説明

消火設備の試験システム

【課題】実放水試験に用いる圧力センサの校正を簡単且つ容易にできるようにする。
【解決手段】校正時に、遠隔三方切替弁42を通常位置に切り替えた状態で末端圧力センサ44が検出する零点圧力Paを測定し、更に電動弁40を開制御してマスタ圧力センサ38の検出圧力を基準スパン圧力Pmとして測定すると共に、末端圧力センサ44の検出圧力をスパン圧力Pbとして測定する。続いて、測定した基準スパン圧力Pmを、末端圧力センサ44の配置高度に応じた換算基準スパン圧力Pmoに変換し、末端圧力センサ44の零点を校正するための零点補正定数、及び末端圧力センサ44のスパンをマスタ圧力センサ38の換算基準スパンPmoに校正するためのスパン補正係数を導出する。校正終了後は、末端圧力センサ44で検出された圧力を、零点補正定数およびスパン補正係数に基づいて補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災時に作動したスプリンクラーヘッドに消火用水を加圧供給して火災区域に散布する消火設備の試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、閉鎖型のスプリンクラーヘッドを設けた消火設備にあっては、ポンプ設備からの給水本管を建物の高さ方向に立上げ、階毎に給水本管から分岐管を引き出し、分岐管の分岐部分に流水検知装置を設置し、流水検知装置の2次側の分岐管に複数の閉鎖型スプリンクラーヘッドを接続している。
【0003】
火災による熱気流を受けて閉鎖型スプリンクラーヘッドが開放作動すると、分岐管に消火用水が流れて流水検知装置が動作し、流水検知信号を受信制御盤に出力して火災警報表示とヘッド動作表示を行う。スプリンクラーヘッドからの散布に伴い分岐管および給水本管の管内圧力が低下し、この管内圧力の低下をポンプ設備の圧力タンクに設けた圧力スイッチで検知して消火ポンプを起動し、消火用水を継続して加圧供給する。
【0004】
また分岐管の末端には末端試験弁とオリフィスを備えた実放水試験部が設けられる。実放水試験は、末端試験弁を開放することで、分岐管にオリフィスで決まるスプリンクラーヘッドが1台動作したと同等の水量を排水管に流し、これによって流水検知装置が動作することを確認し、また給水本管の圧力低下で消火ポンプを起動して末端試験弁まで規定の水圧で継続して供給されるか試験を行う。
【0005】
このような実放水試験は、末端試験弁を現場で手動開放しているが、末端試験弁に電動弁又は電磁弁を設けることで、受信制御盤などから遠隔的に実放水試験を行う設備も提案されている。
【0006】
このような遠隔試験を行う消火設備では、末端試験弁の遠隔開放に伴う放水圧力を監視するため、末端試験弁の1次側に末端圧力センサを設け、実放水試験の際には末端圧力センサの検出圧力を測定表示することで、実放水が行われていることを確認することが想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−290430号公報
【特許文献1】特開2004−283286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような分岐管の末端における実放水試験部に末端圧力センサを設けて遠隔的に放水試験を行うようにした場合、放水試験に先立って末端圧力センサの信頼性を確保するため、現場に出向いて末端圧力センサを校正する作業を必要とし、末端圧力センサの校正に手間と時間がかかるという問題がある。
【0009】
本発明は、実放水試験に用いる圧力センサの校正を簡単且つ容易にできるようにする消火設備の試験システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
給水配管に消火用水を加圧供給する加圧給水設備と、
給水配管に設けられ、流水を検知して流水検知信号を出力する流水検知装置と、
流水検知装置の2次側の給水配管に接続された閉鎖型の消火ノズルと、
を設けた消火設備の試験システムに於いて、
給水配管の末端側に設けられ、実放水試験時に弁を開放して給水配管内の消火用水を流す末端試験弁と、
末端試験弁側の給水配管に設けられ、末端試験弁側の圧力を検出する末端圧力センサと、
