説明

浄化装置及びそれを用いた浄化方法

【課題】好気処理及び嫌気処理を効率良く行うことができ、確実に有機物性汚濁排水を浄化することが可能な浄化装置及びそれを用いた浄化方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、好気性微生物による好気処理をし、形成されるフロックを利用して嫌気性微生物による嫌気処理をする有機物性汚濁排水を浄化する浄化装置100であって、有機物性汚濁排水が収容された処理槽1と、該処理槽1の底部1aに間隔をおいて複数配設された曝気手段5と、隣合う該曝気手段5間に配設され、好気処理及び嫌気処理が可能な多通路体10と、曝気手段5の上に配置された複数のろ材からなるろ過手段20と、を備え、ろ過手段20により曝気手段5からの曝気の勢いが抑制される浄化装置100及びそれを用いた浄化方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄化装置及びそれを用いた浄化方法に関し、更に詳しくは、有機物性汚濁排水を浄化する浄化装置及びそれを用いた有機物性汚濁排水の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭排水、産業排水、下水等には、汚濁物として種々の有機物(有機物性汚濁物)が含まれている(以下、家庭排水、産業排水、下水等をまとめて「有機物性汚濁排水」又は単に「排水」という。)。
そして、有機物性汚濁排水の浄化や処理には、一般に微生物による生物処理が行われている。
【0003】
近年、特に浄化槽や河川浄化の分野において、好気性微生物による好気処理と嫌気性微生物による嫌気処理とを併用する浄化方法が行われている。かかる浄化方法においては、好気処理及び嫌気処理を併用することにより、好気処理では分解しない有機物性汚濁物も、嫌気処理により分解される場合があるので、浄化の度合いがより向上する。
【0004】
例えば、処理槽を2つの槽に分け、第1槽内を嫌気状態にして嫌気性微生物による分解(嫌気処理)を行った後、その排水を第2槽の曝気槽に移して好気状態にして好気性微生物による分解(好気処理)を行ういわゆる2槽式浄化槽による浄化方法が知られている。
【0005】
ところが、一般に、嫌気性微生物による分解の速度は、好気性微生物による分解の速度と比較して10〜100分の1程度と極めて遅い。このため、上述したように処理槽を2槽に分けた場合は、一般に、嫌気処理が不十分なまま排水が第1槽(好気処理)に移されてしまい、嫌気処理は必ずしも期待されるほどの効果が得られないことが多い。
また、2つの処理槽が必要となるため、十分なスペース及び設備投資が必要となる欠点がある。
【0006】
これに対し、好気処理と嫌気処理とを同じ多通路体で行う有機物性汚濁排水の浄化方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。かかる浄化方法によれば、順次、好気処理及び嫌気処理が行われることになるので、嫌気処理が不十分となることが抑制される。また、1つの処理槽のスペースで十分であるため、新たな設備投資は不要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−50173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1記載の有機物性汚濁排水の浄化方法においては、好気処理と嫌気処理との切替えのタイミングが明確でないので、曝気を連続して施すのが前提となる。
ところが、曝気の勢いにより、図10に示すように、多通路体の上部においては進行方向に有機物性汚濁排水が流れ、多通路体の下部においては、進行方向とは逆方向に有機物性汚濁排水が流れるという、いわゆる旋回流が生じることになる。このため、有機物性汚濁排水中のSS等が全体的に均一化されてしまい十分な好気処理及び嫌気処理が行われないという欠点がある。
また、上記特許文献1記載の有機物性汚濁排水の浄化方法においては、旋回流が生じることから、好気処理の際に形成される粘着性の浮遊物(以下「フロック」という。)が集合しにくいという欠点がある。
