説明

液体の成分を蒸発させる方法

本発明の対象は、1013ミリバールで高沸点の成分および沸騰しない成分から選択された成分Aと、20℃および1013ミリバールでガス状の成分および高沸点成分Aよりも少なくとも30゜K低い温度で沸騰する成分から選択される成分Bを有する液体の成分を蒸発させる方法であり、この場合少なくとも1つの成分は、少なくとも部分的にイオンに解離し、その際液体は、交互の導通によって加熱される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交換流を導通させることによって液体の成分を蒸発させる方法に関する。
【0002】
処理技術の範囲内で、熱い表面上での効率的な熱伝達のために伝熱面と加熱すべき液体との温度差をできるだけ高くしなければならないことは、久しく公知である。しかし、前記原則を追求する場合には、ガス含有分または低沸点分を含む液体を加熱する際に問題が生じる。表面温度が低沸点成分の沸点での臨界的な温度差を超えて上昇する場合には、伝熱面上に蒸気被膜が形成され、この蒸気被膜は、伝熱面の液体を熱的に分離し、したがって熱流を劣化させる。この現象は、"損傷凍結(Leidenfrost)"現象として公知である。従って、このような場合に、液体中への必要な熱搬入は、熱交換面積を上昇させることによってのみ達成させることができる。しかし、他面、装置の性状および前提条件のために、伝熱面のこのような上昇は、不可能であるかまたは極めて費用がかかる。
【0003】
アルキルクロロシランは、所謂SiおよびMeClからの直接合成の方法で製造される。この場合には、異なる沸点を有する種々のアルキルクロロシランの錯体混合物が得られる。目的生成物は、71℃(1013ミリバール)の沸点を有するジクロロジメチルシランである。直接合成から得られた生成物混合物から純粋なアルキルクロロシランを蒸留により取得する場合には、71℃を上廻る沸点を有する蒸留残渣が生じる。SiSi、SiOSi、SiCSi、SiCCSiおよびSiCCCSi構造を有する化合物を含有する錯体物質混合物が重要である。
【0004】
前記の所謂高沸点物の組成は、例えば欧州特許第0635510号明細書中に正確に記載されている。原料物質に応じてかまたは触媒作用を有する成分の意図的な添加の結果として、直接合成の生成物流中には、Siと共に、他の不純物がCu、Zn、Sn、Al、Fe、Ca、Mn、Ti、Mg、Ni、Cr、B、PならびにCの形で存在する。前記不純物は、懸濁された形または溶解された形で存在する。溶解された不純物は、多くの場合に塩化物である。
【0005】
蒸留残渣を加熱するために、公知技術水準により、例えば循環蒸発器、薄膜蒸発器、短路蒸発器または管状熱交換器が使用される。しかし、熱伝達の際に前記問題が存在する、低沸点成分の分離後に、熱の影響下および懸濁されたかまたは溶解された不純物の存在下でなお含有されている液状成分の熱安定性は、減少する。オリゴマー化および重合反応が生じる。混合物の粘度は、上昇する。特に、使用された蒸発器の熱い表面上で管路内の望ましくない堆積物の分離が生じる。物質とエネルギーの交換は、ますます阻止される。それによって減少された熱伝達のために、蒸発器表面の表面温度は、さらに上昇され、このことは、再び前記蒸発器表面の加速された被覆をまねく。
【0006】
前記装置は、しばしば清浄化されなければならない。留出物の収量は、下降する。装置の利用可能性は、不満足なものである。
【0007】
公知技術水準による上記方法の欠点は、熱搬入の原理である。液状シラン上への熱伝達は、熱い表面、例えば金属または黒鉛を介して行なわれ、これら金属または黒鉛は、再び熱キャリヤー(水蒸気、熱キャリヤー油)または電気的加熱素子によって加熱される。
【0008】
前記様式の熱伝達の場合、熱伝達媒体の表面温度は、加熱すべき液体よりも高くなければならない。このよりいっそう高い表面温度は、前記問題の原因である。
【0009】
本発明の対象は、1013ミリバールで高沸点の成分および沸騰しない成分から選択された成分Aと、20℃および1013ミリバールでガス状の成分および高沸点成分Aよりも少なくとも30゜K低い温度で沸騰する成分から選択される成分Bを有する液体の成分を蒸発させる方法であり、この場合少なくとも1つの成分は、少なくとも部分的にイオンに解離し、その際液体は、交流の導通によって加熱される。
