流延装置、流延膜の形成方法及び溶液製膜方法
【課題】溶液製膜方法において、フィルムの厚みムラを防止する。
【解決手段】流延装置15は、ケーシング23を有する。ケーシング23内には流延バンド26が移動自在に設けられる。シール部材31〜33により、ケーシング23内は、移動方向上流側から下流側にかけて順次、流延室23a、乾燥室23b及び剥取室23cに分けられる。流延室23aには流延ダイ40が設けられる。流延ダイ40はドープを流延バンド26に向けて流出する。流出したドープは、流延ダイ40から流延バンド26にかけてビード42を形成し、流延バンド26上にて流延膜43を形成する。流延室23aにおいて、ビード42よりも下流側にサイドブランチ型消音器50が設けられる。
【解決手段】流延装置15は、ケーシング23を有する。ケーシング23内には流延バンド26が移動自在に設けられる。シール部材31〜33により、ケーシング23内は、移動方向上流側から下流側にかけて順次、流延室23a、乾燥室23b及び剥取室23cに分けられる。流延室23aには流延ダイ40が設けられる。流延ダイ40はドープを流延バンド26に向けて流出する。流出したドープは、流延ダイ40から流延バンド26にかけてビード42を形成し、流延バンド26上にて流延膜43を形成する。流延室23aにおいて、ビード42よりも下流側にサイドブランチ型消音器50が設けられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流延装置、流延膜の形成方法及び溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光透過性を有する熱可塑性フィルム(以下、フィルムと称する)は、軽量であり、成形が容易であるため、光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、写真感光用フィルムの他、液晶表示装置の光学フィルム(偏光板保護フィルムや位相差フィルム等)として用いられている。
【0003】
フィルムは、溶液製膜方法により製造される。溶液製膜方法は、移動する支持体に向けて、流延室内に配された流延ダイを用いて、ポリマーと溶剤とを含むポリマー溶液(以下、ドープと称する)を流し、帯状の流延膜を支持体上に形成する(以下、流延工程と称する)。次に、流延膜が搬送可能になった後、これを支持体から剥がして湿潤フィルムとする(以下、剥取工程と称する)。そして、この湿潤フィルムから溶剤を蒸発させてフィルムとする(以下、乾燥工程と称する)方法である。
【0004】
流延工程において、流出したドープは、流延ダイの流出口から支持体までにかけてビードを形成する。ところが、ビードが振動してしまうと、厚みムラが流延膜の長手方向に生じてしまう。そして、このような厚みムラを有する流延膜に対し、剥取工程及び乾燥工程を行っても、最終的に得られるフィルムには厚みムラが残ってしまう。こうした経緯から、フィルムの厚みムラを抑えるために、ビードの振動を抑制する策が講じられている。
【0005】
ビードの振動の防止策として、ビードの長さをできるだけ短いものにする方法が知られている。この方法としては、支持体と流延ダイの先端までの間隔を小さくすること、ビードの背面側(支持体の移動方向上流側)を減圧する減圧チャンバを設けることが知られている。また、減圧チャンバを用いる場合において、幅方向両端及び幅方向中央における吸引量のバランスを所定範囲にして、ビードの振動を防止する方法(例えば、特許文献1)や、減圧チャンバ内に設けられたスピーカから、ビードの振動を打ち消すような音波を出力する方法(例えば、特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−246721号公報
【特許文献2】特開2008−279757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のような方策を講じても、ビードの振動を十分に取り除くことはできないため、流延膜やフィルムの厚みムラは未だ残ってしまう。また、ビードの振動周波数が絶えず変化し得る流延工程にて、特許文献2のような方策を用いると、出力した音波によりビードを共振させてしまうおそれがあり、現実的ではない。
【0008】
発明者の鋭意検討の結果、この厚みムラは、減圧チャンバ内の圧力変動に起因するもののみならず、流延室を仕切る仕切り板と支持体との隙間における空気の移動に起因することを突き止めた。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するものであり、流延装置、流延膜の形成方法及び溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の流延装置は、ケーシング内に配されドープを流出するドープ流出口を備えた流延ダイと、前記ドープ流出口の下方にて移動自在に設けられ、前記流出したドープを表面で支持し前記ドープからなる帯状の流延膜を形成する支持体と、前記ドープ流出口よりも前記支持体の移動方向上流側及び下流側にて前記ケーシングの内表面から前記支持体の表面に向かって突出し、先端が前記支持体の表面に近接するように形成され、前記流延ダイを囲む流延室を前記ケーシング内に形成する1組の遮風ユニットと、前記流延室の前記内表面に開口する消音穴を備えるサイドブランチ型消音器とを有することを特徴とする。
【0011】
前記流延ダイに隣接して前記移動方向上流側に配され、前記流出したドープによって前記流延ダイから前記支持体にかけて形成されるビードの前記移動方向上流側を減圧する減圧チャンバを有し、前記サイドブランチ型消音器は前記ビードよりも前記移動方向下流側に設けられることが好ましい。また、前記消音穴の開口形状が六角形であり、前記消音穴がハニカム状に並ぶことが好ましい。
【0012】
前記消音穴に配され前記消音穴の深さ方向に移動自在に設けられた栓を前記深さ方向に移動させる栓駆動部と、前記支持体を速度Vで移動させる支持体駆動部と、長さ方向において前記流延膜の厚さ分布を検知する膜厚測定部と、前記検知した厚さ分布から厚さのピーク間の距離Lpを算出するピーク間距離算出部と、前記距離Lp及び前記速度Vに基づいて、前記ビードの振動周波数を算出する周波数算出部と、前記算出された振動周波数に基づいて前記栓駆動部を制御する栓制御部とを有することが好ましい。
【0013】
また、本発明は、ケーシング内の流延ダイを用いて、前記ケーシング内を移動する支持体に向けてドープを流出し、前記流出したドープからなる帯状の流延膜を前記支持体の表面上に形成する流延膜の形成方法において、前記ドープ流出口よりも前記支持体の移動方向上流側及び下流側にて前記ケーシングの内表面から前記支持体の表面に向かって突出し先端が前記支持体の表面に近接するように形成された1組のシール部材を用いて、前記流延ダイを囲む流延室を前記ケーシング内に形成し、前記流延室の内表面に開口する消音穴を用いて、前記流延室内の気体の振動を抑えることを特徴とする。
【0014】
前記流延ダイに隣接して前記支持体の移動方向上流側に配され、前記流出したドープによって前記流延ダイから前記支持体にかけて形成されるビードの前記移動方向上流側を減圧する減圧工程を有し、前記サイドブランチ型消音器は前記ビードよりも前記移動方向下流側に設けられることが好ましい。また、前記流延膜の長さ方向における前記流延膜の厚さ分布を検知する膜厚測定工程と、前記検知した厚さ分布から厚さのピーク間の距離Lpを算出するピーク間距離算出工程と、前記ピーク間距離Lp及び前記支持体の移動速度Vに基づいて、前記ビードの振動周波数f1を算出する周波数算出工程と、前記振動周波数f1に応じて前記消音穴の深さを調節する深さ調節工程とを有することが好ましい。
【0015】
更に、本発明の溶液製膜方法は、上記の流延膜の形成方法の後に、前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取って湿潤フィルムとする剥取工程と、前記湿潤フィルムから溶剤を蒸発させる乾燥工程とを順次行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、流延室において、流延ダイから支持体に向けてドープを流出し、支持体上に流延膜を形成する流延装置において、流延室の内表面に消音孔を備えるサイドブランチ型消音器を備えるため、流延室内の空気の圧力変動を防止することができる。したがって、本発明によれば、空気の圧力変動に起因するビードの震動を抑え、結果として、フィルムの厚みムラの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図2】ケーシングの概要を示す部分断面図である。
【図3】第1の流延室の概要を示すケーシングの部分断面図である。
【図4】第1の流延室の概要を示す斜視図である。
【図5】第1の流延室及び乾燥室の概要を示す平面図である。
【図6】サイドブランチ型消音器に取り付けられた温調機の概要を示す部分断面図である。
【図7】第2の流延室及び乾燥室の概要を示す平面図である。
【図8】第3の流延室及び乾燥室の概要を示す平面図である。
【図9】サイドブランチ型消音器の概要を示す斜視図である。
【図10】第4の流延室の概要を示すケーシングの部分断面図である。
【図11】流延膜の長さ方向における流延膜の厚みのプロファイルの概要を示す説明図である。縦軸は、流延膜の厚みであり、横軸は、流延膜の長さ方向における距離である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(溶液製膜設備)
図1に示すように、溶液製膜設備10は、ドープ12から湿潤フィルム13をつくる流延装置15と、湿潤フィルム13の乾燥によりフィルム16を得るクリップテンタ17と、湿潤フィルム13の乾燥を行う乾燥装置18と、フィルム16を巻き芯に巻き取る巻取装置19とを有する。
【0019】
(流延装置)
図1及び図2に示すように、流延装置15は、ケーシング23と、ケーシング23内に略水平に並べられた水平ロール24、25とを有する。水平ロール24は、駆動軸24aと、駆動軸24aに軸着されたロール本体24bとからなる。水平ロール25は、回転軸25aと、回転軸25aに軸着されたロール本体25bとからなる。水平ロール24、25には環状の流延バンド26が巻きかけられる。流延バンド26は、帯状のシート材の両端を連結することにより得られる。
【0020】