さらに、上記特許文献1記載の有機物性汚濁排水の浄化方法においては、旋回流が生じるため、好気処理から嫌気処理に移行するためには多通路体の通路内をフロックで完全に塞ぐ必要がある。このため、通路内を嫌気性とするためには相当な時間がかかるという欠点があり、場合によっては通路内がフロックで塞がらず、嫌気処理が不十分なまま有機物性汚濁排水が流下してしまうことがある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、好気処理及び嫌気処理を効率良く行うことができ、確実に有機物性汚濁排水を浄化することが可能な浄化装置及びそれを用いた浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、ろ過手段を設け、該ろ過手段により、意外にも曝気の勢いを抑制することで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、(1)好気性微生物による好気処理をし、形成されるフロックを利用して嫌気性微生物による嫌気処理をする有機物性汚濁排水を浄化する浄化装置であって、有機物性汚濁排水が収容された処理槽と、該処理槽の底部に間隔をおいて複数配設された曝気手段と、隣合う曝気手段間に配設され、好気処理及び嫌気処理が可能な多通路体と、曝気手段の上に配置された複数のろ材からなるろ過手段と、を備え、ろ過手段により曝気手段からの曝気の勢いが抑制される浄化装置に存する。
【0012】
本発明は、(2)多通路体の上端及びろ過手段の上端が、有機物性汚濁排水の液面より上に突出している上記(1)記載の浄化装置に存する。
【0013】
本発明は、(3)多通路体が、ハニカム構造又は格子状構造を有する構造体である上記(1)又は(2)に記載の浄化装置に存する。
【0014】
本発明は、(4)ろ材が半糸巻き状である上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の浄化装置に存する。
【0015】
本発明は、(5)上記(1)記載の浄化装置を用いた浄化方法であって、曝気手段の曝気により有機物性汚濁排水を好気状態にして該有機物性汚濁排水に含まれる有機物性汚濁物を好気性微生物に取り込ませ、好気性微生物を増殖させる第1ステップと、曝気手段の曝気をろ過手段によって抑制し、多通路体にフロックを形成して集合させる第2ステップと、集合されたフロックを放置することにより該フロックの内部を嫌気状態にして嫌気性微生物を増殖させる第3ステップと、フロックの内部の有機物性汚濁物を嫌気性微生物に取り込ませ、低分子化合物に分解する第4ステップと、からなる浄化方法に存する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の浄化装置においては、曝気手段の上にろ過手段を配置することにより、曝気の勢いによる旋回流の発生を抑制することができる。すなわち、曝気された瞬間は、排水中を浮遊する好気性微生物の活動に必要な酸素を供給し、その直後、曝気の勢いがろ過手段により抑制される。これにより、多通路体内において好気処理により形成されるフロックが集合され易くなる。フロックが集合されると、フロックの内部が嫌気状態となり、フロックの内部において嫌気性微生物による嫌気処理が行われることになる。
したがって、上記浄化装置によれば、比較的短時間で好気処理及び嫌気処理を効率良く行うことができ、確実に有機物性汚濁排水を浄化することが可能となる。また、このことからピストンフローによる有機物性汚濁排水の浄化を行うことが可能となる。
【0017】
上記浄化装置においては、多通路体の上端及びろ過手段の上端が、有機物性汚濁排水の液面より上に突出していることが好ましい。この場合、曝気手段による曝気の勢いが確実に抑制される。
【0018】
上記浄化装置においては、多通路体が、ハニカム構造又は格子状構造を有する構造体である場合、フロックが集合しやすい。このため、好気処理が施された後、多通路体内が嫌気状態になりやすくなる。
【0019】
上記浄化装置においては、ろ材が半糸巻き状である場合、曝気手段による曝気の勢いが効率良く抑制される。
【0020】
