説明

浴用剤組成物

【課題】保湿効果に優れ、湯に投入した際の分散・白濁性においても極めて優れた粉末浴用剤組成物を提供する。
【解決手段】白色顔料の表面を、水酸化リン脂質および/またはリゾリン脂質でコーティング(被覆)してなることを特徴とする粉末浴用剤組成物。白濁剤の分散性に優れ、浴湯の白濁が安定に持続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保湿効果に優れ、湯に投入した際の分散・白濁性においても極めて優れた粉末浴用剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
浴用剤は、お湯に香りや色を付与して心を安らかにし気分を爽快にするリラックス効果、温浴効果、保湿効果、肩凝り・腰痛等を和らげる疲労回復効果、血行促進効果、清浄効果、湯を柔らかくする作用など、様々な効果・効能を目的として使用されている。近年は、敏感肌、乾燥肌の増加とスキンケア意識の高まりから、スキンケア効果を有する浴用剤への関心は高い。スキンケアタイプの浴用剤として求められる代表的な効果は、保湿であり、様々な水溶性成分(天然保湿因子等)、油溶性成分(表皮脂質、角層細胞間脂質等)、薬用植物類(生薬、ハーブ等)のなかから選択され配合されている(非特許文献1)。このうち、生体膜成分であるレシチンは、界面活性作用を有すると同時に、保湿効果、皮膚を柔軟にする効果があり、なおかつ安全なので、古くから化粧品や浴用剤に用いられている。
【0003】
浴用剤関連においては、例えば、炭酸アルカリ塩、有機酸、リン脂質を配合した入浴剤(特許文献1)、炭酸アルカリ塩、リン脂質、HLB値10以上の親水性ノニオン界面活性剤を配合した入浴剤(特許文献2)、特殊海藻の熱水抽出物とレシチンとの混合物を主成分とする入浴剤(特許文献3)、卵黄油と一価または多価アルコールとを配合した浴用剤組成物(特許文献4)などが報告されている。
【0004】
また、近年は、心理的効果を期待して、温泉の雰囲気を楽しむことができる白濁タイプの浴用剤が使用されている。これは、一般的には、白濁剤として無機顔料を配合することにより白濁させている。そこで、水に不溶な無機顔料の分散安定性を維持すべく、様々な工夫がなされており、例えば、水溶性高分子物質で被覆された無機顔料を含有する入浴剤(特許文献5)、HLB11〜18の界面活性剤でその表面が被覆された無機顔料の造粒物を白濁剤として配合した浴用剤(特許文献6)、アシル化されたNを有するアミノ酸系界面活性剤で被覆された水不溶性で好ましくは白色の無機顔料を含有してなる粉末状の浴用剤(特許文献7)などが報告されている。
【特許文献1】特許第2957601号
【特許文献2】特許第3031463号
【特許文献3】特開平10−182423号
【特許文献4】特開2002−212058号
【非特許文献1】フレグランスジャーナル、53、(9)、2003
【特許文献5】特開昭63−57516号
【特許文献6】特開平2−9811号
【特許文献7】特開平3−240722号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、皮膚に潤いを与えるリン脂質の保湿効果を利用した浴用剤、あるいは白濁タイプの浴用剤は、それぞれ報告されている。しかし、優れた保湿効果を与えつつ、なおかつ入浴剤を湯に投入した際にモクモクと美しく分散し、さらに入浴が楽しくなるほどの優れた白濁機能を有する粉末浴用剤組成物に関しては、これまで報告されていなかった。この理由として、一般に化粧品原料として使用されるリン脂質は両親媒性の分子であるものの、極性が比較的低く水中では凝集しやすいため、優れた分散・白濁性を得ることができなかったこと、またペースト状のリン脂質においては粉末状への製剤化が困難であったことなどが挙げられる。
【0006】
そこで本発明の目的は、保湿効果に優れ、なおかつ湯に投入した際の分散・白濁性においても優れた粉末浴用剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のリン脂質と白色顔料を組み合わせることにより、保湿効果に優れ、なおかつ湯に投入した際の分散・白濁性においても極めて優れた粉末浴用剤組成物を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の浴用剤組成物は、白色顔料の表面を、水酸化リン脂質および/またはリゾリン脂質でコーティングしてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、保湿効果に優れ、湯に投入した際の分散・白濁性においても極めて優れた粉末浴用剤組成物を提供することができる。これにより、入浴剤を湯に投入した際にモクモクと美しく分散しながら優れた白濁の湯を得ることができるので、入浴が非常に楽しくなり、さらに、入浴後は、水酸化リン脂質および/またはリゾリン脂質の有する、乾燥した皮膚に水分を与える保湿剤としての効果、エモリエント効果により、しっとり、すべすべした感触とともに、優れた保湿効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態について具体的に説明する。
