液体吐出ヘッドの駆動装置、液体吐出装置及びインクジェット記録装置
【課題】吐出滴の良好な飛翔状態(吐出形状)を実現しつつ、ヘッドの長寿命化を達成する液体吐出ヘッドの駆動装置、液体吐出装置、インクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】液体吐出ヘッドのノズルに対応して設けられた吐出エネルギー発生素子を作動させる駆動信号(10)は、一記録周期中に複数回の吐出を行うための複数の吐出用パルス(11〜14)を含んでおり、これら複数の吐出用パルス(11〜14)のうち最終パルス(14)を除いた残りのパルス列(11〜13)内で先行するパルスの電圧振幅よりも、後続のパルスの電圧振幅が小さい。また、最後パルス(14)は先行滴をマージするように強く打ち出すために、先行パルス(11〜13)と比べて最も電圧振幅が大きいものとする。
【解決手段】液体吐出ヘッドのノズルに対応して設けられた吐出エネルギー発生素子を作動させる駆動信号(10)は、一記録周期中に複数回の吐出を行うための複数の吐出用パルス(11〜14)を含んでおり、これら複数の吐出用パルス(11〜14)のうち最終パルス(14)を除いた残りのパルス列(11〜13)内で先行するパルスの電圧振幅よりも、後続のパルスの電圧振幅が小さい。また、最後パルス(14)は先行滴をマージするように強く打ち出すために、先行パルス(11〜13)と比べて最も電圧振幅が大きいものとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドに代表される液体吐出ヘッドのノズルから液滴を吐出させるための駆動信号を供給する駆動装置、並びにこれを用いた液体吐出装置及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷機におけるインク吐出用の駆動波形は、所望のインク滴量を記録媒体上の所望の場所に着弾させることが求められる。そのために、滴速、サテライト、ミストの発生状況等を考慮して適切に電圧値を調整しなければならない。更に、各ノズル(インク吐出口)に対応した圧力室に吐出圧力を付与する吐出エネルギー発生手段(例えば、圧電素子)にとっては、印加する電圧の振幅は小さい方が寿命の観点で有利である。
【0003】
特許文献1には、一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)のインク滴を連続吐出させる際、徐々に滴速が速くなるようにインク吐出パルスを選択することで、サテライトのない飛翔状態を実現する技術が開示されている。また、特許文献1は、一印字周期内にN個のインク吐出パルス信号を含んだ基準駆動信号の波形のうち、後側から順にパルスを選択してアクチュエータに印加することにより滴種(着弾滴により形成されるドットのサイズ種)を変更する構成となっている。
【0004】
特許文献2は、連続する複数の駆動パルスを用い、圧電アクチュエータに印加する駆動パルス数に応じて吐出された液滴が被着媒体に到達(着弾)する前に、これら液滴を一つの滴に合体させて着弾させる液滴吐出装置を開示している。同文献2では、先頭滴から徐々に滴速が速くなるように、パルス間隔を固有振動周期(共振周期)Tcに近づけていく構成を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3241352号公報
【特許文献2】特開2010−149335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に開示された発明では、吐出されたインク滴の飛翔形状(サテライトやミストなど)は問題ないが、駆動電圧に関しては考慮されていない。特に、より低電圧、低パルス数で吐出を行うことでヘッドの長寿命化に貢献するといった観点で、従来の技術はまだ課題が残されている。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、吐出滴の良好な飛翔状態(吐出形状)を実現しつつ、ヘッドの長寿命化を達成できる液体吐出ヘッドの駆動装置、並びにこれを用いた液体吐出装置及びインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記目的を達成するために、液体吐出ヘッドのノズルに対応して設けられた吐出エネルギー発生素子を作動させる駆動信号を生成する駆動信号生成手段を有し、前記駆動信号を前記吐出エネルギー発生素子に供給することにより、前記ノズルから液滴を吐出させる液体吐出ヘッドの駆動装置であって、前記駆動信号は、一記録周期中に複数回の吐出を行うための複数の吐出用パルスを含んでおり、これら複数の吐出用パルスのうち最終パルスを除いた残りのパルス列内で先行するパルスの電圧振幅よりも、後続のパルスの電圧振幅が小さく、前記最終パルスは、前記複数の吐出用パルスの中で電圧振幅が最も大きいことを特徴とする液体吐出ヘッドの駆動装置を提供する。
【0009】
本発明の他の態様については、本明細書及び図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、一記録周期内に複数回の吐出を行い、これら複数滴で1画素(1ドット)の記録を行う場合に、吐出形状を損なうことなく、所望の滴量を実現する際の必要電圧を低減することができる。これにより、ヘッドの長寿命化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態によるインクジェットヘッドの駆動波形の一例を示す波形図
【図2】図2(a)は吐出前のノズルの状態(定常状態)を示し、図2(b)は吐出時の様子を示した模式図
【図3】比較例1に係る駆動波形の波形図
【図4】比較例2に係る駆動波形の波形図
【図5】引き押し波形の印加による圧力変動に対応したメニスカスの速度変動を示したグラフ
【図6】共振周期Tcの測定方法の第1例に関する矩形波のパルス幅と滴速、滴量の関係を示したグラフ
【図7】共振周期Tcの測定方法の第2例に関する連射矩形波形のパルス間隔と滴速、滴量の関係を示したグラフ
【図8】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置に用いられる駆動波形の具体例を示した波形図
【図9】図8の駆動波形を用いた連射による液滴の吐出状況を時間経過順に示した模式図
【図10】滴量を異ならせて打滴する場合に使用する駆動波形の例を示す波形図
【図11】大滴を吐出するための駆動波形を示す波形図
【図12】電圧振幅とパルス間隔を組み合わせて調整した駆動波形の例を示す波形図
【図13】電圧振幅とパルス幅を組み合わせて調整した駆動波形の例を示す波形図
【図14】電圧振幅とパルスのスロープの傾きを組み合わせて調整した駆動波形の例を示す波形図
【図15】パルス間隔を調整して徐々に吐出エネルギーを弱めた連射パルス波形の例を示す波形図
【図16】パルス幅を調整して徐々に吐出エネルギーを弱めた連射パルス波形の例を示す波形図
【図17】パルスのスロープの傾きを調整して徐々に吐出エネルギーを弱めた連射パルス波形の例を示す波形図
【図18】本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッドの駆動装置が適用されたインクジェット記録装置の構成例を示すブロック図
【図19】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図
【図20】インクジェットヘッドの構成例を示す平面透視図
【図21】ヘッドの他の構造例を示す平面透視図
【図22】図20中のA−A線に沿う断面図
【図23】インクジェット記録装置のシステム構成を示す要部ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の実施形態によるインクジェットヘッドの駆動波形の一例を示す波形図である。この駆動波形10は、記録媒体上における1画素のドット記録を担う一記録周期内に複数の吐出用パルス11〜14が連続する駆動波形である。なお、「一記録周期」という用語は、当該分野において「一印字周期」、「一印刷周期」と呼ばれる場合がある。
【0014】
図1では、4つのパルス11、12、13、14が連続する4発連射タイプの例が示されている。各パルス11〜14は、いわゆる引き-押し(pull-push)型の波形であり、1パルスの印加につき1発の吐出動作が行われる。駆動波形10における先頭パルス(第1パルス)11は、ノズルに連通する圧力室の体積を拡張させる方向に圧電素子(不図示)を変形させる「引き(pull)」動作の駆動を行う第1信号要素11aと、その引き動作で圧力室を拡張させた状態を維持(保持)する第2信号要素11bと、圧力室を収縮させる方向に圧電素子(不図示)を変形させる「押し(push)」動作の駆動を行う第3信号要素11cと、を含んで構成される。
【0015】
第1信号要素11aは基準電位V0から電位を下げる立ち下がり波形部である。第2信号要素11bは第1信号要素11aで下降した電位V1を維持する波形部、第3信号要素11cは第2信号要素11bの電位(V1)を基準電位に上昇させる立ち上がり波形部である。
【0016】
先頭パルス11に続く、第2パルス12、第3パルス13、第4パルス(最終パルス)14についても、同様に、「引き」、「維持」、「押し」の各動作に対応した信号要素を有している。先頭パルス11で説明した11a、11b、11cと同様に、各パルス12〜14を示す符号の末尾に「a」、「b」、「c」の添字を付加して、「引き」、「維持」、「押し」の各信号要素を表す。
【0017】
本明細書では説明の便宜上、基準電位に対する各パルス11〜14の第2信号要素11b〜14bの電位差を「電圧振幅」或いは「波高」と呼ぶ。すなわち、基準電位V0と第2信号要素11bの電位V1の電位差(V0-V1)を第1パルス11の「電圧振幅」或いは「波高」という。同様に、第2パルス12の第2信号要素12bの電位V2、第3パルス13の第2信号要素13bの電位V3、第4(最終)パルス14の第2信号要素14bの電位V4、について、それぞれ基準電位V0との電位差を各パルス12〜14の「電圧振幅」或いは「波高」という。
【0018】
本例の駆動波形10は、先頭パルス11の電圧振幅(波高)に対して後続パルス12〜13の電圧振幅(波高)を徐々に小さくし、最終パルス14の電圧振幅を先頭パルス11よりも大きくする。すなわち、最終パルス14の電圧振幅は、他の先行するパルス11〜13の電圧振幅と比較して最も大きいものとする。
【0019】
各パルス11〜14が圧電素子に印加されることにより、ノズルから液滴が吐出されるため、一記録周期内に含まれる吐出用パルスの数と同数の吐出動作が一記録周期で行われる。図1の例では一記録周期で4発の連射により液滴が連続吐出され、これら吐出液滴(4滴)は記録媒体に着弾する際に一体的に合体する。この合体した液滴(合一滴)が記録媒体上に付着することにより1ドットが記録される。
【0020】
本発明による技術的観点の一つは、連射パルス波形において、吐出される液滴の良好な飛翔形状を満足させながら、ある目的の滴量(1ドットを形成するための液滴量)を達成する時の必要な駆動電圧の振幅をなるべく小さくするものである。
【0021】
本実施形態によれば、電圧振幅をなるべく小さく抑えるために、初滴(先頭滴)を強く打ち出し、そのメニスカス振動(残響)を利用しながら後続滴の吐出を行うことで後続滴の吐出用パルスの電圧振幅を下げることができる。また、先頭滴を強く打ち出すことでノズル表面状態の影響を受けにくくなり、着弾位置精度も向上する。
【0022】
これは、次のような理由で説明される。
【0023】
図2(a)は吐出前のノズルの状態(定常状態)を示し、図2(b)は吐出時の様子を示した模式図である。符号20はノズル孔、21はノズルプレート、22はノズル面(吐出面)、23はノズル孔20の縁、24はインク、25はメニスカス(気液界面)を示している。図示されていないが、ノズル孔20の上方に圧力室が設けられ、該圧力室には吐出エネルギー発生素子としての圧電素子が設けられる。圧電素子に駆動電圧を印加することにより、圧力室の体積が変化し、その体積変動による圧力変化によってノズル孔20から液が押し出される。
【0024】
図2(a)に示す吐出前の定常状態では、ノズル孔20内のインク24はヘッド背圧によって負圧に維持されており、メニスカス25は圧力室側に向かって凸の(ノズル面22側から見て凹面の)曲面となっている。
【0025】
図2(b)に示すように、先頭滴を打ち出す際には、一旦、メニスカス25が大きく引き込まれた後に、インクが押し出されるため、押し出されたインクの周囲(曳糸28の周囲)には、最初のメニスカス引き込み量に応じた深さのメニスカスの窪み26ができる。最初の「引き」動作によるメニスカス引き込み量が大きいほど、押し出し時における窪み26が大きく(深く)なり、ノズル孔20の縁21から離れた位置に曳糸28が形成される。このため、ノズル孔20から吐出されるインクは、ノズル孔20周囲のノズル面22の影響を受けにくくなる。
【0026】
ノズル面22の汚れや撥液膜の劣化など、ノズル孔20の縁21近傍のノズル表面状態が悪化している状況でノズル孔20から押し出されたインクがその劣化ノズル表面に触れると、吐出方向異常(飛翔曲がり)などが発生し、着弾位置精度が低下することが知られている。この点、本実施形態によれば、曳糸28がノズル面22に触れにくく、ノズル表面状態の影響を受けにくいため、飛翔曲がりなどの吐出異常が発生しにくく、ノズル表面状態が多少劣化した状況であっても着弾位置精度を維持することができる。
【0027】
更に、図1に示した駆動波形10は、最終パルス14の電圧振幅が他の先行パルス(11〜13)よりも大きく、最終滴が飛翔中に先行滴に追いついて、これらを一体的に合一させてから記録媒体上に着弾させることができる。
【0028】
<比較例1>
図3は、1発目(最初)の滴を強く押し出した後、2発目、3発目、4発目と、後続滴の押し出し力を徐々に小さくした場合の例である。図1との違いは、最終パルス(4発目のパルス)の電圧振幅が3発目のパルスの電圧振幅よりも小さい点である。図3のような波形では、飛翔中に連射滴を完全に合一させることが難しくなり、主滴がまとまらないといった問題が発生する。
【0029】
これに対し、図1の波形では、符号14出示した最終パルスの電圧振幅が他の先行するパルス(11〜13)に比べて大きい。これにより、最終滴を再び強く吐出させることができ、先行滴をマージして飛翔形状を整えることができる。
【0030】
<比較例2>
図4は他の比較例の波形図である。図4のように、先頭パルスから後続パルスの波高を徐々に大きくする構成を採用した場合、先行滴をマージすることはできるが、滴量を十分に大きくすることができない。すなわち、図4を構成するパルスを並び変えて、図1を構成した場合、図1の方が大きなドット(滴量)となる。
【0031】
これは、ある目的の滴量を実現するにあたり、図1の駆動波形は、図4の駆動波形と比較して全体的に低電圧化できることを意味している。
【0032】
<吐出用パルスのパルス幅、パルス間隔について>
図5は、インクジェットヘッドにおける代表的な引き押し(pull-push)波形の印加によるノズル内(圧力室内)の圧力変動(メニスカスの速度変動)を示したグラフである。図5(a)は圧力変動を表す波形、図5(b)は印加駆動電圧の波形を表す。
【0033】
ピエゾジェット方式のインクジェットヘッドの場合、1ノズルの吐出機構は、ノズル孔(吐出口)に連通する圧力室に圧電素子が設けられ、この圧電素子を駆動して圧力室内の液に圧力変動を与え、ノズル孔から液滴の吐出を行う仕組みとなっている。圧力の振動をそのまま吐出に利用するため、ノズル孔から滴を強く打ち出すときは、圧力振動のサイン波に合わせた構成のパルス波形にすることが望ましい。
【0034】
図5(b)に示す駆動波形は、基準電位から電圧を下げると、圧力室が膨張するため、圧力は低下し、ノズル内のメニスカスは圧力室の方向(吐出方向と反対向きの方向)に引き込まれる。この「引き」波形要素の印加によりメニスカスの引き込み動作が開始された後、引き電圧を一定に維持すると、振動系の固有振動周期でメニスカスが振動する。このメニスカス振動によって丁度メニスカスの速度が再び0となるときに、圧力室を収縮させれば、最も加速されるところで、液滴を吐出することができる。このようなメニスカスの動きと、駆動波形による引き押しのサイクルを合わせることで効率的な吐出が可能である。
【0035】
図5(a)に示すように、メニスカス振動の1周期が1共振周期Tcになるため、その約半分(Tc/2)でパルス幅を区切ると最も効率がよい。また、2発目のパルスは、1発目のパルスの印加によって発生したメニスカスの振動による引き込み、加速の動きに合わせて、引き−押しの波形要素が重なるようにパルス間隔が設定されることが好ましい。
【0036】
すなわち、パルス間隔(先行パルスの立ち下がりから、次ぎのパルスの立ち下がりまでの間隔)は、ヘッド共振周期(ヘルムホルツ固有振動周期)Tcと一致させることが好ましく、パルス幅(1つのパルスの立ち下がりから立ち上がりまでの時間間隔)は、ヘッド共振周期(ヘルムホルツ固有振動周期)Tcの(2n−1)/2とすることが望ましい(ただし、nは正の整数)。
【0037】
図1で説明した駆動波形10は、パルス間隔を共振周期Tcとほぼ一致させ、パルス幅をTc/2とほぼ一致させた例となっている。
【0038】
<共振周期Tcの特定について>
ここで、共振周期Tcの特定方法について説明する。ヘッド共振周期(ヘルムホルツ固有振動周期)Tcは、インク流路系、インク(音響要素)、圧電素子の寸法、材料、物性値等から定まる振動系全体の固有周期である。共振周期Tcは、ヘッドの設計値(使用するインクの物性値を含む)から計算によって求めることができる。また、ヘッドの設計値から推定する方法に限らず、実験によってTcを測定する方法もある。
【0039】
<<測定方法1>>:駆動波形として、単純な矩形波をつかって液滴の吐出状況を調べる実験を行う。図6は、矩形波のパルス幅を徐々に変化させて滴速と滴量を調べたものである。矩形波の電圧振幅ΔVは20Vとした。
【0040】
パルス幅の変化に対して、滴速度、滴量はともに、山なりに変化し、それぞれ増加から減少に転じるピークが現れる。図6において、滴速度のピーク位置はパルス幅2μsの位置であるのに対し、滴量のピーク位置はパルス幅2.3μsの位置であり、各ピーク位置は若干ずれている。
【0041】
この測定方法1では、ピーク位置の約2倍がTcとして算出される。滴速度の結果から計算するとTc=4μs、滴量から計算するとTc=4.6μsになる。
【0042】
<<測定方法2>>:駆動波形として、矩形波が連続する連射矩形波形を用い、液滴の吐出状況を調べる実験を行う。図7は、連射矩形波形のパルス間隔を徐々に変化させて滴速と滴量を調べたものである。連射矩形波の電圧振幅ΔVは19Vとした。
【0043】
パルス間隔を振ることによって、後続のパルスによる滴速がどれだけ速くなるか、或いは、滴量がどれだけ変化するか、という観点でTcを把握できる。図7に示したように、滴速の観点でも、滴量の観点でも、概ね同じ位置にピークが現れる。図7によれば、ピーク位置は約「4.5μs」となる。よって、測定方法2によれば、Tc=4.5μsとなる。
【0044】
図6、図7で説明したとおり、Tc測定の結果は、測定方法に依存する範囲でばらつきがある。共振周期Tcの特定に際しては、ヘッド設計値からの推定(計算)、測定方法1、2等による測定など、採用する特定方法の違いに依存する範囲のばらつきが許容されるものとして解釈すべきである。
【0045】
<駆動波形の具体例と吐出動作の振る舞い>
図8は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置に用いられる駆動波形の具体例を示した。図8の駆動波形30は一記録周期内に5つの吐出用パルス(31〜35)を含んで構成される。先頭の第1パルス31で初滴を強く押し出し、その後、後続の第2パルス32、第3パルス33、第4パルス34までのパルス列内は、先頭パルス31から徐々に電圧振幅を小さくしていく。最後の第5パルス(最終パルス)35は、第1パルス31よりも大きな電圧振幅を有し、先行するパルス(第1〜第4パルス)による吐出滴(先行滴)に追いつく速度で最終滴を吐出させる。また、本例の駆動波形30は、第5パルス35の後に続いて、メニスカス振動(残響)を静定させる残響抑制(静定)パルス36が加えられている。
【0046】
図9は、図8の駆動波形の印加による液滴の吐出状況を時間経過順に模式的に描いた図である。図9の「1」のタイミングで第1パルス31の印加による1発目の液が押し出されている。「2」のタイミングで第2パルス32の印加による2発目の液が押し出されている。以下、「3」、「4」、「5」の各タイミングで3発目、4発目、5発目の液が押し出されている。
【0047】
第1パルス31の後に印加される後続パルス(32〜35)は、それぞれ先行パルスの印加によるメニスカス振動(残響)を利用して液を加速する。このため後続パルスの電圧を先行パルスの電圧に対して少し下げた程度では、後続滴は先行滴に追いついていく。図9の2発目、3発目の滴は、初滴(先頭滴)の曳糸中を進み、先頭滴に追いついて合一している。
【0048】
また、4発目のように、第3パルス33の波高値に対して、第4パルス34の波高値を極端に下げると(図8参照)、先頭滴に追いつくことはできなくなるが、最終パルス(第5パルス)35によって打ち出される最終滴にマージされる。
【0049】
<吐出動作の現象面から把握される駆動波形の特徴について>
図8のような連射パルスの場合、先行パルスによる残響(メニスカス振動)を利用して加速を行うため、各パルスの波高値の大小関係だけで各パルスによる吐出液の滴速を必ずしも特定することができない。
【0050】
ただし、仮に、第1〜第5パルスの個々のパルスを単独で用いた場合には(引き押しの単一パルスを印加して単射吐出を行う場合には)、そのパルスの波高値に応じた滴速、吐出力、吐出エネルギーの強弱となる。
【0051】
