説明

海藻類及び魚介類の定量的計数を目的とした採集方法とこの採集方法に用いる採集網

【課題】 漁場として藻場又は魚礁を正確に評価するため、海藻類及び魚介類の定量的計数を目的とした採集方法を提供する。
【解決手段】 水平方向を網地11により囲んで塞ぎ、上下方向に連通する囲い網構造の採集網1を用いて魚礁2に植生する海藻類3や蝟集する魚介類4の定量的計数を目的とした採集方法であって、最初に対象となる魚礁2を採集網1により囲み、この魚礁2上方で採集網1の上部を括って袋状にし、次に魚礁2に植生する海藻類3を根又は根付近で切断して浮上させ、最後に浮上した海藻類3より下方で採集網1の下部を括って閉じた袋状にすることにより、魚礁2に植生する海藻類や3蝟集する魚介類4を前記袋状の採集網1内に閉じこめて採集する海藻類3及び魚介類4の定量的計数を目的とした採集方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漁場となる藻場又は魚礁を評価するため、前記藻場又は魚礁に植生する海藻類や蝟集する魚介類を採集する採集方法と、この採集方法に用いる採集網とに関する。
【0002】
本発明において、「藻場」は海中に植生する植物、すなわち海藻類が群生する場所を、「魚礁」は海中動物、すなわち魚介類が蝟集する場所を意味し、前記各場所は自然に形成されたか、人工的に形成されたか、又は人工的な沈設物に依拠するかを問わない。また、本発明は前記藻場又は魚礁を漁場として評価する手段としての採集方法についてであるから、採集する海藻類として蝟集する働きのある人工海藻も海藻類に含まれる。
【背景技術】
【0003】
漁場となる藻場又は魚礁は、植生する海藻類(特にホンダワラ類)に魚介類を蝟集し、漁場を構成する。これから、藻場又は魚礁に植生する海藻類の量や種類、更には前記海藻類に蝟集する魚介類を採集することにより、藻場又は魚礁が良好な漁場を形成しているか否かを評価できる。この藻場又は魚礁の評価は、例えば単位面積当たりの海藻類を目視や写真撮影してこの単位面積当たりの海藻類の量や種類を特定し、前記単位面積当たりの評価から、藻場又は魚礁全体を評価していた。特許文献1は、前記写真撮影を水中走行ビデオシステムを用いて省力化する技術を開示している。
【0004】
しかし、目視、写真撮影又はビデオ撮影では、海藻類に蝟集する魚介類の量や種類を特定することが難しい。海藻類に蝟集する魚介類は、実際に採集することにより量や種類を特定できる。具体的には、例えば非特許文献1に見られるように、たも網を用いた漁法を利用して、海藻類に蝟集する魚介類を採集されている。また、非特許文献2に見られるように、海藻類に蝟集する魚介類を採集する目的で織成された専用の網(日本海区水産研究所型ソリネット)を用いたり、潜水式囲い網を用いる場合もある。更に、非特許文献3に見られるように、通常の釣り漁法を用いるほか、刺網漁法、まき網漁法、ごち網漁法や底引き網漁法も、海藻類に蝟集する魚介類の採集方法として利用されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002-058370号公報
【非特許文献1】新潟県沿岸域における人工漁礁の総合的研究と事業(119頁、新潟県水産試験場編、1985年5月)
【非特許文献2】沿岸漁場整備開発事業 増殖場造成計画指針 ヒラメ・アサリ編(50頁〜51頁、社団法人全国沿岸漁業振興開発協会編、平成8年度版)
【非特許文献3】水産庁監修 沿岸漁場整備開発事業 増殖場造成計画指針(89頁〜90頁、社団法人全国沿岸漁業振興開発協会編、平成12年度版)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
写真撮影やビデオ撮影では、藻場又は魚礁に植生する海藻類の量や種類を特定できるが、この海藻類に蝟集する魚介類の量や種類を特定することが難しい。しかし、従来の各種網を用いた漁法による魚介類の採集により、海藻類に蝟集する魚介類の量や種類を特定する場合、海藻類を採集することが難しく、この海藻類の量や種類を特定できない。すなわち、藻場又は魚礁を漁場として評価するためには、写真撮影やビデオ撮影による海藻類の特定と、従来の各種網を用いた漁法による魚介類の特定とを併用する必要があった。
【0007】
