説明

液体吐出ヘッド及び液体吐出装置

【課題】振動板の変位量を簡易な構造により増大させ、コストを増大させることなく、吐出効率が高い液体吐出ヘッドを提供すること。
【解決手段】液体を吐出するノズルが設けられた液室と、前記液室の前記ノズルとは反対側に圧電層及び電極が積層された圧電素子と、を有し、前記圧電素子に電圧を印加して前記圧電層を変形させ、前記液室に圧力を発生させることにより前記ノズルから前記液体を吐出する液体吐出ヘッドであって、前記圧電層の分極方向と略直交する方向及び前記圧電層の前記分極方向と略同一方向に電界を与え、前記圧電層に変形を生じさせて前記ノズルから前記液体を吐出することで、前記圧電層の変位量を増大させ、液体吐出ヘッドの吐出効率を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインク等の液体を吐出する液体吐出ヘッド、及び液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)を搭載した液体吐出装置としてのインクジェットプリンタは、近年、高画質、低価格、速度対応性(インクを吐出するノズル数を増減することにより高速プリンタから、低速だが低価格のプリンタまで対応できる)等が評価されて普及が進んでおり、より一層の画質向上、コストダウン、小型化が要求されている。
【0003】
この様なインクジェットヘッドの工法としては、半導体プロセスを利用した微細加工技術であるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術が取り入れられている。
【0004】
MEMS技術を用いることにより、シリコン基板上にインクジェットヘッドに必要な液室、振動板、圧電素子、電極等の部品を、エッチング、スパッタ等の加工方法で微小領域に形成することができる。また、これらの部品をさらに微細化し、各部品の配置を工夫することにより、インクジェットヘッドを小型化して作り込むことができる。
【0005】
ここで、インクジェットヘッドの小型化により各部品の集積度が上がると、液室の圧力を変化させる振動板の面積も小さくなり、振動板の変位量が小さくなるため吐出効率が低下するという不具合が発生する。
【0006】
そこで、例えば特許文献1には、分極方向に直交する方向に電位差を与えることで変形を生じる圧電体の振動板を対向して配置し、前記振動板の電界強度の低い部分に凹状の溝部を形成することで、振動板の変位量を確保する技術が開示されている。
【0007】
また、例えば特許文献2には、積層型圧電体にその分極方向に直交する電界を発生させてシェアモードにて変形させ、同時に外側圧電セラミック層の分極方向と平行な電界を発生させて外側圧電層を伸縮モードにて変形させることにより、圧電体全体としての変形量を大きくするインクジェットヘッドが提案されている。
【0008】
また、例えば特許文献3には、圧電層に環状の上部電極と、上部電極内に上部電極に接しない中央電極とを形成し、上部電極に電圧を印加した時に上部電極と下部電極との間で生じる変位に加えて、上部電極と中央電極との間に縦方向の変位を発生させることにより、振動板の撓み変位量を増大させる液体吐出ヘッドが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1において圧電体に生じる変形モードは単一であり、十分な変位量を得られない場合がある。また、特許文献2に係るインクジェットヘッドでは、変形モードが異なる複数の圧電体を積層させるため、製作コストがかかると共に、各圧電体の適正厚み及びヤング率等のバランスを取ることが困難な場合がある。さらに特許文献3では、上部電極と中央電極との間の縦方向の変位を十分に引き出す様な電界を発生させるのが難しい場合がある。また、圧電層を介して上部電極を下部電極に接続させるためのコストアップ及び接続信頼性といった課題を有している。
【0010】
そこで本発明では、振動板の変位量を簡易な構造により増大させ、コストを上昇させることなく、吐出効率が高い液体吐出ヘッド及びこの液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題に鑑み、液体を吐出するノズルが設けられた液室と、前記液室の前記ノズルとは反対側に圧電層及び電極が積層された圧電素子と、を有し、前記圧電素子に電圧を印加して前記圧電層を変形させ、前記液室に圧力を発生させることにより前記ノズルから前記液体を吐出する液体吐出ヘッドであって、前記圧電層の分極方向と略直交する方向及び前記圧電層の前記分極方向と略同一方向に電界を与え、前記圧電層に変形を生じさせて前記ノズルから前記液体を吐出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、圧電層の分極方向と略直交する方向及び略同一方向に電界を与えて圧電層を変形させることにより、異なるモードの変形を同一圧電層に形成して十分な変位量を確保することができる。
【0013】