末端圧力センサを給水配管に連通して末端試験弁側の給水配管の圧力を測定可能とする第1の切替位置と、給水配管から切り離して大気開放圧とする第2の切替位置とに切り替えられる切替部と、
校正時に、切替部を前記第2の切替位置とした状態で大気開放した末端圧力センサが検出する零点圧力を測定して末端圧力センサの校正を行うことを特徴とする校正処理部とを設けたことを特徴とする。
【0011】
校正処理部は、末端圧力センサが測定した零点圧力値を大気圧値に合わせる零点補正定数を求め、切替部を第1の切替位置としたときの測定圧力値を零点補正定数を参照した圧力値に校正する。
【0012】
さらに、加圧給水設備近傍の給水配管側に設けられ、給水源側の給水配管の水圧を検出するマスタ圧力センサを備え、
圧力校正部は切替部を第1の切替位置に切り替えて消火用水を末端圧力センサ側に供給した状態でマスタ圧力センサの検出圧力を基準スパン圧力として測定すると共に前記末端圧力センサの検出圧力をスパン圧力として測定し、末端圧力センサが測定したスパン圧力とマスタ圧力センサの基準スパン圧力とを比較して末端圧力センサを校正する。
【0013】
圧力校正部は、マスタ圧力センサ及び末端圧力センサの設置高度を予め登録し、両者の高度差に対応した落差圧を基準スパン圧力から減算して換算基準スパン圧力に変換する。
【0014】
圧力校正部は、マスタ圧力センサと末端圧力センサによる検出圧力の圧力差を求めて予め登録し、圧力差を基準スパン圧力から減算して換算基準スパン圧力に変換する。
【0015】
マスタ圧力センサ又は末端圧力センサの検出圧力による校正処理は、給水配管の消火用水の流れがない静圧状態で測定する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、末端試験弁の開制御による実放水試験に先立つ校正時に、末端圧力センサを大気開放とする接続位置とした状態で圧力を測定することで、末端圧力センサの零点側の値が正しい値を示すか現場に出向かずに簡単且つ容易に把握することができる。
【0017】
さらに末端圧力センサの零点を校正するための零点補正定数を求めることで簡単且つ容易に末端圧力センサの零点側の校正を行うことができる。
【0018】
さらに末端圧力センサに消火用水が供給されるよう配管側に接続する位置とした状態で、マスタ圧力センサの検出圧力を基準スパン圧力として測定すると共に、末端圧力センサの検出圧力をスパン圧力として測定し、測定した基準スパン圧力とスパン圧力とに基づいて、末端圧力センサの校正を行うことで、その後に行う実放水試験による試験動作の信頼性を高めることができる。
【0019】
基準スパン圧力とスパン圧力を使った末端圧力センサの校正において、測定したマスタ圧力センサの基準スパン圧力を、末端圧力センサの配置高度に応じた換算基準スパン圧力に変換し、末端圧力センサのスパン圧力をマスタ圧力センサの換算基準スパン圧力に校正するためのスパン補正係数を求めるようにしたことで、末端圧力センサの校正が簡単且つ容易にでき、より信頼性のある実放水試験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による消火設備の試験システムの実施形態を示した説明図
【図2】図1の受信制御盤の詳細を示したブロック図
【図3】図2の受信制御盤に設けた補正値テーブルの詳細を示した説明図
【図4】圧力センサの設置高度と落差圧の関係を示したグラブ図
【図5】図2の圧力校正部によりマスタ圧力センサの検出特性に基づき放水圧力センサの検出特性を校正するためのグラフを示した説明図
【図6】図2の圧力測定部、圧力校正部及び圧力補正部による圧力校正処理を示したフローチャート
【図7】実放水試験部及び遠方三方切替弁の他の実施形態を示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は本発明による消火設備の試験システムの実施形態を示した説明図である。図1において、建物の地下階などのポンプ室には加圧送水設備を構成する消火ポンプ10が設置され、モータ12により駆動される。モータ12はポンプ制御盤14により起動停止の運転制御を受ける。モータ12により駆動された消火ポンプ10は、水源水槽15からの消火用水を吸入し、建物の高さ方向に配置した給水本管16(給水配管)に加圧した消火用水を供給する。
【0022】