駆動軸24aは、ロール駆動用モータ27と接続する。制御部28は、ロール駆動用モータ27を制御して、水平ロール24を所定の速度で回転させる。流延バンド26は、水平ロール24の回転に伴い所定の方向へ循環移動し、水平ロール25は、流延バンド26の移動に従って回転する。以下、流延バンド26の移動方向をX方向と称し、流延バンド26の幅方向をY方向と、垂直方向をZ方向と称する。
【0021】
流延バンド26の表面(以下、流延面と称する)26aの移動速度Vは以上200m/分以下であることが好ましい。移動速度Vが200m/分を超えると、ビードを安定して形成することが困難となる。移動速度Vの下限値は、目標とするフィルムの生産性を考慮すればよい。移動速度Vの下限値は、例えば、10m/分以上である。
【0022】
流延バンド26は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するSUS316製であることがより好ましい。流延バンド26の幅は、例えば、ドープ12の流延幅の1.1倍以上2.0倍以下であることが好ましい。流延バンド26の長さは、例えば、20m以上200m以下であることが好ましく、流延バンド26の厚みは、例えば、0.5mm以上〜2.5mm以下であることが好ましい。なお、流延バンド26の厚みムラは、全体の厚みに対して0.5%以下のものを用いることが好ましい。流延面26aは、研磨されていることが好ましく、流延面26aの表面粗さは0.05μm以下であることが好ましい。
【0023】
また、流延バンド26の流延面26aの温度を所定の値にするために、水平ロール24、25に温調装置(図示しない)が取り付けられていることが好ましい。流延面26aの温度を10℃〜40℃に調整可能なものであることが好ましい。温調装置は、制御部の制御の下、所望の温度に調節された伝熱媒体を、ロール本体24b、25b内に設けられる流路中を循環させる。この伝熱媒体の循環により、ロール本体24b、25bの温度を所望の温度に保つことができる。
【0024】
(シール部材)
また、ケーシング23内には、X方向上流側から下流側に向かって、第1〜第3シール部材31〜33が順次配される。第1〜第3シール部材31〜33により、ケーシング23内は、X方向上流側から下流側に向かって、流延室23a、乾燥室23b、及び剥取室23cに仕切られる。
【0025】
第1シール部材31は、ケーシング23内に取り付けられた遮風板31aと、遮風板31aに取り付けられたラビリンスシール31bとからなる。遮風板31aは、ケーシング23内の気体の流れを遮る遮風面を有する。遮風面は、X方向と直交するものでもよいし、X方向と斜めに交差するものでもよい。遮風板31aは、ケーシング23の内壁面から突出し、流延バンド26の流延面26aに向かって延設される。なお、天井から突出するように遮風板31aを設けても良い。
【0026】
ラビリンスシール31bは、流延面26aと近接するように、遮風板31aの先端に設けられる。ラビリンスシール31bは、流延バンド26のうち水平ロール24に巻き掛けられた部分の流延面26aと近接するように設けられることが好ましい。
【0027】
第2シール部材32は、ケーシング23内に取り付けられた遮風板32aと、遮風板32aに取り付けられたラビリンスシール32bとからなる。遮風板32aは、遮風板31aと同様の形状であり、ケーシング23内の天井から突出し、流延バンド26の流延面26aに向かって延設される。ラビリンスシール31bは、ラビリンスシール31bと同様の形状であり、流延面26aと近接するように遮風板32aの先端に設けられる。ラビリンスシール32bは、流延バンド26のうち水平ロール24に巻き掛けられた部分の流延面26aと近接するように設けられることが好ましい。
【0028】
同様に、第3シール部材33は、ケーシング23内に取り付けられた遮風板33aと、遮風板33aに取り付けられたラビリンスシール33bとからなる。遮風板33aは、遮風板31aと同様の形状であり、ケーシング23内の内壁面から突出し、流延バンド26の流延面26aに向かって延設される。ラビリンスシール33bは、ラビリンスシール31bと同様の形状であり、流延面26aと近接するように遮風板33aの先端に設けられる。
【0029】
図3に示すように、ラビリンスシール31bは、遮風板31aの先端に取り付けられたラビリンス本体31gと、ラビリンス本体31gに取り付けられたシール板31hとからなる。シール板31hは、流延バンド26の流延面26aに対し起立した姿勢で設けられる。複数のシール板31hを設ける場合には、互いに離隔するようにX方向へ並べることが好ましい。シール板35hと流延バンド26の間隔CL1は、例えば、0.5mm以上2.0mm以下である。
【0030】
ラビリンスシール32bは、ラビリンスシール31bと同様に、ラビリンス本体32gとシール板32hとからなる。ラビリンス本体32gは、ラビリンス本体31gと同様の構造であり、シール板32hは、シール板31hと同様の構造である。
【0031】
図4に示すように、流延室23aにて、流延バンド26のY方向両側に、サイドラビリンス36が設けられる。サイドラビリンス36は、流延室23aの内壁面と流延バンド26との間における空気の移動を防ぐためのものであり、流延室23aの内壁面から突出し、流延バンド26に向かって延設される。
【0032】
流延室23aの気密性は、第1〜第2シール部材31〜32及びサイドラビリンス36により維持される。同様に、乾燥室23bの気密性は、第2〜第3シール部材32〜33により維持される。
【0033】
(流延ダイ)
図3及び図4に示すように、流延室23a内にて、流延バンド26の上方には流延ダイ40が設けられる。流延ダイ40は、ドープ12を流出するドープ流出口40aを有し、ドープ流出口40aが流延バンド26と近接するように配される。
【0034】
なお、流延ダイ40の設置位置を、図示するように、水平ロール24の上方としたが、本発明はこれに限られない。ラビリンスシール31b、32bを水平ロール25に巻き掛けられた流延バンド26の部分と近接するように設けたときには、流延ダイ40の設置位置を水平ロール24の上方としてもよい。また、流延バンド26を支持するサポートロールを水平ロール24、25の間に設け、ラビリンスシール31b、32bをサポートロールに支持された流延バンド26の部分と近接するように設けたときには、流延ダイ40の設置位置をサポートロールの上方としても良い。
【0035】
流延ダイ40は、ドープ流出口40aから流延バンド26に向けてドープ12を流出する。ドープ流出口40aから流出し流延面26aに到達するまでのドープ12は、ビード42を形成する。流延面26aに到達したドープ12は、流延面26a上でX方向に延ばされる結果、帯状の流延膜43を形成する。
【0036】
(減圧ユニット)
流延装置15(図2参照)には、減圧ユニット45が取り付けられる。図3に示すように、減圧ユニット45は、流延ダイ40よりもX方向の上流側に配置される減圧チャンバ45aと、減圧チャンバ45a内の気体を吸引するための減圧ファン45bと、減圧ファン45b及び減圧チャンバ45aとを接続する吸引管45cとを有する。吸引管45cには、減圧チャンバ45aから減圧ファン45bに向かって、共鳴型消音器45dや拡張型消音器45eが順次取り付けられる。
【0037】
(サイドブランチ型消音器)
図3及び図5に示すように、流延室23aには、サイドブランチ型消音器50が設けられる。サイドブランチ型消音器50は、一端が開口し、他端が閉塞する筒50aを有する。筒50aは、耐溶剤性や耐腐食性を有し、熱変形しにくい材料、例えば、ステンレスから形成されることが好ましい。筒50aは、ビード42よりもX方向下流側に開口面50bが位置するように配されることが好ましい。なお、筒50aは、開口面50bがビード42の近傍となるように配することが好ましい。また、開口面50bは、ケーシング23の天井と面一であることが好ましい。
【0038】
筒50aの中空部(消音穴)の長さ、すなわち開口面50bから中空部の底面50cまでの長さL1は、厚みムラを誘発するビード42の振動周波数f0に応じて決定すればよい。より具体的には、音速をc0とすると、長さL1は、次式のように表される。
L1=c0/(4・f1)−Le
ここで、Leは開口端補正長である。
【0039】
また、サイドブランチ型消音器50によるビード42の振動の抑制効果を増大させるために、開口面50bの面積は大きいほうが好ましい。なお、開口面50bの形状は、円、楕円、多角形のいずれでもよい。多角形としては、三角形、四角形、五角形、六角形などがあり、いずれも本発明に適用できる。また、四角形としては、平行四辺形、ひし形、長方形、正方形などがあり、いずれも本発明に適用できる。
【0040】
流延室23aに複数のサイドブランチ型消音器50を設ける場合には、X方向、Y方向、又は、X方向に交差する方向に並べればよい。
【0041】
(乾燥室)
図2に示すように、乾燥室23bには、流延膜43に所定の乾燥風を供給する第1乾燥装置53a〜第4乾燥装置53dが、流延バンド26の移動方向上流側から下流側に向かって、順次設けられる。第1〜4乾燥装置53a〜53dは、流延膜43に対し所定の乾燥風を供給し、流延膜43から溶剤を蒸発させる。流延膜43における溶剤の蒸発により、流延膜43は、剥ぎ取り可能な状態となる。
【0042】
(剥取室)
剥取室23cには、剥取ローラ56が設けられる。剥取ローラ56は、剥ぎ取り可能な状態となった流延膜43を流延バンド26から剥ぎ取って湿潤フィルム13とし、剥取室23cに設けられた出口23oから湿潤フィルム13を送り出す。
【0043】
ケーシング23内の雰囲気に含まれる溶剤を凝縮する凝縮装置、凝縮した溶剤を回収する回収装置を、流延装置15に設けてもよい。これにより、ケーシング23内の雰囲気に含まれる溶剤の濃度を一定の範囲に保つことができる。
【0044】
図1に示すように、流延装置15とクリップテンタ17との間の渡り部58には、湿潤フィルム35を支持する支持ローラ59が複数並べられている。支持ローラ59は、図示しないモータにより、軸を中心に回転する。支持ローラ59は、流延装置15から送り出された湿潤フィルム35を支持して、クリップテンタ17へ案内する。なお、図1では、渡り部58に2つの支持ローラ59を並べた場合を示しているが、本発明はこれに限られず、渡り部58に1つ、または3つ以上の支持ローラ59を並べてもよい。また、支持ローラ59は、フリーローラでもよい。
