説明

消臭用組成物

【課題】
使用済みのオムツや汚物、或いはゴミなどを入れて保管、運搬するにあたり、薄くかつ高強度と防臭性を備えた袋となるフィルム用樹脂を提供する。また、消臭下着などとして用いられる繊維、モノフィラメントを提供する。
【解決手段】
下記の成分(a)(b)及び(c):
(a)スチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体及びメチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体から選ばれた少なくとも1種の共重合体、
(b)エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体
(c)エチレン−酢酸ビニル共重合体
をポリオレフィン及び/又はナイロンに混合してなる消臭用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚物や体臭等に原因する日常生活に身近な臭気の消臭、防臭に有効な消臭用組成物に関する。本発明によれば薄いフィルムでも高強度の防臭性のある袋が得られ、使用済みのオムツや汚物、ゴミなど悪臭源となる廃棄物を一時保管、運搬するのに適する。繊維やモノフィラメントにして衣類、特に靴下や下着として体臭防止をはかり得る。
【背景技術】
【0002】
生活水準が向上するに伴い人々の環境衛生面に対する関心が高くなり、防臭、消臭が大きな課題となっている。一般的に悪臭を低減する方法としては、強力な芳香剤により臭気をマスキングする方法、活性炭、アルミナ、ゼオライト等の多孔質吸着剤による吸着などの物理的方法、触媒燃焼法、オゾンによる酸化法、化学薬品を用いた中和法などの化学的方法、あるいはバクテリアによる分解などの生物化学的方法等が知られている。
【0003】
近年、家庭、病院、介護施設等において、乳児や要介護者のために使い捨てオムツや貸しオムツの使用が増加している。使用済みの使い捨てオムツは、スーパーのレジ袋などに入れて収集日までゴミ袋で保管されることが多い。また、貸オムツは、使用後、回収までの数日ポリエチレン製の袋などに入れて業者の回収を待つ必要がある。いずれもフィルムのガスバリヤー性が低く不快臭が外部に漏れ出る。また、台所からの生ゴミも同様に悪臭源となり得る。
【0004】
また、人の発生する悪臭として、わきがや汗の臭い、靴下臭が問題とされることが多い。これら体臭の防止に関しては様々な対策が提案されており、靴下臭については靴の中敷きに吸着剤を用いたものや消臭スプレーなどが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−305111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、防臭性を有し薄いフィルムであっても強度が高く、使用済みオムツや生ゴミなど悪臭源となる廃棄物を処分するまでの一時保管、運搬において不快な臭いが漏れ出さないフィルム及びこれに用いる消臭用組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の成分(a)(b)及び(c):
(a)スチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体及びメチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体から選ばれた少なくとも1種の共重合体、
(b)エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体
(c)エチレン−酢酸ビニル共重合体
をポリオレフィン及び/又はナイロンに混合してなる消臭用組成物を提供する。
本発明の消臭用組成物には、更に脂肪酸金属塩又は脂肪酸アミドを混合するのが好ましい。また、本発明は、この消臭用組成物よりなるフィルム、繊維状物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明ではスチレン−無水マレイン酸共重合体等の消臭成分樹脂(a)に対して、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体(b)及びエチレン−酢酸ビニル共重合体(c)を加えることによってベース樹脂に混合した場合に所望強度の薄いフィルムの成形が可能な消臭用樹脂組成物を得ることができた。これらの共重合体(b)及び(c)は、前記消臭成分樹脂である無水マレイン酸系共重合体(a)の溶解剤として作用していると推測される。従来、このように薄いフィルムで強度の高いポリオレフィン、ポリアミドの消臭性フィルムを量産し得る消臭性の樹脂組成物はなかった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(消臭性樹脂)
本発明に用いられる消臭成分としては、(a1)スチレン−無水マレイン酸共重合体、(a2)イソブチレン−無水マレイン酸共重合体及び(a3)メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体である。
【0010】
(a1)スチレン−無水マレイン酸共重合体としてはスチレンと無水マレイン酸との共重合比が2/1、若しくはこれより無水マレイン酸の割合が多い共重合体が好ましい。無水マレイン酸の割合がこれより少なくなると消臭効果が低下する。かかる共重合体の市販品としてはスチレン/無水マレイン酸比が1/1, 2/1, 3/1のタイプの共重合体があるがこれらのうち1/1のものが好ましく、共重合比が3/1の場合には消臭効果が少ない。本発明にて用いるスチレン−無水マレイン酸共重合体の平均分子量(重量)は1,000〜300,000、好ましくは5,000〜300,000である。
【0011】
(a2)イソブチレン−無水マレイン酸共重合体としては、イソブチレンと無水マレイン酸との共重合比が2/1、若しくはこれより無水マレイン酸の割合が多い共重合体、より好ましくは共重合比が1/1、若しくはこれより無水マレイン酸の割合が多い共重合体が好ましい。無水マレイン酸の割合がこれより少なくなると消臭効果が低下する。本発明にて用いるイソブチレン−無水マレイン酸共重合体の平均分子量(重量)は10,000〜300,000、好ましくは10,000〜200,000である。
