説明

浸漬塗布方法

【課題】複雑な機構・装置を用いることなく、被塗布体の外周面に均一な塗布膜を容易に形成するための浸漬塗布方法を提供する。
【解決手段】円筒状の被塗布体の下端を塗布液に浸漬させた後、該被塗布体が該塗布液の表面張力で塗布液に接触している状態で該被塗布体を該塗布液の液面より上まで引き上げ、該被塗布体を該塗布液に浸漬させ、該被塗布体を該塗布液から引き上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体の製造等に用いられる浸漬塗布方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の浸漬塗布方法には、特許文献1では、循環機の配管や送液ポンプに起因して発生する気泡に対して、塗布液循環機構の中に脱気機構を配設したものを開示している。また、特許文献2では、塗布液循環機構の中に気泡のトラップ機構を設けたものを開示している。一方、特許文献3では、塗布液は一般的に蒸気圧の高い溶剤を用いるために、円筒状の被塗布体の上部を密閉して被塗布体を塗布液に浸漬すると、被塗布体内部に溶剤が蒸発し、密閉された被塗布体内部の圧力が高まって被塗布体の開口された下端部から発生する気泡に対して、被塗布体を浸漬する際の上昇・下降シーケンスを制御することで気泡の発生を防止することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−269604号公報
【特許文献2】特開2007−286132号公報
【特許文献3】特開平7−60183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の浸漬塗布方法では、循環機の配管や送液ポンプに起因して発生する気泡や、蒸気圧の高い溶剤を用いるために被塗布体の上部を密閉して被塗布体を塗布液に浸漬すると、被塗布体内部に溶剤が蒸発し、被塗布体内部に閉じ込められた気体の圧力が高まって被塗布体の開口された下端部から発生する気泡に対して効果があった。しかしながら、被塗布体が塗布液を塗布した後に被塗布体の下端から滴下する塗布液が塗布槽内の塗布液表面に落下した際に発生する気泡が塗布槽内の塗布液の液面に留まり、次の被塗布体を塗布液に浸漬する際に被塗布体の外周面に付着する気泡に対しては効果がないことがわかった。本発明は、塗布槽内の塗布液の液面に留まる気泡が被塗布体を塗布液に浸漬する際に被塗布体の外周面に付着する場合でも、被塗布体の外周面に均一な塗布膜を容易に形成するための浸漬塗布方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、円筒状の被塗布体に塗布液を浸漬塗布することにより該被塗布体の外周面に塗布膜を形成する浸漬塗布方法において、該被塗布体の下端を該塗布液に浸漬させた後、該被塗布体が該塗布液の表面張力で塗布液に接触している状態で該被塗布体を該塗布液の液面より上まで引き上げ、該被塗布体を該塗布液に浸漬させ、該被塗布体を該塗布液から引き上げる、ことを特徴とする浸漬塗布方法である。
【発明の効果】
【0006】
以上説明したように、本発明によれば、被塗布体を浸漬塗布するための塗布槽内の塗布液の表面に留まる気泡が被塗布体を塗布液に浸漬する際に被塗布体の外周面に付着する場合でも、複雑な機構・装置を用いることなく、被塗布体の外周面に付着する気泡を被塗布体の内周面側に容易に移動させて被塗布体の外周面に均一な塗布膜を容易に形成することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の浸漬塗布方法における工程の概略図である。
【図2】本発明の別の浸漬塗布方法における工程の概略図である。
【図3】図1および図2のC工程を詳細に説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1に本発明による円筒状の被塗布体に塗布液を浸漬塗布する場合の工程の概略の一例を示す。図1中のA→B→C→D→Eの工程をたどることにより、被塗布体の外周面に塗布膜が形成される。図1のA工程は、被塗布体支持装置1に支持される円筒状の被塗布体2が塗布液の液面4の上方に位置することを示す。このとき、塗布液の液面4上には前の浸漬塗布終了時に別の被塗布体2から滴下した塗布液により発生した気泡3が存在する。ここで、特に記載がない限り、液面4とは塗布液と空気との界面のうち、鉛直方向に対して垂直に交差する水平面に平行な面をいう。