説明

消音装置

【課題】特定周波数の音波に限定することなく、広い帯域にわたる騒音音波を効率良く消音する消音装置を提供する。
【解決手段】消音装置本体ケーシングの上部後方から下部前方にかけて連続して形成した曲面部に複数の開口を設け、この開口の短手方向の開口寸法を徐々に異ならせて可聴音帯域の中の所定周波数に適した開口寸法の開口を形成する。また、開口部に音波の反射板と音波導入板を設け、音波の回折と反射の両現象を利用して騒音音波を捕捉し消音する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音源から発生する騒音を低減させる防音壁の上部に取り付けられる消音装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、工事現場、その他の騒音源から発生する騒音を防ぐ手段の一つとして防音壁が良く知られている。透光性の樹脂板や金属製の金属部材からなる壁体を道路脇や工事現場の周囲に設置し、壁の一方で発生する騒音が他方へ直接伝わらないようにするものであり、壁の高さを高くするほど遮音効果が上がるとされ、都市部では建物の高層化もあって防音壁はますます高くなる傾向にある。しかしながら、防音壁を高くすると建設コスト・維持管理コストの上昇が伴うと共に、防音壁近隣に与える日照障害や景観を損なうといった問題も発生するため、出来る限り壁の高さを上げずに遮音性を高める試みがなされている。
【0003】
例えば下記特許文献1には、防音壁の上部に取り付ける消音装置であって、音波反射板と、回折抑制板と、音波干渉器とを備え、騒音源から到達する騒音音波を音波反射板と回折抑制板の両作用により音波干渉器内部に導いて音波のエネルギーを低減させる装置が開示されている。同提案は、防音壁の上部で回折し壁の裏側へ回り込もうとする音波を回折抑制板で捕らえ、回折抑制板に沿って音波干渉器内部に導くものであり、回折抑制板で捕らえられなかった音波は音波反射板で反射させることによって音波干渉器内部に導くものである。
【特許文献1】特開2005−31599号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記先行技術によれば、防音壁の一方の側から他方の側へ向かって伝わる音波を壁の上端付近において音波の回折現象と反射現象を利用して補足するので、効果的に騒音音波のエネルギーを低減させることができる。そして、同先行例の中では、音波反射板と回折抑制板とで形成する開口を平行に複数段にわたって形成する例が開示されており、そのような多段構成とすることによって、壁の一方の側から他方の側へ伝わろうとする音波を壁の上端付近で回折して回り込む直前に補足することが可能であるとされている。
【0005】
ところで、上記先行技術では、複数形成される開口のそれぞれはほぼ同じ開口寸法でかつ同じ構造のものを多段状に重ねるようにしているが、このような構造の場合、防音壁の上部において回折して伝わる音を効果的に補足できていない可能性があった。可聴音帯域の低周波の音波をより効率的に音波干渉器内に導入するには、音波反射板と回折抑制板とで形成する開口の寸法(特に縦方向の寸法)は大きい方が望ましく、また相対的に高い周波数の音と比較すると低い周波数の音は消音が困難であることを考えれば、低い周波数に合わせた比較的大きな開口寸法を採用するのは自然な流れである。しかし、開口寸法が大きくなるということはすなわち開口の数が少なくなることを意味する。そして、開口の数が少ないということは開口を構成する回折抑制板の数も少ないということであり、結果的に、騒音音波を音波干渉器内部に導くための回折現象を行わせる起点となる回折点の数も減ってしまうのである。
【0006】
本発明はこのような点に対処してなされたものであり、その課題とするところは、防音壁の上部に設置し、音波の回折と反射を利用することで騒音音波を補足して消音する装置であって、低い周波数から高い周波数まで対応しながら音波を補足する動作のきっかけとなる回折点の数を十分に確保した消音装置を提供できないかという点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、(1)騒音源から到達する騒音の音圧を低減する消音装置において、内側に所定容積の空間を備える本体ケーシングと、前記本体ケーシング内側にグラスウール等の繊維質材または多孔質材を収容してなる消音室と、前記本体ケーシングの上部後方から下部前方に連続した曲面部を形成すると共に、この曲面部に複数設ける細長形状の開口と、を備え、本体ケーシングの曲面部に形成する複数の開口の短手方向の開口寸法を、本体ケーシングの上部後方から下部前方に向かって異ならせることを特徴とする消音装置を提案する。