消火ポンプ10に対しては呼水槽17が設けられる。また消火ポンプ10を起動するため圧力タンク18が設けられる。圧力タンク18は給水本管16に接続され、配管内の消火用水を導入して内部の空気を圧縮している。圧力タンク18には圧力スイッチ20が設けられ、圧力スイッチ20は給水本管16の管内圧力が規定圧力以下に低下したことを検出してポンプ制御盤14に圧力低下検出信号を出力し、これによりモータ12を駆動して消火ポンプ10を起動するようにしている。
【0023】
給水本管16には建物の例えば階別ごとに分岐管22(給水配管)が引き出されている。分岐管22の分岐部分には流水検知装置24が設けられる。流水検知装置24の2次側の分岐管には閉鎖型スプリンクラーヘッド26が設けられている。
【0024】
分岐管22の末端側には実放水試験部11が設けられる。実放水試験部11は分岐管22の末端には遠隔的に開閉制御可能な電動弁を使用した末端試験弁28を設け、末端試験弁28の2次側にオリフィス30を配置し、オリフィス30の2次側を排水管32に接続している。
【0025】
一方、建物の監視室などには受信制御盤36が設置されている。受信制御盤36には、流水検知装置24からの流水検出信号、ポンプ制御盤14からの運転状態を示す信号などが入力されている。流水検知装置24は、火災による熱気流を受けて閉鎖型スプリンクラーヘッド26が開放作動したときの散水に伴う流水を検知し、流水検出信号を受信制御盤36に出力し、これを受けて受信制御盤36において火災警報表示とスプリンクラーヘッドの作動表示が行われる。
【0026】
また受信制御盤36は、実放水試験部11を用いた遠隔制御による自動試験機能を有する。受信制御盤36で実放水試験の開始を担当者のスイッチ操作もしくは定期自動試験タイミングによる実行指示があると、実放水試験部11に設けている末端試験弁28に対し制御信号が送られて開制御し、オリフィス30を通して排水管32に消火用水を流す。
【0027】
オリフィス30は閉鎖型スプリンクラーヘッド26が例えば1つ作動したと同じ流量を流す。このため、末端試験弁28の開制御によりオリフィス30を流れる水量は閉鎖型スプリンクラーヘッド26が1台作動したと同等な流量となり、これによって流水検知装置24の流水検知が行われ、流水検出信号が受信制御盤36に出力され、実放水試験による流水検知装置24の動作が確認できる。
【0028】
また末端試験弁28の開制御により、分岐管22にオリフィス30で決まる流量の消火用水が流れることで、分岐管22の圧力低下に伴い給水本管16の管内圧力も低下し、これによって、圧力タンク18に設けている圧力スイッチ20が規定圧力以下に低下したときに動作して圧力低下検出信号をポンプ制御盤14に出力し、ポンプ制御盤14がモータ12を駆動して消火ポンプ10を運転し、給水本管16に対し加圧した消火用水を供給して、末端試験弁28の開制御による実放水試験を継続させることになる。
【0029】
このような本実施形態における受信制御盤36による遠隔的な実放水試験に伴い、実放水試験部11には、実放水試験の際の消火用水の散水圧力を監視するため末端圧力センサ44が設けられている。末端圧力センサ44は、後の説明で明らかにする圧力センサの校正に使用する遠隔三方切替弁42を介して接続されている。
【0030】
即ち遠隔三方切替弁42は、ポートaを末端試験弁28の1次側に接続し、ポートbを排水管32に接続し、ポートcを末端圧力センサ44に接続している。遠隔三方切替弁42は、通常状態にあっては図1右側に取り出して示す遠隔三方切替弁42aのようにポートaをポートcに連通して分岐管22の管内圧力を末端圧力センサ44に導入する通常位置にある。後述する末端圧力センサ44の校正処理の際には、図1右側に取り出して示す遠隔三方切替弁42bのように排水管32側のポートbを末端圧力センサ44のポートcに連通して開放大気圧を導入する零点校正位置に制御信号を受けて切り替えられる。
【0031】
更に本実施形態にあっては、末端圧力センサ44の校正処理の基準となる圧力センサとして、消火ポンプ10側に設けた圧力タンク18の圧力スイッチ20の部分にマスタ圧力センサ38を設けている。マスタ圧力センサ38は、分岐管22側に設けている末端圧力センサ44の校正処理の際の基準となるパラメータを得るための圧力センサであり、校正に先立って人為的な零点及びスパンの校正を必要とすることから、校正作業が容易にできる消火ポンプ10等のポンプ設備が設置される校正作業の行い易いポンプ室などの位置、例えば図示の圧力タンク18の圧力スイッチ20と並列にマスタ圧力センサ38を設けている。
