説明

液体ホーニング用噴射ガン

【課題】 ホーニング加工の際に、巾広直線状にスラリーを噴射する技術は、平面状の被加工物を効率良く加工出来るものとして大いに注目されているが、巾広直線状にスラリーを均一に噴射することはなかなかむずかしく、噴射巾は90mm程度が限界であった。
【解決手段】 中空で、横長直方体状を呈した噴射ガン基部を上下二段に区画し、基部内に設けられているスラリーチャンバーとエアチャンバーとをそれぞれ上下二室に分割し、スラリー及び高圧エアがそれぞれこれらを通過することにより、濃度や圧力が均一化、平準化される様にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体ホーニング用噴射ガン、詳しくは、被加工物表面に向けて巾広直線状にスラリーを噴射し、広い幅で均一な加工を行うことが出来る液体ホーニング用噴射ガンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
研磨材と水との混合物であるスラリーを被加工物表面に向けて噴射する液体ホーニングは、各種プリント基板のバリ取り、金属部品の表面加工等に広く用いられており、その中でも巾広直線状にスラリーを噴射する技術は、平面状の被加工物を効率よく加工出来るものとして、大いに注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3315672号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】なし
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
巾広直線状にスラリーを噴射する為には専用の噴射ガンが必要であり、従来からいくつかのものが提案されている。しかしながら、巾広直線状でかつ均一にスラリーを噴射するのは技術的にかなりむずかしく、均一にスラリーを噴射出来る巾は、90mm程度が限界であり、それ以上の巾で均一加工を行える噴射ノズルは見当たらなかった。本発明者は、この巾広直線状のスラリーの噴射技術に関し、より広い巾で均一にスラリーを噴射出来る新しい噴射ガンを開発することに成功し、本発明として、ここに提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一対の左右壁体、一対の前後壁体、一対の上下壁体とからなる中空で横長直方体状を呈した噴射ガン基部の内部空間に、上下をほぼ均等に隔てる水平隔壁を長手方向に向って設けて、上部空間と下部空間とに区画し、更に、前記水平隔壁上面と上壁体下面との間に、前後をほぼ均等に隔てる垂直隔壁を長手方向に向かって設けて、上部空間の一方を第一スラリーチャンバー、もう一方を第一エアチャンバーとし、第一スラリーチャンバー直上の上壁体に複数のスラリー取入口を、第一エアチャンバー直上の上壁体に複数のエア取入口をそれぞれ設けると共に、下部空間内に下部にスラリー通過用すき間が形成される様に、断面が逆L字形を呈したスラリーチャンバー側下部垂直隔壁と、上部にエア通過用すき間が形成される様に、同じく断面が逆L字形を呈したエアチャンバー側下部垂直隔壁とを、センターラインを中心として前後対称に設けて、第一スラリーチャンバー直下の下部空間を第二スラリーチャンバー、第一エアチャンバー直下の下部空間を第二エアチャンバーとし、第一スラリーチャンバーと第二スラリーチャンバー及び第一エアチャンバーと第二エアチャンバーを隔てる水平隔壁に表裏を貫通した長孔状のスラリー通過孔及びエア通過孔をそれぞれ設けると共に、先端に高圧エアを噴射する小径のエアノズルが多数一列に配置され、前後に張り出し片が一体的に設けられている長尺箱形をなしたエアノズルブロック体を、前記エアノズルの軸芯と垂直隔壁の上下方向センターラインとが一致する様に、前記スラリーチャンバー側下部垂直隔壁とエアチャンバー側下部垂直隔壁との間に、下向きに固定し、エアノズルブロック体とスラリーチャンバー側下部垂直隔壁とエアチャンバー側下部垂直隔壁とで囲われた空間を混合室とし、更に、前記混合室直下の下壁体に、上方が開いたテーパ状のフラットノズル接続長孔を形成し、偏平直方体状をなし、肉厚方向中央に巾広のスラリー通過用スリットが形成されているフラットノズルを、そのスラリー通過用スリットが前記フラットノズル接続長孔に連通する様に、下壁体の下面に固定することにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0007】
