説明

液体収納容器および記録装置

【課題】非接触通信によって記録装置とデータの授受を可能とする液体収納容器において、内部に記憶した情報に対し、物流時には読取りのみを可能とし、使用時には読み取りと書き換えの双方を可能とする液体収納容器を廉価な構成で提供する。
【解決手段】液体収納容器100には、記憶手段110が設けられ、この記憶手段110は、書換可能領域135と、書換不許可領域125とを有している。書換可能領域135に格納されたデータは、書換回路130によって読み取りおよび書き換えが可能であり、書換不許可領域125に格納されたデータは、読取回路120によって読み取りのみが可能である。各回路130,120には、外部との送受信を行うためのアンテナ131,121が設けられている。書換回路130に設けられたアンテナ131は、外部磁界からの影響を遮断する保護部材によって覆われ、これによってデータの改ざんが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色材等を含んだ液体あるいは記録に関連する色材を含まない液体(以下、インクと称す)を吐出して、被記録媒体に記録を行う記録装置、およびこれに搭載可能な液体収納容器に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを吐出して記録を行う記録装置(インクジェット記録装置)は、インク滴を吐出する記録ヘッドと被記録媒体とを相対的に移動させつつ、記録ヘッドからインクを吐出させることで、紙や布などの様々な被記録媒体上に画像を形成することが可能である。また、インクジェット記録装置は、記録媒体などを衝打しないノンインパクト方式であるため、記録時の騒音が少なく、小型化が可能であり、複数色のインクを用いることによってカラー化にも容易に実現できるなどの利点を有している。特に、被記録媒体の搬送方向と交差する方向へ記録ヘッドを往復移動させつつ記録動作を行う、いわゆるシリアルタイプのインクジェット記録装置は、小型かつ安価な記録ヘッドを用いて、高品位な画像を形成できるという利点を有している。このため、現在では、プリンタ、複写機およびファクシミリなどの電子機器などの他、産業用機器などにも広くインクジェット記録装置が応用されている。
【0003】
インクジェット記録装置に用いられる記録ヘッドには、インクを吐出するためのエネルギ発生素子として電気熱変換体(ヒータ)や電気機械変換体(圧電素子)を用いたものが知られている。これらの中でも、電気熱変換体を利用してインクを吐出するタイプの記録ヘッドは、インク吐出部(吐出口)を高密度に配列することができ、高い解像力の記録が可能であるほか、コンパクト化も容易であるなどの優位性を有している。
【0004】
また、記録ヘッドとしては、インク吐出部とインク収納部とが一体化したカートリッジタイプのものと、インク吐出部とタンクホルダとが設けられ、タンクホルダにインクを収容したインクタンクが交換可能に装着されるものとがある。
【0005】
いずれの場合も、使用時においてインク無しの状態で吐出を行うと、インク吐出部を傷める虞があるため、記録装置側でインクタンク内のインクの残量を正確に把握し、インクが存在する状態で吐出を行うようにする必要がある。また、使用途中のカートリッジやインクタンクを他の記録装置で使用するような場合においても同様に、装着されたインクタンクのインクの残量を正確に把握する必要がある。このため、カートリッジやインクタンクにインク残量の情報を保持しておくことが必要となる。
【0006】
さらに、近年、物流過程においては、過剰在庫の抑制や売れ筋商品の把握、棚卸の簡素化などを図るため、カートリッジやインクタンクにその種類や商品名等の情報を保持させ、その情報によって、各商品単位で商品を管理することが行われている。
【0007】
このような商品管理の要求に応じて、今日では、RFID(Radio Frequency Identification)を用いた無線タグが普及しており、これを記録ヘッドに搭載することも実用化されている。この無線タグの構成としては、内部にデータを記憶したICチップと、外部からの電磁誘導などで電力を発生させるアンテナとを接続したものが一般に知られている。
【0008】
特許文献1には、インクカートリッジに不揮発性メモリとアンテナとを設け、インクジェット記録装置側に設けられたアンテナから送信されたデータを、インクカートリッジに設けた不揮発性メモリに書き込むようにしたものが開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、電磁遮断機能を有するシール材を備えた非接触型ICカードが開示されている。この非接触型ICカードでは、使用前の状態において、ICカードに設けられたアンテナを保護部材で覆うことで通信を完全に遮断するようになっている。
【0010】
【特許文献1】特開2002−234192号公報
