説明

液体吐出ヘッド用基板及び液体吐出ヘッド、およびその製造方法

【課題】 エネルギー発生素子を保護するために絶縁層を設けた際に、このような絶縁層も溶解してしまう可能性がある
【解決手段】 液体を吐出するために用いられる素子12と絶縁層10と基板8を貫通する供給口とを備えた液体吐出ヘッド用基板40に面する絶縁層の上に、金属からなる第1の保護層が設けられ、かつ供給口の基板が露出する面の上に、金属からなる第2の保護層が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出して記録動作を行うために用いられる液体吐出ヘッド用基板及び液体吐出ヘッド、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を吐出することで記録動作を行う記録装置として、インクを吐出するインクジェットプリンターが広く知られている。このような記録装置に用いられる液体吐出ヘッドは、液体を吐出するためエネルギーを発生するエネルギー発生素子を備えた液体吐出ヘッド用基板と、吐出口や液体の流路の一部を構成する流路部材とを有して設けられている。液体吐出ヘッド用基板には、エネルギー発生素子に液体を供給する供給口が、シリコンの基板を貫通して設けられている。
【0003】
近年記録画像の発色性や耐久性を向上させるために、強アルカリ性の液体をインクに使用することが検討されている。シリコンはアルカリ性の溶液に溶解するので、供給口の壁面に存在するシリコンがインクに溶解してしまうのではないかという懸念がある。そのような懸念事項に対応するため、特許文献1には、供給口の内壁が液体に溶解しないように、供給口の内壁に保護層を設ける構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−315191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、流路に面する位置に配されることで、エネルギー発生素子およびそれに接続する配線をインクと電気的に絶縁し、当該素子を保護するための絶縁層にはシリコン酸化物、窒化物等のシリコン化合物が使用されることが多い。
【0006】
しかしながら特許文献1に開示されるように、供給口の内側に、保護層15を設けただけでは、インクの種類、使用状況によっては、絶縁層の保護性能がだんだんと低下していく。あるいは供給口の保護層と絶縁層との切れ目の部分から、インクが配線へとリークしてしまう懸念がある。
【0007】
本発明は上記のような課題を鑑みて発明されたものであり、エネルギー発生素子に対する保護性能がより向上した信頼性の高い液体吐出ヘッド用基板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、シリコンからなる基板と、該基板に設けられ、液体を吐出口から吐出するために利用されるエネルギーを発生する素子と、該素子を覆うように設けられた絶縁層と、液体吐出ヘッド用基板を貫通して設けられた液体の供給口と、を有する前記液体吐出ヘッド用基板であって、前記絶縁層を覆うように設けられた、金属からなる第1の保護層と、
前記供給口の内壁の表面を覆うように、前記第1の保護層と連続して設けられた、金属からなる第2の保護層と、が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、流路に面する絶縁層と供給口との表面に金属からなる保護層を設けているため、エネルギー発生素子はより確実に保護され信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の液体吐出ヘッドの斜視図および切断面図である。
【図2】第1の実施形態における液体吐出ヘッドの製造方法を示す切断面図である。
【図3】第1の実施形態における液体吐出ヘッドの製造方法を示す切断面図である。
【図4】第2の実施形態における液体吐出ヘッドの製造方法を示す切断面図である。
【図5】第2の実施形態における液体吐出ヘッドの製造方法を示す切断面図である。
【図6】第2の実施形態における液体吐出ヘッドの一部を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
液体吐出ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、この液体吐出ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。
【0012】
本明細書内で用いられる「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味することとする。
【0013】