本発明の浄化方法においては、上述の浄化装置を用い、第1ステップから第4ステップを施すことにより、好気処理及び嫌気処理を効率良く行うことができ、確実に有機物性汚濁排水を浄化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明に係る浄化装置の一実施形態を模式的に示す概略図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る浄化装置における多通路体の一部を示す斜視図である。
【図3】図3の(a)は、本実施形態に係る浄化装置における多通路体を示す写真であり、(b)はそのうちの一つの通路を示す概略断面図である。
【図4】図4の(a)は、本実施形態に係る浄化装置におけるろ材の形状を示す側面図であり、(b)は、その上面図である。
【図5】図5は、本発明に係る浄化方法のステップを示すフローチャートである。
【図6】図6の(a)〜(c)は、本実施形態に係る浄化方法における第2ステップを説明するための説明図である。
【図7】図7は、他の実施形態に係る浄化装置における多通路体の一部を示す斜視図である。
【図8(a)】図8(a)は、他の実施形態に係る浄化装置におけるろ材の形状を示す図である。
【図8(b)】図8(b)は、他の実施形態に係る浄化装置におけるろ材の形状を示す図である。
【図8(c)】図8(c)は、他の実施形態に係る浄化装置におけるろ材の形状を示す図である。
【図8(d)】図8(d)は、他の実施形態に係る浄化装置におけるろ材の形状を示す図である。
【図8(e)】図8(e)は、他の実施形態に係る浄化装置におけるろ材の形状を示す図である。
【図8(f)】図8(f)は、他の実施形態に係る浄化装置におけるろ材の形状を示す図である。
【図8(g)】図8の(g)は、他の実施形態に係る浄化装置におけるろ材の形状を示す図である。
【図8(h)】図8の(h)は、他の実施形態に係る浄化装置におけるろ材の形状を示す図である。
【図9】図9は、実施例に用いた浄化装置を示す概略上面図である。
【図10】図10は、従来の浄化装置を用いた場合に生じる旋回流を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0023】
図1は、本発明に係る浄化装置の一実施形態を模式的に示す概略図である。
図1に示すように、本実施形態に係る浄化装置100は、有機物性汚濁排水が収容された処理槽1と、該処理槽1の底部1aに間隔をおいて複数配設された曝気手段5と、隣合う曝気手段5間に配設され、好気処理及び嫌気処理が可能な多通路体10と、曝気手段5の上に配置された複数のろ材からなるろ過手段20と、を備える。
【0024】
上記浄化装置100においては、流入した有機物性汚濁排水が曝気手段5により曝気され、多通路体10で好気性微生物による好気処理が行われる。
そして、好気処理により形成されるフロックを集合させると、フロックの内部が嫌気状態となる。これを利用して、嫌気性微生物による嫌気処理が施される。
なお、詳細については後述する。また、好気性微生物及び嫌気性微生物は、改めて排水に添加するのではなく、排水中に存在するものをそのまま用いればよい。
【0025】
本実施形態に係る浄化装置100において、処理槽1は、有機物性汚濁排水を収容可能な箱状となっている。
処理層1の底部1aには、曝気手段5が一定の間隔をおいて複数配設されており、隣合う曝気手段5間には多通路体10が配設されている。すなわち、側面から見た場合、曝気手段5と多通路体10とが交互に連続して配設されている。
【0026】
処理槽1においては、図示しない有機物性汚濁排水の上流側の流入路及び下流側の排出路が両側に設けられている。
浄化装置100において、処理槽1の流入路から流入した有機物性汚濁排水は、矢印Fの方向に進行する。すなわち、有機物性汚濁排水は、処理槽1に収容され、曝気手段5による曝気と、多通路体10による好気処理又は嫌気処理とが交互に施され、浄化された排水(以下「処理水」ともいう。)となり、排出路から排出されることになる。なお、排出路から排出された処理水は、再び流入路から処理槽1内に流入させてもよい。
【0027】
図2は、本実施形態に係る浄化装置における多通路体の一部を示す斜視図である。