したがって、図8のような駆動波形30を構成する吐出用パルス31〜35のうち、最終パルス35を除いた残りのパルス列(第1パルス31から第4パルス34)内の各パルスは、それぞれ単独で用いた場合に、吐出速度が次第に遅くなる、若しくは、吐出エネルギーが次第に小さくなる、若しくは、吐出力が次第に弱くなる、という関係を持って配置される。
【0052】
また、第5パルス(最終パルス)35は、他の先行パルス(31〜34)と比較し、単独で用いた場合に、吐出速度が最も速くなる、若しくは、吐出エネルギーが最も大きくなる、若しくは吐出力が最も強くなる、という関係を持って配置される。
【0053】
<滴種を異ならせて打滴する場合の例>
図10は、1画素中の滴量を異ならせて打滴する場合に使用する駆動波形の例である。ここでは、一記録周期の駆動波形を構成している複数の吐出用パルスのうち、後ろから一部のパルスを選択して使用することによって、小滴、中滴、大滴の3種類の滴サイズを打ち分ける場合の例を説明する。
【0054】
図10(a)は小滴、図10(b)は中滴、図10(c)は大滴にそれぞれ対応した波形図である。使用頻度が最も高いと想定される中滴の波形(図10(b))について、図8で説明した連射パルス波形の構成が採用される。すなわち、中滴は、各パルスの電圧振幅を調整することにより、吐出効率の低電圧化と調整を行っている。また、最終パルスにおいては、圧力室の収縮を膨張よりも強くとることで、先行的をマージできるだけの電圧を確保している。このように残響抑制部と組み合わせて最終パルスの吐出効率を上げることも好ましい形態である。
【0055】
小滴の波形(図10(a))は、中滴の波形(図10(b))又は大滴の波形(図10(c))中の最終パルスと残響抑制パルスのみを選択したものである。
【0056】
図11は、図10(c)の詳細図である。図11に示す大滴用の波形は、中滴の波形の前段に2つのパルス(41、42)を付加したものとなっている。この付加された追加第1パルス41と、追加第2パルス42は、符号31で示した中滴の1パルス目(第3番目のパルス)よりも波高が低く、追加第1パルス41→追加第2パルス42→第3番目のパルス31の順で各パルスの波高が徐々に高くなるように電圧値が調整されている。
【0057】
中滴の場合は、最終パルス(符号35)を例外として、先頭パルス(符号31)から次第に後続パルスの電圧振幅を小さくしていくのに対し、大滴の場合は先頭のパルス(符号41の追加第1パルス)から3パルス目までの部分について、徐々に電圧振幅を増大させ、滴速を速めていく構成が採用されている。
【0058】
これは次の理由による。仮に、大滴において、追加第1パルス41と追加第2パルス42の電圧振幅を第3番目のパルス(符号31)よりも大きい値に設定し、追加第1パルス41から第3番目のパルス(符号31)までの範囲において各パルスの波高値を逓減する電圧調整を採用すると、1発目と2発目が3発目よりも更に強く打ち出されることになる。すると、[1]先行滴の吐出速度が速くなりすぎる、[2]滴量が大きくなりすぎる、[3]最終パルスでのマージ(液滴の合体)ができなくなる、等の不具合が生じてしまう。
このような不具合を回避する観点から、図11のような波形が採用されている。
【0059】
本実施形態では、使用頻度を考慮して中滴用の波形を重視し、中滴用の波形について、設計仕様に沿った所望の滴量(例えば、5ピコリットル)と吐出速度を実現するように、本発明を適用して波形を設計する。
【0060】
そして、大滴については、目的の滴量(例えば、10ピコリットル)となるように、中滴の波形を基準にして、その前段に、図11のような追加パルス(符号41、42)を付加する構成とする。このように中滴の波形(メイン波形)をベースにして大滴の波形を定めると、中滴と大滴の吐出速度を揃えることは比較的簡単である。
【0061】
図示した大滴の波形は、各吐出用パルス(41、42、31〜35)のパルス周期TAは一定であり、各吐出用パルス(41、42、31〜35)のパルス幅TBが一定となっている。
【0062】
また、図10(a)に示した小滴の波形は、中滴の波形(図10(b)中に内包されており、中滴の波形中の最終パルスと残響抑制パルスのみを選択したものである。このような構成によれば、小滴、中滴、大滴の滴速(記録媒体上に着弾するまでの時間)を揃えることが可能である。
【0063】
図10(a)〜(c)及び図11で説明したとおり、中滴の波形は小滴の波形を内包し、大滴の波形は中滴及び小滴の波形を内包する関係にある。つまり、大滴の波形の後ろ側から順に一部のパルスを選択して圧電素子に印加することにより、滴量(滴種)を変更することができる。全ての滴種で滴速(吐出速度)を概ね揃え、かつ、それぞれの滴種について目的の滴量を達成するには、使用頻度等の観点から中心的な滴種(本例では、中滴)の波形を本発明の適用によって作成し、それを超える適量の滴種については、そのメイン波形の前段に別のパルスを付加する。この付加されるパルスは、図11で説明したように、波高が徐々に大きくなるものとする。
【0064】
<3種以上の滴種への拡張>
ここでは、3種類の滴種を打ち分ける例を説明したが、3種類以上の滴種を打ち分ける場合も同様の方法で波形を定めることができる。すなわち、最大滴量の滴種又は最小滴量の滴種以外のある滴種をメイン滴種として選定し、このメイン滴種に対応した波形(「メイン波形」という。)について、図1〜図8で説明した観点から波形を定める。
【0065】
このとき、メイン波形は、メイン滴種よりも滴量が小さい滴種の波形を内包するものとする。そして、このメイン滴種よりも滴量の大きい滴種の波形を作る時には、そのメイン波形の前段に、別のパルスを追加するものとし、その追加されるパルスは、メイン波形の先頭パルスよりも小さい波高のものとする。好ましくは、これら追加されるパルスは、1発目から徐々に波高が大きくなっていくものとする。こうして全滴種の波形が決定される。最大滴量の滴種に対応した波形は、全滴種の波形を内包したものとなる。
【0066】
なお、メイン波形における吐出用パルスの数や、このメイン波形の前段に付加される追加パルスの数については特に限定されない。一記録周期中にN個(ただし、Nは3以上の整数)の吐出用パルスを含んだメイン波形に対し、その前段に更にM個(ただし、Mは1以上の整数)の吐出用パルスを付加することによって、メイン波形による滴量を超える滴量の吐出に対応した駆動波形を得ることができる。
【0067】
一記録周期中にM+N個の吐出用パルスを含む駆動波形のうち、後ろからK個(ただし、Kは1以上、M+N以下の整数)の吐出用パルスを選択して吐出エネルギー発生素子に供給することにより、滴量を異ならせた吐出が可能である。
【0068】
このような駆動波形を実際のインクジェット装置に適用する場合には、全滴種の波形を内包した基本波形データ(最大滴量の滴種に対応した波形のデータ)をメモリ等の記憶手段に組み込み、滴種毎に何番目のパルスを、印加時の先頭パルスとするかという区切りの情報を保持する。全滴種の波形を内包した複数のパルスで構成される基本波形(最大滴量の波形)中の後ろの方からパルスを選択することによって、滴種を打ち分けることが可能である。
【0069】
例えば、吐出エネルギー発生素子に駆動信号を印加するための信号伝達ライン上に設けられたスイッチ素子を制御することによって、滴種に応じて印加する吐出用パルスを選択する。こうして、各吐出エネルギー発生素子に対応して設けられたスイッチ素子を利用して、各種の滴種対応波形の駆動電圧が圧電素子に印加される。
【0070】
<他の駆動波形例について>
図1、図8〜図11では、各パルスの電圧振幅を調整することによって目的の滴量と滴速を実現する例を説明したが、電圧振幅の調整のみならず、パルス間隔、パルス幅、パルスのスロープを組み合わせて調整することにより、目的の滴量、滴速を実現することも可能である。
【0071】
図12〜図14には、図1で説明した駆動波形の変形例を示した。図12に示した駆動波形は、図1で説明した各パルスの電圧振幅の調整とパルス間隔TAの調整とを組み合わせた波形例である。図12では、最終パルス14を除く残りのパルス列(符号11〜13)内で徐々に後続パルスのパルス間隔TAを共振周期Tcからずらすことで、吐出エネルギーを弱くする構成となっている。
【0072】
共振周期Tcに対してパルス間隔TAを増大させる方向にずらしてもよいし、共振周期Tcに対してパルス間隔TAを短くする方向(減少方向)にずらしてもよい。どの程度の範囲内で値をずらすかについては、特に限定されない。
【0073】
図13に示した駆動波形は、図1で説明した各パルス(符号11〜14)の電圧振幅の調整とパルス幅TBの調整とを組み合わせた波形例である。図13では、最終パルス14を除く残りのパルス列(符号11〜13)内で徐々に後続パルスのパルス幅TBを共振周期Tcの2分の1からずらすことで、吐出エネルギーを弱くする構成となっている。先頭のパルス幅に対して後続パルスのパルス幅を増大させる方向にずらしてもよいし、パルス幅を短くする方向(減少方向)にずらしてもよい。どの程度の範囲内で値をずらすかについては、特に限定されない。
【0074】
図14に示した駆動波形は、図1で説明した各パルス(符号11〜14)の電圧振幅の調整と後続パルスのスロープの傾き調整とを組み合わせた波形の例である。図14では、最終パルス14を除く残りのパルス列(符号11〜13)内で徐々に後続パルスのスロープの傾きを緩やかにすることで、吐出エネルギーを弱くする構成となっている。
【0075】
図12〜図14で説明した構成例によれば、図1よりも一層の低電圧化が可能である。また、図12〜図14の形態を適宜組み合わせる構成も可能である。つまり、電圧振幅の調整と、パルス間隔、パルス幅、スロープの傾きの調整等を適宜組み合わせていることにより、目的の滴量、滴速を実現する駆動波形を一層設計しやすくなる。
【0076】
<関連する駆動波形の開示>
図12〜図14に例示した駆動波形に関連して、図15〜図17の駆動波形を開示する。
【0077】
図15〜図17は、図1で説明した各パルス(符号11〜14)の電圧振幅の調整を採用せずに、パルス間隔TAの調整、パルス幅TBの調整、又は、パルスのスロープの傾きの調整によって後続パルスの吐出エネルギーを弱くしていくものである。
【0078】
図15では、最終パルスを除く残りのパルス列内で徐々に後続パルスのパルス間隔TAを共振周期Tcからずらすことで、吐出エネルギーを弱くする構成となっている。
図16では、最終パルスを除く残りのパルス列内で徐々に後続パルスのパルス幅TBを共振周期Tcの2分の1からずらすことで、吐出エネルギーを弱くする構成となっている。
【0079】
図17では、最終パルスを除く残りのパルス列内で徐々に後続パルスのスロープの傾きを緩やかにすることで、吐出エネルギーを弱くする構成となっている。
【0080】
図15〜図17で説明したような波形やこれらの適宜の組み合わせを採用しても目的の滴量、滴速を実現することは可能である。ただし、低電圧化によるヘッド長寿命化という観点を考慮すると、図1、図10〜図14で説明した形態が好ましい。
【0081】
<インクジェット記録装置の構成例>
図18は、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッドの駆動装置が適用されたインクジェット記録装置の構成例を示すブロック図である。プリントヘッド(「液体吐出ヘッド」に相当)50は、複数個のインクジェットヘッドモジュール(「以下、「ヘッドモジュール」という。」52a、52bを組み合わせて構成される。ここでは、説明を簡単にするために、2つのヘッドモジュール52a、52bを図示したが、1つのプリントヘッド50を構成するヘッドモジュールの数は特に限定されない。
【0082】
ヘッドモジュール52a、52bの詳細な構成は図示しないが、各ヘッドモジュール52a、52bのインク吐出面には、複数のノズル(インク吐出口)が高密度で二次元配置されている。また、ヘッドモジュール52a、52bには、各ノズルに対応した吐出エネルギー発生素子(本例の場合、圧電素子)が設けられている。
【0083】
被描画媒体としての用紙(図示せず)の幅方向に対して、複数個のヘッドモジュール52a、52bを繋ぎ合わせることにより、紙幅方向の全記録可能範囲(描画可能幅の全域)について所定の記録解像度(例えば、1200dpi)で描画可能なノズル列を有する長尺のラインヘッド(シングルパス印字が可能なページワイドヘッド)が構成される。
【0084】
プリントヘッド50に接続されているヘッド制御部60(「液体吐出ヘッドの駆動装置」に相当)は、複数のヘッドモジュール52a、52bの各ノズルに対応する圧電素子の駆動を制御し、ノズルからのインク吐出動作(吐出の有無、液滴吐出量)を制御するための制御手段として機能する。
【0085】
ヘッド制御部60は、画像データメモリ62、画像データ転送制御回路64、吐出タイミング制御部65、波形データメモリ66、駆動電圧制御回路68、D/A変換器79a、79bを含んで構成される。なお、本例では、画像データ転送制御回路64が「ラッチ信号送信回路」を含んでおり、画像データ転送制御回路64から各ヘッドモジュール52a、52bに適宜のタイミングでデータラッチ信号が出力される。
【0086】
画像データメモリ62には、印刷用イメージデータ(ドットデータ)に展開された画像データが記憶される。波形データメモリ66には、圧電素子を作動させるための駆動信号の電圧波形(駆動波形)を示すデジタルデータが記憶される。例えば、図11で説明した駆動波形のデータ及びパルスの区切りを示すデータなどが波形データメモリ66に格納される。画像データメモリ62に入力される画像データや、波形データメモリ66に入力される波形データは、上位データ制御部80(「上位制御装置」に相当)にて管理される。上位データ制御部80は、例えば、パソコンやホストコンピュータで構成することができる。ヘッド制御部60は、上位データ制御部80からデータを受け取るためのデータ通信手段として、USB(Universal SerialBus)その他の通信インターフェースを備えている。
【0087】
図18では、説明を簡単にするために、1つのプリントヘッド50(1色分)のみを示しているが、複数色のインクの各色に対応した複数本の(色別の)プリントヘッドを備えるインクジェット記録装置の場合、各色のプリントヘッド50について個別に(ヘッド単位で)ヘッド制御部60が設けられる。例えば、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、黒(K)の4色に対応した色別のプリントヘッドを備える構成では、CMYK各色のプリントヘッドにそれぞれヘッド制御部60が設けられ、これら各色のヘッド制御部を1つの上位データ制御部80が管理する構成が採用される。
【0088】
システム起動時に、上位データ制御部80から各色のヘッド制御部60に対して波形データや画像データが転送される。なお、画像データについては、印刷実行時の用紙搬送と同期して、データ転送が行われる場合もある。そして、プリント動作時には、各色の吐出タイミング制御部65が用紙搬送部82からの吐出トリガー信号を受信し、画像データ転送制御回路64及び駆動電圧制御回路68へ、吐出動作開始のスタートトリガーを出力する。画像データ転送制御回路64及び駆動電圧制御回路68は、このスタートトリガーを受けて画像データ転送制御回路64及び駆動電圧制御回路68からヘッドモジュール52a、52bに解像度単位に波形データ及び画像データ転送を行うことで、画像データに応じた選択的な吐出動作(ドロップオンデマンドの吐出駆動制御)を行い、ページワイドの印刷を実現する。
【0089】
外部から入力されるプリントタイミング信号(吐出トリガー信号)に合わせて駆動電圧制御回路68からD/A変換器79a、79bへ駆動電圧波形データが出力されることにより、D/A変換器79a、79bにて波形データからアナログ電圧波形へと変換される。D/A変換器79a、79bの出力波形(アナログ電圧波形)は図示せぬアンプ回路(電力増幅回路)によって圧電素子の駆動に適した所定の電流・電圧に増幅された後にヘッドモジュール52a、52bに供給される。
【0090】
画像データ転送制御回路64は、CPU(central processing unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)によって構成することができる。画像データ転送制御回路64は、画像データメモリ62に記憶したデータを基に、各ヘッドモジュール52a、52bのノズル制御データ(ここでは、記録解像度のドット配置に対応した画像データ)を各ヘッドモジュール52a、52bに転送する制御を行う。ノズル制御データは、ノズルのON(吐出駆動)/OFF(非駆動)を決定する画像データ(ドットデータ)である。画像データ転送制御回路64は、このノズル制御データを各ヘッドモジュール52a、52bに転送することで、ノズル毎の開閉(ON/OFF)を制御する。
【0091】
画像データ転送制御回路64から出力されるノズル制御データを各ヘッドモジュール52a、52bに伝送する画像データ伝送路(符号92a、92b)は、「画像データバス」、「データバス」或いは「画像バス」などと呼ばれ、複数の信号線(n本)で構成されている(n≧2)。本実施形態では以下「データバス」(符号92a、92b)と呼ぶ。データバス92a、92bの一端は画像データ転送制御回路64の出力端子(ICピン)に接続され、他端は各ヘッドモジュール52a、52bに対応したコネクタ94a、94bを介してヘッドモジュール52a、52bに接続される。
【0092】
データバス92a、92bは、画像データ転送制御回路64や駆動電圧制御回路68等を実装した電気回路基板90の銅線パターンによって構成してもよいし、ワイヤーハーネスで構成してもよく、或いは、これらの組み合わせであってもよい。
【0093】
各ヘッドモジュール52a、52bに対応したデータラッチ信号の信号線96a、96bは、ヘッドモジュール52a、52b毎に設けられている。データラッチ信号は、データバス92a、92b経由で転送したデータ信号を各ヘッドモジュール52a、52bのノズルデータとして設定するために、画像データ転送制御回路64から各ヘッドモジュール52a、52bに対し、必要なタイミングで送信される。画像データ転送制御回路64から画像データバス92a、92bを介してヘッドモジュール52a、52bに一定量の画像データを送信した時点で、データラッチと呼ばれる信号(ラッチ信号)をヘッドモジュール52a、52bに送信する。このデータラッチ信号のタイミングで各モジュールにおける圧電素子の変位のオン(ON)/オフ(OFF)のデータが確定される。その後、ヘッドモジュール52a、52bにそれぞれ駆動電圧a、bを印加することで、ON設定に係る圧電素子を微小変位させ、インク滴を吐出させる。こうして吐出したインク滴を用紙に付着(着弾)させることで、所望の解像度(例えば、1200dpi)の印刷が行われる。
なお、OFF設定した圧電素子は駆動電圧を印加しても変位が起こらず、液滴が吐出されない。
【0094】
波形データメモリ66、駆動電圧制御回路68、D/A変換器79a、79b、各ノズルに対応した圧電素子の動作/非動作を切り換えるためのスイッチ素子(不図示)の組み合わせが「駆動信号生成手段」に相当する。
【0095】
図19は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の構成例を示す全体構成図である。本例のインクジェット記録装置100は、主として、給紙部112、処理液付与部(プレコート部)114、描画部116、乾燥部118、定着部120、及び排紙部122から構成されている。インクジェット記録装置100は、描画部116のドラム(描画ドラム170)に保持された記録媒体124(「被描画媒体」に相当、以下、便宜上「用紙」と呼ぶ場合がある。)にインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yから複数色のインクを打滴して所望のカラー画像を形成するシングルパス方式のインクジェット記録装置であり、インクの打滴前に記録媒体124上に処理液(ここでは凝集処理液)を付与し、処理液とインク液を反応させて記録媒体124上に画像形成を行う2液反応(凝集)方式が適用されたドロップオンデマンドタイプの画像形成装置である。
【0096】
(給紙部)
給紙部112には、枚葉紙である記録媒体124が積層されており、給紙部112の給紙トレイ150から記録媒体124が一枚ずつ処理液付与部114に給紙される。本例では、記録媒体124として、枚葉紙(カット紙)を用いるが、連続用紙(ロール紙)から必要なサイズに切断して給紙する構成も可能である。
【0097】
(処理液付与部)
処理液付与部114は、記録媒体124の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部116で付与されるインク中の色材(本例では顔料)を凝集させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。
【0098】
処理液付与部114は、給紙胴152、処理液ドラム(「プレコート胴」とも言う)154、及び処理液塗布装置156を備えている。処理液ドラム154は、記録媒体124を保持し、回転搬送させるドラムである。処理液ドラム154は、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)155を備え、この保持手段155の爪と処理液ドラム154の周面の間に記録媒体124を挟み込むことによって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。処理液ドラム154は、その外周面に吸引孔を設けるとともに、吸引孔から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。これにより記録媒体124を処理液ドラム154の周面に密着保持することができる。
【0099】