そのため、駆動電圧を低下させることができ、ICの小型化、圧電素子周辺の配線容量及び発熱量の低減等、機能的な向上を望めると共に、圧電層の変位量を大きく取れることにより、振動板のコントロール性が向上し、小滴化や多値化といった粒子化特性の向上に貢献することができる。
【0014】
また、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッドは、低コスト、高安定性及び高信頼性を実現するものであり、この様な液体吐出ヘッドを有する液体吐出装置としてのインクジェットプリンタによれば、低コストで高品質画像を出力することが可能になる。また、3次元造形装置や、輸血や点滴等の輸液ポンプ等の液体吐出装置に液体吐出ヘッドとして搭載することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの分解斜視図
【図2】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの幅方向断面の要部拡大図
【図3】図2に示す液体吐出ヘッドのI−I断面図
【図4】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドにおいて振動板が第3電極を覆う部分のみに形成されている構成を示す図
【図5】第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの幅方向断面の要部拡大図
【図6】第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドの幅方向断面の要部拡大図
【図7】第4の実施形態に係る液体吐出ヘッドの構成を示す平面概略図及び断面概略図
【図8】第5の実施形態に係る液体吐出ヘッドの幅方向断面の要部拡大図
【図9】第6の実施形態に係る液体吐出ヘッドの幅方向断面の要部拡大図及び平面概略図
【図10】第6の実施形態に係る液体吐出ヘッドの幅方向断面の要部拡大図及び平面概略図
【図11】第6の実施形態に係る液体吐出ヘッドの平面概略図及び断面概略図
【図12】実施形態に係る液体吐出ヘッドを搭載したインクジェット記録装置の構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態(以下「実施形態」という)について、図面を用いて詳細に説明する。
【0017】
[第1の実施形態]
図1及び図2を用いて第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの概略構成について説明する。
【0018】
図1は、第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの分解斜視図であり、図2は、第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの幅方向断面の要部拡大図である。ここで、図中X方向は液体吐出ヘッドの幅方向、Y方向は長手方向、Z方向は高さ方向を示している。
【0019】
第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドは、液室基板2の一面に振動板13が成膜されており、液室基板2の振動板13との反対側は複数のノズルが配列されたノズル基板4と接合されている。図1に示した様に、振動板13が成膜された液室基板2に、駆動IC21、サブフレーム12、SUS板341,342,343、ダンパフィルム35、補強板36、天板38を積層することで、液体吐出ヘッドが形成されている。
【0020】
振動板13は一般的に積層構造となっており、SiO2,SiN,PS等により構成されている。また、Zrあるいは他のセラミックス等の材料が用いられる場合もある。
【0021】
図2に示す様に、液室基板2には、液室1がエッチングにより形成されており、振動板13によりエッチストップすることで形成される。
【0022】
振動板13の液室1の反対側には、圧電層7が形成されている。圧電層7はスパッタ、SolGel、イオンプレーティング等の工法により成膜され、グリーンシートを焼成して形成する場合もある。
【0023】
図3に、図2に示した液体吐出ヘッドのI−I断面図を示す。
【0024】
図3に示す様に、圧電層7を駆動するための電極は、液室1の周辺部に対応する位置で圧電層7を挟んで形成される下電極5及び上電極6を有する第1電極9と、圧電層7の液室1に対応する位置で液室1とは反対側に形成され、第1電極9とは極性が異なる第2電極10と、圧電層7の液室1に対応する位置で液室1側に形成され、第1電極10と同極性の第3電極11とで構成されている。
【0025】
第3電極11は、給電のための電極取り出し口を除いた部分が、第2電極10の圧電層7の液室1側への投影面よりも大きく形成されている。これは、第3電極11を第2電極10より小さく形成すると、第1電極9と第2電極10との間で形成される電界が弱くなるためである。また、少なくとも第3電極11を覆う様に振動板13が設けられている。各電極9,10,11は、例えば、Ti,TiO2,Pt,SrRuO3等で構成され、これらの材料から適宜選択されて電極として成膜される。
