説明

消臭フィルタ

【課題】活性炭と光触媒とを一つの基材に担持した消臭フィルタであって、活性炭の吸着性能と光触媒の酸化分解性能とを共に十分に発揮させることができ、消臭効果に優れ、しかも、圧力損失が低いために、被処理流体を低動力で効率的に流通させて高い消臭処理効率を得ることができる消臭フィルタを提供する。
【解決手段】三次元網状骨格構造を有するポリウレタンフォームよりなるフィルタ基材に、活性炭粒子と光触媒粒子とを担持してなる消臭フィルタ。三次元網状骨格構造を有するポリウレタンフォームは、比表面積が大きく、かつ圧力損失も低く、紫外線透過性にも優れるものであるため、このようなフィルタ基材に活性炭粒子と光触媒粒子とを担持してなる消臭フィルタであれば、活性炭の吸着性能と光触媒の酸化分解性能とを共に十分に発揮させることができ、高い消臭処理効率を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭粒子と光触媒粒子とをフィルタ基材に担持してなる消臭フィルタに係り、特に活性炭の吸着性能と光触媒の酸化分解性能とを共に十分に発揮させることができ、消臭効果に優れ、しかも、圧力損失が低いために、被処理流体を低動力で効率的に流通させて高い消臭処理効率を得ることができる消臭フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住環境の高気密化と、生活水準の向上、人々の衛生意識の向上、住環境に対する要求レベルの向上に伴い、室内で発生する不快な臭気、例えば、タバコ臭、生活臭(生ゴミ、調理、ペット等の匂い)をより高度に消臭することが望まれている。そして、この要望に応えるため、消臭フィルタを設置することにより消臭機能を付与した高性能な空調機が開発されている。
【0003】
この消臭フィルタとしては、活性炭の吸着機能と光触媒の酸化分解機能とを組み合わせたものが有効であることが知られている。即ち、活性炭と光触媒とを組み合わせたものであれば、活性炭の吸着作用及び光触媒の酸化分解作用により優れた消臭効果が得られると共に、光触媒が活性炭に吸着された臭気物質を分解することにより活性炭の吸着性能が再生され、長期消臭性能に優れた消臭フィルタが実現される。そこで、両機能を組み合わせるために、活性炭フィルタと光触媒フィルタを積層したものや、1つの基材に活性炭と光触媒とを担持させたフィルタが提案されている。このうち、後者の消臭フィルタの基材としては、通常、ハニカム形状のダンボールが用いられている。
【0004】
なお、本出願人は、先に、セラミック多孔体よりなるフィルタ基材に光触媒を担持させてなるフィルタ(特開2004−351381号公報)、ポリウレタンフォームよりなる三次元構造体に活性炭を担持させた燃料電池用気体の浄化器(特開2003−297410号公報)を提案しているが、いずれも、活性炭と光触媒との両方を担持させたものではない。
【特許文献1】特開2004−351381号公報
【特許文献2】特開2003−297410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
活性炭と光触媒とを担持した消臭フィルタには、活性炭の吸着性能と光触媒の酸化分解性能とを共に十分に発揮させることと、被処理流体を低動力で効率的に流通させて高い消臭処理効率を得るべく、圧力損失が低いことが望まれるが、従来において、このような要求特性をすべて満たす消臭フィルタは提供されていない。
【0006】
即ち、ハニカム形状のダンボールを基材として、これに活性炭と光触媒とを担持させた消臭フィルタでは、ガス拡散性が低いため被処理流体との接触効率が悪く、この接触効率を高めた上で圧力損失を下げることができない。また、この基材では、フィルタの厚みを増し、被処理流体との接触効率を高めようとすると紫外線の透過性が著しく悪くなるために、基材内部に担持された光触媒に紫外線が十分に照射されず、このために光触媒機能を十分に得ることができないという問題もある。
【0007】
また、一般に、基材に対して活性炭と光触媒を担持させる場合、基材の素材そのものに活性炭と光触媒材料を混合した後、フィルタ形状に成形するのが一般的であるが、この場合、大部分の活性炭と光触媒は素材の内部に入り込んでしまい、有効に機能するのは表面部に露出した部分に限定されるため、配合量に対して配合性能を十分に発揮し得ないという問題もある。
【0008】