処理液塗布装置156は、処理液が貯留された処理液容器と、この処理液容器の処理液に一部が浸漬されたアニックスローラ(計量ローラ)と、該アニックスローラと処理液ドラム154上の記録媒体124に圧接されて計量後の処理液を記録媒体124に転移するゴムローラとで構成される。本実施形態では、ローラによる塗布方式を適用した構成を例示したが、これに限定されず、例えば、スプレー方式、インクジェット方式などの各種方式を適用することも可能である。
【0100】
処理液付与部114で処理液が付与された記録媒体124は、処理液ドラム154から中間搬送部126を介して描画部116の描画ドラム170へ受け渡される。
【0101】
(描画部)
描画部116は、描画ドラム(「描画胴」或いは「ジェッティング胴」とも言う)170、用紙抑えローラ174、及びインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yを備えている。各色のインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Y及びその制御装置として、図18で説明したプリントヘッド50の構成とヘッド制御部60の構成が採用されている。
【0102】
描画ドラム170は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)171を備える。描画ドラム170の周面には、図示しない吸着穴が所定のパターンで多数形成されており、この吸着穴からエアが吸引されることにより、記録媒体124が描画ドラム170の周面に吸着保持される。なお、負圧吸引によって記録媒体124を吸引吸着する構成に限らず、例えば、静電吸着により、記録媒体124を吸着保持する構成とすることもできる。
【0103】
インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yはそれぞれ、記録媒体124における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッドであり、そのインク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列(2次元配列ノズル)が形成されている。各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yは、記録媒体124の搬送方向(描画ドラム170の回転方向)と直交する方向に延在するように設置される。
【0104】
各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yには、対応する色インクのカセット(インクカートリッジ)が取り付けられる。インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yから、描画ドラム170の外周面に保持された記録媒体124の記録面に向かってインク滴が吐出される。
【0105】
これにより、予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。インクと処理液の反応の一例として、本実施形態では、処理液に酸を含有させPHダウンにより顔料分散を破壊し凝集するメカニズムを用い、色材滲み、各色インク間の混色、インク滴の着弾時の液合一による打滴干渉を回避する。こうして、記録媒体124上での色材流れなどが防止され、記録媒体124の記録面に画像が形成される。
【0106】
各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yの打滴タイミングは、描画ドラム170に配置された回転速度を検出するエンコーダ(図19中不図示、図23の符号294)に同期させる。このエンコーダの検出信号に基づいて吐出トリガー信号(画素トリガー)が発せされる。これにより、高精度に着弾位置を決定することができる。また、予め描画ドラム170のフレなどによる速度変動を学習し、エンコーダで得られた打滴タイミングを補正して、描画ドラム170のフレ、回転軸の精度、描画ドラム170の外周面の速度に依存せずに打滴ムラを低減させることができる。更に、各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yのノズル面の清掃、増粘インク排出などのメンテナンス動作は、ヘッドユニットを描画ドラム170から退避させて実施するとよい。
【0107】
本例では、CMYKの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
【0108】
描画部116で画像が形成された記録媒体124は、描画ドラム170から中間搬送部128を介して乾燥部118の乾燥ドラム176へ受け渡される。
【0109】
(乾燥部)
乾燥部118は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、乾燥ドラム(「乾燥胴」とも言う)176、及び溶媒乾燥装置178を備えている。乾燥ドラム176は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)177を備え、この保持手段177によって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。
【0110】
溶媒乾燥装置178は、乾燥ドラム176の外周面に対向する位置に配置され、複数のハロゲンヒータ180と、各ハロゲンヒータ180の間にそれぞれ配置された温風噴出しノズル182とで構成される。各温風噴出しノズル182から記録媒体124に向けて吹き付けられる温風の温度と風量、各ハロゲンヒータ180の温度を適宜調節することにより、様々な乾燥条件を実現することができる。乾燥部118で乾燥処理が行われた記録媒体124は、乾燥ドラム176から中間搬送部130を介して定着部120の定着ドラム184へ受け渡される。
【0111】
(定着部)
定着部120は、定着ドラム(「定着胴」とも言う)184、ハロゲンヒータ186、定着ローラ188、及びインラインセンサ190で構成される。定着ドラム184は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)185を備え、この保持手段185によって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。
【0112】
定着ドラム184の回転により、記録媒体124は記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、ハロゲンヒータ186による予備加熱と、定着ローラ188による定着処理と、インラインセンサ190による検査が行われる。
【0113】
定着ローラ188は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性ポリマー微粒子を溶着し、インクを被膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体124を加熱加圧するように構成される。記録媒体124は、定着ローラ188と定着ドラム184との間に挟まれ、所定のニップ圧(例えば、0.15MPa)でニップされ、定着処理が行われる。
【0114】
また、定着ローラ188は、熱伝導性の良いアルミなどの金属パイプ内にハロゲンランプを組み込んだ加熱ローラによって構成され、所定の温度(例えば60〜80℃)に制御される。この加熱ローラで記録媒体124を加熱することによって、インクに含まれるラテックスのTg温度(ガラス転移点温度)以上の熱エネルギーが付与され、ラテックス粒子が溶融される。これにより、記録媒体124の凹凸に押し込み定着が行われるとともに、画像表面の凹凸がレベリングされ、光沢性が得られる。
【0115】
インラインセンサ190は、記録媒体124に記録された画像(テストパターンなども含む)について、吐出不良チェックパターンや画像の濃度、画像の欠陥などを計測するための読取手段であり、CCDラインセンサなどが適用される。
【0116】
上記の如く構成された定着部120によれば、乾燥部118で形成された薄層の画像層内のラテックス粒子が定着ローラ188によって加熱加圧されて溶融されるので、記録媒体124に固定定着させることができる。
【0117】
なお、高沸点溶媒及びポリマー微粒子(熱可塑性樹脂粒子)を含んだインクに代えて、紫外線(UV)露光にて重合硬化可能なモノマー成分を含有していてもよい。この場合、インクジェット記録装置100は、ヒートローラによる熱圧定着部(定着ローラ188)の代わりに、記録媒体124上のインクにUV光を露光するUV露光部を備える。このように、UV硬化性樹脂などの活性光線硬化性樹脂を含んだインクを用いる場合には、加熱定着の定着ローラ188に代えて、UVランプや紫外線LD(レーザダイオード)アレイなど、活性光線を照射する手段が設けられる。
【0118】
(排紙部)
定着部120に続いて排紙部122が設けられている。排紙部122は、排出トレイ192を備えており、この排出トレイ192と定着部120の定着ドラム184との間に、これらに対接するように渡し胴194、搬送ベルト196、張架ローラ198が設けられている。記録媒体124は、渡し胴194により搬送ベルト196に送られ、排出トレイ192に排出される。搬送ベルト196による用紙搬送機構の詳細は図示しないが、印刷後の記録媒体124は無端状の搬送ベルト196間に渡されたバー(不図示)のグリッパーによって用紙先端部が保持され、搬送ベルト196の回転によって排出トレイ192の上方に運ばれてくる。
【0119】
また、図19には示されていないが、本例のインクジェット記録装置100には、上記構成の他、各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yにインクを供給するインク貯蔵/装填部、処理液付与部114に対して処理液を供給する手段を備えるとともに、各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yのクリーニング(ノズル面のワイピング、パージ、ノズル吸引等)を行うヘッドメンテナンス部や、用紙搬送路上における記録媒体124の位置を検出する位置検出センサ、装置各部の温度を検出する温度センサなどを備えている。
【0120】
<インクジェットヘッドの構成例>
次に、インクジェットヘッドの構造について説明する。各色に対応するインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号250によってヘッドを示すものとする。
【0121】
図20(a) はヘッド250の構造例を示す平面透視図であり、図20(b) はその一部の拡大図である。図21はヘッド250を構成する複数のヘッドモジュールの配置例を示す図である。また、図22は記録素子単位(吐出素子単位)となる1チャンネル分の液滴吐出素子(1つのノズル251に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図(図20中のA−A線に沿う断面図)である。
【0122】
図20に示したように、本例のヘッド250は、インク吐出口であるノズル251と、各ノズル251に対応する圧力室252等からなる複数のインク室ユニット(液滴吐出素子)253をマトリクス状に二次元配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙送り方向と直交する方向)に沿って並ぶように投影(正射影)される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
【0123】
記録媒体124の送り方向(矢印S方向;「第1方向」に相当)と略直交する方向(矢印M方向;「第2方向」に相当)に記録媒体124の描画領域の全幅Wmに対応する長さ以上のノズル列を構成するために、例えば、図21(a)に示すように、複数のノズル251が二次元に配列された短尺のヘッドモジュール250’を千鳥状に配置して、長尺のライン型ヘッドを構成する。或いはまた、図21(b)に示すように、ヘッドモジュール250”を一列に並べて繋ぎ合わせる態様も可能である。図21に示した各ヘッドモジュール250’又は250”が図18で説明したヘッドモジュール52a、52bに該当する。
【0124】
なお、シングルパス印字用のフルライン型プリントヘッドは、記録媒体124の全面を描画範囲とする場合に限らず、記録媒体124の面上の一部が描画領域となっている場合(例えば、用紙の周囲に非描画領域(余白部)を設ける場合など)には、所定の描画領域内の描画に必要なノズル列が形成されていればよい。
【0125】
各ノズル251に対応して設けられている圧力室252は、その平面形状が概略正方形となっており(図20(a)、(b) 参照)、対角線上の両隅部の一方にノズル251への流出口が設けられ、他方に供給インクの流入口(供給口)254が設けられている。なお、圧力室252の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。
【0126】
図22に示すように、ヘッド250(ヘッドモジュール250’、250”)は、ノズル251が形成されたノズルプレート251Aと圧力室252や共通流路255等の流路が形成された流路板252P等を積層接合した構造から成る。ノズルプレート251Aは、ヘッド250のノズル面(インク吐出面)250Aを構成し、各圧力室252にそれぞれ連通する複数のノズル251が二次元的に形成されている。
【0127】
流路板252Pは、圧力室252の側壁部を構成するとともに、共通流路255から圧力室252にインクを導く個別供給路の絞り部(最狭窄部)としての供給口254を形成する流路形成部材である。なお、説明の便宜上、図22では簡略的に図示しているが、流路板252Pは一枚又は複数の基板を積層した構造である。
【0128】
ノズルプレート251A及び流路板252Pは、シリコンを材料として半導体製造プロセスによって所要の形状に加工することが可能である。
【0129】
共通流路255はインク供給源たるインクタンク(不図示)と連通しており、インクタンクから供給されるインクは共通流路255を介して各圧力室252に供給される。
【0130】
圧力室252の一部の面(図22において天面)を構成する振動板256には、個別電極257を備えたピエゾアクチュエータ(圧電素子)258が接合されている。本例の振動板256は、ピエゾアクチュエータ258の下部電極に相当する共通電極259として機能するニッケル(Ni)導電層付きのシリコン(Si)から成り、各圧力室252に対応して配置されるピエゾアクチュエータ258の共通電極を兼ねる。なお、樹脂などの非導電性材料によって振動板を形成する態様も可能であり、この場合は、振動板部材の表面に金属などの導電材料による共通電極層が形成される。また、ステンレス鋼(SUS)など、金属(導電性材料)によって共通電極を兼ねる振動板を構成してもよい。
【0131】
個別電極257に駆動電圧を印加することによってピエゾアクチュエータ258が変形して圧力室252の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル251からインクが吐出される。インク吐出後、ピエゾアクチュエータ258が元の状態に戻る際、共通流路255から供給口254を通って新しいインクが圧力室252に再充填される。
【0132】
かかる構造を有するインク室ユニット253を図20(b)に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。かかるマトリクス配列において、副走査方向の隣接ノズル間隔をLsとするとき、主走査方向については実質的に各ノズル251が一定のピッチP=Ls/tanθで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。
【0133】
また、本発明の実施に際してヘッド250におけるノズル251の配列形態は図示の例に限定されず、様々なノズル配置構造を適用できる。例えば、図20で説明したマトリクス配列に代えて、V字状のノズル配列、V字状配列を繰り返し単位とするジグザク状(W字状など)のような折れ線状のノズル配列なども可能である。
【0134】
なお、インクジェットヘッドにおける各ノズルから液滴を吐出させるための吐出用の圧力(吐出エネルギー)を発生させる手段は、ピエゾアクチュエータ(圧電素子)に限らず、静電アクチュエータ、サーマル方式(ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させる方式)におけるヒータ(加熱素子)や他の方式による各種アクチュエータなど様々な圧力発生素子(吐出エネルギー発生素子)を適用し得る。ヘッドの吐出方式に応じて、相応のエネルギー発生素子が流路構造体に設けられる。
【0135】
<制御系の説明>
図23は、インクジェット記録装置100のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置100は、通信インターフェース270、システムコントローラ272、プリント制御部274、画像バッファメモリ276、ヘッドドライバ278、モータドライバ280、ヒータドライバ282、処理液付与制御部284、乾燥制御部286、定着制御部288、メモリ290、ROM292、エンコーダ294等を備えている。
【0136】
通信インターフェース270は、ホストコンピュータ350から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース270にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ350から送出された画像データは通信インターフェース270を介してインクジェット記録装置100に取り込まれ、一旦メモリ290に記憶される。
【0137】
メモリ290は、通信インターフェース270を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ272を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ290は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0138】
システムコントローラ272は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置100の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。即ち、システムコントローラ272は、通信インターフェース270、プリント制御部274、モータドライバ280、ヒータドライバ282、処理液付与制御部284等の各部を制御し、ホストコンピュータ350との間の通信制御、メモリ290の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ296やヒータ298を制御する制御信号を生成する。
【0139】
ROM292にはシステムコントローラ272のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。ROM292は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。メモリ290は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
【0140】
モータドライバ280は、システムコントローラ272からの指示に従ってモータ296を駆動するドライバである。図23では、装置内の各部に配置される様々なモータを代表して符号296で図示している。例えば、図23に示すモータ296には、図19の給紙胴152、処理液ドラム154、描画ドラム170、乾燥ドラム176、定着ドラム184、渡し胴194などの回転を駆動するモータ、描画ドラム170の吸引孔から負圧吸引するためのポンプの駆動モータ、インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yのヘッドユニットを、描画ドラム170外のメンテナンスエリアに移動させる退避機構のモータ、などが含まれている。
【0141】
ヒータドライバ282は、システムコントローラ272からの指示に従って、ヒータ298を駆動するドライバである。図23では、装置内の各部に配置される様々なヒータを代表して符号298で図示している。例えば、図23に示すヒータ298には、給紙部112において記録媒体124を予め適温に加熱しておくための不図示のプレヒータ、などが含まれている。
【0142】
プリント制御部274は、システムコントローラ272の制御にしたがい、メモリ290内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データ(ドットデータ)をヘッドドライバ278に供給する制御部である。
【0143】
ドットデータは、一般に多階調の画像データに対して色変換処理、ハーフトーン処理を行って生成される。色変換処理は、sRGBなどで表現された画像データ(例えば、RGB各色について8ビットの画像データ)をインクジェット記録装置100で使用するインクの各色の色データ(本例では、KCMYの色データ)に変換する処理である。
【0144】
ハーフトーン処理は、色変換処理により生成された各色の色データに対して誤差拡散法や閾値マトリクス等の処理で各色のドットデータ(本例では、KCMYのドットデータ)に変換する処理である。
【0145】
プリント制御部274において所要の信号処理が施され、得られたドットデータに基づいて、ヘッドドライバ278を介してヘッド250のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。ここで言うドットデータは、「ノズル制御データ」に相当している。
【0146】