【0032】
また末端圧力センサ44の校正処理に必要な設備動作を実現するため、流水検知装置24と並列に電動弁40を設けている。電動弁40は校正処理の際に開制御され、流水検知装置24の1次側と2次側を同圧にし、マスタ圧力センサ38の検出圧力を基準とした末端圧力センサ44の校正処理に、流水検知装置24の1次側と2次側の差圧の影響が生じないようにしている。なお、流水検知装置24の構造によって装置内部の圧力損失が無く、流水検知装置の一次圧と二次圧が流通しており同圧になるような装置構成の場合には、電動弁40は必ずしも設けなくて良い。
【0033】
図2は図1の受信制御盤の詳細を示したブロック図である。図2において、受信制御盤36には伝送部46と処理部48が設けられる。伝送部46には図1の消火設備に示した末端試験弁28、電動弁40及び遠隔三方切替弁42が制御負荷として接続され、また給水配管の圧力検出用センサとしてマスタ圧力センサ38と末端圧力センサ44が接続されて検出圧力値が受信制御盤36に入力される。なお末端圧力センサ44は階別の分岐管ごとに設けられることになるが、説明を簡単にするため、その内の1つを示している。
【0034】
処理部48はコンピュータのCPUなどで実現され、CPUによるプログラムの実行で実現される機能として、防災監視部50、試験処理部52、圧力測定部54、校正処理部56及び圧力補正部58を設けている。処理部48に対しては表示部62、操作部64、警報部66及び記憶部68が設けられている。記憶部68には校正処理部66の校正処理に使用する補正値テーブル60が予め記憶されている。なお伝送部46に対しては、これ以外に、図1に示した流水検知装置24からの流水検知信号、ポンプ制御盤14からの運転状態信号が入力しているが、それは省略している。
【0035】
受信制御盤36の防災監視部50は、図1の流水検知装置24から閉鎖型スプリンクラーヘッド26の作動に伴う流水検知信号を受けたときに、警報表示とヘッド作動表示を表示部62に行うと共に、警報部66から火災警報を行う。
【0036】
試験処理部52は操作部64による担当者の実放水試験の操作指示等を受けて動作し、末端試験弁28を開制御して、オリフィス30で定まる流水を分岐管22に流し、流水検知装置24を実放水により作動させ、更に給水本管16の管内圧力の低下による消火ポンプ10の起動制御を行い、更に末端圧力センサ44により実試験放水に伴う圧力を測定して予め記憶した基準圧力値と比較することで、消火設備が正常に動作しているか否かの確認を行うことができる。
【0037】
この試験処理部52による消火設備の実放水試験に先立ち、本実施形態にあっては、圧力測定部54、校正処理部56により、末端圧力センサ44が正常に機能するかを判定し、また末端圧力センサ44の測定値の校正処理を実行し、校正終了後に、測定された末端圧力センサ44からの圧力値を圧力補正部58で校正結果に基づいて校正して表示部62に出力したり、圧力値を閾値との比較判断に使用したりすることになる。
【0038】
末端圧力センサ44の校正処理に先立ち、試験担当者は図1の圧力タンク18に設置しているマスタ圧力センサ38に対し、試験装置を使用して検出圧力値に合わせた正しい値を示すよう校正処理を行う。
【0039】
マスタ圧力センサ38は、例えば所定の検出圧力範囲につき4〜20ミリアンペアまたは1〜5ボルトの出力を行っており、例えば大気開放圧で零点を示す4ミリアンペアに調整し、所定の最大圧力をかけることで20ミリアンペアのスパンが得られるように調整する。
【0040】
次に圧力測定部54は、図1の遠隔三方切替弁42を通常位置42aから零点校正位置42bに切り替え、末端圧力センサ44を排水管32に連通させることで大気開放圧を導入して、この状態で末端圧力センサ44が検出する零点圧力Paを測定する。
【0041】
続いて圧力測定部54は、遠隔三方切替弁42を分岐管22側となる通常位置42aに切り替え、この状態で電動弁40を開制御して流水検知装置24の1次側と2次側を同圧にした状態とし、この状態で末端圧力センサ44に加わる分岐管22の管内圧力を検出し、この検出圧力をスパン圧力Pbとして測定する。同時に圧力測定部54はマスタ圧力センサ38の検出する圧力を基準スパン圧力Pmとして測定する。
