、1mmHg減圧下、60分間)を行い、モノグリセリド含量が0.2質量%であるパーム軟部油のエステル交換油Cを得た。
【0052】
〔製造例4〕パーム軟部油のエステル交換油Dの製造
ヨウ素価51のパーム油を、パーム油:ヘキサン=1:2の質量比率で50℃にて混合溶解し、混合物とした。この混合物を1℃/分の冷却速度で5℃まで冷却した後、結晶部(ステアリン画分)を濾別して液状部を得た。該液状部から常法によりアセトンを除去し、続いて常法に従い脱色、脱臭し、ヨウ素価55のパーム軟部油を得た。このパーム軟部油を原料油脂とし、ナトリウムメチラートを触媒として、非選択的エステル交換反応を行なった後、漂白(白土3%、85℃、9.3×102Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×102Pa以下の減圧下)を行い、モノグリセリド含量が0.1質量%であるパーム軟部油のエステル交換油Dを得た。
【0053】
〔製造例5〕パーム軟部油のエステル交換油Eの製造
ヨウ素価51のパーム油を、1℃/分の冷却速度で27℃まで冷却した後、8時間静置し、結晶を析出させた。結晶部(ステアリン画分)を濾別した液状部を、常法に従い脱色、脱臭し、ヨウ素価55のパーム軟部油を得た。このパーム軟部油を原料油脂とし、ナトリウムメチラートを触媒として、非選択的エステル交換反応を行なった後、漂白(白土3%、85℃、9.3×102Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×102Pa以下の減圧下)を行い、モノグリセリド含量が0.1質量%であるパーム軟部油のエステル交換油Eを得た。
【0054】
〔製造例6〕極度硬化油脂Aの製造
ハイエルシンナタネ油を原料油脂とし、ニッケル触媒(SO-850:堺化学製)を用いて、反応温度190℃、水素圧3.0kg/cm2下で、ヨウ素価0.8まで硬化反応を行った。脱触媒後、漂白(白土3%、85℃、9.3×102Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×102Pa以下の減圧下)を行い、ヨウ素価0.8の極度硬化油脂Aを得た。
確認のため、この極度硬化油脂Aを80℃で完全溶解した後、0℃で30分保持し、次いで5℃で30分間保持して析出させた油脂結晶について、2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.2オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβプライム型をとることが確認された。
【0055】
〔実施例1〕ショートニングタイプの流動状油脂組成物の製造1
パーム軟部油のエステル交換油A27質量部、大豆液状油70質量部及び極度硬化油脂A3質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、ショートニングタイプの流動状油脂組成物を作成した。得られた流動状油脂組成物の油相のSFCは10℃で7、20℃で4であり、トランス脂肪酸含量は2質量%未満であり、実質的にトランス脂肪酸を含有していなかった。
得られた流動状油脂組成物は、ビスコメーター(TOKIMEC社製、6号ローター使用)で粘度を測定したところ、10℃から30℃の全ての温度において、粘度が20,000mPa・s〜200,000mPa・sであり、良好な流動性を呈していた。
また、得られた流動状油脂組成物を、35℃に調温後、50mlビーカーに30g投入し、これを30℃の恒温槽に保管し、1週間後に固液分離の状況を観察したところ、液状成分の染みだしは全く見られず、またザラの発生も見られなかった。
【0056】
〔実施例2〕ショートニングタイプの流動状油脂組成物の製造2
パーム軟部油のエステル交換油A40質量部、大豆液状油58質量部及び極度硬化油脂A2質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、ショートニングタイプの流動状油脂組成物を作成した。得られた流動状油脂組成物の油相のSFCは10℃で9、20℃で4であり、トランス脂肪酸含量は2質量%未満であり、実質的にトランス脂肪酸を含有していなかった。
