説明

液体吐出ヘッド及び液体吐出装置

【課題】共通インク供給室における圧力波の減衰効率の向上と、隣接するノズル列の間での混液防止とを両立させる。
【解決手段】第1吐出系110〜130と第2吐出系200を有するインクジェットヘッドにおいて、第1吐出系は、ノズルがY方向に配列される2つのノズル列からなる複数の第1ノズル列組を有し、マニホールドは、第1ノズル列組のノズル列間に、Y方向延存部分43aを有し、第2吐出系は、ノズルがY方向に配列される2つのノズル列からなる複数の第2ノズル列組を有し、マニホールドは、第2ノズル列組の2つのノズル列の各列に対応して設けられたY方向延存部分44aを有し、第2ノズル列組をなすノズル列の一方に対応して設けられる44aが、他方のノズル列とは反対側に位置し、隣接する2つの第2ノズル列組に属するノズル列のうち、互いに異なる組に属し且つ互いに隣り合う位置にある2列のノズル列には、同一の44aが対応する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド及び液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドおよびその液体吐出ヘッドを搭載した液体吐出装置としては、インクを吐出して画像を記録するインクジェットヘッドおよびこのヘッドを搭載したインクジェット記録装置が知られている。
【0003】
このインクジェットヘッドは、液体を吐出するノズルを複数有しており、これらのノズルの各々には圧力室が連通している。そして、これら複数の圧力室には1つのインク供給室が共通に連通しておりこの共通インク供給室からインクが供給されている。そして、各圧力室でインクに圧力を付与することで、ノズルからインクを吐出している。
【0004】
ところが、圧力室内のインクに付与された圧力は、インクをノズルから吐出させる吐出圧となるだけでなく、一部の圧力波が共通インク供給室にも伝播してしまう。そして、その圧力波が共通インク供給室内で減衰せずに隣の圧力室まで伝播すると、隣のチャンネルの吐出特性を乱す、いわゆるクロストークという不具合が生じる。
【0005】
そこで、共通インク供給室内にダンパを配置して、圧力波を減衰させる対策がとられている。
【0006】
このダンパは、圧力波が衝突することによって変動し、圧力波のエネルギーを振動エネルギーに変換して圧力波を減衰させるものである。したがって、変動する部分の面積を大きくして、変動する部分の変位を大きくするほど減衰効果が上がることから、圧力波を効果的に減衰させるためには、ダンパの変動部分の面積を拡大することが望ましい。
【0007】
しかし、ダンパの変動部分の面積を拡大するには共通インク供給室を大きくする必要があるところ、インクジェットヘッドの小型化にともない、共通インク供給室として使用できるスペースは限られてきている。
【0008】
そこで、ダンパの減衰効率を向上させる方法として、特許文献1に記載されたインクジェットヘッドが提案されている。この特許文献1には、ノズル16の列が2列形成され、これらの2列に対して共通にインクを供給する共通流路32がこれら2列の間に設けられている。そして共通流路32の一面がダンパ44Dとなっている。これによれば、ひとつのノズル列に対して共通流路を1つ設ける場合に比べて、ダンパの変動部分の面積を拡大するとともに変動部分の変位も大きくできるため、共通インク供給室のために要するスペースに比した減衰効率を向上させることができる。
【特許文献1】特開2006-248194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献1のインクジェットヘッドでは、同文献の図3に示されるように、同色のインクを吐出する2列のノズル列の間に共通流路32が設けられているため、これらの2列の間隔を広げざるをえなくなっている。一方、異なる共通流路32から供給される異なる色のインクを吐出する隣のノズル列との間には、共通流路などの構成は存在しないことから、これらのノズル列の間隔を狭めればヘッドの大型化を回避することができる。しかし、その場合は、隣のノズル列の異なるインクが侵入する混液が生じやすくなる。