ここで、魚介類を採集するために用いられていた従来の各種網は、そもそも魚介類を採集する目的で製造されているため、どうしても藻場又は魚礁に植生する海藻類を採集できず、結果として海藻類の特定に別の手段を用いる必要性を招いていた。そこで、魚介類と共に海藻類の採集も可能な網により、漁場として藻場又は魚礁を正確に評価するため、海藻類及び魚介類の定量的計数を目的とした採集方法を開発するため、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
検討の結果開発したものが、水平方向を網地により囲んで塞ぎ、上下方向に連通する囲い網構造の採集網を用いて藻場又は魚礁に植生する海藻類や蝟集する魚介類の定量的計数を目的とした採集方法であって、最初に対象となる藻場又は魚礁を採集網により囲み、この藻場又は魚礁上方で採集網の上部を括って袋状にし、次に藻場又は魚礁に植生する海藻類を根又は根付近で切断して浮上させ、最後に浮上した海藻類より下方で採集網の下部を括って閉じた袋状にすることにより、藻場又は魚礁に植生する海藻類や蝟集する魚介類を前記袋状の採集網内に閉じこめて採集する海藻類及び魚介類の定量的計数を目的とした採集方法である。この場合、採集網は、藻場又は魚礁に対して海流の上流側から囲むようにするとよい。
【0009】
本発明の採集方法の特徴は、採集の対象となる海藻類及び魚介類を、閉じた袋状の採集網に閉じこめる点にある。これから、上記採集方法に代えて、水平方向及び上方向を網地により囲んで塞ぎ、下方向に開放する投網構造の採集網を用いて藻場又は魚礁に植生する海藻類や蝟集する魚介類の定量的計数を目的とした採集方法であって、最初に対象となる藻場又は魚礁に採集網を被せ、次に藻場又は魚礁に植生する海藻類を根又は根付近で切断して浮上させ、最後に浮上した海藻類より下方で採集網の下部を括って閉じた袋状にすることにより、藻場又は魚礁に植生する海藻類や蝟集する魚介類を採集網内に閉じこめて採集する海藻類及び魚介類の定量的計数を目的とした採集方法でもよい。
【0010】
ここで、囲い網構造の採集網では、船から降ろした紐体により採集網の上部を括り、閉じた袋状にした採集網を前記紐体により船に回収するとよい。また、囲い網構造又は投網構造の採集網いずれでも、船から降ろした紐体により採集網の下部を括り、閉じた袋状にした採集網を前記紐体により船に回収するとよい。紐体により括る採集網の上部又は下部の位置が特定されている場合、前記上部又は下部に対応して網地の周方向に環体を並べて設けておき、前記環体に紐体を挿通して網地の上部又は下部を括ってもよい。
【0011】
海藻類は、採集網の網地に設けた開閉自在なスリットからこの採集網外の潜水作業員が手を挿入することにより根又は根付近を切断するとよい。この場合、使用する採集網は、本発明の採集方法に適した構造、すなわち後述するように、前記開閉自在なスリットを備えた網を用いる。このほか、海藻類が長尺な場合、藻場又は魚礁の海藻類が根付いた面、例えば前記魚礁の場合は魚礁の天井面に、網地の下縁に取り付けた沈子を載せて、前記網地の下縁から採集網外の潜水作業員が手を挿入して根又は根付近を切断するとよい。
【0012】
上記本発明の採集方法に使用する網は、従来公知の各種網を利用することもできるが、魚介類の幼稚子を採集する目的から網地の目が細かく、また網地の編み目が変形しないもじ網が好ましい。これから、本発明では、前記もじ網に、開閉自在なスリットを設けた専用の採集網を開発した。すなわち、水平方向を網地により囲んで塞ぎ、上下方向に連通する囲い網構造のもじ網であって、前記網地に開閉自在なスリットを設けた採集網を開発した。この採集網の網地は、周方向両端縁をファスナーにより開閉自在とすると好ましい。前記網地の周方向両端縁に設けるファスナーは、金属製又は樹脂製のいずれでもよいが、海上に向けてなびく海藻類を傷つけずに網に閉じこめる目的から、下から上に閉じる構成にするとよい。
【0013】