本発明は上記従来の問題点を解決し、活性炭と光触媒とを一つの基材に担持した消臭フィルタであって、活性炭の吸着性能と光触媒の酸化分解性能とを共に十分に発揮させることができ、消臭効果に優れ、しかも、圧力損失が低いために、被処理流体を低動力で効率的に流通させて高い消臭処理効率を得ることができる消臭フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明(請求項1)の消臭フィルタは、三次元網状骨格構造を有するポリウレタンフォームよりなるフィルタ基材に、活性炭粒子と光触媒粒子とを担持してなることを特徴とする。
【0010】
請求項2の消臭フィルタは、請求項1において、該光触媒粒子は、前記フィルタ基材に担持された活性炭粒子上に担持されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3の消臭フィルタは、請求項1又は2において、該光触媒粒子は、アナターゼ型酸化チタン微粒子の懸濁液とペルオキソチタン酸水溶液との混合液を前記フィルタ基材に付着させることにより担持されたものであることを特徴とする。
【0012】
請求項4の消臭フィルタは、請求項3において、該光触媒粒子は、アナターゼ型酸化チタン微粒子の懸濁水溶液とペルオキソチタン酸水溶液との混合液を、活性炭粒子を担持した前記フィルタ基材に付着させることにより担持されたものであることを特徴とする。
【0013】
請求項5の消臭フィルタは、請求項1ないし4のいずれか1項において、該活性炭粒子はバインダー層を介して前記フィルタ基材に担持されていることを特徴とする。
【0014】
請求項6の消臭フィルタは、請求項1ないし5のいずれか1項において、活性炭粒子の担持量が100〜6000g/mであり、光触媒粒子の担持量が0.1〜300g/mであり、活性炭粒子の担持量に対する光触媒粒子の担持量が0.1〜5%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
三次元網状骨格構造を有するポリウレタンフォームは、比表面積が大きく、かつ圧力損失も低く、紫外線透過性にも優れるものであるため、このような三次元網状骨格構造を有するポリウレタンフォームに活性炭粒子と光触媒粒子とを担持してなる本発明の消臭フィルタであれば、活性炭の吸着性能と光触媒の酸化分解性能とを共に十分に発揮させることができ、消臭効果に優れ、しかも、圧力損失が低いために、被処理流体を低動力で効率的に流通させて高い消臭処理効率を得ることができる。
【0016】
フィルタ基材に担持された光触媒粒子には、紫外線が十分に照射されることが光触媒機能を十分に発揮させる上で好ましい。従って、本発明の消臭フィルタにおいて、光触媒粒子は、フィルタ基材に担持された活性炭粒子の表面に担持されていることが、紫外線照射による光触媒効果を十分に発揮させると共に、活性炭の吸着性能をも十分に発揮させる上で有効である(請求項2)。
【0017】
また、この光触媒の担持方法としては、環境汚染の問題のない、アナターゼ型酸化チタン微粒子の懸濁液とペルオキソチタン酸水溶液との混合液を用い、この混合液をフィルタ基材に付着させることにより担持させる方法が、光触媒粒子とフィルタ基材及び活性炭粒子との密着性も良好となり好ましい(請求項3)。この場合、アナターゼ型酸化チタン微粒子の懸濁液とペルオキソチタン酸水溶液との混合液を、活性炭粒子を担持したフィルタ基材に付着させることにより、容易に光触媒粒子を活性炭粒子上に担持させることができる(請求項4)。
【0018】
本発明において、活性炭粒子はバインダー層を介してフィルタ基材に担持されていることが好ましく(請求項5)、活性炭粒子の担持量は100〜6000g/mであり、光触媒粒子の担持量は0.1〜300g/mであり、活性炭粒子の担持量に対する光触媒粒子の担持量が0.1〜5%であることが、活性炭の吸着性能と光触媒の酸化分解性能とを十分に発揮させて、両者の相乗効果で良好な消臭効率を得る上で好ましい(請求項6)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の消臭フィルタの実施の形態を、本発明の消臭フィルタの製造手順に沿って詳細に説明するが、本発明の消臭フィルタの製造方法は何ら以下の方法に限定されるものではない。
【0020】
本発明の消臭フィルタを製造するには、まず、フィルタ基材である三次元網状骨格構造を有するポリウレタンフォームに活性炭粒子を担持する。