プリント制御部274には画像バッファメモリ(不図示)が備えられており、プリント制御部274における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリに一時的に格納される。また、プリント制御部274とシステムコントローラ272とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0147】
画像入力から印字出力までの処理の流れを概説すると、印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース270を介して外部から入力され、メモリ290に蓄えられる。この段階では、例えば、RGBの画像データがメモリ290に記憶される。インクジェット記録装置100では、インク(色材) による微細なドットの打滴密度やドットサイズを変えることによって、人の目に疑似的な連続階調の画像を形成するため、入力されたデジタル画像の階調(画像の濃淡)をできるだけ忠実に再現するようなドットパターンに変換する必要がある。そのため、メモリ290に蓄えられた元画像(RGB)のデータは、システムコントローラ272を介してプリント制御部274に送られ、該プリント制御部274において閾値マトリクスや誤差拡散法などを用いたハーフトーニング処理によってインク色毎のドットデータに変換される。即ち、プリント制御部274は、入力されたRGB画像データをK,C,M,Yの4色のドットデータに変換する処理を行う。こうして、プリント制御部274で生成されたドットデータは、画像バッファメモリ(不図示)に蓄えられる。
【0148】
ヘッドドライバ278は、プリント制御部274から与えられる印字データ(即ち、画像バッファメモリ276に記憶されたドットデータ)に基づき、ヘッド250の各ノズルに対応するアクチュエータを駆動するための駆動信号を出力する。ヘッドドライバ278にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0149】
ヘッドドライバ278から出力された駆動信号がヘッド250に加えられることによって、該当するノズルからインクが吐出される。記録媒体124を所定の速度で搬送しながらヘッド250からのインク吐出を制御することにより、記録媒体124上に画像が形成される。なお、本例に示すインクジェット記録装置100は、ヘッド250(ヘッドモジュール)の各ピエゾアクチュエータ258に対して、モジュール単位で共通の駆動電力波形信号を印加し、各ピエゾアクチュエータ258の吐出タイミングに応じて各ピエゾアクチュエータ258の個別電極に接続されたスイッチ素子(不図示)のオンオフを切り換えることで、各ピエゾアクチュエータ258に対応するノズル251からインクを吐出させる駆動方式が採用されている。
【0150】
このヘッドドライバ278、プリント制御部274(画像バッファメモリ内蔵)の部分が図18で説明したヘッド制御部60に相当する。また、図23のシステムコントローラ272が図18で説明した上位データ制御部80に相当する。
【0151】
処理液付与制御部284は、システムコントローラ272からの指示にしたがい、処理液塗布装置156(図19参照)の動作を制御する。乾燥制御部286は、システムコントローラ272からの指示にしたがい、溶媒乾燥装置178(図19参照)の動作を制御する。
【0152】
定着制御部288は、システムコントローラ272からの指示にしたがい、定着部120のハロゲンヒータ186や定着ローラ188(図19参照)から成る定着加圧部299の動作を制御する。
【0153】
インラインセンサ190は、図19で説明したように、イメージセンサを含むブロックであり、記録媒体124に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつき、光学濃度など)を検出し、その検出結果をシステムコントローラ272及びプリント制御部274に提供する。
【0154】
プリント制御部274は、インラインセンサ190から得られる情報に基づいてヘッド250に対する各種補正(不吐出補正や濃度補正など)を行うとともに、必要に応じて予備吐出や吸引、ワイピング等のクリーニング動作(ノズル回復動作)を実施する制御を行う。
【0155】
<変形例>
上記実施形態では、記録媒体124に直接インク滴を打滴して画像を形成する方式(直接記録方式)のインクジェット記録装置を説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、一旦、中間転写体上に画像(一次画像)を形成し、その画像を転写部において記録紙に対して転写することで最終的な画像形成を行う中間転写型の画像形成装置についても本発明を適用することができる。
【0156】
また、上記実施形態では、記録媒体の全幅に対応する長さのノズル列を有するページワイドのフルライン型ヘッドを用いたインクジェット記録装置(1回の副走査によって画像を完成させるシングルパス方式の画像形成装置)を説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、シリアル型(シャトルスキャン型)ヘッドなど、短尺の記録ヘッドを移動させながら、複数回のヘッド走査により画像記録を行うインクジェット記録装置についても本発明を適用できる。
【0157】
<ヘッドと用紙を相対移動させる手段について>
上述の実施形態では、停止したヘッドに対して記録媒体を搬送する構成を例示したが、本発明の実施に際しては、停止した記録媒体(被描画媒体)に対してヘッドを移動させる構成も可能である。
【0158】
<記録媒体について>
「記録媒体」は、インクジェットヘッドから吐出された液滴によってドットが記録される媒体の総称であり、印字媒体、被記録媒体、被画像形成媒体、受像媒体、被吐出媒体など様々な用語で呼ばれるものが含まれる。本発明の実施に際して、記録媒体の材質や形状等は、特に限定されず、連続用紙、カット紙、シール用紙、OHPシート等の樹脂シート、フィルム、布、不織布、配線パターン等が形成されるプリント基板、ゴムシート、その他材質や形状を問わず、様々な媒体に適用できる。
【0159】
<本発明の応用例について>
上記の実施形態では、グラフィック印刷用のインクジェット記録装置への適用を例に説明したが、本発明の適用範囲はこの例に限定されない。例えば、電子回路の配線パターンを描画する配線描画装置、各種デバイスの製造装置、吐出用の機能性液体として樹脂液を用いるレジスト印刷装置、カラーフィルター製造装置、マテリアルデポジション用の材料を用いて微細構造物を形成する微細構造物形成装置など、液状機能性材料を用いて様々な形状やパターンを描画するインクジェットシステムに広く適用できる。
【0160】
<付記>
上記に詳述した実施形態についての記載から把握されるとおり、本明細書は以下に示す発明を含む多様な技術思想の開示を含んでいる。
【0161】
(発明1):液体吐出ヘッドのノズルに対応して設けられた吐出エネルギー発生素子を作動させる駆動信号を生成する駆動信号生成手段を有し、前記駆動信号を前記吐出エネルギー発生素子に供給することにより、前記ノズルから液滴を吐出させる液体吐出ヘッドの駆動装置であって、前記駆動信号は、一記録周期中に複数回の吐出を行うための複数の吐出用パルスを含んでおり、これら複数の吐出用パルスのうち最終パルスを除いた残りのパルス列内で先行するパルスの電圧振幅よりも、後続のパルスの電圧振幅が小さく、前記最終パルスは、前記複数の吐出用パルスの中で電圧振幅が最も大きいことを特徴とする液体吐出ヘッドの駆動装置。
【0162】
発明1によれば、先頭の吐出用パルスによって初滴を比較的強く打ち出し、その後の後続滴は最終滴を例外として、弱く打ち出す。そして、最終パルスでは先行滴をマージするように、他の先行パルスと比較して最も強く打ち出す。これにより、良好な飛翔状態を実現しつつ、目的の滴量、滴速を達成し、かつ、滴量に対する必要電圧の低電圧化を達成できる。
【0163】
(発明2):発明1に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスの電圧振幅が小さくなっていることを特徴とする。
【0164】
2発目以降の吐出動作には先行パルスによるメニスカス振動を利用できる。徐々に後続パルスの電圧振幅(波高)を小さくすることで、連射の吐出エネルギーを次第に弱くすることができる。
【0165】
(発明3):発明1又は2に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記駆動信号生成手段は、一記録周期中にN個(ただし、Nは3以上の整数)の吐出用パルスを含んだ前記駆動信号としての第1の駆動信号と、前記第1の駆動信号を構成するN個の吐出用パルスの前段に更にM個(ただし、Mは1以上の整数)の吐出用パルスが付加されてなる第2の駆動信号と、を生成可能であり、前記付加されたM個の吐出用パルスは前記N個の吐出用パルスにおける先頭パルスの電圧振幅よりも小さい電圧振幅のパルスであることを特徴とする。
【0166】
かかる態様によれば、異なる滴量の吐出が可能であり、各滴種の吐出速度を揃えることが可能である。
【0167】
(発明4):発明3に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、一記録周期中にM+N個の吐出用パルスを含む前記第2の駆動信号のうち、後ろからK個(ただし、Kは1以上、M+N以下の整数)の吐出用パルスを選択して前記吐出エネルギー発生素子に供給することにより、滴量を異ならせた吐出が可能であることを特徴とする。
【0168】
第2の駆動信号の波形が、これよりも滴量の少ない滴種の駆動信号の波形(第1の駆動信号の波形等)を内包する構成の場合、波形の後ろから吐出用パルスを選択することで、複数の滴種に対応した駆動波形が得られる。
【0169】
(発明5):液体吐出ヘッドのノズルに対応して設けられた吐出エネルギー発生素子を作動させる駆動信号を生成する駆動信号生成手段を有し、前記駆動信号を前記吐出エネルギー発生素子に供給することにより、前記ノズルから液滴を吐出させる液体吐出ヘッドの駆動装置であって、前記駆動信号は、一記録周期中に複数回の吐出を行うための複数の吐出用パルスを含んでおり、これら複数の吐出用パルスのうち最終パルスを除いた残りのパルス列は、仮に当該パルス列内の各パルスをそれぞれ単独で抜き出して単発の吐出に用いた場合に得られる各パルスによる吐出速度で比較したとき、当該パルス列内で先行するパルスよりも後続のパルスによる吐出速度が遅くなるように構成され、前記最終パルスは、これに先行する前記パルス列の各吐出用パルスと比較して、最も速い吐出速度となる吐出を行うものであることを特徴とする液体吐出ヘッドの駆動装置。
【0170】
かかる態様によっても、発明1と同様の作用効果が得られる。
【0171】
(発明6):発明5に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスによる前記吐出速度を遅くする構成となっていることを特徴とする。
【0172】
2発目以降の吐出動作には先行パルスによるメニスカス振動を利用できるため、後続パルスによる吐出力を弱くできる。また、最終パルスによって先行滴がマージされるため、吐出形状も良好である。
【0173】
(発明7):発明1から6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記最終パルスよりも先行する吐出用パルスの印加によって吐出された先行滴と、前記最終パルスにより吐出された最終滴とを飛翔中に合体させることを特徴とする。
【0174】
一記録周期で連続吐出される複数滴を飛翔中に合一させて主滴が形成された後に媒体上に着弾させるように各吐出用パルスの配置を定めることが望ましい。
【0175】
(発明8):発明1から7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスのパルス間隔を共振周期Tcからずらした構成となっていることを特徴とする。
【0176】
吐出用パルスの電圧振幅とパルス間隔とを組み合わせて波形を調整することにより、目的の滴量、滴速を容易に実現できる。
【0177】
(発明9):発明1から8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスのパルス幅を共振周期Tcの2分の1からずらした構成となっていることを特徴とする。
【0178】
吐出用パルスの電圧振幅とパルス幅パルス間隔とを組み合わせて波形を調整することにより、目的の滴量、滴速を容易に実現できる。
【0179】
(発明10):発明1から9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスのスロープの傾きを緩やかにした構成となっていることを特徴とする。
【0180】
吐出用パルスの電圧振幅とパルスのスロープの傾きとを組み合わせて波形を調整することにより、目的の滴量、滴速を容易に実現できる。
【0181】
(発明11):発明1から10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスの最終パルスの後段に残響抑制パルスを含んでいることを特徴とする。
【0182】
残響抑制パルスを組み合わせることにより、最終パルスの吐出効率を更に向上させることができるとともに、一記録周期の吐出後のメニスカス振動(残響)を低減し、連続記録の安定化を図ることができる。
【0183】
(発明12):発明1から11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記駆動信号の波形を表すデジタル波形データを格納する波形データ記憶手段と、前記波形データ記憶手段から読み出したデジタル波形データからアナログ信号に変換するD/A変換器と、前記D/A変換器を経て生成された前記駆動信号を前記吐出エネルギー発生素子に印加するタイミングを制御するスイッチ手段と、を備えることを特徴とする。
【0184】
(発明13):液滴を吐出するためのノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室に設けられた吐出エネルギー発生素子と、を備えた液体吐出ヘッドと、当該液体吐出ヘッドの前記ノズルから液滴を吐出させるための駆動装置としての発明1から12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置と、を備えたことを特徴とする液体吐出装置。
【0185】
発明1から12に係る液体吐出ヘッドの駆動装置と、この駆動装置から駆動信号の供給を受けて作動する液体吐出ヘッドとを組み合わせることで液体吐出装置が実現される。
【0186】
(発明14):液滴を吐出するためのノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室に設けられた吐出エネルギー発生素子と、を備えた前記液体吐出ヘッドとしてのインクジェットヘッドと、当該インクジェットヘッドの前記ノズルから液滴を吐出させるための駆動装置としての発明1から12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置と、を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【符号の説明】
【0187】
10…駆動波形、11〜14…吐出用パルス、20…ノズル孔、22…ノズル面、24…インク、30…駆動波形、31〜35…吐出用パルス、36…残響抑制パルス、50…プリントヘッド、60…ヘッド制御部、66…波形データメモリ、79a,79b…A/D変換器、100…インクジェット記録装置、124…記録媒体、170…描画ドラム、172M,172K,172C,172Y…インクジェットヘッド、251…ノズル、258…ピエゾアクチュエータ、272…システムコントローラ、280…プリント制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドに代表される液体吐出ヘッドのノズルから液滴を吐出させるための駆動信号を供給する駆動装置、並びにこれを用いた液体吐出装置及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷機におけるインク吐出用の駆動波形は、所望のインク滴量を記録媒体上の所望の場所に着弾させることが求められる。そのために、滴速、サテライト、ミストの発生状況等を考慮して適切に電圧値を調整しなければならない。更に、各ノズル(インク吐出口)に対応した圧力室に吐出圧力を付与する吐出エネルギー発生手段(例えば、圧電素子)にとっては、印加する電圧の振幅は小さい方が寿命の観点で有利である。
【0003】
特許文献1には、一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)のインク滴を連続吐出させる際、徐々に滴速が速くなるようにインク吐出パルスを選択することで、サテライトのない飛翔状態を実現する技術が開示されている。また、特許文献1は、一印字周期内にN個のインク吐出パルス信号を含んだ基準駆動信号の波形のうち、後側から順にパルスを選択してアクチュエータに印加することにより滴種(着弾滴により形成されるドットのサイズ種)を変更する構成となっている。
【0004】
特許文献2は、連続する複数の駆動パルスを用い、圧電アクチュエータに印加する駆動パルス数に応じて吐出された液滴が被着媒体に到達(着弾)する前に、これら液滴を一つの滴に合体させて着弾させる液滴吐出装置を開示している。同文献2では、先頭滴から徐々に滴速が速くなるように、パルス間隔を固有振動周期(共振周期)Tcに近づけていく構成を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3241352号公報
【特許文献2】特開2010−149335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に開示された発明では、吐出されたインク滴の飛翔形状(サテライトやミストなど)は問題ないが、駆動電圧に関しては考慮されていない。特に、より低電圧、低パルス数で吐出を行うことでヘッドの長寿命化に貢献するといった観点で、従来の技術はまだ課題が残されている。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、吐出滴の良好な飛翔状態(吐出形状)を実現しつつ、ヘッドの長寿命化を達成できる液体吐出ヘッドの駆動装置、並びにこれを用いた液体吐出装置及びインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記目的を達成するために、液体吐出ヘッドのノズルに対応して設けられた吐出エネルギー発生素子を作動させる駆動信号を生成する駆動信号生成手段を有し、前記駆動信号を前記吐出エネルギー発生素子に供給することにより、前記ノズルから液滴を吐出させる液体吐出ヘッドの駆動装置であって、前記駆動信号は、一記録周期中に複数回の吐出を行うための複数の吐出用パルスを含んでおり、これら複数の吐出用パルスのうち最終パルスを除いた残りのパルス列内で先行するパルスの電圧振幅よりも、後続のパルスの電圧振幅が小さく、前記最終パルスは、前記複数の吐出用パルスの中で電圧振幅が最も大きいことを特徴とする液体吐出ヘッドの駆動装置を提供する。
【0009】
本発明の他の態様については、本明細書及び図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、一記録周期内に複数回の吐出を行い、これら複数滴で1画素(1ドット)の記録を行う場合に、吐出形状を損なうことなく、所望の滴量を実現する際の必要電圧を低減することができる。これにより、ヘッドの長寿命化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態によるインクジェットヘッドの駆動波形の一例を示す波形図
【図2】図2(a)は吐出前のノズルの状態(定常状態)を示し、図2(b)は吐出時の様子を示した模式図
【図3】比較例1に係る駆動波形の波形図
【図4】比較例2に係る駆動波形の波形図
【図5】引き押し波形の印加による圧力変動に対応したメニスカスの速度変動を示したグラフ
【図6】共振周期Tcの測定方法の第1例に関する矩形波のパルス幅と滴速、滴量の関係を示したグラフ
【図7】共振周期Tcの測定方法の第2例に関する連射矩形波形のパルス間隔と滴速、滴量の関係を示したグラフ
【図8】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置に用いられる駆動波形の具体例を示した波形図
【図9】図8の駆動波形を用いた連射による液滴の吐出状況を時間経過順に示した模式図
【図10】滴量を異ならせて打滴する場合に使用する駆動波形の例を示す波形図
【図11】大滴を吐出するための駆動波形を示す波形図
【図12】電圧振幅とパルス間隔を組み合わせて調整した駆動波形の例を示す波形図
【図13】電圧振幅とパルス幅を組み合わせて調整した駆動波形の例を示す波形図
【図14】電圧振幅とパルスのスロープの傾きを組み合わせて調整した駆動波形の例を示す波形図
【図15】パルス間隔を調整して徐々に吐出エネルギーを弱めた連射パルス波形の例を示す波形図
【図16】パルス幅を調整して徐々に吐出エネルギーを弱めた連射パルス波形の例を示す波形図
【図17】パルスのスロープの傾きを調整して徐々に吐出エネルギーを弱めた連射パルス波形の例を示す波形図
【図18】本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッドの駆動装置が適用されたインクジェット記録装置の構成例を示すブロック図
【図19】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図
【図20】インクジェットヘッドの構成例を示す平面透視図
【図21】ヘッドの他の構造例を示す平面透視図
【図22】図20中のA−A線に沿う断面図