また、水平方向及び上方向を網地により囲んで塞ぎ、下方向に開放する投網構造のもじ網であって、前記網地に開閉自在なスリットを設けた採集網としてもよい。いずれの網においても、網地に設けるスリットは、ファスナーにより開閉自在にするとよい。この網地に設けるスリットを開閉するファスナーは、金属製又は樹脂製のいずれでもよい。また、潜水作業員による海藻類の根又は根付近の切断が効率よく実施できるように、網地の周方向にわたって複数のスリットを設け、各スリットそれぞれが独立して各ファスナーにより開閉自在にできることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、藻場又は魚礁に植生する海藻類と共に、前記海藻類に蝟集する魚介類を採集して、藻場又は魚礁における海藻類及び魚介類の定量的計数が実現されることにより、漁場として藻場又は魚礁を正確に評価できる効果を有する。これは、根又は根付近で切断して浮上する海藻類、そして海藻類に蝟集する魚介類を、袋状の採集網に閉じこめて回収することによる効果である。
【0015】
こうした本発明の採集方法では、藻場又は魚礁に対して採集網を展開して囲み、まず採集網の上部を括り、その後海藻類の根又は根付近を切断して浮上させた後、今度は採集網の下部を括って、最後に袋状の採集網を回収する手順を要する。しかし、まず採集網の上部又は下部を船から降ろした紐体により括るようにすれば、採集網の回収が容易となり、本発明の採集方法における作業効率を高める効果が得られる。
【0016】
更に、網地に開閉自在なスリットを設けたもじ網からなる採集網を用いることで、海藻類及び魚介類をもらすことなく採集することができるばかりか、作業時間を要する海藻類の根又は根付近の切断を容易かつ短時間に実施できるようにする。このように、網地に開閉自在なスリットを設けたもじ網からなる採集網は、本発明の採集方法における作業効率を高める効果をもたらす。
【0017】
このほか、囲い網構造の採集網では、周方向両端縁をファスナーにより開閉自在にすることで、藻場又は魚礁に対して採集網を展開して囲む作業を容易にし、本発明の採集方法における作業効率を高める効果をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。図1は水平方向を網地11により囲んで塞ぎ、上下方向に連通する囲い網構造のもじ網からなる採集網1の正面図、図2〜図8は本発明の採集方法の手順を表す斜視図であり、図2は折り畳んだ採集網1を海中に沈めた段階、図3は採集網1を展開した段階、図4は採集網1により魚礁2を囲んで閉じる段階、図5は採集網1の上部を括って閉じた段階、図6はスリット12を開いて海藻類3の根を切断している段階、図7は浮上した海藻類3より下方で採集網1の下部を括って閉じた段階、そして図8は閉じた袋状の採集網1を引き上げて回収する段階をそれぞれ表している。説明の便宜上、図2以下では採集網1の浮子、沈子、編み目や、潜水作業員の図示を省略し、図7及び図8では網地11のスリットの図示を省略している。
【0019】
本発明の採集方法は、採集対象となる藻場又は魚礁を囲んで海藻類及び魚介類を閉じこめる袋状に形成できる囲い網構造又は投網構造であれば、従来公知の各種網を利用できる。しかし、採集方法の各段階の作業、特に海藻類の根又は根付近を切断して浮上させる作業を効率よく実施するためには、図1に見られるように、開閉自在なスリット12を網地11に設けた囲い網構造のもじ網からなる専用の採集網1を用いることが望ましい。
【0020】
本例の採集網1は、天井面21に植生した海藻類3と共に魚礁2(図2以下参照)を水平方向から囲むことのできる大きさの長方形をした囲い網構造のもじ網からなる。もじ網は、変形しにくい正方形の細かな編み目を有し、本発明の採集対象となる魚介類4、特に幼稚子の採集に適している。この採集網1は、従来公知の各種網と同様に、上縁には複数の浮子13を取り付け、また下縁には複数の沈子14を取り付けている。これにより、展開した採集網1は上下方向を保ち、周方向に折り曲げることで魚礁2を水平方向から囲むことができる。このとき、採集網1の編み目が小さすぎると、採集網1を展開、折り曲げる際の抵抗が大きくなるので、採集対象となる魚介類の大きさに合わせて編み目の下限を設定し、不必要に小さな編み目にならないようにするとよい。
【0021】
本例の採集網1の特徴は、周方向両端縁をファスナー151(本例では、周方向両端縁それぞれに並ぶエレメントの列により図示)により開閉自在とし、更に網地11にはファスナー121により開閉自在なスリット12を周方向に複数設けている点にある。周方向両端縁のファスナー151は、一対のエレメント(鉤爪又はレール)が完全に分離する構成で、魚礁2を水平方向から囲んだ後、スライダ152により前記エレメントを下端で係合し、前記スライダ152を引き上げていくことで周方向両端縁を閉じる(図4参照)。