【0026】
本実施形態に係る液体吐出ヘッドは、圧電層7と第1電極9、第2電極10、第3電極11とで構成される圧電素子に電圧を印加して圧電層7を変形させ、液室1に圧力を発生させることによってノズル3から液体を吐出する。
【0027】
圧電層7が、その製作方法にもよるが図3に示す分極方向8で処理されている場合には、第1電極9と第2電極10を共通電極としてグランドとし、第3電極11を個別電極とする。また、圧電層7の分極方向が図3に示した例と逆(図中下向き)の場合には、第1電極9と第2電極10とを個別電極とし、第3電極11をグランドとする。
【0028】
圧電層7は、分極方向8に対して略同一方向の電界が与えられることによりd31モード、分極方向8に対して略直交する方向の電界が与えられることによりd15モードの変形を生じる。
【0029】
この様な構成において個別電極をスイッチングすることにより、第1電極9と第3電極11との間にd15モードの変形、第2電極10と第3電極11との間にd31モードの変形を得ることができる。第3電極11を第2電極10よりも大きく形成することで、d15モード変形部の電界を強く保つことができる。
【0030】
ノズル3が開口されたノズル板4は、例えば厚さ50μmのSUS板に、プレス工法によりノズル3が形成され、液室基板2の振動板13とは反対側の面に接合される。
【0031】
図2に示した様に、液室基板2には液室1が駆動IC21に対向する位置に2列千鳥格子状に配置されている。液室1には共通液室30から供給溝31、供給口32、流体抵抗部33を通って液体(インクジェットヘッドの場合にはインク)が供給される。
【0032】
圧電層7の液室1の反対側には、圧電層7の変形部を囲む空間40が設けられたサブフレーム12が接合されている。サブフレーム12は、例えば、シリコン基板又はガラス基板等で形成される。また、サブフレーム12には空間40の間に開口部39が形成されており、駆動IC21が各電極と電気的に接続されている。空間40の開口部39の反対側には、液体の供給溝31が形成されており、液室基板2に設けられた供給口32に連通している。
【0033】
サブフレーム12の上部には共通液室30を構成する穴が形成されたSUS板341,342,343が複数枚積層して接合されている。共通液室30の上部にはダンパフィルム35が接合され、一部に穴がある空間37が形成された補強板36が接合されている。補強板36の上部には天板38が接合されており、図1に示す様に供給穴42が形成されている。
【0034】
駆動IC21からの信号により各電極9,10,11に電圧が印加されると、第1電極9と第2電極10との間には分極方向8に対して略直交する方向に電界が形成され、圧電層7にd15モードの変形が生じる。
【0035】
また、第2電極10と第3電極11との間には分極方向8と略同一方向の電界が形成され、圧電層7にd31モードの変形が生じる。
【0036】
振動板13はd15モードの変形により梁の根元から変位を生じ、中央部ではd31モードのユニモルフ変位を生じる相乗効果によって大きな変位量を得る事ができる。また、第1電極9の構成としては、上電極6を無くし下電極5のみで構成することもできる。
【0037】
図4に、第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドにおいて振動板13が、第3電極を覆う部分のみに形成されている構成を示す。
【0038】
圧電層7のd15モードの変形には振動板13は不要であり、d31モードの変形にはユニモルフ変位をするための振動板13が必要となる。そのため振動板13を、第3電極を覆う部分のみに形成し、d15モードの変形部に振動板13を形成しないことにより、より大きな変位量を得る事が可能になる。但し、液体が導電性の場合には、図4に示す様に絶縁性の保護膜14が必要になる。
【0039】
第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドによれば、圧電層7にd15モードとd31モードの変形を生じさせることによって変形効率を向上させることができる。そのため、駆動電圧を低下することができ、コストダウン及び消費電力低減といった効果を得ることができる。また、駆動電圧を低下することにより、駆動IC21の小型化、圧電層7周辺の配線容量及び発熱量の低下等、機能的にも大幅な向上を得ることができる。さらに、圧電層7の変位量を大きくすることで振動板13のコントロール性が向上し、小滴化や多値化といった粒子化特性が向上する。
【0040】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドについて説明する。液体吐出ヘッドの全体構成は、図1及び図2に示す第1の実施形態の構成と同一である。
【0041】
