説明

浸炭深さ測定方法及び浸炭深さ測定装置

【課題】試験片の製作が不要であり、簡便に而も個人差に左右されることなく正確に浸炭深さを測定できる浸炭深さ測定方法及び浸炭深さ測定装置を提供する。
【解決手段】浸炭層を有さない基準試験体に所定の周波数範囲で超音波の掃引を行って減衰曲線Aを作成し、浸炭深さが既知である複数の既知試験体に所定の周波数範囲で超音波の掃引を行って減衰曲線B′,C′,D′を作成し、各減衰曲線毎に該減衰曲線が囲む面積S1,S2,S3,S4を求め、各面積と該面積に対応する前記既知試験体の浸炭深さから面積に関係付けた浸炭深さのマスターカーブを作成し、浸炭深さが未知である未知試験体について減衰曲線を求めると共に、該減衰曲線が囲む面積を求め、該面積と前記マスターカーブを用いて前記未知試験体の浸炭深さを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レイリー波を用いてマスターカーブを作成し、浸炭の深さを測定する浸炭深さ測定方法及び浸炭深さ測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
浸炭深さを測定する場合、JISでは、試験対象物に対してビッカース硬度試験を行い、Hv550以上の硬さを示す層の表面からの距離を浸炭深さとして定義している。
【0003】
従来の浸炭深さ測定試験では、製品とは別に、製品と同材料の試験片を製品と同じ浸炭処理ロットで浸炭する等、製品と同様の浸炭処理で試験片に浸炭層を形成し、その後試験片に対して硬度試験を行って浸炭深さを測定していた。従って、製品ではなく試験片に対して硬度試験を行うので、測定結果は推定値となり、実際の個々の製品の浸炭状況は不明であった。
【0004】
又、従来の別の浸炭深さ測定試験では、ある浸炭処理ロットから無作為に1つの製品を引出す等、浸炭処理を施した製品から試験片を切出し、切出した試験片に対して硬度試験を行い、浸炭深さを測定していた。この場合も、硬度試験が行われるのは製品の内の1つに過ぎず、測定結果は推定値となるので他の製品の浸炭状況は不明であり、又試験片を切出した製品は使用できなくなる為、コスト面でも問題があった。
【0005】
又、硬度試験の為に製品を直接、又は製品から試験片を切断して硬さを測っていくので、ダミー製品が必要であり、更に試験片の切断に手間が掛り、又費用が掛ると共に試験の時間も掛った。
【0006】
上記の様に、検査の都度試験片を切出す必要がない非破壊検査方法として、超音波を用いた超音波試験方法があり、更にレイリー波を利用した周波数シフト法がある。
【0007】
周波数シフト法は、予め浸炭深さの異なる複数の試験片を用意しておき、各試験片毎にX軸に周波数、Y軸に受信信号強度を取り、超音波周波数を掃引した場合の減衰曲線を作る。
【0008】
前記試験片の数だけ減衰曲線を作成したのち、該減衰曲線が基本的に同一形状であることに着目し、該減衰曲線の内の1つ(例えば浸炭層を有さないもの)を固定し、残りの曲線、例えばA1 やA2 を高周波数側のA1 ′やA2 ′に平行移動させ、全てのデータを1本の曲線上に重ね合せて減衰曲線マスターカーブ23を作成する(図8参照)。次に、重ね合せた際の各曲線の周波数シフト量を求め、周波数のシフト量と各減衰曲線の持つ浸炭層の深さから、周波数シフト量と浸炭深さの関係のシフト量−浸炭深さマスターカーブ24が作成される(図9参照)。
【0009】
未知の測定対象物の浸炭深さを測定するには、超音波探触子から超音波を発し、且つ掃引することで減衰曲線を求め、該減衰曲線を前記減衰曲線マスターカーブ23に合致する迄周波数シフトし、周波数シフト量を求める。求めた周波数シフト量と前記シフト量−浸炭深さマスターカーブ24とに基づき、浸炭深さを求めるものである。
【0010】
然し乍ら、周波数シフト法の場合、一度データを取り、更に1本の曲線を基準として、他の曲線を平行移動させる為、データの処理に時間が掛り、又1本の曲線上に強制的に合わせる為、該曲線上から外れるデータは無視せざるを得ず、又周波数の掃引幅が小さい等変化が小さい場合には、異なる周波数で同じ受信強度が記録される場合があり、その際にどちらに合わせるかは作業者の判断によって決まる為、作業者によって作成されるマスターカーブが異なる等正確さに欠けるという問題があった(図8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−321041号公報