【0022】
ファスナー121により開閉自在なスリット12は採集網1の上下方向に開閉する構成で、本例では網地11の上下方向中段付近に、周方向等間隔で9列設けてある。各スリット12は、ファスナー121のスライダ122を下から上に引き上げることで開き、スライダ122を引き下げることで完全に閉じることができる。これにより、魚礁2を水平方向から囲んで採集網1の上部を括った後、潜水作業員が個別にスリット12を開いて手を挿入し、採集網1に囲まれた魚礁2の天井面21に植生した海藻類3の根又は根付近を千切って切断する。
【0023】
このほか、本例の採集網1は、魚礁2に対して海流の上流側に折り畳んだ状態で沈めることができるように、上縁中央及び下縁中央に縛り紐16,16を設けている。また、前記上縁中央の縛り紐16と同じ高さに、アンカーロープ61を結びつける位置決め環17を設けている。位置決め環17は、例えば船5から降ろした錨51のチェーン52から延ばしたアンカーロープ61を結びつけて前記チェーン52に対して採集網1を吊り上げ、海流に対する採集網1の向きを保持させたり、採集網1が上下方向に崩れることを防止する。
【0024】
図示は省略するが、本発明に基づく投網構造のもじ網からなる採集網も、上記囲い網構造のもじ網からなる採集網同様の構成により作ることができる。すなわち、投網構造のもじ網からなる採集網は、初めから上部が括られた構成であるため、縛り紐は下縁中央のみに設ける。また、網地の周方向両端に設けるファスナーは、魚礁に採集網を被せる際の抵抗を減らすため、最初網地を開いた状態にするために設ける。このほか、潜水作業員が手を挿入する開閉自在なスリットや、アンカーロープを結びつける位置決め環は、囲い網構造のもじ網からなる採集網同様に設けると、投網構造のもじ網からなる採集網の取り扱いが便利になる。
【0025】
次に、投網構造のもじ網からなる採集網1を用いた採集方法の手順について説明する。採集網1は、図2に見られるように、縛り紐16,16で上縁及び下縁を縛って折り畳んだ状態にし、採集対象となる魚礁2付近の海中に沈める。採集網1を最初から展開した状態にしておくと、海中に沈めにくいばかりか、採集対象となる魚礁2をうまく囲むことができない。このため、本例のように折り畳んだ状態の採集網1を海中に沈めることが望ましい。ここで、浮子13及び沈子14の働きにより、採集網1は下縁を海底7に接地させ、この海底7に対して略直立姿勢となる。
【0026】
また、折り畳んだ採集網1は、採集対象となる魚礁2に対して海流(図2以下、図中3本の太矢印参照)の上流側に沈めるとよい。これにより、縛り紐16,16を解いて展開した採集網1は、図3に見られるように、周方向両端を海流に乗せて魚礁2を囲むように折り曲げていくことができ、採集網1による魚礁2の囲い込みが容易になる。この囲い込み作業では、沈子14の働きで下縁を海底7に摺接させ、海流の方向に直交する平面状の略直立姿勢にある採集網1を、魚礁2に対して丸めていく格好となる。
【0027】
このとき、採集網1の周方向中央が魚礁2に対して海流の上流側の位置を保つように、採集網1の上縁中央の位置決め環17と船5から降ろした錨51のチェーン52とをアンカーロープ61で結びつけておく。これにより、採集網1は周方向中央を常に魚礁2に対して海流の上流側に位置させておくことができ、加えてアンカーロープ61が採集網1を吊り上げる格好になるため、採集網1が垂れ下がる虞が少なくなり、囲い込み作業のほか、以後の各種作業の実施を容易にする。
【0028】
次に、展開し、周方向両端縁を魚礁に対して回り込ませた採集網1を、図4に見られるように、前記両端縁に設けたファスナー151により係合し、閉じていく。本例の採集網1は、スライダ152(図1参照)を下から上に移動させて一対のエレメントを係合させていくファスナー151を周方向両端縁に採用している。これから、魚礁2の天井面21に植生した海藻類3をファスナー151で挟むことなく、魚礁2と共に海藻類3を水平方向から囲んだ採集網1の内側に閉じこめることができる。この段階では、採集網1は上下方向に連通している。