本発明で用いられる水酸化リン脂質および/またはリゾリン脂質は、特に限定されず、大豆や卵黄など動植物の細胞膜の主要構成成分を原料とし、安全性が高く、香粧品、食品、医薬品などに乳化剤、乳化安定剤、エモリエント剤、保湿剤、リンス剤などとして広く多用されているものが一般に用いられる。水酸化リン脂質は、リン脂質の脂肪酸部分の不飽和結合をヒドロキシル化したもので、リン脂質を酸化処理することによって得ることができる親水性の高いリン脂質であり、例えば、水酸化大豆リン脂質の50%グリセリン溶液として市販されている。
【0011】
リゾリン脂質は、一般的にはホスホリパーゼA2によりリン脂質の2位の脂肪酸が選択的に加水分解されたもので、親水性の高いリン脂質である。
【0012】
水酸化リン脂質および/またはリゾリン脂質の配合量は、粉末浴用剤組成物全量に対し、0.1〜20質量%、より好ましくは0.5〜10質量%、さらに好ましくは1〜6質量%である。0.1質量%未満では、保湿効果、分散効果といった水酸化リン脂質あるいはリゾリン脂質が本来有する効果を得られず、一方で、20質量%を越えると、流動性の良好なサラサラな粉末浴用剤の性状を得ることが困難になり、湯へ投入した際の分散性が低下し、好ましくない。また、20質量%を越えて配合しても、水酸化リン脂質あるいはリゾリン脂質の持つ保湿効果、分散効果を、添加量に応じて限りなく得られるわけではなく、単なるコスト高になり、好ましくない。
【0013】
本発明で用いられる白色顔料は、湯を白濁させることができるものであればよく、一般的には酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム等が用いられ、より好ましくは、酸化チタンが用いられる。本発明における白色顔料は、1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0014】
本発明における酸化チタンは特に限定されず、白色顔料として広範囲にわたって多用されているものが一般に用いられる。酸化チタンは、例えば、「酸化チタン」(清野学 著、技報堂出版 発行、1991年)に詳細に記載されており、工業的に用いられる酸化チタンとしては、結晶構造の違いによりルチル型とアナターゼ型とに分けられ、さらに、アルミナ、シリカなどの処理剤を酸化チタン表面に処理し、顔料としての性能を向上させた酸化チタンもあるが、本発明においては、いずれかを単独で、又は組み合わせて用いることができる。浴用剤として用いる場合、ルチル型よりもアナターゼ型を用いた方が白濁効果に優れるという報告もあるが(特開2004−10543号公報、特平2−9811号公報)、本発明では、いずれの酸化チタンを用いても、浴湯での溶解分散時に均一に分散し、優れた白濁性を得られる。酸化チタンの粒子径は、通常0.01〜1μmであるが、特に限定されず用いることができ、より好ましくは平均粒子径0.1〜0.5μmが用いられる。
【0015】
白色顔料の配合量は、粉末浴用剤組成物全量に対し、0.1〜30質量%、より好ましくは0.5〜10質量%である。0.1質量%未満では、充分な白濁性を得ることができず、一方で、30質量%を越えると、浴槽や身体への不愉快な付着や、浴槽の底への沈殿を生じてしまい、不適当である。
【0016】
本発明で用いられる粉体原料は、水酸化リン脂質および/またはリゾリン脂質を流動性の良好な粉末の形態にするものであればよく、粉末浴用剤の主基剤として用いられる無機塩類をはじめとし、増量剤、流動化剤として用いられる粉体原料なら何でもよい。例えば、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、チオ硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタケイ酸、ケイ酸、無水ケイ酸、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸ナトリウム、タルク、カオリン、ケイ酸カルシウム、ゼオライト、乾燥水酸化アルミニウムゲル、セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、こはく酸ナトリウム、デキストリン、シクロデキストリン、D−ソルビトール、澱粉などが挙げられ、単独あるいは複数で使用することができる。これら粉体原料の配合量は、通常浴用剤組成物全量に対し、20〜99質量%とするのがよい。
【0017】
本発明の粉末浴用剤組成物には、上記成分の他に、必要に応じて、通常浴用剤組成物に配合される各組成分、例えば油性成分、多価アルコール類、アルコール類、保湿剤、界面活性剤、無機顔料、酸化防止剤、防腐剤、抗菌剤、消臭剤、香料、金属イオン封鎖剤、pH調整剤、有機酸、美白剤、ビタミン類及びその誘導体類、アミノ酸類、消炎剤、抗炎症剤、血行促進剤、刺激剤、冷感剤、温感剤、植物・動物・微生物エキス、植物抽出物、ハーブ、生薬成分、海藻類、温泉成分、制汗剤、清涼剤、収れん剤、酵素、色素、着色剤、染料、顔料などを、本発明の効果を害しない範囲で適宜添加することができる。