【特許文献2】特開2007−187631号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】三原毅ら著,Rayleigh波減衰の周波数特性を用いた低合金鋼の浸炭深さの評価,非破壊検査,第38巻,第10号,1989年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は斯かる実情に鑑み、試験片の製作が不要であり、簡便に而も個人差に左右されることなく正確に浸炭深さを測定できる浸炭深さ測定方法及び浸炭深さ測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、浸炭層を有さない基準試験体に所定の周波数範囲で超音波の掃引を行って減衰曲線を作成し、浸炭深さが既知である複数の既知試験体に所定の周波数範囲で超音波の掃引を行って減衰曲線を作成し、各減衰曲線毎に該減衰曲線が囲む面積を求め、各面積と該面積に対応する前記既知試験体の浸炭深さから面積に関係付けた浸炭深さのマスターカーブを作成し、浸炭深さが未知である未知試験体について減衰曲線を求めると共に、該減衰曲線が囲む面積を求め、該面積と前記マスターカーブを用いて前記未知試験体の浸炭深さを測定する浸炭深さ測定方法に係るものである。
【0015】
又本発明は、前記基準試験体の減衰曲線の始点を原点とし、前記複数の試験体の減衰曲線の始点が前記基準試験体の減衰曲線の始点と等しくなる様シフトさせた浸炭深さ測定方法に係るものである。
【0016】
又本発明は、前記マスターカーブは、前記基準試験体の減衰曲線で囲まれる面積を基準とした面積比と浸炭深さで作成される浸炭深さ測定方法に係り、又前記マスターカーブは、前記基準試験体の減衰曲線で囲まれる面積を基準とした面積差と浸炭深さで作成される浸炭深さ測定方法に係り、又前記マスターカーブは、前記各減衰曲線で囲まれる面積値と浸炭深さで作成される浸炭深さ測定方法に係るものである。
【0017】
更に又本発明は、基準試験体、既知試験体に超音波を発振し、伝播したレイリー波を受信する超音波探触子と、前記試験体に発振する超音波の周波数を設定し、受信したレイリー波を測定する超音波測定装置と、測定されたレイリー波を記録し、処理する演算処理装置を具備し、前記超音波測定装置は所定周波数間隔で発振超音波を掃引し、前記試験体の表層を伝播したレイリー波の測定結果は前記演算処理装置に記録され、該演算処理装置は記録された結果を基に前記試験体毎の減衰曲線を作成し、該減衰曲線で囲まれる面積を求め、該面積からマスターカーブを作成し、未知試験体の減衰曲線を求めると共に、該減衰曲線で囲まれる面積を求め、該面積と前記マスターカーブを用いて浸炭深さを測定する浸炭深さ測定装置に係るものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、浸炭層を有さない基準試験体に所定の周波数範囲で超音波の掃引を行って減衰曲線を作成し、浸炭深さが既知である複数の既知試験体に所定の周波数範囲で超音波の掃引を行って減衰曲線を作成し、各減衰曲線毎に該減衰曲線が囲む面積を求め、各面積と該面積に対応する前記既知試験体の浸炭深さから面積に関係付けた浸炭深さのマスターカーブを作成し、浸炭深さが未知である未知試験体について減衰曲線を求めると共に、該減衰曲線が囲む面積を求め、該面積と前記マスターカーブを用いて前記未知試験体の浸炭深さを測定するので、該マスターカーブ作成に使用するデータを漏れなく反映させることができ、更に作業者の判断によって結果に差が出ることがない。
【0019】
又本発明によれば、前記基準試験体の減衰曲線の始点を原点とし、前記複数の試験体の減衰曲線の始点が前記基準試験体の減衰曲線の始点と等しくなる様シフトさせたので、各試験体の減衰曲線の始点が全て原点となり、データの処理が容易となる。
【0020】
又本発明によれば、前記マスターカーブは、前記基準試験体の減衰曲線で囲まれる面積を基準とした面積比と浸炭深さで作成されるので、前記マスターカーブの作成が容易であり、又浸炭深さを求める際にもマスターカーブの利用が容易であり、測定される浸炭深さの測定精度も高くなる。
【0021】
又本発明によれば、前記マスターカーブは、前記基準試験体の減衰曲線で囲まれる面積を基準とした面積差と浸炭深さで作成されるので、前記マスターカーブの作成が容易であり、又浸炭深さを求める際にもマスターカーブの利用が容易であり、測定される浸炭深さの測定精度も高くなる。