【特許文献2】特開平10−255011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示の技術においては、外部からの磁界によってアンテナが容易に励起されるため、不揮発性メモリ内に格納されている重要なデータが改ざんされる虞がある。
【0012】
また、特許文献2に開示の非接触型ICカードでは、物流過程においてICカード内に格納されている内部データを参照できないため、在庫管理、売れ筋商品の把握、あるいは棚卸の簡素化などの物流過程の効率化を実現できないという問題が生じる。
【0013】
本発明は、非接触通信によって記録装置とデータの授受を可能とする液体収納容器において、内部に記憶した情報に対し、物流時には読取りのみを可能とし、使用時には読取りと書き換えの双方を可能とする液体収納容器を廉価な構成で提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有する。
【0015】
すなわち、本発明の第1の形態は、外部の送受信部と非接触通信を可能とする通信手段と、データを格納する記憶手段とを、記録装置に搭載可能な液体収納部に設けてなる液体収納容器において、前記記憶手段は、データの読み取りおよび書き換えを可能とする書換可能領域と、データの読み取りのみを可能とする書込不許可領域とを有し、前記通信手段は、書換可能領域におけるデータの書き換えおよび読み出しを行う書換回路に接続される第1のアンテナと、前記書換不許可領域におけるデータの読み取りを行う読取回路に接続された第2のアンテナと、を備え、前記第1のアンテナは、外部磁界からの影響を遮断する取り外し可能な保護部材によって覆われていることを特徴とする。
【0016】
本発明の第2の形態は、上記液体収納容器を搭載可能であり、搭載された前記液体収納容器より供給されるインクを吐出して記録を行う記録装置であって、前記液体収納容器に設けられた前記第1のアンテナおよび前記第2のアンテナと非接触通信を可能とする送受信部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、書換可能領域におけるデータの書き換えおよび読み出しを行う書換回路に接続される第1のアンテナが保護部材によって覆われているため、物流時などの使用前の状態において書換可能領域内に格納されているデータの改ざんを回避することができる。さらに、書換不許可領域におけるデータの読み取りを行う読取回路に接続された第2のアンテナは、露出された状態にあるため、物流時などにおいて書込不許可領域におけるデータの読み取りは可能となる。
また、記録装置への搭載時には、シール材を取り除くことによって、記録装置との間で、非接触通信を支障なく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて詳細に説明する。
【0019】
図1は本発明に係る液体収納容器を適用可能とするインクジェット記録装置の内部構成を示す一部切欠斜視図である。
図1において、インクジェット記録装置(以下、単に記録装置と称す)300は、被記録媒体400をB方向へと搬送する搬送機構310と、記録ヘッド200を被記録媒体400の搬送方向と略直交するA方向に沿って往復移動させる移動機構320とを有する。
【0020】
搬送機構310は、略平行に対向配置された一対のローラからなるローラユニット311aおよび311bと、これらを駆動するモータなどを備えた駆動部312aおよび312bを有している。この駆動部312aおよび312bは、ローラユニット311aおよび311bを間欠的に回転させ、両ローラユニット311a,311bに挟持された被記録媒体400を、B方向(副走査方向)に所定量ずつ間欠的に搬送する。
【0021】
また、移動機構320は、記録ヘッド200を主走査方向(A方向)に沿って案内するガイドシャフト322と、ガイドシャフト322と略平行に設置されたドライブシャフト321と、ドライブシャフト321を回転させるモータ323とを有する。記録ヘッド200には不図示のナットが設けられ、このナットにドライブシャフト321が螺合している。このため、モータ323によってドライブシャフト321が正方向または逆方向へと回転することにより、記録ヘッド200は、ガイドシャフト322およびドライブシャフト321に沿って往動または復動を行う。
【0022】
本実施形態において、記録ヘッド200には、タンクホルダ201と、記録媒体に対向するようにタンクホルダ201に固定されたインク吐出部202とを備える。インク吐出部は、多数のインク吐出口を配列したインク吐出口列を備えたものとなっており、後述の制御系から送出された吐出信号に基いてインク滴を吐出して画像の記録を行う。本実施形態では、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のインクをそれぞれ吐出する4種類のインク吐出部がタンクホルダ201に保持されている。また、タンクホルダ201は、各色のインク吐出部に対応して4個の独立したインクタンクを着脱自在に搭載し得るようになっている。図1において、100Y、100M、100Cおよび100Bkはそれぞれイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを収容したインクタンクを示している。
