説明

液体吐出ヘッド用基板および液体吐出ヘッド

【課題】 シリコン化合物からなる絶縁層がインク等の液体に溶出し、電極に液体が接すると、電極の腐食・溶出が生じて予定外の個所に電流が流れて記録動作時に誤動作が起きたり、液体吐出装置の回路等が影響を受けたりする可能性がある。
【解決手段】 エネルギー発生素子111に電力を供給するために用いられる電極1307を被覆する絶縁層1308中の電極1307より流路46に近い位置に配線114を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド用基板および液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドは、液体を吐出するために用いられるエネルギーを発生するエネルギー発生素子をシリコン基体上に備えた液体吐出ヘッド用基板と、吐出口や流路の壁を形成し液体吐出ヘッド用基板と接合して設けられた流路壁部材と、を有する。このようなエネルギー発生素子は、電力を供給することで発熱する材料からなる発熱抵抗層と、発熱抵抗層に接して設けられた一対の電極とで設けられ、液体から保護するために絶縁層で被覆されている。この一対の電極間に電圧を印加することで、一対の電極の間に位置する発熱抵抗層が発熱する。この発熱によって液体が膜沸騰を起こして発泡し、このとき生じる気泡の圧力により吐出口から吐出されることで記録動作が行われる。
【0003】
絶縁層を保護するために、絶縁層の上には金属材料などからなる耐キャビテーション性を有する保護層を設けることが知られている。特許文献1には、エネルギー発生素子の上に、シリコン化合物からなる絶縁層が設けられており、その上にタンタルからなる保護層を設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−334075号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年では、記録画像の画質や耐久性の向上等の目的で、吐出に用いられる液体に、溶解能の高い溶剤が用いられており、よって、吐出用の液体の成分の種類、濃度によっては、シリコン化合物からなる絶縁層が溶解されて、電極が露出し、液体と電極とが接してしまう場合が想定される。そうすると予定外の個所に電流が流れてしまい、記録動作が不安定となることが懸念される。絶縁層の材料、厚さを変更することで対応することも想定されるが、エネルギー発生素子から液体への熱伝導性等の、吐出性能に関連する諸特性を鑑みると現実的には困難である。
【0006】
本発明は上記課題を鑑みたものであり、吐出用の液体と電極とが接する前に、液体の電極への到達の可能性を確実に検知することのできる信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体を供給するために貫通して設けられた供給口を有する基体と、該基体の上に設けられたシリコン化合物からなる蓄熱層と、該蓄熱層の上に設けられ、電力を供給することで発熱する材料からなる発熱抵抗層と該発熱抵抗層に接続する一対の電極とからなる、液体を吐出口から吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子と、前記エネルギー発生素子を被覆するように設けられたシリコン化合物からなる絶縁層と、を有する液体吐出ヘッド用基板と、前記吐出口と前記供給口とを連通する流路の壁を有し、前記液体吐出ヘッド用基板に接することで前記流路を構成する流路壁部材と、を備え、前記蓄熱層と前記絶縁層との間であって、前記一対の電極よりも前記流路に近い位置の少なくとも一部分に、金属材料からなり前記基体に設けられた一対の端子に電気的に接続された配線が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液体の電極への到達の可能性を確実に検知することができる信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の液体吐出ヘッドを用いることができる液体吐出装置およびヘッドユニットの一例である。
【図2】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの模式的な上面図である。
【図3】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの模式的な上面図および切断面図である。
【図4】第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの模式的な上面図である。
【図5】第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドの模試的な上面図および切断面図である。
【図6】第4の実施形態に係る液体吐出ヘッドの模試的な上面図および切断面図である。
【図7】第5の実施形態に係る液体吐出ヘッドの模式的な上面図および切断面図である。
【図8】第5の実施形態に係る液体吐出ヘッドの模式的な上面図および切断面図である。
【図9】第6の実施形態に係る液体吐出ヘッドの模式的な上面図および切断面図である。
【図10】第7の実施形態に係る液体吐出ヘッドの模式的な上面図および切断面図である。
【図11】第8の実施形態に係る液体吐出ヘッドの切断面図および上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
液体吐出ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、この液体吐出ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。
【0011】
本明細書内で用いられる「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味する。
【0012】
図1(a)は、本発明に係る液体吐出ヘッドを搭載可能な液体吐出装置の一例を示す概略図である。図1(a)に示すように、リードスクリュー5004は、駆動モータ5013の正逆回転に連動して駆動力伝達ギア5011,5009を介して回転する。キャリッジHCはヘッドユニットを載置可能であり、リードスクリュー5004の螺旋溝5005に係合するピンを有しており、リードスクリュー5004が回転することによって矢印a,b方向にヘッドユニット40が往復移動することができる。
【0013】
紙押え板5002は、キャリッジHCの移動方向に亘って記録紙Pをプラテン5000に対して押圧する。フォトセンサ5007,5008は、キャリッジHCのレバー5006を検知領域で検知することによって、モータ5013の回転方向切り換え等を行うためのホームポジション検知素子である。ヘッドユニット40の前面を気密に覆うキャップ5022は、支持部材5016に支持されている。また、このキャップ5022内を吸引する吸引部材5015は、キャップ内開口5023を介してヘッドユニット40の吸引回復を行うことができる。クリーニングブレード5017およびこのクリーニングブレード5017を前後方向に移動可能にする部材5019は、本体支持板5018に支持されている。