【0022】
又本発明によれば、前記マスターカーブは、前記各減衰曲線で囲まれる面積値と浸炭深さで作成されるので、前記マスターカーブの作成が容易であり、又浸炭深さを求める際にもマスターカーブの利用が容易であり、測定される浸炭深さの測定精度も高くなる。
【0023】
更に又本発明によれば、基準試験体、既知試験体に超音波を発振し、伝播したレイリー波を受信する超音波探触子と、前記試験体に発振する超音波の周波数を設定し、受信したレイリー波を測定する超音波測定装置と、測定されたレイリー波を記録し、処理する演算処理装置を具備し、前記超音波測定装置は所定周波数間隔で発振超音波を掃引し、前記試験体の表層を伝播したレイリー波の測定結果は前記演算処理装置に記録され、該演算処理装置は記録された結果を基に前記試験体毎の減衰曲線を作成し、該減衰曲線で囲まれる面積を求め、該面積からマスターカーブを作成し、未知試験体の減衰曲線を求めると共に、該減衰曲線で囲まれる面積を求め、該面積と前記マスターカーブを用いて浸炭深さを測定するので、該マスターカーブ作成に使用するデータを漏れなく反映させることができ、更に作業者の判断によって結果に差が出ることがないという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る浸炭深さ測定装置の一例を示す構成図である。
【図2】本発明の浸炭深さ測定に使用される超音波探触子及び試験体の正面図である。
【図3】試験体aの減衰曲線の始点を原点とし、評価する周波数範囲で超音波を掃引した場合の試験体a,b,c,dの減衰曲線を示したグラフである。
【図4】図3の試験体b,c,dの減衰曲線の始点が原点となる様Y軸方向にシフトさせたグラフである。
【図5】図4のS1 ,S2 ,S3 ,S4 の面積比から求めたマスターカーブである。
【図6】図4のS1 ,S2 ,S3 ,S4 の面積差分から求めたマスターカーブである。
【図7】図4のS1 ,S2 ,S3 ,S4 の面積値から求めたマスターカーブである。
【図8】従来例の減衰曲線と、該減衰曲線から求めた減衰曲線マスターカーブである。
【図9】図8の減衰曲線マスターカーブから求めたシフト量−浸炭深さマスターカーブである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0026】
超音波の一種であり、弾性表面波でもある波の1つにレイリー波があり、レイリー波は、高周波数帯では減衰が大きい為表層のみを伝播し、僅かな微細構造変化に対して非常に敏感であり、伝播速度が表面近傍の弾性物性質を敏感に反映する。又、低周波数に於いては超音波エネルギーが浸炭層・母材の両方に深く浸透して反応するという相反する周波数特性を有している。
【0027】
本発明は、レイリー波の相反する周波数特性を利用し、周波数を低周波数から高周波数に掃引させることで減衰曲線を作成し、該減衰曲線が囲む面積を求め、この面積と浸炭深さとの関係を示すマスターカーブを作成し、又減衰曲線が囲む面積とマスターカーブに基づき浸炭層の深さの測定を可能とする。
【0028】
以下、図1〜図5に於いて、本発明に於ける浸炭深さ測定装置1、及び該浸炭深さ測定装置1を用いた浸炭深さの測定方法について説明する。尚、図1は該浸炭深さ測定装置1の構成を示したものであり、図2は後述する超音波探触子2の正面図を示したものである。
【0029】
図1中、3は該超音波探触子2に接続された超音波測定装置、4は該超音波測定装置3に接続された演算処理装置、5は該演算処理装置4に接続されたマウスやキーボード等の操作部、6は前記演算処理装置4に接続されたモニタ等の表示部を示している。又、前記超音波探触子2は超音波発振部7と超音波受信部8を有し、前記超音波測定装置3は操作制御部9と信号処理部11を有し、前記演算処理装置4はCPUで代表される演算制御部12と半導体メモリ、HDD等の記憶部13を有している。該記憶部13には、測定、信号処理、演算に必要なプログラムが格納されている。
【0030】
又、図2中、14は試験体、15は該試験体14に形成された浸炭層、16は発振ケーブル、17は発振振動子、18は受信ケーブル、19は受信振動子、21は治具、22は探触子本体を示しており、22aは前記探触子本体22の発振側脚部、22bは受信側脚部を示している。
【0031】