さらに「液体」とは広く解釈されるべきものであり、被記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、被記録媒体の加工、或いはインクまたは被記録媒体の処理に供される液体を言うものとする。インクまたは被記録媒体の処理としては、例えば、被記録媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化による定着性の向上や、記録品位ないし発色性の向上、画像耐久性の向上などのことを言うものとする。
【0014】
(第1の実施形態)
図1(a)は、本発明を適用することのできる液体吐出ヘッドの斜視図であり、図1(b)は、本実施形態の液体吐出ヘッドの図1(a)中のA−A’の切断面図を示している。本実施形態の液体吐出ヘッド41は、エネルギー発生素子12を備えた液体吐出ヘッド用基板40と、液体吐出ヘッド用基板40の上に設けられた流路部材9とを有している。流路部材9は、エネルギー発生素子12により発生されるエネルギーを利用して液体を吐出する吐出口1と、吐出口1に連通する流路2の凹部2aとを有している。この凹部2aを内側にして、流路部材9が液体吐出ヘッド用基板40に接することで流路2が設けられている。さらに、液体吐出ヘッド41は、流路2に液体を送るためにシリコンからなる基板8を貫通して設けられる供給口3と、外部との電気的接続を行う端子部42と、を有している。このような液体吐出ヘッドはアルミナなどからなる液体吐出ユニット(不図示)の支持基板に搭載される。この液体吐出ユニットから供給口3を介して供給された液体が、流路2に運ばれ、エネルギー発生素子12の発生する熱エネルギーによって、膜沸騰を起こし吐出口1から吐出されることで、記録動作が行われる。
【0015】
液体吐出ヘッド用基板40には、エネルギー発生素子12とエネルギー発生素子12を駆動するために接続される電源配線(不図示)とが設けられている。さらにエネルギー発生素子12と電力配線との上には、絶縁性を確保するために酸化シリコンや窒化シリコンを主成分とする絶縁層10が設けられている。絶縁層10は、単層または複数を積層して設けても良い。エネルギー発生素子12の上側に位置する絶縁層10の一部の上には、液体を吐出する際に発生するキャビテーションからエネルギー発生素子12を保護するために、Taなどの金属からなる耐キャビテーション層17が設けられている。
【0016】
絶縁層10の上と、耐キャビテーション層17の一部の上には、金属からなる第1の保護層4が設けられている。さらに、供給口3の内壁の表面11には、金属からなる第2の保護層5が設けられている。このように、シリコンを含有する絶縁層10と基板8の液体に接する部分に金属からなる保護層4,5で、シリコンを溶解する強アルカリ性等の液体を用いたとしても、絶縁層10や基板8の溶解を防止することができる。具体的には、pH7以上アルカリ性の場合シリコンが溶解することが確認されており、特にpH9以上の強アルカリ性の場合には、シリコンの溶解スピードが速く、シリコンが露出した状態では液体吐出ヘッドに用いることが困難であるといえる。従って、このようなアルカリ性の液体を用いたとしても、保護層4,5を設けることによりシリコンが溶解されない信頼性の高い液体吐出ヘッドとすることができる。
【0017】
第1の保護層4および第2の保護層5に用いられる金属材料としては、インク等の液体に対して溶解しにくい金属材料を選択することが好ましく、具体的にはAu、Ni、Ptのいずれか若しくはこれらの合金を用いることができる。また、第1の保護層4と第2の保護層5とは、同じ組成の金属材料を用いることもできる。なお、耐キャビテーション層17は、エネルギー発生素子12の設けられている領域より大きい領域を覆う様に設けられ、耐キャビテーション層17の中央部には、金属からなる第1の保護層4は位置しないように設けられている。このように耐キャビテーション層17の中央部に第1の保護層4を設けないことにより、効率的にエネルギー発生素子12のエネルギーを液体に伝え、記録動作を行うことができる。また、この第1の保護層4が設けられていない領域には、Ta等の金属からなる耐キャビテーション層17が設けられており、直接液体が絶縁層10に接しないため、絶縁層10が溶解することがない。なお、耐キャビテーション層17を設けない場合には、エネルギー発生素子12が設けられている領域の上側にも第1の保護層4を設ける必要がある。シリコン基板のエネルギー発生素子12が設けられた側の面とは反対側の面には、支持基板が接続されるため、このような金属からなる層は設ける必要はない。
【0018】
以上のように、絶縁層10の上の液体に接する部分に第1の保護層4を設け、シリコンが露出する供給口の面に第2の保護層5を設けることにより、信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0019】
(製造方法)
図2および図3は、図1(a)のA−A’切断面の液体吐出ヘッドの製造方法を示す図である。
【0020】