【0010】
ガス含有含分または低沸点含分を含有する導電性液体を加熱する場合には、殆んど全エネルギーは、液体中で加熱のために利用される。それというのも、熱絶縁性蒸気フィルムは、熱伝達を阻止しないからである。容器および管路の表面は、付着物を含有しないままである。
【0011】
加熱温度または蒸発温度は、極めて迅速に狭い許容範囲内で制御可能である。それというのも、熱い表面上での熱伝達は、存在しないからである。
【0012】
液体流を中断した場合には、熱い表面を通じての液体の過熱を予め計算に入れることができず、熱の搬入は、突然に交流の供給の遮断によって中断されうる。
【0013】
交流によって発生された電界は、電荷キャリヤーを振動にもたらし、それによって液体が加熱される。先に導電性でない液体は、適当な塩の添加によって導電性にされることができ、したがって電圧を印加した場合には、望ましい加熱が始まる。
【0014】
高沸点で沸騰しない成分Aは、部分的または完全にイオンに解離することができ、即ち導電性であってもよいし、非導電性であってもよい。高沸点で沸騰しない成分Aが非導電性である場合には、成分Bは、導電性でなければならない。導電性成分Bの例は、ガス状の低沸点の酸、例えば蟻酸、酢酸、塩酸、硝酸ならびにガス状の低沸点の塩基、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミンおよびアンモニアである。
【0015】
特に、成分Bは、高沸点の成分Aよりも少なくとも40゜K、殊に少なくとも50゜K低い。
【0016】
特に、交流電圧は、少なくとも10V、殊に少なくとも50V、特に最大1000Vである。特に、交流電圧の周波数は、少なくとも10Hz、殊に少なくとも30Hz、特に最大10000Hz、殊に最大10000Hzである。交流は、回転流も一緒に閉じ込める。
【0017】
液体の比電気抵抗は、特に1010Ωm〜106Ωm、殊に109Ωm〜108Ωmである。
【0018】
本方法は、連続的または非連続的に実施することができる。
【0019】
本方法の好ましい装置は、次のように構成されている:液体は、電極として機能する、2個以上の互いの中へ接続された管からなる管類似の加熱器中に存在するかまたは前記加熱器中で循環する。電極には、交流電圧が印加される。特に回転対称に配置された管の中間空間は、液体で充填され、この液体は、交流によって加熱される。2個以上の内在する管は、電気絶縁によって分離され、互いに外向きに液密に結合される。
【0020】
電極の材料は、導電性でなければならず、例えば金属または黒鉛であってよい。
【0021】
1つの好ましい実施態様において、アルキルクロロシラン蒸留の導電性の留分、例えば71℃を上廻る沸点を有するメチルクロロシランの直接合成からの前記蒸留残渣は、交流の導通によって加熱される。含有された不純物のために、この不純物は、十分な導電性を有する。1・10Ωm〜10・107Ωmの比電気抵抗の値が算出される。イオンに解離された成分は、蒸留の際に蒸発器の塔底部中に残留したままであるかまたは塔底部流出管を介して連続的に排出され、留出物の品質に影響を及ぼすことはない。
【0022】
もう1つの好ましい実施態様において、クロロシランとエタノールまたはメタノールとの導電性反応混合物は、交流の導通により加熱され、蒸発されるかまたは排気される。
【0023】
もう1つの好ましい実施態様において、クロロシラン、例えばテトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシランまたはこれらの混合物、および場合によっては含水のアルコール、エタノールまたはメタノールから製造された導電性の反応混合物は、交流の導通により加熱される。この反応の変換は、反応時に発生するHClガスを温度の上昇によって駆出させることによってのみ完結させることができる。前記混合物は、HClで飽和されているので、加熱の場合には、熱交換器により直ちに熱絶縁性のガス層が、該熱交換器の境界面で形成される。交流による加熱は、前記問題を回避させ、空間需要に対して安価な極めて効果的な加熱を可能にする。それというのも、熱は、直接に液体体積中で発生され、熱交換器の大きな境界面上に輸送される必要はないからである。
