説明

海生生物付着防止管

【課題】主として海水が流通する管において、海洋環境を汚染することなくさらなる海生生物の付着防止を図る。
【解決手段】主として海水が流通する管1において、管本体2の内表面に加水分解型塗料3が塗布されている。管本体2の内表面に塗布された加水分解型塗料3が海水などに浸漬した場合に、その表面からわずかずつ分解し、それにより、表面に海生生物が付着することを防止する。しかも、加水分解型塗料3は、海洋環境を汚染するような物質を含まない。このため、海洋環境を汚染することなく海生生物の付着防止を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、海水が流通する内表面にふじつぼや海草などの海生生物が付着するのを防止する海生生物付着防止管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、火力発電所などにおいて、海水の取水ピットに海生生物が付着すると、冷却媒体である海水の流通に障害が発生し、発電を停止せざるを得ない事態に至ることがある。このため、海生生物の付着を防止する技術が研究されている。例えば、海洋構造体の海水と接触する面に、例えば、船舶の底面などに有機すず塗料を塗布することが行われている。また、非特許文献1には、海水揚水発電所の実証プラントにおいて、海水の水圧管路に繊維強化プラスチック管を用いたことが記載されている。
【非特許文献1】高島賢二、佐藤邦明、岩下和義,「海水揚水発電所FRP水圧管路の強度特性と水理損失の実証的研究」,土木学会論文集,社団法人日本土木学会,2005年12月,第69巻,第805号,p.15−24
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、海洋構造体に塗布された塗料の有機すずが海水中に溶出すると、有機すずが海生生物にホルモン攪乱物質、所謂、環境ホルモンとして作用し、巻き貝などに生殖異常を引き起こすことがわかってきた。このため、有機すず塗料は、海洋環境に影響を与えることから、使用が全面的に禁止されている。
【0004】
また、非特許文献1によれば、海水の水圧管路に用いられた繊維強化プラスチック管には、内面平滑性によって海生生物の付着が著しく減少することが知見された。
【0005】
しかしながら、海生生物の付着防止に対する要求は大きく、より高い防汚機能が要望されている。一方、使用される塗料には、環境意識の高まりによって、より安全であることも要望されている。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、海洋環境を汚染することなくさらなる海生生物の付着防止を図ることができる海生生物付着防止管を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、主として海水が流通する管において、管本体の内表面に加水分解型塗料が塗布されたことを特徴とするものである。
【0008】
本発明によれば、加水分解型塗料は、塗布後、海水などに浸漬した場合に、その表面からわずかずつ分解し、それにより、表面に海生生物が付着することを防止する。しかも、加水分解型塗料は、海洋汚染を助長するような物質を含まない。
【0009】
この結果、海水が流通する管本体の内表面に海生生物が付着することを防止することができるとともに、海洋環境を汚染することもない。
【0010】
ここで、加水分解型塗料としては、例えば、NKMマリンコーティング社の製造販売に係るケイ素ポリマー系銅系カラー防汚塗料「ニュープラドール」などを挙げることができる。
【0011】
また、管本体の材質としては、限定されない。例えば、繊維強化プラスチック管の他、加水分解型塗料を適切に選択することにより、鋼管や塩ビ管でも適用可能である。
【0012】
本発明において、前記管本体が繊維強化プラスチック管であることが、内面平滑性を有するため、好ましい。
【0013】
繊維強化プラスチック管は、よく知られているように、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂など、成形時液状で、成形後加熱、常温放置、光硬化などの方法により硬化させることのできる熱硬化性樹脂を含浸させたガラスロービング、ガラスクロス、ガラスマットなどのガラス繊維や炭素繊維などの強化繊維からなり、配合中には、炭酸カルシウムやケイ砂などを含み得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、海水が流通する管において、海洋環境を汚染することなくさらなる海生生物の付着防止を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1には、海生生物付着防止管1の一実施形態が示されている。
【0017】
この海生生物付着防止管1は、管本体2と、管本体2の内表面に塗布された加水分解型塗料3と、からなり、主に海水が流通する用途に使用される。
【0018】
このように構成された海生生物付着防止管1によれば、管本体2の内表面に塗布された加水分解型塗料3が海水などに浸漬した場合に、その表面からわずかずつ分解し、それにより、表面に海生生物が付着することを防止する。しかも、加水分解型塗料3は、海洋環境を汚染するような物質を含まない。
【0019】
したがって、海洋環境を汚染することなく海生生物の付着防止を図ることができる。
(実施例)
管本体として、繊維強化プラスチック管(積水化学工業社の製造販売に係るエスロン(登録商標)RCP(登録商標)内圧5種管 呼び径500mm)を用い、その内表面に加水分解型塗料を塗装した後、30cmの長さに切り出して供試管とした。
【0020】
ここで、加水分解型塗料としては、NKMマリンコーティング社の製造販売に係る「ニュープラドール」を用いた。
【0021】
塗装方法としては、管本体の内表面をサンディングし、軽く目荒らしし、アセトンで埃を拭き取った後、下塗り(ニュープラドール下塗り)を塗布した。次いで、3時間後、上塗り(ニュープラドール上塗り)を塗布し、約1日後、再度上塗りを塗布した。養生として、約1日以上そのまま放置した。
【0022】
塗装が施された供試管と、何も塗装を施さない対照サンプルを海水中に3カ月間浸漬し、海生生物の付着情況を確認したところ、塗装した供試管には、海生生物の付着は認められなかったが、塗装しない対照サンプルには、100平方センチメートル当たり0.8個のフジツボ類の付着が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
以上のように本発明によれば、海洋環境を汚染することなく海生生物の付着防止を図ることができることから、海水の流通を長期にわたって確保することができ、保守点検作業による海水流通の中断を回避して稼働率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の海生生物付着防止管の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 海生生物付着防止管
2 管本体
3 加水分解型塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として海水が流通する管において、管本体の内表面に加水分解型塗料が塗布されたことを特徴とする海生生物付着防止管。
【請求項2】
前記管本体が繊維強化プラスチック管であることを特徴とする請求項1記載の海生生物付着防止管。

【図1】
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【公開番号】特開2007−224991(P2007−224991A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45601(P2006−45601)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】