【0023】
また、移動機構320による記録ヘッド200の移動経路中の一端部近傍、すなわち、被記録媒体400の移動経路から外れた位置には、記録ヘッド200のインク吐出口の吐出性能を維持するための回復部330が設けられている。この実施形態では、回復部330が記録ヘッド200のホームポジションとなる位置に設けられており、ここで記録ヘッドの記録ヘッド200のインク吐出面の汚れを除去する払拭動作や、インク吐出口付近の増粘したインクの排出動作などが行われる。
【0024】
また、ホームポジションには、アンテナ221および231が設置され、後述する方法によりインクタンク100との間で非接触で情報の授受を行うことができるようになっている。
図2(a)および(b)はそれぞれ、本発明に係るインクタンク100の全体図および分解図である。
図2において、インクタンク100は、蓋部材102、タンク本体(液体収容部)103およびアンテナ基板104よりなる。
タンク本体103には、インク103aを収納するインク室103b、および多孔質体からなる吸収体103cを収納する吸収体室103dが形成されている。インク室103bと吸収体室103dとは、分離壁103fによって略画成されているが、分離壁103f下方には不図示の開口部が形成されており、この開口部を介して両室は連通している。従って、インク室103内に収容されたインクは、前記開口部によって吸収体室103dに収納されたインク吸収体103cの一部に浸透している。タンク本体103および蓋部材102は樹脂、例えばポリプロピレンによって構成されており、蓋部材102は、タンク本体103の上面に形成された吸収体室103dおよびインク室103bの各開口部を閉塞するよう一体的に接合されている。この蓋部材102の接合には、例えば超音波溶接などが用いられる。
【0025】
蓋部材102には大気連通口102aが形成されており、この大気連通口102aを介して吸収体室103dと外界とが連通している。さらに後述の構成を有するアンテナ基板104がタンク本体103の側面位置に固定されている。
【0026】
図3は本実施形態におけるインクタンク100に設けられるアンテナ基板104を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
前述のRFIDに用いられる周波数帯域は、135kHz未満、13.56MHz、800〜900MHz、2.45GHzであるが、本発明においては13.56MHzを使用するものとし、アンテナは平面形状をなしている。
【0027】
図3において、アンテナ基板104は、PETフィルムからなる基材104aの上面にアルミニウムからなる渦巻き状のアンテナ131(第1のアンテナ)および121(第2のアンテナ)を形成したものとなっている。アンテナ121には、端子121aおよび121bが形成され、同様にアンテナ131にも端子131aおよび131bが形成されている。これら端子121a,121bおよび131a,131bには、アンテナ駆動素子107の端子107aおよび107bが位置決めされている。この端子間の接合には、例えばACF(Anisotropic Conductive Film)を用いた導電接着や、ボールグリッド接合等を用いることができる。ここで、アンテナ121とアンテナ131はアンテナ駆動素子107を挟んで対称となる位置に形成されている。
【0028】
アンテナ基板104は、一方のアンテナ131が蓋部材102に近傍に位置し、かつタンク部材103の凹部103e(図2(b)参照)にアンテナ駆動素子107が収容されるように位置決めされた後、タンク本体103に接合される。この接合には、例えば超音波溶接を用いることができる。
【0029】
以上のように構成された本実施形態におけるインクタンク100は、全体として略直方体形状をなし、その吸収体室103dの底面部には、記録ヘッド200への装着時において記録ヘッド200に連通するインク供給口108(図5参照)が形成されている。
【0030】
また、記録ヘッド200に装着された際、インクタンク100のアンテナ基板104が記録装置300の内側面300aに所定の間隔を介して対向する。この記録装置300の内側面300aには、一対のアンテナ221,231が上下に配置されている。そして、インクタンク100が装着された記録ヘッド200をホームポジション近傍へと移動させて行くことにより、各色のインクタンク100に設けられたアンテナ121,131を、順次、アンテナ231,221に対向させ得るようになっている。なお、図5に、インクタンク100を記録ヘッド200に装着した際の、記録装置300に設けられたアンテナ221,231と、インクタンク100に設けられたアンテナ121,131との位置関係を示す。