図1のB工程は、被塗布体2の下端が塗布液に一部浸漬するときに、塗布液の液面4上に存在する気泡3が被塗布体2の外周面に付着する様子を示す。図1のC工程は、被塗布体2が塗布液の表面張力によって塗布液に接触している状態で、被塗布体2の下端が塗布液の液面4より上方に引き上げられている状態を示す。このとき、気泡3は被塗布体2の外周面から内周面に移動する。次に、図1のD工程は、被塗布体2を所定の位置まで塗布液に浸漬することを示す。図1のE工程は、浸漬した被塗布体2を被塗布体2の下端が完全に空気に露出するまで塗布液から引き上げて、被塗布体2の外周面に塗布膜5が形成されることを示す。このとき、気泡3は被塗布体2の内周面にあることを示す。こうして、被塗布体2が図1のD工程及びE工程、つまり、被塗布体2の塗布液に対する浸漬及び引き上げを行うときに、被塗布体2の外周面に気泡3が存在しないことで、被塗布体2の外周面には均一な塗布膜が形成される。
【0009】
図3には、図1のC工程をより詳細に説明する。図3に示されるように、図1のC工程では、被塗布体2の下端が塗布液に接触する状態で被塗布体2の下端が塗布液の液面4から引き上げられるとき、被塗布体2の外周面に塗布された塗布液は塗布液の表面張力により下方へ引っ張られる。これに伴い、被塗布体2の外周面に存在する気泡3は下方に移動する。その結果、気泡3は被塗布体2の下端と塗布液の液面4との間に位置することになる。ここで、被塗布体2の内側の空間は被塗布体2の下端と塗布液の液面4とが離れているにもかかわらず、塗布液の表面張力により被塗布体2の下端は塗布液に接触する。すなわち、被塗布体2の内側の空間は密閉されている。このとき、被塗布体2の内側の空間の体積が増加することで、つまり、被塗布体2が塗布液から引き上げられるに従い、内部の空間の気圧が減少する。その結果、被塗布体2の外側の空間と内側の空間とで気圧差が生じ、被塗布体2と塗布液の液面4との間の塗布液は被塗布体2の内側に引っ張られる。これに伴い、被塗布体2の下端と塗布液の液面4との間に移動した気泡3は被塗布体2の内側に移動すると考えられる。
【0010】
これにより、被塗布体2の外周面に気泡3が存在したまま浸漬および引き上げたときに発生する塗布膜のスジ状の膜厚ムラや塗布膜中に気泡が残存することを防止できる。
【0011】
塗布膜のスジ状の膜厚ムラは、その膜の機能に応じて、光感度のムラや帯電電位のムラ、電位変動のムラを発生させ、良質な画像の形成を阻害する。また、塗布膜中に残存する気泡は、例えば電子写真装置内で帯電時に高圧リークの原因になり、膜厚ムラ同様に良質な画像の形成を阻害する。
【0012】
本発明における図1のB工程では、被塗布体2が塗布液に浸漬する深さ(被塗布体2の下端の開口面と塗布液の液面4との最短距離)は0より大きく5mmより小さい範囲、より好ましくは0より大きく2mmより小さい範囲である。また、図1のC工程の引き上げ速度は塗布液の粘度や固形分によって適宜選択されるものである。更に、表面張力によって被塗布体2の下端及び液面4の間に存在する塗布液が上記気圧差によって破壊されると、すなわち、被塗布体2の内部の密閉空間が開放されると、被塗布体2の内側の空間に移動した気泡3が再び被塗布体2の外側の空間に移動することがある。そのため、図1のC工程からD工程に速やかに移行したほうが良い。具体的には、被塗布体2の下端が塗布液の表面張力で塗布液に接触している状態で塗布液の液面4から上に上昇し、被塗布体2の下端が塗布液の液面4から塗布液に再度浸漬するまで下降する時間は、例えば気泡3の径や塗布液の粘度及び固形分により異なるが、約1秒以下が望ましい。
【0013】
図2は本発明の別の浸漬塗布方法における工程の概略の一例を示している。被塗布体2に塗布液を浸漬塗布する場合、諸所の理由により塗布液を被塗布体2の内周面にも塗布することがある。つまり、図2に示す工程は、被塗布体2の外側だけでなく内側にも塗布液を塗布する。このとき、図2のC工程では被塗布体2の外側と内側との気圧差は生じにくくなるが、塗布液の粘度や固形分に応じて被塗布体2の最適な引き上げ速度を選定することにより被塗布体2の外側と内側との気圧差を生じせしめることが可能である。従って、塗布液を被塗布体2の内周面に塗布する場合でも、図3の説明と同様の効果が得られる。
【0014】
次に、本発明に適用される被塗布体2は、一例として、導電性を有するもの(導電性支持体)である。例えばアルミニウム、銅、クロム、ニッケル、亜鉛及びステンレスのような金属や合金をドラム状に成形したものが挙げられる。