【図23】インクジェット記録装置のシステム構成を示す要部ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の実施形態によるインクジェットヘッドの駆動波形の一例を示す波形図である。この駆動波形10は、記録媒体上における1画素のドット記録を担う一記録周期内に複数の吐出用パルス11〜14が連続する駆動波形である。なお、「一記録周期」という用語は、当該分野において「一印字周期」、「一印刷周期」と呼ばれる場合がある。
【0014】
図1では、4つのパルス11、12、13、14が連続する4発連射タイプの例が示されている。各パルス11〜14は、いわゆる引き-押し(pull-push)型の波形であり、1パルスの印加につき1発の吐出動作が行われる。駆動波形10における先頭パルス(第1パルス)11は、ノズルに連通する圧力室の体積を拡張させる方向に圧電素子(不図示)を変形させる「引き(pull)」動作の駆動を行う第1信号要素11aと、その引き動作で圧力室を拡張させた状態を維持(保持)する第2信号要素11bと、圧力室を収縮させる方向に圧電素子(不図示)を変形させる「押し(push)」動作の駆動を行う第3信号要素11cと、を含んで構成される。
【0015】
第1信号要素11aは基準電位V0から電位を下げる立ち下がり波形部である。第2信号要素11bは第1信号要素11aで下降した電位V1を維持する波形部、第3信号要素11cは第2信号要素11bの電位(V1)を基準電位に上昇させる立ち上がり波形部である。
【0016】
先頭パルス11に続く、第2パルス12、第3パルス13、第4パルス(最終パルス)14についても、同様に、「引き」、「維持」、「押し」の各動作に対応した信号要素を有している。先頭パルス11で説明した11a、11b、11cと同様に、各パルス12〜14を示す符号の末尾に「a」、「b」、「c」の添字を付加して、「引き」、「維持」、「押し」の各信号要素を表す。
【0017】
本明細書では説明の便宜上、基準電位に対する各パルス11〜14の第2信号要素11b〜14bの電位差を「電圧振幅」或いは「波高」と呼ぶ。すなわち、基準電位V0と第2信号要素11bの電位V1の電位差(V0-V1)を第1パルス11の「電圧振幅」或いは「波高」という。同様に、第2パルス12の第2信号要素12bの電位V2、第3パルス13の第2信号要素13bの電位V3、第4(最終)パルス14の第2信号要素14bの電位V4、について、それぞれ基準電位V0との電位差を各パルス12〜14の「電圧振幅」或いは「波高」という。
【0018】
本例の駆動波形10は、先頭パルス11の電圧振幅(波高)に対して後続パルス12〜13の電圧振幅(波高)を徐々に小さくし、最終パルス14の電圧振幅を先頭パルス11よりも大きくする。すなわち、最終パルス14の電圧振幅は、他の先行するパルス11〜13の電圧振幅と比較して最も大きいものとする。
【0019】
各パルス11〜14が圧電素子に印加されることにより、ノズルから液滴が吐出されるため、一記録周期内に含まれる吐出用パルスの数と同数の吐出動作が一記録周期で行われる。図1の例では一記録周期で4発の連射により液滴が連続吐出され、これら吐出液滴(4滴)は記録媒体に着弾する際に一体的に合体する。この合体した液滴(合一滴)が記録媒体上に付着することにより1ドットが記録される。
【0020】
本発明による技術的観点の一つは、連射パルス波形において、吐出される液滴の良好な飛翔形状を満足させながら、ある目的の滴量(1ドットを形成するための液滴量)を達成する時の必要な駆動電圧の振幅をなるべく小さくするものである。
【0021】
本実施形態によれば、電圧振幅をなるべく小さく抑えるために、初滴(先頭滴)を強く打ち出し、そのメニスカス振動(残響)を利用しながら後続滴の吐出を行うことで後続滴の吐出用パルスの電圧振幅を下げることができる。また、先頭滴を強く打ち出すことでノズル表面状態の影響を受けにくくなり、着弾位置精度も向上する。
【0022】
これは、次のような理由で説明される。
【0023】
図2(a)は吐出前のノズルの状態(定常状態)を示し、図2(b)は吐出時の様子を示した模式図である。符号20はノズル孔、21はノズルプレート、22はノズル面(吐出面)、23はノズル孔20の縁、24はインク、25はメニスカス(気液界面)を示している。図示されていないが、ノズル孔20の上方に圧力室が設けられ、該圧力室には吐出エネルギー発生素子としての圧電素子が設けられる。圧電素子に駆動電圧を印加することにより、圧力室の体積が変化し、その体積変動による圧力変化によってノズル孔20から液が押し出される。
【0024】
図2(a)に示す吐出前の定常状態では、ノズル孔20内のインク24はヘッド背圧によって負圧に維持されており、メニスカス25は圧力室側に向かって凸の(ノズル面22側から見て凹面の)曲面となっている。
【0025】
図2(b)に示すように、先頭滴を打ち出す際には、一旦、メニスカス25が大きく引き込まれた後に、インクが押し出されるため、押し出されたインクの周囲(曳糸28の周囲)には、最初のメニスカス引き込み量に応じた深さのメニスカスの窪み26ができる。最初の「引き」動作によるメニスカス引き込み量が大きいほど、押し出し時における窪み26が大きく(深く)なり、ノズル孔20の縁21から離れた位置に曳糸28が形成される。このため、ノズル孔20から吐出されるインクは、ノズル孔20周囲のノズル面22の影響を受けにくくなる。
【0026】
ノズル面22の汚れや撥液膜の劣化など、ノズル孔20の縁21近傍のノズル表面状態が悪化している状況でノズル孔20から押し出されたインクがその劣化ノズル表面に触れると、吐出方向異常(飛翔曲がり)などが発生し、着弾位置精度が低下することが知られている。この点、本実施形態によれば、曳糸28がノズル面22に触れにくく、ノズル表面状態の影響を受けにくいため、飛翔曲がりなどの吐出異常が発生しにくく、ノズル表面状態が多少劣化した状況であっても着弾位置精度を維持することができる。
【0027】
更に、図1に示した駆動波形10は、最終パルス14の電圧振幅が他の先行パルス(11〜13)よりも大きく、最終滴が飛翔中に先行滴に追いついて、これらを一体的に合一させてから記録媒体上に着弾させることができる。
【0028】
<比較例1>
図3は、1発目(最初)の滴を強く押し出した後、2発目、3発目、4発目と、後続滴の押し出し力を徐々に小さくした場合の例である。図1との違いは、最終パルス(4発目のパルス)の電圧振幅が3発目のパルスの電圧振幅よりも小さい点である。図3のような波形では、飛翔中に連射滴を完全に合一させることが難しくなり、主滴がまとまらないといった問題が発生する。
【0029】
これに対し、図1の波形では、符号14出示した最終パルスの電圧振幅が他の先行するパルス(11〜13)に比べて大きい。これにより、最終滴を再び強く吐出させることができ、先行滴をマージして飛翔形状を整えることができる。
【0030】
<比較例2>
図4は他の比較例の波形図である。図4のように、先頭パルスから後続パルスの波高を徐々に大きくする構成を採用した場合、先行滴をマージすることはできるが、滴量を十分に大きくすることができない。すなわち、図4を構成するパルスを並び変えて、図1を構成した場合、図1の方が大きなドット(滴量)となる。
【0031】
これは、ある目的の滴量を実現するにあたり、図1の駆動波形は、図4の駆動波形と比較して全体的に低電圧化できることを意味している。
【0032】
<吐出用パルスのパルス幅、パルス間隔について>
図5は、インクジェットヘッドにおける代表的な引き押し(pull-push)波形の印加によるノズル内(圧力室内)の圧力変動(メニスカスの速度変動)を示したグラフである。図5(a)は圧力変動を表す波形、図5(b)は印加駆動電圧の波形を表す。
【0033】
ピエゾジェット方式のインクジェットヘッドの場合、1ノズルの吐出機構は、ノズル孔(吐出口)に連通する圧力室に圧電素子が設けられ、この圧電素子を駆動して圧力室内の液に圧力変動を与え、ノズル孔から液滴の吐出を行う仕組みとなっている。圧力の振動をそのまま吐出に利用するため、ノズル孔から滴を強く打ち出すときは、圧力振動のサイン波に合わせた構成のパルス波形にすることが望ましい。
【0034】
図5(b)に示す駆動波形は、基準電位から電圧を下げると、圧力室が膨張するため、圧力は低下し、ノズル内のメニスカスは圧力室の方向(吐出方向と反対向きの方向)に引き込まれる。この「引き」波形要素の印加によりメニスカスの引き込み動作が開始された後、引き電圧を一定に維持すると、振動系の固有振動周期でメニスカスが振動する。このメニスカス振動によって丁度メニスカスの速度が再び0となるときに、圧力室を収縮させれば、最も加速されるところで、液滴を吐出することができる。このようなメニスカスの動きと、駆動波形による引き押しのサイクルを合わせることで効率的な吐出が可能である。
【0035】
図5(a)に示すように、メニスカス振動の1周期が1共振周期Tcになるため、その約半分(Tc/2)でパルス幅を区切ると最も効率がよい。また、2発目のパルスは、1発目のパルスの印加によって発生したメニスカスの振動による引き込み、加速の動きに合わせて、引き−押しの波形要素が重なるようにパルス間隔が設定されることが好ましい。
【0036】
すなわち、パルス間隔(先行パルスの立ち下がりから、次ぎのパルスの立ち下がりまでの間隔)は、ヘッド共振周期(ヘルムホルツ固有振動周期)Tcと一致させることが好ましく、パルス幅(1つのパルスの立ち下がりから立ち上がりまでの時間間隔)は、ヘッド共振周期(ヘルムホルツ固有振動周期)Tcの(2n−1)/2とすることが望ましい(ただし、nは正の整数)。
【0037】
図1で説明した駆動波形10は、パルス間隔を共振周期Tcとほぼ一致させ、パルス幅をTc/2とほぼ一致させた例となっている。
【0038】
<共振周期Tcの特定について>
ここで、共振周期Tcの特定方法について説明する。ヘッド共振周期(ヘルムホルツ固有振動周期)Tcは、インク流路系、インク(音響要素)、圧電素子の寸法、材料、物性値等から定まる振動系全体の固有周期である。共振周期Tcは、ヘッドの設計値(使用するインクの物性値を含む)から計算によって求めることができる。また、ヘッドの設計値から推定する方法に限らず、実験によってTcを測定する方法もある。
【0039】
<<測定方法1>>:駆動波形として、単純な矩形波をつかって液滴の吐出状況を調べる実験を行う。図6は、矩形波のパルス幅を徐々に変化させて滴速と滴量を調べたものである。矩形波の電圧振幅ΔVは20Vとした。
【0040】
パルス幅の変化に対して、滴速度、滴量はともに、山なりに変化し、それぞれ増加から減少に転じるピークが現れる。図6において、滴速度のピーク位置はパルス幅2μsの位置であるのに対し、滴量のピーク位置はパルス幅2.3μsの位置であり、各ピーク位置は若干ずれている。
【0041】
この測定方法1では、ピーク位置の約2倍がTcとして算出される。滴速度の結果から計算するとTc=4μs、滴量から計算するとTc=4.6μsになる。
【0042】
<<測定方法2>>:駆動波形として、矩形波が連続する連射矩形波形を用い、液滴の吐出状況を調べる実験を行う。図7は、連射矩形波形のパルス間隔を徐々に変化させて滴速と滴量を調べたものである。連射矩形波の電圧振幅ΔVは19Vとした。
【0043】
パルス間隔を振ることによって、後続のパルスによる滴速がどれだけ速くなるか、或いは、滴量がどれだけ変化するか、という観点でTcを把握できる。図7に示したように、滴速の観点でも、滴量の観点でも、概ね同じ位置にピークが現れる。図7によれば、ピーク位置は約「4.5μs」となる。よって、測定方法2によれば、Tc=4.5μsとなる。
【0044】
図6、図7で説明したとおり、Tc測定の結果は、測定方法に依存する範囲でばらつきがある。共振周期Tcの特定に際しては、ヘッド設計値からの推定(計算)、測定方法1、2等による測定など、採用する特定方法の違いに依存する範囲のばらつきが許容されるものとして解釈すべきである。
【0045】
<駆動波形の具体例と吐出動作の振る舞い>
図8は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置に用いられる駆動波形の具体例を示した。図8の駆動波形30は一記録周期内に5つの吐出用パルス(31〜35)を含んで構成される。先頭の第1パルス31で初滴を強く押し出し、その後、後続の第2パルス32、第3パルス33、第4パルス34までのパルス列内は、先頭パルス31から徐々に電圧振幅を小さくしていく。最後の第5パルス(最終パルス)35は、第1パルス31よりも大きな電圧振幅を有し、先行するパルス(第1〜第4パルス)による吐出滴(先行滴)に追いつく速度で最終滴を吐出させる。また、本例の駆動波形30は、第5パルス35の後に続いて、メニスカス振動(残響)を静定させる残響抑制(静定)パルス36が加えられている。
【0046】
図9は、図8の駆動波形の印加による液滴の吐出状況を時間経過順に模式的に描いた図である。図9の「1」のタイミングで第1パルス31の印加による1発目の液が押し出されている。「2」のタイミングで第2パルス32の印加による2発目の液が押し出されている。以下、「3」、「4」、「5」の各タイミングで3発目、4発目、5発目の液が押し出されている。
【0047】
第1パルス31の後に印加される後続パルス(32〜35)は、それぞれ先行パルスの印加によるメニスカス振動(残響)を利用して液を加速する。このため後続パルスの電圧を先行パルスの電圧に対して少し下げた程度では、後続滴は先行滴に追いついていく。図9の2発目、3発目の滴は、初滴(先頭滴)の曳糸中を進み、先頭滴に追いついて合一している。
【0048】
また、4発目のように、第3パルス33の波高値に対して、第4パルス34の波高値を極端に下げると(図8参照)、先頭滴に追いつくことはできなくなるが、最終パルス(第5パルス)35によって打ち出される最終滴にマージされる。
【0049】
<吐出動作の現象面から把握される駆動波形の特徴について>
図8のような連射パルスの場合、先行パルスによる残響(メニスカス振動)を利用して加速を行うため、各パルスの波高値の大小関係だけで各パルスによる吐出液の滴速を必ずしも特定することができない。
【0050】
ただし、仮に、第1〜第5パルスの個々のパルスを単独で用いた場合には(引き押しの単一パルスを印加して単射吐出を行う場合には)、そのパルスの波高値に応じた滴速、吐出力、吐出エネルギーの強弱となる。
【0051】
したがって、図8のような駆動波形30を構成する吐出用パルス31〜35のうち、最終パルス35を除いた残りのパルス列(第1パルス31から第4パルス34)内の各パルスは、それぞれ単独で用いた場合に、吐出速度が次第に遅くなる、若しくは、吐出エネルギーが次第に小さくなる、若しくは、吐出力が次第に弱くなる、という関係を持って配置される。
【0052】
また、第5パルス(最終パルス)35は、他の先行パルス(31〜34)と比較し、単独で用いた場合に、吐出速度が最も速くなる、若しくは、吐出エネルギーが最も大きくなる、若しくは吐出力が最も強くなる、という関係を持って配置される。
【0053】
<滴種を異ならせて打滴する場合の例>
図10は、1画素中の滴量を異ならせて打滴する場合に使用する駆動波形の例である。ここでは、一記録周期の駆動波形を構成している複数の吐出用パルスのうち、後ろから一部のパルスを選択して使用することによって、小滴、中滴、大滴の3種類の滴サイズを打ち分ける場合の例を説明する。
【0054】
図10(a)は小滴、図10(b)は中滴、図10(c)は大滴にそれぞれ対応した波形図である。使用頻度が最も高いと想定される中滴の波形(図10(b))について、図8で説明した連射パルス波形の構成が採用される。すなわち、中滴は、各パルスの電圧振幅を調整することにより、吐出効率の低電圧化と調整を行っている。また、最終パルスにおいては、圧力室の収縮を膨張よりも強くとることで、先行的をマージできるだけの電圧を確保している。このように残響抑制部と組み合わせて最終パルスの吐出効率を上げることも好ましい形態である。
【0055】
小滴の波形(図10(a))は、中滴の波形(図10(b))又は大滴の波形(図10(c))中の最終パルスと残響抑制パルスのみを選択したものである。
【0056】
図11は、図10(c)の詳細図である。図11に示す大滴用の波形は、中滴の波形の前段に2つのパルス(41、42)を付加したものとなっている。この付加された追加第1パルス41と、追加第2パルス42は、符号31で示した中滴の1パルス目(第3番目のパルス)よりも波高が低く、追加第1パルス41→追加第2パルス42→第3番目のパルス31の順で各パルスの波高が徐々に高くなるように電圧値が調整されている。
【0057】
中滴の場合は、最終パルス(符号35)を例外として、先頭パルス(符号31)から次第に後続パルスの電圧振幅を小さくしていくのに対し、大滴の場合は先頭のパルス(符号41の追加第1パルス)から3パルス目までの部分について、徐々に電圧振幅を増大させ、滴速を速めていく構成が採用されている。
【0058】
これは次の理由による。仮に、大滴において、追加第1パルス41と追加第2パルス42の電圧振幅を第3番目のパルス(符号31)よりも大きい値に設定し、追加第1パルス41から第3番目のパルス(符号31)までの範囲において各パルスの波高値を逓減する電圧調整を採用すると、1発目と2発目が3発目よりも更に強く打ち出されることになる。すると、[1]先行滴の吐出速度が速くなりすぎる、[2]滴量が大きくなりすぎる、[3]最終パルスでのマージ(液滴の合体)ができなくなる、等の不具合が生じてしまう。
このような不具合を回避する観点から、図11のような波形が採用されている。
【0059】
本実施形態では、使用頻度を考慮して中滴用の波形を重視し、中滴用の波形について、設計仕様に沿った所望の滴量(例えば、5ピコリットル)と吐出速度を実現するように、本発明を適用して波形を設計する。
【0060】
そして、大滴については、目的の滴量(例えば、10ピコリットル)となるように、中滴の波形を基準にして、その前段に、図11のような追加パルス(符号41、42)を付加する構成とする。このように中滴の波形(メイン波形)をベースにして大滴の波形を定めると、中滴と大滴の吐出速度を揃えることは比較的簡単である。
【0061】
図示した大滴の波形は、各吐出用パルス(41、42、31〜35)のパルス周期TAは一定であり、各吐出用パルス(41、42、31〜35)のパルス幅TBが一定となっている。
【0062】
また、図10(a)に示した小滴の波形は、中滴の波形(図10(b)中に内包されており、中滴の波形中の最終パルスと残響抑制パルスのみを選択したものである。このような構成によれば、小滴、中滴、大滴の滴速(記録媒体上に着弾するまでの時間)を揃えることが可能である。
【0063】
図10(a)〜(c)及び図11で説明したとおり、中滴の波形は小滴の波形を内包し、大滴の波形は中滴及び小滴の波形を内包する関係にある。つまり、大滴の波形の後ろ側から順に一部のパルスを選択して圧電素子に印加することにより、滴量(滴種)を変更することができる。全ての滴種で滴速(吐出速度)を概ね揃え、かつ、それぞれの滴種について目的の滴量を達成するには、使用頻度等の観点から中心的な滴種(本例では、中滴)の波形を本発明の適用によって作成し、それを超える適量の滴種については、そのメイン波形の前段に別のパルスを付加する。この付加されるパルスは、図11で説明したように、波高が徐々に大きくなるものとする。
【0064】
<3種以上の滴種への拡張>
ここでは、3種類の滴種を打ち分ける例を説明したが、3種類以上の滴種を打ち分ける場合も同様の方法で波形を定めることができる。すなわち、最大滴量の滴種又は最小滴量の滴種以外のある滴種をメイン滴種として選定し、このメイン滴種に対応した波形(「メイン波形」という。)について、図1〜図8で説明した観点から波形を定める。
【0065】
このとき、メイン波形は、メイン滴種よりも滴量が小さい滴種の波形を内包するものとする。そして、このメイン滴種よりも滴量の大きい滴種の波形を作る時には、そのメイン波形の前段に、別のパルスを追加するものとし、その追加されるパルスは、メイン波形の先頭パルスよりも小さい波高のものとする。好ましくは、これら追加されるパルスは、1発目から徐々に波高が大きくなっていくものとする。こうして全滴種の波形が決定される。最大滴量の滴種に対応した波形は、全滴種の波形を内包したものとなる。
【0066】
なお、メイン波形における吐出用パルスの数や、このメイン波形の前段に付加される追加パルスの数については特に限定されない。一記録周期中にN個(ただし、Nは3以上の整数)の吐出用パルスを含んだメイン波形に対し、その前段に更にM個(ただし、Mは1以上の整数)の吐出用パルスを付加することによって、メイン波形による滴量を超える滴量の吐出に対応した駆動波形を得ることができる。
【0067】
一記録周期中にM+N個の吐出用パルスを含む駆動波形のうち、後ろからK個(ただし、Kは1以上、M+N以下の整数)の吐出用パルスを選択して吐出エネルギー発生素子に供給することにより、滴量を異ならせた吐出が可能である。
【0068】
このような駆動波形を実際のインクジェット装置に適用する場合には、全滴種の波形を内包した基本波形データ(最大滴量の滴種に対応した波形のデータ)をメモリ等の記憶手段に組み込み、滴種毎に何番目のパルスを、印加時の先頭パルスとするかという区切りの情報を保持する。全滴種の波形を内包した複数のパルスで構成される基本波形(最大滴量の波形)中の後ろの方からパルスを選択することによって、滴種を打ち分けることが可能である。
【0069】
例えば、吐出エネルギー発生素子に駆動信号を印加するための信号伝達ライン上に設けられたスイッチ素子を制御することによって、滴種に応じて印加する吐出用パルスを選択する。こうして、各吐出エネルギー発生素子に対応して設けられたスイッチ素子を利用して、各種の滴種対応波形の駆動電圧が圧電素子に印加される。
【0070】
<他の駆動波形例について>
図1、図8〜図11では、各パルスの電圧振幅を調整することによって目的の滴量と滴速を実現する例を説明したが、電圧振幅の調整のみならず、パルス間隔、パルス幅、パルスのスロープを組み合わせて調整することにより、目的の滴量、滴速を実現することも可能である。