【0010】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、ヘッド自体を大型化させることなく、共通インク供給室における圧力波の減衰効率の向上と、隣接するノズル列の間での混液防止とを両立させた液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドは、液体を吐出する複数のノズルと、それらノズルに連通して液体を供給するとともにその室内の液体に伝播する圧力波を減衰するための第1ダンパ手段を備えた第1液体供給室と、を含んで構成される第1液体吐出系と、第1液体吐出系とは異なる性質の液体を吐出するものであって、液体を吐出する複数のノズルと、それらノズルに連通して液体を供給するとともにその室内の液体に伝播する圧力波を減衰するための第2ダンパ手段を備えた第2液体供給室と、を含んで構成される第2液体吐出系と、を備えた液体吐出ヘッドにおいて、前記第1液体吐出系は、前記ノズルが所定方向に配列されることで構成される2つのノズル列からなる第1ノズル列組を1以上有しており、前記第1液体供給室は、前記第1ノズル列組に対応して設けられた前記所定方向に延存する第1所定方向延存部分を有するとともに、その第1所定方向延存部分が前記第1ノズル列組を構成する前記2列のノズル列の間に位置するよう構成されており、前記第2液体吐出系は、前記ノズルが所定方向に配列されることで構成される2つのノズル列からなる第2ノズル列組を2以上有しており、前記第2液体供給室は、前記第2ノズル列組をなす前記2つのノズル列の各列にそれそれ対応して設けられた前記所定方向に延存する第2所定方向延存部分を有するとともに、前記第2ノズル列組をなす前記2つのノズル列の一方に対応して設けられる前記第2所定方向延存部分が、他方のノズル列とは反対側に位置するよう構成されており、さらに、隣接する2つの前記第2ノズル列組に属するノズル列のうち、互いに異なる組に属し且つ互いに隣り合う位置関係にある2列のノズル列には、同じ前記第2の所定方向延存部が対応することを特徴としている。
【0012】
これによれば、第1液体吐出系の第1液体供給室は、2つのノズル列からなる第1ノズル列組に対応して設けられた所定方向に延存する第1所定方向延存部分を有するとともに、その第1所定方向延存部分が前記第1ノズル列組を構成する前記2列のノズル列の間に位置するよう構成されていることから、第1液体供給室が、1つのノズル列に対してその列専用に対応する部分を有するように構成される場合に比べて、第1のダンパ手段の減衰効率をより向上させることが可能となる。
【0013】
また、第2液体吐出系の第2液体供給室は、ノズル列の各列に対応して設けられた所定方向に延存する第2所定方向延存部分を複数有しているが、このうちの一部は、隣接する2つの第2ノズル列組に属するノズル列のうち、互いに異なる組に属し且つ互いに隣り合う位置関係にある2列のノズル列に対して、共通に対応しているため、それ(複数の所定方向延存部分の一部)に関しては、第1液体供給室の場合と同じ理由で、第2のダンパ手段の減衰効率をより向上させることが可能となる。
【0014】
また、第2ノズル列組をなす2つのノズル列の各列にそれそれ対応して設けられた第2所定方向延存部分のうち、第2ノズル列組をなす2つのノズル列の一方に対応して設けられる第2所定方向延存部分が、他方のノズル列とは反対側に位置するよう構成されているので、第1液体吐出系のノズル列のうち最も第2液体吐出系に近接しているノズル列と、第2液体吐出系のノズル列のうち最も第1液体吐出系に近接しているノズル列との間には、第2液体供給室の第2所定方向延存部分の1つが位置することとなる。
【0015】
従って、第1液体吐出系のノズル列のうち最も第2液体吐出系に近接しているノズル列と、第2液体吐出系のノズル列のうち最も第1液体吐出系に近接しているノズル列との間に、ある程度のスペースが確保されることとなるから、互いに異なる性質の液体を吐出するこれらのノズル列の間での混液を回避することができる。
【0016】
なお、本発明における異なる性質の液体とは、色の違い、顔料や染料の違いなど、インクの性質に関わる要素のいずれかが相違する液体を意味しており、同一種類ではない液体とも言い換えられるものである。
【0017】
請求項2に記載の液体吐出ヘッドは、請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、隣り合う位置関係にある前記2列のノズル列に対応する前記第2の所定方向延存部は、1つのノズル列のみが対応する前記第2の所定方向延存部より、前記所定方向からみた断面積が広いことを特徴としている。
【0018】
これによれば、第2液体吐出系において、2列のノズル列に対応する第2の所定方向延存部と、1つのノズル列のみが対応する第2の所定方向延存部との間で、減衰効果の程度の格差を抑えることができ、第2液体吐出系に属するノズルの吐出特性を均一化することができる。
【0019】