噴射ガン基部のスラリー取入口からスラリーを、エア取入口から高圧エアをそれぞれ供給し、エアノズルから噴射される高圧エアによってスラリーを加速し、フラットノズルから偏平な噴流として被加工物に向かって噴射させて、バリ取り等の加工を行うものであるが、スラリーは一旦、第一スラリーチャンバーに導入された後、スラリー通過孔を通って第二スラリーチャンバーに送られて均一化、平準化されるので、噴射ガン基部が長尺状であっても、スラリーの供給量や濃度に部分的な不均一が生じることはなくなる。同様に高圧エアも一旦第一エアチャンバーに導入された後、エア通過孔を通って、第二エアチャンバーに送られるので、供給量や圧力は均一化、平準化され、部分的な圧力の不均一が生じることはなくなる。
【0008】
従って、スラリー及び高圧エアはフラットノズルの各部分に均一に供給され、従来のものより広い巾で均一加工を実施することが可能となる。ちなみに、従来のものにおいては、加工巾は90mm程度が限度であったが、この発明に係る液体ホーニング用噴射ガンでは、300mmの巾で均一な加工を行うことが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明に係る液体ホーニング用噴射ガンの実施例1の正面図。
【図2】同じく、その平面図。
【図3】同じく、その底面図。
【図4】同じくその側面図。
【図5】図1における矢視A−A線拡大断面図。
【図6】図2における矢視B−B線断面図。
【図7】図2における矢視G−G線断面図。
【図8】図1における矢視F−F線断面図。
【図9】図1における矢視E−E線断面図。
【図10】図1における矢視D−D線断面図。
【図11】図1における矢視H−H線断面図。
【図12】この発明に係る液体ホーニング用噴射ガンの構成要素の一つであるエアノズルブロック体の一部を切欠いて描いたその拡大部分斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
噴射ガンの基部に形成されているスラリー及び高圧エアを一旦蓄えるスラリーチャンバー及びエアチャンバーをそれぞれ二室づつとして、スラリー及び高圧ガスを順次各室に移動させることにより、濃度や圧力、供給量を均一化、平準化させる様にした点に最大の特徴が存する。
【実施例1】
【0011】
図中1は、噴射ガン基部であり、図1乃至図5に示す様に、一対の左右壁体2,3、一対の前後壁体4,5、一対の上下壁体6,7とからなる中空で横長直方体状を呈している。そして、この噴射ガン基部1の内部空間には、上下をほぼ均等に隔てる水平隔壁8が長手方向に向って設けられており、上部空間9と下部空間10とに区画されている。
【0012】
更に、前記水平隔壁8上面と上壁体6下面との間には、前後をほぼ均等に隔てる垂直隔壁11が長手方向に向かって設けられており、上部空間9の一方を第一スラリーチャンバー12、もう一方を第一エアチャンバー13とし、第一スラリーチャンバー12の直上の上壁体6には複数のスラリー取入口14…が、第一エアチャンバー13直上の上壁体6には複数のエア取入口15…がそれぞれ等間隔に設けられている。更に、図5に示す様に、断面が逆L字形を呈したスラリーチャンバー側下部垂直隔壁17と、同じく断面が逆L字形を呈したエアチャンバー側下部垂直隔壁19とが、垂直隔壁11の上下方向センターライン28を中心として前後対称に、下部にスラリー通過用すき間16及び上部にエア通過用すき間18がそれぞれ形成される様に、下部空間10内に設置されており、第一スラリーチャンバー12直下の下部空間は第二スラリーチャンバー21と、第一エアチャンバー13直下の下部空間は第二エアチャンバー22となっている。又、第二スラリーチャンバー21の左右壁体2,3には、以下に述べる様に、スラリーを外部に排出するバイパスポート37がそれぞれ設けられている。
【0013】