得られた流動状油脂組成物は、ビスコメーター(TOKIMEC社製、6号ローター使用)で粘度を測定したところ、10℃から30℃の全ての温度において、粘度が20,000mPa・s〜200,000mPa・sであり、良好な流動性を呈していた。
また、得られた流動状油脂組成物を、35℃に調温後、50mlビーカーに30g投入し、これを30℃の恒温槽に保管し、1週間後に固液分離の状況を観察したところ、液状成分の染みだしは全く見られず、またザラの発生も見られなかった。
【0057】
〔実施例3〕ショートニングタイプの流動状油脂組成物の製造3
パーム軟部油のエステル交換油B40質量部、大豆液状油58質量部及び極度硬化油脂A2質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、ショートニングタイプの流動状油脂組成物を作成した。得られた流動状油脂組成物の油相のSFCは10℃で7、20℃で3であり、トランス脂肪酸含量は2質量%未満であり、実質的にトランス脂肪酸を含有していなかった。
得られた流動状油脂組成物は、ビスコメーター(TOKIMEC社製、6号ローター使用)で粘度を測定したところ、10℃から30℃の全ての温度において、粘度が20,000mPa・s〜200,000mPa・sであり、良好な流動性を呈していた。
また、得られた流動状油脂組成物を、35℃に調温後、50mlビーカーに30g投入し、これを30℃の恒温槽に保管し、1週間後に固液分離の状況を観察したところ、液状成分の染みだしは全く見られず、またザラの発生も見られなかった。
【0058】
〔実施例4〕ショートニングタイプの流動状油脂組成物の製造4
パーム軟部油のエステル交換油C40質量部、大豆液状油58質量部及び極度硬化油脂A2質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、ショートニングタイプの流動状油脂組成物を作成した。得られた流動状油脂組成物の油相のSFCは10℃で7、20℃で3であり、トランス脂肪酸含量は2質量%未満であり、実質的にトランス脂肪酸を含有していなかった。
得られた流動状油脂組成物は、ビスコメーター(TOKIMEC社製、6号ローター使用)で粘度を測定したところ、10℃から30℃の全ての温度において、粘度が20,000mPa・s〜200,000mPa・sであり、良好な流動性を呈していた。
また、得られた流動状油脂組成物を、35℃に調温後、50mlビーカーに30g投入し、これを30℃の恒温槽に保管し、1週間後に固液分離の状況を観察したところ、液状成分の染みだしは全く見られず、またザラの発生も見られなかった。
【0059】
〔実施例5〕ショートニングタイプの流動状油脂組成物の製造5
パーム軟部油のエステル交換油D40質量部、大豆液状油58質量部及び極度硬化油脂A2質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、ショートニングタイプの流動状油脂組成物を作成した。得られた流動状油脂組成物の油相のSFCは10℃で9、20℃で4であり、トランス脂肪酸含量は2質量%未満であり、実質的にトランス脂肪酸を含有していなかった。
得られた流動状油脂組成物は、ビスコメーター(TOKIMEC社製、6号ローター使用)で粘度を測定したところ、10℃から30℃の全ての温度において、粘度が20,000mPa・s〜200,000mPa・sであり、良好な流動性を呈していた。
また、得られた流動状油脂組成物を、35℃に調温後、50mlビーカーに30g投入し、これを30℃の恒温槽に保管し、1週間後に固液分離の状況を観察したところ、液状成分の染みだしは全く見られず、またザラの発生も見られなかった。
【0060】
〔実施例6〕ショートニングタイプの流動状油脂組成物の製造6
パーム軟部油のエステル交換油E40質量部、大豆液状油58質量部及び極度硬化油脂A2質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、ショートニングタイプの流動状油脂組成物を作成した。得られた流動状油脂組成物の油相のSFCは10℃で9、20℃で4であり、トランス脂肪酸含量は2質量%未満であり、実質的にトランス脂肪酸を含有していなかった。
得られた流動状油脂組成物は、ビスコメーター(TOKIMEC社製、6号ローター使用)で粘度を測定したところ、10℃から30℃の全ての温度において、粘度が20,000mPa・s〜200,000mPa・sであり、良好な流動性を呈していた。