請求項3に記載の液体吐出装置は、請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッドと、環状に形成された環状密着部とこの環状密着部に囲まれる1つの領域を2つの領域に区画する区画密着部とを有し、前記環状密着部と前記区画密着部を前記液体吐出ヘッドに密着させることで前記液体吐出ヘッドの前記複数のノズルを封止するキャップと、このキャップを前記液体吐出ヘッドの前記複数のノズルを封止するキャッピング位置と前記液体吐出ヘッドから離間したアンキャッピング位置との間で相対的に移動させるキャップ移動手段とを備えており、
前記キャップ移動手段は、前記キャップを前記キャッピング位置に位置付けたときは、前記2つの領域のうちの一方の領域内に前記第1液体吐出系に属するノズルの群が位置し、他方の領域内に前記第2液体吐出系に属するノズルの群が位置するとともに、これら2つのノズルの群の間に前記区画密着部が位置するように、前記環状密着部と前記区画密着部とを前記液体吐出ヘッドに密着させることを特徴としている。
【0020】
これにより、第1液体吐出系に属するノズルと第2液体吐出系に属するノズルを分けてキャップすることができるので、例えば、キャップがキャッピング位置にある状態で、ポンプでキャップ内を吸引して、ヘッド内の増粘した液体を強制的に排出する吸引パージを行った際などに、あるノズルから排出されたある液体が性質の異なる他の液体を吐出する他のノズルに侵入して混液する、といった不具合を回避できる。また、第1液体吐出系に属するノズルと第2液体吐出系に属するノズルを区画してキャッピングするの区画密着部を適度な肉厚で構成できるので、区画密着部とヘッドの隙間から液体が行き来して混液する、といった不具合も極力回避できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ヘッド自体を大型化させることなく、共通インク供給室における圧力波の減衰効率の向上と、隣接するノズル列の間での混液防止とを両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施形態に係るインクジェットヘッドおよびインクジェットプリンタについて説明する。
【0023】
図1に示すように、インクジェットプリンタ1は、いわゆるシリアル記録方式のインクジェットプリンタであり、図中矢印のX方向に沿って往復移動が可能なキャリッジ2と、このキャリッジ2に設けられ、記録用紙Pに対してインクを噴射するノズル30(図2に図示)を備えたインクジェットヘッド3(液体吐出ヘッド)と、記録用紙PをY方向へ搬送する搬送ローラ4等を備えている。
【0024】
また、記録用紙Pが搬送される領域から外れた非記録領域には、インクジェットへッド3のノズル30を覆うキャップ5が設けられている。このキャップ5は、インクジェットヘッド3による記録を行わないときノズル30を封止するものであり、また、図示しない吸引ポンプに連通していて、インクジェットヘッド3内の気泡や増粘したインクを排出するための吸引パージを実行する際には、吸引キャップとして使用される。そして、このキャップ5は、図示しない昇降機構により昇降可能であり、非記録領域に移動させられたインクジェットヘッド3に対して、接触してキャッピングするキャッピング位置と、インクジェットヘッド3から隔離したアンキャッピング位置との間で移動されるようになっている。また、図示は省略されているが、キャップ5の隣にはワイパが昇降可能に設けられており、後述するノズル形成面をワイピングできるようになっている。
【0025】
次に、インクジェットヘッド3について図2および図3を参照して詳細に説明する。図2は本実施形態のインクジェットヘッド3をZ方向から平面視した全体平面図であり、図3はインクジェットヘッド3がキャップ5でキャッピングされた状態をYZ面による断面上で示した全体断面図である。
【0026】
本実施形態のインクジェットヘッド3は、図2及び図3に示すように、カラーインク(本実施形態ではイエロー、マゼンダ、シアンの3色であり、それぞれ染料インクである。)をそれぞれ吐出する3つの第1液体吐出系110〜130と、ブラックインク(本実施形態では顔料インクである。)を吐出する第2液体吐出系200とを有しており、これら4つの液体吐出系がx方向に並んで設けられている。そして、第1液体吐出系100と第2液体吐出系200とでは、その流路構造が異なっている。
【0027】
図3に示すように、インクジェットヘッド3は、z方向に沿って、圧電アクチュエータ
10、キャビティプレート20、アパーチャープレート30、マニホールドプレート40、ノズルプレート50が積層されており、これらがこの積層状態で互いに接着されて構成される。
【0028】
圧電アクチュエータ10は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする圧電層(図示省略)と、この圧電層に電圧を印加可能な電極(図示省略)とを備える。そして、後述にて説明する圧力室21〜24を覆うように配置されており、インク滴を吐出する際には、圧力室21〜24内のインクに圧力を付与するために、電圧の印加によりz方向に突出するように変形するものである。