次に、本実施形態におけるインクタンク100の物流時の形態およびその形態において使用されるシール材101を、図6(a)および(b)の斜視図に基き説明する。
【0031】
図6(a)に示すように、本実施形態におけるインクタンク100には、その物流時において、シール材(保護部材)101が貼着されている。このシール材101は、樹脂製フィルム101aを基材とし、その下面に金属箔層101bを形成し、さらにその下面に粘着材層101cを形成したものとなっている。樹脂フィルム101aに使用する樹脂としては、例えばPETなどを使用することができる。また、金属箔層101bを構成する金属箔としては、アルミニウム箔を用いることが望ましい。
【0032】
このシール材101は、粘着剤層101cがインクタンク100の蓋部材102に貼着されて大気連通口102aを塞ぐと共に、インクタンク100の側面Aに貼着されて一方のアンテナ131の全体を覆うよう構成されている。ここで、BAはアンテナ131の幅、BSはシール材101の幅、Hは側面Aに貼着される部分の長さ、Lはアンテナ131の最下部と側面Aの上端との距離を示しており、これらの寸法は、BS>BA、H>Lの関係を満たすように定められている。なお、シール材101は、その弾性にもよるが、予め図6aに示すように、インクタンク100の側面Aに貼着される部分と、蓋部材102に貼着される部分とが互いに屈曲するよう形成しておくことも、良好な接着状態を得る上で望ましい。
【0033】
このようにして、シール材101をインクタンク100に貼着することにより、物流時において、インクタンク100の大気連通口102aからインクが漏出することはなくなる。また、シール材101には、金属箔層101aが含まれているため、これに覆われたアンテナ131は、外部の高周波磁界から遮断される。
【0034】
次に、図4のブロック図に基き、本実施形態における記録装置300の制御系およびアンテナ駆動素子107の回路構成を説明する。
図4において、記録装置300には、内側面に設けられた前述のアンテナ221,231と、各アンテナ221,231に接続される送受信回路204を有する送受信部206と、が設けられている。送受信回路204は、記録装置300の制御を司るCPU208からの指令により、前述のアンテナ駆動素子107内のデータにアクセスするための信号などを前記周波数の搬送波に重畳してアンテナ231,221から出力し得るよう構成されている。また、記録装置300内には、記録ヘッド200の各インク吐出口からインクを吐出させるために設けられた吐出エネルギ発生素子(例えば、ヒータまたはピエゾ)を駆動するヘッド駆動部209が設けられている。さらに、記録装置300内には、種々のデータを記憶する記憶部203、後述の演算動作を行う論理回路部205、および吐出するインクドットの数をカウントするドットカウンタ207などが設けられている。このほか、記録装置300内には、上記の各モータや表示器などを駆動する各種駆動回路が設けられているが、図4では図示を省略している。
【0035】
一方、インクタンク100に設けられるアンテナ駆動素子107は、メモリ110と、このメモリ110からデータを読み取る読取回路120と、メモリ110に対するデータの書き換えおよび読み出しを行う書換回路130と、を有している。書換回路130および読取回路120は、互いに独立した電気回路を構成している。すなわち、書換回路130は、アンテナ131、RF回路部(高周波回路部)132、制御回路部133、および電力生成部134により構成されている。また、読取回路120は、アンテナ121、RF回路部(高周波回路部)122、制御回路部123、および電力生成部124により構成されている。
【0036】
また、メモリ110は不揮発性メモリであり、データの読み取り、書き換えが共に可能な書換可能領域135と、読み取りは可能であるが書き換えは不可能な書換不許可領域125とを有する。書換可能領域135は書換回路130に、書換不許可領域125は読取回路120に、それぞれ独立して接続されている。
【0037】
次に、書換回路130を例にとってアンテナ駆動素子107の動作を説明する。
送受信回路204により発生させた高周波信号は、アンテナ231を介して高周波磁界を誘起させる。この高周波磁界を受けてアンテナ131には高周波信号が励起される。インクタンク100側に設けられたRF回路部132では、アンテナ131に励起された高周波信号から、RF回路部132自身および制御回路部133の動作基準となる基準クロック信号を抽出すると共に、送受信回路204で搬送波に重畳された信号を復調する。また、電力生成部134では、アンテナ131に励起した高周波信号を整流して、直流電流に変換することで、アンテナ駆動素子107内の各回路を駆動するための直流電力を生成する。制御回路部133は、前述の基準クロックに基いてRF回路部132の制御と、メモリ110の書換可能領域135に格納されたデータの読み取り、および書き換えを行う。ここで読み取ったデータはRF回路部132で再び高周波信号に変調され、アンテナ131を介して送受信部206に送信される。