【0045】
クリップテンタ17は、湿潤フィルム13の幅方向両側縁部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を移動する。クリップにより把持された湿潤フィルム13に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム13には、幅方向への延伸処理とともに乾燥処理が施される。
【0046】
クリップテンタ17と乾燥装置18との間には耳切装置62が設けられている。耳切装置62に送り出されたフィルム16の幅方向の両端は、クリップによって形成された把持跡が形成されている。耳切装置62は、この把持跡を有する両端部分を切り離す。この切り離された部分は、送風によりカットブロワ(図示しない)及びクラッシャ(図示しない)へ順次に送られて、細かく切断され、ドープ等の原料として再利用される。
【0047】
乾燥装置18は、フィルム16の搬送路を備えるケーシングと、フィルム16の搬送路を形成する複数のローラ18aと、ケーシング内の雰囲気の温度や湿度を調節する空調機(図示しない)とからなる。ケーシング内に導入されたフィルム16は、複数のローラ18aに巻き掛けられながら搬送される。この雰囲気の温度や湿度の調節により、ケーシング内を搬送されるフィルム16から残留した溶剤が蒸発する。更に、乾燥装置18に、フィルム16から蒸発した溶剤を吸着により回収する吸着回収装置が接続される。
【0048】
乾燥装置18及び巻取装置19の間には、上流側から順に、冷却室65a、除電バー(図示しない)、ナーリング付与ローラ65b、及び耳切装置(図示しない)が設けられる。冷却室65aは、フィルム16の温度が略室温となるまで、フィルム16を冷却する。除電バーは、冷却室65aから送り出され、帯電したフィルム16から電気を除く除電処理を行う。ナーリング付与ローラ65bは、フィルム16の幅方向両端に巻き取り用のナーリングを付与する。耳切装置は、切断後のフィルム16の幅方向両端にナーリングが残るように、フィルム16の幅方向両端を切断する。
【0049】
巻取装置19は、プレスローラ19aと巻き芯19bを有する。巻取装置19に送られたフィルム16は、プレスローラ19aによって押し付けられながら巻き芯19bに巻き取られ、ロール状となる。
【0050】
次に、本発明の作用を説明する。図2に示すように、第1〜第3シール部材31〜33により、ケーシング23内には、気密性を有する各23a〜23bが形成される。流延バンド26は、各23a〜23cを順次通過する。流延室23aでは、流延ダイ40が、ドープ流出口40aからドープ12を連続的に流出する。流出したドープ12は、流延ダイ40から流延バンド26にかけてビード42(図3参照)を形成し、流延バンド26上では流延膜43を形成する。
【0051】
図示しない制御部の制御の下、減圧ファン45bの回転により、減圧チャンバ45a内の気体が吸引管45cを通って吸引される。この結果、減圧ユニット45は、ビード42の上流側の気体を吸引する。この減圧ユニット45によれば、ビード42の上流側の圧力がビード42の下流側の圧力よりも低い状態をつくることができる。ビード42の上流側及び下流側の圧力差ΔPは、10Pa以上2000Pa以下であることが好ましい。
【0052】
減圧ユニット45により、流延面26aの移動に伴って発生し、流延面26aの近傍にてX方向に流れる同伴風を吸引することができるため、同伴風に起因するビード42の振動を抑えることができる。更に、ビード42の上流側及び下流側の圧力差ΔPを生むことにより、ビード42の長さを短くすることができるため、ビード42の振動を抑えることができる。また、吸引管45cに設けられた共鳴型消音器45dや拡張型消音器45eは、減圧ユニット45内における気体の圧力変動(例えば、減圧ファンの回転による圧力変動)を打ち消すことができる。
【0053】
ここで、シール板35h及び流延バンド26の間隔CL1は極めて小さい。このため、シール板35h及び流延バンド26の間隔における空気の移動に起因して、流延室23a内の気体の圧力が変動する結果、流延室23a内の気体が振動する。しかしながら、減圧ユニット45及び減圧ユニット45に設けられた各消音器45d、45eを用いても、減圧チャンバ35aの外にある気体の振動を除去することができない。また、グラスウールなどの吸音部材を用いた場合、除去可能な振動の周波数の範囲が100Hz以上と限られているため、この範囲を除く周波数(例えば、100Hz未満、より好ましくは、10Hz以上100Hz未満)の振動を除去することができない。
【0054】
本発明では、流延室23aの内壁面に、サイドブランチ型消音器50を設けたため、当該気体の振動を除去することができる。したがって、本発明によれば、当該気体の振動に起因するビード42の振動を防ぐことが可能となり、結果として、流延膜43やフィルム16の厚みムラを防止することができる。
【0055】
図6に示すように、サイドブランチ型消音器50に温調機68を設けても良い。温調機68は、筒50aに螺旋状に巻きつけられたパイプ68aと、パイプ68a内に所定の温度の伝熱媒体を循環させる流通させる温調ユニット68bとからなる。温調ユニット68bは、伝熱媒体の温度を調節した後、温度が調節された伝熱媒体をパイプ68aへ供給する。また、温調ユニット68bは、パイプ68a内を通った伝熱媒体を回収し、回収した伝熱媒体の温度を調節する。これを繰り返すことにより、筒50aの温度を所定の範囲(溶剤の凝縮温度よりも高い範囲、例えば、40℃以上)にすることができる。温調機68により、筒50aにおける溶剤の凝縮を防ぐ。
【0056】
上記実施形態では、サイドブランチ型消音器50の設置位置を流延室23aの天井としたが、本発明はこれに限られず、流延室23aの内壁面としてもよいし(図7参照)、遮風板32aとしてもよい(図8参照)。また、上記実施形態では、サイドブランチ型消音器50の設置位置を、ビード42よりもX方向下流側のみとしたが、本発明はこれに限られず、ビード42よりもX方向上流側のみとしてもよいし、上流側及び下流側の両方に設けても良い。なお、サイドブランチ型消音器50をビード42よりもX方向上流側に設ける場合、流延室23aの天井、流延室23aの内壁面、遮風板31aのいずれであってもよい。
【0057】
ビード42の振動を効率よく抑えるためには、ビード42のY方向中央部の振動よりも、ビード42のY方向両端部の振動を優先的に抑えることが好ましい。ビード42のY方向両端部の振動を優先的に抑えるためには、開口面50bがビード42のY方向両端部と正対するように、サイドブランチ型消音器50を設けることが好ましい。この場合において、開口面50bは、ビード42のX方向上流側の面と正対してもよいし、ビード42のX方向下流側の面と正対してもよいし、ビード42の両面と正対していてもよい。
【0058】
また、サイドブランチ型消音器50として、複数の消音穴が開口するサイドブランチ型消音器70を用いても良い。図9に示すように、サイドブランチ型消音器70は、ブロック状の消音器本体70aと消音器本体70aの表面に開口する複数の消音穴70bからなる。消音器本体70aは、耐溶剤性や耐腐食性を有し、熱変形しにくい材料、例えば、ステンレスから形成されることが好ましい。消音穴70bの開口面の形状及び消音穴70bの配列形態は特に限定されないが、消音穴70bの形成密度が高くなるようなものであることが好ましい。例えば、図示するように、消音穴70bの開口形状が六角形の場合には、ハニカム状であることが好ましい。また、消音穴70bの開口形状が円形の場合には、六方充填配置であることが好ましい。
【0059】
図10に示すように、サイドブランチ型消音器50に代えて、L1が可変自在なサイドブランチ型消音器80を用いても良い。L1が可変自在なサイドブランチ型消音器80は、両端に開口面80b、80cを有する筒80aと、筒80aの中に配され、筒80aの長さ方向に移動自在な栓80pとからなる。筒80aと栓80pとは、耐溶剤性や耐腐食性を有し、熱変形しにくい材料、例えば、ステンレスから形成されることが好ましい。開口面80bは流延室23aの内表面と面一となるように形成される。こうして、筒80aの中空部のうち、開口面80bから栓80pまでの間が消音穴となる。開口面80cはケーシング23の外で開口するように形成される。栓80pは、栓駆動用モータ82に接続する。
【0060】
次に、サイドブランチ型消音器80を用いた流延装置90について説明する。流延室23a内、例えば、流延ダイ40と第2シール部材32との間には、流延膜43の厚みを測定する厚み測定部92が設けられる。厚み測定部92は、予め設定された測定場所において流延膜43の厚みの測定を繰り返し行う。測定場所とは、Y方向における任意の点としてもよいし、Y方向全体としてもよい。
【0061】
制御部28は、厚みプロファイル生成部93と、ピーク間距離算出部94と、周波数算出部95とを有する。また、制御部28は、ロール駆動用モータ27や栓駆動用モータ82と接続する。厚みプロファイル生成部93は、厚み測定部92から読み取った複数の厚みの測定結果から、X方向における流延膜43の厚みのプロファイル(図11参照)を得る。ピーク間距離算出部94は、流延膜43の厚みのプロファイルからピーク間距離Lpを算出する。周波数算出部95は、ピーク間距離Lp及び流延バンド26の流延面26aの移動速度Vに基づいて、ビードの振動周波数f1を算出する。
【0062】
流延装置90における流延工程について説明する。制御部28の制御の下、流延バンド26の流延面26aは移動速度Vで移動する。流延ダイ40は、ドープ12をドープ流出口40aから連続的に流出する。流出したドープ12は、流延ダイ40から流延バンド26にかけてビード42を形成する。減圧ユニット45はビード42の上流側を減圧する。流出したドープ12は、流延バンド26上では流延膜43を形成する。
【0063】
厚み測定部92は、流延膜43の幅方向に設けられた測定ラインにおいて、流延膜43の厚みの測定を繰り返し行う。厚みプロファイル生成部93は、厚み測定部92から流延膜43の厚みの測定結果を読み取り、これらの測定データをX方向に並べて、X方向における流延膜43の厚みのプロファイルを得る(図11参照)。ピーク間距離算出部94は、流延膜43の厚みのプロファイルからピーク位置Pi(i=1、2、3、・・・n)を求め、ピーク位置からピーク間距離Lpを算出する。ここで、ピーク間距離Lpは、X方向におけるピーク位置Pkとピーク位置Pk+1との距離である。周波数算出部95は、ピーク間距離Lp及び流延バンド26の流延面26aの移動速度Vに基づいて、ビード42の振動周波数f1を算出する。ビード42の振動周波数f1は、次式により算出できる。
