説明

液体を処理する方法及び装置

本発明は、液体−ガス間物質移動操作において発泡性液体又は高粘度液体を処理し、且つフラッディングを防止する方法及びカラムに関する。この操作は、該カラムの液体出口における圧力以上の圧力を液体入口において用いることによって行われる。該カラムは、少なくとも1つのトレイを収容する単一外殻(7)を備え、この外殻には、少なくとも1つの液体入口(1)と、1つの液体出口(11)と、該各トレイに対する別個の1つのガス入口(5)と、該カラムを出るガス用の少なくとも1つの出口(2)とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体−ガス間物質移動操作において発泡性液体又は高粘度液体を処理し、且つフラッディングを防止する方法、及びかかる操作に利用されるカラムに関する。
【背景技術】
【0002】
液体−ガス間物質移動操作、及びかかる操作に利用されるプロセス装置は、化学工学便覧(Chemical-Engineers' Handbook)においてR.H.Perry及びC.H.Chiltonによって記載されている。しかしながら、液体−ガス間接触のためにカラムを使用する上記の従来のプロセス装置は、発泡性液体及び高粘度液体の処理に伴う問題を有する。
【0003】
従来のプレートカラム又は充填カラムは、ガス用の1つの入口及び1つの出口を有する。発泡性液体が従来のプレートカラム又は充填カラムに供給される場合、発泡性液体が発泡してカラム内でフラッディングを引き起こすということが実験で示されている。フラッディングの際、発泡性液体は、ガスとともに運ばれてカラムの頂部から出るが、カラムの底部における圧力がより高いため、カラムの底部にある液体出口からは出ない。
【0004】
上記カラムでは、発泡を防止するのに消泡剤が一般に用いられる。このことは、カラム操作のコスト及びパフォーマンスに影響を及ぼし、製品特性及び周囲に悪影響を及ぼす可能性もある。例えばPVC(ポリ塩化ビニル)ラテックスのような発泡性液体によっては、消泡剤を使用しても、未反応のVCM(塩化ビニルモノマー)を取り除くために従来のカラムでストリッピングを行うことを妨げる程に発泡するものもある。
【0005】
発泡性液体を用いる場合の操作を可能にするために、濡れ壁塔又は噴霧チャンバを用いてもよいが、特に発泡性液体が固体分を含有している場合、効果的な液体−ガス間物質移動を得るには滞留時間が短すぎる可能性がある。拡散法則により、固体、液体、及びガスの間の液体−ガス間物質移動が決まり、発泡性液体が例えばスラリー液及びラテックスのような固体分を含有している場合には長い滞留時間が必要となる場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主要な目的は、液体−ガス間物質移動操作において発泡性液体又は高粘度液体を処理し、且つフラッディングを防止する方法に至ることである。
【0007】
本発明の別の目的は、上記方法を行うためのカラムに至ることである。
【0008】
これらの目的は、液体出口における圧力以上の圧力を液体入口において用いることによる本発明に従って達成される。結果として、泡状の液体が、その液体に対して対向流方向に流れるガスと一緒に運ばれることなくカラムの下方に強制的に押しやられる。フラッディングは回避される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来のカラムでは、2つのトレイ間の差圧は、トレイでの液体の静止高さの圧力とトレイ内の圧力損失とで決まる。しかしながら、本発明によるカラムでは、トレイはトレイプレート、当該トレイプレートの下方の槽(basin)プレート、及び/又は堰及び/又はダウンカマーを含む。したがって、上記トレイは、液体の静止高さの圧力、及びプレート内のガスの圧力降下をなくして、カラム圧を制御する。さらに、ガスは、ガス入口から上記トレイに供給され、上記トレイプレートと槽プレートとで形成されるチャンバに流れ込むことで、カラム内のガスがトレイに入って通過するのを防止する。トレイプレートと槽プレートとで形成されるチャンバは、カラムの内部よりも高い圧力を有する。そのため、ガスは、トレイを通らずにはカラムに入らないように押しやられる。したがって、カラムは、液体出口における圧力以上の圧力を液体入口において用いて操作することができる。上記カラムを操作するこの方法は、当該カラムからの1つ又は複数のガス出口、及び各トレイに対して別個の1つのガス入口を必要とする。液体出口における圧力以上の液体入口における圧力は、種々の圧力降下とともにいくつかのガス出口を用いることによって得ることができる。入口流及びカラム内の圧力勾配を調整することによって、適正な滞留時間を得ることができるため、高粘度液体又は発泡性の高い液体を用いても効果的な液体−ガス間物質移動を得ることができる。
【0010】