【0012】
(a3)メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体としては、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合比が2/1、若しくはこれより無水マレイン酸の割合が多い共重合体が用いられ、より好ましくは共重合比が1/1、若しくはこれより無水マレイン酸の割合が多い共重合体が用いられる。無水マレイン酸の割合がこれより少なくなると消臭効果が低下する。かかる共重合体の市販品としては、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸比が1/1のものが好ましい。この共重合体の平均分子量(重量)は10,000〜1,000,000であり、好ましくは10,000〜300,000である。分子量がこれより大きいとポリオレフィンとの混合処理温度(180〜220℃)より共重合体の融点が高くなり好ましくない。
【0013】
使用済みのオムツ入れ等に用いられるポリエチレン袋はフィムル厚さが20〜50μmと薄く、しかも内容物が相当重くフィルムはかなり大きな切断強度が必要である。従来、スチレン−無水マレイン酸共重合体をポリエチレン等のオレフィン系樹脂に配合してインフレーション法によりで30μm程度の薄いフィルムを押し出すと樹脂組成物は不均一な状態となりフィルム成形工程において切断などを生じ所望の強度のフィルムは得られなかった。これはスチレン−無水マレイン酸共重合体の無水マレイン酸部分がポリオレフィン樹脂に均一に溶解しがたいためと推測される。
【0014】
(配合割合)
前記共重合体の配合割合は、スチレン−無水マレイン酸共重合体など消臭成分である無水マレイン酸系共重合体(a1)〜(a3)の1重量部に対し、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体(a2)0.1〜3.0重量部、好ましくは0.5〜1.5重量部である。また、エチレン−酢酸ビニル共重合体(a3)の配合量は、消臭成分である無水マレイン酸系共重合体(a1)〜(a3)の1重量部に対し、0.1〜5.0重量部、好ましくは0.3〜3.0重量部、より好ましくは0.5〜2.7重量部である。
なお、フィルム全体に対し、消臭成分である無水マレイン酸系共重合体(a1)〜(a3)の配合量は1〜4重量%である。
【0015】
(その他の成分)
日常生活で実際に問題となる身近な悪臭は単純ではなく、酸性臭気および塩基性臭気など種々の成分からなり、効果的な消臭にはこれらいずれの悪臭成分にも対応する必要がある。本発明の消臭用組成物において、硫化水素やメルカプタンなどの臭気に対する除去性能も併せ備えるには、前記樹脂成分にさらに脂肪酸金属塩を配合するのが好ましい。かかる脂肪酸金属塩としては、炭素数15以上の脂肪酸の金属塩が好ましく、たとえばステアリン酸亜鉛、ステアリン酸銅、ベヘン酸亜鉛、ステアリン酸銅などが好ましい。これら脂肪酸金属塩の配合量は本発明の組成物全体に対し、0.1〜3重量%、好ましくは0.2〜2重量%である。
また、脂肪酸アミドを前記脂肪酸金属塩1重量部に対して0.1〜1重量部、好ましくは0.2〜0.8重量部を配合することにより更に安定した消臭性能が得られる。
【0016】
このように前記共重合体と脂肪酸金属塩、脂肪酸アミドを併用することにより窒素系及びイオウ系の両方の臭気を確実に除去することができる。
【0017】
(ベース樹脂)
本発明の消臭用組成物において用いるベース樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、或いはナイロン−6などのポリアミド樹脂が好ましい。これらの樹脂を用いると脂肪酸塩がよく溶解し、金属成分が微細な状態でベース樹脂全体に分散し好ましい。
【0018】
(消臭用組成物の用途)
本発明の消臭用組成物は使用にあたり種々成形して用い得る。特にシート、フィルム、或いは糸、モノフィラメントなどに形成するのが好ましく、Tダイ法、インフレーション法など公知の製法によりフィルム成形し、あるいは公知の紡糸方法により繊維、フィラメントを製造できる。本発明の消臭用組成物は、その表面積を増大させ消臭作用の向上をはかることができる。また、かかる繊維からなる糸、或いはモノフィラメントを単独で或いは他の繊維と混合して用い、防臭性下着などとしてもよい。
消臭性フィルムの厚さは10〜50μmが好ましい。このようなフィルムからなる袋に使用済みのオムツや汚物、或いはゴミなどを入れて密封すると、内容物から臭気原因物質がフィルムを透過する際にフィルム中の消臭成分により吸収され外部へ悪臭放出が防止できる。また、魚などの生ものを入れる袋などにも有用である。
【実施例】
【0019】
[実施例1]
スチレン−無水マレイン酸共重合体 1kg及びエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体
1kg及びエチレン−酢酸ビニル共重合体 2kg、更に低密度ポリエチレン 6kgをミキサーで完全に混合した。これら混合物をニーダー中にて210℃で溶融混合して中間体を作成した。かくして得られた中間体10kg及び低密度ポリエチレン40kgを200℃にて混合溶融しインフレーション法により成形して無色透明なフィルム(厚さ40μm)を得た。このフィルムを用い、つぎの脱臭テストを行った。
【0020】
(テスト方法)
前記フィルムを用い試験袋(10×10cm)を作成した。この試験袋にアンモニアガス(1,000ppm)50mlを封入し、この試験袋をさらにテトラパック容器(3リットル)に入れ密閉した。テトラパック内のガス濃度を所定の時間毎に測定し、試験袋より漏れ出るガス量を測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0021】
[比較例1]
ブランクとして市販の通常のポリエチレン袋(厚さ40μm)を用いて同様の測定を行った。結果を表2に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