また、得られた流動状油脂組成物を、35℃に調温後、50mlビーカーに30g投入し、これを30℃の恒温槽に保管し、1週間後に固液分離の状況を観察したところ、液状成分の染みだしは全く見られず、またザラの発生も見られなかった。
【0061】
〔実施例7〕マーガリンタイプの流動状油脂組成物の製造
パーム軟部油のエステル交換油E40質量部、大豆液状油58質量部及び極度硬化油脂A2質量部からなる油相85質量部を、70℃まで加温して完全に溶解し、この油相と、水88質量部、脱脂粉乳5質量部及び食塩7質量部からなる水相15質量部とを乳化・混合した後、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、マーガリンタイプの流動状油脂組成物を作成した。得られた流動状油脂組成物の油相のSFCは10℃で9、20℃で4であり、トランス脂肪酸含量は2質量%未満であり、実質的にトランス脂肪酸を含有していなかった。
得られた流動状油脂組成物は、ビスコメーター(TOKIMEC社製、6号ローター使用)で粘度を測定したところ、10℃から30℃の全ての温度において、粘度が20,000mPa・s〜200,000mPa・sであり、良好な流動性を呈していた。
また、得られた流動状油脂組成物を、35℃に調温後、50mlビーカーに30g投入し、これを30℃の恒温槽に保管し、1週間後に固液分離の状況を観察したところ、液状成分の染みだしは全く見られず、またザラの発生も見られなかった。
【0062】
〔比較例1〕ショートニングタイプの流動状油脂組成物の製造7
大豆液状油97質量部及び極度硬化油脂A3質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、ショートニングタイプの流動状油脂組成物を作成した。得られた流動状油脂組成物の油相のSFCは10℃で4、20℃で2であり、トランス脂肪酸含量は2質量%未満であり、実質的にトランス脂肪酸を含有していなかった。
得られた流動状油脂組成物は、ビスコメーター(TOKIMEC社製、6号ローター使用)で粘度を測定したところ、10℃から30℃の全ての温度において、粘度が20,000mPa・s〜200,000mPa・sであり、良好な流動性を呈していた。しかし、得られた流動状油脂組成物を、35℃に調温後、50mlビーカーに30g投入し、これを30℃の恒温槽に保管し、1週間後に固液分離の状況を観察したところ、液状成分の染みだしが見られた。
【0063】
〔比較例2〕ショートニングタイプの流動状油脂組成物の製造8
パーム軟部油のエステル交換油A80質量部、大豆液状油17質量部及び極度硬化油脂A3質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、ショートニングタイプの流動状油脂組成物を作成した。得られた流動状油脂組成物の油相のSFCは10℃で23、20℃で11であり、トランス脂肪酸含量は2質量%未満であり、トランス脂肪酸を実質的に含有していなかった。
得られた流動状油脂組成物は、ビスコメーター(TOKIMEC社製、6号ローター使用)で粘度を測定したところ、粘度は10℃において400,000mPa・s、30℃において200,000mPa・sであり、10℃における流動性が極めて悪かった。
尚、得られた流動状油脂組成物を、35℃に調温後、50mlビーカーに30g投入し、これを30℃の恒温槽に保管し、1週間後に固液分離の状況を観察したところ、液状成分の染みだしは見られなかった。
【0064】
〔比較例3〕ショートニングタイプの流動状油脂組成物の製造9
パーム軟部油のエステル交換油A30質量部及び大豆液状油70質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、ショートニングタイプの流動状油脂組成物を作成した。得られた流動状油脂組成物の油相のSFCは10℃で8、20℃で3であり、トランス脂肪酸含量は2質量%未満であり、実質的にトランス脂肪酸を含有していなかった。