【0029】
こうして水平方向の囲い込みを終えた採集網1は、図5に見られるように、海藻類3の上方にあたる採集網1の上部をロープ(紐体)62で括り、下方のみ開いた袋状にする。実際に括る採集網1の上部は、採集対象となる藻場又は魚礁、そして前記藻場又は魚礁に植生する海藻類の大きさや量によって異なるため、採集網1と別体のロープ62で適当な部位を適宜括るとよい。この場合、採集網1の高さが十分にあれば、例えば上縁から一定の距離離れた部分に環体を設け、この環体に挿通したロープで採集網の特定上部を括ってもよい。ここで、投網構造の採集網であれば、この上部を括る作業が不要となる。
【0030】
魚礁2は、こうして上部のみが閉鎖された袋状の採集網1により、外界と隔絶された状態となり、この採集網1内に海藻類3と前記海藻類3に蝟集する魚介類4、特に幼稚子が閉じこめられる。この段階から、魚礁2の天井面21から海藻類3を切断、分離する。具体的には、図6に見られるように、潜水作業員(図示略)が選択的にスリット12のファスナー121をスライダ122(図1参照)の昇降により開き、この開いたスリット12から採集網1の内側に手を差し込んで、海藻類3の根又は根付近を切断、分離する。このように、潜水作業員が選択したスリット12のみを必要な時間(=海藻類を切断、分離する時間)だけ開口することで、魚礁2を外界と隔絶した採集網1から閉じこめた魚介類4が流出することを最小限に抑える。
【0031】
魚礁2の天井面21から切断、分離された海藻類3は、自身の浮力で浮き上がり、閉鎖された採集網1の上部に溜まっていく。このとき、海藻類3に蝟集した大半の魚介類4は、海藻類3の上昇と共に海藻類3に付き従って、閉鎖された採集網1の上部に移動する。これにより、魚礁2の天井面21に植生したすべての海藻類3を切断、分離して浮上させた後、前記海藻類3の下方で採集網1の下部をロープ(紐体)63で括って閉じると、図7に見られるように、閉じた袋状の採集網1の内部に、海藻類3及び魚介類4を閉じこめることができる。
【0032】
ここで、採集網1の下部を括るロープ63は、上部を括るロープ62同様、採集網1と別体である方が取り扱いやすく、潜水作業員による網地11を括る作業が容易になる。加えて、船5から降ろしたロープ63を用いて採集網1の下部を括ることで、図8に見られるように、このロープ63を船5から引っぱり上げると、内部に海藻類3及び魚介類4を閉じこめた袋状の採集網1を容易に回収できる。ここで、本例では、採集網1の下部を括って閉じた袋状にするまで、アンカーロープ61により採集網1を吊り下げている(図2〜図7参照)が、例えば魚礁2を囲んだ段階(図4参照)、採集網1の上部を括った段階(図5参照)又は海藻類3を切断、分離した段階(図6参照)等、任意の段階でアンカーロープ61を外してもよいし、最終的に採集網1を引き上げて回収する段階(図8参照)までアンカーロープ61を外さなくてもよい。
【0033】
例えば囲い網構造の採集網1の場合、上部を船から降ろしたロープで括ることも考えられる。しかし、図8に明らかなように、採集網1は括った下部より下方になお網地11が連続しており、この網地11が採集網1を引き上げる際の抵抗となる。これから、海藻類3及び魚介類4を閉じこめた袋状の部分と、括った下部から下方に連続する網地11との重量バランスを図る意味から、下部を括るロープ63を船5から降ろし、この下部を中心に採集網1を引き上げるとよい。
【0034】
こうして回収された採集網1の上部及び下部のロープ62,63を解くことで、採集された海藻類3及び魚介類4を採集網1から取り出し、魚礁2を評価するための前記海藻類3及び魚介類4の定量的計数を実施できる。既述したように、閉じた袋状の採集網1に閉じこめて採集された海藻類3及び魚介類4は、魚礁2の天井面21に植生した海藻類3はもちろん、前記海藻類3に蝟集した大半の魚介類4であることから、この海藻類3及び魚介類4の定量的計数は、採集対象とした魚礁2の漁場としての評価となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】水平方向を網地により囲んで塞ぎ、上下方向に連通する囲い網構造のもじ網からなる採集網の正面図である。