図5に、第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの幅方向断面の要部拡大図を示す。
【0042】
図5(a)に示す様に、第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドでは、第1電極9の下電極5と第3電極11との間のd15モードの変形領域の振動板13に、薄肉部17を形成している。これにより、振動板13による圧電層7の拘束力を低減し、圧電層7のd15モードでの変位量を大きくすることができる。
【0043】
また、図5(b)に示す様に、第1電極9の下電極5と第3電極11との間のd15モードの変形領域の振動板13に、切り欠き部18を設ける構成により、振動板13による圧電層7の拘束力をさらに低減することができる。切り欠き部18を形成することで、圧電層7のd15モードでの変位量をさらに大きくすることができる。
【0044】
振動板13に形成された薄肉部17又は切り欠き部18は、いずれもd15モードの変位量を増大させる効果があり、圧電層7全体の変位量を大きくすることができる。
【0045】
この場合において、圧電層7は強度を確保するために一定の厚さが必要であり、好ましくは1μm以上の厚さがあれば好適である。また、圧電層7には、液体と接する側及びその反対側の面にも必要に応じて保護膜を設ける場合がある。
【0046】
[第3の実施形態]
図6に、第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドの幅方向断面の要部拡大図を示す。第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドの全体構成は、図1及び図2に示す第1の実施形態の構成と同一である。
【0047】
図6(a)に示す様に、第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドでは、第1電極9の上電極6と第2電極10との間に、第3電極11と同極性の第4電極19を設けている。この様に構成することで、圧電層7には第1電極9と第3電極11との間でd15モード、第1電極9と第4電極19との間で同様にd15モードの変形を生じさせることができる。したがって、d15モードの電界強度を上げることができ、圧電層7のより一層の変位量向上効果を得ることが可能となる。
【0048】
図6(b)には、第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドにおいて、第1電極9の下電極5と第3電極11との間の振動板13に切り欠き部18を形成した構成を示す。
【0049】
切り欠き部18を設けたことにより、振動板13による圧電層7の拘束力を低減させ、圧電層7のd15モードでの変位量をさらに大きくすることができる。また、振動板13の第1電極9と第4電極19との間に、図5(a)と同様に薄肉部17を形成することによっても、同様に圧電層7のd15モードでの変位量を増大する効果を得ることができる。
【0050】
[第4の実施形態]
図7は、第4の実施形態に係る液体吐出装置の構成を示す図である。図7(a)は第4の実施形態に係る液体吐出装置の平面概略図、図7(b)は図7(a)のII−II断面概略図、図7(c)は図7(a)のIII−III断面概略図である。
【0051】
図7(b)に示した様に、第2電極10の圧電層7の反対側には、絶縁層20が形成されており、圧電層7の変形部から外れた内側で絶縁層20にコンタクトホール22が設けられている。コンタクトホール22からは、第2電極10から引き出し電極23が引き出されており、駆動IC21に設けられたアルミパッド25、その上部に設けられた金メッキ26との間をフリップチップ接合するためのスタッドバンプ24を引き出し電極23上に設けることで、駆動IC21と第2電極10とが電気的に接合されている。
【0052】
従来のd31モードの変形のみで駆動していた圧電層7は、隣接する圧電層7からの影響を低減するために、隣接する圧電層7との間に切り欠きを入れて液室1ごとにパターニングして形成していた。集積度が50dpi以下程度の大きさでは、隣接する圧電層7からの影響力が少ないため大きな問題とはならないが、集積度が150dpi以上になると端部の幅を十分に取れなくなり、互いの拘束力が影響し合うことにより圧電層7の変位量が小さくなってしまう場合があった。
【0053】
液室1ごとに圧電層7をパターニングするためには、スパッタ等によるエッチング加工により不必要な部分を取り除いて形成する必要がある。圧電層7のスパッタエッチングは加工時間がかかり、加工装置も高価であるためコストの増大が避けられず、エッチングの残渣等による不具合も大きな課題であった。
【0054】
しかしながら、本実施形態に係る液体吐出ヘッドでは、圧電層7にd15モード及びd31モードによる変形を生じさせることによって、圧電層7の変位量を十分に確保できるため、圧電層7を液室1ごとにパターニングして形成する必要がない。