【0071】
図12〜図14には、図1で説明した駆動波形の変形例を示した。図12に示した駆動波形は、図1で説明した各パルスの電圧振幅の調整とパルス間隔TAの調整とを組み合わせた波形例である。図12では、最終パルス14を除く残りのパルス列(符号11〜13)内で徐々に後続パルスのパルス間隔TAを共振周期Tcからずらすことで、吐出エネルギーを弱くする構成となっている。
【0072】
共振周期Tcに対してパルス間隔TAを増大させる方向にずらしてもよいし、共振周期Tcに対してパルス間隔TAを短くする方向(減少方向)にずらしてもよい。どの程度の範囲内で値をずらすかについては、特に限定されない。
【0073】
図13に示した駆動波形は、図1で説明した各パルス(符号11〜14)の電圧振幅の調整とパルス幅TBの調整とを組み合わせた波形例である。図13では、最終パルス14を除く残りのパルス列(符号11〜13)内で徐々に後続パルスのパルス幅TBを共振周期Tcの2分の1からずらすことで、吐出エネルギーを弱くする構成となっている。先頭のパルス幅に対して後続パルスのパルス幅を増大させる方向にずらしてもよいし、パルス幅を短くする方向(減少方向)にずらしてもよい。どの程度の範囲内で値をずらすかについては、特に限定されない。
【0074】
図14に示した駆動波形は、図1で説明した各パルス(符号11〜14)の電圧振幅の調整と後続パルスのスロープの傾き調整とを組み合わせた波形の例である。図14では、最終パルス14を除く残りのパルス列(符号11〜13)内で徐々に後続パルスのスロープの傾きを緩やかにすることで、吐出エネルギーを弱くする構成となっている。
【0075】
図12〜図14で説明した構成例によれば、図1よりも一層の低電圧化が可能である。また、図12〜図14の形態を適宜組み合わせる構成も可能である。つまり、電圧振幅の調整と、パルス間隔、パルス幅、スロープの傾きの調整等を適宜組み合わせていることにより、目的の滴量、滴速を実現する駆動波形を一層設計しやすくなる。
【0076】
<関連する駆動波形の開示>
図12〜図14に例示した駆動波形に関連して、図15〜図17の駆動波形を開示する。
【0077】
図15〜図17は、図1で説明した各パルス(符号11〜14)の電圧振幅の調整を採用せずに、パルス間隔TAの調整、パルス幅TBの調整、又は、パルスのスロープの傾きの調整によって後続パルスの吐出エネルギーを弱くしていくものである。
【0078】
図15では、最終パルスを除く残りのパルス列内で徐々に後続パルスのパルス間隔TAを共振周期Tcからずらすことで、吐出エネルギーを弱くする構成となっている。
図16では、最終パルスを除く残りのパルス列内で徐々に後続パルスのパルス幅TBを共振周期Tcの2分の1からずらすことで、吐出エネルギーを弱くする構成となっている。
【0079】
図17では、最終パルスを除く残りのパルス列内で徐々に後続パルスのスロープの傾きを緩やかにすることで、吐出エネルギーを弱くする構成となっている。
【0080】
図15〜図17で説明したような波形やこれらの適宜の組み合わせを採用しても目的の滴量、滴速を実現することは可能である。ただし、低電圧化によるヘッド長寿命化という観点を考慮すると、図1、図10〜図14で説明した形態が好ましい。
【0081】
<インクジェット記録装置の構成例>
図18は、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッドの駆動装置が適用されたインクジェット記録装置の構成例を示すブロック図である。プリントヘッド(「液体吐出ヘッド」に相当)50は、複数個のインクジェットヘッドモジュール(「以下、「ヘッドモジュール」という。」52a、52bを組み合わせて構成される。ここでは、説明を簡単にするために、2つのヘッドモジュール52a、52bを図示したが、1つのプリントヘッド50を構成するヘッドモジュールの数は特に限定されない。
【0082】
ヘッドモジュール52a、52bの詳細な構成は図示しないが、各ヘッドモジュール52a、52bのインク吐出面には、複数のノズル(インク吐出口)が高密度で二次元配置されている。また、ヘッドモジュール52a、52bには、各ノズルに対応した吐出エネルギー発生素子(本例の場合、圧電素子)が設けられている。
【0083】
被描画媒体としての用紙(図示せず)の幅方向に対して、複数個のヘッドモジュール52a、52bを繋ぎ合わせることにより、紙幅方向の全記録可能範囲(描画可能幅の全域)について所定の記録解像度(例えば、1200dpi)で描画可能なノズル列を有する長尺のラインヘッド(シングルパス印字が可能なページワイドヘッド)が構成される。
【0084】
プリントヘッド50に接続されているヘッド制御部60(「液体吐出ヘッドの駆動装置」に相当)は、複数のヘッドモジュール52a、52bの各ノズルに対応する圧電素子の駆動を制御し、ノズルからのインク吐出動作(吐出の有無、液滴吐出量)を制御するための制御手段として機能する。
【0085】
ヘッド制御部60は、画像データメモリ62、画像データ転送制御回路64、吐出タイミング制御部65、波形データメモリ66、駆動電圧制御回路68、D/A変換器79a、79bを含んで構成される。なお、本例では、画像データ転送制御回路64が「ラッチ信号送信回路」を含んでおり、画像データ転送制御回路64から各ヘッドモジュール52a、52bに適宜のタイミングでデータラッチ信号が出力される。
【0086】
画像データメモリ62には、印刷用イメージデータ(ドットデータ)に展開された画像データが記憶される。波形データメモリ66には、圧電素子を作動させるための駆動信号の電圧波形(駆動波形)を示すデジタルデータが記憶される。例えば、図11で説明した駆動波形のデータ及びパルスの区切りを示すデータなどが波形データメモリ66に格納される。画像データメモリ62に入力される画像データや、波形データメモリ66に入力される波形データは、上位データ制御部80(「上位制御装置」に相当)にて管理される。上位データ制御部80は、例えば、パソコンやホストコンピュータで構成することができる。ヘッド制御部60は、上位データ制御部80からデータを受け取るためのデータ通信手段として、USB(Universal SerialBus)その他の通信インターフェースを備えている。
【0087】
図18では、説明を簡単にするために、1つのプリントヘッド50(1色分)のみを示しているが、複数色のインクの各色に対応した複数本の(色別の)プリントヘッドを備えるインクジェット記録装置の場合、各色のプリントヘッド50について個別に(ヘッド単位で)ヘッド制御部60が設けられる。例えば、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、黒(K)の4色に対応した色別のプリントヘッドを備える構成では、CMYK各色のプリントヘッドにそれぞれヘッド制御部60が設けられ、これら各色のヘッド制御部を1つの上位データ制御部80が管理する構成が採用される。
【0088】
システム起動時に、上位データ制御部80から各色のヘッド制御部60に対して波形データや画像データが転送される。なお、画像データについては、印刷実行時の用紙搬送と同期して、データ転送が行われる場合もある。そして、プリント動作時には、各色の吐出タイミング制御部65が用紙搬送部82からの吐出トリガー信号を受信し、画像データ転送制御回路64及び駆動電圧制御回路68へ、吐出動作開始のスタートトリガーを出力する。画像データ転送制御回路64及び駆動電圧制御回路68は、このスタートトリガーを受けて画像データ転送制御回路64及び駆動電圧制御回路68からヘッドモジュール52a、52bに解像度単位に波形データ及び画像データ転送を行うことで、画像データに応じた選択的な吐出動作(ドロップオンデマンドの吐出駆動制御)を行い、ページワイドの印刷を実現する。
【0089】
外部から入力されるプリントタイミング信号(吐出トリガー信号)に合わせて駆動電圧制御回路68からD/A変換器79a、79bへ駆動電圧波形データが出力されることにより、D/A変換器79a、79bにて波形データからアナログ電圧波形へと変換される。D/A変換器79a、79bの出力波形(アナログ電圧波形)は図示せぬアンプ回路(電力増幅回路)によって圧電素子の駆動に適した所定の電流・電圧に増幅された後にヘッドモジュール52a、52bに供給される。
【0090】
画像データ転送制御回路64は、CPU(central processing unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)によって構成することができる。画像データ転送制御回路64は、画像データメモリ62に記憶したデータを基に、各ヘッドモジュール52a、52bのノズル制御データ(ここでは、記録解像度のドット配置に対応した画像データ)を各ヘッドモジュール52a、52bに転送する制御を行う。ノズル制御データは、ノズルのON(吐出駆動)/OFF(非駆動)を決定する画像データ(ドットデータ)である。画像データ転送制御回路64は、このノズル制御データを各ヘッドモジュール52a、52bに転送することで、ノズル毎の開閉(ON/OFF)を制御する。
【0091】
画像データ転送制御回路64から出力されるノズル制御データを各ヘッドモジュール52a、52bに伝送する画像データ伝送路(符号92a、92b)は、「画像データバス」、「データバス」或いは「画像バス」などと呼ばれ、複数の信号線(n本)で構成されている(n≧2)。本実施形態では以下「データバス」(符号92a、92b)と呼ぶ。データバス92a、92bの一端は画像データ転送制御回路64の出力端子(ICピン)に接続され、他端は各ヘッドモジュール52a、52bに対応したコネクタ94a、94bを介してヘッドモジュール52a、52bに接続される。
【0092】
データバス92a、92bは、画像データ転送制御回路64や駆動電圧制御回路68等を実装した電気回路基板90の銅線パターンによって構成してもよいし、ワイヤーハーネスで構成してもよく、或いは、これらの組み合わせであってもよい。
【0093】
各ヘッドモジュール52a、52bに対応したデータラッチ信号の信号線96a、96bは、ヘッドモジュール52a、52b毎に設けられている。データラッチ信号は、データバス92a、92b経由で転送したデータ信号を各ヘッドモジュール52a、52bのノズルデータとして設定するために、画像データ転送制御回路64から各ヘッドモジュール52a、52bに対し、必要なタイミングで送信される。画像データ転送制御回路64から画像データバス92a、92bを介してヘッドモジュール52a、52bに一定量の画像データを送信した時点で、データラッチと呼ばれる信号(ラッチ信号)をヘッドモジュール52a、52bに送信する。このデータラッチ信号のタイミングで各モジュールにおける圧電素子の変位のオン(ON)/オフ(OFF)のデータが確定される。その後、ヘッドモジュール52a、52bにそれぞれ駆動電圧a、bを印加することで、ON設定に係る圧電素子を微小変位させ、インク滴を吐出させる。こうして吐出したインク滴を用紙に付着(着弾)させることで、所望の解像度(例えば、1200dpi)の印刷が行われる。
なお、OFF設定した圧電素子は駆動電圧を印加しても変位が起こらず、液滴が吐出されない。
【0094】
波形データメモリ66、駆動電圧制御回路68、D/A変換器79a、79b、各ノズルに対応した圧電素子の動作/非動作を切り換えるためのスイッチ素子(不図示)の組み合わせが「駆動信号生成手段」に相当する。
【0095】
図19は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の構成例を示す全体構成図である。本例のインクジェット記録装置100は、主として、給紙部112、処理液付与部(プレコート部)114、描画部116、乾燥部118、定着部120、及び排紙部122から構成されている。インクジェット記録装置100は、描画部116のドラム(描画ドラム170)に保持された記録媒体124(「被描画媒体」に相当、以下、便宜上「用紙」と呼ぶ場合がある。)にインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yから複数色のインクを打滴して所望のカラー画像を形成するシングルパス方式のインクジェット記録装置であり、インクの打滴前に記録媒体124上に処理液(ここでは凝集処理液)を付与し、処理液とインク液を反応させて記録媒体124上に画像形成を行う2液反応(凝集)方式が適用されたドロップオンデマンドタイプの画像形成装置である。
【0096】
(給紙部)
給紙部112には、枚葉紙である記録媒体124が積層されており、給紙部112の給紙トレイ150から記録媒体124が一枚ずつ処理液付与部114に給紙される。本例では、記録媒体124として、枚葉紙(カット紙)を用いるが、連続用紙(ロール紙)から必要なサイズに切断して給紙する構成も可能である。
【0097】
(処理液付与部)
処理液付与部114は、記録媒体124の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部116で付与されるインク中の色材(本例では顔料)を凝集させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。
【0098】
処理液付与部114は、給紙胴152、処理液ドラム(「プレコート胴」とも言う)154、及び処理液塗布装置156を備えている。処理液ドラム154は、記録媒体124を保持し、回転搬送させるドラムである。処理液ドラム154は、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)155を備え、この保持手段155の爪と処理液ドラム154の周面の間に記録媒体124を挟み込むことによって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。処理液ドラム154は、その外周面に吸引孔を設けるとともに、吸引孔から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。これにより記録媒体124を処理液ドラム154の周面に密着保持することができる。
【0099】
処理液塗布装置156は、処理液が貯留された処理液容器と、この処理液容器の処理液に一部が浸漬されたアニックスローラ(計量ローラ)と、該アニックスローラと処理液ドラム154上の記録媒体124に圧接されて計量後の処理液を記録媒体124に転移するゴムローラとで構成される。本実施形態では、ローラによる塗布方式を適用した構成を例示したが、これに限定されず、例えば、スプレー方式、インクジェット方式などの各種方式を適用することも可能である。
【0100】
処理液付与部114で処理液が付与された記録媒体124は、処理液ドラム154から中間搬送部126を介して描画部116の描画ドラム170へ受け渡される。
【0101】
(描画部)
描画部116は、描画ドラム(「描画胴」或いは「ジェッティング胴」とも言う)170、用紙抑えローラ174、及びインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yを備えている。各色のインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Y及びその制御装置として、図18で説明したプリントヘッド50の構成とヘッド制御部60の構成が採用されている。
【0102】
描画ドラム170は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)171を備える。描画ドラム170の周面には、図示しない吸着穴が所定のパターンで多数形成されており、この吸着穴からエアが吸引されることにより、記録媒体124が描画ドラム170の周面に吸着保持される。なお、負圧吸引によって記録媒体124を吸引吸着する構成に限らず、例えば、静電吸着により、記録媒体124を吸着保持する構成とすることもできる。
【0103】
インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yはそれぞれ、記録媒体124における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッドであり、そのインク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列(2次元配列ノズル)が形成されている。各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yは、記録媒体124の搬送方向(描画ドラム170の回転方向)と直交する方向に延在するように設置される。
【0104】
各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yには、対応する色インクのカセット(インクカートリッジ)が取り付けられる。インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yから、描画ドラム170の外周面に保持された記録媒体124の記録面に向かってインク滴が吐出される。
【0105】
これにより、予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。インクと処理液の反応の一例として、本実施形態では、処理液に酸を含有させPHダウンにより顔料分散を破壊し凝集するメカニズムを用い、色材滲み、各色インク間の混色、インク滴の着弾時の液合一による打滴干渉を回避する。こうして、記録媒体124上での色材流れなどが防止され、記録媒体124の記録面に画像が形成される。
【0106】
各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yの打滴タイミングは、描画ドラム170に配置された回転速度を検出するエンコーダ(図19中不図示、図23の符号294)に同期させる。このエンコーダの検出信号に基づいて吐出トリガー信号(画素トリガー)が発せされる。これにより、高精度に着弾位置を決定することができる。また、予め描画ドラム170のフレなどによる速度変動を学習し、エンコーダで得られた打滴タイミングを補正して、描画ドラム170のフレ、回転軸の精度、描画ドラム170の外周面の速度に依存せずに打滴ムラを低減させることができる。更に、各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yのノズル面の清掃、増粘インク排出などのメンテナンス動作は、ヘッドユニットを描画ドラム170から退避させて実施するとよい。
【0107】
本例では、CMYKの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
【0108】
描画部116で画像が形成された記録媒体124は、描画ドラム170から中間搬送部128を介して乾燥部118の乾燥ドラム176へ受け渡される。
【0109】
(乾燥部)
乾燥部118は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、乾燥ドラム(「乾燥胴」とも言う)176、及び溶媒乾燥装置178を備えている。乾燥ドラム176は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)177を備え、この保持手段177によって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。
【0110】
溶媒乾燥装置178は、乾燥ドラム176の外周面に対向する位置に配置され、複数のハロゲンヒータ180と、各ハロゲンヒータ180の間にそれぞれ配置された温風噴出しノズル182とで構成される。各温風噴出しノズル182から記録媒体124に向けて吹き付けられる温風の温度と風量、各ハロゲンヒータ180の温度を適宜調節することにより、様々な乾燥条件を実現することができる。乾燥部118で乾燥処理が行われた記録媒体124は、乾燥ドラム176から中間搬送部130を介して定着部120の定着ドラム184へ受け渡される。
【0111】
(定着部)
定着部120は、定着ドラム(「定着胴」とも言う)184、ハロゲンヒータ186、定着ローラ188、及びインラインセンサ190で構成される。定着ドラム184は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)185を備え、この保持手段185によって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。
【0112】
定着ドラム184の回転により、記録媒体124は記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、ハロゲンヒータ186による予備加熱と、定着ローラ188による定着処理と、インラインセンサ190による検査が行われる。
【0113】
定着ローラ188は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性ポリマー微粒子を溶着し、インクを被膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体124を加熱加圧するように構成される。記録媒体124は、定着ローラ188と定着ドラム184との間に挟まれ、所定のニップ圧(例えば、0.15MPa)でニップされ、定着処理が行われる。
【0114】
また、定着ローラ188は、熱伝導性の良いアルミなどの金属パイプ内にハロゲンランプを組み込んだ加熱ローラによって構成され、所定の温度(例えば60〜80℃)に制御される。この加熱ローラで記録媒体124を加熱することによって、インクに含まれるラテックスのTg温度(ガラス転移点温度)以上の熱エネルギーが付与され、ラテックス粒子が溶融される。これにより、記録媒体124の凹凸に押し込み定着が行われるとともに、画像表面の凹凸がレベリングされ、光沢性が得られる。
【0115】