【0029】
キャビティプレート20、アパーチャープレート30、マニホールドプレート40はいずれもステンレス鋼製の板から構成されている。
【0030】
キャビティプレート20には、圧力室21〜24となる貫通孔がエッチングにより形成されている。
【0031】
アパーチャープレート30には、後述するマニホールド41〜44と圧力室21〜24とを連通させるアパーチャー31〜34となる貫通孔と、後述するディセンダ孔45〜48と圧力室21〜24とを連通させる導出孔35〜38となる貫通孔とがエッチングにより形成されている。
【0032】
マニホールドプレート40には、マニホールド41〜44となる貫通孔と、導出孔35〜38と後述するノズル孔51〜54を連通させるディセンダ孔45〜48となる貫通孔とがエッチングにより形成されている。
【0033】
また、ノズルプレート50は、例えば、ポリイミド等の高分子合成樹脂材料により構成されており、ノズル51〜54となる貫通孔がレーザ加工により形成されている。このように、ノズルプレート50をステンレス鋼に比べて撓みやすい樹脂材料によって形成することで、マニホールド41〜44のダンパを兼用するようにしている。(第1ダンパ手段、第2ダンパ手段)すなわち、マニホールド41〜44は、その内壁の一面(底面)がノズルプレート50のみによって画定されているので、その一面はとても撓みやすくなっている。よって、マニホールド内に圧力波が生じてもその圧力波を受けてノズルプレート50で画定される一面は容易に変形してマニホールド41〜44の容積を変化させるので、これにより圧力波を減衰することが可能となっている。
【0034】
なお、ダンパは、ノズルプレート50によって構成される場合には限られず、ステンレス鋼をハーフエッチングにより極薄化してダンパ専用のプレートを形成してもよい。
【0035】
次にノズル53の配列について図2に基づいて説明する。本実施形態のノズル53は、それぞれノズル列をなすように配列されており、第1液体吐出系110〜130のノズル配列と、第2液体吐出系200のノズル配列はそれぞれ異なっている。
【0036】
すなわち、第1液体吐出系110のノズル53は、それぞれY方向に延存する4つのノズル列111〜114を構成しており、第1液体吐出系120のノズル53は、それぞれY方向に延存する4つのノズル列121〜124を構成しており、第1液体吐出系130のノズル53は、それぞれY方向に延存する4つのノズル列131〜134を構成しており、第2液体吐出系200のノズル53は、それぞれY方向に延存する4つのノズル列201〜204を構成している。
【0037】
そして、第1液体吐出系110においては、ノズル列111と112がノズル列組(第1ノズル列組)を構成するとともに、ノズル列113と114が別のノズル列組(第1ノズル列組)を構成し、第1液体吐出系120においては、ノズル列121と122がノズル列組を構成するとともに、ノズル列123と124が別のノズル列組(第1ノズル列組)を構成し、第1液体吐出系130においては、ノズル列131と132がノズル列組を構成するとともに、ノズル列133と134が別のノズル列組を構成し、第2液体吐出系200においては、ノズル列201と202がノズル列組を構成するとともに、ノズル列203と204が別のノズル列組を構成している。
【0038】
次に、カラーインクを吐出する第1液体吐出系110〜130の流路の構造について説明する。3つの第1液体吐出系は全て同一の流路構造であるので、ここでは、第1液体吐出系130について説明する。
【0039】
図2に示されるように、第1液体吐出系130のノズル53は、それぞれY方向に延存する4つのノズル列131〜134を構成している。
【0040】
そして、マニホールド43(第1液体供給室)は、同じくY方向に延存する2つのY方向延存部分43a(第1所定方向延存部分)を有するとともに、それら2つのY方向延存部分43aが一端側にて連結し、平面視で全体として略U字形状になるよう構成されている。
【0041】
より具体的には、1つのY方向延存部分43aがノズル列組を構成する2つのノズル列(ノズル列131,132の組とノズル列133,134の組)に対応するとともに、その2つのノズル列に対応する2つの圧力室23の列よりも長く構成され、且つその2つの圧力室23の列と平面視で一部分が重複している。なお、本明細書において、マニホールドとノズル列の間の対応する関係とは、これらが流体的に連通していることを意味し、同様に、ノズルと圧力室との対応する関係も、これらが流体的に連通していることを意味する。