上記トレイプレートの下方の槽プレートは、カラムからの1つ又は複数のガス出口及び各トレイに対して別個の1つのガス入口と同様に、本発明における重要な特徴である。
【0011】
カラムは、1つのトレイ又は複数のトレイを有し得る。複数のカラムを直列に設置することができる。或いは、充填材をトレイプレートの代わりに用いることができる。
【0012】
したがって、本発明によって、従来の液体−ガス間物質移動操作の欠点及び従来のカラムの欠点が解消される。
【0013】
本発明は、例えば、界面活性剤含有液体、食品産業用液体及び高粘度油留出物(アスファルト)のような、従来のカラムで処理することができない発泡性液体及び高粘度液体に適用することができる。
【0014】
本発明は、以下の図面及び実施例においてさらに説明し考察する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、3つのトレイ(トレイ1、2、3)、液体入口1、1つの液体出口11、各トレイに対する1つのガス入口5、及び各トレイからの1つのガス出口2を有するカラムの縦断面図を示す。
【0016】
発泡性のある液体が管1からカラムに供給される。液体は発泡を開始し、ガスに続いて弁1aを通る。このような望ましくない泡の流れを防止するために、弁1aが閉じられ、トレイ1からの泡及びガスがトレイ1からトレイ2に強制的に押しやられる。次いで、弁1aが徐々に開かれて弁1aからガスを流すが、トレイ1における圧力を、泡がトレイ1からトレイ2になおも強制的に押しやられる程度まで、トレイ2における圧力以上に保持する。同様の手順をガス出口弁2a、次いでガス出口弁3aに適用して、発泡性液体をカラムのさらに下流に至らせる。出口弁の下流では、圧力は全出口について同じレベル(例えば大気レベル)に維持される。ガスは、管(複数可)5、弁1b、2b、及び3b、並びにトレイプレート4を通ってカラムに入り、それぞれ、出口弁1a、2a、3a、さらに管(複数可)2を通ってカラムから流れ出る。下部(bottom)プレート(複数可)6は槽プレートであり、ガスがトレイプレート4を通らずにはカラムに入らないようにする。上記プレート6は、カラム圧への影響を防ぐという点で重要である。各トレイは、堰又は/及びダウンカマー3を備えることができる。堰の高さは、トレイの液体容積を変えることになるため、カラム内での滞留時間に影響を及ぼす。堰/ダウンカマー3の高さは、ゼロから数メートルとすることができる。カラムの底部の液位は弁4cによって制御される。7はカラム壁である。
【0017】
次いで、カラムの上部における圧力がカラムの下部における圧力以上を有するようにカラム圧が調整される。トレイ1とトレイ2との間の差圧及び重力により、トレイ1からトレイ2へのフロス、泡、液体及びガスの流れの抵抗が克服されねばならない。これにより、高粘度又は泡状であっても、カラムの液体入口から液体出口へ液体が強制的に押し流される。操作中に泡形成が増す場合、トレイ1の上方の圧力を増大させる代替的な方法は、弁1bからのトレイ1へのガス流を増加させることである。これにより、トレイ1での圧力が増大し、トレイ1からトレイ2へ液体が強制的に押しやられる。
【0018】
図2は、本発明によるカラム内の代替的な設計のトレイを示す。管1は液体入口であり、管2はガス出口であり、3は堰/ダウンカマーであり、4は濾板であり、管5はガス入口であり、6は槽プレートであり、7はカラム壁であり、8は多孔管であって、濾板又はトレイプレートに比して、トレイ内のガス用の代替的な分配装置であり、9はトレイ内でのガス分配を高める充填材である。
【0019】
図3は、本発明による液体−ガス間物質移動操作を行うパイロットプラントを示す。管1は液体入口であり、H01は直接蒸気加熱器であり、管2はガス出口であり、4は第1の濾板であり、6は槽プレートであり、10は外側ダウンカマー(図1の内側ダウンカマー3と同機能)である。A、B、C、及びDは濾板と槽プレートとの間の距離である。V01は、H01に対するガス制御弁である。V02、V03、及びV04は、図1の1b、2b、3bに対応するガス入口制御弁である。V06、V07、及びV08は、図1の1a、2a、3aに対応するガス出口制御弁である。Pr1、Pr2、Pr3、及びPr4は、サンプリング地点である。Pl01及びPl02は圧力測定である。弁4cを用いてトレイ4の液位を制御する。
【0020】
本発明者の驚くべきことに、泡形成性はトレイ1の下流の各トレイについて低減した。この作用は、滞留時間が長いほど泡が少なくなるので(それは、カラムの下方での発泡が少ないことによって観察される)、滞留時間に左右される。
【0021】
この作用は、例えば米国特許第4,297,483号に記載のような従来のカラムにおいて、上部トレイ(複数可)の代替として本発明を用いることによって利用することができる。これにより、このようなカラムが消泡剤を使用せずに発泡性液体を処理することができるようになる。
【0022】