【0014】
図1(b)は、液体吐出ヘッド41を備え、液体記録装置(吐出装置)に着脱可能なヘッドユニット40の斜視図である。液体吐出ヘッド41(以下、ヘッドとも称する)は、接続端子7と接続するフレキシブルフィルム配線基板43により、液体記録装置と接続し、電気的に導通するコンタクトパッド44に導通している。また、ヘッド41は、支持基板に接合されることでヘッドユニット40に支持されされている。ここでヘッドユニット40は、インクタンク42と一体化したヘッド41の一例を示しているが、インクタンクを分離できる分離型とすることも出来る。
【0015】
コンタクトパッド44が、液体記録装置と接続されることで、液体記録装置からヘッドへ、液体を吐出するためのデータ信号や、電圧が供給される。
【0016】
このような液体吐出ヘッドで吐出される「液体」は、記録動作に用いるインクのみならず、被記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、被記録媒体の加工、或いはインクまたは被記録媒体の処理に供される液体があげられる。近年このような液体は、被記録媒体への定着性向上、記録品位ないし発色性の向上、画像耐久性の向上のために、様々な分散材や溶剤が添加されて用いられている。添加される物質によっては、使用期間が長い場合、温度が高い環境に置かれた場合などには、液体吐出ヘッドの溶解されやすい材料であるシリコン化合物からなる絶縁層や蓄熱層を溶解することがある。シリコン化合物からなる絶縁層や蓄熱層が溶解し、電極層が露出すると液体と電極又は発熱抵抗層とが接し、電極層が腐食・溶出したり予定外の個所に電流が流れ、記録動作時に誤動作が起きたり液体吐出装置の回路等が影響を受ける可能性がある。特にCVD法などを用いて成膜されるシリコン化合物からなる層が、顕著に溶解することがわかっている。
【0017】
本発明は、液体に接すると流れる電流値が変化する溶解検出配線を電極よりもインクの流路に近い側に設けている。これによりシリコン材料層の溶解が進んだときに電極より先に溶解検出配線が流路に露出し、液体に接することになる。この溶解検出配線を液体吐出ヘッド41の接続端子7と接続し、接続端子間の電流値の変化を液体吐出装置等で検知することで、液体による絶縁層の溶解が電極層に到達する前に液体吐出ヘッドの使用を中止することができる。
【0018】
以下、このような溶解検出配線を設けた液体吐出ヘッドの具体的な構成について説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図2(a)は第1の実施形態における液体吐出ヘッド41の上面図の流路壁部材1310の壁46a、吐出口101、インク供給口102および接続端子7を模式的に示したものである。図2(b)は、図2(a)に示す液体吐出ヘッド41の溶解検出配線114とインク供給口102と、複数のエネルギー発生素子111を配列した素子列1101と、複数のスイッチング素子からなる駆動素子列1102を模式的に示している。
【0020】
液体吐出ヘッド41には、中央部に液体を供給するためにシリコンからなる基体を貫通して設けられたインク供給口102が設けられている。インク供給口102の長辺の両側には、インク供給口102に沿って複数のエネルギー発生素子111からなる素子列が設けられている。エネルギー発生素子111の対向する位置には吐出口101が設けられている。このような液体吐出ヘッド41は例えば基板幅Wd1=2mm、基板長Ld1=28mmで設けることができる。シリコン基体1300として、表面の結晶方位が(100)面のシリコン単結晶基板を用いることで、アルカリ液体(例えばTMAH溶液やKOH溶液)を用いた結晶異方性エッチングで供給口102を設けることができる。このような基体では、(111)面のエッチングレートが他の結晶面のエッチングレートに比べ非常に遅いためシリコン基板平面に対して約54.7度という角度をなす供給口102となる。この(111)面は、アルカリ溶液のみならず吐出に用いる液体に対しても耐性を有するため、シリコン化合物からなる絶縁層や蓄熱層に比べはるかに溶解されにくい面となっている。
【0021】
図2(b)の領域aを拡大した部分拡大図が図3(a)である。図3(a)のA−A’切断面図を示したものが図3(b)である。シリコンから成る基体1300の厚み方向に関して上には、基体1300を熱酸化させることで設けた熱酸化層1301と、その上にCVD法等を用いてシリコン化合物からなる第1の蓄熱層1303(例えばBPSG)が設けられている。その上にさらにCVD法等を用いてシリコン化合物からなる(例えばP−SiOなど)からなる第2の蓄熱層1305が設けられている。第2の蓄熱層1305の上には、電力を供給することで発熱する材料(例えばTaSiN等)からなる発熱抵抗層1306と、発熱抵抗層1306に接続するアルミなどの導電性材料(例えばAl−Cu)からなる一対の電極1307とが設けられている。第1の蓄熱層1303と第2の蓄熱層1305は、絶縁層としても用いられる。一対の電極1307の間の発熱抵抗層1306の部分が、エネルギー発生素子111として用いられる。
【0022】
発熱抵抗層1306と一対の電極は、液体による腐食を防止するためにCVD法等を用いてシリコン化合物からなる絶縁材料からなる絶縁層1308(例えばSiN等)で被覆されている。さらに絶縁層1308の上には、気泡が消泡する際に発生するキャビテーションの影響を低減するために、耐衝撃性および耐インク性に優れた保護層1309(耐キャビテーション層)が設けられている。保護層1309として用いられる材料としては、TaやIrやRuなどの耐火金属からなる金属材料や、炭素膜(DLC)あるいは炭化珪素膜(SiC)などの炭素材料を用いることが好ましい。このようにして液体吐出ヘッド用基板45が設けられている。
【0023】
一対の電極1307の一方(第1の電極1307a)は、インク供給口102の側で折り返されており、インク供給口102から遠ざかるようにインク供給口102の長辺の延長線に対して実質的に直交する方向に延長されている。さらに第1の電極1307aは、接続端子7に接続されVH配線として用いられる(不図示)。
【0024】
一対の電極の他方(第2の電極1307b)も、インク供給口から遠ざかるようにインク供給口102の長辺の延長線に対して実質的に直交する方向に延長されている。さらに電極の他方1307bは、第2の蓄熱層1305に設けられたスルーホール1304aを介してMOS−FET等からなるスイッチング素子1203(駆動素子)のドレイン電極に接続されている。
【0025】
図3(b)を用いてMOS構造のスイッチング素子1203を簡単に説明する。スイッチング素子1203は、シリコン基体1300に設けられたトランジスタ部1300aに、ポリシリコンからなるゲート電極1302と、ロジック電極1304(ソース電極とドレイン電極)と、が接続することで設けられている。ロジック電極1304は、第1の蓄熱層1303の上にアルミなどの導電材料(例えばAl−Si)で設けられており第2の蓄熱層1305で被覆されている。ロジック電極1304のドレイン電極1304aは、第2の蓄熱層1305のスルーホールを介して第2の電極1307bと接続されている。