【0042】
そして、2つのノズル列は平面視でY方向延存部分43aとは重複せず、Y方向延存部分43aの傍に位置している。すなわち、Y方向延存部分43aは、平面視で対応する2つのノズル列によって挟まれる位置関係となっている。すなわち、各Y方向延存部分43aは、ノズル列組(第1ノズル列組)を構成する2つのノズル列の間に位置するようになっている。
【0043】
そのため、図2に示されるように、第1の液体吐出系130においては、ノズル列組を構成する2つのノズル列は、その間にY方向延存部分43a(第1所定方向延存部分)を挟んだ位置関係となっており、それらの列間は比較的広くなっている。
【0044】
また、2つのY方向延存部分43aの連結部分には、マニホールド43にインクを供給するインク供給孔43bが形成されており、このインク供給孔43bから供給されたインクが2つのY方向延存部分43aに均等に行き渡るようになっている。
【0045】
次に、ブラックインクを吐出する第2液体吐出系200の流路の構造について説明する。
【0046】
図2に示されるように、ノズル54は、第1液体吐出系110〜130の場合と同様に、それぞれY方向に延存する4つのノズル列201〜204を構成している。
【0047】
そして、マニホールド44は、同じくY方向に延存する3つのY方向延存部分44a(第2所定方向延存部分)を有するとともに、それら3つのY方向延存部分44aが一端側にて連結し、平面視で全体として略W字形状になるよう構成されている。
【0048】
より具体的には、3つのY方向延存部分44aのうちの中央に位置する1つのY方向延存部分43aが2つのノズル列202,203に対応するとともに、両側に位置する残り2つのY方向延存部分44aにはそれぞれ1つのノズル列201,204が対応している。
【0049】
中央に位置するY方向延存部分44aは、2つのノズル列202,203に対応するとともに、その2つのノズル列に対応する2つの圧力室24の列よりも長く構成され、且つその2つの圧力室24の列と平面視で一部分が重複している。そして、2つのノズル列202,203は平面視で中央のY方向延存部分44aとは重複せず、その傍に位置している。すなわち、中央のY方向延存部分43aは、平面視で対応する2つのノズル列202,203によって挟まれる位置関係となっている。
【0050】
両側に位置するY方向延存部分44aは、それぞれ1つのノズル列201,204に対応するとともに、そのノズル列に対応する圧力室24の列よりも長く構成され、且つその圧力室24の列と平面視で一部分が重複している。そして、1つのノズル列201,204は平面視で両側のY方向延存部分44aとは重複せず、その傍の中央のY方向延存部分44a側に位置している。
【0051】
このように、中央のY方向延存部分44aと両側のY方向延存部分44aの一方との間には、これらに挟まれて、ノズル列組(第1ノズル列組)を構成する2つのノズル列(ノズル列201,202の組とノズル列203,204の組)が位置するようになっている。
【0052】
これは、言い換えると、ノズル列組を構成する2つのノズル列のうちの両側のY方向延存部分44aに対応するノズル列201,204からみたときに、その対応するY方向延存部分44aが、2つのノズル列のうちの残りのノズル列202,203と反対側に位置する位置関係である。
【0053】
さらに、中央のY方向延存部分44aは、2つのノズル列202,203が対応するようになっているが、これは、ノズル列202に対応するY方向延存部分44aとノズル列203に対応するY方向延存部分44aとが同一のY方向延存部分44a(中央のY方向延存部分44a)であるともいえる。
【0054】
また、中央のY方向延存部分44aは、2つのノズル列202,203が対応しているため、1つのノズル列201,204が対応する両側のY方向延存部分44aよりも、そのY方向における断面積が広くして、容量を大きく構成している。
【0055】
次に、キャップ5の構造について、図2および図3に基づいて説明する。本実施形態のキャップ5は、2つの領域に区画されており、3つの第1液体吐出系110〜130を1つの領域の空間内に封止し、ブラックインクを吐出する第2液体吐出系200をもう1つの領域の空間内に封止するように構成されている。
【0056】
具体的には、キャップ5は、インクジェットヘッド3のノズルプレート50に密着する弾性材料からなる立壁状の密着部を有しており、それは、環状密着部5aと区画密着部5bとからなっている。そして、区画密着部5は環状密着部5aの異なる2点を結ぶように延存しており、環状密着部5aに囲われた1つの領域を2つに分割しているのである。
【0057】
