説明

液体吐出ヘッド

【課題】高画質高速記録を可能にする小型化した記録ヘッドを提供する。
【解決手段】吐出口から液体を吐出するために利用されるエネルギを発生する素子を備えた基板であって、該基板の前記素子を備える一方の面と該一方の面の反対側の面とを連通する液体の供給口が設けられた前記基板と、前記基板の前記一方の面上に設けられ、前記吐出口と前記供給口とを連通する液体の流路の壁をもつ部材と、前記供給口を覆う様に設けられ、複数の貫通孔が設けられた絶縁層と、前記素子と電気的に接続され、液体に対して絶縁状態となる様に前記絶縁層に内包された導電層と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドに関し、具体的には被記録媒体にインクを吐出して記録動作を行うインクジェット記録ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に搭載されるインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッドとも称する)は、種々の方式により吐出口からインク滴を吐出して、記録紙などの被記録媒体にインク滴を付着させることにより記録を行っている。なかでも、インクを吐出するためのエネルギとして、熱を利用するインクジェット記録ヘッドは、高密度のマルチノズル化を比較的容易に実現でき、高解像度、高画質、また高速な記録が可能である。
【0003】
近年、インクジェット記録ヘッドの小型化、高密度化を図るために、半導体製造技術を用いてインク吐出エネルギ発生素子を駆動するための電気制御回路を基板内に内蔵する記録ヘッドが用いられている。このようなインクジェット記録ヘッドは、複数の吐出口にインクを供給するために、基板の裏面側から基板を貫通させて各ノズルと共通のインク供給口とを連通させ、共通のインク供給口から各々のノズルにインクを供給する構造になっている。
【0004】
このような高品位記録が可能なインクジェット記録ヘッドを作製するために、吐出口からインクを吐出するための吐出エネルギ発生素子と吐出口との間の距離を高い精度でインクジェット記録ヘッドを作る製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、インクジェット記録ヘッドの基板にシリコン基板を用いる場合には、異方性エッチング技術を用いてインク供給口を形成することが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
ところで、インクジェット記録ヘッドに求められる信頼性の1つとして、ノズル内にゴミや異物が侵入することを抑制することが挙げられる。ゴミや異物の侵入の原因は、記録ヘッドの製造過程でのノズル内へのゴミや異物の混入や、インクと共にゴミや異物が送られてきてノズル内に侵入することが考えられる。
【0006】
このようなノズル内へのゴミや異物の侵入を防ぐために、インクジェット記録ヘッドにフィルタを設けることが知られている。
【0007】
図6は、従来のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。インク供給口2の長手方向に沿ってヒータ6が2列配置されている。導電層7がインク供給口に対してヒータ列と対称の位置に配置されている。インク供給口2には、複数のフィルタ穴8が形成されている。
【0008】
このような記録ヘッドの作製方法として、基板のヒータが設けられた面にインク供給口をエッチングする際の抵抗材料層を設け、抵抗材料層に複数の穴を設けて、インク供給口を形成すると同時にフィルタを形成する技術が知られている(例えば、特許文献3参照。)。また、シリコン基板にインク供給口を形成する際に、ヒータが設けられた面とは反対側にある耐エッチングマスクに、サイドエッチングを利用してメンブレンフィルタをインク供給口と同時に設ける技術が知られている(例えば、特許文献4参照)。さらに、シリコン基板のヒータが設けられた面と同一側のインク供給口部に、メンブレンフィルタを設ける技術が知られている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平06−286149号公報
【特許文献2】特開平09−011479号公報
【特許文献3】米国特許第6264309号明細書
【特許文献4】特開2000−94700号公報