又、図8に示す様に、第一スラリーチャンバー12と第二スラリーチャンバー21とを隔てる水平隔壁8には、その表裏を貫通した長孔状のスラリー通過孔23が、第一エアチャンバー13と第二エアチャンバー22とを隔てる水平隔壁8には同じくその表裏を貫通した長孔状のエア通過孔24がそれぞれ形成されている。なお、このスラリー通過孔23の開口面積は、前記スラリー取入口14…の合計開口面積より小さくなる様に設定されており、同様にエア通過孔24の開口面積も前記エア取入口15…の合計開口面積より小さくなる様に設定されている。
【0014】
一方、25はエアノズルブロック体であり、図12に示す様に、先端に高圧エアを噴射する小径のエアノズル26…が多数一列に配置され、前後に固定用の張り出し片27が一体的に設けられた長尺箱形をなしており、エアノズル26の軸芯と垂直隔壁11の上下方向センターライン28とが一致する様に、スラリーチャンバー側下部垂直隔壁17とエアチャンバー側下部垂直隔壁19との間に、張り出し片27が挟まれる様にして、下向きに固定されており、エアノズルブロック体25とスラリーチャンバー側下部垂直隔壁17とエアチャンバー側下部垂直隔壁19とで囲われた空間はスラリーと高圧エアとが混合される混合室31となっている。
【0015】
更に、エアノズル26…直下の下壁体7には、上方が開いたテーパ状のフラットノズル接続長孔29が形成されている。
又、30はフラットノズルであり、中央部分にノズル溝32を有する矩形をなした一対のノズル体36を、その両側縁を挟持材23によって挟持して向い合せ状態で接合したものであり、その肉厚方向中央には、巾広のスラリー通過用スリット34が形成されており、スラリー通過用スリット34と前記フラットノズル接続長孔29とが連通する様に、下壁体7の下面に固定具35によって固定されている。なお、フラットノズル接続長孔29の開口端の開口面積は、前記スラリー通過孔23及びエア通過孔24の合計開口面積より小さくなる様に設定されている。
【0016】
この実施例は、上記の通りの構成を有するものであり、噴射ガン基部1のスラリー取入口14からスラリーを、エア取入口15から高圧エアをそれぞれ供給し、エアノズル26から噴射される高圧エアによってスラリーを加速し、フラットノズル30から偏平な噴流として被加工物に向かって噴射させて、バリ取り等の加工を行うものであるが、スラリーは一旦、第一スラリーチャンバー12に導入された後、スラリー通過孔23を通って第二スラリーチャンバー21に送られて均一化、平準化されるので、噴射ガン基部1が長尺状であっても、スラリーの濃度や供給量に部分的な不均一が生じることはなくなる。同様に、高圧エアも、一旦第一エアチャンバー13に導入された後、エア通過孔24を通って、第二エアチャンバー22に送られるので、圧力や供給量は均一化、平準化され、部分的な圧力の不均一が生じることはなくなる。
又、第二スラリーチャンバー21の左右壁体2,3にはバイパスポート37が形成されており、第二スラリーチャンバー21に送られたスラリーの一部はこのバイパスポート37から外部に排出されるので、これにより第二スラリーチャンバー21内でのスラリーの流動化が促進され、スラリーは一層均一化され、エア圧力の抵抗によるスラリーの断続供給は起こらなくなる。更に、スラリー通過孔23の開口面積はスラリー取入孔14…の合計開口面積より、エア通過孔24の開口面積はエア取入口15…の合計開口面積よりそれぞれ小さくなる様に設定されており、フラットノズル接続長孔29の開口端の開口面積はスラリー通過孔23及びエア通過孔24の合計開口面積より小さくなる様に設定されているので、これらによりオリフィス効果が生じ、より一層スラリーの均一化が図られている。
【0017】
従って、スラリー及び高圧エアはフラットノズル30のスラリー通過用スリット34の各部分に円滑かつ均一に供給され、従来のものより広い巾で均一加工を実施することが可能となる。ちなみに、従来のものにおいては、加工巾は90mm程度が限度であったが、この発明に係る液体ホーニング用噴射ガンでは、300mmの巾で均一な加工を行うことが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0018】
広範囲での均一加工が要求される一般部品のホーニング加工に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0019】