【図2】折り畳んだ採集網を海中に沈めた段階を表す斜視図である。
【図3】採集網を展開した段階を表す斜視図である。
【図4】採集網により魚礁を囲んで閉じる段階を表す斜視図である。
【図5】採集網の上部を括って閉じた段階を表す斜視図である。
【図6】スリットを開いて海藻類の根を切断している段階を表す斜視図である。
【図7】浮上した海藻類より下方で採集網の下部を括って閉じた段階を表す斜視図である。
【図8】閉じた袋状の採集網を引き上げて回収する段階を表す斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1 採集網
11 網地
12 スリット
121 スリットのファスナー
122 スライダ
13 浮子
14 沈子
151 両端縁のファスナー
152 スライダ
16 縛り紐
17 位置決め環
2 魚礁
21 天井面
3 海藻類
4 魚介類
5 船
51 錨
52 チェーン
61 アンカーロープ
62 採集網の上部を括るロープ
63 採集網の下部を括るロープ
7 海底

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向を網地により囲んで塞ぎ、上下方向に連通する囲い網構造の採集網を用いて藻場又は魚礁に植生する海藻類や蝟集する魚介類の定量的計数を目的とした採集方法であって、最初に対象となる藻場又は魚礁を採集網により囲み、該藻場又は魚礁上方で採集網の上部を括って袋状にし、次に藻場又は魚礁に植生する海藻類を根又は根付近で切断して浮上させ、最後に浮上した海藻類より下方で採集網の下部を括って閉じた袋状にすることにより、藻場又は魚礁に植生する海藻類や蝟集する魚介類を前記袋状の採集網内に閉じこめて採集する海藻類及び魚介類の定量的計数を目的とした採集方法。
【請求項2】
水平方向及び上方向を網地により囲んで塞ぎ、下方向に開放する投網構造の採集網を用いて藻場又は魚礁に植生する海藻類や蝟集する魚介類の定量的計数を目的とした採集方法であって、最初に対象となる藻場又は魚礁に採集網を被せ、次に藻場又は魚礁に植生する海藻類を根又は根付近で切断して浮上させ、最後に浮上した海藻類より下方で採集網の下部を括って閉じた袋状にすることにより、藻場又は魚礁に植生する海藻類や蝟集する魚介類を採集網内に閉じこめて採集する海藻類及び魚介類の定量的計数を目的とした採集方法。
【請求項3】
採集網は、船から降ろした紐体により採集網の上部を括り、閉じた袋状にした採集網を前記紐体により船に回収する請求項1記載の海藻類及び魚介類の定量的計数を目的とした採集方法。
【請求項4】
採集網は、船から降ろした紐体により採集網の下部を括り、閉じた袋状にした採集網を前記紐体により船に回収する請求項1又は2いずれか記載の海藻類及び魚介類の定量的計数を目的とした採集方法。
【請求項5】
海藻類は、採集網の網地に設けた開閉自在なスリットから該採集網外の潜水作業員が手を挿入することにより根又は根付近を切断する請求項1又は2いずれか記載の海藻類及び魚介類の定量的計数を目的とした採集方法。
【請求項6】
水平方向を網地により囲んで塞ぎ、上下方向に連通する囲い網構造のもじ網であって、前記網地に開閉自在なスリットを設けてなる海藻類及び魚介類の定量的計数を目的とした採集網。
【請求項7】
網地は、周方向両端縁をファスナーにより開閉自在とした請求項6記載の海藻類及び魚介類の定量的計数を目的とした採集網。
【請求項8】
水平方向及び上方向を網地により囲んで塞ぎ、下方向に開放する投網構造のもじ網であって、前記網地に開閉自在なスリットを設けてなる海藻類及び魚介類の定量的計数を目的とした採集網。
【請求項9】
スリットは、ファスナーにより開閉自在とした請求項6〜8いずれか記載の海藻類及び魚介類の定量的計数を目的とした採集網。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−37472(P2007−37472A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226075(P2005−226075)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(592060307)海洋建設株式会社 (6)
【Fターム(参考)】