【特許文献5】特開2005−178364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、近年のインクジェット記録装置では、高画質の画像を得るために、吐出インクの小液滴化が進んでいる一方で、記録速度の高速化が求められている。そして、記録速度の高速化に伴い、フィルタ穴で生じる流抵抗の影響が懸念されている。
【0011】
記録速度の高速化を実現するためには、インク供給口の面積を広げることで、各発泡室へ十分なインク流量を確保しなければならない。しかしながら、インク供給口の面積を広げることにより基板の面積は大きくなり、コストアップの要因となる。
【0012】
また、基板面積の増大を抑制し、かつ、高速記録を実現するのに十分なインク流量を確保するための手段の1つとして、フィルタ径を大きくし、メンブレンフィルタ部の流抵抗を下げる方法が挙げられる。しかし、フィルタ径を大きくすれば、メンブレンフィルタ自身の機械的強度が低下するため、フィルタが割れることがあり、その結果、歩留りが低下する。
【0013】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、高画質高速記録を可能にする小型化した記録ヘッドの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明は、吐出口から液体を吐出するために利用されるエネルギを発生する素子を備えた基板であって、該基板の前記素子を備える一方の面と該一方の面の反対側の面とを連通する液体の供給口が設けられた前記基板と、前記基板の前記一方の面上に設けられ、前記吐出口と前記供給口とを連通する液体の流路の壁をもつ部材と、前記供給口を覆う様に設けられ、複数の貫通孔が設けられた絶縁層と、前記素子と電気的に接続され、液体に対して絶縁状態となる様に前記絶縁層に内包された導電層と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上の構成によれば、インクジェット記録ヘッドの面積の増大が抑えられ、インクジェット記録ヘッドの小型化を図ることができるとともに、フィルタの機械的強度が向上することによるインクジェット記録ヘッドの信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態の記録ヘッドを一部切り欠いて模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。
【図3】図1に示すインクジェット記録ヘッドの断面A−A´を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態の記録ヘッドの製造工程を示す模式的断面図である。
【図5】本発明の実施形態の記録ヘッド用基板の製造工程を示す模式的断面図である。
【図6】従来のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。
【図7】図7(a)は、図6の30が示す部分の拡大図であり、図7(b)は、図2の31が示す部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に図面を参照して本発明における実施形態を詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の液体吐出ヘッドである記録ヘッドを一部切り欠いて模式的に示す斜視図である。記録ヘッド1を構成するSi基板1aには、Si基板1aの長手方向に沿って細長く、かつSi基板1aの裏面から表面に貫通するインク供給口2が形成されている。また、Si基板1aの表面側には、流路形成部材により、複数の吐出口3と、各吐出口とインク供給口2とを連通させる流路が形成されている。この流路には、吐出口からインクを吐出するために利用されるエネルギを発生するエネルギ発生素子であるヒータ6が設けられている。
【0018】
詳しくは、Si基板1aの表面には、多数のヒータ6がSi基板1aの長手方向に沿って一定ピッチで配置されているヒータ列が2列平行に設けられており、インク供給口2は2つのヒータ列に沿って設けられており、Si基板1aの表面に開口している。また、各吐出口3は、各ヒータ6の上方に位置している。ヒータ6に電圧が印加されると、インク供給口2から流路内に供給されたインクが吐出口3から吐出される。
【0019】