【0055】
特に、圧電層7の振動板13からの拘束力の影響が少なく、振動板13の圧電層7のd15モードでの変形部に切り欠き部を設けることによって、拘束力の影響をほぼ無くすことができる。そのため、圧電層7を液室1ごとにパターニングして形成することなく、液体吐出ヘッド全体に成膜された一様な層として形成することができる。
【0056】
したがって、液体吐出ヘッドのアクチュエータとなる圧電素子をパターニングする必要が無く、設備及びプロセスコストの大幅なコストダウンが可能となる。
【0057】
[第5の実施形態]
図8には、第5の実施形態に係る液体吐出ヘッドの幅方向断面の要部拡大図を示す。図示した構成以外は、図1及び図2に示す第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの構成と同様である。
【0058】
図8(a)は、圧電層7のd15モードの変形部とd31モードの変形部との間に切り欠き部27を設けた構成を示す図である。
【0059】
第3電極11は、圧電層7がd15モードでの変形駆動が可能な様に切り欠き部27の第1電極9の側にも、それぞれ第3電極111,112を設けている。第2電極10は、第3電極11とほぼ同等の大きさでも良い。圧電層7に切り欠き部27という空間を形成しているため、第3電極111,112と第2電極10との間には強い電界は形成されず、第2電極111,112と第1電極9との間で強い電界が形成される。
【0060】
また、切り欠き部27を形成した部分を、切り欠きではなく薄層化することによっても拘束力の影響が少なくなるため、圧電層7の変位量を増大させることができる。
【0061】
図8(b)は、第1電極9と第3電極111,112との間の電界を強くするため、第3電極111,112に対向して第3電極11と同極性の第4電極19を設けている。
【0062】
この様な構成により、第4電極19は第1電極9との間で電界を形成し、圧電層7のd15モードによる変位量を大きくすることができる。
【0063】
また、図8(c)には、振動板13の液室1の端部に薄肉部17を形成した図を示す。
【0064】
薄肉部17を切り欠き部27と重なる様に形成した場合には圧電層7の変位量をさらに大きくすることができる。この場合には、圧電層7が変位した後に元に戻る力が小さくなるため、変位量と元に戻る力が最適化されるように薄肉部17の寸法を適宜設計する必要がある。
【0065】
図8(d)には、振動板13の液室1の端部に切り欠き部18を設けた例を示す。
【0066】
圧電層7のd15モードによる変形部と、d31モードによる変形部との間に切り欠き部18を設けることで、互いの変形モードの影響を低減し、それぞれの変位量を最大化することができる。また、第4電極19を設けることで圧電層7のより大きな変位量を得ることができる。
【0067】
この様に、圧電層7に切り欠き部27若しくは薄層部を形成することによって、圧電層7の変位量を大きくすることができる。また、第4電極19を形成したり、振動板13に薄肉部17又は切り欠き部18を形成することによってさらに変位量を大きくすることができる。
【0068】
[第6の実施形態]
図9は、第6の実施形態に係る液体吐出ヘッドの幅方向断面の要部拡大図及び平面概略図である。図示していない構成は、図1及び図2に示す第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの構成と同様である。
【0069】
第6の実施形態に係る液体吐出ヘッドは、図9(b)に示す様に、液室1の圧電層7に平行な断面が長円形状に形成されており、第1電極9、第2電極10及び第3電極11を液室1の断面形状と相似する長円形状に形成し、液室1と各電極9,10,11とを同心円状に積層して構成している。
【0070】
圧電層7の変形部を円形、長円形又は一部に矩形形状を組み合わせて構成することで、効率良く振動板13を変形させることができる。
【0071】
また、図10に示した様に、圧電層7のd15モードによる変形部とd31モードによる変形部との間に切り欠き部27を設けることで、圧電層7のより大きい変位量を得ることができる。
【0072】
図11に、図9及び図10に示した液室1及び電極9,10,11等を4列の千鳥格子上に配列して構成した例を示す。この様な構成で1列300dpiにすることで、1200dpiの液体吐出ヘッドを実現することができる。
【0073】
液室1を含む液体の流路は、例えば、厚さ50μmのSUS板341,342,343,344に液室1の開口部、流体抵抗部33と連通管42の開口部、共通液室30と連通管42の開口部を設け、それぞれ位置合わせして積層接合することで構成することができる。
【0074】
この様に開口部を有する複数の薄板を積層接合して連通管42、共通液室30等を形成することにより、ノズル1つ当たりの製造コストを低減することができ、安定性、信頼性に優れた液体吐出ヘッドを実現することが可能になる。
【0075】