【0026】
ドレイン電極1304aは、ゲート絶縁層として用いられる熱酸化層1301のスルーホールおよび第1の蓄熱層1303のスルーホールを介してトランジスタ部1300aに接続されている。ソース電極1304bの側は、第2の蓄熱層1305の上に設けられたGNDH配線等を介して接続端子7に接続されている(不図示)。このようなスイッチング素子1203(駆動素子)は、エネルギー発生素子111を駆動するか(ON/OFF)を決定するために用いられている。ONの状態のときに、ソース電極とドレイン電極との間に電流が流れエネルギー発生素子111が駆動される。
【0027】
液体吐出ヘッド用基板45の上には、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂の硬化物からなる流路壁部材1310が設けられている。流路壁部材1310は、エネルギー発生素子111の対向する位置に設けられた吐出口101と、吐出口101とインク供給口102とを連通する流路46の流路壁46aとを有して設けられており、液体吐出ヘッド用基板45に接することで流路を構成する。
【0028】
インク供給口102は、基体1300のエネルギー発生素子111が設けられた表面と裏面とを貫通して設けられており、インク供給口102から供給されたインクが流路46を介してエネルギー発生素子111へと運ばれる。接続端子7に接続されるVH配線とGNDH配線との間に電圧を印加することでエネルギー発生素子111が発熱し、流路内の液体が膜沸騰(発泡)する。これにより発生する気泡の圧力により吐出口101から液体を吐出されて記録動作が行われる。
【0029】
次に、このような液体吐出ヘッド用基板45に設けられた溶解検出配線114について説明する。図2(b)および図3(a)に示すように液体吐出ヘッド41の面に沿った方向に関してインク供給口102と複数のエネルギー発生素子111との間には、溶解検出配線114が設けられている。
【0030】
このような溶解検出配線114は、図3(b)に示すように第1の検出配線1314(他の配線)と、第2の検出配線1317(配線)と、で設けられている。第1の検出配線1314はロジック電極1304と同様に第1の蓄熱層1303の上に配置され、さらに第2の蓄熱層1305で被覆されて設けられている。第2の検出配線1317は、一対の電極1307と同様に第2の蓄熱層1305の上に配置され、さらに絶縁層1308で被覆されて設けられている。
【0031】
基体1300の面に垂直な方向に関して、絶縁層1308の上は、蓄熱層や絶縁層よりも液体に溶解されにくい材料からなる保護層1309が設けられている。保護層は、エネルギー発生素子111の保護層と同じ材料とすることができTaやIrやRuなどの耐火金属からなる金属材料や、炭素膜(DLC)あるいは炭化珪素膜(SiC)などで設けることができる。そのためシリコン化合物からなる材料で設けられている第1の蓄熱層1303、第2の蓄熱層1305、絶縁層1308が露出する部分はインク供給口102に近い領域46bとなっている。絶縁層1308の上は保護層1309で被覆されているためインクには溶解しにくく、インクが流路に充填されたときは領域46bから徐々に第1の蓄熱層1303、第2の蓄熱層1305および絶縁層1308の材料が溶出していくことになる。従ってロジック電極1304(他の電極)や一対の電極1307の周囲のシリコン化合物の層(第1の蓄熱層1303、第2の蓄熱層1305および絶縁層1308)が溶解する前に、溶解検出配線114の周囲のシリコン化合物の層が溶解することになる。
【0032】
第1の検出配線1314は、接続端子7aに接続されており、第2の検出配線1317は、接続端子7bに接続されている。インクで第1の蓄熱層1303又は第2の蓄熱層1305の溶解すると、インクはロジック電極1304に達する前に第1の検出配線1314に接触する。インクで第2の蓄熱層又は絶縁層1308の溶解が発生した場合、インクは一対の電極1307に達する前に、インクは第2の検出配線1317に接触する。溶解検出配線114に用いる材料は、インクに接することでリークすることが必要であるため、金属材料で設けることが好ましい。このように設けることにより、溶解検出配線114にインクが接触すると溶解検出配線114を流れる電流がリークし、接続端子7間に流れる電流値が変化することになる。
【0033】
予め測定しておいた基準電流に対して例えば1%以上の電流値変化が生じた場合に、シリコンを主成分とする材料からなる絶縁層や蓄熱層のインク溶解が発生したと判断することができる。以上のように検知することで、一対の電極1307やロジック電極1304が溶解・腐食する前に使用を中止することができる信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。このような検査は、例えば液体吐出装置本体の非印字中に1〜3V程度の電圧を接続端子7間に印加して行うことができ、定期的に行うことが好ましい。
【0034】
また、溶解検出配線114をインクに接することで酸化還元反応を起こし、腐食・溶解して抵抗値の変化が生じる金属材料を用いることにより、更に信頼性の高い検査を行うことのできる溶解検出配線114とすることができる。具体的にはAl,Cu,Auのいずれか、もしくはこれらの合金等があげられる。酸化還元反応を起こし、腐食・溶解して抵抗値の変化が生じる金属材料を用いることにより、インクと接触した箇所で溶解・腐食が発生するため、接続端子7の間の抵抗値が変化し、出力される電流値に変化が生じる。
【0035】
このように、インクに接することで酸化還元反応を起こす金属材料からなる第1の検出配線および第2の検出配線の電流値変化の一例を説明する。ロジック電極1304に用いられる電極材料のシート抵抗は約30mΩ/□、一対の電極1307に用いられる電極材料のシート抵抗は約60mΩ/□となるように設け、第1の検出配線および第2の検出配線を幅Ws1=6μmで設ける。この場合、図2(b)に示すように接続端子7aからインク供給口102を囲うように設けた第1の検出配線1314の接続端子7a間の抵抗は、約140Ωとなる。また、接続端子7aとは反対側の辺の液体吐出ヘッド41上に設けられた接続端子7bからインク供給口102を囲うように設けられた第2の検出配線1317の接続端子7b間の抵抗は約280Ωとなる。このような構成において、第1の検出配線1314や第2の検出配線1317の一部(縦200μm、横5.8μm)に腐食が発生すると、検出配線の抵抗は4%程度増加することになり、出力される電流値が変化する。従って、抵抗値変化およびリークの両方の影響で、接続端子7間に流れる電流値が大きく変化することになり、更に信頼性の高い検査とすることができる。
【0036】
保護層1309を金属材料で設けた場合には保護層1309に接続する接続端子7を設けて直接リーク電流を測定することでシリコンを主成分とする材料からなる絶縁層や蓄熱層のインク溶解が発生したと検知することもできる。溶解検出配線114が露出してインクに接すると、保護層1309の接続端子7と溶解検出配線114に接続する接続端子7との間に電流が流れるためである。また、スイッチング素子1203やAND回路等の回路を接地するために用いられるグランド配線は、シリコン基体1300を介してインク電位と同じ電位となる。そのため、グランド配線が接続される接続端子7と溶解検出配線114の接続端子7との間の電流を測定することでも、リーク電流を測定することができ、溶解を検知することができる。