【0021】
本発明において、フィルタ基材として用いるポリウレタンフォームは、発泡時の条件コントロールにより通気度を上げたり、骨格間距離を任意に設定したりすることができ、また発泡後爆発処理やアルカリ処理等の物理的、化学的処理により通気度を上げたりすることができる点において、三次元網状骨格構造体として好ましい。ポリウレタンフォームとしては、特に、軟質ポリウレタンフォーム、又は発泡膜を除去した網状ポリウレタンフォーム等が好ましい。また、金属化ポリウレタンフォームのような硬質の三次元網状骨格構造体を使用することもできる。
【0022】
フィルタ基材として用いるポリウレタンフォームは、連続気泡ウレタン樹脂発泡体によって形成される三次元網状骨格構造、好ましくは正十二面体骨格構造により無数のセルが形成されたものであり、そのセル数は5〜50PPI、特に5〜20PPIであることが好ましい。ポリウレタンフォームのセル数が50PPIよりも大きいと圧力損失が大きくなり、また紫外線透過性も低くなる。5PPIよりも小さいと比表面積が低減して消臭効率が低下する。なお、PPIはpores per inchである。
【0023】
フィルタ基材に担持する活性炭粒子としては、BET比表面積が500m/g以上とくに1000〜2000m/g程度のものが好ましい。吸着性能の面からは、活性炭粒子の比表面積は大きい程よいが、過度に比表面積が大きいと、硬度が下がって、発塵要因となる可能性がある。
【0024】
活性炭粒子は、バインダー層を介してフィルタ基材に担持されることが好適であり、この場合、活性炭粒子の一部が該バインダー層に接触し、残部がバインダー層から露出するように担持されていることが好適である。このように活性炭粒子がバインダー層から露出していると、活性炭粒子と被処理流体とが直接的に接触するようになり、消臭効果が高いものとなる。
【0025】
この場合、活性炭粒子の平均粒径は、ポリウレタンフォームよりなる三次元網状骨格構造体の平均骨格間距離(孔径)の50分の1以上、1.5分の1以下であることが好ましい。また、活性炭粒子の粒度分布は、その95重量%以上が平均粒径の5分の1〜5倍、特に2分の1〜2倍のものが好適である。
【0026】
この活性炭粒子の平均粒径がポリウレタンフォームよりなる三次元網状骨格構造体の平均孔径の50分の1(2%)以上、1.5分の1(67%)以下であると、三次元網状骨格構造体の内部にまで活性炭粒子が分散固着し、しかも従来品よりも吸着能力が高い消臭フィルタが得られる。なお、通気性の維持及び吸着絶対量の増加という点を考慮すれば、平均粒径を孔径の10分の1(10%)以上、2分の1(50%)以下とするのが一層好ましい。
【0027】
平均粒径が孔径の1.5分の1(67%)以上の場合は、活性炭粒子を表面からスプレーしても三次元網状骨格構造体の骨格構造の内部にまで侵入させることが困難で、フィルタ基材の表面近くに付着するものが大部分であり、かつその付着力も弱いので、付着した活性炭粒子は脱落し易い。これは活性炭粒子の大きさに比し三次元網状骨格構造体との付着部分の面積が相対的に小さくなるためではないかと思われる。但しこの場合は後述する表層のバインダー塗布処理により活性炭粒子の固着性を改善することが可能である。
【0028】
また平均粒径が孔径の50分の1(2%)以下の場合には、三次元網状骨格構造体に付着する活性炭粒子量が著しく少なくなり、その結果、消臭フィルム全体としての吸着能力が小さいものとなる。これは細かい活性炭粒子が三次元網状骨格構造体に塗布されたバインダーをうすくカバーしてしまい、それ以上付着することがないので固着絶対量が減少するためと考えられる。
【0029】
活性炭粒子を付着させるためのバインダーとしては、各種のものを適宜選択、使用することができるが、接着力が強く、かつ活性炭粒子の細孔の目詰まりを生じにくいものが好ましく、この観点からは固形分が多く揮発成分が少ないもの、即ち固形分が30重量%以上、好ましくは50重量%以上で、有機溶剤は50重量%以下、好ましくは0%のものが好適である。また、吸着性能への影響を考えると非溶剤系バインダーの方が好適に使用することができる。
【0030】
具体例を挙げれば、湿気硬化型反応性ウレタン系ホットメルト、アクリル又はウレタン系エマルジョンバインダーが使用できる。また、NCO過剰のウレタン系プレポリマー、より好ましくはMDI(メチレンジイソシアネート)ベースのウレタン系プレポリマーを使用する。MDIベースのプレポリマーの方がTDI(トリレンジイソシアネート)ベースのものより遊離イソシアネートが発生し難く、活性炭粒子への吸着が少なく、かつ製造工程における衛生面からも問題が少ない。
【0031】
NCO過剰のウレタン系プレポリマーをバインダーとする場合、そのままでは粘度が高すぎる時には、必要最小限の有機溶剤を加えて塗布し、乾燥温風によって大部分の有機溶剤をとばした後、活性炭粒子を付着させれば、加工性を容易にしつつ、溶剤吸着を防止できるため有利である。
【0032】
バインダーの塗布法としては、含浸槽にフィルタ基材を含浸させた後余分のバインダーをロールで絞り取る方法、スプレーやコーターで表面に塗布した後ロールで絞り込み内部まで行きわたらせる方法等がある。このようにしてあらかじめバインダーを塗布したフィルタ基材に活性炭粒子を付着させる為には、活性炭粒子流動床浸漬、粉体スプレー、又は篩落下等の方法を用いることができる。
【0033】
粉体スプレー、又は篩落下による方法を用いる場合は、三次元網状骨格構造体を反転せしめる等の方法により三次元網状骨格構造体の両面から活性炭粒子をスプレー又は落下させることにより均等な付着を行うことができる。
【0034】
活性炭粒子付着時及び/又は付着後、三次元網状骨格構造体を振動させることにより、活性炭粒子の三次元網状骨格構造体内部への侵入及び三次元網状骨格構造体骨格への確実な付着を助けることができる。
【0035】
さらに活性炭粒子付着後、一組又は複数組のロールの間を通し、軽く圧縮することにより三次元網状骨格構造体骨格への付着を助けることができる。この際ロール間隔を三次元網状骨格構造体の厚さの90〜60%とするのが適当である。
【0036】
バインダーを固化する為には、それぞれのバインダーに適した方法を用いればよいが、ウレタン系プレポリマーを使用した場合は加熱水蒸気でキュアーすることができ、工程が単純でかつ大きな固着力が得られる。また活性炭粒子の一部がバインダーで被覆された場合も、ウレタンの硬化時の炭酸ガス発生により皮膜に微細気孔があくため、吸着性能の低下が少ない。
【0037】
活性炭粒子が三次元網状骨格構造体から脱落することを防止するために、三次元網状骨格構造体に活性炭粒子を付着させた後、バインダーを固化させる前に、さらにその上からバインダーを塗布し、その後、これらのバインダーを固化させてもよい。これにより、活性炭粒子を極めて強固に三次元網状骨格構造体に担持させることができる。
【0038】
この場合、三次元網状骨格構造体表層に固着している活性炭粒子はその表面が全部バインダーで被覆されることになり、三次元網状骨格構造体に対する固着力は増加するが、その部分の吸着体粒子の吸着能力は低下する。しかし三次元網状骨格構造体内層に固着された大部分の活性炭粒子は三次元網状骨格構造体表層に塗布されたバインダーの影響を受けることなく活性炭粒子全体としての吸着能力はそれ程低下しない。
【0039】
塗布される表層の厚さは、塗布するバインダー量により任意にコントロールすることができるので、表層の活性炭粒子の固着力増加と活性炭粒子全体の吸着能力低下の状態を勘案して適宜定めればよい。三次元網状骨格構造体の厚さが厚ければ厚い程表層塗布による吸着能力低下の割合は小さくなる。表層に塗布するバインダーは当初三次元網状骨格構造体全体に塗布するバインダーと同じものでも良いが、例えば当初全体に塗布するバインダーには柔軟なものを用いて三次元網状骨格構造体の柔軟性を阻害せぬようにし、表層に塗付するバインダーには強固な固着力を有する剛性のものを使用して組合わせ効果を得ることができる。また皮膜に欠陥(ピンホール等)が生じ易いエマルジョンタイプのバインダーをあえて使用することも、通気性の点では有利である。
【0040】
このようにして、三次元網状骨格構造を有するポリウレタンフォームよりなるフィルタ基材に活性炭粒子を担持させた後は、次いで光触媒粒子を担持させる。
【0041】
光触媒粒子としては特に制限はなく、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、硫化カドミウム、酸化第二鉄、チタン酸ストロンチウム等の金属酸化物が挙げられるが、本発明はこれらの金属酸化物光触媒のうち、光触媒効果が高く、汎用性に優れる点で酸化チタン、とりわけアナターゼ型酸化チタン微粒子が好適である。