図2(a)は、本実施形態の液体吐出ヘッドであるインクジェット記録ヘッド(Si基板1a)を示す平面図である。本実施形態の記録ヘッド基板には、インク供給口2の長手方向に沿ってヒータ6が2列配置されている。インク供給口2には、インク供給口2を覆う様に絶縁層が設けられており、絶縁層に複数の貫通孔として用いられるフィルタ穴8を素子列の配列方向に関して供給口の両端部に設けることでメンブレンフィルタ9が形成されている。また、エネルギ発生素子と電気的に接続される導電層7がインク供給口の領域にも配置されている。このフィルタ穴8は、インク内のゴミや異物がインク流路内や吐出口3内に進入することを抑制するために形成されている。
【0020】
図3は、図1に示すインクジェット記録ヘッド1の断面III−IIIを示す断面図である。Si基板1aの表面側には、第1導電層(不図示)、絶縁層14、発熱抵抗体層15、第2導電層16、保護層17、耐キャビテーション層18が順次積層されている。このように設けられたインクジェット記録ヘッド基板の上層には、ポリエーテルアミド樹脂層4、被覆樹脂層(ノズル形成部材)5が積層され、インク流路および吐出口3が形成されている。また、Si基板裏面側には、インク供給口2を形成する際にマスクとして使用される熱酸化膜(酸化シリコン膜)が形成されている。
【0021】
第1導電層(不図示)はアルミニウムまたはアルミニウムを含有する合金等の金属で形成され、主に駆動回路を形成する導電層である。絶縁層14は、SiO膜等で形成され、第1導電層(不図示)と第2導電層16との間の層関絶縁層として機能するものである。発熱抵抗体層15は例えばTaSiやTaSiN等で形成され、ヒータ6を構成する層である。第2導電層16は、アルミニウムまたはアルミニウムを含有する合金等の金属で形成され、主に電源電圧から供給される電圧をヒータ6に供給する導電層であり、ヒータ6を構成する層である。保護層17は、窒化珪素等で形成され、ヒータ6や駆動回路(不図示)を保護するためのものである。耐キャビテーション層18は、Ta等で形成されている。耐キャビテーション層18はヒータ6に対応する部位に形成されており、インク中に発生したキャビテーション現象により保護層17が劣化することを防止する。なお、保護層17は、ヒータ6と耐キャビテーション層18とを絶縁する絶縁層としての機能も有している。また、ポリエーテルアミド樹脂層4は、基板と被覆樹脂層5との密着向上層として機能している。
【0022】
フィルタ穴8は、インク供給口領域の絶縁層として用いられている絶縁層14及び保護層17に貫通孔を設けることで形成されている。また、メンブレンフィルタ9は、絶縁層14、発熱抵抗体層15、第2導電層16および保護層17に複数のフィルタ穴8を設けることによって構成されている。なお、メンブレンフィルタ9の内部には、インクから絶縁状態となるように絶縁層に内包されて連続するように第2導電層16が形成されている。このため、インク内のゴミや異物がインク流路内や吐出口3内に進入するのを抑制する機能だけでなく、導電層領域の一部となっている。なお、フィルタ穴8は、絶縁層14および保護層17で覆われており、発熱抵抗体層15および第2導電層16はインクと接しない構成になっている。第2導電層16は、フィルタ穴8の周囲を取り囲むように設けられている。また、フィルタの性能は、フィルタ穴8の穴径や配置ピッチにより決定されるものであり、例えば、穴径が小さいほどフィルタとしての性能は向上し、第2導電層16を設ける領域は広くなるため抵抗を満足することができる。しかし穴径が小さすぎると、メンブレンフィルタ部でインクの圧損が発生し、インクの流れが悪くなることもある。したがって、捕捉を予定しているゴミや異物の大きさや、使用するインクの特性などに応じて、穴径を決定することが好ましい。
【0023】
次に、本実施形態の記録ヘッド用基板の製造工程について説明する。
【0024】
図4および図5は、本実施形態の記録ヘッド用基板の製造工程を示す模式的断面図である。図4および図5の各図は、図1のA−A'線における断面を示している。
【0025】
図4(a)においてSi基板1aは、<100>面の結晶方位を有している。なお、本実施形態では、<100>面の結晶方位を有するSi基板1aを例に挙げて説明するが、本発明のSi基板1aの面方位はこれに制限されるものではない。
【0026】