【0008】
上記提案の消音装置は、平面形状の音波導入板を前記開口の下縁から本体ケーシング内側方向に取り付けるのが望ましい。
【0009】
また、上記提案の消音装置は、曲面形状の反射板を前記開口の上縁から本体ケーシング内側方向に取り付けるのが望ましい。
【0010】
また、上記提案の消音装置は、前記反射板が楕円形状であることが望ましい。
【0011】
また、上記提案の消音装置は、前記音波導入板の前記開口下縁側の端部が前記反射板の第1の焦点に位置し、前記音波導入板の本体ケーシング内側の端部が前記反射板の第2の焦点に位置することが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、消音装置本体ケーシングの上部後方から下部前方にかけて連続して形成した曲面部に複数の開口を設け、その開口の短手方向の開口寸法を徐々に異ならせるので、騒音源から到達する音波を補足するのに、可聴音帯域の低音域から高音域の音波に対応した開口寸法の開口を形成することができる。したがって、特定の周波数だけでなく幅を持った帯域にわたる周波数成分を持つ騒音に対しても効果的にそのエネルギーを低減させることができる。
【0013】
また、上記開口の下縁から本体ケーシング内側に向かって平面形状の音波導入板を取り付けるので、騒音源から直接到来した音波や、防音壁にいったん当たった後に壁の上部において壁の裏側へ回り込もうとする音波が、開口下縁に現れる音波導入板の端部を回折点として回折現象を起こし本体ケーシング内側の消音室へと入り込む。したがって、開口の短手方向の開口寸法を徐々に異ならせる構造と相まって、本体ケーシングの上部から前部にかけてこれまでより回折点の数を増やすことができ、消音効果を高めることができる。
【0014】
また、上記開口の上縁から本体ケーシング内側に向かって曲面形状の反射板を取り付けるので、防音壁に当たることなく騒音源から直接到来した音波や、上記音波導入板で補足できなかった音波を、この反射板により消音室内部へ向けて反射させることができ、消音効果を高めることができる。
【0015】
また、上記反射板を楕円形状とし、2箇所に現れる焦点のうちの第1の焦点の位置に上記音波導入板の開口下縁側端部を置き、第2の焦点の位置に音波導入板の本体ケーシング内側端部を置いているため、反射板で反射させた騒音音波を効果的に消音室内部へ導くことができ、消音効果をより高めることができる。
以下、本発明の好適な実施形態を図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0016】
図1は本発明実施例に関わる消音装置の使用状態を示す説明図である。1は本発明による消音装置であり、この消音装置は、防音壁20の上部に壁の横幅方向にわたって載置した状態で設置する。その全体構成は、扇形の縦断面形状をもつ横長中空構造の本体ケーシングと、その本体ケーシング表面に形成された横長形状の複数の開口とからなり、本体ケーシングの内部にはその開口から取り込んだ騒音音波のエネルギーを低減させる消音室が設けられている。防音壁の上部に設置する際には、消音装置本体を横から見たときに扇形の弧の部分が騒音源の方を向くように取り付け、弧に沿って形成した複数の開口が騒音源の発する音波を捕らえる方向に向ける。騒音源が発する騒音音波は防音壁20に当たって騒音源の方向に反射されるが、騒音に含まれる低音域の音波の波長は防音壁20の高さに対して十分に長いため(防音壁の高さ約2メートルに対して、例えば100ヘルツの音波の波長は大体3.4メートル)、防音壁の上部において回折現象を起こして壁の裏側に回り込む。このとき、防音壁20の上部には消音装置1が取り付けられているため、壁の裏側に回り込もうとする音波を捕らえて前記開口から消音室内へと導き、そこで音波のエネルギーを低減して消音化を図るのである。
【0017】
次に図2を基にして消音装置の構造について詳細に説明する。図2は消音装置1の縦方向の断面を示す説明図である。2は本体ケーシングの底面を構成する底板であり、3は本体ケーシングの背面を構成する背板である。図2には全て現れていないが、消音装置本体ケーシングの両端には扇形の側板4a・4bを具備しており、この両側板と、底板2と、背板3とで本体ケーシングの側面、底面、背面を形作り、上部後方から下部前方にかけて側板の弧の形に沿って開口5が複数設けられている。この開口5は、消音装置1の横幅方向に細長い形状を有しており、本実施例では幅方向に伸びる長手寸法を1140mmとしている。この寸法は、騒音音波の内の最も消音させたい周波数の音波の波長と関係を持たせている。本実施例の場合、最も消音させたい音波を600ヘルツに設定しており、600ヘルツの音波の2波長に相当する長さである570mm×2=1140mmとしているのである。なお、この場合の600ヘルツは任意に設定した周波数であり、騒音源の種類に応じて最も消音効果を与えたい周波数を適宜設定可能であることはいうまでもない。