【0024】
以下の実施例では、別記しないが限り、
a)全ての量は質量に対するものであり;
b)全ての圧力は0.10MPa(絶対圧)であり;
c)全ての温度は20℃である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例を説明する、加熱−、蒸発装置を示す断面図。
【実施例】
【0026】
例:
実施例は、図1で説明され、この図1には、加熱−、蒸発装置が断面図で示されている。
【0027】
この場合、液体(5)は、下方から加熱−、蒸発装置中に流入し、この液体は、中間空間(4)内で加熱され、加熱された液体または蒸気(6)として上方へ再び流出する。回転対称に配置された電極(1)と(2)との間に交流を流す。電極(1)と(2)は、前記絶縁体(3)によって互いに分離されている。電極(1)と(2)は、ガラス容器(10)中に取り付けられている。蒸気を充填塔(9)中に導入する。分離型変圧器(Trenntransformator)(7)および電流制御ユニット(8)は、電極(1)と(2)に制御可能な電気エネルギーを供給する。
【0028】
加熱−、蒸発装置の技術的データ:
電極材料:Cr、Ni鋼、
電極(1)の長さ:200mm、
電極(1)の直径:50mm、
電極(2)の直径:30mm、
電極間隔(4):10mm、
液体体積:700ml。
【0029】
測定結果:
蒸発試験の開始:
入口(5)での液体の温度30℃、
容器(4)での液体の温度30℃、
電圧:240V、周波数:50Hz、電流:0.3A、
比電気抵抗:4.5・109Ωm、
出口(6)での温度(蒸気):30℃、
電極(1)および(2)の温度:30℃、
連続的蒸発工程中:
入口(5)での液体の温度30℃、
電圧:240V、周波数:50Hz、電流:0.3A、
容器(4)での液体の温度220℃、
比電気抵抗:4.5・108Ωm、
出口(6)での温度(蒸気):190℃、
電極(1)および(2)の温度:220℃、
電極(1)および(2)の表面は、50時間の運転後に付着物も結垢も示さず、電極材料の削磨(Abtrag)も確認することができなかった。
【符号の説明】
【0030】
1、2 電極、 3 絶縁体、 4 中間空間、 5 液体、 6 加熱された液体または蒸気、 7 分離型変圧器(Trenntransformator)、 8 電流制御ユニット、 9 充填塔、 10 ガラス容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1013ミリバールで高沸点の成分および沸騰しない成分から選択された成分Aと、20℃および1013ミリバールでガス状の成分および高沸点成分Aよりも少なくとも30゜K低い温度で沸騰する成分から選択される成分Bを有する液体の成分を蒸発させる方法であって、この場合少なくとも1つの成分は、少なくとも部分的にイオンに解離し、その際液体は、交流の導通によって加熱されることを特徴とする、液体の成分を蒸発させる前記方法。
【請求項2】
成分Bは、高沸点成分Aより少なくとも40゜K低い温度で沸騰する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
交流電圧は、10〜1000Vである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
交流電圧の周波数は、10〜10000Hzである、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
液体の比電気抵抗は、1010Ωm〜106Ωmである、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−509267(P2010−509267A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535690(P2009−535690)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【国際出願番号】PCT/EP2007/061825
【国際公開番号】WO2008/055853
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】