【0018】
本発明の粉末浴用剤組成物の製造方法は、まず、水酸化リン脂質および/またはリゾリン脂質と白色顔料のみを練り合わせて混合することにより、白色顔料の表面上をリン脂質でコーティング(被覆)する。次に、これに硫酸ナトリウムをはじめとする粉末原料、及びその他の原料を添加して均一に混合し、粉末状にすることにより製造することができる。
【実施例】
【0019】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0020】
(実施例1〜2、比較例1〜5)
表1に示す配合処方に従い、乳鉢に各種のリン脂質と酸化チタンを量り取り、室温にて練り合わせ、これに粉末原料をはじめとするその他原料を添加して均一に混合し、粉末浴用剤組成物を得た。得られた浴用剤組成物の製剤の物性、使用感について、以下に示す方法、及び基準により評価した。その結果を表1に示す。
【0021】
製剤の物性
(1)浴用剤組成物の性状:試作した粉末浴用剤組成物の性状を評価した。
(評価基準)○:サラサラしている、△:少ししっとりしているが塊は無い、×:ベトベトした状態で塊を含む
(2)お湯に投入した際の分散性:1リットルビーカーに約40℃のお湯1リットルを入れ、浴用剤組成物0.3gを投入し、その際の分散性を評価した。
(評価基準)○:モクモクときれいに分散、△:少しモクモクと分散、×:湯に分散しないで、底に沈降する、あるいは水面に浮く
(3)お湯の白濁度:お湯を撹拌棒で軽く5回撹拌し、お湯の白濁度を目視にて評価した。
(評価基準)○:白濁、△:微白濁、×:透明
さらに詳細な評価方法として、白いプラスチック板に黒マジックで書いた二重丸:◎(直径1cm、0.5cm)をお湯に沈めていき、目視にて二重丸:◎をはっきり確認できる地点の、水面からの高さを測定することにより行った。すなわち、この高さが高い程、お湯が白濁していることを意味する。
(4)分散安定性:24時間後のお湯の白濁度を目視により評価した。
(評価基準)○:白濁、△:微白濁、×:透明
さらに、(3)と同様に目視にて二重丸:◎をはっきり確認できる地点の、水面からの高さを測定した。
次に、ビーカーのお湯をゆっくりと捨てて、ビーカーの底に残った沈殿物の量を評価した。
(評価基準)○:微量、△:少しある、×:多量にある
【0022】
使用感
(評価方法)
評価者5名が、約40℃のお湯約200リットルに浴用剤組成物30gを投入した湯に入浴し、タオルで拭いた後の肌のしっとり感、すべすべ感、保湿効果の程度を、浴用剤組成物未使用(さら湯)の場合と比較して評価した。
(評価基準)
しっとり感 ○:非常に優れている、△:やや優れている、×:さら湯と同等、若しくは以下
すべすべ感 ○:非常に優れている、△:やや優れている、×:さら湯と同等、若しくは以下
保湿効果 ○:非常に効果がある、△:やや効果がある、×:さら湯と同等、若しくは以下
【0023】
【表1】

【0024】
表1より、本発明で得られた浴用剤組成物は、比較例よりも、製剤の物性、使用感において優れていた。
【0025】
(実施例3)
表2に示す配合処方に従い、実施例1〜2と同様な手法により浴用剤組成物を得た。
【0026】
(比較例6)
表2に示す配合処方に従い、乳鉢に水酸化リン脂質と硫酸ナトリウム、無水ケイ酸、香料を添加して均一に混合し、粉末状にした。次に、これに酸化チタンを添加して混合し、浴用剤組成物を得た。
得られた浴用剤組成物の製剤の物性、使用感について、実施例1〜2、比較例1〜5と同様の方法、及び基準により評価した。その結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
表2より、本発明で得られた浴用剤組成物は、酸化チタンを単独でコーティングしていない比較例6よりも、お湯に投入した際の分散性、お湯の白濁度において優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は白濁剤を含む入浴剤に広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化リン脂質および/またはリゾリン脂質を配合してなることを特徴とする粉末浴用剤組成物。
【請求項2】
白色顔料を配合してなることを特徴とする請求項1に記載の粉末浴用剤組成物。
【請求項3】
白色顔料が酸化チタンであることを特徴とする請求項1に記載の粉末浴用剤組成物。
【請求項4】
酸化チタンの表面を、水酸化リン脂質および/またはリゾリン脂質でコーティングしてなることを特徴とする粉末浴用剤組成物。
【請求項5】
水酸化リン脂質が水酸化レシチンであり、リゾリン脂質がリゾレシチンであることを特徴とする請求項1〜3に記載の粉末浴用剤組成物。

【公開番号】特開2008−88141(P2008−88141A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274121(P2006−274121)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000201733)曽田香料株式会社 (56)
【Fターム(参考)】