図2に示すように、多通路体10は、多数の中空状の貫通した通路10aを有する格子状構造となっている。このため、好気処理が行われる際に形成されるフロックが多通路体10の各通路10a内で集合しやすい。
【0028】
図3の(a)は、本実施形態に係る浄化装置における多通路体を示す写真であり、(b)はそのうちの一つの通路を示す概略断面図である。
図3の(a)及び(b)に示すように、多通路体10において、フロックが十分に集合すると、フロックの表面近傍が好気状態となり、そのフロックで密閉された内部が嫌気状態となる。すなわち、通路10a内において、フロックの表面近傍の好気性のフロック(以下「好気性フロック」ともいう。)11aでは好気性微生物による好気処理が行われ、フロックの内部の嫌気性のフロック(以下「嫌気性フロック」ともいう。)11bでは嫌気性微生物により嫌気処理が行われる。なお、通路10a内の中段に見える白影は、向こう側の壁面が写っているものである。
したがって、本実施形態に係る浄化装置100において、多通路体10を格子状構造とすることにより、好気性フロック11aが効率良く嫌気性フロック11bを密閉するので、好気処理及び嫌気処理がより効率的に行われる。
【0029】
ここで、多通路体10の材質は、特に限定されないが、金属製や樹脂製のものが好適に用いられる。これらの中でも、材質は、経済性、取り扱い性の観点から、樹脂製であることが好ましい。
特に、耐久性の観点からは、ABS樹脂等のゴムを含む樹脂であることがより好ましく、リサイクル性の観点からは、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン製であることがより好ましい。
【0030】
各通路10aの中空部分のサイズは、有機物性汚濁排水の流量、BODの濃度によって、適宜調整される。例えば、流量が多い場合、又は、BOD濃度が高い場合、中空部分のサイズは大きく設定される。
【0031】
図1に戻り、多通路体10は、上端が有機物性汚濁排水の液面より上に突出している。これにより、有機物性汚濁排水が確実に、多通路体10を流下することになる。すなわち、多通路体10が液面より下にあると、有機物性汚濁排水の一部が多通路体10の上方を通過してしまうことになる。
【0032】
曝気手段5は、公知の散気管が用いられる。これにより、好気処理の際、排水中を浮遊する好気性微生物に対し、活動に必要な酸素が供給される。そうすると、好気性微生物は、有機物性汚濁物を捕食させて分解すると共に、増殖することになる。なお、かかる曝気手段5は、好気処理及び嫌気処理のいずれにおいても連続して運転が行われる。
【0033】
浄化装置100においては、各曝気手段5の上にろ過手段20がそれぞれ配置されている。このろ過手段20により、曝気手段5による曝気の勢いによる旋回流の発生を抑制することができる。すなわち、曝気手段5により曝気された瞬間は、排水中を浮遊する好気性微生物の活動に必要な酸素を供給するので、好気処理が確実に行われ、その直後、ろ過手段によって曝気の勢いが抑制されるので、多通路体10内において好気処理により形成されるフロックが集合されやすくなる。
【0034】
ここで、ろ過手段20は、複数のろ材からなる。
図4の(a)は、本実施形態に係る浄化装置におけるろ材の形状を示す側面図であり、(b)は、その上面図である。
図4の(a)及び(b)に示すように、ろ材3が半糸巻き状になっている。換言すると、ろ材3は、中央の胴部3bと、該胴部3bに連続する両端の鍔部3aとからなり、鍔部3aは外側に向かって広がっており、胴部3bが括れた半円筒状となっている。
浄化装置100においては、ろ材3を半糸巻き状とすることにより、曝気手段による曝気の勢いが効率良く抑制される。
【0035】
ろ材3において、鍔部3aには、直線状の突起6が複数設けられている。これにより、有機物性汚濁排水に含まれる浮遊物がろ材3に付着したとしても剥がれ易くなる。
また、胴部3bには、孔7が設けられている。これにより、ろ材3が軽量化されると共に、酸素の供給を完全に止めないようにしている。
【0036】
ろ材3のサイズは、最も長い径が3〜10cmであることが好ましい。この場合、酸素の供給を完全に止めず、且つ旋回流を確実に抑制することができる。
【0037】