【0018】
ところで、開口5は異なる2つの部材によって構成されている。図2に示すように、複数設けられる開口5は、何れの開口も反射板6と音波導入板7によって形作られており、反射板6と音波導入板7との間には本体ケーシング内側の消音室9につながる導入口8を設けている。消音室9は、底板2と、背板3と、側板4a・4bと、反射板6と、音波導入板7とで構成される空間であり、底板2の内面側や背板3の内面側にはグラスウールやロックウール等の多孔質材または繊維質材からなる吸音材10が背後空気層を介在して貼付されると共に、導入口8から所定距離をおいた消音室内側にも吸音材10が取り付けられている。したがって、騒音源からこの消音装置1に到達した騒音音波は、開口5と導入口8を介して消音室9に導入され、消音室内で乱反射を繰り返すことによって反射波同士がエネルギーを打ち消し合ったり、あるいは吸音材の作用で音波の持つエネルギーが低減される結果、騒音音波のエネルギーが大幅に減少して消音効果が得られるのである。もちろん、騒音源から到達する直接波や防音壁20で回折する音波の全てをこの消音装置1で捕捉することはできず、捕捉しきれなかった騒音音波は防音対象の区域へと漏れていくが、騒音源が放った騒音のエネルギーは大幅に低減されるため、消音効果が得られるのである。尚ここで、消音室9の内壁面に対して背後空気層を介在させて吸音材10を取り付けているが、そうすることにより、背後空気層を介在させない場合より消音効果が向上することを本出願人の試験結果により確認した。更に、導入口8から消音室の内側に所定距離をおいて吸音材10を取り付けることにより、所定距離をおかない場合と比較して、やはり消音効果が向上することを本出願人の試験結果により確認した。
【0019】
さて、図2に示すように、開口を構成する反射板6は、その断面形状が楕円曲線を描くように曲面形状に形成されており、一方の端部が側板4bの弧の縁部に合わせて固定されている。そして、反射板6の楕円形状の焦点位置を基準にして音波導入板7の位置決めを行っている。具体的には、反射板6の(楕円の)第1の焦点の位置に音波導入板7の一方の端部が位置するようにし、それと同時に、反射板6の第2の焦点の位置に音波導入板7の他方の端部が位置するようにしている。この場合、第1の焦点の位置に合わせた音波導入板7の端部が開口5の開口下縁となり、側板4bの弧の縁部に合わせて固定した反射板6の端部が開口5の開口上縁となる。また、反射板6の第2の焦点の位置に合わせた音波導入板7の端部が、前記導入口8の位置に相当する。
【0020】
次に、複数設ける開口5の開口寸法について詳細に説明する。既に説明したように、本実施例の消音装置では、側板4a・4bの弧の形状に沿って開口5を複数設けているが、それらの開口は底板2の前方端(本体ケーシングの前部)から背板3の上方端(本体ケーシングの上部)にかけて短手方向の開口寸法12・13を徐々に短くしている。具体的な寸法を上げると、底板2の前方端に設ける開口5は開口寸法12が140mm、開口寸法13が285mmであるが、背板3の上方端に設ける開口5は開口寸法12を43mm、開口寸法13を85mmとしている。このときの各寸法値は消音させたい周波数の波長に基づいており、例えば、開口寸法12が140mm、開口寸法13が285mmの場合は周波数600ヘルツの波長570mmを基にして、4分の1波長である約140mm、2分の1波長である285mmとしているのである。また、開口寸法12が43mm、開口寸法13が85mmの場合は周波数2キロヘルツの波長170mmを基にして、4分の1波長である43mm、2分の1波長である85mmとしているのである。つまりは、600ヘルツから2キロヘルツの周波数帯域の中で消音させたい任意の周波数を決定し、その決定した周波数の波長に合わせた開口寸法の開口を複数設けているのである。開口寸法を特定の波長の2分の1または4分の1の長さに合わせることにより、その特定の波長の音波を開口に導入する効率を良くすることができる。
【0021】