【0042】
即ち圧力測定部54は、マスタ圧力センサ38の検出出力としての基準スパン圧力Pm、末端圧力センサ44に大気開放圧を導入した状態での零点圧力Pa、及び流水検知装置24の1次側と2次側の差圧をなくした状態での分岐管22の管内圧力の導入によるスパン圧力Pbの測定を行う。なお、これら3つの圧力測定の順番は、どのような順番であってもよい。
【0043】
圧力測定部54による測定が済むと、校正処理部56が動作し、まず圧力測定部54で測定したマスタ圧力センサ38の基準スパン圧力Pmを、末端圧力センサ44の配置高度に応じた換算基準スパン圧力Pmoに変換する。基準スパン圧力Pmを末端圧力センサ44の設置高度に応じた換算基準スパン圧力Pmoに変換する処理は、記憶部68に予め記憶された補正値テーブル60を使用して行われる。
【0044】
基準スパン圧力Pmの換算基準スパン圧力Pmoへの変換は、圧力タンク18に設置しているマスタ圧力センサ38で検出した基準スパン圧力Pmを、末端圧力センサ44の高度位置にマスタ圧力センサ38を移動して検出した圧力に換算することになる。即ちマスタ圧力センサ38の設置場所に対し、末端圧力センサ44は高い例えば高度差H1の場所に設置されており、給水本管16及び分岐管22に消火用水を滞留した静圧状態、即ち流水がない消火用水を充填した状態で、高度差に応じた落差圧分だけマスタ圧力センサ38の検出圧力が高くなっている。
【0045】
したがって、マスタ圧力センサ38の検出圧力値を末端圧力センサ44の校正に使用するためには、マスタ圧力センサ38で測定した基準スパン圧力Pmを、高度差H1に対応した落差圧ΔP1を差し引いた換算基準スパンPmoに変換しておく必要がある。
【0046】
図3は図2の補正値テーブル60の詳細を示した説明図である。図3(A)の補正値テーブル60は、末端圧力センサ44を特定するセンサIDとして設置階を示す1F〜nFを使用し、これに対応してマスタ圧力センサ38に対する各階の末端圧力センサ44の設置高さの差を設置高度H1〜Hnとして予め登録している。
【0047】
図4は圧力センサの高度と落差圧の関係を示したグラフ図である。図4において、横軸は高度Hであり、縦軸に落差圧Pを示している。いま高度Hにつきマスタ圧力センサ38の設置高度をHaとすると、マスタ圧力センサ38には給水本管16の設置高さで決まる基準スパン圧力Pmがかかっており、給水本管16の最上位の高さHbで落差圧Pは0となっている。
【0048】
したがって、高度Hの増加に対し落差圧Pは
P=Pm−αH
に応じて変化する。ここでαは直線の傾きであり、α=Pm/(Hb−Ha)で与えられる定数となる。例えば図3(A)のセンサID=1Fの設置高度H1にあっては、a点の落差圧Pとして
P1=Pm−αH1
が一義的に求まる。
【0049】
図3(A)の補正値テーブル60にあっては、図4の関係から設置高度H1〜Hnに対応して求まる補正値αH1〜αHnを予め計算して登録している。
【0050】
図3(B)は本実施形態で使用する補正値テーブル60の他の例である。この補正値テーブル60にあっては、消火設備の施工時に給水本管16及び分岐管22に消火用水を充満した状態で、マスタ圧力センサ38及び末端圧力センサ44の検出圧力をそれぞれ測定して圧力差ΔP1〜ΔPnを求め、これを予め登録している。この圧力差ΔP1〜ΔPnは実測であるが、図3(A)に示した図4の関係から求めた補正値αH1〜αHnとほぼ同一の値を示すことになる。
【0051】
そこで以下の説明にあっては、図3(B)の補正値テーブル60に示す圧力差ΔP1〜ΔPnをΔPi(但し、iは1〜n)として用いるものとする。
【0052】
このため図2の校正処理部56にあっては、圧力測定部54で測定したマスタ圧力センサ38の基準スパン圧力Pmを例えば図3(B)の補正値テーブル60の圧力差ΔPiを用いて次式により換算基準スパン圧力Pmoに変換する。
Pmo=Pm−ΔPi
【0053】