前記発振ケーブル16と前記発振振動子17と前記発振側脚部22aで前記超音波発振部7を構成し、前記受信ケーブル18と前記受信振動子19、前記受信側脚部22bとで前記超音波受信部8を構成している。又、前記発振振動子17及び前記受信振動子19は、それぞれ前記発振ケーブル16及び前記受信ケーブル18と前記探触子本体22内で接続されている。又、該探触子本体22は逆凹字形状をしており、両脚部22a,22bの下面に前記発振振動子17、前記受信振動子19が固着され、前記両脚部22a,22bの間には伝播距離d分の空間が形成される様ブリッジ形状となっている。
【0032】
尚、本実施例では前記探触子本体22をブリッジ形状の一体型として成形したが、前記両脚部22a,22bを別体とし、該両脚部22a,22bの間に設けられるブリッジ部を別部材とし、該ブリッジ部を長さの異なるブリッジ部に交換して伝播距離dを変更できる様にしてもよい。
【0033】
前記演算処理装置4は、前記操作部5からの命令により処理の開始や終了、或は前記記憶部13に格納されたプログラム、前記超音波測定装置3から出力された測定結果から減衰曲線やマスターカーブ等を作成する機能を有しており、前記演算処理装置4で作成された減衰曲線やマスターカーブは前記記憶部13に格納されると共に、前記表示部6に出力される。
【0034】
前記超音波測定装置3は、前記超音波探触子2から発振する周波数の設定や前記操作部5からの命令により設定された周波数を前記信号処理部11にてD/A変換して前記超音波探触子2に発振し、前記発振振動子17で所定周波数の超音波を発振させ、前記受信振動子19から受信した受信強度を前記信号処理部11にてA/D変換して前記演算処理装置12に出力する機能を有している。
【0035】
又、前記超音波探触子2は、前記超音波測定装置3から発振された超音波を前記発振ケーブル16を介して前記超音波受信部8に入力し、前記発振振動子17を振動させて前記試験体14に超音波を入射させる。更に、前記受信振動子19が前記試験体14の表面を伝播してきたレイリー波を受信し、受信したレイリー波の受信強度を前記受信ケーブル18を介して前記超音波測定装置3に出力する。
【0036】
次に、前記浸炭深さ測定装置1を用いた浸炭深さ測定方法について説明する。
【0037】
前記浸炭深さ測定装置1を用いて対象物の浸炭深さを測定する際には、先ず浸炭層を有さない基準試験体である試験体14aと、浸炭層の深さが既知の既知試験体である複数の試験体14b,14c,・・・,14nを用意し、該試験体14a,14b,・・・,14nのそれぞれの減衰曲線を作成する。
【0038】
尚、本実施例では浸炭層を有さない試験体14aと、既知の深さの浸炭層を有する試験体14b,14c,14dの計4つの該試験体14を用いるものとし、以下、例として試験体14aの減衰曲線の作成方法について説明する。
【0039】
先ず始めに、該試験体14aの測定部分に前記超音波探触子2を設置し、前記治具21を用いて前記試験体14aに前記発振振動子17と前記受信振動子19の前記試験体14aとの接触圧力が等しくなる様荷重を掛ける(例えば2kgf)。
【0040】
続いて、前記操作制御部9から発振する超音波の周波数を設定し、前記操作部5から命令を出すことで、設定した周波数の超音波がバースト信号として前記信号処理部11を介して前記超音波探触子2に発振される。
【0041】
発振されたバースト信号は、前記発振ケーブル16から前記超音波発振部7に入力され、前記発振振動子17を振動させることで前記試験体14aに超音波を入射する。入射した超音波は、レイリー波として前記試験体14aの表面を伝播する。該試験体14aを伝播したレイリー波は、前記受信振動子19に到達し、該受信振動子19を振動させる。該受信振動子19の振動は前記超音波受信部8に受信され、電気信号に変換されて前記受信ケーブル18を介して前記超音波測定装置3に出力される。
【0042】
出力された電気信号は、前記信号処理部11に於いて増幅及びA/D変換等所要の信号処理がなされた後に前記演算処理装置4に発振され、前記演算制御部12によってレイリー波の受信強度が測定され、測定結果が前記記憶部13に格納されると共に前記表示部6に表示される。
【0043】
上記と同様の処理を、前記操作制御部9から周波数を所定の間隔で変更して繰返して行い、所定の範囲(例えば、10MHzの前記超音波探触子2であれば5MHz〜15MHz)に於いて低周波数から高周波数迄所定の間隔で掃引することで、Y軸を受信強度(dB)、X軸を掃引周波数(MHz)とした減衰曲線を作成することができる。