図1に戻り、ろ過手段20は、上端が有機物性汚濁排水の液面より上に突出している。これにより、多通路体10間における旋回流の発生が確実に抑制できる。
【0038】
本実施形態に係る浄化装置100においては、有機物性汚濁排水が、処理槽1に流入し、曝気手段5によって曝気されることにより、好気性微生物が増殖して好気処理が行われると共に、曝気手段5上に設けられたろ過手段20によって旋回流の発生が抑制される。
したがって、浄化装置100によれば、ろ過手段20を設けることにより、比較的短時間で好気処理及び嫌気処理を効率良く行うことができ、確実に有機物性汚濁排水を浄化することが可能となる。
また、このことから、ピストンフローによる有機物性汚濁排水の浄化を確実に行うことが可能となる。
【0039】
次に、本実施形態に係る浄化装置100を用いた浄化方法について説明する。
図5は、本発明に係る浄化方法のステップを示すフローチャートである。
図5に示すように、本実施形態に係る浄化装置100を用いた浄化方法は、曝気手段5の曝気により有機物性汚濁排水を好気状態にして該有機物性汚濁排水に含まれる有機物性汚濁物を好気性微生物に取り込ませ、好気性微生物を増殖させる第1ステップS1と、曝気手段の曝気をろ過手段によって抑制し、多通路体10にフロックを形成して集合させる第2ステップS2と、集合されたフロックを放置することにより該フロックの内部を嫌気状態にして嫌気性微生物を増殖させる第3ステップS3と、フロックの内部の有機物性汚濁物を嫌気性微生物に取り込ませ、例えば後述する低分子化合物に分解する第4ステップS4と、からなる。
【0040】
本発明の浄化方法においては、上述の浄化装置100を用い、第1ステップS1から第4ステップS4を施すことにより、好気処理及び嫌気処理を効率良く行うことができ、確実に有機物性汚濁排水を浄化することが可能となる。
【0041】
以下、各ステップについて更に詳細に説明する。
[第1ステップ]
第1ステップS1は、曝気手段5の曝気により有機物性汚濁排水を好気状態にして該有機物性汚濁排水に含まれる有機物性汚濁物を好気性微生物に取り込ませ、好気性微生物を増殖させるステップである。
【0042】
第1ステップS1においては、まず、流入路から流入した有機物性汚濁排水を、曝気手段5によって曝気する。これによって、有機物性汚濁排水に含まれる好気性微生物に酸素が供給されることになり、好気処理が行われる。
かかる好気処理は、各通路10a内(多通路体10内)においても行われ、好気性微生物が有機物性汚濁物を捕食してフロックを成長すると共に増殖する。
【0043】
[第2ステップ]
第2ステップS2は、曝気手段の曝気をろ過手段によって抑制し、多通路体10にフロックを形成して集合させるステップである。
【0044】
図6の(a)〜(c)は、本実施形態に係る浄化方法における第2ステップを説明するための説明図である。
図6の(a)に示すように、第2ステップS2においては、通路10aにフロックFが流入すると、フロックFは粘着性を有するので、通路10aの壁面に付着する。このとき、本実施形態に係る浄化方法においては、ろ過手段20により曝気の勢いによる旋回流が抑制されているので、フロックFは、通路10aの壁面に付着しやすい。
そして、続けてフロックFが流入すると、図6の(b)に示すように、通路10aの壁面に付着したフロックFが集合され、更に成長することになる。
【0045】
[第3ステップ]
第3ステップS3は、集合されたフロックを放置することにより該フロックの内部を嫌気状態にして嫌気性微生物を増殖させるステップである。
【0046】
第3ステップS3においては、図6の(c)に示すように、集合されたフロックを放置することにより、フロックの内部には溶存酸素が供給されなくなり、嫌気性微生物が増殖する。その結果、通路10aの壁面に好気性フロック11aと、嫌気性フロック11bとが層状に形成される(図3参照)。
すなわち、好気性フロック11aは、フロックの外側に形成される。なお、好気性フロック11aには好気性微生物が存在すると共に溶存酸素も存在する。このため、好気性フロック11aにおいては、好気性微生物が増殖して更に好気処理が行われることになる。