まず、Si基板1aの表面上に絶縁層14を形成する。この絶縁層14は、例えば酸化シリコン膜からなる。その上に、発熱抵抗体層15および第2導電層16を形成し、ヒータ6を複数個構成するとともに、電気信号回路(不図示)を構成する。ここで、フィルタ穴8となる部分については、第2導電層16および発熱抵抗体層15を所望の形状にエッチングしておく。その上に、ヒータ6および電気信号回路の保護膜として、窒化シリコン等で保護層17を全面にわたって成膜する。また、ヒータ6上部には耐キャビテーション層18を形成する。絶縁層14、保護層17および耐キャビテーション層18の厚さは、ヒータ6が発生する熱の放熱と蓄熱とのバランスを確保して記録ヘッドとしての機能を発揮させる厚さである。例えば、絶縁層14の膜厚は0.9μmとし、保護層17の膜厚は0.3μm、耐キャビテーション層18の膜厚は0.2μmとする。また、Si基板1aの裏面上には、酸化シリコンまたは窒化シリコン膜等の絶縁層からなる耐エッチングマスクを全面にわたって形成する。
【0027】
次に、図4(b)に示すように、保護層17のパターニングを行い、本体と接続するための電極パッド(不図示)を形成する。ここで、電極パッドの形成と同時に、フィルタ穴8となる部分の保護層17および絶縁層14を除去する。ただし、絶縁層14は完全にエッチングせずに、例えば、初期膜厚の1/2程度残しておく。
【0028】
次に、図4(c)に示すように、Si基板1aの表面側の保護層17と裏面側の耐エッチングマスク(絶縁層)との上にそれぞれポリエーテルアミド樹脂層4を形成し、所定のパターニングを行う。ポリエーテルアミド樹脂層4は熱可塑性樹脂からなる。ポリエーテルアミド樹脂層4は、ノズル形成部材となる後述する被覆樹脂層5の密着性を向上させる役割を果たしているので、ポリエーテルアミド樹脂層4を「密着向上層」ともいう。本実施形態では、密着向上層4の素材として熱可塑性ポリエーテルアミド(日立化成工業株式会社製、商品名:HL−1200)を用いている。密着向上層4は、熱可塑性ポリエーテルアミドをスピンコート等によってSi基板1aの両面上に塗布し、その上に不図示のポジ型レジストを形成してパターニングすることで、図4(c)に示すように形成することができる。なお、本実施形態では密着向上層4の膜厚を2μmとしている。
【0029】
次に、図4(d)に示すように、ヒータ6が構成されているSi基板1aの表面上に、インク流路部となるパターン層19を溶解可能な樹脂で形成する。溶解可能な樹脂としては、例えばDeep−UVレジスト(東京応化工業株式会社製、商品名:ODUR)を用いることができる。これをスピンコート等によってSi基板1aの表面上に塗布した後、Deep−UV光による露光、現像を行うことで、パターン層19が形成される。
【0030】
次に、図5(a)に示すように、パターン層19上に感光性樹脂からなる被覆樹脂層5をスピンコート等によって形成する。さらに、被覆樹脂層5上にドライフィルムからなる感光性の撥水層(不図示)を設けている。そして、被覆樹脂層5および撥水層(不図示)に対して紫外線やDeep−UV光等による露光、現像を行って、吐出口3を形成する。 次に、図5(b)に示すように、パターン層19と被覆樹脂層5等がパターン形成されているSi基板1aの表面および側面を、スピンコート等によって塗布した保護材20で覆う。保護材20は、後の工程でSi基板1aに異方性エッチングを行う際に使用する強アルカリ溶液に十分耐えうる材料からなり、そのため、異方性エッチングを行う際に被覆樹脂層5等が劣化することを防ぐことが可能である。Si基板1aの裏面側の絶縁層は、ポリエーテルアミド樹脂層4をマスクとしてウェットエッチング等を行うことによりパターニングされる。これにより、Si基板1aの裏面側に異方性エッチングの開始面が露出される。
【0031】
次に、図5(c)に示すように、Si基板1aにインク供給口2を形成する。インク供給口2は、Si基板1aを、例えばTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)やKOH(水酸化カリウム)等の強アルカリ溶液を用いて異方性エッチングすることにより形成する。その後、ドライエッチング等によりSi基板1aの裏面のポリエーテルアミド樹脂層を除去する。
【0032】
次に、図5(d)に示すように、フィルタ穴8となる部分の絶縁層14をウェットエッチングによって完全に除去し、メンブレンフィルタ9が形成される。
【0033】