インラインセンサ190は、記録媒体124に記録された画像(テストパターンなども含む)について、吐出不良チェックパターンや画像の濃度、画像の欠陥などを計測するための読取手段であり、CCDラインセンサなどが適用される。
【0116】
上記の如く構成された定着部120によれば、乾燥部118で形成された薄層の画像層内のラテックス粒子が定着ローラ188によって加熱加圧されて溶融されるので、記録媒体124に固定定着させることができる。
【0117】
なお、高沸点溶媒及びポリマー微粒子(熱可塑性樹脂粒子)を含んだインクに代えて、紫外線(UV)露光にて重合硬化可能なモノマー成分を含有していてもよい。この場合、インクジェット記録装置100は、ヒートローラによる熱圧定着部(定着ローラ188)の代わりに、記録媒体124上のインクにUV光を露光するUV露光部を備える。このように、UV硬化性樹脂などの活性光線硬化性樹脂を含んだインクを用いる場合には、加熱定着の定着ローラ188に代えて、UVランプや紫外線LD(レーザダイオード)アレイなど、活性光線を照射する手段が設けられる。
【0118】
(排紙部)
定着部120に続いて排紙部122が設けられている。排紙部122は、排出トレイ192を備えており、この排出トレイ192と定着部120の定着ドラム184との間に、これらに対接するように渡し胴194、搬送ベルト196、張架ローラ198が設けられている。記録媒体124は、渡し胴194により搬送ベルト196に送られ、排出トレイ192に排出される。搬送ベルト196による用紙搬送機構の詳細は図示しないが、印刷後の記録媒体124は無端状の搬送ベルト196間に渡されたバー(不図示)のグリッパーによって用紙先端部が保持され、搬送ベルト196の回転によって排出トレイ192の上方に運ばれてくる。
【0119】
また、図19には示されていないが、本例のインクジェット記録装置100には、上記構成の他、各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yにインクを供給するインク貯蔵/装填部、処理液付与部114に対して処理液を供給する手段を備えるとともに、各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yのクリーニング(ノズル面のワイピング、パージ、ノズル吸引等)を行うヘッドメンテナンス部や、用紙搬送路上における記録媒体124の位置を検出する位置検出センサ、装置各部の温度を検出する温度センサなどを備えている。
【0120】
<インクジェットヘッドの構成例>
次に、インクジェットヘッドの構造について説明する。各色に対応するインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号250によってヘッドを示すものとする。
【0121】
図20(a) はヘッド250の構造例を示す平面透視図であり、図20(b) はその一部の拡大図である。図21はヘッド250を構成する複数のヘッドモジュールの配置例を示す図である。また、図22は記録素子単位(吐出素子単位)となる1チャンネル分の液滴吐出素子(1つのノズル251に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図(図20中のA−A線に沿う断面図)である。
【0122】
図20に示したように、本例のヘッド250は、インク吐出口であるノズル251と、各ノズル251に対応する圧力室252等からなる複数のインク室ユニット(液滴吐出素子)253をマトリクス状に二次元配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙送り方向と直交する方向)に沿って並ぶように投影(正射影)される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
【0123】
記録媒体124の送り方向(矢印S方向;「第1方向」に相当)と略直交する方向(矢印M方向;「第2方向」に相当)に記録媒体124の描画領域の全幅Wmに対応する長さ以上のノズル列を構成するために、例えば、図21(a)に示すように、複数のノズル251が二次元に配列された短尺のヘッドモジュール250’を千鳥状に配置して、長尺のライン型ヘッドを構成する。或いはまた、図21(b)に示すように、ヘッドモジュール250”を一列に並べて繋ぎ合わせる態様も可能である。図21に示した各ヘッドモジュール250’又は250”が図18で説明したヘッドモジュール52a、52bに該当する。
【0124】
なお、シングルパス印字用のフルライン型プリントヘッドは、記録媒体124の全面を描画範囲とする場合に限らず、記録媒体124の面上の一部が描画領域となっている場合(例えば、用紙の周囲に非描画領域(余白部)を設ける場合など)には、所定の描画領域内の描画に必要なノズル列が形成されていればよい。
【0125】
各ノズル251に対応して設けられている圧力室252は、その平面形状が概略正方形となっており(図20(a)、(b) 参照)、対角線上の両隅部の一方にノズル251への流出口が設けられ、他方に供給インクの流入口(供給口)254が設けられている。なお、圧力室252の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。
【0126】
図22に示すように、ヘッド250(ヘッドモジュール250’、250”)は、ノズル251が形成されたノズルプレート251Aと圧力室252や共通流路255等の流路が形成された流路板252P等を積層接合した構造から成る。ノズルプレート251Aは、ヘッド250のノズル面(インク吐出面)250Aを構成し、各圧力室252にそれぞれ連通する複数のノズル251が二次元的に形成されている。
【0127】
流路板252Pは、圧力室252の側壁部を構成するとともに、共通流路255から圧力室252にインクを導く個別供給路の絞り部(最狭窄部)としての供給口254を形成する流路形成部材である。なお、説明の便宜上、図22では簡略的に図示しているが、流路板252Pは一枚又は複数の基板を積層した構造である。
【0128】
ノズルプレート251A及び流路板252Pは、シリコンを材料として半導体製造プロセスによって所要の形状に加工することが可能である。
【0129】
共通流路255はインク供給源たるインクタンク(不図示)と連通しており、インクタンクから供給されるインクは共通流路255を介して各圧力室252に供給される。
【0130】
圧力室252の一部の面(図22において天面)を構成する振動板256には、個別電極257を備えたピエゾアクチュエータ(圧電素子)258が接合されている。本例の振動板256は、ピエゾアクチュエータ258の下部電極に相当する共通電極259として機能するニッケル(Ni)導電層付きのシリコン(Si)から成り、各圧力室252に対応して配置されるピエゾアクチュエータ258の共通電極を兼ねる。なお、樹脂などの非導電性材料によって振動板を形成する態様も可能であり、この場合は、振動板部材の表面に金属などの導電材料による共通電極層が形成される。また、ステンレス鋼(SUS)など、金属(導電性材料)によって共通電極を兼ねる振動板を構成してもよい。
【0131】
個別電極257に駆動電圧を印加することによってピエゾアクチュエータ258が変形して圧力室252の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル251からインクが吐出される。インク吐出後、ピエゾアクチュエータ258が元の状態に戻る際、共通流路255から供給口254を通って新しいインクが圧力室252に再充填される。
【0132】
かかる構造を有するインク室ユニット253を図20(b)に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。かかるマトリクス配列において、副走査方向の隣接ノズル間隔をLsとするとき、主走査方向については実質的に各ノズル251が一定のピッチP=Ls/tanθで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。
【0133】
また、本発明の実施に際してヘッド250におけるノズル251の配列形態は図示の例に限定されず、様々なノズル配置構造を適用できる。例えば、図20で説明したマトリクス配列に代えて、V字状のノズル配列、V字状配列を繰り返し単位とするジグザク状(W字状など)のような折れ線状のノズル配列なども可能である。
【0134】
なお、インクジェットヘッドにおける各ノズルから液滴を吐出させるための吐出用の圧力(吐出エネルギー)を発生させる手段は、ピエゾアクチュエータ(圧電素子)に限らず、静電アクチュエータ、サーマル方式(ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させる方式)におけるヒータ(加熱素子)や他の方式による各種アクチュエータなど様々な圧力発生素子(吐出エネルギー発生素子)を適用し得る。ヘッドの吐出方式に応じて、相応のエネルギー発生素子が流路構造体に設けられる。
【0135】
<制御系の説明>
図23は、インクジェット記録装置100のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置100は、通信インターフェース270、システムコントローラ272、プリント制御部274、画像バッファメモリ276、ヘッドドライバ278、モータドライバ280、ヒータドライバ282、処理液付与制御部284、乾燥制御部286、定着制御部288、メモリ290、ROM292、エンコーダ294等を備えている。
【0136】
通信インターフェース270は、ホストコンピュータ350から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース270にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ350から送出された画像データは通信インターフェース270を介してインクジェット記録装置100に取り込まれ、一旦メモリ290に記憶される。
【0137】
メモリ290は、通信インターフェース270を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ272を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ290は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0138】
システムコントローラ272は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置100の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。即ち、システムコントローラ272は、通信インターフェース270、プリント制御部274、モータドライバ280、ヒータドライバ282、処理液付与制御部284等の各部を制御し、ホストコンピュータ350との間の通信制御、メモリ290の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ296やヒータ298を制御する制御信号を生成する。
【0139】
ROM292にはシステムコントローラ272のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。ROM292は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。メモリ290は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
【0140】
モータドライバ280は、システムコントローラ272からの指示に従ってモータ296を駆動するドライバである。図23では、装置内の各部に配置される様々なモータを代表して符号296で図示している。例えば、図23に示すモータ296には、図19の給紙胴152、処理液ドラム154、描画ドラム170、乾燥ドラム176、定着ドラム184、渡し胴194などの回転を駆動するモータ、描画ドラム170の吸引孔から負圧吸引するためのポンプの駆動モータ、インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yのヘッドユニットを、描画ドラム170外のメンテナンスエリアに移動させる退避機構のモータ、などが含まれている。
【0141】
ヒータドライバ282は、システムコントローラ272からの指示に従って、ヒータ298を駆動するドライバである。図23では、装置内の各部に配置される様々なヒータを代表して符号298で図示している。例えば、図23に示すヒータ298には、給紙部112において記録媒体124を予め適温に加熱しておくための不図示のプレヒータ、などが含まれている。
【0142】
プリント制御部274は、システムコントローラ272の制御にしたがい、メモリ290内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データ(ドットデータ)をヘッドドライバ278に供給する制御部である。
【0143】
ドットデータは、一般に多階調の画像データに対して色変換処理、ハーフトーン処理を行って生成される。色変換処理は、sRGBなどで表現された画像データ(例えば、RGB各色について8ビットの画像データ)をインクジェット記録装置100で使用するインクの各色の色データ(本例では、KCMYの色データ)に変換する処理である。
【0144】
ハーフトーン処理は、色変換処理により生成された各色の色データに対して誤差拡散法や閾値マトリクス等の処理で各色のドットデータ(本例では、KCMYのドットデータ)に変換する処理である。
【0145】
プリント制御部274において所要の信号処理が施され、得られたドットデータに基づいて、ヘッドドライバ278を介してヘッド250のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。ここで言うドットデータは、「ノズル制御データ」に相当している。
【0146】
プリント制御部274には画像バッファメモリ(不図示)が備えられており、プリント制御部274における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリに一時的に格納される。また、プリント制御部274とシステムコントローラ272とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0147】
画像入力から印字出力までの処理の流れを概説すると、印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース270を介して外部から入力され、メモリ290に蓄えられる。この段階では、例えば、RGBの画像データがメモリ290に記憶される。インクジェット記録装置100では、インク(色材) による微細なドットの打滴密度やドットサイズを変えることによって、人の目に疑似的な連続階調の画像を形成するため、入力されたデジタル画像の階調(画像の濃淡)をできるだけ忠実に再現するようなドットパターンに変換する必要がある。そのため、メモリ290に蓄えられた元画像(RGB)のデータは、システムコントローラ272を介してプリント制御部274に送られ、該プリント制御部274において閾値マトリクスや誤差拡散法などを用いたハーフトーニング処理によってインク色毎のドットデータに変換される。即ち、プリント制御部274は、入力されたRGB画像データをK,C,M,Yの4色のドットデータに変換する処理を行う。こうして、プリント制御部274で生成されたドットデータは、画像バッファメモリ(不図示)に蓄えられる。
【0148】
ヘッドドライバ278は、プリント制御部274から与えられる印字データ(即ち、画像バッファメモリ276に記憶されたドットデータ)に基づき、ヘッド250の各ノズルに対応するアクチュエータを駆動するための駆動信号を出力する。ヘッドドライバ278にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0149】
ヘッドドライバ278から出力された駆動信号がヘッド250に加えられることによって、該当するノズルからインクが吐出される。記録媒体124を所定の速度で搬送しながらヘッド250からのインク吐出を制御することにより、記録媒体124上に画像が形成される。なお、本例に示すインクジェット記録装置100は、ヘッド250(ヘッドモジュール)の各ピエゾアクチュエータ258に対して、モジュール単位で共通の駆動電力波形信号を印加し、各ピエゾアクチュエータ258の吐出タイミングに応じて各ピエゾアクチュエータ258の個別電極に接続されたスイッチ素子(不図示)のオンオフを切り換えることで、各ピエゾアクチュエータ258に対応するノズル251からインクを吐出させる駆動方式が採用されている。
【0150】
このヘッドドライバ278、プリント制御部274(画像バッファメモリ内蔵)の部分が図18で説明したヘッド制御部60に相当する。また、図23のシステムコントローラ272が図18で説明した上位データ制御部80に相当する。
【0151】
処理液付与制御部284は、システムコントローラ272からの指示にしたがい、処理液塗布装置156(図19参照)の動作を制御する。乾燥制御部286は、システムコントローラ272からの指示にしたがい、溶媒乾燥装置178(図19参照)の動作を制御する。
【0152】
定着制御部288は、システムコントローラ272からの指示にしたがい、定着部120のハロゲンヒータ186や定着ローラ188(図19参照)から成る定着加圧部299の動作を制御する。
【0153】
インラインセンサ190は、図19で説明したように、イメージセンサを含むブロックであり、記録媒体124に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつき、光学濃度など)を検出し、その検出結果をシステムコントローラ272及びプリント制御部274に提供する。
【0154】
プリント制御部274は、インラインセンサ190から得られる情報に基づいてヘッド250に対する各種補正(不吐出補正や濃度補正など)を行うとともに、必要に応じて予備吐出や吸引、ワイピング等のクリーニング動作(ノズル回復動作)を実施する制御を行う。
【0155】
<変形例>
上記実施形態では、記録媒体124に直接インク滴を打滴して画像を形成する方式(直接記録方式)のインクジェット記録装置を説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、一旦、中間転写体上に画像(一次画像)を形成し、その画像を転写部において記録紙に対して転写することで最終的な画像形成を行う中間転写型の画像形成装置についても本発明を適用することができる。
【0156】
また、上記実施形態では、記録媒体の全幅に対応する長さのノズル列を有するページワイドのフルライン型ヘッドを用いたインクジェット記録装置(1回の副走査によって画像を完成させるシングルパス方式の画像形成装置)を説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、シリアル型(シャトルスキャン型)ヘッドなど、短尺の記録ヘッドを移動させながら、複数回のヘッド走査により画像記録を行うインクジェット記録装置についても本発明を適用できる。
【0157】
<ヘッドと用紙を相対移動させる手段について>
上述の実施形態では、停止したヘッドに対して記録媒体を搬送する構成を例示したが、本発明の実施に際しては、停止した記録媒体(被描画媒体)に対してヘッドを移動させる構成も可能である。
【0158】
<記録媒体について>
「記録媒体」は、インクジェットヘッドから吐出された液滴によってドットが記録される媒体の総称であり、印字媒体、被記録媒体、被画像形成媒体、受像媒体、被吐出媒体など様々な用語で呼ばれるものが含まれる。本発明の実施に際して、記録媒体の材質や形状等は、特に限定されず、連続用紙、カット紙、シール用紙、OHPシート等の樹脂シート、フィルム、布、不織布、配線パターン等が形成されるプリント基板、ゴムシート、その他材質や形状を問わず、様々な媒体に適用できる。
【0159】
<本発明の応用例について>
上記の実施形態では、グラフィック印刷用のインクジェット記録装置への適用を例に説明したが、本発明の適用範囲はこの例に限定されない。例えば、電子回路の配線パターンを描画する配線描画装置、各種デバイスの製造装置、吐出用の機能性液体として樹脂液を用いるレジスト印刷装置、カラーフィルター製造装置、マテリアルデポジション用の材料を用いて微細構造物を形成する微細構造物形成装置など、液状機能性材料を用いて様々な形状やパターンを描画するインクジェットシステムに広く適用できる。
【0160】
<付記>
上記に詳述した実施形態についての記載から把握されるとおり、本明細書は以下に示す発明を含む多様な技術思想の開示を含んでいる。
【0161】
(発明1):液体吐出ヘッドのノズルに対応して設けられた吐出エネルギー発生素子を作動させる駆動信号を生成する駆動信号生成手段を有し、前記駆動信号を前記吐出エネルギー発生素子に供給することにより、前記ノズルから液滴を吐出させる液体吐出ヘッドの駆動装置であって、前記駆動信号は、一記録周期中に複数回の吐出を行うための複数の吐出用パルスを含んでおり、これら複数の吐出用パルスのうち最終パルスを除いた残りのパルス列内で先行するパルスの電圧振幅よりも、後続のパルスの電圧振幅が小さく、前記最終パルスは、前記複数の吐出用パルスの中で電圧振幅が最も大きいことを特徴とする液体吐出ヘッドの駆動装置。
【0162】
発明1によれば、先頭の吐出用パルスによって初滴を比較的強く打ち出し、その後の後続滴は最終滴を例外として、弱く打ち出す。そして、最終パルスでは先行滴をマージするように、他の先行パルスと比較して最も強く打ち出す。これにより、良好な飛翔状態を実現しつつ、目的の滴量、滴速を達成し、かつ、滴量に対する必要電圧の低電圧化を達成できる。