一方、嫌気性フロック11bは、フロックの内部に形成される。嫌気性フロック11bにおいては、溶存酸素の進入が遮断され嫌気となっている。このため、嫌気性フロック11bにおいては、嫌気性微生物が増殖して嫌気処理が行われることになる。
【0047】
[第4ステップ]
第4ステップS4は、フロックの内部の有機物性汚濁物を嫌気性微生物に取り込ませ、低分子化合物に分解するステップである。
【0048】
第4ステップS4においては、嫌気性微生物が増殖し、好気処理で浄化されなかった有機物性汚濁物と、フロック内部で死滅した好気性微生物の死骸とを取り込む。これにより、残存する有機物性汚濁物と好気性微生物の死骸とがアミノ酸や単糖類等の溶解性の低分子化合物に分解される。すなわち、嫌気性微生物は、死滅した好気性微生物の死骸をも低分子化して除去するという積極的な役割を果たしている。
【0049】
嫌気性フロック11bが十分に分解されると、通路10aに付着していたフロックが剥がれる。そうすると、剥がれたフロックには、再び溶存酸素が供給されると共に、好気性微生物が増殖し好気処理が行われる。
そして、隣に配設された多通路体10に流入され、各通路それぞれにおいて、再び上述したような第1〜第4ステップが行われることになる。このため、第1〜第4ステップの浄化サイクルを、各通路10a内で行うことができ、且つ各多通路体10で行うことができる。なお、有機物性汚濁排水が十分に浄化された後は、排出路から処理水が排出される。
【0050】
このように、本実施形態に係る浄化方法においては、曝気手段5による曝気の勢いがろ過手段20により抑制されているので、第1ステップS1から第4ステップS4が効率良く行われる。
また、好気状態と嫌気状態とが連続して行われるため、有機物性汚濁物中の窒素成分の分解も有効に行われる利点もある。すなわち、有機物性汚濁物の分解生成物をもとに好気条件下で排水中の硝化菌が硝化作用を行い、続いて嫌気条件下で、硝化菌が合成した二酸化窒素等をもとにして脱窒菌が脱窒を行うことができる。そのため、汚濁物中の窒素分が最終的に気体の窒素の形にまで分解されるので、外気に放出されて排水中から効果的に除去される。
【0051】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0052】
例えば、本実施形態に係る浄化装置100において、多通路体10が、格子状構造を有する構造体となっているが、図7に示すように、ハニカム構造であってもよい。
【0053】
本実施形態に係る浄化装置100において、ろ過手段20に用いられるろ材は、半糸巻き状となっているが、これに限定されない。
図8(a)〜(h)は、他の実施形態に係る浄化装置におけるろ材の形状を示す側面図である。
図8(a)に示すように、ろ材は、ボール状であってもよく、図8(b)〜(d)に示すように、ろ材は、円筒状に編まれた網であってもよく、図8(e)に示すように、ろ材は、四角柱状のいわゆる流動床単体であってもよく、図8(f)に示すように、ろ材は、芯材に複数の毛羽が設けられた紐状であってもよく、図8(g)に示すように、ろ材は、糸瓜状であってもよく、図8(h)に示すように、ろ材は、円筒状のチューブであってもよい。なお、この他にも、軽石やスポンジ等も用いることができる。
【0054】
本実施形態に係る浄化装置100において、有機物性汚濁排水の流入路は、特に限定されず、図1に示す処理槽1の左側上方から、有機物性汚濁排水を流し込んでもよく、処理槽1の左壁面に沿って有孔管を垂下し、該有孔管から有機物性汚濁排水を流し込んでもよい。
また、有機物性汚濁排水の排出路も特に限定されず、図1に示す処理槽1の右側で、ポンプによって処理水を汲み上げてもよく、処理槽1の右側で処理水をオーバーフローさせて排出するようにしてもよい。
【0055】
本実施形態に係る浄化装置100において、配設する多通路体10の数は特に限定されない。多通路体10の数は、浄化装置のスペース、有機物性汚濁排水の濃度等により適宜調整すればよい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実験設備)
まず、図9に概略的に示すような実験設備にて実験を行った。
