説明

流量制御弁

【課題】圧力補償型流量制御弁における、スプールの外周とボディの内周との間隙を通じた作動液の漏出を低減させる。
【解決手段】ボディ1内にスプール3の摺動範囲を規制する環状のシート部材5を設けるとともに、シート部材5に当接するスプール3の端部32に軸心方向に対して傾斜した傾斜面321を形成し、シート部材5に傾斜面321に線接触する端縁53を形成して、作動液がスプリング室内に浸入してタンクライン63に漏洩することを抑制するシール構造を構築した。さらに、シート部材5に軸心方向に対して傾斜した傾斜面51を形成し、ボディ1に傾斜面51に線接触する端縁15を形成して、作動液がシート部材5とボディ1との隙間に浸入してタンクライン63に漏洩することを抑制するシール構造を構築した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種産業機械や車両等の液圧装置に用いられる流量制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
流体圧力が変動してもその流量を一定に保つことのできる、圧力補償型の流量制御弁が既知である(例えば、下記特許文献1を参照)。この種の流量制御弁は、筒状のボディ内にコントロールスプールを摺動可能に配設し、当該スプールを軸心方向に弾性付勢するスプリングをボディとスプールとの間に介設してなる。上流の流体圧力が上昇すると、高圧流体の流入に伴って弁室内圧力が上昇し、スプールがスプリングの弾性付勢力に抗して軸心方向に沿って変位する。その結果、流入口側の可変オリフィスの開度が減少して圧力補償がなされ、下流に流出する流体の流量が一定に保たれる。
【0003】
ボディ内における、スプリングを配置するスプリング室に導入する作動液の液圧力は、恒常的に一定であることが望ましい。そのために、スプリング室を、タンクに向けて還流する作動液が流通するタンクライン等に常時連通させておくことが考えられる。
【0004】
しかしながら、このような態様をとる場合、ボディ内に流入した作動液がスプールの外周とボディの内周との間隙を通じてスプリング室に漏洩し、連通路を経由してタンクに向けて流下してしまうという問題を生ずるきらいがあった。
【0005】
作動液の漏出を防止するべく、スプールの外周またはボディの内周にシールとしてOリングを嵌着することが考えられるものの、スプール、ボディともに部材の肉厚が薄く、Oリングを嵌め込むための凹溝を形成することは困難と言えた。
【0006】
因みに、ポペット弁において、弁体を切頭円錐形状のテーパとし、この弁体を弁座に軸心周りの略全周に亘り線接触させる構造をもつものが知られている(例えば、下記特許文献2を参照)。即ち、作動液の流れを断ち切る必要があるときに、ポペット弁体を弁座に密着させることで、ボディの流入口と流出口との間を完全に隔絶する。
【0007】
但し、ボディ内に、環状のシート部材を挿入し固設することは、下記特許文献の何れにも開示されてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−036336号公報
【特許文献2】実開昭63−049061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、圧力補償型流量制御弁における、スプールの外周とボディの内周との間隙を通じた作動液の漏出を低減させることを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、ボディ内に流入する作動液(例えば、油)の圧力を受けたスプールがボディ内で軸心方向に沿って摺動し可変オリフィスの開度を縮小させる、圧力補償型の流量制御弁であって、ボディ内においてスプールを弾性付勢するスプリングが配置されるスプリング室を、圧力補償された作動液が流出する流出口とは別のボディ外の所定の作動液流路に連通せしめる連通路と、ボディ内において一端が前記連通路よりもスプール寄りに配置されスプールの摺動範囲を規制する環状のシート部材と、前記シート部材と当該シート部材に当接するスプールの部位とのうち一方に形成され軸心方向に対して傾斜した傾斜面と、他方に形成され前記傾斜面に線接触する端縁とを要素とし、ボディ内に流入した作動液が前記連通路内に浸入することを抑制する第一のシール構造と、前記シート部材と当該シート部材に当接するボディの部位とのうち一方に形成され軸心方向に対して傾斜した傾斜面と、他方に形成され前記傾斜面に線接触する端縁とを要素とし、ボディ内に流入した作動液が前記連通路内に浸入することを抑制する第二のシール構造とを備えることを特徴とする流量制御弁を構成した。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スプールの外周とボディの内周との間隙を通じた作動液の漏出を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態の流量制御弁を示す側断面図。