まず、図2(a)に示すように、複数のエネルギー発生素子12と、エネルギー発生素子12と電気的に接続する電力配線(不図示)とを設けたシリコンからなる基板8を用意する。さらに、エネルギー発生素子12および電力配線(不図示)の上に、酸化シリコン(SiO)を主成分とする層と窒化シリコン(SiN)を主成分とする層とを積層して絶縁層10を設ける。Taを主材料とする耐キャビテーション層17をエネルギー発生素子12の上側を覆う様に絶縁層10の上に設ける。
【0021】
次に図2(b)に示すように、エネルギー発生素子12が形成されている基板8の第1の面の絶縁層10と耐キャビテーション層17との上にスパッタ法を用いて金属からなる層4aを設ける。層4aとして用いられる材料は、強アルカリ性の液体等を用いて記録動作をしたとしても、溶解することのない材料である必要があり、Au、Ni、Ptのいずれか若しくはこれらの合金を用いることができる。ここではAuを用いて説明する。
【0022】
次に層4aの上にフォトリソグラフィ法を用いてレジストマスクを設ける。さらにAuをエッチングすることができるヨウ素・ヨウ化カリウム溶液で図2(c)のように、耐キャビテーション層17の中央部に位置する層4aをエッチングして除去し、流路に面する絶縁層10を保護する第1の保護層にパターニングする。
【0023】
次に、溶解可能な感光性樹脂材料をスピンコート法またはロールコート法を用いて塗布し、さらにフォトリソグラフィ法を用いて、流路2を設ける位置となる第1の保護層4と絶縁層10との上に型材14を形成する(図2(d))。型材14の材料としては、型材14の上に設ける流路部材9に用いられる材料に含有される溶媒に膨潤することが少なく、かつ、後から容易に溶解することが可能である材料であればよい。具体的には感光性を有するポリメチルイソプロペニルケトンを用いることができる。
【0024】
次に、絶縁層10と型材14との上に、流路部材9となる感光性樹脂材料をスピンコート法やロールコート法により設け、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングして複数の吐出口1を形成する(図2(e))。感光性樹脂材料としては、液体によって膨潤することが少なく、絶縁層10との密着性、外的な衝撃に対する強度、及び吐出口1を高精度に設けることのできる感光性を有していることが必要である。具体的には、エポキシ樹脂(EHPE−3150ダイセル化学(株))、ポリエーテルアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネイト樹脂、ポリエステル樹脂等からなる熱可塑性樹脂を用いることができる。次に、基板8のエネルギー発生素子12が設けられた第1の面とは反対側の面である第2の面に、スピンコート法やロールコート法を用いて感光性レジストを塗布し、フォトリソグラフィ法を用いて供給口3を設ける領域以外の部分にレジストマスクを設ける。
【0025】
さらにTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドライド)溶液に図2(e)のように設けた基板を浸漬し、ウエットエッチング法を用いて、第1の面と第2の面とを貫通する供給口3を設ける(図2(f))。基板8として、第2の面が(110)面となっているシリコン基板を用いることにより、開口角が約54.7°となる供給口3を得ることができる。
【0026】
次に、供給口3の開口部15の絶縁層10を除去する。絶縁層10として酸化シリコンと窒化シリコンとを用いる場合、バッファードフッ酸を用いたウエットエッチング法で酸化シリコンを除去し、CF4ガスとO2ガスを用いたドライエッチング法で窒化シリコンを除去する。
【0027】
次に、図3(a)に示すように、供給口3の内壁の表面11上に、第2の保護層5となる金属からなる層5aをスパッタ法を用いて設ける。第2の保護層5は、第1の保護層4と同様に強アルカリ性の液体等を用いて記録動作をしたとしても、溶解することのない材料である必要があり、Au、Ni、Ptのいずれか若しくはこれらの合金を用いることができる。なお、第1の保護層4と異なる金属を用いることもできる。
【0028】
次に、基板8の第2の面の側に、スピンコート法やロールコート法を用いて感光性レジストを塗布し、さらにフォトリソグラフィ法を用いてパターニングして、開口部15以外の部分にマスク16を設ける。続いて、開口部15に位置する第2の保護層5aの一部をウエットエッチングにより除去し、第2の保護層5を設ける(図3(b))。
【0029】
次に、マスク16のレジストを剥離液等を用いて除去する。さらに型材14は、流路部材9の上からUV露光した後、乳酸メチルに浸漬することで除去し、供給口3と流路2と吐出口1とを連通させる(図3(c))。
【0030】
以上の製造方法により、シリコンを含有する部分の上に、液体が直接接しないように、第1の保護層4と第2の保護層5とが設けられている液体吐出ヘッド41が完成する。これにより、シリコンを含有する絶縁層10や供給口3の内壁の表面11が液体に溶解することを防ぐことができ、信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0031】