【0044】
この時、作成した前記試験体14aの減衰曲線を基準として、該試験体14aの受信強度が最も強かった周波数、即ち評価する周波数範囲の最小周波数に於ける受信強度を0と設定することで、Y軸を基準と比較してどれだけ受信強度(dB)が減衰したか、X軸を掃引周波数(MHz)とした、前記最小周波数を始点とした前記試験体14aの減衰曲線Aを作成することができる。尚、評価する周波数範囲の最小周波数に於ける受信強度を1とした無次元化による規格化を行うことで原点の設定をしてもよい。
【0045】
尚、前記試験体14aに入射する超音波の周波数は、低すぎた場合は前記試験体14aの表層が反応せず、高すぎた場合には超音波が減衰して受信強度に変化がでなくなる為、評価する周波数範囲、即ち予め設定した掃引周波数範囲(例えば、5MHz〜15MHz)は、前記超音波探触子2が反応し始める周波数(始点周波数)から、受信強度の変化が見られなくなる周波数(上限周波数)を含む様に設定される。
【0046】
又、浸炭層を有さない前記試験体14aの減衰曲線の始点、即ち評価する周波数範囲の内、信号が得られる最小周波数(始点周波数)を始点とすることで、減衰曲線Aを始点周波数を原点とした曲線とすることができる。
【0047】
前記試験体14b,14c,14dについても、前記試験体14aと同様の周波数範囲で減衰曲線を作成することで、図3に示される様な始点周波数が始点である前記試験体14b,14c,14dについての減衰曲線B,C,Dを作成することができる。
【0048】
更に、前記試験体14b,14c,14dの減衰曲線の始点が前記試験体14aの始点と一致する様Y軸方向にシフトすることで、図4に示される様な始点が原点である4本の減衰曲線A,B′,C′,D′が作成できる。
【0049】
次に、作成した4本の減衰曲線A,B′,C′,D′のそれぞれについて、始点から上限周波数迄の、X軸と各減衰曲線とので囲まれる面積S1 ,S2 ,S3 ,S4 を求める。
【0050】
続いて、前記試験体14aの減衰曲線AとX軸との間の面積S1 を基準として、S1 とS2 ,S3 ,S4 との面積比Rを求め、Y軸を面積比R、X軸を浸炭深さD(mm)として座標にプロットを打ち、各プロットを包絡する様な近似曲線を描くことで、図5に示される様な面積比と浸炭深さのマスターカーブが作成できる。
【0051】
マスターカーブ作成後は、浸炭深さが未知の未知試験体である試験体14について、上記と同様の前記超音波探触子2と周波数範囲で減衰曲線を作成し、始点が原点となる様Y軸方向にシフトした後、同様にして作成した減衰曲線とX軸とで囲まれる面積を演算し、演算した面積と前記面積S1 との面積比Rを求め、更に該面積比Rをマスターカーブに適用することで、前記試験体14の浸炭深さDが測定できる。
【0052】
又、他の実施例として、S1 とS2 ,S3 ,S4 との面積比ではなく、図6に示す様なS1 を基準としたS1 ,S2 ,S3 ,S4 との面積差Pによってマスターカーブを作成してもよい。
【0053】
即ち、Y軸を面積差P、X軸を浸炭深さD(mm)として座標にプロットを打ち、各プロットを包絡する様な近似曲線を描くことで、面積差と浸炭深さのマスターカーブが作成できる。
【0054】
マスターカーブ作成後は、面積比の場合と同様に、浸炭深さが未知の未知試験体である試験体14について、原点が始点となる減衰曲線及びX軸とで囲まれる面積を演算し、前記S1 から演算した面積を引いた値に基づき、マスターカーブから浸炭深さを求めることで、前記試験体14の浸炭深さDが測定できる。
【0055】
又、前記試験体14aの減衰曲線AとX軸との面積S1 を基準とし、図7に示す様なS1 ,S2 ,S3 ,S4 の面積値をそのままY軸にとってマスターカーブを作成してもよい。
【0056】
即ち、Y軸を面積値S、X軸を浸炭深さD(mm)として座標にプロットを打ち、各プロットを包絡する様な近似曲線を描くことで、面積値と浸炭深さのマスターカーブが作成できる。
【0057】
面積値の場合も、面積比や面積差と同様に、浸炭深さが未知の未知試験体である試験体14について、原点が始点となる減衰曲線及びX軸とで囲まれる面積値Sを演算し、演算した面積値Sをマスターカーブに適用することで、前記試験体14の浸炭深さDを測定することができる。
【0058】