また、書換不許可領域125ついても同様に、アンテナ121が誘起された場合にのみ、データの読み取りが可能となり、読取回路120で読み取られたデータが送受信部206に送信される。
書換可能領域135には、インクの残量を表すデータが記憶されており、上記のような方法で記録装置300がそのデータを読み取り、不図示の表示器等でユーザにインク残量を表示する。このようにインクタンク100にはインク残量が記録されているので、インクタンク100を上記構成を有する他の記録装置に載せ換えたときにも、インク残量の正確な把握が可能になる。また、書換不許可領域125には、インクタンク識別のためのIDやインクタンク100が製造された年、月、日、分、秒および場所等のデータが記憶されている。
【0038】
図4および図5を用いて記録装置300の動作について説明する。
前述のように、物流時においてインクタンク100にはシール材101が貼着され、インク103aの漏出、蒸発が抑制されるとともに、後述のように、書換可能領域135のデータが保護されている。ユーザは記録装置300に搭載する直前にインクタンク100よりシール材101を剥がして記録装置の所定位置に装着する。
【0039】
インクタンク100が装着された状態において、電源投入時やインクタンク交換時には、まず記録装置300はインクタンクのID情報確認動作を行う。これは、記録ヘッド200を記録装置300のホームポジション近傍へと移動させることにより行う。すなわち、記録装置300の内側面300aに配置されたアンテナ221,231に対し、インクタンク100のアンテナ121,131がそれぞれ正対するように、記録ヘッド200を位置決めする。本実施形態では、4個のインクタンクを使用しているため、各インクタンクのアンテナ121,131を、順次、アンテナ221,231に正対させて行く。
【0040】
インクタンク100のアンテナ121,131が記録装置300のアンテナ221,231に正対すると、記録装置300は送受信回路204を用い、アンテナ221を励起する。これによって、書換不許可領域125にあるインクタンク識別のためのID情報が取得され、記録装置300は、それ自身の記憶部に記憶しているID情報と、読み取ったインクタンクのID情報とが一致しているか否かを確認する。不一致の場合は、その旨を不図示の表示装置等でユーザに報知する。また、一致している場合には、記録装置300は送受信回路204を用いてさらにアンテナ231を励起し、書換可能領域135にあるインク残量の値を読み取り、記憶部203にその値を格納する。
【0041】
書き換え不許可領域にあるインクタンクのID情報と記録装置のID情報とが一致した段階で、はじめてヘッド駆動部209が駆動信号を記録ヘッド200に供給するような制御を行なっても良い。この時インクタンクと記録装置のID情報が不一致であれば、送受信回路204はアンテナ221を励起しない制御としても構わない。ユーザーが間違ったインクタンクを記録装置に設置した場合、ヘッド駆動部209からヘッドへの駆動信号が供給されず、異なったインクの使用によるヘッドへの不具合を防止することが可能になる。
【0042】
また、ID情報が不一致であった場合、送受信回路204からアンテナ221を励起し、タンク側のアンテナ121に対してID情報が不一致であることを通信する制御を行なっても良い。いずれの制御を行なう場合であっても、ID情報が不一致の場合はヘッド駆動部209から記録ヘッド200への駆動信号供給は行なわれないように制御する。
【0043】
被記録媒体400への記録中は、ヘッド駆動部209が、記録情報に基づいて記録ヘッド200のインク吐出部202に吐出命令信号を供給する。ドットカウンタ207には色毎(インクタンク毎)に、現在までにインクを吐出した数(ドットカウント値)が記憶されている。
論理回路部205は、記憶部203に予め記憶されているインク1ドットあたりの吐出量とドットカウント値とに基づいて、現在までの各色のインク使用量を算出し、記憶部203にあるインク残量の値を更新する。
【0044】
被記録媒体400への記録が終了した時点で、記録ヘッド200は記録装置300のホームポジションに戻る。その際、記録装置300が送受信回路204を用いて書換可能領域135にあるインク残量の値を現在値に書き換える。
図7は本実施形態におけるインクタンク100に対し、物流時に行われる管理方法の一例を示す図である。