f1[Hz]=1/60・V[m/分]/Lp[m]
【0064】
制御部28は、算出されたビード42の振動周波数f1に基づくL1を算出する。このL1は、次式により算出できる。
L1=c0/(4・f1)−Le
ここで、c0は音速であり、Leは、開口端補正長である。
【0065】
制御部28の制御の下、栓駆動用モータ82は、筒80aの開口面80bと栓80pとの距離xが算出されたL1となるように、栓80pの位置を調節する。サイドブランチ型消音器80によれば、厚みムラを誘発するビード42の振動周波数を特定し、当該周波数の振動を防止することができる。したがって、本発明によれば、流延膜やフィルムにおける厚みムラをより確実に防止することができる。
【0066】
上記実施形態では、ドープ12からなる流延膜43を剥ぎ取り可能な状態にするために、流延膜43から溶剤を蒸発させたが、本発明はこれに限られず、流延膜43を冷却させてもよい。
【0067】
上記実施形態では、上記実施形態では、支持体として、流延バンド26を用いたが、本発明はこれに限られず、軸方向が水平となるように配された流延ドラムを用いてもよい。
【0068】
本発明は、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時に共流延させて積層させる同時積層共流延、または、複数のドープを逐次に共流延して積層させる逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチポケット型の流延ダイを用いてもよい。
【0069】
上記実施形態では、溶液製膜方法における流延工程に用いたが、本発明はこれに限られず、支持体に塗布液を塗布して、支持体上に塗布膜を形成する塗布工程にも適用可能である。
【0070】
(ポリマー)
ポリマーとしては、セルロースアシレートや環状ポリオレフィン等を用いることができる。
【0071】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわち、アシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、アシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0072】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0073】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0074】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶剤において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0075】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0076】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0077】
(溶剤)
ドープを調製する溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶剤に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0078】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対し2質量%〜25質量%が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0079】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶剤組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素原子数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶剤として用いることができる。
【0080】
(添加剤)
ドープに所定の添加剤を添加してもよい。本発明で用いられる添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤などがある。可塑剤として重縮合エステルを用いることが好ましい。
【0081】
フィルム16の厚みは、20μm以上120μm以下であることが好ましく、40μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0082】
フィルム16の幅は、700mm以上3000mm以下であることが好ましく、1000mm以上2800mm以下であることがより好ましく、1500mm以上2500mm以下であることが特に好ましい。なお、フィルム16の幅は、3000mm以上であってもよい。
【0083】
(ヘイズ)
フィルム16のヘイズは、0.20%未満であることが好ましく、0.15%未満であることがより好ましく、0.10%未満であることが特に好ましい。ヘイズを0.2%未満とすることにより、液晶表示装置に組み込んだ際のコントラスト比を改善することができる。また、フィルムの透明性がより高くなり、光学フィルムとしてより用いやすくなるという利点もある。
【0084】
(Re、Rth)
フィルム16の面内方向のレターデーションは、25nm≦|Re(590)|≦100nmであり、かつ、50nm≦|Rth(590)|≦250nmであることが好ましい。そして、30nm≦|Re(590)|≦80nmであることがより好ましく、35nm≦|Re(590)|≦70nmであることが特に好ましい。また、70nm≦|Rth(590)|≦240nmであることがより好ましく、90nm≦|Rth(590)|≦230nmであることが特に好ましい。
【0085】
本明細書におけるRe(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、590nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A−1)、式(A−2)及び式(B)より、Re及びRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0086】
【数1】
【0087】
ここで、上記のRe(γ)は法線方向から角度γ傾斜した方向におけるレターデーション値を表し、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(B)
【符号の説明】
【0088】
10 溶液製膜設備
15 流延装置
26 流延バンド
31〜33 第1〜3シール部材
40 流延ダイ
45 減圧チャンバ
50 サイドブランチ型消音器
【技術分野】
【0001】
本発明は、流延装置、流延膜の形成方法及び溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光透過性を有する熱可塑性フィルム(以下、フィルムと称する)は、軽量であり、成形が容易であるため、光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、写真感光用フィルムの他、液晶表示装置の光学フィルム(偏光板保護フィルムや位相差フィルム等)として用いられている。
【0003】
フィルムは、溶液製膜方法により製造される。溶液製膜方法は、移動する支持体に向けて、流延室内に配された流延ダイを用いて、ポリマーと溶剤とを含むポリマー溶液(以下、ドープと称する)を流し、帯状の流延膜を支持体上に形成する(以下、流延工程と称する)。次に、流延膜が搬送可能になった後、これを支持体から剥がして湿潤フィルムとする(以下、剥取工程と称する)。そして、この湿潤フィルムから溶剤を蒸発させてフィルムとする(以下、乾燥工程と称する)方法である。
【0004】
流延工程において、流出したドープは、流延ダイの流出口から支持体までにかけてビードを形成する。ところが、ビードが振動してしまうと、厚みムラが流延膜の長手方向に生じてしまう。そして、このような厚みムラを有する流延膜に対し、剥取工程及び乾燥工程を行っても、最終的に得られるフィルムには厚みムラが残ってしまう。こうした経緯から、フィルムの厚みムラを抑えるために、ビードの振動を抑制する策が講じられている。
【0005】
ビードの振動の防止策として、ビードの長さをできるだけ短いものにする方法が知られている。この方法としては、支持体と流延ダイの先端までの間隔を小さくすること、ビードの背面側(支持体の移動方向上流側)を減圧する減圧チャンバを設けることが知られている。また、減圧チャンバを用いる場合において、幅方向両端及び幅方向中央における吸引量のバランスを所定範囲にして、ビードの振動を防止する方法(例えば、特許文献1)や、減圧チャンバ内に設けられたスピーカから、ビードの振動を打ち消すような音波を出力する方法(例えば、特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−246721号公報
【特許文献2】特開2008−279757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のような方策を講じても、ビードの振動を十分に取り除くことはできないため、流延膜やフィルムの厚みムラは未だ残ってしまう。また、ビードの振動周波数が絶えず変化し得る流延工程にて、特許文献2のような方策を用いると、出力した音波によりビードを共振させてしまうおそれがあり、現実的ではない。
【0008】