[実施例2]
スチレン−無水マレイン酸共重合体0.8kg、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体1kg、及びエチレン−酢酸ビニル2kg、並びにステアリン酸銅0.15kg、ベヘン酸 アマイド0.5kg、更に低密度ポリエチレン6kgをミキサーで完全に混合し 更にニーダーを用いて210℃にて溶融混合して中間体混合物を調製した。得られた中間体混合物10kgと低密度ポリエチレン10kgを実施例1と同じ200℃でインフレーション法によって無色透明なフィルム(厚さ40μm)を得た。このフィルムを用いて前記と同様の脱臭テストを行った。なお、メルカプタンについてもテスト袋中にガス濃度50ppmにて50mlを封入し、テトラパック容器(3リットル)に入れて前記と同様に所定時間毎にガス濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0024】
[実施例3]
ステアリン酸銅の代りにステアリン酸亜鉛を用いた以外は実施例2と同様にしてフィルムを成形した。このフィルムを用いて前記と同様の脱臭テストを行った。結果を表2に示す。
【0025】
[実施例4]
実施例1において低密度ポリエチレンの代わりにポリプロピレンを用い、溶融温度を230℃としたこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを成形した。このフィルムを用いて前記と同様の脱臭テストを行った。結果を表2に示す。
【0026】
[実施例5]
実施例2において、低密度ポリエチレンに代わりポリプロピレンを用い、溶融温度を230℃としたこと以外は実施例1と同様にしてフィルムの成形を行った。このフィルムを用いて前記と同様の脱臭テストを行った。結果を表2に示す。
[実施例6]
実施例3において、低密度ポリエチレンの代わりにナイロン−6を用いて中間体混合物を調製した。得られた中間体混合物10kgとナイロン−6、10kgを240℃にて溶融混合しTダイ法にてフィルムの成形を行った。このフィルムを用いて前記と同様の脱臭テストを行った。結果を表2に示す。
【0027】
[実施例7及び8]
スチレン−無水マレイン酸共重合体の代わりに、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体または、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体を用い、後記表2に示す原材料及び配合比にて実施例1と同様の処理を行い、インフレーション法により無色透明なフィルム(厚さ40μm)を製造した。このフィルムを用いて前記と同様の脱臭テストを行った。結果を表2に示す。
【0028】
[比較例2]
実施例1において、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体及びエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いず、表2の組成にて実施例1と同様にしてフィルムの製造を試みた。フィルムは切断が生じ安定な運転はできなかった。
[比較例3〜6]
表2に示す成分及び配合量にて実施例1と同様にしてフィルムを製造した。消臭性能を測定した結果を表2に合わせて示す。
【0029】
【表2】

【0030】
(消臭の評価)
スチレン−無水マレイン酸共重合体などの消臭成分樹脂(a1)〜(a3)に対して、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体(b)及びエチレン−酢酸ビニル共重合体(c)を混合することなく、単独でポリエチレンなどベースフィルムに練り込んで市販品と同様のフィルム(厚さ10〜50μm)の製造を試みると原料樹脂が完全には混合せず、フィルム成形中に切断を生じたり、フィルム表面にぶつぶつ(粒状物)を生じたりした(比較例2)。また、スチレン−無水マレイン酸共重合体など消臭性樹脂(a)と共に、(b)エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合物体、及び(c)エチレン−酢酸ビニル共重合体の両共重合体を配合していない樹脂組成物では満足できる消臭効果が得られなかった(比較例3〜6)。
これに対して、実施例では長時間連続してフィルム成形を行っても厚さが均一で1000m以上のフィルムが安定して製造できた。
また、実際に使用済みのオムツを包んで24時間放置して持ち運んでも強度に問題はなく臭いが外部に漏れることもなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(a)(b)及び(c):
(a)スチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体及びメチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体から選ばれた少なくとも1種の共重合体
(b)エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体
(c)エチレン−酢酸ビニル共重合体
をポリオレフィン及び/又はポリアミドに混合してなる消臭用組成物。
【請求項2】
更に脂肪酸金属塩及び/又は脂肪酸アミドを混合してなる請求項1の消臭用組成物。
【請求項3】
脂肪酸金属塩が亜鉛塩又は銅塩である請求項2の消臭用組成物。
【請求項4】
請求項1の消臭用組成物を用いた樹脂成形品。
【請求項5】
樹脂成形品がフィルム、繊維又はモノフィラメントである請求項4の成形品。


【公開番号】特開2010−167205(P2010−167205A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14566(P2009−14566)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(595029222)有限会社岡田技研 (8)
【出願人】(506030158)株式会社猪川商店 (2)
【Fターム(参考)】