図9に示す実験設備は、有機物性汚濁排水が往復して流下するようにした第1処理槽51及び第2処理槽52を並設したものである。なお、第1処理槽51及び第2処理槽52には、往路と復路の間の折り返し位置に、多通路体を配置しない中間部53及び中間部54をそれぞれ設けた。
第1処理槽51及び第2処理槽52には、それぞれ多通路体10を複数配設し、隣合う多通路体10間にはそれぞれ図示しない散気管からなる曝気装置(曝気量7.2m/mh)を配設した。
そして、第1処理槽51の曝気装置上(隣合う多通路体10間)には、半糸巻き状のろ材からなるろ過手段20を配置した。なお、第2処理槽52の曝気装置上には何も配置していない。すなわち、第1処理槽51側が本発明の実施例に相当する浄化装置100であり、第2処理槽52側が本発明の比較例に相当する浄化装置101である。
【0058】
第1処理槽51及び第2処理槽52における原水の流下距離は、浄化を行う浄化域の距離がともに15m(往路及び復路はそれぞれ7.5m)になるように設計した。
また、第1処理槽51及び第2処理槽52の浄化域の容積は、7mとした。
【0059】
(実験条件)
浄化対象である有機物性汚濁排水は、図9に示すように、化学工場31の有機物性汚濁排水(以下「原水」ともいう。)を用い、化学工場31から既設の水処理施設32に送る途中で一時的に貯留するための調整槽33から採取したものである。
まず、原水を調整槽33から分配槽34に送り、更に流量調整槽35a及び35bに分配して、この流量調整槽35a及び35bから対応する第1処理槽51及び第2処理槽52にそれぞれ送った。
第1処理槽51及び第2処理槽52を流下する原水の流量は、原水の滞留時間が、共に20時間(往路及び復路はそれぞれ10時間ずつ)となるように調整した。
そして、第1処理槽51及び第2処理槽52から排出した処理水は、それぞれ対応する処理水観察槽36a及び36bに貯留した後、調整槽33に戻した。なお、調整槽33に流入する原水及び排出する処理水の水量は1日当たり数千mであり、本実験で浄化処理される処理水の総量(実施例と比較例の処理水の合計)は9.5m/日であるので、処理水を調整槽33へ戻すことによる原水の性状変化は無視できる。
【0060】
(実験)
本実験に入る前に、浄化装置100及び浄化装置101のそれぞれに約3週間原水を通水して馴らし運転を行った後、実稼動120日間、原水を同時に連続的に通水した。
その後、原水の滞留時間が0時間の地点P0と、原水の滞留時間が5時間の地点P1(処理槽の往路の中間地点)と、原水の滞留時間が15時間の地点P2(処理槽の復路の中間地点)と、原水の滞留時間が20時間の地点P3(浄化後の処理水)とでサンプルを採取した。
【0061】
そして、原水から汚濁物がどの程度除去されたかを調べるため、得られたサンプルについて、SS(固形浮遊物)濃度、BOD(生物化学的酸素要求量)濃度、D−BOD(溶解性BOD)濃度、COD(化学的酸素要求量)濃度、D−COD(溶解性COD)濃度について分析した。得られた測定結果を表1に示す。
また、各分析項目についての除去率を算出した。得られた除去率を表2に示す。
【0062】
〔表1〕




【0063】
〔表2〕

【0064】
表1の結果より、実施例の浄化装置100においては、滞留時間0時間の時点では各測定結果が高い濃度を示していたが、その後、確実に濃度が低下していることが確認された。
一方、比較例の浄化装置101においては、滞留時間0時間の時点で各測定結果が低い濃度を示した。これは、旋回流により、排水が均一化されてしまっているためである。また、その後も濃度は殆ど変わっていないことから、効率的に浄化が行われていない。
表2の結果より、実施例の浄化装置100によれば、比較例の浄化装置101による場合よりも、好気処理及び嫌気処理を効率良く行うことができ、確実に有機物性汚濁排水を浄化することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本実施形態に係る浄化装置及びそれを用いた浄化方法は、家庭排水、産業排水、下水等の有機物(有機物性汚濁物)が含まれている有機物性汚濁排水の浄化に好適に用いられる。本実施形態に係る浄化装置及びそれを用いた浄化方法によれば、好気処理及び嫌気処理を効率良く行うことができ、確実に有機物性汚濁排水を浄化することができる。