図5は図2の校正処理部56によりマスタ圧力センサ38の落差圧で変換した検出特性に末端圧力センサ44の検出特性を校正するためのグラフを示した説明図である。図5において、横軸は換算マスタ圧力センサ値Px、縦軸は末端圧力センサ値Pyを示しており、マスタ圧力センサ38からは給水本管圧力に対応した基準スパン圧力Pmを高度差に対応して補正した変換基準スパン圧力Pmoが求められており、落差圧を補正したマスタ圧力センサ38の変換検出特性となるように末端圧力センサ44を校正した結果は、Px=Py=0の零点と、Px=Py=PmoとなるD点(Pmo,Pmo)を結んだ直線70で与えられる。
【0054】
しかしながら校正前にあっては末端圧力センサ44の検出特性はマスタ圧力センサ38の換算した検出特性からずれている。例えば末端圧力センサ44の零点圧力はA点の零点圧力Paであり、またマスタ圧力センサ38と連通している分岐管の管内圧力を導入して測定したときのスパン圧力は例えばB点のPbであったとする。このため、末端圧力センサ44の検出特性はA点(0,Pa)と、スパンを決めるB点(Pmo,Pb)を結んだ直線72の検出特性となっている。
【0055】
そこで末端圧力センサ44の検出特性となる直線72の特性をマスタ圧力センサ38の換算した検出特性に一致する直線70に一致させるため、零点補正定数とスパン補正係数を求める。
【0056】
まず零点補正定数は、直線72の零点となるA点を直線70の原点となる零点に移動させればよいことから、零点補正定数はPaとし、この零点補正定数Paを、測定した末端圧力センサ44の圧力Pyから減算すればよい。この零点補正定数Paの減算により、末端圧力センサ44の特性となる直線72は、平行移動した直線74に校正される。
【0057】
このようにして直線74に校正することで零点調整が済んだならば、次にスパンを決めるC点を換算検出特性となる直線70のスパンを決めるD点に校正するためのスパン補正係数Kを求める。
【0058】
ここでC点の座標は(Pmo,Pc)であることから、C点をY軸方向でD点に校正するためのスパン補正係数Kは
K=Pmo/Pc=Pmo/(Pb−Pa) (1)
として与えられる。したがって、測定された末端圧力センサ44の測定値Pyをマスタ圧力センサ38の落差圧に対応して変換した換算検出特性の圧力に補正するための補正式は
Py=K(Py−Pa) (2)
となる。
【0059】
なお図5にあっては、末端圧力センサ44の零点圧力Paがプラス側にずれている場合を例に取っているが、マイナス側にずれている場合についても、Paを使用することで前記(1)(2)式をそのまま使用できる。
【0060】
このように本実施形態における末端圧力センサ44の校正は、末端圧力センサ44そのものの校正ではなく、予め校正しているマスタ圧力センサ38の落差圧に対応して変換した換算検出特性に一致するように、測定された末端圧力センサ44の測定値を校正することで、スパン圧力Pbを単に基準スパン圧力Pmに補正する校正方法よりも、末端圧力センサ側の正しい圧力が得られるようにして信頼性を高めた校正としている。
【0061】
再び図2を参照するに、圧力補正部58は、校正処理部56による校正処理で零点補正定数Pa及びスパン補正係数Kが得られた後、末端圧力センサ44から測定された測定圧力Pyを前記(2)式に従って補正し、この補正結果を例えば表示部62に表示したり、所定の閾値と比較して適性な圧力が得られるかどうかの比較判断などに用いられることになる。
【0062】
図6は図2の圧力測定部54、圧力校正部56及び圧力補正部58による本実施形態の圧力校正処理を示したフローチャートであり、処理部48を実現するCPUにより実行されるプログラムに対応している。
【0063】
図6において、本実施形態の圧力校正処理は、まずステップS1で圧力校正要求の有無を判別しており、例えば実放水試験部11による実放水試験に先立ち、校正担当者が操作部64から圧力校正操作を行うと、これに基づきステップS1で圧力校正要求が判別され、ステップS2以降の処理が行われる。
【0064】
ステップS2にあっては、給水本管16及び分岐管22に流水のない静圧状態を確認する。この静圧状態の確認は、受信制御盤36の表示部62を見て、作動している流水検知装置がないことで担当者が確認してもよいし、受信制御盤36の機能で流水検知装置が得られないことで静圧状態を確認してもよい。
【0065】
次にステップS3で遠隔三方切替弁42を排水管32側となる校正位置42bに切り替え、末端圧力センサ44に排水管32側の大気開放圧を導入した状態とする。続いてステップS4で末端圧力センサ44の零点圧力Paを測定する。