電極基板41は、図10,11に示した第2電極10の引き出し配線部28からの引き出し電極29の上部に金メッキ等で電極パッドを形成し、フリップチップ接合により第2電極10と電極基板41に搭載されている駆動ICと電気的に接合される。
【0076】
引き出し配線部28を液室1の間を通し、引き出し電極29を図11の右側に集約することによって電極基板41の面積を小さくすることができ、コストを低減することができる。
【0077】
図11に示した様な配置により液体吐出ヘッドの高集積化が可能であり、インクジェット記録装置等に用いる場合には高精細且つ高画質化が可能な液体吐出ヘッドを実現することができる。
【0078】
[第7の実施形態]
図12に、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッドを搭載したインクジェット記録装置の構成例を示す。
【0079】
インクジェット記録装置は、黒(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4色のインクを吐出する液体吐出ヘッドであるラインヘッド51,52,53,54を備えて構成される。
【0080】
ラインヘッド51,52,53,54は、図示しないホストコンピュータから入力された画像データに基づいて駆動IC21により駆動され、記録紙61の印字面にそれぞれインクを吐出してカラー画像を形成する。
【0081】
記録紙61は、給紙ローラ60により給紙カセット47から分離されて1枚ずつ搬送される。記録紙61は、先端がガイド板48によりガイドされながら、紙押さえローラ49まで案内される。
【0082】
搬送ベルト45は、ベルト駆動ローラ44とベルト従動ローラ43に適度な張力で巻き回されており、例えば静電吸着装置、エアー吸引装置等により記録紙61を搬送ベルト45に固定して搬送する装置を備えている。
【0083】
ベルト従動ローラ43には、搬送ベルト45を挟んで紙押さえローラ49が設けられており、記録紙61を搬送ベルト45に密着させることができる。
【0084】
搬送ベルト45の内側には、記録紙61と各ラインヘッド51,52,53,54との間の距離を一定に保つためのプラテン46が配置されている。
【0085】
ラインヘッド51,52,53,54で記録紙61に画像を形成する前段には、前処理ユニット50が設けられている。前処理ユニット50は、例えば、インクの定着剤、凝固剤、膨潤剤等の前処理剤を記録紙61に付着させる。具体的には、前処理剤を吐出する液体吐出ヘッドや、前処理剤を塗布することができる塗布ローラを用いることができる。
【0086】
記録紙61は、搬送ベルト45に密着して搬送され、前処理ユニット50によって、例えばインクの凝固剤等が予め記録紙61上に塗布される。その後、記録紙61にはラインヘッド51,52,53,54から各色のインクが吐出されて画像が形成される。
【0087】
ラインヘッド51,52,53,54により画像が形成された記録紙61は、後段の後処理ユニット55により後処理が行われる。後処理ユニット55は、例えば記録紙61上のインクを乾燥させるための熱ローラ、乾燥機や、記録紙61のカールを矯正するデカールユニット等である。
【0088】
後処理を施された記録紙61は、搬送ベルト45から分離爪56によって分離されて一対の排紙ローラ57,58により排紙カセット59に排紙される。
【0089】
ラインヘッド51,52,53,54として、上記した第1から第6の実施形態の何れかの液体吐出ヘッドを用いることで、消費電力量を低減し、液滴制御性が向上したことにより階調性が優れた高画質画像を、低コストで提供することが可能なインクジェット記録装置を実現することができる。
【0090】
また、液体吐出装置としてのインクジェット記録装置について説明したが、点滴静脈注射等に使用する輸液ポンプに第1から第6の実施形態に示した液体吐出ヘッドを用いることもできる。この様な構成により、小型で、且つ、輸液量の幅の大きい液体吐出装置としての輸液ポンプを提供することもできる。さらに、インクジェット技術を利用する3次元造形装置に本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッドを用いることも可能である。
【0091】
以上説明した様に、本発明の実施形態によれば、液体吐出ヘッドの圧電層7にd15モード及びd31モードによる変形を生じさせることにより、圧電層7の変位量を増大させることができる。この様に簡易な構成で変位量を増大させて吐出効率を向上できるため、コスト及び消費電力量の低減を図ることが可能である。
【0092】
また、変位量が増大することによって吐出する液滴の制御を容易に行うことができる。そのため、当該液体吐出ヘッドを用いたインクジェット記録装置では、低コストで階調性に優れた高品質画像を出力することが可能になる。
【0093】
なお、上記実施形態に挙げた構成等に、その他の要素との組み合わせなど、ここで示した構成に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0094】