【符号の説明】
【0066】
1・・・処理槽
1a・・・底部
3・・・ろ材
3a・・・鍔部
3b・・・胴部
5・・・曝気手段
6・・・突起
7・・・孔
10・・・多通路体
10a・・・通路
11a・・・好気性フロック(フロック)
11b・・・嫌気性フロック(フロック)
20・・・ろ過手段
31・・・化学工場
32・・・水処理施設
33・・・調整槽
34・・・分配槽
35a,35b・・・流量調整槽
36a,36b・・・処理水観察槽
51・・・第1処理槽
52・・・第2処理槽
53,54・・・中間部
100,101・・・浄化装置
F・・・フロック
P0,P1,P2,P3・・・地点
S1・・・第1ステップ
S2・・・第2ステップ
S3・・・第3ステップ
S4・・・第4ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好気性微生物による好気処理をし、形成されるフロックを利用して嫌気性微生物による嫌気処理をする有機物性汚濁排水を浄化する浄化装置であって、
前記有機物性汚濁排水が収容された処理槽と、
該処理槽の底部に間隔をおいて複数配設された曝気手段と、
隣合う該曝気手段間に配設され、前記好気処理及び前記嫌気処理が可能な多通路体と、
前記曝気手段の上に配置された複数のろ材からなるろ過手段と、
を備え、
前記ろ過手段により前記曝気手段からの曝気の勢いが抑制される浄化装置。
【請求項2】
前記多通路体の上端及び前記ろ過手段の上端が、前記有機物性汚濁排水の液面より上に突出している請求項1記載の浄化装置。
【請求項3】
前記多通路体が、ハニカム構造又は格子状構造を有する構造体である請求項1又は2に記載の浄化装置。
【請求項4】
前記ろ材が半糸巻き状である請求項1〜3のいずれか一項に記載の浄化装置。
【請求項5】
請求項1記載の浄化装置を用いた浄化方法であって、
前記曝気手段の曝気により前記有機物性汚濁排水を好気状態にして該有機物性汚濁排水に含まれる有機物性汚濁物を好気性微生物に取り込ませ、該好気性微生物を増殖させる第1ステップと、
前記曝気手段の曝気をろ過手段によって抑制し、前記多通路体にフロックを形成して集合させる第2ステップと、
集合された前記フロックを放置することにより該フロック内部を嫌気状態にして前記嫌気性微生物を増殖させる第3ステップと、
前記フロックの内部の前記有機物性汚濁物を前記嫌気性微生物に取り込ませ、低分子化合物に分解する第4ステップと、
からなる浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8(a)】
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【図8(b)】
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【図8(c)】
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【図8(d)】
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【図8(e)】
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【図8(f)】
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【図8(g)】
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【図8(h)】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−110854(P2012−110854A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263203(P2010−263203)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(511247264)株式会社川瀬製作所 (1)
【Fターム(参考)】