別の利点は、堰の高さ、したがって、液体容積からの圧力がトレイ内の圧力を低く制御しないため、滞留時間が広い範囲にわたって制御されることができるという点である。
【0023】
ガス及び液体の流れが上述のように維持される場合、トレイプレート(複数可)4は、槽プレートによる高い圧力降下を有するように、また、例えば篩、弁、気泡カップ(bubble cup)、充填材(packed)、及び焼結材(sintered)のような広範の設計を有するように設計されることができる。
【0024】
上記設計により、本発明によるカラムは、大気圧を超えて且つ大気圧下での双方で、且つ広範の温度で操作することができる。濾板プレートでは、孔径は0.01mm(焼結金属)以下から10mmを超える範囲で様々とすることができ、典型的には1.5mmである。滞留時間は、1秒未満から数時間であるように所定のカラムの堰の高さを選択することによって設定することができる。
【実施例】
【0025】
〔実施例1〕未反応のVCMを取り除くためのペースト状PVCのストリッピング
ペースト状PVC(ポリ塩化ビニル)の連続ストリッピングを本発明による4つのトレイプレートのカラム内で行い、未反応の塩化ビニルモノマー(VCM)を取り除いた。このカラムは図3に示される。
カラム径:150mm
距離A:1100mm
距離B:1190mm
距離C:880mm
距離D:880mm
ガス出口2の直径:40mm
濾板プレート厚:5mm
トレイプレートの孔数:12
トレイプレートの孔径:2mm
トレイ4の温度:54℃
【0026】
40%の乾燥分含量及び200nmの平均粒径を有する発泡性エマルジョンPVCラテックスをトレイ1から供給してトレイ4から出した。ラテックスは、トレイ1から管10を通ってトレイ2へ浮遊し、さらにトレイ2及びトレイ3を通って出口へ向かった。供給したVCMの濃度は554ppmであった。トレイ1における圧力はトレイ2における圧力と同じであるか又はトレイ2における圧力よりも2000Pa(0.02バール)高く、トレイ3における圧力はトレイ2における圧力よりも500Pa(0.005バール)低く、トレイ4における圧力はトレイ3における圧力よりも50Pa(0.0005バール)低かった。トレイ4における圧力は15000Pa(0.15バール)であった。蒸気を450000Pa(4.5バール)の圧力の不活性ガスとして用いた。
【0027】
ストリッピングプロセスの結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示すように、VCMの濃度は滞留時間及びトレイ数が増すにつれて下がり、非常に低い濃度に達する。従来のカラムでは、比較例に示すように発泡によりストリッピングが不可能である。
【0030】
〔実施例2〕残存している酢酸ペンチルを多孔質ポリスチレン粒子から取り除くための、多孔質ポリスチレン粒子を有するラテックスの蒸気蒸留
残存している酢酸ペンチル(沸点140℃)を多孔質ポリスチレン粒子から取り除くための、多孔質ポリスチレン粒子を有するラテックスの蒸気蒸留を、図3の上記カラムと同様の設計を有するカラム内で行った。そのデータを下記に示す。
カラム径:300mm
トレイ数:3
トレイ距離:1500mm
トレイ3の圧力:40000Pa(0.4バール)
トレイ3の温度:76℃
トレイ1及び2の圧力:40000Pa(0.4バール)をわずかに超える
供給量:178kg/h
蒸気供給量:57kg/h(全トレイの合計)
供給したポリスチレン粒子の乾燥分:17.8kg/h
供給した酢酸ペンチル:16.8kg/h
ガス出口における酢酸ペンチル:16.46kg/h
ガス出口におけるポリスチレン粒子:0kg/h
液体ラテックス中の酢酸ペンチル:0.34kg/h
平均滞留時間:25分
【0031】
この実施例は、液体ラテックスから約98%の酢酸ペンチルを取り除くことができたが、比較例に示すように従来のカラムを用いる場合では不可能であることを示す。
【0032】
〔実施例3〕発泡性液体の処理
ドデシル硫酸ナトリウムを0.2重量%含有する水を、実施例2において用いたのと同じカラムに通すと、重い発泡性液体はガス出口でいかなる泡もなく液体入口から液体出口へ流れることを示した。
トレイ3の圧力:40000Pa(0.4バール)
トレイ1及び2の圧力:40000Pa(0.4バール)をわずかに超える
供給量:150kg/h
蒸気供給量:50kg/h(全トレイの合計)
【0033】
泡及び液体は全て液体出口の方へ進み、本発明による上記カラムは上述したように働くことを示す。
【0034】
〔比較例〕
実施例1、2及び3における液体を従来の濾板カラムに通した。
カラム径:150mm
トレイ距離:300mm
上部トレイからガス出口までの距離:2000mm
トレイプレートの孔数:22
トレイプレートの孔径:4mm
トレイ数:5
堰の高さ:5mm〜250mmの範囲で様々
ダウンカマーの高さ:60mm〜296mmの範囲で様々
温度:55℃
圧力:15000Pa(0.15バール)
供給量:0.1〜2L/分
蒸気供給量:0.1〜4kg/h
カラム液体出口:0.1〜2L/分
【0035】
液体がダウンカマーの高さ又は堰の高さの変動に関係なく沸騰している場合、3つの液体全てについて、液体及び泡は全てガスに追随しカラムから出た。したがって、発泡性液体を用いる場合では従来のカラムを操作することはできなかった。
【0036】
これら実施例は、従来のカラムが発泡性液体を処理するのには適さないことを示す。しかしながら、本発明による方法及びカラムは、発泡性液体を処理することを可能にし、液体−ガス間物質移動操作において非常に効果的であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明によるカラムの縦断面を概略的に示す図である。
【図2】本発明によるカラムのトレイの代替的な設計の縦断面を概略的に示す図である。
【図3】本発明による液体−ガス間物質移動操作を行うパイロットプラントの一例を概略的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのトレイを備えるカラム内で行われる液体−ガス間物質移動操作において発泡性液体又は高粘度液体を処理し、且つフラッディングを防止する方法であって、
該操作は、該カラムの液体出口における圧力以上の圧力を液体入口において用いることによって行われることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記操作は、前記液体入口に近いトレイにおける圧力を、泡が液体の流れに強制的に沿う程度まで、液体流に沿った次のトレイにおける圧力以上に保持することによって行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガスは、各トレイを通って前記カラムに入り、該カラムの1つ又は複数のガス出口から出ることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ガスは、ガス入口から各トレイに供給され、トレイプレートと該トレイプレートの下方の槽プレートとで形成されたチャンバに流れ込み、それにより、前記カラムの内部からのガスが該チャンバに入らないようにすることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つのトレイを収容する単一外殻(7)を備えた、液体−ガス間物質移動操作を行うカラムであって、
該外殻には、少なくとも1つの液体入口(1)と、1つの液体出口(11)と、前記各トレイに対する別個の1つのガス入口(5)と、ガスが該カラムを出るための少なくとも1つの出口(2)とが設けられていることを特徴とするカラム。
【請求項6】
前記トレイは、トレイプレート(4)と、該トレイプレートの下方の槽プレート(6)とを備えることを特徴とする請求項5に記載のカラム。
【請求項7】
前記トレイは、トレイプレート(4)と、該トレイプレートの下方の槽プレート(6)と、堰及び/又はダウンカマー(3)とを備えることを特徴とする請求項5に記載のカラム。
【請求項8】
前記トレイプレートは、濾板、充填材、気泡キャップトレイ、弁トレイ又は多孔管であることを特徴とする請求項6又は7に記載のカラム。
【請求項9】
前記トレイは、多孔管(8)と、該多孔管(8)の下方の槽プレート(6)とを備えることを特徴とする請求項5に記載のカラム。
【請求項10】
前記トレイは、多孔管(8)と、該多孔管の下方の槽プレート(6)と、充填材(9)とを備えることを特徴とする請求項5に記載のカラム。
【請求項11】
発泡性液体又は高粘度液体からある成分を取り除くプロセスであって、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法と、請求項5〜10のいずれか一項に記載のカラムとを、該プロセスに用いることを特徴とするプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−501504(P2008−501504A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−514961(P2007−514961)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【国際出願番号】PCT/NO2005/000174
【国際公開番号】WO2005/117529
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(507277837)ポリマーズ・ホールディング・アーエス (1)
【氏名又は名称原語表記】Polymers Holding AS
【住所又は居所原語表記】Drammensveien 264, 0240 Oslo, Norway
【Fターム(参考)】