1 液室
3 ノズル
5 下電極(第1電極)
6 上電極(第1電極)
7 圧電層
8 分極方向
9 第1電極
10 第2電極
11 第3電極
13 振動板
17 薄肉部
18、27 切り欠き部
19 第4電極
30 共通液室
42 連通管
341,342,343,344 薄板
【先行技術文献】
【特許文献】
【0095】
【特許文献1】特開平7−214773号公報
【特許文献2】特開平10−058674号公報
【特許文献3】特開2010−208300号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルが設けられた液室と、
前記液室の前記ノズルとは反対側に圧電層及び電極が積層された圧電素子と、を有し、
前記圧電素子に電圧を印加して前記圧電層を変形させ、前記液室に圧力を発生させることにより前記ノズルから前記液体を吐出する液体吐出ヘッドであって、
前記圧電層の分極方向と略直交する方向及び前記圧電層の前記分極方向と略同一方向に電界を与え、前記圧電層に変形を生じさせて前記ノズルから前記液体を吐出する
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記圧電層は、前記分極方向と略直交する方向の電界が与えられることによりd15モードで変形し、前記分極方向と略同一方向の電界が与えられることによりd31モードで変形する
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記圧電素子の前記電極は、
前記圧電層の前記液室の周辺部に対応する位置で前記圧電層を挟んで形成される第1電極と、
前記圧電層の前記液室に対応する位置で前記液室とは反対側に形成され、前記第1電極とは極性が異なる第2電極と、
前記圧電層の前記液室に対応する位置で前記液室側に形成され、前記第1電極と同極性の第3電極と、
を備え、
少なくとも前記第3電極を覆う振動板が設けられており、
前記第1電極、前記第2電極及び前記第3電極との間にそれぞれ電圧を印加する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第3電極は、給電のための電極取り出し口を除いた部分が、前記第2電極の前記圧電層の前記液室側への投影面よりも大きく形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記振動板は、前記圧電層の前記d15モードでの変形部に対応する部分が、他の部分より薄く形成されている
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記振動板は、前記圧電層の前記d15モードでの変形部と前記d31モードでの変形部との間に、切り欠き部が形成されている
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記第1電極と前記第2電極との間に、前記第3電極と同極性の第4電極を有する
ことを特徴とする請求項3から5の何れか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記圧電層は、ヘッド全体に成膜された一様な層である
ことを特徴とする請求項1から7の何れか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記圧電層は、前記d15モードでの変位部と前記d31モードでの変位部との間に薄層部又は切り欠き部を有する
ことを特徴とする請求項1から7の何れか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記液室の前記圧電層に平行な断面が円形又は長円形であり、
前記電極が前記液室の断面形状と相似する形状に形成され、前記液室と前記電極とが同心円状に積層されている
ことを特徴とする請求項1から9の何れか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
開口部を有する複数の薄板を積層接合することにより、
前記液室から前記ノズルに連結する連通管と、前記液室に前記液体を供給する共通液室とが形成されている
ことを特徴とする請求項1から10の何れか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
請求項1から11の何れか一項に記載の液体吐出ヘッドを有する
ことを特徴とする液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−59934(P2013−59934A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200328(P2011−200328)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】