【0015】
また、一例として被塗布体2の上に下引き層を形成する場合に塗布する下引き層用の塗布液は、例えば、感光層の接着性改良や塗工性改良、支持体の保護、支持体上の欠陥の被覆、支持体からの電荷注入性の改良、感光層の電気的破壊に対する保護のために塗布する。下引き層用の塗布液の材料としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ−N−ビニルイミダゾール、ポリエチレンオキシド、エチルセルロース、エチレン−アクリル酸共重合体、カゼイン、ポリアミド、N−メトキシメチル化6ナイロン、共重合ナイロン、にかわ及びゼラチンが知られている。これらはそれぞれに適した溶剤に溶解されて塗布液とされる。塗布膜厚としては0.1μm以上2μm以下が好ましい。
【0016】
また、一例として被塗布体2の上に塗布された下引き層の上に電荷発生層を形成する場合、塗布される電荷発生層用の塗布液に用いる電荷発生物質としては、セレン−テルル、ピリリウム、チアピリリウム系の染料や、各種の中心金属及び結晶系、具体的には、例えばα、β、γ、ε及びX型のような結晶型を有するフタロシアニン化合物誘導体、アントアントロン顔料、ジベンズピレンキノン顔料、ピラントロン顔料、トリスアゾ顔料、ジスアゾ顔料、モノアゾ顔料、インジゴ顔料、キナクリドン顔料、非対称キノシアニン顔料、キノシアニンが挙げられる。
【0017】
電荷発生層は前記電荷発生物質を、例えば、必要に応じて前記電荷発生物質の0.3倍量以上4倍量以下の結着樹脂及び溶剤と共にホモジナイザー、超音波分散、ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、アトライター又はロールミルのような方法で良く分散し、分散液を塗布し、乾燥して形成される。その膜厚は5μm以下であることが好ましく、特に0.1μm以上2μm以下の範囲であることが好ましい。
【0018】
電荷発生層に結着樹脂を用いる場合の例は、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレンのようなビニル化合物の重合体及び共重合体が挙げられる。また、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン、セルロース樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ケイ素樹脂、エポキシ樹脂も挙げられる。
【0019】
電子写真感光体の最表面層である表面層には、一例として、前述した電荷発生層上に電荷輸送層として用いられる場合や、これらの層の上に保護層として用いられる場合がある。このような場合の前記表面層の形成方法は、例えば、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有する正孔輸送性化合物を含有する溶液を塗布後、重合及び硬化反応させる。
【0020】
アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有する正孔輸送性化合物は、熱、可視光や紫外光のような光、更に電子線のような放射線により重合及び硬化させる。ただし、正孔輸送性化合物を構成する中心骨格の構造の種類によっては重合反応が進行し難い場合があり、その際には影響のない範囲内での重合開始剤の添加は可能である。一例として、アクロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有する正孔輸送性化合物を重合及び硬化させることにより形成される表面層を電荷輸送層として用いる場合の膜厚は、1μm以上50μm以下が好ましい。特には3μm以上30μm以下が好ましい。
【0021】
例えばアクロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有する正孔輸送性化合物を重合及び硬化させることにより形成される表面層を電荷発生層/電荷輸送層上の保護層として用いる場合の下層に当たる電荷輸送層や、表面層を電荷輸送層として用いる場合の電荷輸送層は、電荷輸送物質を、例えば、ポリ−N−ビニルカルバゾールやポリスチリルアントラセンのような複素環や縮合多環芳香族を有する高分子化合物、ピラゾリンやイミダゾール、オキサゾール、トリアゾール、カルバゾールのような複素環化合物、トリフェニルメタンのようなトリアリールアルカン誘導体、トリフェニルアミンのようなトリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体やN−フェニルカルバゾール誘導体、スチルベン誘導体、ヒドラゾン誘導体のような低分子化合物を、適当な結着樹脂(前述の電荷発生層に用いる結着樹脂の中から選択できる)とともに溶剤に分散または溶解した溶液を前述の公知の方法によって塗布、乾燥して形成することができる。