【図2】同実施形態の流量制御弁を示す側断面図。
【図3】同実施形態の流量制御弁の使用例を示す側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1及び図2に示す本実施形態の流量制御弁0は、液圧装置の筐体ブロック等に組み込まれるもので、ボディ1、プラグ2、コントロールスプール3、スプリング4及びシート部材5を主要な構成要素とする。
【0014】
ボディ1は、一端が閉塞し他端が開放した筒体形状をなし、その内にスプール3を軸心方向に沿って摺動進退可能に保持する。ボディ1の周壁には、流入口11、固定絞り12、流出口13及び連通孔14を穿設している。
【0015】
流入口11は、スプール3の摺動により開口面積が拡縮する可変オリフィスであり、圧力不定の作動液が流通する流路61に連なり、上流側から作動液をボディ1内に流入させる。固定絞り12は、流入口11とは別に、圧力不定の作動液が流通する流路61に連なっており、やはり上流側から作動液をボディ1内に流入させる。固定絞り12は、流入口11よりも小さく絞られた絞り孔である。
【0016】
流出口12は、圧力を補償した作動液が流通する流路62に連なり、流入口11及び固定絞り12を介してボディ内1に流入した作動液を下流側へと流出させる。
【0017】
連通孔14は、流入口11や流出口13が接続する流路とは別の作動液流路63に連なり、当該流路63から作動液をボディ内1に流入させる。この流路63は、作動液の圧力が恒常的に一定であるような流路、例えば作動液タンク(図示せず)に直結したタンクラインとする。
【0018】
流入口11、固定絞り12、流出口13及び連通孔14はそれぞれ、軸心周りの略同一円周上に間欠的に穿ってある。流入口11はボディ1の一端寄りに存在し、固定絞り12は流入口11からやや他端方に偏倚した箇所に存在し、流出口13は固定絞り12からやや他端方に偏倚した箇所に存在し、連通孔14は流出口13からさらに他端方に偏倚した箇所に存在する。
【0019】
ボディ1の内径は、一端側の半部が他端側の半部よりも若干小さくなっており、一端側の半部と他端側の半部との間に段差がある。他端側の半部は、後述するスプリング4を収容するスプリング室を構成する。流入口11、固定絞り12及び流出口13は比較的内径の小さい一端側に設けてあり、連通孔14は比較的内径の大きい他端側に設けてある。
【0020】
ボディ1の他端には、プラグ2を螺着してこれを閉塞している。
【0021】
スプール3は、一端部31と他端部32との間に環状凹部331を形成して中間部33を小径化した外形を有する。スプール3の一端部31及び他端部32の外周は、ボディ1の内周に略密接する。
【0022】
一端部31の内部には、一端面に開口する圧力伝達孔311を設けている。圧力伝達孔311は、中間部33の内部通路332を介して環状凹部331に連通する。
【0023】
他端部32には、他端側に向かって徐々に縮径するテーパ321を成形してある。テーパ321は、軸心周りの全周に亘って連続し、軸心方向に対して傾斜した傾斜面となっている。テーパ321の終端は、テーパ321が切頭円錐状をなすように切り落としてあり、軸心方向を向くその端面の中心部から支持軸322が軸心方向に沿って突出している。
【0024】
スプール3を弾性付勢するスプリング4は、一端がスプール3のテーパ321の終端に連接する端面に弾接するとともに、他端がプラグ2の内向面に弾接している。このスプリング4により、スプール3は一端方へ向けて弾性付勢される。前記支持軸322は、コイルスプリング4の内空に挿入されてスプリング4を保持するリテーナとなる。因みに、プラグ2の内向面からも、支持軸322に対向するように支持軸21が軸心方向に沿って突出しており、コイルスプリング4の内空に挿入されてリテーナとして働く。
【0025】
スプール3の一端部31は、可変オリフィスとなる流入口11を開閉する。流入口11や固定絞り12からボディ1内に流入した作動液は、環状凹部331を経由して流出口13へと至り、そこから流出する。
【0026】
弾性付勢されたスプール3は、図1に示す初期位置ではその一端面をボディ1の内向面に当接ないし近接させている。スプール3が初期位置にある段階で、流入口11は全開の状態となっている。
【0027】