【0037】
また、第1の検出配線1314をロジック電極1304と同じアルミなどの導電材料(例えばAl−Si)で設け、第2の検出配線1317を一対の電極1307と同じアルミなどの導電性材料(例えばAl−Cu)で設けることができる。このように第1の検出配線1314とロジック電極1304とを同じ材料とし、第2の検出配線1317と一対の電極1307とを同じ材料とすることにより、製造時にそれぞれ一括して形成することができ、製造工程を簡易にすることができる。
【0038】
なお、第1の蓄熱層1303と第2の蓄熱層1305との間、又は、第2の蓄熱層1305と絶縁層1308との間、の一方のみに検出配線を設けることもできる。しかし、両方に設けることにより、第1の蓄熱層1303、第2の蓄熱層1305、絶縁層1308のインクによる溶解速度が異なる場合であっても信頼性高く溶解を検知することができる。さらにその異常検知情報を液体吐出装置(プリンタ)本体側へ出力することでヘッド交換の適切な時期をユーザーに知らせることが可能となる。
【0039】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では第1の検出配線1314と第2の検出配線1317の夫々が一対の接続端子7と接続するように設けられているが、本実施例において一対の接続端子7のみで検知する構成を示す。それ以外の構成及び検査手法は第1の実施形態と同様である。
【0040】
図4は、本実施形態の液体吐出ヘッド41の溶解検出配線114とインク供給口102と、複数のエネルギー発生素子111を配列した素子列1101と、複数のスイッチング素子からなる駆動素子列1102を模式的に示している。
【0041】
第1の蓄熱層1305の上に設けられた第1の検出配線1314と、第2の蓄熱層1305の上に設けられた第2の検出配線1317と、が第2の蓄熱層1305のスルーホール1305aを介して接続されている。このように第1の検出配線1314と第2の検出配線1317とを接続して設けることで、接続端子7を一対(2つ)のみにすることができ、液体吐出ヘッド41の基板面積の削減を行うことができる。
【0042】
第1の蓄熱層1303又は第2の蓄熱層1305が溶解すると、インクはロジック電極1304に達する前に第1の検出配線1314に接触する。第2の蓄熱層又は絶縁層1308が溶解すると、インクは一対の電極1307に達する前に第2の検出配線1317に接触する。このように、溶解検出配線を設けて検査作業を行うことで、シリコン化合物の層の溶解を検知することができ、電極が溶解・腐食する前に使用を中止することができる信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0043】
インクに接することで酸化還元反応を起こす金属材料からなる第1の検出配線および第2の検出配線の電流値変化の一例を説明する。例えば、ロジック電極1304に用いられる電極材料のシート抵抗は約30mΩ/□、一対の電極1307に用いられる電極材料のシート抵抗は約60mΩ/□となるように設け、第1の検出配線および第2の検出配線を幅Ws2=6μmで設ける。このとき一対の接続端子7間の抵抗値は、約420Ωとなる。この場合も溶解検出配線114の一部に腐食が発生すると約4%の抵抗値が変化するため、第1の実施形態と同様に、抵抗値変化およびリークの両方の影響で、接続端子7間に流れる電流値が大きく変化することになり、更に信頼性の高い検査工程とすることができる。
【0044】
(第3の実施形態)
第2の実施形態とは別の接続端子7の数を削減させた溶解検出配線114の構成を示す。その他の構成及び検査手法については第1の実施形態と同様である。
【0045】
図5(a)は本実施形態の液体吐出ヘッド41の溶解検出配線114とインク供給口102と、複数のエネルギー発生素子111を配列した素子列1101と、複数のスイッチング素子からなる駆動素子列1102とを模式的に示している。図5(b)は、図5(a)の領域bを拡大した平面模式図である。図5(c)は、図5(b)のB−B’切断面図である。
【0046】
第1の検出配線1314と第2の検出配線1317とは、第2の蓄熱層1305に設けられた開口部1305bを介して接続されている。開口部1305bは、図5(a)に示す溶解検出配線114に沿って、インク供給口102を取り囲むように設けられている。
【0047】
第1の蓄熱層1303と第2の蓄熱層1305との間と、第2の蓄熱層1305と絶縁層1308との間と、に溶解検出配線114を設けている。これにより、インクによる溶解速度が異なる場合であっても電極が溶解・腐食する前に使用を中止することができる信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる
インクに接することで酸化還元反応を起こす第1の検出配線および第2の検出配線の電流値変化の一例を説明する。例えばロジック電極1304の電極材料のシート抵抗は約30mΩ/□、一対の電極1307の電極材料のシート抵抗は約60mΩ/□と設け、第1の検出配線および第2の検出配線の幅をWs3=6μm、開口部1305bの幅をWt3=2μmで設ける。このときの一対の接続端子7間の抵抗値は、約90Ωとなる。この場合も溶解検出配線114の一部に腐食が発生すると約4%の抵抗値が変化するため、第1の実施形態と同様に、抵抗値変化およびリークの両方の影響で、接続端子7間に流れる電流値が大きく変化することになり、更に信頼性の高い検査工程とすることができる。
【0048】
(第4の実施形態)
ここでは、第1の検出配線1314と第2の検出配線1317とが第2の蓄熱層1305を介して接続する別の構成について説明する。その他の構成及び検査手法については第1の実施形値と同様である。
【0049】
本実施形態における液体吐出ヘッド41の溶解検出配線114は、図6(a)に示すように一対の接続端子7に接続されて設けられている。図6(b)は、図6(a)に示すの領域cを拡大した平面模式図である。図6(c)は、図6(b)のC−C’切断面図である。
【0050】
溶解検出配線114は、ロジック電極1304と同様に第1の蓄熱層1303の上に設けられた複数の第1の検出配線1314と、一対の電極1307と同様に第2の蓄熱層1305の上に設けられた複数の第2の検出配線1317と、で設けられている。夫々の第1の検出配線1314と第2の検出配線1317とは、第2の蓄熱層1305のスルーホール1305aを介して接続されている。
【0051】
このように複数の第1の検出配線1314と複数の第2の検出配線1317とを交互に接続して溶解検出配線114を設けることで、接続端子7を2つにすることができ、液体吐出ヘッド41の基板面積の削減を行うことができる。
【0052】
第1の蓄熱層1303と第2の蓄熱層1305との間に位置する第1の検出配線1314と第2の蓄熱層1305と絶縁層1308との間に位置する第2の検出配線1317を設けている。これにより、第1の蓄熱層1303、第2の蓄熱層1305、絶縁層1308のインクによる溶解速度が異なる場合であっても電極が溶解・腐食する前に使用を中止することができる信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0053】
インクに接することで酸化還元反応を起こす金属材料からなる第1の検出配線および第2の検出配線の電流値変化の一例を説明する。例えば、ロジック電極1304に用いられる電極材料のシート抵抗は約30mΩ/□、一対の電極1307に用いられる電極材料のシート抵抗は約60mΩ/□となるように設け、第1の検出配線および第2の検出配線を幅Ws4=6μmで設ける。さらにスルーホール1305aの幅をWt4=Lt4=2μmで設けると、一対の接続端子7間の抵抗値は約210Ωとなる。この場合も溶解検出配線114の一部に腐食が発生すると約4%の抵抗値が変化するため、第1の実施形態と同様に、抵抗値変化およびリークの両方の影響で、接続端子7間に流れる電流値が大きく変化することになり、更に信頼性の高い検査工程とすることができる。
【0054】
(第5の実施形態)
第1の実施形態では、1つの長方形のインク供給口102に複数のエネルギー発生素子111が設けられている構成を示したが、本実施形態においては、1つのエネルギー発生素子111の周囲に矩形のインク供給口102が複数の設けられている構成を示す。以下、矩形のインク供給口102を用いて説明を行うが、円形や楕円形等様々な形状のインク供給口102でも同様である。円形や楕円形等の角部がない形状とした場合には、角部への応力集中をなくすことができ、基板強度を向上させることができる。エネルギー発生素子111部分の層構成及び検査手法は、第1の実施形態と同様である。
【0055】
図7(a)は、液体吐出ヘッド41の一例の上面図の流路壁部材1310の壁46a、吐出口101、インク供給口102からなる3列の供給口列1100および接続端子7を模式的に示したものである。例えば基板幅Wd=3mm、基板長Ld=28mmで設けることができる。
【0056】
図7(b)は、図7(a)に対応する液体吐出ヘッドの溶解検出配線114と、3列の供給口列1100と、複数のエネルギー発生素子111を配列した2列の素子列1101と、複数のスイッチング素子からなる駆動素子列1102と、を模式的に示したものである。供給口列1100は、複数のインク供給口102から設けられている。素子列1101は、供給口列1100の間に位置するように設けられている。液体吐出ヘッド用基板45のエネルギー発生素子111部分のシリコン化合物層や導電層等の層構成は第1の実施形態と同様に設けられている。溶解検出配線114は、一対の接続端子7に接続されて設けられている。
【0057】
図7(c)は、図7(a)のD−D’切断面図であり、液体吐出ヘッド用基板45と流路壁部材1310とを模式的に示している。個別に形成されたの複数のインク供給口102は、共通供給口103に連通して設けられている。インクタンクから供給されたインクは、共通供給口103から夫々のインク供給口102に送られ、流路46を通ってエネルギー発生素子111へと運ばれる。このようにシリコン基体1300に梁部1300bを設けることにより、液体吐出ヘッド41の基板強度を向上させることができる。さらに、梁部1300b上に電極1307を設けることで、基板面積を大きくすることなくエネルギー発生素子111をインク供給口102取り囲まれるように設けることができる。共通供給口103は、アルカリ溶液を用いた異方性エッチング法で形成することができ、さらにボッシュプロセスなどのドライエッチング法を用いて個別のインク供給口102を設けることができる。
【0058】
図8(a)、図7(b)の領域eを拡大したものである。エネルギー発生素子111には、一対の電極1307が接続して設けられている。一対の電極1307の一方の電極1307aは2本が接続され、隣接するインク供給口102の間の梁部1300bを通ってエネルギー発生素子111から遠ざかる側に延長して設けられている。さらに電極1307aは、液体吐出ヘッド41の端部に設けられた接続端子7にVH配線を介して接続される(不図示)。一対の電極1307の他方の電極1307bは、第2の蓄熱層1305に設けられたスルーホール1305aを介して第1の蓄熱層1303の上に設けられた電極1304(他の配線)に接続される。電極1304は、梁部1300bを通ってスイッチング素子1203のロジック配線(ドレイン電極)として接続されている。さらにスイッチング素子1203のソース電極の側は、第2の蓄熱層1305等の上に設けられたGNDH配線等を介して接続端子7に接続される(不図示)。隣接するインク供給口102の間のシリコンから成る基体1300の梁部1300bには、第2の蓄熱層1305の上に設けられた電極1307aと、第1の蓄熱層1303の上に設けられた電極1304とが設けられている。
【0059】
図8(a)において基体1300の面に垂直な方向に関して、エネルギー発生素子111の対向する位置には、吐出口101が位置するように設けられている。隣接するエネルギー発生素子111の間には、流路壁部材1310の流路壁46aが設けられており、インクは、吐出口101の隣接する複数のインク供給口102から線対称に供給される。このように設けられていることで、エネルギー発生素子111が発熱することで発生する気泡が流路46内部で線対称に成長して吐出されるため、液滴が着弾位置からよれたりすることを防止することができる。さらに両側からインクが供給されるため、高速で記録動作を行ってもインクが十分に供給され、安定した吐出を行うことができる。
【0060】
図8(b)は、図8(a)のシリコン基体1300の梁部1300bのE−E’切断面図である。シリコン基体1300上には、基体1300を熱酸化させて設けた熱酸化層1301が設けられており、その上にCVD法等を用いてシリコン化合物からなる第1の蓄熱層1303(例えばBPSG)が設けられている。第1の蓄熱層1303の上には、アルミなどの導電材料(例えばAl−Si)等からなる電極1304が設けられている。さらに、この電極1304を被覆するように第1の蓄熱層1303の上にCVD法等を用いてシリコン化合物からなる(例えばP−SiOなど)からなる第2の蓄熱層1305が設けられている。第2の蓄熱層1305の上にはアルミなどの導電材料(例えばAl−Cu)からなる電極1307aが設けられている。さらに、電極1307aを被覆するように、CVD法等を用いてシリコン化合物からなる絶縁材料からなる絶縁層1308(例えばSiN等)が設けられている。さらに、電極1307aおよび電極1304の上側に対応する絶縁層1308の上には、インクによる絶縁層1308の溶解を防止するために蓄熱層や絶縁層よりも液体に溶解されにくい材料からなる保護層1309が設けられている。保護層は、エネルギー発生素子111の保護層と同じ材料とすることができTaやIrやRuなどの耐火金属からなる金属材料や、炭素膜(DLC)あるいは炭化珪素膜(SiC)などで設けることができる。
【0061】
次に、このような液体吐出ヘッド用基板45に設けられた溶解検出配線114について説明する。第1の検出配線5314と第2の検出配線5317とで設けられている溶解検出配線114は、図8(a)に示すように各インク供給口102を取り囲むように、インク供給口102と電極1307aおよび電極1304との間に設けられている。
【0062】
インク供給口102の周囲において、溶解検出配線114は第1の検出配線5314と第2の検出配線5317とは積層した状態でインク供給口102を取り囲むように設けられている。
【0063】
第1の検出配線5314は、スイッチング素子1203に接続する電極1304と同様に第1の蓄熱層1303の上に設けられ、さらに第2の蓄熱層1305で被覆されている。第2の検出配線5317は、電極1307aと同様に第2の蓄熱層1305の上に配置され、絶縁層1308で被覆されて設けられている。
【0064】
さらに、第1の検出配線5314と第2の検出配線5317との上側にも、インクによる絶縁層1308の溶解を防止するために耐インク性に優れた保護層1309が設けられている。そのためシリコン化合物からなる材料で設けられている第1の蓄熱層1303、第2の蓄熱層1305、絶縁層1308が露出する部分はインク供給口102に近い領域46cとなっている。絶縁層1308の上は保護層1309で被覆されているためインクには溶解しにくいため、インクが流路に充填されたときは領域46cから徐々に、第1の蓄熱層1303、第2の蓄熱層1305および絶縁層1308の材料が溶出していくことになる。従って電極1304や電極1307aの周囲の第1の蓄熱層1303、第2の蓄熱層1305および絶縁層1308が溶解する前に、溶解検出配線114の周囲の第1の蓄熱層1303、第2の蓄熱層1305および絶縁層1308が溶解することになる。
【0065】
なお隣接するインク供給口102を接続する部分は、スイッチング素子1203の上側は第2の検出配線5317のみで設け、電極1307bが設けられている部分は第1の検出配線5314のみで設けられている。このような部分の第1の検出配線5314と第2の検出配線5317とが第2の蓄熱層1305に設けられたスルーホール1305aを介して接続されている。
【0066】
インクで第1の蓄熱層1303又は第2の蓄熱層1305が溶解すると、インクは電極1304に達する前に第1の検出配線5314に接触し、第2の蓄熱層又は絶縁層1308が溶解すると、インクは電極1307aに達する前に第2の検出配線5317に接触する。
【0067】
このように、溶解検出配線を設けて検査作業を行うことで、シリコン化合物の層の溶解を検知することができ、電極が溶解・腐食する前に使用を中止することができる信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0068】
また本実施例においても溶解検出配線114をインクに接することで酸化還元反応を起こし、腐食・溶解して抵抗値の変化が生じる金属材料を用いることにより、更に信頼性の高い溶解検出配線114とすることができる。具体的にはAl,Cu,Auのいずれか、もしくはこれらの合金等があげられる。酸化還元反応を起こし、腐食・溶解して抵抗値の変化が生じる金属材料を用いることにより、インクと接触した箇所で溶解・腐食が発生するため、接続端子7の間の抵抗値が変化し、出力される電流値に変化が生じる。
【0069】
さらに、第1の検出配線5314を電極1304と同じアルミなどの導電材料(例えばAl−Si)で設け、第2の検出配線5317を電極1307aと同じアルミなどの導電性材料(例えばAl−Cu)で設けることができる。このように第1の検出配線5314と電極1304とを同じ材料とし、第2の検出配線5317と電極1307aとを同じ材料とすることにより、製造時にそれぞれ一括して形成することができ、製造工程を簡易にすることができる。
【0070】
なお、第1の蓄熱層1303と第2の蓄熱層1305との間、又は、第2の蓄熱層1305と絶縁層1308との間、の一方のみに検出配線を設けることもできる。しかし、両方に設けることにより、第1の蓄熱層1303、第2の蓄熱層1305、絶縁層1308のインクによる溶解速度が異なる場合であっても信頼性高く溶解を検知することができる。
【0071】
さらに、第3の実施形態のように第1の検出配線5314と第2の検出配線5317とを第2の蓄熱層1305接続する開口部1305bも、インク供給口102の周りを取り囲むように設けることもできる(図8(c))。このように溶解検出配線114の断面積を大きくすることができ、接続端子7間の抵抗値を下げることができる。基準抵抗値が低減すれば、インクに接して腐食することで生じる抵抗値変化が顕著となるため、酸化還元反応を起こす金属材料で設ける構成において、より感度良く保護膜層や蓄熱層等のインク溶解を検知することができる。
【0072】
また、ドライエッチング法を用いて設けたインク供給口102の面は、面方位(111)ではないため、異方性エッチングで設けたインク供給口よりも液体に溶解されやすい。しかし、上記のように溶解検出配線114を設けることで、蓄熱層と絶縁層に加え基体1300が溶解したとしても検知することができる。さらに、基板の面積を小さくするとともに、液体の供給を十分に行う必要があるため、複数の供給口102を設ける形態においては、独立梁部1300bの幅すなわち電極と流路との間の幅が狭くなるため、電極と液体とが接する懸念が強いといえる。上記のように、溶解検出配線114を設けることで確実に検知することができ、信頼性の高い液体吐出ヘッドとすることができる。
【0073】
(第6の実施形態)
本実施形態は、第5の実施形態に係る液体吐出ヘッド41の梁部1300bに設けられた溶解検出配線114の別の構成を示す。エネルギー発生素子111部分の層構成及び検査手法は、第1の実施形態と同様に設けられており、複数のインク供給口列およびエネルギー発生素子111の配置は、第5の実施形態と同様に設けられている。
【0074】
図9(a)は、図7(b)の領域eを拡大したものである。図9(b)は、図9(a)のF−F’切断面図である。
【0075】
本実施例においてインク供給口102を取り囲む溶解検出配線114は、第1の検出配線5314のみの部分と、第2の検出配線5317の部分とが交互に接続して設けられている。すなわち第1の検出配線5314と第2の検出配線5317とが、第2の蓄熱層1305に設けられたスルーホール1305aで接続されている。
【0076】
インクで第1の蓄熱層1303又は第2の蓄熱層1305が溶解すると、インクは電極1304に達する前に第1の検出配線5314に接触し、第2の蓄熱層又は絶縁層1308が溶解すると、インクは電極1307aに達する前に第2の検出配線5317に接触する。このように、溶解検出配線を設けて検査作業を行うことで、シリコン化合物の層の溶解を検知することができ、電極が溶解・腐食する前に使用を中止することができる信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0077】
(第7の実施形態)
第5の実施形態及び第6の実施形態においては、梁部1300bにエネルギー発生素子111に電力を供給するための電極が2層で設けられている構成を説明したが、本実施形態においては、1層の構成の場合を説明する。エネルギー発生素子111付近の層構成及び検査手法は第1の実施形態と同様であるため省略する。以下、第5の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0078】
図10(a)は、複数のインク供給口102と複数のスイッチング素子1203からなる駆動素子列1102と接続端子7を示した液体吐出ヘッド41の模式図である。図10(b)は、図10(a)の領域fを拡大した図である。エネルギー発生素子111には、電力を供給する一対の電極1307が接続して設けられている。一対の電極1307の一方の電極1307aは2本が接続され、隣接するインク供給口102の間の梁部1300bを通ってエネルギー発生素子111から遠ざかる側に延長して設けられている。さらに電極1307aは、液体吐出ヘッド41の端部に設けられた接続端子7に、スイッチング素子1203の上側に設けられたVH配線3を介して接続されている。一対の電極1307の他方の電極1307bも隣接するインク供給口102の間の梁部1300bを通ってエネルギー発生素子111から遠ざかる側に延長して設けられており、スイッチング素子1203のロジック配線(ドレイン電極)として接続されている。さらにスイッチング素子1203のソース電極の側はGNDH配線4を介して接続端子7に接続される。
【0079】
図10(c)は、図10(b)のG−G’切断面図である。シリコン基体1300上には、基体1300を熱酸化させて設けた熱酸化層1301が設けられており、その上にCVD法等を用いてシリコン化合物からなる第1の蓄熱層1303(例えばBPSG)が設けられている。第1の蓄熱層1303の上には、CVD法等を用いてシリコン化合物からなる(例えばP−SiOなど)からなる第2の蓄熱層1305が設けられている。第2の蓄熱層1305の上にはアルミなどの導電材料(例えばAl−Cu)からなる一対の電極1307(第1の電極1307a、第2の電極1307b)が設けられている。さらに、一対の電極1307を被覆するように、CVD法等を用いてシリコン化合物からなる絶縁材料からなる絶縁層1308(例えばSiN等)が設けられている。さらに、電極1307の上側に対応する絶縁層1308の上には、インクによる絶縁層1308の溶解を防止するために蓄熱層や絶縁層よりも液体に溶解されにくい材料からなる保護層1309が設けられている。保護層は、エネルギー発生素子111の保護層と同じ材料とすることができTaやIrやRuなどの耐火金属からなる金属材料や、炭素膜(DLC)あるいは炭化珪素膜(SiC)などで設けることができる。
【0080】
次に、このような液体吐出ヘッド用基板45に設けられた溶解検出配線114について説明する。溶解検出配線114は、図10(b)に示すように各インク供給口102を取り囲むように、インク供給口102と一対の電極1307との間に設けられており、接続端子7と接続されている。図10(c)に示すように、溶解検出配線114は一対の電極1307と同様に第2の蓄熱層1305の上に設けられ、さらに絶縁層1308で被覆されて設けられている。
【0081】
溶解検出配線114の上側にも、インクによる絶縁層1308の溶解を防止するために耐インク性に優れた保護層1309が設けられている。そのためシリコン化合物からなる材料で設けられている第1の蓄熱層1303、第2の蓄熱層1305、絶縁層1308が露出する部分はインク供給口102に近い領域46cとなっている。絶縁層1308の上は保護層1309で被覆されているためインクには溶解しにくいため、インクが流路に充填されたときは領域46cから徐々に、第1の蓄熱層1303、第2の蓄熱層1305および絶縁層1308の材料が溶出していくことになる。従って電極1307を被覆する第2の蓄熱層1305および絶縁層1308が溶解する前に、溶解検出配線114の周囲の第2の蓄熱層1305および絶縁層1308が溶解することになる。これによりインクは電極1307aに達する前に溶解検出配線114に接触することになり、シリコン化合物の層の溶解を検知することができる。このように、溶解検出配線を設けて検査作業を行うことで、電極1307が溶解・腐食する前に使用を中止することができる信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0082】
(第8の実施形態)
第5の実施形態から第7の実施形態で説明したドライエッチング法を用いて複数のインク供給口102を設けた構成は、全てのインク供給口102を囲むように溶解検出配線114が設けられている。しかし、シリコン化合物からなる層のインク溶解は、局所的に発生するわけではなく、ある程度の領域で一様に発生する。そのため本実施形態に示すように複数のインク供給口102の一部分に溶解検出配線114を設けるのみでも、信頼性高く溶解を検知することができる。エネルギー発生素子111部分の層構成及び検査手法は第1の実施形態で説明したたものと同様であり省略する。また、溶解検出配線114の断面構成は第5の実施形態から第7の実施形態で説明したもののいずれを用いても良い。
【0083】
インク供給口102を形成に用いられるボッシュプロセス等のドライエッチング技術では、エッチングが斜めにずれるチルティングと呼ばれる現象がある。シリコン基体を加工するために用いられるアスペクト比の高い反応性イオンエッチング(深堀りエッチング)の手法の1つであるボッシュプロセスを例に説明する。
【0084】
ボッシュプロセスは、横方向のエッチングを抑制するために側壁に保護膜を設ける保護ステップと、ラジカルによるシリコン基体を等方性エッチングするエッチングステップと、に分かれる。エッチングステップでは、全面がマイナス電荷で帯電している状態でエッチングが行われる。そのため、加工部分の付近にマイナス電荷で帯電している面があると、イオンの進行方向が曲がりエッチング位置がずれる領域が生じてしまう(チルティング現象)。
【0085】
図11(a)は図10(a)の液体吐出ヘッド41のQ−Q’切断面図、図11(b)はP−P’切断面図である。インク供給口102は、共通供給口103をアルカリ溶液による異方性エッチングで設けた後に、ボッシュプロセスを用いて形成されるため、基体1300の壁面103aは約54.7度に傾斜した傾斜面となっている。図11(a)(b)に示すように、エッチングに用いられるイオンはマイナス電荷5で帯電した右側傾斜面と左側傾斜面から力を受けエッチング位置によっては軌道が曲げられてしまう。そのため、中央部のインク供給口102は垂直に形成されるが、傾斜面に近いインク供給口102は、いびつな形状となったり、所望の位置(設計位置)からずれるという現象が起きる。このような現象は、P−P’切断面方向(基板長手方向)で特に顕著に現れる。これは、P−P’切断面方向は対向する傾斜面の距離が長いため、傾斜面に近い領域では片側の傾斜面の力のみしか働かず、イオン6の軌道はより大きく曲げられてしまうためである。つまり、液体吐出ヘッド41の長手方向の端部近傍のインク供給口102の位置が最も設計位置からずれやすく、電極が露出しやすい位置であるといえる。従って、溶解検出配線114もインク供給口102(流路)に近い位置に設けられており、他の領域に比べて露出しやすい状態となっているといえる。
【0086】
従ってこの領域にのみ基板端部に溶解検出配線114を設けても、液体吐出ヘッド41全面の信頼性を確保することができる。なお、図10(a)の領域fを拡大した図11(c)に示すように、基板の端部近傍に加え、それ以外の部分にも適宜溶解検出配線を設けておくことでさらに液体吐出ヘッド41の信頼性を確保することができる。
【0087】
以上のように、溶解検出配線114を複数のインク供給口102のうちの一部にのみ設けることで基板面積の削減することができ、コストダウンを達成することができる。
【符号の説明】
【0088】
7 端子
41 液体吐出ヘッド
45 液体吐出ヘッド用基板
46 流路
102 インク供給口
111 エネルギー発生素子
114 溶解検出配線
1300 基体
1303 第1の蓄熱層
1305 第2の蓄熱層
1308 絶縁層
1309 保護層
1306 発熱抵抗層
1307 一対の電極
1310 流路壁部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を供給するために貫通して設けられた供給口を有する基体と、該基体の上に設けられたシリコン化合物からなる蓄熱層と、該蓄熱層の上に設けられ、電力を供給することで発熱する材料からなる発熱抵抗層と該発熱抵抗層に接続する一対の電極とからなる、液体を吐出口から吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子と、前記エネルギー発生素子を被覆するように設けられたシリコン化合物からなる絶縁層と、を有する液体吐出ヘッド用基板と、
前記吐出口と前記供給口とを連通する流路の壁を有し、前記液体吐出ヘッド用基板に接することで前記流路を構成する流路壁部材と、
を備える液体吐出ヘッドにおいて、
前記蓄熱層と前記絶縁層との間であって、前記一対の電極よりも前記流路に近い位置の少なくとも一部分に、金属材料からなり前記基体に設けられた端子に電気的に接続された配線が設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記配線の金属材料は、液体に接することで酸化還元反応を起こす材料であることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記配線の金属材料は、Al,Cu,Auのいずれか、もしくはこれらの合金であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記一対の電極の材料と、前記配線の金属材料とは、同じであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記配線の上側に対応する前記絶縁層の上には、前記蓄熱層および前記絶縁層よりも液体に溶解されにくい材料からなる保護層が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記保護層は、Ta、Ir、Ru、炭素膜(DLC)および炭化珪素膜(SiC)のいずれかからなることを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記蓄熱層および前記絶縁層は、CVD法を用いて形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記蓄熱層および前記絶縁層の少なくとも一方が溶出し、前記配線が流路に露出したときに、前記一対の端子間に流れる電流値が変化することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記蓄熱層は、基体の上に設けられた第1の蓄熱層と第1の蓄熱層の上に設けられた第2の蓄熱層とからなり、
前記第1の蓄熱層と前記第2の蓄熱層との間には、前記エネルギー発生素子を駆動するかを決定するための駆動素子と接続する他の電極が設けられており、
前記第1の蓄熱層と前記第2の蓄熱層との間であって、前記他の電極より前記流路に近い位置の少なくとも一部分に、金属材料からなり前記基体の上に設けられた一対の端子に電気的に接続された他の配線が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記配線と前記他の配線とは、前記第2の蓄熱層に設けられたスルーホールを介して接続されていることを特徴とする請求項9に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記他の配線の金属材料は、液体に接することで酸化還元反応を起こす材料であることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記他の配線の金属材料は、Al,Cu,Auのいずれか、もしくはこれらの合金であることを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
前記他の電極の材料と、前記他の配線の前記金属材料とは、同じであることを特徴とする請求項9乃至請求項12のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項14】
前記他の配線の上側に対応する前記絶縁層の上には、前記蓄熱層および前記絶縁層よりも液体に溶解されにくい材料からなる保護層が設けられていることを特徴とする請求項9乃至請求項13のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項15】
前記基体は、複数の前記供給口を配列して設けられた供給口列を複数、有しており、
前記供給口列の間には、複数の前記エネルギー発生素子を配置してなる素子列が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項14のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項16】
液体を供給するために貫通して設けられた供給口を有する基体と、
該基体の上に設けられたシリコン化合物からなる蓄熱層と、
該蓄熱層の上に設けられ、電力を供給することで発熱する材料からなる発熱抵抗層と該発熱抵抗層に接続する一対の電極とからなる液体を吐出口から吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子と、
前記エネルギー発生素子を被覆するように設けられたシリコン化合物からなる絶縁層と、
前記蓄熱層と前記絶縁層との間であって、前記一対の電極よりも前記供給口に近い位置の少なくとも一部分に、金属材料からなり前記基体に設けられた一対の端子に電気的に接続された配線と、
を有することとを特徴とする液体吐出ヘッド用基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−921(P2012−921A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139956(P2010−139956)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】