得られた流動状油脂組成物は、ビスコメーター(TOKIMEC社製、6号ローター使用)で粘度を測定したところ、10℃から30℃の全ての温度において、粘度が20,000mPa・s〜200,000mPa・sであり、良好な流動性を呈していた。しかし、該流動状油脂組成物を、35℃に調温後、50mlビーカーに30g投入し、これを30℃の恒温槽に保管し、1週間後に固液分離の状況を観察したところ、液状成分の染みだしが極めて多く見られた。
【0065】
〔比較例4〕ショートニングタイプの流動状油脂組成物の製造10
パーム軟部油のエステル交換油A18質量部、大豆液状油70質量部及び極度硬化油脂A12質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、ショートニングタイプの流動状油脂組成物を作成した。得られた流動状油脂組成物の油相のSFCは10℃で15、20℃で13であり、トランス脂肪酸含量は2質量%未満であり、実質的にトランス脂肪酸を含有していなかった。
得られた流動状油脂組成物は、ビスコメーター(TOKIMEC社製、6号ローター使用)で粘度を測定したところ、10℃における粘度が450,000mPa・s、30℃における粘度が18,000mPa・sであり、30℃では良好な流動性を示すものの、10℃では硬くて流動性を呈していなかった。
尚、得られた流動状油脂組成物を、35℃に調温後、50mlビーカーに30g投入し、これを30℃の恒温槽に保管し、1週間後に固液分離の状況を観察したところ、液状成分の染みだしは見られなかった。
【0066】
〔比較例5〕ショートニングタイプの流動状油脂組成物の製造11
ヨウ素価55のパーム軟部油27質量部、大豆液状油70質量部及び極度硬化油脂A3質量部からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、ショートニングタイプの流動状油脂組成物を作成した。得られた流動状油脂組成物の油相のSFCは10℃で4、20℃で3であり、トランス脂肪酸含量は2質量%未満であり、実質的にトランス脂肪酸を含有していなかった。
得られた流動状油脂組成物は、ビスコメーター(TOKIMEC社製、6号ローター使用)で粘度を測定したところ、10℃から30℃の全ての温度において、粘度が20,000mPa・s〜200,000mPa・sであり、良好な流動性を呈していた。しかし、該流動状油脂組成物を、35℃に調温後、50mlビーカーに30g投入し、これを30℃の恒温槽に保管し、1週間後に固液分離の状況を観察したところ、液状成分の染みだしが若干見られた。
【0067】
〔実施例8〕チョコ風味ディップクリームの製造1
実施例1で得られた流動状油脂組成物32質量部、砂糖38.5質量部、カカオマス6質量部、ココアパウダー7質量部、全粉乳10質量部、脱脂粉乳6質量部、レシチン0.3質量部及び香料0.2質量部を、ロールリファイニングし、チョコ風味ディップクリームを製造した。
【0068】
〔比較例6〕チョコ風味ディップクリームの製造2
比較例1で得られた流動状油脂組成物32質量部、砂糖38.5質量部、カカオマス6質量部、ココアパウダー7質量部、全粉乳10質量部、脱脂粉乳6質量部、レシチン0.3質量部及び香料0.2質量部を、ロールリファイニングし、チョコ風味ディップクリームを製造した。
【0069】
〔実施例9〕シュガークリームの製造1
実施例1で得られた流動状油脂組成物50質量部に、粉糖50質量部を混合し、シュガークリームを製造した。
【0070】
〔実施例10〕シュガークリームの製造2
実施例1で得られた流動状油脂組成物45質量部に、チーズパウダー20質量部、脱脂粉乳15質量部、コーンスターチ10質量部及び砂糖10質量部を混合して、シュガークリームを製造した。
【0071】
〔比較例7〕シュガークリームの製造3
比較例1で得られた流動状油脂組成物50質量部に、粉糖50質量部を混合し、シュガークリームを製造した。
【0072】
〔比較例8〕シュガークリームの製造4
比較例2で得られた流動状油脂組成物50質量部に、粉糖50質量部を混合し、シュガークリームを製造した。
【0073】
〔実施例9〕シュガークリームの製造5
比較例3で得られた流動状油脂組成物50質量部に、粉糖50質量部を混合し、シュガークリームを製造した。
【0074】
〔比較例10〕シュガークリームの製造6
比較例4で得られた流動状油脂組成物50質量部に、粉糖50質量部を混合し、シュガークリームを製造した。
【0075】