【0066】
次にステップS5で遠隔三方切替弁42を通常位置42aに切り替え、続いてステップS6で電動弁40を開制御し、流水検知装置の一次側と二次側を同圧とし、この状態で、ステップS7でマスタ圧力センサ38の基準スパン圧力Pmを測定し、続いてステップS8で末端圧力センサ44のスパン圧力Pbを測定する。
【0067】
続いてステップS9で図3の補正値テーブル60におけるセンサIDに対応する高度差に応じた圧力差ΔPiを取得し、ステップS7で得られた基準スパン圧力Pmから減算することで、換算基準スパン圧力Pmoを求め、前記(1)式、(2)式に従って零点補正定数Paとスパン補正係数Kを計算する。これによって校正処理を終了し、ステップS10で電動弁40を閉制御して通常の監視状態に戻す。
【0068】
続いてステップS11で末端圧力センサ44の測定要求の有無を判別している。例えば末端試験弁28を開制御した実放水試験中に末端圧力センサ44の測定要求があることを判別すると、ステップS12に進み、そのときの末端圧力センサ44で検出している圧力Pyを測定し、ステップS13で前記(2)式の補正計算を行い、ステップS14で補正圧力Pyを出力する。
【0069】
なお図1の実施形態にあっては、遠隔試験のために末端圧力センサ44のみを設けているが、必要に応じて現場での圧力確認も必要であることから、末端圧力センサ44と並列に圧力値表示手段を備えた圧力計を接続するようにしてもよい。
【0070】
また上記の実施形態にあっては、受信制御盤36からの制御信号で電動弁を用いた末端試験弁28を遠隔的に開制御して実放水試験を行うようにしているが、末端試験弁28を手動開閉弁とし、現場での末端試験弁の手動開閉操作により実放水試験を行うようにした消火設備についても同様に適用できる。
【0071】
また末端圧力センサ44の校正は、実放水試験に先立って行う以外に、必要に応じて適宜のタイミングで行うようにしてもよい。
【0072】
また、上記の実施形態におけるマスタ圧力センサ38及び末端圧力センサ44の検出圧力の測定は、複数回の測定処理を行って得られた平均値を用いることで、より精度の高い校正処理ができる。
【0073】
また上記の実施形態におけるフローチャートの処理は概略例を説明したもので、処理の順番などはこれに限定されない。また各処理や、処理と処理の間に、必要に応じて遅延時間を設けたり、他の判定を導入するなど、適宜の形態をとることができる。
【0074】
また、圧力校正処理時に、マスタ圧力センサ38が検出した基準スパン圧力Pmと、末端圧力センサ44が検出したスパン圧力Pbとの差異が予め定めた所定値以上である場合は、末端圧力センサ44がもはや校正することができないような故障状態であると校正処理部が判断して、末端圧力センサ44の異常を受信制御盤36等のセンタ装置にて表示して交換を促すことにしても良い。同様に、末端圧力センサ44を大気開放して零点圧力Paを測定したときに、零点圧力Paが予め記憶した大気開放圧許容値範囲を外れた場合、もしくは施工時に測定した初期検出値と大幅に異なる値を示した場合は、末端圧力センサ44の故障と判断して校正処理を強制的に終了して自動弁圧力センサの交換を促すようにしてもよい。
【0075】
図7は実放水試験部11と遠隔三方切替弁の他の実施形態を示した説明図であり、図1の末端試験弁28の機能を遠隔三方切替弁で兼用した実施形態である。図7(a)は通常監視状態を、図7(b)は末端圧力センサの校正処理状態を、図7(c)は実放水試験状態における遠隔三方切替弁の状態を表した図である。
【0076】
図7(a)に示すように分岐管22の末端には、遠隔三方切替弁80を接続し、オリフィスを介して排水管32に接続される。遠隔三方切替弁80は、ポートaを分岐管22側に接続し、またポートbに末端圧力センサ44を接続しており、ポートcにオリフィス30を接続している。
【0077】
遠隔三方切替弁80は、図7(a)の右側の弁内部構成に示すように、T型に通路が形成された回転弁である。通常監視状態にあっては、図7(a)の右側に示す通常位置80aのようにポートaとポートbを連通し、このため末端圧力センサ44は分岐管22に連通し管内圧力を監視することができる。
【0078】
