説明

消臭効果を備えた難燃剤組成物及び難燃性布帛

【課題】消臭性及び難燃性を共に備えた難燃性布帛の製造に適した難燃剤組成物を提供する。
【解決手段】ハロゲンを含有しない難燃剤と消臭剤をバインダーと共に混合分散された水性組成物において、難燃剤として25℃の水の溶解度が2%以下である粒子状物を使用し、消臭剤として消臭成分を不活性な無機多孔質粒子からなる担体に担持されたものを使用する。この組成物のpHは4−7とし、難燃剤としては、シリコーン被覆ポリリン酸アンモニウム又はジアルキルホスフィン酸金属塩を使用し、消臭剤としては、アミン系化合物又は金属化合物をそれぞれ別々に担体に担持させたものを使用するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭性及び難燃性を共に備えた難燃性布帛、並びに該難燃性布帛の製造に使用する消臭効果を備えた難燃剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装材やシート材としては、難燃性が求められるが、近年、ペット愛好家や嫌煙家の増加に伴い、犬の臭いやタバコの臭いを消臭することも強く求められるようになってきた。また、有機ガスの人体悪影響も問題とされるようになってきた。
【0003】
従来、難燃剤に機能付与剤として消臭剤を併用することが試みられているが、複雑な臭いについて、単に、消臭剤を併用するだけで、効果ある結果を得ることはできなかった。
【0004】
消臭剤として、例えば、化学吸着によるものでは、酸性のガス種には塩基性の物質である炭酸カルシウムなどが、また、塩基性のガスには酸性物質である硫酸アルミニウムなどが用いられてきた。また、物理吸着によるものでは、活性炭や珪藻土などが用いられてきた。しかし、ペット、特に犬の主要な臭いは高級脂肪酸及びそのアルデヒド(イソバレルアルデヒドなど)であることが分かっているが、この種のアルデヒドを消臭できる液体状の消臭剤は見つかっていない。また固体粉末である、酸化銅、キトサン、二酸化マンガン、カテキンなどを使用しても、効果的な消臭性を得ることはできなかった。
唯一、活性炭の使用により消臭性を得ることができたが、家屋や自動車の内装に、黒く着色される活性炭を使用することは好ましくなかった。
【0005】
特許文献1−6などに種々の消臭剤組成物が開示されるが、次のような問題があり、これらも総合的な消臭効果を期待できるものではなかった。
1)広範に減臭性能を発揮させるため、不用意に各種消臭剤を配合して減臭加工剤を調製すると、消臭剤同士の反応により減臭加工剤としての性能が劣化し、本来の性能が発揮されない。
2)生活悪臭として、問題とされているタバコ臭の成分であるアセトアルデヒド、あるいは、ペット臭の成分の一つであるイソバレルアルデヒド、加齢臭の主成分であるノネナールなどのアルデヒドに対しては、高い効果は見込めない。
3)アミン系化合物であるヒドラジド系化合物はアルデヒドの減臭に対して有効であるが、活性炭や多孔質の二酸化珪素やそれに担持した酸化亜鉛系の消臭剤の併用の場合、経時的にアルデヒドに対する減臭性能も低下する。
4)トルエン、キシレンなどの芳香族系ガス種を低減する要求があり、これに活性炭が使用されているが、黒く着色するために用途が限定される。
【特許文献1】特開2005−198684号公報
【特許文献2】特開2001−218668号公報
【特許文献3】特開2000−14520号公報
【特許文献4】特開平8−280781号公報
【特許文献5】特許第3765147号公報
【特許文献6】特開2003−70887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、消臭性及び難燃性を共に備えた難燃性布帛及び該難燃性布帛の製造に使用する消臭効果を備えた難燃剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、ハロゲンを含有しない難燃剤と消臭剤をバインダーと共に混合分散された水性組成物で、難燃剤として25℃の水の溶解度が2%以下である粒子状物を使用し、消臭剤として消臭成分を不活性な無機多孔質粒子からなる担体に担持されたものが使用することにより、上記課題を解決した。なお、この組成物のpHは4−7とする。
【0008】
難燃剤としては、ハロゲンを実質的に含有しないものであれば、繊維処理剤として公知の難燃剤がいずれも使用できるが、消臭剤との併用で機能性を害されないように、シリコーンで表面処理したものや水に難溶解性のものを使用するのが好ましく、特にシリコーン被覆ポリリン酸アンモニウム又はジアルキルホスフィン酸金属塩が有用である。なお、ジアルキルホスフィン酸金属塩において、アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、第三ブチル、n−ペンチル及び/又はフェニルが挙げられ、金属としては、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、チタン、亜鉛、錫又はジルコニウムが挙げられる。これらのうちで、特に好ましいのは、ジエチルホスフィン酸アルミニウムである。
また、難燃剤がハロゲンを実質的に含有しないとは、不純物程度で、本発明の効果を阻害しない程度のハロゲンは含有されてもよいとするものである。
【0009】
消臭剤としては、消臭機能が消臭成分が相互に直接接触したり、難燃剤の存在によって阻害されないように、不活性な無機多孔質粒子からなる担体に担持させたものを使用するのがよく、例えば、アミン系化合物、金属化合物又はシクロデキストリンをそれぞれ別々に担体に担持させて使用するのがよい。担体としては、シリカ、シリカ・アルミナ複合体又は層状複水酸化物などが有用である。