次に、以上説明した本発明の実施形態の作用効果について説明する。まず、本実施形態は、液体吐出ヘッドを大型化させることなく、マニホールド41〜44における圧力波の減衰効率の向上と、隣接するブラックノズル列とカラーノズル列の間での混液防止とを両立させることができるので、これについて説明する。
【0058】
第1液体吐出系110〜130のマニホールド41〜43は、2つのノズル列からなる第1ノズル列組(第1液体吐出系130を例にすれば、ノズル列131,132の組とノズル列133,134の組)対応して設けられた所定方向に延存するY方向延存部分43aを有するとともに、そのY方向延存部分43aが、第1ノズル列組を構成する2列のノズル列の間に位置するよう構成されていることから、マニホールド41〜43が、1つのノズル列に対してその列専用に対応する部分を有するように構成される場合に比べて、マニホールドの容積を大きくすることができる。これにより、ノズルプレート50のマニホールド41〜44の底面を画定する部分の面積を広くとることができるので、ダンパ手段(第1のダンパ手段)として変動する部分の面積を大きくし、変動する部分の変位をも大きくすることができるので、ダンパ手段としての減衰効率を向上させることができる。
【0059】
また、第2液体吐出系200のマニホールド44は、ノズル列201〜204の各列に対応して設けられた所定方向に延存するY方向延存部分44aを3つ有しているが、このうちの中央に位置する1つは、隣接する2つの第2ノズル列組(ノズル列201,202の組とノズル列203,204の組)に属するノズル列のうち、互いに異なる組に属し且つ互いに隣り合う位置関係にある2つのノズル列202,203に対して、共通に対応しているため、中央のY方向延存部分44aに関しては、第1液体吐出系110〜130のマニホールド41〜43と同じ理由で、ノズルプレート50により構成される第2のダンパ手段の減衰効率をより向上させることができる。
【0060】
また、第2ノズル列組(ノズル列201,202の組とノズル列203,204の組)をなす2つのノズル列の各列にそれそれ対応して設けられたY方向延存部分44aのうち、第2ノズル列組をなす2つのノズル列の一方(例えばノズル列201)に対応して設けられるY方向延存部分44aが、他方のノズル列(例えばノズル列202)とは反対側に位置するよう構成されているので、第1液体吐出系のノズル列のうち最も第2液体吐出系に近接しているノズル列134と、第2液体吐出系のノズル列のうち最も第1液体吐出系に近接しているノズル列201との間には、マニホールド44室の3つのY方向延存部分44aのうちの外側の1つが位置することとなる。
【0061】
従って、第1液体吐出系のノズル列のうち最も第2液体吐出系に近接しているノズル列134と、第2液体吐出系のノズル列のうち最も第1液体吐出系に近接しているノズル列201との間に、外側のY方向延存部分44aに相当するある程度のスペースが確保されることとなるから、カラーインクを吐出するノズル列134とブラックインクを吐出するノズル列201との間での混液を回避することができる。
【0062】
しかも、ブラックインクを第1液体吐出系の流路構造と同じ構造にした場合に比べて、ヘッドの大型化を回避することができる。すなわち、ブラックインクとカラーインクを全て第1液体吐出系にした場合、ブラックとカラーの境界の間隔を本実施形態の間隔(ノズル列134とノズル列201の間隔)と同程度にしたとすると、その間隔にはマニホールドなどの流路部分が重複することにならないが、本実施形態の場合は、その境界の間隔には、第2液体吐出系の一部分(外側のY方向延存部分44a)を位置させることができるので、大型化を回避できるのである。
【0063】
また、本実施形態の別の作用効果として、第2液体吐出系において、2列のノズル列202,203に対応するY方向延存部分44aが、1つのノズル列201,204のみが対応する2つのY方向延存部分44aよりも、Y方向からみた断面積が大きくなっているので、これらの間での減衰効果の程度の格差を抑えることができ、第2液体吐出系に属するノズルの吐出特性を均一化することができる。
【0064】
また、キャップ5により、第1液体吐出系に属するノズル51と第2液体吐出系に属するノズル51を分けてキャップすることができるので、例えば、キャップ5がキャッピング位置にある状態で、ポンプでキャップ内を吸引して、インクジェットヘッド3内の増粘した液体を強制的に排出する吸引パージを行った際などに、あるノズルから排出されたある液体が性質の異なる他の液体を吐出する他のノズルに侵入して混液する、といった不具合を回避できる。また、第1液体吐出系に属するノズルと第2液体吐出系に属するノズルを区画してキャッピングするの区画密着部5bを適度な肉厚で構成できるので、区画密着部5bとインクジェットヘッド3の隙間から液体が行き来して混液する、といった不具合も極力回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施形態のインクジェットプリンタ1の概略斜視図である。