図7において、1000はホストコンピュータで、商品の販売数量を管理すると共に、読み書き装置900の制御部901に対して、商品(この場合はインクタンク)のメモリ内にあるデータの読み取りまたは書き換えを指示する。読み書き装置900は、制御部901と、この制御部の制御によって変調および復調を行う送受信回路902と、この送受信回路からの高周波信号によって高周波磁界を誘起し、かつ外部の高周波磁界によって高周波信号が励起されるアンテナ903とからなる。この読み書き装置900とホストコンピュータ1000とにより、POS(Point Of Sales)システムが構成されている。なお、このPOSシステムによって、インクタンク100のメモリ110内から読み取りを行うデータとしては、例えば、インクタンク100の種類や商品名等の情報が挙げられる。
【0045】
図7(a)は読み書き装置900のアンテナ903が、インクタンク100のアンテナ131に近接した場合を示す。流通の段階では、インクタンク100のアンテナ131は金属箔101bを有したシール材101で覆われているのでインダクタンスが増大している。このため、インクタンク100のアンテナ131は、読み書き装置900の送受信回路902およびアンテナ903で生成される高周波磁界によっては励起されない。すなわち、読み書き装置900では、書換可能領域のデータにアクセスすることができないため、誤ってあるいは故意に書換可能領域のデータが書き換えられることはない。
【0046】
一方、図7(b)は読み書き装置900が読込アンテナ121に近接した場合を示す。この場合、インクタンク100の読み取り専用のアンテナ121は露出しているので、読み書き装置900の送受信回路902およびアンテナ903で生成される高周波磁界によって、アンテナ121は励起される。このため、読み書き装置900は、インクタンク100の書換不許可領域内125内のデータにアクセスすることができる。従って、読み書き装置900の制御部901は、インクタンク100のID情報を読み取り、そのID情報をホストコンピュータ1000に送信することができる。また、読み書き装置900が使用される流通段階では、シール材101により大気連通口102aが密封されているため、インク103aの蒸発および漏出は確実に抑制される。
【0047】
なお、上記実施形態では、シール材の全域が均一な層構造をなすものとしたが、部分的に層構造の異なるシール材を用いることも可能である。例えば、大気連通口を覆う部分を、樹脂製フィルムと粘着剤層の2層によって構成し、アンテナを覆う部分、すなわち磁気的影響を遮断したい部分を樹脂製フィルム、金属箔層および粘着剤層によって構成することも可能である。また、シール材は、金属箔層と接着剤層とで構成することも可能である。但し、シール材は、容器のバージン性を保つ上で、一旦剥離された後は、容易に貼着できないようなものであることが望ましい。
【0048】
また、上記実施形態では、保護部材として、アンテナ131を覆う部分と、大気連通口を覆う部分とが一体化されたシール材101を用いた場合を例に採り説明した。しかし、アンテナを覆うシール材と、大気連通口を覆うシール材とを別体に構成することも可能である。この場合も、各シール材の層構造を変更することは勿論可能である。これによれば、アンテナと大気連通口との位置関係、あるいはタンクの形状などに拘わりなく、アンテナおよび大気連通口を覆うことが可能になり、タンク本体およびシール材の設計上の自由度を向上させることが可能となる。但し、この場合には、使用時におけるシール材の剥離作業が2回必要となるため、1回の剥離作業で大気連通口とアンテナとを開封することができる上記実施形態に比べ、使用時の作業が若干煩雑になる。
また、大気連通口を不要とする液体収容容器、あるいは大気連通口からの液体の漏出あるいは蒸発を抑える手段が講じられている液体収容容器においては、前記のような外部磁界からの影響を遮断するシール材をアンテナ部分131にのみ貼着すれば良い。
【0049】
また、上記実施形態では、記録装置側に設けられた記録ヘッドに対し、液体収容容器が着脱自在に構成されたインクタンクを示した。しかし、本発明は、記録ヘッドとインクタンクとが一体化し、記録装置に対して着脱可能に設けられているいわゆるカートリッジ方式のインクタンクにも適用可能である。さらに、本発明は、記録装置に対して着脱可能な記録ヘッドに対し、インクタンクが着脱可能に構成されているインクタンクにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る液体収納容器を適用可能とするインクジェット記録装置の内部構成を示す一部切欠斜視図である。
【図2】本発明に係るインクタンクを示す斜視図であり、(a)はインクタンクの外観を、(b)はインクタンクを分解した状態をそれぞれ示している。