発明者の鋭意検討の結果、この厚みムラは、減圧チャンバ内の圧力変動に起因するもののみならず、流延室を仕切る仕切り板と支持体との隙間における空気の移動に起因することを突き止めた。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するものであり、流延装置、流延膜の形成方法及び溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の流延装置は、ケーシング内に配されドープを流出するドープ流出口を備えた流延ダイと、前記ドープ流出口の下方にて移動自在に設けられ、前記流出したドープを表面で支持し前記ドープからなる帯状の流延膜を形成する支持体と、前記ドープ流出口よりも前記支持体の移動方向上流側及び下流側にて前記ケーシングの内表面から前記支持体の表面に向かって突出し、先端が前記支持体の表面に近接するように形成され、前記流延ダイを囲む流延室を前記ケーシング内に形成する1組の遮風ユニットと、前記流延室の前記内表面に開口する消音穴を備えるサイドブランチ型消音器とを有することを特徴とする。
【0011】
前記流延ダイに隣接して前記移動方向上流側に配され、前記流出したドープによって前記流延ダイから前記支持体にかけて形成されるビードの前記移動方向上流側を減圧する減圧チャンバを有し、前記サイドブランチ型消音器は前記ビードよりも前記移動方向下流側に設けられることが好ましい。また、前記消音穴の開口形状が六角形であり、前記消音穴がハニカム状に並ぶことが好ましい。
【0012】
前記消音穴に配され前記消音穴の深さ方向に移動自在に設けられた栓を前記深さ方向に移動させる栓駆動部と、前記支持体を速度Vで移動させる支持体駆動部と、長さ方向において前記流延膜の厚さ分布を検知する膜厚測定部と、前記検知した厚さ分布から厚さのピーク間の距離Lpを算出するピーク間距離算出部と、前記距離Lp及び前記速度Vに基づいて、前記ビードの振動周波数を算出する周波数算出部と、前記算出された振動周波数に基づいて前記栓駆動部を制御する栓制御部とを有することが好ましい。
【0013】
また、本発明は、ケーシング内の流延ダイを用いて、前記ケーシング内を移動する支持体に向けてドープを流出し、前記流出したドープからなる帯状の流延膜を前記支持体の表面上に形成する流延膜の形成方法において、前記ドープ流出口よりも前記支持体の移動方向上流側及び下流側にて前記ケーシングの内表面から前記支持体の表面に向かって突出し先端が前記支持体の表面に近接するように形成された1組のシール部材を用いて、前記流延ダイを囲む流延室を前記ケーシング内に形成し、前記流延室の内表面に開口する消音穴を用いて、前記流延室内の気体の振動を抑えることを特徴とする。
【0014】
前記流延ダイに隣接して前記支持体の移動方向上流側に配され、前記流出したドープによって前記流延ダイから前記支持体にかけて形成されるビードの前記移動方向上流側を減圧する減圧工程を有し、前記サイドブランチ型消音器は前記ビードよりも前記移動方向下流側に設けられることが好ましい。また、前記流延膜の長さ方向における前記流延膜の厚さ分布を検知する膜厚測定工程と、前記検知した厚さ分布から厚さのピーク間の距離Lpを算出するピーク間距離算出工程と、前記ピーク間距離Lp及び前記支持体の移動速度Vに基づいて、前記ビードの振動周波数f1を算出する周波数算出工程と、前記振動周波数f1に応じて前記消音穴の深さを調節する深さ調節工程とを有することが好ましい。
【0015】
更に、本発明の溶液製膜方法は、上記の流延膜の形成方法の後に、前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取って湿潤フィルムとする剥取工程と、前記湿潤フィルムから溶剤を蒸発させる乾燥工程とを順次行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、流延室において、流延ダイから支持体に向けてドープを流出し、支持体上に流延膜を形成する流延装置において、流延室の内表面に消音孔を備えるサイドブランチ型消音器を備えるため、流延室内の空気の圧力変動を防止することができる。したがって、本発明によれば、空気の圧力変動に起因するビードの震動を抑え、結果として、フィルムの厚みムラの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図2】ケーシングの概要を示す部分断面図である。
【図3】第1の流延室の概要を示すケーシングの部分断面図である。
【図4】第1の流延室の概要を示す斜視図である。
【図5】第1の流延室及び乾燥室の概要を示す平面図である。
【図6】サイドブランチ型消音器に取り付けられた温調機の概要を示す部分断面図である。
【図7】第2の流延室及び乾燥室の概要を示す平面図である。
【図8】第3の流延室及び乾燥室の概要を示す平面図である。
【図9】サイドブランチ型消音器の概要を示す斜視図である。
【図10】第4の流延室の概要を示すケーシングの部分断面図である。
【図11】流延膜の長さ方向における流延膜の厚みのプロファイルの概要を示す説明図である。縦軸は、流延膜の厚みであり、横軸は、流延膜の長さ方向における距離である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(溶液製膜設備)
図1に示すように、溶液製膜設備10は、ドープ12から湿潤フィルム13をつくる流延装置15と、湿潤フィルム13の乾燥によりフィルム16を得るクリップテンタ17と、湿潤フィルム13の乾燥を行う乾燥装置18と、フィルム16を巻き芯に巻き取る巻取装置19とを有する。
【0019】
(流延装置)
図1及び図2に示すように、流延装置15は、ケーシング23と、ケーシング23内に略水平に並べられた水平ロール24、25とを有する。水平ロール24は、駆動軸24aと、駆動軸24aに軸着されたロール本体24bとからなる。水平ロール25は、回転軸25aと、回転軸25aに軸着されたロール本体25bとからなる。水平ロール24、25には環状の流延バンド26が巻きかけられる。流延バンド26は、帯状のシート材の両端を連結することにより得られる。
【0020】
駆動軸24aは、ロール駆動用モータ27と接続する。制御部28は、ロール駆動用モータ27を制御して、水平ロール24を所定の速度で回転させる。流延バンド26は、水平ロール24の回転に伴い所定の方向へ循環移動し、水平ロール25は、流延バンド26の移動に従って回転する。以下、流延バンド26の移動方向をX方向と称し、流延バンド26の幅方向をY方向と、垂直方向をZ方向と称する。
【0021】
流延バンド26の表面(以下、流延面と称する)26aの移動速度Vは以上200m/分以下であることが好ましい。移動速度Vが200m/分を超えると、ビードを安定して形成することが困難となる。移動速度Vの下限値は、目標とするフィルムの生産性を考慮すればよい。移動速度Vの下限値は、例えば、10m/分以上である。
【0022】
流延バンド26は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するSUS316製であることがより好ましい。流延バンド26の幅は、例えば、ドープ12の流延幅の1.1倍以上2.0倍以下であることが好ましい。流延バンド26の長さは、例えば、20m以上200m以下であることが好ましく、流延バンド26の厚みは、例えば、0.5mm以上〜2.5mm以下であることが好ましい。なお、流延バンド26の厚みムラは、全体の厚みに対して0.5%以下のものを用いることが好ましい。流延面26aは、研磨されていることが好ましく、流延面26aの表面粗さは0.05μm以下であることが好ましい。
【0023】
また、流延バンド26の流延面26aの温度を所定の値にするために、水平ロール24、25に温調装置(図示しない)が取り付けられていることが好ましい。流延面26aの温度を10℃〜40℃に調整可能なものであることが好ましい。温調装置は、制御部の制御の下、所望の温度に調節された伝熱媒体を、ロール本体24b、25b内に設けられる流路中を循環させる。この伝熱媒体の循環により、ロール本体24b、25bの温度を所望の温度に保つことができる。
【0024】
(シール部材)
また、ケーシング23内には、X方向上流側から下流側に向かって、第1〜第3シール部材31〜33が順次配される。第1〜第3シール部材31〜33により、ケーシング23内は、X方向上流側から下流側に向かって、流延室23a、乾燥室23b、及び剥取室23cに仕切られる。
【0025】
第1シール部材31は、ケーシング23内に取り付けられた遮風板31aと、遮風板31aに取り付けられたラビリンスシール31bとからなる。遮風板31aは、ケーシング23内の気体の流れを遮る遮風面を有する。遮風面は、X方向と直交するものでもよいし、X方向と斜めに交差するものでもよい。遮風板31aは、ケーシング23の内壁面から突出し、流延バンド26の流延面26aに向かって延設される。なお、天井から突出するように遮風板31aを設けても良い。
【0026】
ラビリンスシール31bは、流延面26aと近接するように、遮風板31aの先端に設けられる。ラビリンスシール31bは、流延バンド26のうち水平ロール24に巻き掛けられた部分の流延面26aと近接するように設けられることが好ましい。
【0027】
第2シール部材32は、ケーシング23内に取り付けられた遮風板32aと、遮風板32aに取り付けられたラビリンスシール32bとからなる。遮風板32aは、遮風板31aと同様の形状であり、ケーシング23内の天井から突出し、流延バンド26の流延面26aに向かって延設される。ラビリンスシール31bは、ラビリンスシール31bと同様の形状であり、流延面26aと近接するように遮風板32aの先端に設けられる。ラビリンスシール32bは、流延バンド26のうち水平ロール24に巻き掛けられた部分の流延面26aと近接するように設けられることが好ましい。
【0028】
同様に、第3シール部材33は、ケーシング23内に取り付けられた遮風板33aと、遮風板33aに取り付けられたラビリンスシール33bとからなる。遮風板33aは、遮風板31aと同様の形状であり、ケーシング23内の内壁面から突出し、流延バンド26の流延面26aに向かって延設される。ラビリンスシール33bは、ラビリンスシール31bと同様の形状であり、流延面26aと近接するように遮風板33aの先端に設けられる。
【0029】
図3に示すように、ラビリンスシール31bは、遮風板31aの先端に取り付けられたラビリンス本体31gと、ラビリンス本体31gに取り付けられたシール板31hとからなる。シール板31hは、流延バンド26の流延面26aに対し起立した姿勢で設けられる。複数のシール板31hを設ける場合には、互いに離隔するようにX方向へ並べることが好ましい。シール板35hと流延バンド26の間隔CL1は、例えば、0.5mm以上2.0mm以下である。
【0030】