上流圧力(即ち、流路61の液圧力)が上昇すると、流入口11から弁室内、即ち環状凹部331や圧力伝達孔311、さらにはスプール3の一端面とボディ1の内向面との間隙に流入した液圧がスプール3を他端方に向けて押圧する。そして、図2に示しているように、スプール3をスプリング4の弾性付勢力に抗して変位させる。スプール3が初期位置から変位するのに伴い、流入口11の開口面積は徐々に小さく絞られることから、スプール3は弁室内圧力(即ち、環状凹部331内の液圧力)と下流圧力(即ち、流路62の液圧力)との差圧が所与の補償圧力に合致する位置で静止する。このようにして、上流から下流に流れる作動液の流量が一定に保たれる。
【0028】
しかして、本実施形態では、ボディ1内に、スプール3の摺動範囲を規制するシート部材5を設けている。本実施形態におけるシート部材5は、ボディ1やプラグ2、スプール3等とは別体をなしている。シート部材5は、その外周がボディ1の他端側の半部の内周に密接するような環状体である。
【0029】
シート部材5における、ボディ1に穿設した連通孔14に臨む箇所には、当該連通孔14に連なる貫通孔52を穿ってある。連通孔14及び貫通孔52はともに、スプリング室をボディ1外のタンクライン63に連通せしめる連通路となる。スプリング室がタンクライン63に連通していることにより、スプリング室内の液圧力は、流量制御弁0の上流の液圧力如何によらず略均一化する。
【0030】
シート部材5の一端側の端部には、一端側に向かって徐々に縮径するテーパ51を成形してある。テーパ51は、軸心周りの全周に亘って連続し、軸心方向に対して傾斜した傾斜面となっている。テーパ51の終端は、テーパ51が切頭円錐状をなすように切り落としてある。
【0031】
シート部材5をボディ1内に配設した上でプラグ2を螺着すると、プラグ2の内向面がシート部材5の他端面に密接する。さらに、シート部材5の一端側にあるテーパ51が、ボディ1の一端側の半部と他端側の半部との段差部分、より詳しくは一端側の半部の内周面と軸心方向を向く段差面とが交わる端縁15に密着する。この端縁15は、軸心周りの全周に亘って連続している。従って、テーパ51と端縁15との接触は、軸心周りの略全周に亘って接触する線接触となる。
【0032】
また、上流の液圧力が非常に大きくなり、図2に示しているようにスプール3がその摺動範囲の限界の位置まで変位したときには、スプール3の他端部32にあるテーパ321が、シート部材5の内周面と軸心方向を向く一端面とが交わる端縁53に密着する。この端縁53は、軸心周りの全周に亘って連続している。従って、テーパ321と端縁53との接触は、軸心周りの略全周に亘って接触する線接触となる。
【0033】
スプール3の外周とボディ1の内周との間には、微細な間隙がある。流入口11または固定絞り12からボディ内に流入する作動液は圧力が高いことがあり、この作動液がスプール3の外周とボディ1の内周との間隙を通じてスプリング室に流入し、連通路、即ち貫通孔52や連通孔14を介してタンクライン63に漏出してしまうおそれがある。
【0034】
これに対し、テーパ321と端縁53との線接触による第一のシール構造は、スプール3の外周とボディ1の内周との間隙を通過した作動液がシート部材5の内空を経由してスプリング室に流入し、連通路に至ることを抑止する。
【0035】
並びに、テーパ51と端縁15との線接触による第二のシール構造は、スプール3の外周とボディ1の内周との間隙を通過した作動液が、シート部材5の外周とボディ1の内周との間に浸入して、連通路(連通孔14)に至ることを抑止する。
【0036】
図3は、本実施形態の流量制御弁0の使用例である。流量制御弁0は、液圧シリンダ(図示せず)に接続するシリンダポート64及び作動液流路61の下流にあって、液圧シリンダから流出する作動液の流量を一定に保ち、液圧シリンダのピストンが受ける荷重の大きさによらずピストンの運動速度を一定化する役割を担う。即ち、液圧シリンダから流下する作動液は、シリンダポート64から流路61に流入し、流量制御弁0を経由して流路62へと至り、最終的に作動液タンクに向かう。
【0037】
液圧シリンダ内の圧力を維持してピストンを固定する、つまり液圧シリンダから作動液が流下しない状態を具現するためには、流量制御弁0の下流にあるリフトスプール7を操作して図3に示している中立位置とし、流量制御弁0の流出口13に接続している流下路62を閉鎖する。流量制御弁0内部のシール構造により、シリンダ内の作動液が流量制御弁0から流下路62ではなくタンクライン63へと漏洩してしまうことは阻止される。それ故、ピストンが不意に運動してしまうことがない。
【0038】