【0042】
アナターゼ型酸化チタン微粒子は、ペルオキソチタン酸水溶液(アモルファス過酸化チタンゾル)よりなる光触媒コーティング剤、又は、ペルオキソチタン酸とアナターゼ型酸化チタン微粒子を含む光触媒コーティング剤(ペルオキソチタン酸水溶液とアナターゼ型酸化チタン微粒子の縣濁液との混合液)、好ましくはペルオキソチタン酸水溶液とアナターゼ型酸化チタン微粒子の縣濁液との混合液を用い、この光触媒コーティング剤を活性炭粒子を担持したフィルタ基材に付着させ、その後80〜150℃で1〜10分程度乾燥することによりフィルタ基材に担持させることが好ましい。このような光触媒コーティング剤を用いることにより、アナターゼ型酸化チタン微粒子をフィルタ基材及びフィルタ基材に担持された活性炭粒子に密着性良く担持させることができ、光触媒粒子の脱落の問題を解消することができると共に、光触媒粒子を多量に担持させることも可能となる。
【0043】
光触媒コーティング剤をフィルタ基材に付着させる方法としては、光触媒コーティング剤をフィルタ基材にスプレーする方法、或いは、フィルタ基材を光触媒コーティング剤に浸漬する方法等が挙げられる。光触媒コーティング剤のフィルタ基材への付着と乾燥とを複数回繰り返すことにより、光触媒の担持量を高めることもできる。
【0044】
なお、この光触媒コーティング剤中のペルオキソチタン酸(固形分)に対する酸化チタン(固形分)の重量比率は1〜20であることが好ましい。また、このようにしてフィルタ基材に担持されるアナターゼ型酸化チタン微粒子の平均粒径は10〜200nmであることが好ましい。従って、光触媒コーティング剤の調製には、平均粒径10〜200nmのアナターゼ型酸化チタン微粒子を用いることが好ましい。
【0045】
光触媒コーティング剤中のペルオキソチタン酸(固形分)に対する酸化チタン(固形分)の重量比率が1未満の場合、充分な光触媒活性が得られず、20を超えると、フィルタ基材に対する濡れ性が悪くなるため、担持率が低下する。また、フィルタ基材への酸化チタン粒子の密着性も低下する。
【0046】
アナターゼ型酸化チタン微粒子の平均粒径が、200nmを超えると、表面積が小さくなるため、光触媒性能が低下する。また、10nm未満では製造に高度な技術が必要となりコストが高くなる。
【0047】
このようにして製造される本発明の消臭フィルタは、活性炭粒子の担持量が100〜6000g/m、特に500〜1500g/mであり、光触媒粒子の担持量が0.1〜300g/m、特に3〜30g/mであり、活性炭粒子の担持量に対する光触媒粒子の担持量が0.1〜5%、特に0.5〜3%であることが好ましい。なお、ここで、活性炭粒子及び光触媒粒子の担持量の単位「g/m」は、フィルタ基材の表面積(骨格を含む全表面積)に対する担持量を示すものである。
【0048】
上記範囲より活性炭粒子及び光触媒粒子の担持量が少ないと、活性炭による吸着性能、光触媒による酸化分解性能を十分に得ることができない。また、上記範囲よりも多く活性炭粒子を担持することは、紫外線の透過性が著しく悪くなるため良好な光触媒活性機能を発揮させることができなくなる。
【0049】
また、活性炭粒子の担持量に対する光触媒粒子の担持量が少な過ぎると、光触媒による活性炭の吸着性能の再生効果を十分に得ることができず、多いと活性炭の吸着孔を塞ぐことになり活性炭の物理吸着性能を損ねる結果になる。
【0050】
このような本発明の消臭フィルタは一般的には厚さ(被処理流体の流通方向の長さ)3〜30mm程度の板状として成形され、この板状品を積層使用し、上下に紫外線光源を設置することにより、より一層のフィルタ効果を発揮させることもできる。被処理流体をこの消臭フィルタに通過させることにより被処理流体の消臭を行う。
【0051】
このような本発明の消臭フィルタは、タバコや生ゴミ、ペット等の生活臭の消臭に有効である。
【実施例】
【0052】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0053】
なお、以下において、消臭フィルタの消臭性能はメチレンブルー溶液の消色に要する時間から求めたが、これは次のような理由による。
【0054】
即ち、メチレンブルー色素は一般に光触媒による酸化分解によって消色するが、本発明の消臭フィルタにおいては、活性炭による色素の吸着によっても消色することから、光触媒を担持せず、活性炭のみを担持したフィルタの消色性能を比較例1に示した。
【0055】
本発明の消臭フィルタを一般の臭気物質の除去に適用する場合も、メチレンブルーの場合と同様に活性炭の吸着および光触媒の酸化分解双方の作用により消色性能が発揮されると考えられる。従って、この消色所要時間を消臭性能の指標とすることができる。
【0056】
実施例1
フィルタ基材としてセル数が10PPIの三次元網状骨格構造を有する軟質ポリウレタンフォーム(連続気泡ウレタン樹脂発泡体)(厚さ5mm)を用い、このポリウレタンフォームに、バインダーとして固形分50%のウレタン樹脂エマルジョンを25〜35g/l(dry)となるように浸漬含浸し、100℃で5分間乾燥することにより塗布した後、活性炭粒子(BET比表面積が1000〜1500m/g、平均粒径850μmで、フィルタ基材の孔径の約1/30)を三次元網状骨格構造のポリウレタンフォームの骨格上にフィードすることにより付着させ、その後余剰の活性炭を振るい落とすことにより、固定した。得られた活性炭担持フィルタ基材の活性炭担持量を、小数点以下1桁が量れる電子天秤により求めたところ、750g/mであった。
【0057】
この活性炭担持フィルタ基材に、ペルオキソチタン酸水溶液とアナターゼ型酸化チタン微粒子の懸濁液との混合液よりなる光触媒コーティング剤(光触媒コーティング剤中のペルオキソチタン酸(固形分)に対する酸化チタン(固形分)の重量比率は2.0%、アナターゼ型酸化チタン微粒子の平均粒径は30nm)をスプレーガンで塗布した後、オーブンで110℃にて10分乾燥させて活性炭/酸化チタン担持消臭フィルタを得た。この消臭フィルタの光触媒粒子担持前後の重量測定から求めた酸化チタン担持量は22.5g/mであった。
【0058】
また、走査型電子顕微鏡SEM(EDX)を使った表面観察により、この酸化チタン微粒子は、フィルタ基材に担持された活性炭粒子表面に付着していることが確認された。
【0059】
この消臭フィルタを25mm×25mm×5mmのサイズに切断し、25mm角の面を上方に向けた状態でポリエチレン製透明容器に入れた後、容器内に10ppmメチレンブルー溶液50gを注ぎ入れた。その後、メチレンブルー溶液の液面位置の紫外線強度が1.0±0.05mW/cmとなる条件で上方からブラックライトで紫外線を照射し、メチレンブルー溶液が完全に消色するまでの時間を測定したところ、6時間であった。
【0060】
なお、消色所要時間の測定は、メチレンブルー0、0.25、0.5、1、2、3、5、7.5、10ppmの各濃度で調製した水溶液を、消色試験に用いたものと同一仕様のポリエチレン製透明容器に入れたものを比較用として準備し、試験体サンプルの溶液の色を目視観察し、0ppmサンプルの色に最も近くなったときの最短時間とした。
【0061】
実施例2,3
光触媒コーティング剤の塗布量を調整して、酸化チタン担持量を7.5g/m(実施例2)又は3.75g/m(実施例3)としたこと以外は実施例1と同様にして活性炭/酸化チタン担持消臭フィルタを製造し、同様に消臭性能(初回の消色所要時間)を調べたところ、各々、6時間(実施例2)、9時間(実施例3)であった。
【0062】
また、実施例2における消色試験を繰り返し行ったところ、試験開始から100日経過した時点での消色試験の繰り返し回数は28回であり、また1回当たりの平均消色所要時間は86時間で、この時点においても消臭(消色)性能は維持されていた。
【0063】
比較例1
実施例1において、酸化チタンを担持しなかったこと以外は同様にして活性炭担持消臭フィルタを製造し、同様に消臭性能(初回の消色所要時間)を調べたところ、6時間であった。
【0064】
また、実施例1と同様にして、100日間、消色試験の繰り返しを行ったところ、繰り返し回数は13回であり、1回当たりの平均消色所要時間は185時間で、この時点においても消臭(消色)性能は維持されていた。
【0065】
比較例2
活性炭及び光触媒(アナターゼ型酸化チタン)をダンボールハニカム基材に担持した市販の光触媒フィルタを用い、この消臭フィルタについて、実施例1と同様に消臭性能(初回の消色所要時間)を調べたところ、34時間であった。
【0066】
比較例3
光触媒(アナターゼ型酸化チタン)をガラス繊維に担持させた市販の光触媒フィルタを用い、この消臭フィルタについて、実施例1と同様に消臭性能(初回の消色所要時間)を調べたところ、93時間であった。
【0067】
比較例4
光触媒(アナターゼ型酸化チタン)を直径8mmのステンレス鋼球に担持させた市販の光触媒素材を用い、この素材を上方からの紫外光の投影面積が625mmと、25mm角の実施例1のフィルタサンプルとほぼ同等になるように容器内に入れたこと以外は、実施例1と同様に消臭性能(初回の消色所要時間)を調べたところ、93時間であった。
【0068】
これらの結果を表1にまとめて示す。なお、表1には、実施例1〜3及び比較例1,3で使用したフィルタサンプルについて、250mm×250mmの面積に対して、風速1m/secとなるように調整したときのフィルタ上流、下流の圧力差を測定することにより求めた圧力損失を併記した。
【0069】
【表1】

【0070】
表1より次のことが明らかである。
【0071】
活性炭と酸化チタンとを三次元網状骨格構造のポリウレタンフォームに担持した実施例1〜3の消臭フィルタは、初期性能においても、長期繰り返し性能においても、消臭性能に優れる。
【0072】
フィルタ基材として三次元網状骨格構造のポリウレタンフォームを用いても、活性炭のみを担持した比較例1では、初期性能は実施例1〜3と同等であるが、長期繰り返し性能が劣る。このことから、酸化チタンを担持していない比較例1では、活性炭による吸着性能が使用により徐々に低下するが、活性炭と共に酸化チタンを担持した場合には、酸化チタン光触媒による酸化分解作用で活性炭の吸着性能が一部再生され、この結果、消臭性能が長期間維持されることが分かる。
【0073】
活性炭と酸化チタンの両方を担持したフィルタであっても、ダンボールハニカム基材に担持したもの(比較例2)では、実施例のフィルタに比べて初回の消色所要時間が長く、消臭性能に劣る。これは、ダンボールハニカム基材は比表面積が小さく、活性炭及び光触媒との接触効率が十分でなく、このため消色に時間を要するのに対して、本発明でフィルタ基材として用いる三次元網状骨格構造のポリウレタンフォームは表面凹凸が多く、比表面積が大きいので、活性炭及び酸化チタンの接触効率が高く、このため短時間で消色可能であることによるものと考えられる。
【0074】
同様に、ガラス繊維やSUS鋼球に酸化チタンを担持した比較例3,4でも、基材の比表面積が小さいため、酸化チタンの接触効率が悪く、消色に長時間を要する。
【0075】
また、三次元網状骨格構造のポリウレタンフォームをフィルタ基材とする実施例の消臭フィルタは圧力損失も非常に低く、省エネルギーの面でも有利であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元網状骨格構造を有するポリウレタンフォームよりなるフィルタ基材に、活性炭粒子と光触媒粒子とを担持してなることを特徴とする消臭フィルタ。
【請求項2】
請求項1において、該光触媒粒子は、前記フィルタ基材に担持された活性炭粒子上に担持されていることを特徴とする消臭フィルタ。
【請求項3】
請求項1又は2において、該光触媒粒子は、アナターゼ型酸化チタン微粒子の懸濁液とペルオキソチタン酸水溶液との混合液を前記フィルタ基材に付着させることにより担持されたものであることを特徴とする消臭フィルタ。
【請求項4】
請求項3において、該光触媒粒子は、アナターゼ型酸化チタン微粒子の懸濁液とペルオキソチタン酸水溶液との混合液を、活性炭粒子を担持した前記フィルタ基材に付着させることにより担持されたものであることを特徴とする消臭フィルタ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、該活性炭粒子はバインダー層を介して前記フィルタ基材に担持されていることを特徴とする消臭フィルタ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、活性炭粒子の担持量が100〜6000g/mであり、光触媒粒子の担持量が0.1〜300g/mであり、活性炭粒子の担持量に対する光触媒粒子の担持量が0.1〜5%であることを特徴とする消臭フィルタ。

【公開番号】特開2006−224026(P2006−224026A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42527(P2005−42527)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】