【0022】
例えば表面層が保護層である場合や電荷輸送層である場合、電荷輸送層の電荷輸送物質と結着樹脂との比率は、両者の全質量を100とした場合に、電荷輸送物質の質量が20以上〜100以下が好ましく、より好ましくは30以上100以下の範囲で適宜選択される。電荷輸送物質の比率がそれ以下であると、電荷輸送能が低下し、感度低下及び残留電位の上昇のような問題点が生ずる傾向がある。表面層が保護層である場合や電荷輸送層である場合の電荷輸送層の膜厚は、好ましくは1μm以上50μm以下、より好ましくは3μm以上30μm以下の範囲で調整される。このとき、保護層の膜厚は0.5μm以上10μm以下が好ましく、特には1μm以上8μm以下が好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
〔実施例1〕
まず、被塗布体として直径30mmのアルミニウムシリンダーを用意する。そして、アルミニウムシリンダーの導電層用の塗布液を以下の手順で調製した。10%の酸化アンチモンを含有する酸化スズで被覆した導電性酸化チタン粉体50部、フェノール樹脂25部、メチルセロソルブ20部、メタノール5部、及びシリコーンオイル0.002部(ポリジメチルシロキサンポリオキシアルキレン共重合体、平均分子量3000)を、直径1mmガラスビーズを用いたサンドミル装置で2時間分散して塗布液を調製した。この塗布液をシリンダー上に塗布し、140℃で30分乾燥して、膜厚16μmの導電層を形成した。
【0025】
次に、N−メトキシメチル化6ナイロン5部をメタノール95部中に溶解し、下引き層用塗布液を調製した。この塗布液を前記導電層上に塗布し、100℃で10分間乾燥して、0.4μmの下引き層を形成した。
【0026】
次に、ヒドロキシガリウムフタロシアニン10部(CuKα特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、9.9°、16.3°、18.6°、25.1°及び28.3°に強いピークを有する結晶形)、ポリビニルブチラール5部(商品名:エスレックBX−1、積水化学工業(株)製)、シクロヘキサノン250部を、直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミル装置で1時間分散し、次に、酢酸エチル250部を加えて電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を、前記下引き層上に本発明の浸漬塗布方法で塗布し、温度100℃で10分間乾燥して、被塗布体上端から130mm下方の位置における平均膜厚が0.16μmの電荷発生層を形成した。
【0027】
次に、下記式(1)で示される構造を有する化合物(電荷輸送物質)35部、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂50部(商品名:ユーピロンZ400、三菱エンジニアリングプラスティックス(株)製)を、モノクロロベンゼン320部/ジメトキシメタン50部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。
【0028】
この電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に本発明の浸漬塗布方法で塗布し、これを40分間、100℃に調整された熱風乾燥機中で乾燥させることによって、膜厚が30μmの電荷輸送層を形成した。
【0029】
同様の方法で100本作製した電子写真感光体には膜厚ムラはなく、いずれの電子写真感光体も良好な塗布膜が得られた。
【化1】

【0030】
〔実施例2〕
電荷輸送層用塗布液を以下とした以外は実施例1と同じ電子写真感光体を作製した。実施例1で使用したものと同じ電荷輸送物質10部、および、ポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロンZ−400、三菱ガス化学(株)製)10部を、モノクロロベンゼン(沸点132℃)120部に溶解して、電荷輸送物質と結着樹脂とからなる溶液を得た。次に、この溶液に四フッ化エチレン樹脂粒子(商品名:ルブロンL−2、ダイキン工業(株)製)3部を加え、高圧分散機(商品名:マイクロフルイダイザーM−110EH、米Microfluidics社製)で58.8MPaの圧力で3回分散処理を行って、電荷輸送層用塗布液を調製した。
【0031】
この電荷輸送層用塗布液を、電荷発生層上に本発明の浸漬塗布方法で塗布し、これを60分間120℃で乾燥させることによって、膜厚が30μmの電荷輸送層を形成した。
【0032】
同様の方法で100本作製した電子写真感光体には膜厚ムラはなく、いずれの電子写真感光体も良好な塗布膜が得られた。
【0033】
〔実施例3〕
実施例1の電子写真感光体の上に、つまり、実施例1の電荷輸送層(第一電荷輸送層)の上に、第二電荷輸送層を塗布した以外は実施例1と同じ電子写真感光体を作製した。下記式(2)で示される構造を有する化合物60部(正孔輸送性化合物)を1−プロパノール35部及び1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(商品名:ゼオローラーH、日本ゼオン(株)製)35部の混合溶剤に溶解させた。その後、これをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の0.5μmメンブレンフィルターで加圧濾過することによって、第二電荷輸送層用塗布液を調製した。
【0034】
この第二電荷輸送層用塗布液を第一電荷輸送層上に本発明の浸漬塗布方法で浸漬塗布した後、50℃の条件下5分間保持して溶剤を風乾させた。これに、窒素雰囲気(酸素濃度10ppm)下で加速電圧70kV、線量4kGy(0.4Mrad)の条件で電子線を照射した。その後、同雰囲気下で電子写真感光体(電子線の被照射体)の温度が117℃になる条件で40秒間加熱処理を行い、更に大気中で100℃に調整された熱風乾燥機中で10分間加熱処理を行うことによって、膜厚が3.5μmの硬化性の第二電荷輸送層を形成した。
【0035】
同様の方法で100本作製した電子写真感光体には膜厚ムラはなく、いずれの電子写真感光体も良好な塗布膜が得られた。
【化2】

【0036】
〔比較例1〕
実施例1の電荷発生層用塗布液の塗布の際、本発明の浸漬塗布方法のCの工程を省いた以外は実施例1と同じ電子写真感光体を作製した。
【0037】
同様の方法で100本作製した電子写真感光体のうち8本にスジ状の濃度ムラがあり、良好な塗布膜が得られなかった。
【0038】
〔比較例2〕
実施例1の電荷発生層用塗布液の塗布の際、本発明の浸漬塗布方法のCの工程で、浸漬した被塗布体2の下端が完全に空気に露出するまで、つまり、被塗布体2の内部の密閉空間を開放するまで被塗布体2を引き上げた以外は実施例1と同じ電子写真感光体を作製した。
【0039】
同様の方法で100本作製した電子写真感光体のうち7本にスジ状の濃度ムラがあり、良好な塗布膜が得られなかった。
【符号の説明】
【0040】
1‥‥被塗布体支持装置
2‥‥被塗布体
3‥‥気泡
4‥‥(塗布液の)液面
5‥‥塗布膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の被塗布体に塗布液を浸漬塗布することにより該被塗布体の外周面に塗布膜を形成する浸漬塗布方法において、
該被塗布体の下端を該塗布液に浸漬させた後、
該被塗布体が該塗布液の表面張力で塗布液に接触している状態で該被塗布体を該塗布液の液面より上まで引き上げ、
該被塗布体を該塗布液に浸漬させ、
該被塗布体を該塗布液から引き上げる、
ことを特徴とする浸漬塗布方法。
【請求項2】
該塗布液がアルコールを含むことを特徴とする、請求項1記載の浸漬塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−40465(P2012−40465A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181415(P2010−181415)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(000104630)キヤノンプレシジョン株式会社 (79)
【Fターム(参考)】