更に又、Y軸の基準を設定せず、Y軸に受信強度(dB)を取り、前記試験体14a,14b,14c,14dの減衰曲線について、各減衰曲線と各減衰曲線の始点を通り、X軸と平行な直線とで囲まれる面積S1 ,S2 ,S3 ,S4 を演算し、演算した面積S1 ,S2 ,S3 ,S4 の面積比R、面積差P、面積値Sからマスターカーブを作成し、作成したマスターカーブから浸炭深さが未知の未知試験体である試験体14の浸炭深さを測定してもよい。
【0059】
尚、本実施例では前記試験体14a,14b,14c,14dの4つを用いてマスターカーブを作成したが、更に多くの前記試験体14を用いることで、より一層精度の高いマスターカーブを作成できることは言う迄もない。
【0060】
上述の様に、本発明は、前記試験体14に対して超音波を発振し、該試験体14の表層を伝播するレイリー波を受信して浸炭深さを測定するので、測定の都度試験片を製作する必要がない。
【0061】
又、浸炭層を有さない基準試験体である前記試験体14aを基準としてY軸の基準の設定、及び評価する周波数範囲を決定し、決定した周波数範囲の基で浸炭深さが既知の既知試験体である前記試験体14b,14c,14dに超音波を掃引してそれぞれ減衰曲線を作成し、更に作成したそれぞれの減衰曲線の始点が原点となる様Y軸方向にシフトさせ、各減衰曲線とX軸との間の面積を求め、求めた面積を用いてマスターカーブを作成したので、作業者毎の判断によって差が出ることがなく、又減衰曲線のデータが漏れなく反映されることで、精度の高い浸炭深さの測定が可能となる。
【0062】
又、浸炭層を有さない前記試験体14aを基準としたので、極めて浅い浸炭層であっても測定することが可能となる。
【符号の説明】
【0063】
1 浸炭深さ測定装置
2 超音波探触子
3 超音波測定装置
4 演算処理装置
5 操作部
6 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸炭層を有さない基準試験体に所定の周波数範囲で超音波の掃引を行って減衰曲線を作成し、浸炭深さが既知である複数の既知試験体に所定の周波数範囲で超音波の掃引を行って減衰曲線を作成し、各減衰曲線毎に該減衰曲線が囲む面積を求め、各面積と該面積に対応する前記既知試験体の浸炭深さから面積に関係付けた浸炭深さのマスターカーブを作成し、浸炭深さが未知である未知試験体について減衰曲線を求めると共に、該減衰曲線が囲む面積を求め、該面積と前記マスターカーブを用いて前記未知試験体の浸炭深さを測定することを特徴とする浸炭深さ測定方法。
【請求項2】
前記基準試験体の減衰曲線の始点を原点とし、前記複数の試験体の減衰曲線の始点が前記基準試験体の減衰曲線の始点と等しくなる様シフトさせた請求項1の浸炭深さ測定方法。
【請求項3】
前記マスターカーブは、前記基準試験体の減衰曲線で囲まれる面積を基準とした面積比と浸炭深さで作成される請求項1及び請求項2の浸炭深さ測定方法。
【請求項4】
前記マスターカーブは、前記基準試験体の減衰曲線で囲まれる面積を基準とした面積差と浸炭深さで作成される請求項1及び請求項2の浸炭深さ測定方法。
【請求項5】
前記マスターカーブは、前記各減衰曲線で囲まれる面積値と浸炭深さで作成される請求項1及び請求項2の浸炭深さ測定方法。
【請求項6】
基準試験体、既知試験体に超音波を発振し、伝播したレイリー波を受信する超音波探触子と、前記試験体に発振する超音波の周波数を設定し、受信したレイリー波を測定する超音波測定装置と、測定されたレイリー波を記録し、処理する演算処理装置を具備し、前記超音波測定装置は所定周波数間隔で発振超音波を掃引し、前記試験体の表層を伝播したレイリー波の測定結果は前記演算処理装置に記録され、該演算処理装置は記録された結果を基に前記試験体毎の減衰曲線を作成し、該減衰曲線で囲まれる面積を求め、該面積からマスターカーブを作成し、未知試験体の減衰曲線を求めると共に、該減衰曲線で囲まれる面積を求め、該面積と前記マスターカーブを用いて浸炭深さを測定することを特徴とする浸炭深さ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−256279(P2010−256279A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109173(P2009−109173)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】