ラビリンスシール32bは、ラビリンスシール31bと同様に、ラビリンス本体32gとシール板32hとからなる。ラビリンス本体32gは、ラビリンス本体31gと同様の構造であり、シール板32hは、シール板31hと同様の構造である。
【0031】
図4に示すように、流延室23aにて、流延バンド26のY方向両側に、サイドラビリンス36が設けられる。サイドラビリンス36は、流延室23aの内壁面と流延バンド26との間における空気の移動を防ぐためのものであり、流延室23aの内壁面から突出し、流延バンド26に向かって延設される。
【0032】
流延室23aの気密性は、第1〜第2シール部材31〜32及びサイドラビリンス36により維持される。同様に、乾燥室23bの気密性は、第2〜第3シール部材32〜33により維持される。
【0033】
(流延ダイ)
図3及び図4に示すように、流延室23a内にて、流延バンド26の上方には流延ダイ40が設けられる。流延ダイ40は、ドープ12を流出するドープ流出口40aを有し、ドープ流出口40aが流延バンド26と近接するように配される。
【0034】
なお、流延ダイ40の設置位置を、図示するように、水平ロール24の上方としたが、本発明はこれに限られない。ラビリンスシール31b、32bを水平ロール25に巻き掛けられた流延バンド26の部分と近接するように設けたときには、流延ダイ40の設置位置を水平ロール24の上方としてもよい。また、流延バンド26を支持するサポートロールを水平ロール24、25の間に設け、ラビリンスシール31b、32bをサポートロールに支持された流延バンド26の部分と近接するように設けたときには、流延ダイ40の設置位置をサポートロールの上方としても良い。
【0035】
流延ダイ40は、ドープ流出口40aから流延バンド26に向けてドープ12を流出する。ドープ流出口40aから流出し流延面26aに到達するまでのドープ12は、ビード42を形成する。流延面26aに到達したドープ12は、流延面26a上でX方向に延ばされる結果、帯状の流延膜43を形成する。
【0036】
(減圧ユニット)
流延装置15(図2参照)には、減圧ユニット45が取り付けられる。図3に示すように、減圧ユニット45は、流延ダイ40よりもX方向の上流側に配置される減圧チャンバ45aと、減圧チャンバ45a内の気体を吸引するための減圧ファン45bと、減圧ファン45b及び減圧チャンバ45aとを接続する吸引管45cとを有する。吸引管45cには、減圧チャンバ45aから減圧ファン45bに向かって、共鳴型消音器45dや拡張型消音器45eが順次取り付けられる。
【0037】
(サイドブランチ型消音器)
図3及び図5に示すように、流延室23aには、サイドブランチ型消音器50が設けられる。サイドブランチ型消音器50は、一端が開口し、他端が閉塞する筒50aを有する。筒50aは、耐溶剤性や耐腐食性を有し、熱変形しにくい材料、例えば、ステンレスから形成されることが好ましい。筒50aは、ビード42よりもX方向下流側に開口面50bが位置するように配されることが好ましい。なお、筒50aは、開口面50bがビード42の近傍となるように配することが好ましい。また、開口面50bは、ケーシング23の天井と面一であることが好ましい。
【0038】
筒50aの中空部(消音穴)の長さ、すなわち開口面50bから中空部の底面50cまでの長さL1は、厚みムラを誘発するビード42の振動周波数f0に応じて決定すればよい。より具体的には、音速をc0とすると、長さL1は、次式のように表される。
L1=c0/(4・f1)−Le
ここで、Leは開口端補正長である。
【0039】
また、サイドブランチ型消音器50によるビード42の振動の抑制効果を増大させるために、開口面50bの面積は大きいほうが好ましい。なお、開口面50bの形状は、円、楕円、多角形のいずれでもよい。多角形としては、三角形、四角形、五角形、六角形などがあり、いずれも本発明に適用できる。また、四角形としては、平行四辺形、ひし形、長方形、正方形などがあり、いずれも本発明に適用できる。
【0040】
流延室23aに複数のサイドブランチ型消音器50を設ける場合には、X方向、Y方向、又は、X方向に交差する方向に並べればよい。
【0041】
(乾燥室)
図2に示すように、乾燥室23bには、流延膜43に所定の乾燥風を供給する第1乾燥装置53a〜第4乾燥装置53dが、流延バンド26の移動方向上流側から下流側に向かって、順次設けられる。第1〜4乾燥装置53a〜53dは、流延膜43に対し所定の乾燥風を供給し、流延膜43から溶剤を蒸発させる。流延膜43における溶剤の蒸発により、流延膜43は、剥ぎ取り可能な状態となる。
【0042】
(剥取室)
剥取室23cには、剥取ローラ56が設けられる。剥取ローラ56は、剥ぎ取り可能な状態となった流延膜43を流延バンド26から剥ぎ取って湿潤フィルム13とし、剥取室23cに設けられた出口23oから湿潤フィルム13を送り出す。
【0043】
ケーシング23内の雰囲気に含まれる溶剤を凝縮する凝縮装置、凝縮した溶剤を回収する回収装置を、流延装置15に設けてもよい。これにより、ケーシング23内の雰囲気に含まれる溶剤の濃度を一定の範囲に保つことができる。
【0044】
図1に示すように、流延装置15とクリップテンタ17との間の渡り部58には、湿潤フィルム35を支持する支持ローラ59が複数並べられている。支持ローラ59は、図示しないモータにより、軸を中心に回転する。支持ローラ59は、流延装置15から送り出された湿潤フィルム35を支持して、クリップテンタ17へ案内する。なお、図1では、渡り部58に2つの支持ローラ59を並べた場合を示しているが、本発明はこれに限られず、渡り部58に1つ、または3つ以上の支持ローラ59を並べてもよい。また、支持ローラ59は、フリーローラでもよい。
【0045】
クリップテンタ17は、湿潤フィルム13の幅方向両側縁部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を移動する。クリップにより把持された湿潤フィルム13に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム13には、幅方向への延伸処理とともに乾燥処理が施される。
【0046】
クリップテンタ17と乾燥装置18との間には耳切装置62が設けられている。耳切装置62に送り出されたフィルム16の幅方向の両端は、クリップによって形成された把持跡が形成されている。耳切装置62は、この把持跡を有する両端部分を切り離す。この切り離された部分は、送風によりカットブロワ(図示しない)及びクラッシャ(図示しない)へ順次に送られて、細かく切断され、ドープ等の原料として再利用される。
【0047】
乾燥装置18は、フィルム16の搬送路を備えるケーシングと、フィルム16の搬送路を形成する複数のローラ18aと、ケーシング内の雰囲気の温度や湿度を調節する空調機(図示しない)とからなる。ケーシング内に導入されたフィルム16は、複数のローラ18aに巻き掛けられながら搬送される。この雰囲気の温度や湿度の調節により、ケーシング内を搬送されるフィルム16から残留した溶剤が蒸発する。更に、乾燥装置18に、フィルム16から蒸発した溶剤を吸着により回収する吸着回収装置が接続される。
【0048】
乾燥装置18及び巻取装置19の間には、上流側から順に、冷却室65a、除電バー(図示しない)、ナーリング付与ローラ65b、及び耳切装置(図示しない)が設けられる。冷却室65aは、フィルム16の温度が略室温となるまで、フィルム16を冷却する。除電バーは、冷却室65aから送り出され、帯電したフィルム16から電気を除く除電処理を行う。ナーリング付与ローラ65bは、フィルム16の幅方向両端に巻き取り用のナーリングを付与する。耳切装置は、切断後のフィルム16の幅方向両端にナーリングが残るように、フィルム16の幅方向両端を切断する。
【0049】
巻取装置19は、プレスローラ19aと巻き芯19bを有する。巻取装置19に送られたフィルム16は、プレスローラ19aによって押し付けられながら巻き芯19bに巻き取られ、ロール状となる。
【0050】
次に、本発明の作用を説明する。図2に示すように、第1〜第3シール部材31〜33により、ケーシング23内には、気密性を有する各23a〜23bが形成される。流延バンド26は、各23a〜23cを順次通過する。流延室23aでは、流延ダイ40が、ドープ流出口40aからドープ12を連続的に流出する。流出したドープ12は、流延ダイ40から流延バンド26にかけてビード42(図3参照)を形成し、流延バンド26上では流延膜43を形成する。
【0051】
図示しない制御部の制御の下、減圧ファン45bの回転により、減圧チャンバ45a内の気体が吸引管45cを通って吸引される。この結果、減圧ユニット45は、ビード42の上流側の気体を吸引する。この減圧ユニット45によれば、ビード42の上流側の圧力がビード42の下流側の圧力よりも低い状態をつくることができる。ビード42の上流側及び下流側の圧力差ΔPは、10Pa以上2000Pa以下であることが好ましい。
【0052】
減圧ユニット45により、流延面26aの移動に伴って発生し、流延面26aの近傍にてX方向に流れる同伴風を吸引することができるため、同伴風に起因するビード42の振動を抑えることができる。更に、ビード42の上流側及び下流側の圧力差ΔPを生むことにより、ビード42の長さを短くすることができるため、ビード42の振動を抑えることができる。また、吸引管45cに設けられた共鳴型消音器45dや拡張型消音器45eは、減圧ユニット45内における気体の圧力変動(例えば、減圧ファンの回転による圧力変動)を打ち消すことができる。
【0053】
ここで、シール板35h及び流延バンド26の間隔CL1は極めて小さい。このため、シール板35h及び流延バンド26の間隔における空気の移動に起因して、流延室23a内の気体の圧力が変動する結果、流延室23a内の気体が振動する。しかしながら、減圧ユニット45及び減圧ユニット45に設けられた各消音器45d、45eを用いても、減圧チャンバ35aの外にある気体の振動を除去することができない。また、グラスウールなどの吸音部材を用いた場合、除去可能な振動の周波数の範囲が100Hz以上と限られているため、この範囲を除く周波数(例えば、100Hz未満、より好ましくは、10Hz以上100Hz未満)の振動を除去することができない。
【0054】