次に本発明要部の動作について説明する。まず、騒音源から放出されて消音装置1に到達した騒音音波は、消音装置の下部前方から上部後方にかけて設けられた複数の開口のそれぞれ下縁を回折点として回折現象を起こし、音波導入板7の表面に沿って各導入口8に達し、消音室9の中へ入り込む。消音室9の内部に入った音波は吸音材10の作用でエネルギーを消耗したり、あるいは消音室内で乱反射を繰り返すことで互いにエネルギーを打ち消し合う波同士が出会い、結果として騒音源が放った騒音エネルギーが低減される。このとき、騒音源から到達する騒音音波には多くの周波数成分が含まれているが、既に説明したように、本発明では特に600ヘルツから2キロヘルツの帯域中の特定の周波数に効率を合わせた開口が設けられているので、各開口の開口寸法に応じた波長の騒音音波が効率よく消音室9内へ導かれて消音される。なお、各開口においては、その開口寸法に対応する波長の騒音のみが消音室内へと導入されるのではなく、効率は下がるものの他の波長の音波も導入される。また、複数の開口が本体ケーシングの下部前方から上部後方に連続して並んでいるため、騒音源から到達した音波は最初に本体ケーシング前部に位置する開口に達し、そこの開口下縁に当たった音波が回折するのであるが、回折を起こさずに漏れた音波は1つ上の開口に達しそこの開口下縁(1つ下の開口の開口上縁と実質的に同位置)に当たって回折を開始し、以降同様にして各開口で回折を起こさずに漏れた音波は1つ上に位置する開口に達して回折を起こす動作を繰り返すのである。またこのとき、開口の音波導入板7で回折を起こさずに漏れた音波の一部は反射板6に当たって焦点である導入口8に向かって反射する。その結果、回折の作用だけでなく反射の作用によっても音波を消音室内に導くのである。
【0022】
以上のように本発明では、消音装置に設ける複数の開口の開口寸法を騒音音波の波長に基づいて異ならせるので、所定の帯域にわたる騒音のエネルギーを効率良く低減させることができると共に、騒音音波が回折現象を起こす起点となる回折点を、開口寸法を全て同寸法とする場合より多く設けることができ、したがって総合的に消音効果を高めることが可能になる。
【0023】
本発明は以上のように構成されるが、上記実施例に限定されることなく特許請求の範囲内で種々の実施が可能である。例えば、消音装置の本体ケーシング下部前方から上部後方にかけて設ける開口の数は図2の例に限定されることなく適宜設定可能である。また、開口寸法を決める際の基になる周波数についても適宜選定可能であり、さらに異なる開口寸法の開口を配列する向きや配列順も適宜設定可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明実施例に関わる消音装置の使用状態を示す説明図である。
【図2】消音装置1の縦方向の断面を示す説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1 消音装置(本体ケーシング)
2 底板
3 背板
4a、4b 側板
5 開口
6 反射板
7 音波導入板
8 導入口
9 消音室
10 吸音材
12、13 開口の短手方向の開口寸法
20 防音壁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音源から到達する騒音の音圧を低減する消音装置において、
内側に所定容積の空間を備える本体ケーシングと、
前記本体ケーシング内側にグラスウール等の繊維質材または多孔質材を収容してなる消音室と、
前記本体ケーシングの上部後方から下部前方に連続した曲面部を形成すると共に、この曲面部に複数設ける細長形状の開口と、を備え、
本体ケーシングの曲面部に形成する複数の開口の短手方向の開口寸法を、本体ケーシングの上部後方から下部前方に向かって異ならせることを特徴とする消音装置。
【請求項2】
請求項1記載の消音装置において、平面形状の音波導入板を前記開口の下縁から本体ケーシング内側方向に取り付けたことを特徴とする消音装置。
【請求項3】
請求項1または2何れか記載の消音装置において、曲面形状の反射板を前記開口の上縁から本体ケーシング内側方向に取り付けたことを特徴とする消音装置。
【請求項4】
請求項3記載の消音装置において、前記反射板が楕円形状であることを特徴とする消音装置。
【請求項5】
請求項4記載の消音装置において、前記音波導入板の前記開口下縁側の端部が前記反射板の第1の焦点に位置し、前記音波導入板の本体ケーシング内側の端部が前記反射板の第2の焦点に位置することを特徴とする消音装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−15069(P2008−15069A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184169(P2006−184169)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(000103138)エムケー精工株式会社 (174)
【Fターム(参考)】