次に、図5(e)に示すように保護材20を除去する。さらに、パターン層19の材料(熱可塑性樹脂)を吐出口3およびインク供給口2を通して溶出させて除去することにより、Si基板1aと被覆樹脂層5との間にインク流路および発泡室が形成される。パターン層19の材料である熱可塑性樹脂は、Deep−UV光でウエハの全面を露光することでこの熱可塑性樹脂を現像して軟化させ、現像の際に必要に応じてウエハを超音波浸漬することで、吐出口3およびインク供給口2を通して溶出させることができる。その後、ウエハを高速に回転させて超音波浸漬用の液体を吹き飛ばし、インク流路および発泡室の内部を乾燥させる。
【0034】
以上の工程によりノズル部が形成されたウエハを、ダイシングソー等により分離切断してチップ化し、ヒータ6を駆動させるための電気配線(不図示)等を各チップに接合する。そして、インク供給口2に供給するインクを貯えるチップタンク部材(不図示)を各チップのインク供給口2側に接合して、インクジェット記録ヘッドを完成する。
【0035】
このように作製された本実施形態のインクジェット記録ヘッドでは、基板面積の増大が抑えられる。
【0036】
例えば、基板にメンブレンフィルタを形成する場合、メンブレンフィルタがない場合と比較して、インク供給口面積は20%程度減少する。すなわち、メンブレンフィルタがない場合、基板に形成するインク供給口幅を110μm、導電層幅を800μmとした場合、従来の基板では、1つのインク供給口に対して910μmの領域が必要となる。そして、メンブレンフィルタを形成する場合には、インク供給口面積の減少分を幅方向に拡大すると、インク供給口幅は143μmとなる。よって、1つのインク供給口に対して943μmの領域が必要となる。したがって、メンブレンフィルタを形成する場合には、メンブレンフィルタを形成しない場合と比較して、基板面積は4%程度増加する。
【0037】
一方、本実施形態の構成の基板では、インク供給口幅は143μmであり、メンブレンフィルタ領域に導電層を配置したことによる配線抵抗の増加分を考慮すると、導電層幅は822μmである。ここで、インク供給口領域と、導電層領域とは重なっているため、1つのインク供給口に対して必要となる領域は822μmとなる。
【0038】
すなわち、本実施形態の構成の基板は、従来の基板であってメンブレンフィルタがないものと比較しても、基板面積は10%程度減少する。
【0039】
さらに、本実施形態の基板は、メンブレンフィルタを構成する材料の一部として、金属で形成された導電層が含まれているため、従来のメンブレンフィルタよりも機械的強度が向上する。そのため、インクジェット記録ヘッドの信頼性が向上することになる。
【0040】
次に、図2を用いて、メンブレンフィルタの上に設けられた配線の位置関係について説明する。図2(b)は、図2(a)に示す断面IIB−IIBを示している。本発明のように吐出口3を形成するために樹脂を用いた場合、厚膜の樹脂である被覆樹脂層5は、温度による変形や、湿度による変形がSi基板1aより大きい。インクジェット記録ヘッド、特にヒータ6を吐出に用いる場合には温度が高く、また湿度も非常に高い。この状態では被覆樹脂層5とSi基板1aの変形量の差により基板1aにソリが発生する。このソリによる応力は、供給口の外周のような被覆樹脂層5の端の部分に集中し、被覆樹脂層5によって薄いメンブレンフィルタを破壊する方向に働く。このとき、特に吐出口の列と平行な方向は樹脂単独の部分が長い為、被覆樹脂層5の変位量が大きくなり図2(b)で示すようなメンブレンフィルタと被覆樹脂5の境界に位置する供給口の端部40には大きな応力がかかる。このように図2(a)のように供給口の端の部分に集中的に配線を配置することにより、機械的強度を上げることができフィルタの破損を防ぐことができる。
【0041】
また、図2のように分割された導電層7でヒータ6と配線を行なう場合、ヒータにかかるエネルギ量を一定にする為に、導電層7の抵抗はそれぞれの配線で等しいことが望ましい。しかし、単純に同じ配線幅で配線を形成すると、パッドに近い供給口の端側では抵抗値が低くなり、反対に供給口の中央部分では配線の抵抗値が高くなりすぎてしまう。通常は、配線幅を変えることにより、抵抗値をあわせこんでいる。メンブレンフィルタ部で配線を形成するとフィルタ穴を形成する分、配線の抵抗が高くなる。吐出口3の配列する方向に見たインク供給口2の中央部まで、メンブレンフィルタ上を引き回すとなると、吐出口3の配列する方向と直交する方向の配線幅を広くすることが必要となる。そのため、メンブレンフィルタ部の上部に設ける配線は、フィルタ穴の影響を大きくはうけない図2のように吐出口3の配列する方向に見た時のインク供給口2の端部に配線を形成することが好適である。ヒータ6の端部に接続する導電層7を、吐出口3の配列する方向に直交する方向に見た時のフィルタの端部に設けることで、吐出口3の配列する方向に直交する方向の幅におさまる導電層7の幅とすることができる。これにより、基板の小型化を達成することができる。