【0163】
(発明2):発明1に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスの電圧振幅が小さくなっていることを特徴とする。
【0164】
2発目以降の吐出動作には先行パルスによるメニスカス振動を利用できる。徐々に後続パルスの電圧振幅(波高)を小さくすることで、連射の吐出エネルギーを次第に弱くすることができる。
【0165】
(発明3):発明1又は2に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記駆動信号生成手段は、一記録周期中にN個(ただし、Nは3以上の整数)の吐出用パルスを含んだ前記駆動信号としての第1の駆動信号と、前記第1の駆動信号を構成するN個の吐出用パルスの前段に更にM個(ただし、Mは1以上の整数)の吐出用パルスが付加されてなる第2の駆動信号と、を生成可能であり、前記付加されたM個の吐出用パルスは前記N個の吐出用パルスにおける先頭パルスの電圧振幅よりも小さい電圧振幅のパルスであることを特徴とする。
【0166】
かかる態様によれば、異なる滴量の吐出が可能であり、各滴種の吐出速度を揃えることが可能である。
【0167】
(発明4):発明3に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、一記録周期中にM+N個の吐出用パルスを含む前記第2の駆動信号のうち、後ろからK個(ただし、Kは1以上、M+N以下の整数)の吐出用パルスを選択して前記吐出エネルギー発生素子に供給することにより、滴量を異ならせた吐出が可能であることを特徴とする。
【0168】
第2の駆動信号の波形が、これよりも滴量の少ない滴種の駆動信号の波形(第1の駆動信号の波形等)を内包する構成の場合、波形の後ろから吐出用パルスを選択することで、複数の滴種に対応した駆動波形が得られる。
【0169】
(発明5):液体吐出ヘッドのノズルに対応して設けられた吐出エネルギー発生素子を作動させる駆動信号を生成する駆動信号生成手段を有し、前記駆動信号を前記吐出エネルギー発生素子に供給することにより、前記ノズルから液滴を吐出させる液体吐出ヘッドの駆動装置であって、前記駆動信号は、一記録周期中に複数回の吐出を行うための複数の吐出用パルスを含んでおり、これら複数の吐出用パルスのうち最終パルスを除いた残りのパルス列は、仮に当該パルス列内の各パルスをそれぞれ単独で抜き出して単発の吐出に用いた場合に得られる各パルスによる吐出速度で比較したとき、当該パルス列内で先行するパルスよりも後続のパルスによる吐出速度が遅くなるように構成され、前記最終パルスは、これに先行する前記パルス列の各吐出用パルスと比較して、最も速い吐出速度となる吐出を行うものであることを特徴とする液体吐出ヘッドの駆動装置。
【0170】
かかる態様によっても、発明1と同様の作用効果が得られる。
【0171】
(発明6):発明5に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスによる前記吐出速度を遅くする構成となっていることを特徴とする。
【0172】
2発目以降の吐出動作には先行パルスによるメニスカス振動を利用できるため、後続パルスによる吐出力を弱くできる。また、最終パルスによって先行滴がマージされるため、吐出形状も良好である。
【0173】
(発明7):発明1から6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記最終パルスよりも先行する吐出用パルスの印加によって吐出された先行滴と、前記最終パルスにより吐出された最終滴とを飛翔中に合体させることを特徴とする。
【0174】
一記録周期で連続吐出される複数滴を飛翔中に合一させて主滴が形成された後に媒体上に着弾させるように各吐出用パルスの配置を定めることが望ましい。
【0175】
(発明8):発明1から7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスのパルス間隔を共振周期Tcからずらした構成となっていることを特徴とする。
【0176】
吐出用パルスの電圧振幅とパルス間隔とを組み合わせて波形を調整することにより、目的の滴量、滴速を容易に実現できる。
【0177】
(発明9):発明1から8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスのパルス幅を共振周期Tcの2分の1からずらした構成となっていることを特徴とする。
【0178】
吐出用パルスの電圧振幅とパルス幅パルス間隔とを組み合わせて波形を調整することにより、目的の滴量、滴速を容易に実現できる。
【0179】
(発明10):発明1から9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスのスロープの傾きを緩やかにした構成となっていることを特徴とする。
【0180】
吐出用パルスの電圧振幅とパルスのスロープの傾きとを組み合わせて波形を調整することにより、目的の滴量、滴速を容易に実現できる。
【0181】
(発明11):発明1から10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスの最終パルスの後段に残響抑制パルスを含んでいることを特徴とする。
【0182】
残響抑制パルスを組み合わせることにより、最終パルスの吐出効率を更に向上させることができるとともに、一記録周期の吐出後のメニスカス振動(残響)を低減し、連続記録の安定化を図ることができる。
【0183】
(発明12):発明1から11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置において、前記駆動信号の波形を表すデジタル波形データを格納する波形データ記憶手段と、前記波形データ記憶手段から読み出したデジタル波形データからアナログ信号に変換するD/A変換器と、前記D/A変換器を経て生成された前記駆動信号を前記吐出エネルギー発生素子に印加するタイミングを制御するスイッチ手段と、を備えることを特徴とする。
【0184】
(発明13):液滴を吐出するためのノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室に設けられた吐出エネルギー発生素子と、を備えた液体吐出ヘッドと、当該液体吐出ヘッドの前記ノズルから液滴を吐出させるための駆動装置としての発明1から12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置と、を備えたことを特徴とする液体吐出装置。
【0185】
発明1から12に係る液体吐出ヘッドの駆動装置と、この駆動装置から駆動信号の供給を受けて作動する液体吐出ヘッドとを組み合わせることで液体吐出装置が実現される。
【0186】
(発明14):液滴を吐出するためのノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室に設けられた吐出エネルギー発生素子と、を備えた前記液体吐出ヘッドとしてのインクジェットヘッドと、当該インクジェットヘッドの前記ノズルから液滴を吐出させるための駆動装置としての発明1から12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置と、を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【符号の説明】
【0187】
10…駆動波形、11〜14…吐出用パルス、20…ノズル孔、22…ノズル面、24…インク、30…駆動波形、31〜35…吐出用パルス、36…残響抑制パルス、50…プリントヘッド、60…ヘッド制御部、66…波形データメモリ、79a,79b…A/D変換器、100…インクジェット記録装置、124…記録媒体、170…描画ドラム、172M,172K,172C,172Y…インクジェットヘッド、251…ノズル、258…ピエゾアクチュエータ、272…システムコントローラ、280…プリント制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体吐出ヘッドのノズルに対応して設けられた吐出エネルギー発生素子を作動させる駆動信号を生成する駆動信号生成手段を有し、前記駆動信号を前記吐出エネルギー発生素子に供給することにより、前記ノズルから液滴を吐出させる液体吐出ヘッドの駆動装置であって、
前記駆動信号は、一記録周期中に複数回の吐出を行うための複数の吐出用パルスを含んでおり、
これら複数の吐出用パルスのうち最終パルスを除いた残りのパルス列内で先行するパルスの電圧振幅よりも、後続のパルスの電圧振幅が小さく、
前記最終パルスは、前記複数の吐出用パルスの中で電圧振幅が最も大きいことを特徴とする液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項2】
前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスの電圧振幅が小さくなっていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項3】
前記駆動信号生成手段は、一記録周期中にN個(ただし、Nは3以上の整数)の吐出用パルスを含んだ前記駆動信号としての第1の駆動信号と、前記第1の駆動信号を構成するN個の吐出用パルスの前段に更にM個(ただし、Mは1以上の整数)の吐出用パルスが付加されてなる第2の駆動信号と、を生成可能であり、前記付加されたM個の吐出用パルスは前記N個の吐出用パルスにおける先頭パルスの電圧振幅よりも小さい電圧振幅のパルスであることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項4】
一記録周期中にM+N個の吐出用パルスを含む前記第2の駆動信号のうち、後ろからK個(ただし、Kは1以上、M+N以下の整数)の吐出用パルスを選択して前記吐出エネルギー発生素子に供給することにより、滴量を異ならせた吐出が可能であることを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項5】
液体吐出ヘッドのノズルに対応して設けられた吐出エネルギー発生素子を作動させる駆動信号を生成する駆動信号生成手段を有し、前記駆動信号を前記吐出エネルギー発生素子に供給することにより、前記ノズルから液滴を吐出させる液体吐出ヘッドの駆動装置であって、
前記駆動信号は、一記録周期中に複数回の吐出を行うための複数の吐出用パルスを含んでおり、
これら複数の吐出用パルスのうち最終パルスを除いた残りのパルス列は、仮に当該パルス列内の各パルスをそれぞれ単独で抜き出して単発の吐出に用いた場合に得られる各パルスによる吐出速度で比較したとき、当該パルス列内で先行するパルスよりも後続のパルスによる吐出速度が遅くなるように構成され、前記最終パルスは、これに先行する前記パルス列の各吐出用パルスと比較して、最も速い吐出速度となる吐出を行うものであることを特徴とする液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項6】
前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスによる前記吐出速度を遅くする構成となっていることを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項7】
前記最終パルスよりも先行する吐出用パルスの印加によって吐出された先行滴と、前記最終パルスにより吐出された最終滴とを飛翔中に合体させることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項8】
前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスのパルス間隔を共振周期Tcからずらした構成となっていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項9】
前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスのパルス幅を共振周期Tcの2分の1からずらした構成となっていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項10】
前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスのスロープの傾きを緩やかにした構成となっていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項11】
前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスの最終パルスの後段に残響抑制パルスを含んでいることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項12】
前記駆動信号の波形を表すデジタル波形データを格納する波形データ記憶手段と、
前記波形データ記憶手段から読み出したデジタル波形データからアナログ信号に変換するD/A変換器と、
前記D/A変換器を経て生成された前記駆動信号を前記吐出エネルギー発生素子に印加するタイミングを制御するスイッチ手段と、
を備えることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの
駆動装置。
【請求項13】
液滴を吐出するためのノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室に設けられた吐出エネルギー発生素子と、を備えた液体吐出ヘッドと、
当該液体吐出ヘッドの前記ノズルから液滴を吐出させるための駆動装置としての請求項1から12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置と、
を備えたことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項14】
液滴を吐出するためのノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室に設けられた吐出エネルギー発生素子と、を備えた前記液体吐出ヘッドとしてのインクジェットヘッドと、
当該インクジェットヘッドの前記ノズルから液滴を吐出させるための駆動装置としての請求項1から12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項1】
液体吐出ヘッドのノズルに対応して設けられた吐出エネルギー発生素子を作動させる駆動信号を生成する駆動信号生成手段を有し、前記駆動信号を前記吐出エネルギー発生素子に供給することにより、前記ノズルから液滴を吐出させる液体吐出ヘッドの駆動装置であって、
前記駆動信号は、一記録周期中に複数回の吐出を行うための複数の吐出用パルスを含んでおり、
これら複数の吐出用パルスのうち最終パルスを除いた残りのパルス列内で先行するパルスの電圧振幅よりも、後続のパルスの電圧振幅が小さく、
前記最終パルスは、前記複数の吐出用パルスの中で電圧振幅が最も大きいことを特徴とする液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項2】
前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスの電圧振幅が小さくなっていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項3】
前記駆動信号生成手段は、一記録周期中にN個(ただし、Nは3以上の整数)の吐出用パルスを含んだ前記駆動信号としての第1の駆動信号と、前記第1の駆動信号を構成するN個の吐出用パルスの前段に更にM個(ただし、Mは1以上の整数)の吐出用パルスが付加されてなる第2の駆動信号と、を生成可能であり、前記付加されたM個の吐出用パルスは前記N個の吐出用パルスにおける先頭パルスの電圧振幅よりも小さい電圧振幅のパルスであることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項4】
一記録周期中にM+N個の吐出用パルスを含む前記第2の駆動信号のうち、後ろからK個(ただし、Kは1以上、M+N以下の整数)の吐出用パルスを選択して前記吐出エネルギー発生素子に供給することにより、滴量を異ならせた吐出が可能であることを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項5】
液体吐出ヘッドのノズルに対応して設けられた吐出エネルギー発生素子を作動させる駆動信号を生成する駆動信号生成手段を有し、前記駆動信号を前記吐出エネルギー発生素子に供給することにより、前記ノズルから液滴を吐出させる液体吐出ヘッドの駆動装置であって、
前記駆動信号は、一記録周期中に複数回の吐出を行うための複数の吐出用パルスを含んでおり、
これら複数の吐出用パルスのうち最終パルスを除いた残りのパルス列は、仮に当該パルス列内の各パルスをそれぞれ単独で抜き出して単発の吐出に用いた場合に得られる各パルスによる吐出速度で比較したとき、当該パルス列内で先行するパルスよりも後続のパルスによる吐出速度が遅くなるように構成され、前記最終パルスは、これに先行する前記パルス列の各吐出用パルスと比較して、最も速い吐出速度となる吐出を行うものであることを特徴とする液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項6】
前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスによる前記吐出速度を遅くする構成となっていることを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項7】
前記最終パルスよりも先行する吐出用パルスの印加によって吐出された先行滴と、前記最終パルスにより吐出された最終滴とを飛翔中に合体させることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項8】
前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスのパルス間隔を共振周期Tcからずらした構成となっていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項9】
前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスのパルス幅を共振周期Tcの2分の1からずらした構成となっていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項10】
前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスのうち前記最終パルスを除いた残りのパルス列内で、徐々に後続のパルスのスロープの傾きを緩やかにした構成となっていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項11】
前記駆動信号は、前記複数の吐出用パルスの最終パルスの後段に残響抑制パルスを含んでいることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置。
【請求項12】
前記駆動信号の波形を表すデジタル波形データを格納する波形データ記憶手段と、
前記波形データ記憶手段から読み出したデジタル波形データからアナログ信号に変換するD/A変換器と、
前記D/A変換器を経て生成された前記駆動信号を前記吐出エネルギー発生素子に印加するタイミングを制御するスイッチ手段と、
を備えることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの
駆動装置。
【請求項13】
液滴を吐出するためのノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室に設けられた吐出エネルギー発生素子と、を備えた液体吐出ヘッドと、
当該液体吐出ヘッドの前記ノズルから液滴を吐出させるための駆動装置としての請求項1から12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置と、
を備えたことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項14】
液滴を吐出するためのノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室に設けられた吐出エネルギー発生素子と、を備えた前記液体吐出ヘッドとしてのインクジェットヘッドと、
当該インクジェットヘッドの前記ノズルから液滴を吐出させるための駆動装置としての請求項1から12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの駆動装置と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
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【図14】
【図15】
【図16】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
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【公開番号】特開2012−187920(P2012−187920A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−31998(P2012−31998)
【出願日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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