【0010】
アミン系化合物としては、分子内に第一級アミン基を有する化合物、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、酢酸などの吸着に特に有効なヒドラジン系化合物を使用するのが好ましい。該ヒドラジン系化合物としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、スペリン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジドなどがある。
【0011】
また、金属化合物としては、硫化水素およびメルカプタン類の臭気に対する消臭効果を発揮する亜鉛又は銅を含む金属化合物、例えば亜鉛または銅の酸化物、水酸化物、塩化物、硫酸塩、酢酸塩、クエン酸塩などを例示することができ、ケイ酸亜鉛、酸化亜鉛などが特に有用である。
【0012】
シクロデキストリンにはα−、β−、γ−シクロデキストリン、それらのカルボキシメチル、カルボキシエチル化物などがある。
担体に使用する層状複水酸化物は
2+1−x3+(OH)[An−x/n・zH
(M2+=Mgなど、M3+=Alなど、An−=アニオン)
で示される。
シクロデキストリンはMg−Al水酸化物炭酸塩などの層状複水酸化物へインターカレートにより取り込まれて複合体となり、担持される。インターカレートは熱分解、再水和、吸着で行われる。
シクロデキストリンを層状複水酸化物に担持させた複合体がトルエン、キシレンなどの消臭に有効である。
【0013】
なお、本発明の難燃剤組成物に使用するバインダーとしては、通常の繊維加工用バインダーがいずれも使用できるが、アクリル系樹脂又はウレタン系樹脂を使用するのが好ましい。また、粘度調整剤を添加して粘度調整してもよく、粘度調整剤としては、としてヒドロキシエチルセルロース又はメチルヒドロキシセルロースを使用するのが好ましい。粘度は、通常、B型粘度計、ローターNo.4、回転20、25℃で、20000−70000cps程度に調整されるのがよい。
【0014】
また、本発明の難燃剤組成物はpH4−7に調整されるが、これは、アルカリ性では、消臭効果得られず、また、pH4未満では、樹脂が加水分解し、安定性が悪くなるからである。
【0015】
かかる難燃剤組成物は、布帛の少なくとも片面に、乾燥塗布量20−200g/m 程度、好ましくは70−200g/m 程度となるようにコーティングし、乾燥することにより、安定して消臭性と難燃性を備えた難燃性布帛に仕上げることができる。
【0016】
なお、本発明の難燃剤組成物における難燃剤と消臭剤の併用割合は乾燥重量で、30:5〜15程度であればよく、30:8〜10であるのが特に好ましい。また、消臭剤としてアミン系化合物と金属化合物を併用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の難燃剤組成物は、消臭性及び難燃性を共に安定して有するものであり、布帛へコーティング処理することにより、布帛を、簡単に、ペットの臭いやタバコの臭いを共に消臭でき、トルエン、キシレンなどの芳香族系のVOCを低減でき、しかも難燃性ある製品に仕上げることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明を実施例に従って更に詳しく説明する。なお、実施例における性能試験は下記の方法で実施した。
<消臭試験>
5cm角の生地をにおい袋に入れ、調製したガスを封入し、20℃の部屋に静置し、3時間又は4時間経過後、検知管を用いて、ガス量の変化を測定する。
(再放出)
生地を取り出し、新しい袋に詰め、空気2Lを封入する。80℃のオーブンに1時間入れ、室温に5分置いた後、検知管を用いて、ガス量の変化を測定する。
<難燃試験>
FMVSS No.302(JIS D1201水平法)による。
【0019】
[実施例1]
i) 難燃剤(ジエチルホスフィン酸アルミニウム)30重量部を水30重量部に分散させた難燃剤組成物と、
ii)アクリル樹脂エマルジョン(固形分50%)30重量部に、多孔質シリカにアミン系消臭剤を担持させたもの(東亜合成社製のNS230)5重量部と多孔質シリカに酸化亜鉛を担持させたケイ酸亜鉛化合物(伸葉社製SY−112)5重量部、水15重量部を分散させた消臭剤組成物
の混合物で、増粘剤で粘度を30,000mPa・sに調整した難燃消臭加工剤A(pH6.8)を、ポリエステルジャージにナイフコーターで乾燥塗布量85g/m となるように塗布した後、150℃で2分間乾燥し、処理布Aを得た。
【0020】
[実施例2]
i) 難燃剤(ジエチルホスフィン酸アルミニウム)30重量部を水30重量部に分散させた難燃剤組成物と、
ii)アクリル樹脂エマルジョン(固形分50%)30重量部に、多孔質シリカにアミン系消臭剤を担持させたもの(東亜合成社製のNS230)5重量部と多孔質シリカに酸化亜鉛を担持させたもの(伸葉社製SY−112)5重量部と多孔質酸シリカに硫酸銅を担持させたもの(東亜合成社製のNS−10C)1重量部、水20重量部を分散させた消臭剤組成物
の混合物で、増粘剤で粘度を30,000mPa・sに調整した難燃消臭加工剤B(pH6.8)を、ポリエステルジャージにナイフコーターで乾燥塗布量81.2g/m となるように塗布した後、150℃で2分間乾燥し、処理布Bを得た。
【0021】
実施例1及び2で得た処理布A、Bについて、難燃試験を実施したところ、いずれも、自己消火した。また、消臭試験の結果を表1A−表1Gに示す。
表1A−表1Gにおけるガス再充填試験のデータは、4時間後、8時間後、12時間後に最初と同じ量のガスを充填し、その4時間後のガス量の変化を測定したものである。
【0022】
【表1A】

【0023】
【表1B】

【0024】
【表1C】

【0025】
【表1D】

【0026】
【表1E】

【0027】
【表1F】

【0028】
【表1G】

【0029】
[実施例3〜6]
表2に示すコーティング組成物を、ポリエステルジャージの裏面に塗布し、150℃で2分間乾燥して、難燃・消臭加工布を得た。製品はいずれも、布帛表面は、未加工布と同様の外観を有しながら、難燃試験では自己消火し、消臭試験でも表3に示すように、優れた効果を有するものであった。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
[実施例7〜9及び比較例1]
表4に示すコーティング組成物を、ポリエステルジャージの表面に塗布し、150℃で2分間乾燥して、難燃・消臭加工布を得た。本発明による実施例で得た製品はいずれも、難燃試験では自己消火し、消臭試験でも表5に示すように、優れた効果を有するものであった。
【0033】
【表4】

【0034】
【表5】

【0035】
[実施例10〜11及び比較例2]
シクロデキストリンの一種であるカルボキシメチル−β−シクロデキストリンの水溶液に熱分解させた層状複水酸化物[Mg・Al・CO・OH・HO]と混合、振とうすることで得られた複合体C[Mg・Al・OH][CM−βCD・HO]と、同じくカルボキシエチル−β−シクロデキストリンと層状複水酸化物[Mg・Al・CO・OH・HO]から複合体D[Mg・Al・OH][CE−βCD・HO]を得た。
これらのシクロデキストリン又は複合物質C及びDを用い、表6に示すコーティング組成物を、ポリエステルジャージ表面に塗布し、150℃で2分間乾燥して、難燃・消臭加工布を得た。
本発明の実施例で得た製品はいずれも、難燃試験では自己消火し、消臭試験でも表7に示すように、優れた効果を有するものであった。
【0036】
【表6】

【0037】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲンを含有しない難燃剤と消臭剤がバインダーと共に混合分散された水性組成物であって、前記難燃剤が25℃の水の溶解度が2%以下である粒子状であり、前記消臭剤として消臭成分を不活性な無機多孔質粒子からなる担体に担持されたものが使用されていること、及び、前記組成物のpHが4−7であることを特徴とする消臭効果を備えた難燃剤組成物。
【請求項2】
前記難燃剤が、シリコーン被覆ポリリン酸アンモニウム又はジアルキルホスフィン酸金属塩である請求項1の難燃剤組成物。
【請求項3】
前記消臭剤が、前記担体に、分子内に第一級アミン基を有する化合物、ケイ酸亜鉛、酸化亜鉛及びシクロデキストリンのいずれかを別々に担持させてなるものである請求項1又は2の難燃剤組成物。
【請求項4】
前記担体が、シリカ、シリカ・アルミナ複合体又は層状複水酸化物である請求項1−3いずれか1項の難燃剤組成物。
【請求項5】
前記組成物に、粘度調整剤としてヒドロキシエチルセルロース又はメチルヒドロキシセルロースが使用されている請求項1−4いずれか1項の難燃剤組成物。
【請求項6】
前記バインダーがアクリル系樹脂又はウレタン系樹脂である請求項1−5いずれか1項の難燃剤組成物。
【請求項7】
布帛の少なくとも片面に、請求項1−6いずれか1項の難燃剤組成物を乾燥塗布量20−200g/m となるようにコーティングしたものであることを特徴とする消臭効果を備えた難燃性布帛。

【公開番号】特開2008−56901(P2008−56901A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162206(P2007−162206)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000148151)株式会社川島織物セルコン (104)
【Fターム(参考)】