図7(b)の末端圧力センサの校正処理状態にあっては、校正位置80bに示すようにポートbとポートcを連通状態に切り替え、末端圧力センサ52の導入圧力は大気開放圧となっている。
【0079】
図7(c)の実放水試験時においては、実放水試験位置80cに示すように全てのポートが連通状態に切り替えられる。これにより、閉鎖型スプリンクラーヘッド26が1つ作動したと同じ流量を流すことで、流水検知装置の作動確認と末端圧力センサ44による圧力測定を行うことができる。
【0080】
なお、上記実施形態においては、末端圧力センサ44を分岐管22もしくは排水管32に切り替えて接続する手段として遠隔三方切替弁42、80を使用しているが、遠隔的に切り替えることができる切替部であれば特に構成は限定されず、複数の切替弁を用いて構成してもよい。
【0081】
また本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0082】
11:実放水試験部
24:流水検知装置
28:末端試験弁
30:オリフィス
36:受信制御盤
38:マスタ圧力センサ
40:電動弁
42:遠隔三方切替弁
44:末端圧力センサ
52:試験処理部
54:圧力測定部
56:校正処理部
58:圧力補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給水配管に消火用水を加圧供給する加圧給水設備と、
前記給水配管に設けられ、流水を検知して流水検知信号を出力する流水検知装置と、
前記流水検知装置の2次側の給水配管に接続された閉鎖型の消火ノズルと、
を設けた消火設備の試験システムに於いて、
前記給水配管の末端側に設けられ、実放水試験時に弁を開放して給水配管内の消火用水を流す末端試験弁と、
前記末端試験弁側の給水配管に設けられ、前記末端試験弁側の圧力を検出する末端圧力センサと、
前記末端圧力センサを給水配管に連通して前記末端試験弁側の給水配管の圧力を測定可能とする第1の切替位置と、給水配管から切り離して大気開放圧とする第2の切替位置とに切り替えられる切替部と、
校正時に、前記切替部を前記第2の切替位置とした状態で大気開放した末端圧力センサが検出する零点圧力を測定して前記末端圧力センサの校正を行うことを特徴とする校正処理部と、
を設けたことを特徴とする消火設備の試験システム。
【請求項2】
請求項1記載の消火設備の試験システムに於いて、
前記校正処理部は、前記末端圧力センサが測定した零点圧力値を大気圧値に合わせる零点補正定数を求め、前記切替部を第1の切替位置としたときの測定圧力値を前記零点補正定数を参照した圧力値に校正すること特徴とする消火設備の試験システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の消火設備の試験システムに於いて、
さらに、前記加圧給水設備近傍の給水配管側に設けられ、給水源側の給水配管の水圧を検出するマスタ圧力センサを備え、
前記圧力校正部は前記切替部を第1の切替位置に切り替えて消火用水を前記末端圧力センサ側に供給した状態で前記マスタ圧力センサの検出圧力を基準スパン圧力として測定すると共に前記末端圧力センサの検出圧力をスパン圧力として測定し、前記末端圧力センサが測定したスパン圧力とマスタ圧力センサの基準スパン圧力とを比較して前記末端圧力センサを校正することを特徴とする消火設備の試験システム。
【請求項4】
請求項3記載の消火設備の試験システムに於いて、前記圧力校正部は、前記マスタ圧力センサ及び末端圧力センサの設置高度を予め登録し、両者の高度差に対応した落差圧を前記基準スパン圧力から減算して前記換算基準スパン圧力に変換することを特徴とする消火設備の試験システム。
【請求項5】
請求項3記載の消火設備の試験システムに於いて、前記圧力校正部は、前記マスタ圧力センサと末端圧力センサによる検出圧力の圧力差を求めて予め登録し、前記圧力差を前記基準スパン圧力から減算して前記換算基準スパン圧力に変換することを特徴とする消火設備の試験システム。
【請求項6】
請求項3記載の消火設備の試験システムに於いて、前記マスタ圧力センサ又は末端圧力センサの検出圧力による校正処理を、給水配管の消火用水の流れがない静圧状態で測定することを特徴とする消火設備の試験システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate