説明

液体吐出ヘッド用基板の製造方法、液体吐出ヘッドの製造方法および液体吐出ヘッドアセンブリの製造方法

【課題】エッチングマスク層の形成及び剥離工程が少なく製造負荷が抑えられた液体吐出ヘッド用基板の製造方法を提供すること。
【解決手段】第一の平面と第二の平面とを有するシリコン基板に該基板を貫通する液体供給口を形成する液体吐出ヘッド用基板の製造方法であり該液体供給口が明細書中に定義する第一部分と複数の第二部分とを含み該第二の平面に該複数の第二部分に対応した形状の開口を有するエッチングマスク層を形成する工程と該第二の平面側から該マスク層の開口を通じて該第一部分となる凹部を形成する工程と該第二の平面側から該マスク層を用いて該複数の第二部分を形成し該液体供給口を形成する工程とを含む液体吐出ヘッド用基板の製造方法。液体吐出ヘッドの製造方法。液体吐出ヘッドアセンブリの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド用基板の製造方法、液体を液体吐出口から吐出する液体吐出ヘッドの製造方法、および液体吐出ヘッドアセンブリの製造方法、好ましくはインクジェット記録ヘッド用基板の製造方法、インクジェット記録ヘッドの製造方法およびインクジェット記録ヘッドアセンブリの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インク供給口を有するインクジェット記録ヘッド用基板と、インク流路およびインク吐出口を有する流路壁部材とを含むインクジェット記録ヘッドとしては、一般的に以下の構成のものが知られている。すなわち、インク供給口が共通インク供給口と、その共通インク供給口およびインク流路に連通される独立インク供給口とからなり、独立インク供給口が、基板のインク流路が形成された面に対して、垂直に形成されるインクジェット記録ヘッドが知られている。このようなインクジェット記録ヘッドにおいて、高精細で高品位の画像を得るための一つの手段として、特許文献1および特許文献2に開示された方法が挙げられる。
【0003】
特許文献1に示されるインクジェット記録ヘッドは、インク吐出エネルギー発生素子を備えた基板上に複数のインク流路及び複数のインク吐出口が設けられている。また、1つのインク吐出口に対して、対称的に連通するインク流路が配され、かつ、各々のインク流路は、そのインク流路と垂直な方向に独立インク供給口と連通し、独立インク供給口は、一つの共通インク供給口に連通することを特徴としている。吐出口に連通する流路が、対称的に配置されており、かつ、流路と独立供給口とが垂直に連通することで、インク吐出圧力発生素子で発生した気泡が、左右均等に成長する。これにより、オリフィス表面から飛翔するインク液滴の方向を安定的に垂直に保つことができ、良好な印字品位を達成するインクジェット記録ヘッドを提供することが可能となる。
【0004】
また、特許文献1および特許文献2では、基板裏面に共通インク供給口を形成するためのエッチングマスク層を形成し、そのエッチングマスク層を用いて、共通インク供給口を形成する。その後、そのエッチングマスク層を一度除去した後に、共通インク供給口部分に新たにエッチングマスク層を形成し、そのエッチングマスク層を用いて独立インク供給口を形成することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−137155号公報
【特許文献2】特開2003−053979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2では、共通インク供給口と独立インク供給口とを異なるエッチングマスク層を用いて形成している。このため、エッチングマスク層の形成および剥離工程が多くなる傾向があり、より工程数を少なくすることが求められている。
【0007】
この点は、インクジェット記録ヘッドだけでなく、その他の液体吐出ヘッドについても同様である。なお、インクジェット記録ヘッドにおけるインク供給口、共通インク供給口および独立インク供給口は、それぞれ液体吐出ヘッドにおける液体供給口、液体供給口の第一部分および第二部分に対応している。
【0008】
このため、本発明の目的は、エッチングマスク層の形成および剥離工程が少なく、製造負荷が抑えられた液体吐出ヘッド用基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
対向する第一の平面と第二の平面とを有するシリコン基板に、前記第二の平面に開口を有し前記第一の平面と前記第二の平面との間に底部を有する凹部である第一部分と、前記第一部分の底部から前記第一の平面まで貫通する貫通孔である複数の第二部分とを有する液体供給口を形成する液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、
前記基板の第二の平面に、前記複数の第二部分に対応した形状の開口を有するエッチングマスク層を形成する工程と、
前記基板の第二の平面側から、前記エッチングマスク層の前記開口を通じて前記基板をエッチングして前記第一部分となる凹部を形成する工程と、
前記基板の第二の平面側から、前記エッチングマスク層をマスクとして用いて前記第一部分の底部から前記第一の平面までの部分をエッチングすることにより、前記複数の第二部分を形成し、前記基板を貫通する液体供給口を形成する工程と、
を含むことを特徴とする液体吐出ヘッド用基板の製造方法である。
【0010】
また、本発明は、前記液体吐出ヘッド用基板の製造方法により得られた液体吐出ヘッド用基板と、液体を吐出するための液体吐出口を備えた部材と、を有する液体吐出ヘッドを用意する工程と、
吐出される液体を前記液体吐出ヘッド用基板に供給するための経路を有する、前記基板を支持するための支持部材と、前記基板と、の間に前記エッチングマスク層が位置し、かつ前記エッチングマスク層の前記開口と前記経路とが連通するように、前記液体吐出ヘッド用基板と前記支持部材とを接合する工程と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッドアセンブリの製造方法である。
【0011】
さらに、本発明は、対向する第一の平面と第二の平面とを有するシリコン基板に、前記第二の平面に開口を有し前記第一の平面と前記第二の平面との間に底部を有する凹部である第一部分と、前記第一部分の底部から前記第一の平面まで貫通する貫通孔である複数の第二部分とを有する液体供給口を形成する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記基板の第一の平面に、溶解可能な樹脂層にて液体流路パターンを形成する工程と、
前記溶解可能な樹脂層上に被覆樹脂層を形成する工程と
前記被覆樹脂層を露光および現像することによって、液体吐出口パターンを形成する工程と、
前記液体吐出口の内部と前記被覆樹脂層全体とを保護する保護膜を塗布する工程と
前記基板の第二の平面に、前記複数の第二部分に対応した形状の開口を有するエッチングマスク層を形成する工程と、
前記基板の第二の平面側から、前記エッチングマスク層の前記開口を通じて前記基板をエッチングして前記第一部分となる凹部を形成する工程と、
前記基板の第二の平面側から、前記エッチングマスク層をマスクとして用いて前記第一部分の底部から前記第一の平面までの部分をエッチングすることにより、前記複数の第二部分を形成し、前記基板を貫通する液体供給口を形成する工程と、
前記溶解可能な樹脂層を溶解および除去する工程と、
前記被覆樹脂層を熱硬化させる工程と、
を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
以上の構成によれば、エッチングマスク層の形成および剥離工程が少なく、製造負荷が抑えられた液体吐出ヘッド用基板の製造方法、液体吐出ヘッドの製造方法および液体吐出ヘッドアセンブリの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1を説明するための模式的断面図である。
【図2】実施例2を説明するための模式的断面図である。
【図3】実施例3を説明するための模式的断面図である。
【図4】実施例1を説明するための斜視図である。
【図5】実施例により製造された液体吐出ヘッドを説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明はシリコン基板を貫通する液体供給口を形成する液体吐出ヘッド用基板の製造方法、液体吐出ヘッドの製造方法および液体吐出ヘッドアセンブリの製造方法である。また、以下の説明では、本発明の適用例として、インクジェット記録ヘッドを例に挙げて説明を行う場合があるが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。本発明の製造方法は、バイオチップ作製や電子回路印刷用途の液体吐出ヘッドにも適用することができる。なお、液体吐出ヘッドとしては、インクジェット記録ヘッドの他にも、例えばカラーフィルター製造用ヘッド等が挙げられる。
【0015】
まず、本発明により製造される液体吐出ヘッドについて説明する。図5は本発明の実施例により製造される液体吐出ヘッドの一例を示す模式的斜視図である。液体吐出ヘッド200は、液体吐出ヘッド用基板100と、液体を吐出するための液体吐出口を備えた部材である流路壁部材101とを備えている。液体吐出ヘッド用基板は、シリコン基板を用いて形成し、このシリコン基板は、対向する第一の平面600と第二の平面700とを有する。流路壁部材101は、この第一の平面600上(図5では第一の平面の紙面下方)に設けられる。
【0016】
液体吐出ヘッド用基板100は、表面に液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する液体吐出エネルギー発生素子11と、基板を貫通する貫通孔であり、液体吐出エネルギー発生素子11に液体を供給するための液体供給口300と、を備えることができる。また、液体吐出ヘッド用基板は、図5に示すように後述する液体供給口の第二部分に対応した形状の開口30を有するエッチングマスク層13を除去せずに、第二の平面に残した状態でも良いし、液体供給口を形成した後に、エッチングマスク層を除去しても良い。液体吐出ヘッド用基板の液体供給口が、第二部分を複数有する場合は、エッチングマスク層には、前記複数の第二部分に対応した形状の開口が形成される。
【0017】
流路壁部材101は、液体吐出口500、および、供給口300と液体吐出口500と連通する流路、すなわち液体流路400を備えている。液体吐出口は1つの液体流路に対して複数設けることができ、流路壁部材101は、連通する1つ以上の液体吐出口500、および液体流路400からなるノズル列を複数有することもできる。液体供給口300は、第一部分19と第二部分20とを含む。第一部分は、第二の平面に開口を有し、第一の平面と第二の平面との間に底部800を有する凹部である。第二部分は、第一部分19の底部800から第一の平面600まで貫通する貫通孔である。図5では、供給口300は基板裏面(第二の平面)側に共通部分である第一部分19と、第一部分から分岐して、それぞれ独立して基板表面(第一の平面)側に通じる複数の第二部分20とを有している。
【0018】
本発明の液体吐出ヘッドの製造方法における各工程の順序は、本発明の効果を得られる範囲で、必要に応じて入れ替えることができる。
例えば、第二部分に対応した形状の開口30を有するエッチングマスク層は、HIMAL(商品名、日立化成社製)に、後に独立供給口(第二部分)のパターンとなるようにパターニングを行うことにより形成することができる。また、エッチングマスク層には、HIMAL以外の材料、酸化膜や窒化膜の無機膜をCVD装置で成膜し、感光性材料でパターニング後、無機膜を除去することで形成したものを用いても良い。
【0019】
なお、加工精度の観点から、液体供給口の第一部分は、レーザー加工技術、異方性エッチングおよびドライエッチングからなる群から選ばれる1つ、または2つ以上を組み合わせた方法で形成することが好ましい。より具体的には、レーザー加工とシリコンの結晶異方性エッチングの組み合わせが好ましい。なお、この組み合わせの場合には、まずレーザー加工を行うのが好ましい。レーザー加工において、図1(f)に示すような未貫通穴18をエッチングマスクパターンの内側、即ちシリコン基板10の内部に形成する際の、未貫通穴の第二の平面からの深さは、100μm以上600μm以下が好ましく、より好ましくは500μm以上600μm以下である。
【0020】
液体供給口の第二部分の形成方法としては、例えば、ガスクラスタを用いたSi加工方法およびリアクティブイオンエッチングを用いたSi加工方法を挙げることができる。他にも方法があるが、加工タクト、マスクとの選択比、後に述べる液体供給口の第二部分の凹凸の影響をうけにくいということの観点から、ガスクラスタを用いる加工技術を用いることが好ましい。
【0021】
ガスクラスタエッチングの条件は適宜設定することができるが、以下の条件とすることが好ましい。即ち、ClF3(三フッ化塩素)と、Arとの混合ガスを用いて、ガス流量を50sccm以上1000sccm以下、ガス圧力としては、0.1Pa以上、50Pa以下の間で行うことが好ましい。また、シリコンのエッチングレートが40μm/min程度であるため、エッチング時間としては2分以上10分以下の間で行うことが好ましい。なお、流量単位sccmは、0℃、101.3kPaにおける流量(ml/min)を意味する。
【0022】
以下、ガスクラスタを用いる加工技術に関して、詳細に説明する。
ガスクラスタとは、数百万から数千万個の分子の集合体のことである。ガスクラスタは、高圧の反応性ガスをノズルから低圧の真空チャンバ内に放出させ、気圧差によって反応性ガスの温度を急速に冷えさせ、分子を寄り固まらせることにより形成される。ガスクラスタは、低速で基板に衝突しても高エネルギーを得られるため、シリコンが容易にエッチングされる。このため、基板を加工する際には、ガスクラスタを吹き付けるだけのシンプルなプロセスで済む。
【0023】
またガスクラスタのノズルと被エッチング物(シリコン基板)の間に遮断機(コリメータ)を用いることで、直進性の高いガスクラスタのみを選択的に使用することができる。このため、エッチングマスク層と被エッチング物(シリコン基板)とが離れていても、容易にシリコンをエッチングすることが可能となる。
【0024】
ガスクラスタがシリコン基板に衝突した時のエネルギーは、ガスクラスタの持つ運動エネルギーが熱エネルギーに変換されたものである。この熱エネルギーがエッチング反応を促進させる。これによって、高速シリコンエッチングが可能になる。
【0025】
本発明に用いるエッチングマスク層としては、レジストマスクや酸化珪素膜、窒化珪素膜などの無機膜、金属膜、非感光性樹脂材料層および感光性樹脂材料層のいずれかを使用することが可能である。一般的にこれらのエッチングマスク層を用いた場合の選択比は2000程度である。なお、非感光性樹脂材料層としては、HIMAL(商品名、日立化成社製)を用いることができ、感光性樹脂材料層としては、ノボラック系ポジレジスト(例えばOFPR(商品名、東京応化製))を用いることができる。また、金属膜としては、Al、Au、Taを用いることができる。ガスクラスタに使用するガスとしてはClF3(三フッ化塩素)、Arの混合ガスを用いることができる。上述したように、一般的に、シリコンのエッチングレートは40μm/min程度である。
【0026】
液体供給口の第二部分を貫通した際に基板の第一平面側にガスクラスタエッチングのストップ層を設けることもでき、そのストップ層は、Al、もしくは酸化膜、窒化膜とすることが好ましい。これらの層を用いた場合の選択比は2000であるため容易にエッチングをストップすることが可能である。この基板の第一平面に存在するストップ層の除去は、公知の方法によることができ、例えば、ストップ層がAlからなる場合、りん酸、硝酸、および酢酸の混合液を用いて除去することができる。
【0027】
上述しように、別の独立インク供給口形成手段として、リアクティブイオンエッチングを挙げることができる。リアクティブイオンエッチングは加速したイオンによりエッチングを行い、その装置はイオンを生成するプラズマ源とエッチングする反応室とが分かれている。例えば、イオン源に高密度のイオンを出せるICP(誘導結合プラズマ)ドライエッチング装置を用いた場合、コーティングとエッチングを交互に行うこと(すなわち堆積/エッチングプロセス)によって基板に垂直な液体供給口が形成される。堆積/エッチングプロセスでは、エッチングするガスとして例えばSF6ガスを用いることができ、コーティングガスとして例えばC48ガスを用いることができる。本発明においては、ICPプラズマ装置を用いたドライエッチングにより液体供給口を形成することが好ましいが、他の方式のプラズマソースを有するドライエッチング装置を用いても構わない。例えば、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオン源を有する装置を用いることもできる。
【0028】
さらに、リアクティブイオンエッチングを用いた加工技術に関して説明する。リアクティブイオンエッチングは、エッチングに用いるマスクが被エッチング物(シリコン基板)と離れて存在している。このため、リアクティブイオンエッチングを用いる場合は、イオンの直進性を高めるために高真空にし、イオンの平均自由工程を大きくした条件でエッチングを行うことが好ましい。プラズマを用いた加工方法であっても、マスクと被エッチング物とが離れて存在し、かつイオンの直進性を高めるために高真空にした条件でエッチングした場合、共通インク供給口(第一供給口部分)の凹凸の影響を受けにくい。このため、より垂直性の高い独立インク供給口の形成が可能となる。リアクティブエッチングの加工条件として、真空度は、ガス圧力(絶対圧)を0.1Pa以上、50Pa以下にすることが好ましい。この範囲に制御することにより、垂直性の高いエッチングが容易に可能となる。より具体的には、リアクティブイオンエッチングの条件としては、SF6ガス流量を50sccm以上1000sccm以下、C48の流量を50sccm以上1000sccm以下、ガス圧力を0.1Pa以上50Pa以下の間で行うことが好ましい。特にガス圧を高真空である、0.5Pa以上5Pa以下の間で行うことが好ましい。後述する実施例1では、ガスクラスタエッチングを用いて第二部分の形成を行ったが、リアクティブイオンエッチングで加工を行う場合には、SF6ガス流量を100sccm、C48ガス流量を100sccm、ガス圧力を1Paで行うのが好ましい。
【0029】
ガスクラスタのときと同様、リアクティブイオンエッチングにより第二部分を形成する際には、基板を貫通した先の基板の第一の平面にストップ層を設けることができ、そのストップ層には、Al膜、酸化膜、窒化膜を用いることもできる。これらの層の選択比は、50から200程度であるため、リアクティブイオンエッチングのストップ層として用いることができる。後に行うストップ層の除去は、公知の方法によることができ、例えば、ストップ層がAlからなる場合、りん酸、硝酸、および酢酸の混合液を用いて除去することができる。
【0030】
また、図3(f)に示すような、液体吐出ヘッド200と、基板を支持するための支持部材71とを備える液体吐出ヘッドアセンブリ1000は、以下の工程を含む製造方法により得ることができる。なお、液体吐出ヘッド200は、液体吐出ヘッド用基板と、液体吐出口を備えた部材である流路壁部材101とを有する。また、前記支持部材71は、吐出される液体を液体吐出ヘッド用基板に供給するための経路72を有する。即ち、液体吐出ヘッド200を用意する工程と、支持部材と基板との間にエッチングマスク層13が位置し、かつエッチングマスク層の開口30と経路72とが連通するように、液体吐出ヘッド用基板と支持部材とを接合する工程を含む製造方法である。
【実施例】
【0031】
〔実施例1〕
図1(a)から(j)に示す液体供給口、液体流路および液体吐出口形成のプロセスフローに基づき、液体吐出ヘッドを作製した。なお、実施例1により製造される液体吐出ヘッドは、第一部分および複数の第二部分を含む液体供給口と、第一の平面上に、この液体供給口に連通する液体流路と、この液体流路に連通する、液体を吐出するための液体吐出口とを有する。以下に詳細に説明する。なお、図4(a)から(e)は図1のプロセスフローの斜視図であり、図1(e)から(h)の斜視図が図4(a)から(d)に対応し、図1(j)が図4(e)に対応する。なお、図4では、ポジ型レジスト層14および保護層17は記載していない。
【0032】
まず、基板の第二の平面に、液体供給口の複数の第二部分に対応した形状の開口を有するエッチングマスク層を形成し、第一の平面に、除去可能な樹脂層にて液体流路パターンを形成した。溶解可能な樹脂層は後工程において溶媒等で除去可能な化合物であれば特に限定されず、除去に使用される溶媒、方法も特に限定されない。フォトリソ工程を使用できるためポジ型感光性樹脂が好適に用いられる。
具体的には、図1(a)に示すように、シリコン基板10の表面(第一の平面)側に、液体吐出エネルギー発生素子11および密着向上層12を設けた。なお、密着向上層12としては、HIMAL(商品名、日立化成社製)を用い、フォトリソグラフィプロセスでパターンを形成した。また、基板10の裏面(第二の平面)側には、パターニングして形成した開口部30を有するエッチングマスク層13を設けた。開口部を有するエッチングマスク層は、密着向上層と同じ材料層であるHIMAL(日立化成社製)に、後に独立供給口(第二部分)のパターンとなるようにパターニングを行い、形成した。
【0033】
ついで、図1(b)に示すように、前記基板10上に、溶解可能な樹脂層としてポジ型レジスト層14を形成した。
【0034】
次に、この溶解可能な樹脂層上に液流路の壁となるための被覆樹脂層を形成し、この被覆樹脂層を露光および現像することによって、液体吐出口パターンを形成した。具体的には、図1(c)に示すように、前記ポジ型レジスト層14を覆うように液流路構造体材料15を塗布し、被覆樹脂層とした。液流路構造体材料には、無機材料、有機材料ともに使用可能である。フォトリソグラフィーにより液体吐出口を形成可能であるという点で、ネガ型感光性樹脂を使用することが好適であり、その中でも、感度、硬化物の機械的強度の点でエポキシ樹脂と光カチオン重合開始剤とを含む組成物が好適である。
【0035】
さらに、図1(d)に示すように、液流路構造体材料層を露光および現像し、液体吐出口である吐出孔16を形成した。
【0036】
次に、液体吐出口の内部と、被覆樹脂層全体とを保護する保護膜を塗布した。具体的には、図1(e)に示すように、前記液流路構造体材料層上に、液体吐出口の内部と前記材料層全体とをアルカリ溶液から保護する為に液流路構造体保護膜17を塗布した。保護膜としては、環化イソプレンを用いた。この材料は東京応化工業社よりOBCの名称で上市される材料を用いた。環化イソプレンに限らず、ゴム系の樹脂等アルカリ溶液に耐性がある樹脂であれば保護膜に適用可能である。
【0037】
その後、基板の第二の平面側から、前記エッチングマスク層の開口を通じて基板をエッチングして液体供給口の第一部分となる凹部を形成した。具体的には、図1(f)に示すように、まず、第二の平面側から、レーザー加工技術により未貫通穴18を図1(a)で形成したエッチングマスクパターンの内側に形成した。なお、未貫通穴の第二の平面からの深さは200μmであった。
【0038】
その後、その未貫通穴18にテトラメチルアンモニウムハイドライド(TMAH)を浸漬し、第一部分であるインク供給のための共通インク供給口19を形成した(図1(g))。このように、共通インク供給口19を、レーザー加工技術とウェットエッチングとを組み合わせた方法にて形成した。
【0039】
次に、第二の平面側から、同一のエッチングマスク層をマスクとして用いて第一部分の底部から第一の平面までの部分をエッチングすることにより、前記複数の第二部分を形成し、基板を貫通する液体供給口を形成した。なお、同一のエッチングマスク層とは、液体供給口の第一部分の形成に用いたエッチングマスク層を指し、このエッチングマスク層をそのまま用いて第二部分を形成する。具体的には、図1(h)に示すように、基板裏面に形成したエッチングマスク層13を用いて、ガスクラスタエッチングを用いて独立インク供給口20を形成した。ガスクラスタエッチングの条件としては、ClF3(三フッ化塩素)と、Arとの混合ガスを用いて、ガス流量500sccm、ガス圧10Paで行い、エッチング時間は5分で行った。なお、実施例1では、エッチングストップ層として、アルミニウムを用いた。このエッチングストップ層は、実施例1の図面(図1および4)には記載していない。
【0040】
次に図1(i)に示すように、前記シリコン基板から液流路構造体保護膜17(OBC)をキシレンを用いて除去した。
最後に、溶解可能な樹脂層を溶解および除去し、エッチングマスク層を除去し、被覆樹脂層を熱硬化させた。具体的には、図1(j)に示すように、ポジ型レジスト層14を除去し、裏面のエッチングマスク層13を除去し、液流路を形成し、被覆性樹脂層の熱硬化を行い、インクジェット記録ヘッドを得た。エッチングマスク層13の除去方法としては、エッチングマスク層がポジレジストであるため、一般的なレジスト剥離液(1112A:商品名、ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製)を用いて、剥離を行った。
【0041】
〔実施例2〕
本発明の実施例2について、図2(a)から(d)のプロセスフローを参照して説明する。
【0042】
まず、実施例1と同様にして、図2(a)、すなわち図1(e)に示す基板を作製した。続いて、実施例2では、第一部分である共通インク供給口19を形成する際に、以下の点を実施例1と変更した。すなわち、レーザー加工(図1(f))後に、TMAHによる異方性エッチングを行う代わりに、フッ化キセノンガス(XeF2)を用いた等方性ドライエッチングを行った。XeF2ガスはシリコンを等方的にエッチングするガスであり、図2(b)に示すように、エッチングマスク開口部から等方的にエッチングが進行した。
【0043】
その後、図2(c)に示すように、エッチングマスク層13を用いて、実施例1と同様の条件でガスクラスタエッチングを行い、第二部分である独立供給口20を形成した。
その後、実施例1と同様にして、前記シリコン基板から液流路構造体保護膜17(OBC)をキシレンを用いて除去した。最後に、ポジ型レジスト層14を除去し、裏面のエッチングマスク層13を除去し、液流路を形成し、被覆性樹脂層の熱硬化を行い、図2(d)に示すインクジェット記録ヘッドを得た。なお、エッチングマスク層13の除去は、レジスト剥離液(1112A:商品名、ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製)を用いて行った。
【0044】
〔実施例3〕
本発明の実施例3について図3(a)から(e)のプロセスフローを参照して説明する。また、図5は、実施例3により製造されるインクジェット記録ヘッドの斜視図である。
【0045】
実施例3では、実施例1および実施例2と異なり、基板裏面に形成するエッチングマスク層13を独立供給口形成後に除去しなかった。つまり、図1(j)および図2(d)の段階でエッチングマスク層を除去せず基板に残した。そうすることで、エッチングマスク層13が、液体中のゴミをトラップするフィルターの役割を果たすことが可能である。それ以外は、実施例1と同様にして、図3(e)に示すエッチングマスク層を有するインクジェット記録ヘッドを得た。さらに図3(f)に示すように、液体をヘッド200に供給するための液経路72を備えたアルミナ支持部材71に、液経路72が開口30と連通するようにヘッド200を接合した。以上によりインクジェット記録ヘッドアセンブリ1000を得た。
【0046】
以上、本発明では、液体流路パターンおよび液体吐出口パターンが形成された面と反対側の面にエッチングマスクパターンを形成し、同一のエッチングマスク層で共通インク供給口および独立インク供給口を形成するため、工程数を削減することができる。
【符号の説明】
【0047】
10 シリコン基板
11 液体吐出エネルギー発生素子
12 密着向上層
13 エッチングマスク層
14 ポジ型レジスト層
15 液流路構造体材料
16 吐出孔
17 液流路構造体保護膜
18 未貫通穴
19 共通インク供給口(第一部分)
20 独立インク供給口(第二部分)
30 開口
100 液体吐出ヘッド用基板
101 流路壁部材
200 液体吐出ヘッド
300 液体供給口
400 液体流路
500 液体吐出口
600 第一の平面
700 第二の平面
800 底部
1000 液体吐出ヘッドアセンブリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する第一の平面と第二の平面とを有するシリコン基板に、前記第二の平面に開口を有し前記第一の平面と前記第二の平面との間に底部を有する凹部である第一部分と、前記第一部分の底部から前記第一の平面まで貫通する貫通孔である複数の第二部分とを有する液体供給口を形成する液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、
前記基板の第二の平面に、前記複数の第二部分に対応した形状の開口を有するエッチングマスク層を形成する工程と、
前記基板の第二の平面側から、前記エッチングマスク層の前記開口を通じて前記基板をエッチングして前記第一部分となる凹部を形成する工程と、
前記基板の第二の平面側から、前記エッチングマスク層をマスクとして用いて前記第一部分の底部から前記第一の平面までの部分をエッチングすることにより、前記複数の第二部分を形成し、前記基板を貫通する液体供給口を形成する工程と、
を含むことを特徴とする液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項2】
前記液体供給口を形成する工程を行った後に、前記エッチングマスク層を除去する工程を有する請求項1に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項3】
前記液体供給口の第二部分を、ガスクラスタを用いたSi加工方法で形成する請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項4】
前記液体供給口の第二部分を、リアクティブイオンエッチングを用いたSi加工方法で形成し、その際、加工条件としては、ガス圧力を0.1Pa以上、50Pa以下にして、エッチングする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項5】
前記液体供給口の第一部分を、レーザー加工技術、異方性エッチングおよびドライエッチングからなる群から選ばれる1つ、または2つ以上を組み合わせた方法で形成する請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項6】
前記エッチングマスク層が、非感光性樹脂材料層、感光性樹脂材料層、無機膜および金属膜のいずれかである請求項1〜5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1の液体吐出ヘッド用基板の製造方法により得られた液体吐出ヘッド用基板と、液体を吐出するための液体吐出口を備えた部材と、を有する液体吐出ヘッドを用意する工程と、
吐出される液体を前記液体吐出ヘッド用基板に供給するための経路を有する、前記基板を支持するための支持部材と、前記基板と、の間に前記エッチングマスク層が位置し、かつ前記エッチングマスク層の前記開口と前記経路とが連通するように、前記液体吐出ヘッド用基板と前記支持部材とを接合する工程と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッドアセンブリの製造方法。
【請求項8】
対向する第一の平面と第二の平面とを有するシリコン基板に、前記第二の平面に開口を有し前記第一の平面と前記第二の平面との間に底部を有する凹部である第一部分と、前記第一部分の底部から前記第一の平面まで貫通する貫通孔である複数の第二部分とを有する液体供給口を形成する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記基板の第一の平面に、溶解可能な樹脂層にて液体流路パターンを形成する工程と、
前記溶解可能な樹脂層上に被覆樹脂層を形成する工程と
前記被覆樹脂層を露光および現像することによって、液体吐出口パターンを形成する工程と、
前記液体吐出口の内部と前記被覆樹脂層全体とを保護する保護膜を塗布する工程と
前記基板の第二の平面に、前記複数の第二部分に対応した形状の開口を有するエッチングマスク層を形成する工程と、
前記基板の第二の平面側から、前記エッチングマスク層の前記開口を通じて前記基板をエッチングして前記第一部分となる凹部を形成する工程と、
前記基板の第二の平面側から、前記エッチングマスク層をマスクとして用いて前記第一部分の底部から前記第一の平面までの部分をエッチングすることにより、前記複数の第二部分を形成し、前記基板を貫通する液体供給口を形成する工程と、
前記溶解可能な樹脂層を溶解および除去する工程と、
前記被覆樹脂層を熱硬化させる工程と、
を含むことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記液体供給口を形成する工程を行った後に、前記エッチングマスク層を除去する工程を有する請求項8に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記液体供給口の第二部分を、ガスクラスタを用いたSi加工方法で形成する請求項8または9に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記液体供給口の第二部分を、リアクティブイオンエッチングを用いたSi加工方法で形成し、その際、加工条件としては、ガス圧力を0.1Pa以上、50Pa以下にして、エッチングする請求項8または9に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記液体供給口の第一部分を、レーザー加工技術、異方性エッチングおよびドライエッチングからなる群から選ばれる1つ、または2つ以上を組み合わせた方法で形成する請求項8〜11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記エッチングマスク層が、非感光性樹脂材料層、感光性樹脂材料層、無機膜および金属膜のいずれかである請求項8〜12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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