【0042】
さらに、従来のヒータ6と導電層7のつなぎ方を示す、図6の30が示す部分を拡大したのが図7(a)である。ヒータ6に対して陽極側(アノード)の配線、陰極側(カソード)の配線ともに供給口の反対に形成されている。図7(a)から明らかなようにヒータの配置密度を上げようとしても、供給口の反対側に戻る配線21が必要な為どうしてもヒータ6の配置は制限されてしまう。
【0043】
一方、図7(b)は、図2の31が示す部分を拡大したものである。本発明を用いると、陽極側に接続する配線と、陰極側に接続する配線がヒータの両側に分けて配置することが可能となる。そのため、図7(b)ように、供給口の反対側に戻る配線21が不必要になり、ヒータの配置密度を上げることができる。これにより、より高精細な画像の形成が可能になる。
【0044】
またヒータ6への電流出力のON/OFFの制御を行う制御素子は、ヒータ6に接続しやすいように、ヒータ6よりインク供給口2から遠い基板上に形成される。このヒータの制御を行う制御素子としては、通常電流を流す能力の高いnMOSを用いられる。nMOSの陽極側に接続された配線は、ヒータを介してメンブレンフィルタ部の配線と接続されている。従って、メンブレンフィルタ部の配線は、ヒータ6の陽極側およびnMOSの陽極側の配線として用いられている。
【符号の説明】
【0045】
1 インクジェット記録ヘッド
1a Si基板
2 インク供給口
3 吐出口
4 ポリエーテルアミド樹脂層
6 ヒータ
8 フィルタ穴
9 メンブレンフィルタ
15 発熱抵抗体層
16 第2配線層
17 保護層
18 耐キャビテーション層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出口から液体を吐出するために利用されるエネルギを発生する素子を備えた基板であって、該基板の前記素子を備える一方の面と該一方の面の反対側の面とを連通する液体の供給口が設けられた前記基板と、
前記基板の前記一方の面上に設けられ、前記吐出口と前記供給口とを連通する液体の流路の壁をもつ部材と、
前記供給口を覆う様に設けられ、複数の貫通孔が設けられた絶縁層と、
前記素子と電気的に接続され、液体に対して絶縁状態となる様に前記絶縁層に内包された導電層と、
を備えることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記絶縁層は、前記素子の上に前記素子を液体から絶縁するために設けられた絶縁層と、連続する層で設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記絶縁層は、酸化シリコン膜および窒化シリコン膜を有し、前記導電層は、酸化シリコン膜と窒化シリコン膜との間に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記素子は、前記酸化シリコン膜と酸化シリコン膜との間に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記導電層は、アルミニウムを含有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
液体吐出ヘッドには、複数の前記素子の列が設けられており、前記供給口は、前記列に沿って設けられており、前記列の配列方向に関して、前記供給口の両端部に位置にする貫通孔の周囲に前記導電層が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記導電層は、前記素子と該素子への電流出力を制御するnMOSとの陽極側の導電層として用いられることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−23490(P2010−23490A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126657(P2009−126657)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】