【図3】本実施形態におけるインクタンクに設けられるアンテナ基板を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図4】本実施形態における記録装置の制御系およびアンテナ駆動素子の回路構成を示すブロック図である。
【図5】本実施形態におけるインクタンクを記録ヘッドに装着した際の、記録装置に設けられたアンテナと、インクタンクのアンテナとの位置関係を示す側面図である。
【図6】(a)は本実施形態におけるインクタンクの物流時の形態を、(b)はその物流時において使用されるシール材をそれぞれ示す斜視図である。
【図7】本実施形態におけるインクタンクに対し、物流時に行われる管理方法の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
100 インクタンク
101 シール材
101a 基材
101b 金属箔層
101c 粘着材層
102 蓋部材
102a 大気連通口
103 タンク本体
103a インク
103b インク室
103c 吸収体
103d 吸収体室
104 アンテナ基板
104a 基材
107 アンテナ駆動素子
110 メモリ
120 読取回路
121 アンテナ
122 RF回路部
124 電力生成部
125 書換不許可領域
130 書換回路
131 アンテナ
132 RF回路部
134 電力生成部
135 書換可能領域
300 記録ヘッド
204 送受信回路
208 CPU
221 アンテナ
231 アンテナ
300 インクジェット記録装置
400 被記録媒体
900 読み書き装置
901 制御部
902 送受信回路
903 アンテナ
1000 ホストコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部の送受信部と非接触通信を可能とする通信手段と、データを格納する記憶手段とを、記録装置に搭載可能な液体収納部に設けてなる液体収納容器において、
前記記憶手段は、データの読み取りおよび書き換えを可能とする書換可能領域と、データの読み取りのみを可能とする書込不許可領域とを有し、
前記通信手段は、書換可能領域におけるデータの書き換えおよび読み出しを行う書換回路に接続される第1のアンテナと、前記書換不許可領域におけるデータの読み取りを行う読取回路に接続された第2のアンテナと、を備え、
前記第1のアンテナは、外部磁界からの影響を遮断する取り外し可能な保護部材によって覆われていることを特徴とする液体収納容器。
【請求項2】
前記書換回路および読取回路はそれぞれ独立した電気回路により構成され、前記各電気回路は、変調および復調を行う高周波回路部と、該高周波回路部を制御する制御回路部と、前記高周波回路部からの高周波信号に応じて前記各回路部を駆動するための電力を生成する電力生成部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の液体収納容器。
【請求項3】
前記保護部材は、少なくとも金属箔層を含むシール材であって、前記第1のアンテナの全域に剥離可能に貼着されることを特徴とする請求項1または2に記載の液体収納容器。
【請求項4】
前記保護部材は、樹脂製の基材と、金属箔層と、粘着材層とからなるシール材であって、前記粘着材層によって、前記第1のアンテナの全域に剥離可能に貼着されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の液体収納容器。
【請求項5】
前記液体収納部は、大気連通口を有し、
前記保護部材は、前記大気連通口と前記第1のアンテナ部材とを覆うことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の液体収納容器。
【請求項6】
前記保護部材は、前記大気連通口を覆う部分と、前記第1のアンテナ部材を覆う部分とで異なる層構造をなすことを特徴とする請求項4または5に記載の液体収納容器。
【請求項7】
前記液体収納部には、前記記録装置から吐出させるための液体が収納されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の液体収納容器。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の液体収納容器を搭載可能であり、搭載された前記液体収納容器より供給されるインクを吐出して記録を行う記録装置であって、
前記前記液体収納容器に設けられた前記第1のアンテナおよび前記第2のアンテナと非接触通信を可能とする送受信部を備えることを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−12818(P2008−12818A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−187001(P2006−187001)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】