本発明では、流延室23aの内壁面に、サイドブランチ型消音器50を設けたため、当該気体の振動を除去することができる。したがって、本発明によれば、当該気体の振動に起因するビード42の振動を防ぐことが可能となり、結果として、流延膜43やフィルム16の厚みムラを防止することができる。
【0055】
図6に示すように、サイドブランチ型消音器50に温調機68を設けても良い。温調機68は、筒50aに螺旋状に巻きつけられたパイプ68aと、パイプ68a内に所定の温度の伝熱媒体を循環させる流通させる温調ユニット68bとからなる。温調ユニット68bは、伝熱媒体の温度を調節した後、温度が調節された伝熱媒体をパイプ68aへ供給する。また、温調ユニット68bは、パイプ68a内を通った伝熱媒体を回収し、回収した伝熱媒体の温度を調節する。これを繰り返すことにより、筒50aの温度を所定の範囲(溶剤の凝縮温度よりも高い範囲、例えば、40℃以上)にすることができる。温調機68により、筒50aにおける溶剤の凝縮を防ぐ。
【0056】
上記実施形態では、サイドブランチ型消音器50の設置位置を流延室23aの天井としたが、本発明はこれに限られず、流延室23aの内壁面としてもよいし(図7参照)、遮風板32aとしてもよい(図8参照)。また、上記実施形態では、サイドブランチ型消音器50の設置位置を、ビード42よりもX方向下流側のみとしたが、本発明はこれに限られず、ビード42よりもX方向上流側のみとしてもよいし、上流側及び下流側の両方に設けても良い。なお、サイドブランチ型消音器50をビード42よりもX方向上流側に設ける場合、流延室23aの天井、流延室23aの内壁面、遮風板31aのいずれであってもよい。
【0057】
ビード42の振動を効率よく抑えるためには、ビード42のY方向中央部の振動よりも、ビード42のY方向両端部の振動を優先的に抑えることが好ましい。ビード42のY方向両端部の振動を優先的に抑えるためには、開口面50bがビード42のY方向両端部と正対するように、サイドブランチ型消音器50を設けることが好ましい。この場合において、開口面50bは、ビード42のX方向上流側の面と正対してもよいし、ビード42のX方向下流側の面と正対してもよいし、ビード42の両面と正対していてもよい。
【0058】
また、サイドブランチ型消音器50として、複数の消音穴が開口するサイドブランチ型消音器70を用いても良い。図9に示すように、サイドブランチ型消音器70は、ブロック状の消音器本体70aと消音器本体70aの表面に開口する複数の消音穴70bからなる。消音器本体70aは、耐溶剤性や耐腐食性を有し、熱変形しにくい材料、例えば、ステンレスから形成されることが好ましい。消音穴70bの開口面の形状及び消音穴70bの配列形態は特に限定されないが、消音穴70bの形成密度が高くなるようなものであることが好ましい。例えば、図示するように、消音穴70bの開口形状が六角形の場合には、ハニカム状であることが好ましい。また、消音穴70bの開口形状が円形の場合には、六方充填配置であることが好ましい。
【0059】
図10に示すように、サイドブランチ型消音器50に代えて、L1が可変自在なサイドブランチ型消音器80を用いても良い。L1が可変自在なサイドブランチ型消音器80は、両端に開口面80b、80cを有する筒80aと、筒80aの中に配され、筒80aの長さ方向に移動自在な栓80pとからなる。筒80aと栓80pとは、耐溶剤性や耐腐食性を有し、熱変形しにくい材料、例えば、ステンレスから形成されることが好ましい。開口面80bは流延室23aの内表面と面一となるように形成される。こうして、筒80aの中空部のうち、開口面80bから栓80pまでの間が消音穴となる。開口面80cはケーシング23の外で開口するように形成される。栓80pは、栓駆動用モータ82に接続する。
【0060】
次に、サイドブランチ型消音器80を用いた流延装置90について説明する。流延室23a内、例えば、流延ダイ40と第2シール部材32との間には、流延膜43の厚みを測定する厚み測定部92が設けられる。厚み測定部92は、予め設定された測定場所において流延膜43の厚みの測定を繰り返し行う。測定場所とは、Y方向における任意の点としてもよいし、Y方向全体としてもよい。
【0061】
制御部28は、厚みプロファイル生成部93と、ピーク間距離算出部94と、周波数算出部95とを有する。また、制御部28は、ロール駆動用モータ27や栓駆動用モータ82と接続する。厚みプロファイル生成部93は、厚み測定部92から読み取った複数の厚みの測定結果から、X方向における流延膜43の厚みのプロファイル(図11参照)を得る。ピーク間距離算出部94は、流延膜43の厚みのプロファイルからピーク間距離Lpを算出する。周波数算出部95は、ピーク間距離Lp及び流延バンド26の流延面26aの移動速度Vに基づいて、ビードの振動周波数f1を算出する。
【0062】
流延装置90における流延工程について説明する。制御部28の制御の下、流延バンド26の流延面26aは移動速度Vで移動する。流延ダイ40は、ドープ12をドープ流出口40aから連続的に流出する。流出したドープ12は、流延ダイ40から流延バンド26にかけてビード42を形成する。減圧ユニット45はビード42の上流側を減圧する。流出したドープ12は、流延バンド26上では流延膜43を形成する。
【0063】
厚み測定部92は、流延膜43の幅方向に設けられた測定ラインにおいて、流延膜43の厚みの測定を繰り返し行う。厚みプロファイル生成部93は、厚み測定部92から流延膜43の厚みの測定結果を読み取り、これらの測定データをX方向に並べて、X方向における流延膜43の厚みのプロファイルを得る(図11参照)。ピーク間距離算出部94は、流延膜43の厚みのプロファイルからピーク位置Pi(i=1、2、3、・・・n)を求め、ピーク位置からピーク間距離Lpを算出する。ここで、ピーク間距離Lpは、X方向におけるピーク位置Pkとピーク位置Pk+1との距離である。周波数算出部95は、ピーク間距離Lp及び流延バンド26の流延面26aの移動速度Vに基づいて、ビード42の振動周波数f1を算出する。ビード42の振動周波数f1は、次式により算出できる。
f1[Hz]=1/60・V[m/分]/Lp[m]
【0064】
制御部28は、算出されたビード42の振動周波数f1に基づくL1を算出する。このL1は、次式により算出できる。
L1=c0/(4・f1)−Le
ここで、c0は音速であり、Leは、開口端補正長である。
【0065】
制御部28の制御の下、栓駆動用モータ82は、筒80aの開口面80bと栓80pとの距離xが算出されたL1となるように、栓80pの位置を調節する。サイドブランチ型消音器80によれば、厚みムラを誘発するビード42の振動周波数を特定し、当該周波数の振動を防止することができる。したがって、本発明によれば、流延膜やフィルムにおける厚みムラをより確実に防止することができる。
【0066】
上記実施形態では、ドープ12からなる流延膜43を剥ぎ取り可能な状態にするために、流延膜43から溶剤を蒸発させたが、本発明はこれに限られず、流延膜43を冷却させてもよい。
【0067】
上記実施形態では、上記実施形態では、支持体として、流延バンド26を用いたが、本発明はこれに限られず、軸方向が水平となるように配された流延ドラムを用いてもよい。
【0068】
本発明は、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時に共流延させて積層させる同時積層共流延、または、複数のドープを逐次に共流延して積層させる逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチポケット型の流延ダイを用いてもよい。
【0069】
上記実施形態では、溶液製膜方法における流延工程に用いたが、本発明はこれに限られず、支持体に塗布液を塗布して、支持体上に塗布膜を形成する塗布工程にも適用可能である。
【0070】
(ポリマー)
ポリマーとしては、セルロースアシレートや環状ポリオレフィン等を用いることができる。
【0071】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわち、アシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、アシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0072】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0073】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0074】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶剤において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0075】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0076】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0077】
(溶剤)
ドープを調製する溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶剤に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0078】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対し2質量%〜25質量%が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0079】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶剤組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素原子数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶剤として用いることができる。
【0080】
(添加剤)
ドープに所定の添加剤を添加してもよい。本発明で用いられる添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤などがある。可塑剤として重縮合エステルを用いることが好ましい。
【0081】