【図2】本実施形態のインクジェットヘッド3をZ方向から平面視した全体平面図である。
【図3】インクジェットヘッド3がキャップ5でキャッピングされた状態をYZ面による断面上で示した全体断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 インクジェットプリンタ
3 インクジェットヘッド
5 パージキャップ
110〜130 第1液体吐出系
200 第2液体吐出系
10 圧電アクチュエータ
20 キャビティプレート
30 アパーチャープレート
40 マニホールドプレート
50 ノズルプレート
21〜24 圧力室
41〜44 マニホールド
51〜54 ノズル
111〜114,121〜124,131〜134,201〜204 ノズル列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数のノズルと、それらノズルに連通して液体を供給するとともにその室内の液体に伝播する圧力波を減衰するための第1ダンパ手段を備えた第1液体供給室と、を含んで構成される第1液体吐出系と、
第1液体吐出系とは異なる性質の液体を吐出するものであって、液体を吐出する複数のノズルと、それらノズルに連通して液体を供給するとともにその室内の液体に伝播する圧力波を減衰するための第2ダンパ手段を備えた第2液体供給室と、を含んで構成される第2液体吐出系と、
を備えた液滴吐出ヘッドにおいて、
前記第1液体吐出系は、
前記ノズルが所定方向に配列されることで構成される2つのノズル列からなる第1ノズル列組を1以上有しており、
前記第1液体供給室は、
前記第1ノズル列組に対応して設けられた前記所定方向に延存する第1所定方向延存部分を有するとともに、その第1所定方向延存部分が前記第1ノズル列組を構成する前記2列のノズル列の間に位置するよう構成されており、
前記第2液体吐出系は、
前記ノズルが所定方向に配列されることで構成される2つのノズル列からなる第2ノズル列組を2以上有しており、
前記第2液体供給室は、
前記第2ノズル列組をなす前記2つのノズル列の各列にそれそれ対応して設けられた前記所定方向に延存する第2所定方向延存部分を有するとともに、前記第2ノズル列組をなす前記2つのノズル列の一方に対応して設けられる前記第2所定方向延存部分が、他方のノズル列とは反対側に位置するよう構成されており、
さらに、隣接する2つの前記第2ノズル列組に属するノズル列のうち、互いに異なる組に属し且つ互いに隣り合う位置関係にある2列のノズル列には、同じ前記第2の所定方向延存部が対応することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
隣り合う位置関係にある前記2列のノズル列に対応する前記第2の所定方向延存部は、1つのノズル列のみが対応する前記第2の所定方向延存部より、前記所定方向からみた断面積が広いことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置であって、
環状に形成された環状密着部とこの環状密着部に囲まれる1つの領域を2つの領域に区画する区画密着部とを有し、前記環状密着部と前記区画密着部を前記液体吐出ヘッドに密着させることで前記液体吐出ヘッドの前記複数のノズルを封止するキャップと、
このキャップを前記液体吐出ヘッドの前記複数のノズルを封止するキャッピング位置と前記液体吐出ヘッドから離間したアンキャッピング位置との間で相対的に移動させるキャップ移動手段とを備えており、
前記キャップ移動手段は、前記キャップを前記キャッピング位置に位置付けたときは、前記2つの領域のうちの一方の領域内に前記第1液体吐出系に属するノズルの群が位置し、他方の領域内に前記第2液体吐出系に属するノズルの群が位置するとともに、これら2つのノズルの群の間に前記区画密着部が位置するように、前記環状密着部と前記区画密着部とを前記液体吐出ヘッドに密着させることを特徴とする液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−82902(P2010−82902A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252739(P2008−252739)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】