(第2の実施形態)
図1(c)は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド41の、図1(a)中のA−A’の切断面図である。液体吐出ヘッド41の第1の保護層4の流路2の側の表面は、凹凸形状となっており、これにより液体に対し親水性を有するように設けられている。このとき、第1の保護層4の表面の中心線平均粗さRaは、0.02μm<Ra≦0.3μmと制御されている。Raが0.02以下としてしまうと液体に対して撥水状態となり、Raが0.3μmより大きくなると、流路の内部の凹凸が大きすぎて、吐出後の液体のリフィルが迅速に行えず、連続吐出を行うことができなくなるためである。このように凹凸を有する第1の保護層4を設け、表面を親水性とすることにより、吐出口1の周囲に気泡が発生したとしても流路2の外に気泡を排出することができ、気泡による吐出不良などを防止することができる。
【0032】
それ以外の構成は、第1の実施形態と同様である。以下、本実施形態の製造方法について説明する。
【0033】
(製造方法)
図4および図5の各図は、図1(a)のA−A’切断面の液体吐出ヘッドの製造方法を示す図である。
【0034】
まず、図4(a)に示すように、複数のエネルギー発生素子12と、エネルギー発生素子12と電気的に接続する電力配線(不図示)とを設けたシリコンからなる基板8を用意する。さらに、エネルギー発生素子12および電力配線(不図示)の上に、酸化シリコン(SiO)を主成分とする層と窒化シリコン(SiN)を主成分とする層とを積層して絶縁層10を設ける。Taを主材料とする耐キャビテーション層17をエネルギー発生素子12の上側を覆う様に絶縁層10の上に設ける。
【0035】
次に図4(b)に示すように、エネルギー発生素子12が形成されている基板8の第1の面の絶縁層10と耐キャビテーション層17との上に、第1の保護層4の核として凹凸部材20を設ける。この凹凸部材20は、スパッタ法を用いてチタンタングステン(TiW)からなる第1の中間層6と、金属からなる層4aとを積層して設けることができる。金属からなる層4aに用いられる材料は、強アルカリ性の液体等を用いて記録動作をしたとしても、溶解することのない材料かつ、無電解めっき法を行う際の核となる必要があり、Au、Ni、Ptのいずれか若しくはこれらの合金を用いることができる。ここではAuを用いて説明する。第1の中間層6は、第1の保護層4や金属からなる層4aに用いられる材料が絶縁層10に拡散(マイグレーション)することを防止する拡散防止層として用いられる。なお、この第1の中間層6は複数の積層構造であっても良く、拡散が見られない場合には中間層を設けなくても良い。
【0036】
次に層4aの上にフォトリソグラフィ法を用いてレジストマスクを設け、層4aのAuをエッチングすることのできるヨウ素・ヨウ化カリウム溶液で図4(c)のようにパターニングする。さらに、過酸化水素水を用いてチタンタングステンからなる第1の中間層6をパターニングする。これにより凹凸部材20を設ける。
凹凸部材20は、図6(a)に示すような格子状や図6(b)に示すような列状に設けることができる。図6(a)と図6(b)のK−K’切断面図を図6(c)に示す。凹凸部材20の幅Aは、0.1μm≦A≦4μmとなるように設けることが好ましい。0.1μm≦Aの幅とすることで無電解めっき法を行った際に効果的に金属を析出させることができる。またA≦4μmとすることで、絶縁層10が露出することなく層4を析出させたとしても、層4の膜厚が2μm以下となりエネルギー発生素子12の発生するエネルギーを液体に効率的に伝えることができる。
【0037】
次に、溶解可能な感光性樹脂材料をスピンコート法またはロールコート法を用いて塗布し、さらにフォトリソグラフィ法を用いて、流路2を設ける位置となる第1の保護層4と絶縁層10との上に型材14を形成する(図4(d))。型材14の材料としては、型材14の上に設ける流路部材9に用いられる材料に含有される溶媒に膨潤することが少なく、かつ、後から容易に溶解することが可能である材料であればよい。具体的には感光性を有するポリメチルイソプロペニルケトンを用いることができる。
【0038】
次に、絶縁層10と型材14との上に、流路部材9となる感光性樹脂材料をスピンコート法やロールコート法により設け、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングして複数の吐出口1を形成する(図4(e))。感光性樹脂材料としては、液体によって膨潤することが少なく、絶縁層10との密着性、外的な衝撃に対する強度、及び吐出口1を高精度に設けることのできる感光性を有していることが必要である。具体的にはエポキシ樹脂(EHPE−3150ダイセル化学(株))、ポリエーテルアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネイト樹脂、ポリエステル樹脂等からなる熱可塑性樹脂を用いることができる。次に、基板8のエネルギー発生素子12が設けられた第1の面とは反対側の面である第2の面に、スピンコート法やロールコート法を用いて感光性レジストを塗布し、フォトリソグラフィ法を用いて供給口3を設ける領域以外の部分にレジストマスクを設ける。
【0039】
さらにTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドライド)溶液に図4(e)のように設けた基板を浸漬し、ウエットエッチング法を用いて、第1の面と第2の面とを貫通する供給口3を設ける(図4(f))。基板8として、第2の面が(110)面となっているシリコン基板を用いることにより、開口角が約54.7°となる供給口3を得ることができる。
【0040】
次に、供給口3の開口部15の絶縁層10を除去する。絶縁層10として酸化シリコンと窒化シリコンを用いる場合、バッファードフッ酸を用いたウエットエッチング法で酸化シリコンを除去し、CF4ガスとO2ガスを用いたドライエッチング法で窒化シリコンを除去する。
【0041】
次に、図5(a)に示すように、供給口3の内壁の表面11上に、チタンタングステンからなる第2の中間層7の一部となる層7aと、無電解めっき法を行う際の核として用いることのできる第2の保護層5の一部となる金属からなる層5aをスパッタ法で設ける。金属からなる層5aは、強アルカリ性の液体等を用いて記録動作をしたとしても、溶解することのない材料かつ、無電解めっき法を行う際の核となる必要があり、Au、Ni、Ptのいずれか若しくはこれらの合金を用いることができる。第2の中間層7は、第2の保護層5に用いられる材料が絶縁層10に拡散することを防止する拡散防止層として用いられる。なお、第2の中間層7も複数の積層構造であっても良く、拡散が見られない場合には中間層を設けなくても良い。
【0042】
次に、基板8の第2の面の側に、スピンコート法やロールコート法を用いて感光性レジストを塗布し、さらにフォトリソグラフィ法を用いてパターニングして、開口部15以外の部分にマスク16を設ける。続いて、開口部15に位置する層5aと層7aとの一部をウエットエッチングにより除去し、第2の保護層5と第2の中間層7とを設ける(図5(b))。
【0043】
次に、マスク16のレジストを剥離液等を用いて除去する。さらに型材14は、流路部材9の上からUV露光した後、乳酸メチルに浸漬することで除去し、供給口3と流路2と吐出口1とを連通させる(図5(c))。
【0044】
次に、図5(d)に示すように凹凸部材20の層4a無電解めっきの核として用いて、第1の保護層4を析出させる。めっき層は、強アルカリ性の液体等を用いて記録動作をしたとしても、溶解することのないAu、Ni、Ptを含有する材料を用いることができる。また、第2の保護層5を核として用いて無電解めっきを行うことで、第2の保護層5の膜厚を厚くし、さらに信頼性の高い第2の保護層5とすることができる。
【0045】
第1の保護層4と第2の保護層5とが、同じ材料である場合には同時に析出させることができる。なお、第1の保護層4と第2の保護層5とを異なる金属とする場合には、無電解めっき析出を複数回実施しても良い。
【0046】
無電解めっき法は、液体吐出ヘッド用基板40の絶縁層10の表面が、第1の保護層4で被覆されるまで行う。第1の保護層4と第2の保護層5の膜厚は、凹凸部材20の幅Aによって異なるが、幅Aを0.2μmで設けた場合には、無電解めっき析出高さを0.1μm以上とする必要がある。すなわち、隣接する凹凸部材20の間の幅をA、第1の保護層4のAuの膜厚をBとした時、A/2≦Bとなる必要がある。また、無電解めっき法のよる第1の保護層4の厚さは、エネルギー発生素子12の発生するエネルギーを液体に効率的に伝えることができるように2μm以下とすることが好ましい。
【0047】
また第1の保護層4の表面粗さは、中心線平均粗さRaを0.02μm<Ra≦0.3μmとすることが好ましい。これにより流路2のインク接触面において、親水性を向上させることができ、気泡による影響を低減させることができる。
【0048】
以上の製造方法により、シリコンを含有する絶縁層10や供給口3の内壁の表面11が液体に溶解することを防ぐことができ、かつ気泡による影響を低減することのできる信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 吐出口
2 流路
3 供給口
4 第1の保護層
5 第2の保護層
6 第1の中間層
7 第2の中間層
8 基板
9 流路部材
10 絶縁層
12 エネルギー発生素子
17 耐キャビテーション層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンからなる基板と、該基板に設けられ、液体を吐出口から吐出するために利用されるエネルギーを発生する素子と、該素子を覆うように設けられた絶縁層と、液体吐出ヘッド用基板を貫通して設けられた液体の供給口と、を有する前記液体吐出ヘッド用基板であって、
前記絶縁層を覆うように設けられた、金属からなる第1の保護層と、
前記供給口の内壁の表面を覆うように、前記第1の保護層と連続して設けられた、金属からなる第2の保護層と、
が設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド用基板。
【請求項2】
前記絶縁層は、窒化シリコン又は酸化シリコンを少なくとも含有することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項3】
前記第1の保護層と前記第2の保護層とに用いられる材料は、Au、Ni、Ptのいずれかを含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項4】
前記第1の保護層と前記第2の保護層とは、同じ組成で設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項5】
前記絶縁層の上であって前記素子の上側に位置するように、耐キャビテーション層が設けられており、該耐キャビテーションの上には、前記第1の保護層が設けられていないことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項6】
前記第1の保護層は、親水性であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項7】
前記第1の保護層は、中心線平均粗さ(Ra)が0.02μm<Ra≦0.3μmとなるように設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板と、
前記吐出口と連通する流路となる凹部を有し、該凹部が内側になるように前記液体吐出ヘッド用基板と接することで前記流路を形成する流路部材と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項9】
液体を吐出口から吐出するためのエネルギーを発生する素子を有する液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、
前記素子と、該素子を被覆するように設けられた絶縁層と、が設けられた面を有するシリコン基板を用意する工程と、
前記絶縁層の上を覆うように、金属からなる第1の保護層を設ける工程と、
前記シリコン基板の前記面と、該面と反対側の他の面と、を貫通する供給口を設ける工程と、
前記供給口の内壁の表面を覆う様に、前記第1の保護層と連続して金属からなる第2の保護層を設ける工程と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項10】
前記第1の保護層を設ける工程は、
前記絶縁層の一部の上に、金属からなる部材を設ける工程と、
前記部材を核として無電解めっき法を用いて前記第1の保護層を設ける工程と、
を有することを特徴とする請求項9に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項11】
前記第1の保護層と前記第2の保護層とに用いられる材料は、Au、Ni、Ptのいずれかを含有することを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項12】
前記第1の保護層の前記流路の側の面は、親水性であることを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項13】
前記第1の保護層の前記流路の側の面は、中心線平均粗さ(Ra)が0.02μm<Ra≦0.3μmとなるように設けられていることを特徴とする請求項9乃至請求項12のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項14】
請求項9乃至請求項13のいずれかに記載の製造方法で設けた液体吐出ヘッド用基板を備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記流路の凹部を有し、該凹部が内側になるように前記基板の面に接することで、前記流路を形成する樹脂からなる流路部材を設ける工程を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−126102(P2011−126102A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285782(P2009−285782)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】