フィルム16の厚みは、20μm以上120μm以下であることが好ましく、40μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0082】
フィルム16の幅は、700mm以上3000mm以下であることが好ましく、1000mm以上2800mm以下であることがより好ましく、1500mm以上2500mm以下であることが特に好ましい。なお、フィルム16の幅は、3000mm以上であってもよい。
【0083】
(ヘイズ)
フィルム16のヘイズは、0.20%未満であることが好ましく、0.15%未満であることがより好ましく、0.10%未満であることが特に好ましい。ヘイズを0.2%未満とすることにより、液晶表示装置に組み込んだ際のコントラスト比を改善することができる。また、フィルムの透明性がより高くなり、光学フィルムとしてより用いやすくなるという利点もある。
【0084】
(Re、Rth)
フィルム16の面内方向のレターデーションは、25nm≦|Re(590)|≦100nmであり、かつ、50nm≦|Rth(590)|≦250nmであることが好ましい。そして、30nm≦|Re(590)|≦80nmであることがより好ましく、35nm≦|Re(590)|≦70nmであることが特に好ましい。また、70nm≦|Rth(590)|≦240nmであることがより好ましく、90nm≦|Rth(590)|≦230nmであることが特に好ましい。
【0085】
本明細書におけるRe(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、590nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A−1)、式(A−2)及び式(B)より、Re及びRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0086】
【数1】
【0087】
ここで、上記のRe(γ)は法線方向から角度γ傾斜した方向におけるレターデーション値を表し、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(B)
【符号の説明】
【0088】
10 溶液製膜設備
15 流延装置
26 流延バンド
31〜33 第1〜3シール部材
40 流延ダイ
45 減圧チャンバ
50 サイドブランチ型消音器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内に配されドープを流出するドープ流出口を備えた流延ダイと、
前記ドープ流出口の下方にて移動自在に設けられ、前記流出したドープを表面で支持し前記ドープからなる帯状の流延膜を形成する支持体と、
前記ドープ流出口よりも前記支持体の移動方向上流側及び下流側にて前記ケーシングの内表面から前記支持体の表面に向かって突出し、先端が前記支持体の表面に近接するように形成され、前記流延ダイを囲む流延室を前記ケーシング内に形成する1組の遮風ユニットと、
前記流延室の前記内表面に開口する消音穴を備えるサイドブランチ型消音器とを有することを特徴とする流延装置。
【請求項2】
前記流延ダイに隣接して前記移動方向上流側に配され、前記流出したドープによって前記流延ダイから前記支持体にかけて形成されるビードの前記移動方向上流側を減圧する減圧チャンバを有し、
前記サイドブランチ型消音器は前記ビードよりも前記移動方向下流側に設けられることを特徴とする請求項1記載の流延装置。
【請求項3】
前記消音穴の開口形状が六角形であり、
前記消音穴がハニカム状に並ぶことを特徴とする請求項1または2記載の流延装置。
【請求項4】
前記消音穴に配され前記消音穴の深さ方向に移動自在に設けられた栓を前記深さ方向に移動させる栓駆動部と、
前記支持体を速度Vで移動させる支持体駆動部と、
長さ方向において前記流延膜の厚さ分布を検知する膜厚測定部と、
前記検知した厚さ分布から厚さのピーク間の距離Lpを算出するピーク間距離算出部と、
前記距離Lp及び前記速度Vに基づいて、前記ビードの振動周波数を算出する周波数算出部と、
前記算出された振動周波数に基づいて前記栓駆動部を制御する栓制御部とを有することを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の流延装置。
【請求項5】
ケーシング内の流延ダイを用いて、前記ケーシング内を移動する支持体に向けてドープを流出し、前記流出したドープからなる帯状の流延膜を前記支持体の表面上に形成する流延膜の形成方法において、
前記ドープ流出口よりも前記支持体の移動方向上流側及び下流側にて前記ケーシングの内表面から前記支持体の表面に向かって突出し先端が前記支持体の表面に近接するように形成された1組のシール部材を用いて、前記流延ダイを囲む流延室を前記ケーシング内に形成し、前記流延室の内表面に開口する消音穴を用いて、前記流延室内の気体の振動を抑えることを特徴とする流延膜の形成方法。
【請求項6】
前記流延ダイに隣接して前記支持体の移動方向上流側に配され、前記流出したドープによって前記流延ダイから前記支持体にかけて形成されるビードの前記移動方向上流側を減圧する減圧工程を有し、
前記サイドブランチ型消音器は前記ビードよりも前記移動方向下流側に設けられることを特徴とする請求項5記載の流延膜の形成方法。
【請求項7】
前記流延膜の長さ方向における前記流延膜の厚さ分布を検知する膜厚測定工程と、
前記検知した厚さ分布から厚さのピーク間の距離Lpを算出するピーク間距離算出工程と、
前記ピーク間距離Lp及び前記支持体の移動速度Vに基づいて、前記ビードの振動周波数f1を算出する周波数算出工程と、
前記振動周波数f1に応じて前記消音穴の深さを調節する深さ調節工程とを有することを特徴とする請求項5または6記載の流延膜の形成方法。
【請求項8】
請求項5ないし7のうちいずれか1項記載の流延膜の形成方法の後に、
前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取って湿潤フィルムとする剥取工程と、
前記湿潤フィルムから溶剤を蒸発させる乾燥工程とを順次行うことを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項1】
ケーシング内に配されドープを流出するドープ流出口を備えた流延ダイと、
前記ドープ流出口の下方にて移動自在に設けられ、前記流出したドープを表面で支持し前記ドープからなる帯状の流延膜を形成する支持体と、
前記ドープ流出口よりも前記支持体の移動方向上流側及び下流側にて前記ケーシングの内表面から前記支持体の表面に向かって突出し、先端が前記支持体の表面に近接するように形成され、前記流延ダイを囲む流延室を前記ケーシング内に形成する1組の遮風ユニットと、
前記流延室の前記内表面に開口する消音穴を備えるサイドブランチ型消音器とを有することを特徴とする流延装置。
【請求項2】
前記流延ダイに隣接して前記移動方向上流側に配され、前記流出したドープによって前記流延ダイから前記支持体にかけて形成されるビードの前記移動方向上流側を減圧する減圧チャンバを有し、
前記サイドブランチ型消音器は前記ビードよりも前記移動方向下流側に設けられることを特徴とする請求項1記載の流延装置。
【請求項3】
前記消音穴の開口形状が六角形であり、
前記消音穴がハニカム状に並ぶことを特徴とする請求項1または2記載の流延装置。
【請求項4】
前記消音穴に配され前記消音穴の深さ方向に移動自在に設けられた栓を前記深さ方向に移動させる栓駆動部と、
前記支持体を速度Vで移動させる支持体駆動部と、
長さ方向において前記流延膜の厚さ分布を検知する膜厚測定部と、
前記検知した厚さ分布から厚さのピーク間の距離Lpを算出するピーク間距離算出部と、
前記距離Lp及び前記速度Vに基づいて、前記ビードの振動周波数を算出する周波数算出部と、
前記算出された振動周波数に基づいて前記栓駆動部を制御する栓制御部とを有することを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の流延装置。
【請求項5】
ケーシング内の流延ダイを用いて、前記ケーシング内を移動する支持体に向けてドープを流出し、前記流出したドープからなる帯状の流延膜を前記支持体の表面上に形成する流延膜の形成方法において、
前記ドープ流出口よりも前記支持体の移動方向上流側及び下流側にて前記ケーシングの内表面から前記支持体の表面に向かって突出し先端が前記支持体の表面に近接するように形成された1組のシール部材を用いて、前記流延ダイを囲む流延室を前記ケーシング内に形成し、前記流延室の内表面に開口する消音穴を用いて、前記流延室内の気体の振動を抑えることを特徴とする流延膜の形成方法。
【請求項6】
前記流延ダイに隣接して前記支持体の移動方向上流側に配され、前記流出したドープによって前記流延ダイから前記支持体にかけて形成されるビードの前記移動方向上流側を減圧する減圧工程を有し、
前記サイドブランチ型消音器は前記ビードよりも前記移動方向下流側に設けられることを特徴とする請求項5記載の流延膜の形成方法。
【請求項7】
前記流延膜の長さ方向における前記流延膜の厚さ分布を検知する膜厚測定工程と、
前記検知した厚さ分布から厚さのピーク間の距離Lpを算出するピーク間距離算出工程と、
前記ピーク間距離Lp及び前記支持体の移動速度Vに基づいて、前記ビードの振動周波数f1を算出する周波数算出工程と、
前記振動周波数f1に応じて前記消音穴の深さを調節する深さ調節工程とを有することを特徴とする請求項5または6記載の流延膜の形成方法。
【請求項8】
請求項5ないし7のうちいずれか1項記載の流延膜の形成方法の後に、
前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取って湿潤フィルムとする剥取工程と、
前記湿潤フィルムから溶剤を蒸発させる乾燥工程とを順次行うことを特徴とする溶液製膜方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−152930(P2012−152930A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11695(P2011−11695)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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