本実施形態によれば、ボディ1内に流入する作動液の圧力を受けたスプール3がボディ1内で軸心方向に沿って摺動し可変オリフィス11の開度を縮小させる、圧力補償型の流量制御弁0であって、ボディ1内においてスプール3を弾性付勢するスプリング4が配置されるスプリング室を、圧力補償された作動液が流出する流出口13とは別のボディ1外の所定の作動液流路63に連通せしめる連通路52、14と、ボディ1内において一端が前記連通路1よりもスプール3寄りに配置されスプール3の摺動範囲を規制する環状のシート部材5と、前記シート部材5に当接するスプール3の部位32に形成され軸心方向に対して傾斜した傾斜面321、及びシート部材5に形成され前記傾斜面321に線接触する端縁53を要素とし、ボディ1内に流入した作動液が前記連通路52、14内に浸入することを抑制する第一のシール構造と、前記シート部材5に形成され軸心方向に対して傾斜した傾斜面51、及び前記ボディ1の一端側の半部と他端側の半部との境界部に形成され前記傾斜面51に線接触する端縁15を要素とし、ボディ1内に流入した作動液が前記連通路52、14内に浸入することを抑制する第二のシール構造とを備える流量制御弁0を構成したため、スプール3の外周とボディ1の内周との間隙を通じた作動液の漏出を低減させることができる。
【0039】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。上記実施形態では、スプール3の端部32に傾斜面321を設け、シート部材5に傾斜面321に密接する端縁53を設けて第一のシール構造を構築していたが、これとは逆に、シート部材5に傾斜面を設け、スプール3の端部32にその傾斜面に密着する端縁を設けるようにしてもよい。
【0040】
並びに、上記実施形態では、シート部材5に傾斜面51を設け、ボディ1の内周の段差部分に傾斜面51に密接する端縁15を設けて第二のシール構造を構築していたが、これとは逆に、ボディ1の内周の段差部分に傾斜面を設け、シート部材5にその傾斜面に密着する端縁を設けるようにしてもよい。
【0041】
上記実施形態では、流入口11が可変オリフィスとなっていたが、流入口11とともに、または流入口11に替えて、流出口13を可変オリフィスとすることを妨げない。この場合、液圧を受けたスプール3が弾性付勢力に抗して初期位置から変位するほど、流出口13がスプール3により徐々に閉塞されてその開口面積が縮小してゆくようにする。
【0042】
スプール3の摺動範囲を規制するシート部材5を、ボディ1に一体成形することも考えられる。但し、この場合、第二のシール構造は存在しないものとなる。加えて、ボディ1内にスプール3を挿入する作業のために、ボディ1の一端を開放しておき、ボディ1の一端側からスプール3を挿入した後にボディ1の一端にプラグ等を装着してこれを閉塞することが必要となる。
【0043】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、例えば各種産業機械や車両等の液圧装置に用いることができる。
【符号の説明】
【0045】
0…流量制御弁
1…ボディ
14…連通路(連通孔)
15…端縁
3…スプール
321…傾斜面(テーパ)
4…スプリング
5…シート部材
51…傾斜面(テーパ)
52…連通路(貫通孔)
53…端縁
63…所定の作動液流路(タンクライン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディ内に流入する作動液の圧力を受けたスプールがボディ内で軸心方向に沿って摺動し可変オリフィスの開度を縮小させる、圧力補償型の流量制御弁であって、
ボディ内においてスプールを弾性付勢するスプリングが配置されるスプリング室を、圧力補償された作動液が流出する流出口とは別のボディ外の所定の作動液流路に連通せしめる連通路と、
ボディ内において一端が前記連通路よりもスプール寄りに配置されスプールの摺動範囲を規制する環状のシート部材と、
前記シート部材と当該シート部材に当接するスプールの部位とのうち一方に形成され軸心方向に対して傾斜した傾斜面と、他方に形成され前記傾斜面に線接触する端縁とを要素とし、ボディ内に流入した作動液が前記連通路内に浸入することを抑制する第一のシール構造と、
前記シート部材と当該シート部材に当接するボディの部位とのうち一方に形成され軸心方向に対して傾斜した傾斜面と、他方に形成され前記傾斜面に線接触する端縁とを要素とし、ボディ内に流入した作動液が前記連通路内に浸入することを抑制する第二のシール構造と
を備えることを特徴とする流量制御弁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−79692(P2013−79692A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220633(P2011−220633)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】