〔比較例11〕シュガークリームの製造7
比較例5で得られた流動状油脂組成物50質量部に、粉糖50質量部を混合し、シュガークリームを製造した。
【0076】
<評価>
実施例8及び比較例6それぞれで得たディップクリーム並びに実施例9、10及び比較例7〜11それぞれで得たシュガークリームについて、口溶け、固液分離性及び耐熱保型性に関する評価を実施した。
口溶けは、25℃の品温に1晩調温したサンプルを用い、下記評価基準に従って4段階で評価した。
固液分離性は、35℃に調温したサンプルを50mlビーカーに30g投入し、これを30℃の恒温槽に保管し、1週間後に固液分離の状況を観察し、下記評価基準に従って4段階で評価した。
耐熱保型性は、サンプルを一旦25℃に調温し、これを絞り袋に入れ、菊型口金でシャーレに花型に絞り、蓋をし、これを5℃で60分調温後、20℃、25℃、30℃及び35℃の各恒温槽に一晩おき、ダレの状況を観察し、下記評価基準に従って4段階で評価した。
これらの結果を表1に示す。
【0077】
(口溶け評価基準)
◎ 大変良好
○ 良好
△ やや劣る
× 不良
(固液分離性評価基準)
◎ 液状成分の染みだしは全く見られなかった。
○ 若干の液状成分の染みだしが見られた。
△ かなりの液状成分の染みだしが見られ、またザラの発生も若干見られた。
× 液状成分の染みだし及びザラの発生がかなり見られた。
(耐熱保型性評価)
◎ ダレもなく、保型性は全く問題なし。
○ ややダレが見られるものの、形状は保っていた。
△ かなりのダレが見られ、保型性もやや悪い。
× ダレが激しく、保型性も悪い。
【0078】
【表1】

【0079】
表1からわかるように、実施例8で得られたディップクリームは、口溶け及び固液分離耐性がいずれも良好であり、しかも25℃〜30℃において良好な保型性を有していたのに対し、比較例6で得られたディップクリームは、固液分離しやすく、また、耐熱保型性も悪かった。
また、実施例9及び10それぞれで得られたシュガークリームは、口溶け及び固液分離耐性がいずれも良好であり、25℃〜30℃においても一定の保型性を有していたのに対し、比較例7〜11それぞれで得られたシュガークリームは、良好な口溶け及び固液分離性を共に有するものはなく、しかも、比較例7、9及び11それぞれで得られたシュガークリームは、耐熱保型性も劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相中に、パーム軟部油をエステル交換して得られた油脂を15〜50質量%(油相基準)及び極度硬化油脂を1〜10質量%(油相基準)含有し、且つ、該油相のSFCが、10℃で5〜20であり、20℃で1〜10であって、該油相を80〜100質量%(組成物基準)含有することを特徴とする流動状油脂組成物。
【請求項2】
10〜30℃の全ての温度において、粘度が20,000〜200,000mPa・sであることを特徴とする請求項1記載の流動状油脂組成物。
【請求項3】
上記パーム軟部油が、パームスーパーオレインであることを特徴とする請求項1又は2記載の流動状油脂組成物。
【請求項4】
上記パーム軟部油が、アセトンを使用して分別されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の流動状油脂組成物。
【請求項5】
トランス脂肪酸を実質的に含有しないことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の流動状油脂組成物。
【請求項6】
合成乳化剤を含有しないことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の流動状油脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の流動状油脂組成物を含有することを特徴とするクリーム状食品。

【公開番号】特開2006−115724(P2006−115724A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305330(P2004−305330)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000000387)旭電化工業株式会社 (987)
【Fターム(参考)】