1.噴射ガン基部
2.左壁体
3.右壁体
4.前壁体
5.後壁体
6.上壁体
7.下壁体
8.水平隔壁
9.上部空間
10.下部空間
11.垂直隔壁
12.第一スラリーチャンバー
13.第一エアチャンバー
14.スラリー取入口
15.エア取入口
16.スラリー通過用すき間
17.スラリーチャンバー側下部垂直隔壁
18.エア通過用すき間
19.エアチャンバー側下部垂直隔壁
21.第二スラリーチャンバー
22.第二エアチャンバー
23.スラリー通過孔
24.エア通過孔
25.エアノズルブロック体
26.エアノズル
27.張り出し片
28.上下方向センターライン
29.フラットノズル接続長孔
30.フラットノズル
31.混合室
32.ノズル溝
33.挟持材
34.スラリー通過用スリット
35.固定具
36.ノズル体
37.バイパスポート



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の左右壁体、一対の前後壁体、一対の上下壁体とからなる中空で横長直方体状を呈した噴射ガン基部の内部空間に、上下をほぼ均等に隔てる水平隔壁を長手方向に向って設けて、上部空間と下部空間とに区画し、更に、前記水平隔壁上面と上壁体下面との間に、前後をほぼ均等に隔てる垂直隔壁を長手方向に向かって設けて、上部空間の一方を第一スラリーチャンバー、もう一方を第一エアチャンバーとし、第一スラリーチャンバー直上の上壁体に複数のスラリー取入口を、第一エアチャンバー直上の上壁体に複数のエア取入口をそれぞれ設けると共に、下部空間内に下部にスラリー通過用すき間が形成される様に、断面が逆L字形を呈したスラリーチャンバー側下部垂直隔壁と、上部にエア通過用すき間が形成される様に、同じく断面が逆L字形を呈したエアチャンバー側下部垂直隔壁とを、センターラインを中心として前後対称に設けて、第一スラリーチャンバー直下の下部空間を第二スラリーチャンバー、第一エアチャンバー直下の下部空間を第二エアチャンバーとし、第一スラリーチャンバーと第二スラリーチャンバー及び第一エアチャンバーと第二エアチャンバーを隔てる水平隔壁に表裏を貫通した長孔状のスラリー通過孔及びエア通過孔をそれぞれ設けると共に、先端に高圧エアを噴射する小径のエアノズルが多数一列に配置され、前後に張り出し片が一体的に設けられている長尺箱形をなしたエアノズルブロック体を、前記エアノズルの軸芯と垂直隔壁の上下方向センターラインとが一致する様に、前記スラリーチャンバー側下部垂直隔壁とエアチャンバー側下部垂直隔壁との間に、下向きに固定し、エアノズルブロック体とスラリーチャンバー側下部垂直隔壁とエアチャンバー側下部垂直隔壁とに囲われた空間を混合室とし、更に、前記混合室直下の下壁体に、上方が開いたテーパ状のフラットノズル接続長孔を形成し、偏平直方体状をなし、肉厚方向中央に巾広のスラリー通過用スリットが形成されているフラットノズルを、そのスラリー通過用スリットが前記フラットノズル接続長孔に連通する様に、下壁体の下面に固定したことを特徴とする液体ホーニング用噴射ガン。
【請求項2】
第二スラリーチャンバーの左右壁体にスラリーを外部に排出するバイパスポートが形成されていることを特徴とする請求項1記載の液体ホーニング用噴射ガン。
【請求項3】
スラリー通過孔の開口面積がスラリー取入口の合計開口面積より小さくなる様に設定されていることを特徴とする請求項1記載の液体ホーニング用噴射ガン。
【請求項4】
エア通過孔の開口面積がエア取入口の合計開口面積より小さくなる様に設定されていることを特徴とする請求項1記載の液体ホーニング用噴射ガン。
【請求項5】
フラットノズル接続長孔の開口端の開口面積がスラリー通過孔23及びエア通過孔の合計開口面積より小さくなる様に設定されていることを特徴とする請求項1記載の液体ホーニング用噴射ガン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−94855(P2013−94855A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237339(P2011−237339)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】