説明

液体吐出ヘッド

【課題】本発明は、支持部材とヘッド用基板との接地面積を確保でき、かつ生産性に優れた液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明における液体吐出ヘッドは、ノズル列を有し、ヘッド用基板の裏面に凹部が形成され、該凹部の底部に全ての供給口が形成され、ヘッド用基板と支持部材は供給口と導入口とが連通するように前記凹部の底部において接合されている。本構成とすることにより、接地面積を十分に確保できるために高い信頼性及び放熱性を有し、生産性に優れた液体吐出ヘッドを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドに関し、好ましくはインクジェット記録ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録ヘッドは、特許文献1に示されるように、外部インク供給系との接続、基板の保持等のため、電気熱変換素子等が形成されたインクジェット用基板を支持部材と接合して構成される。この接合の際、一つのインクジェット用基板内で複数色の印字が可能なインクジェット記録ヘッドにおいては、インクジェット用基板と支持部材の接合部において、異なるインクが混ざることを防止するために各インク間を封止する必要がある。封止の信頼性を向上させるためには、接合部の面積を十分に確保する必要がある。
【0003】
また、インクジェット記録方式において、近年では、画像の高精細化と共に、更なる高速化が望まれている。そのため、インクを吐出するノズル数の増加や吐出の高周波数化が要求されている。一方、記録の高速化に伴い、単位時間あたりのヘッドへの投入エネルギーが増大し、記録中におけるヘッドの温度上昇が大きくなる。ヘッドの温度が上昇すると、ページ毎の吐出量が変動し、高温では吐出が不安定になる場合がある。また、連続記録性が低下する場合もある。
【0004】
ここで、特許文献1に示されるように、インクジェット用基板が支持部材に固定されたインクジェット記録ヘッドが知られている。インクジェット用基板を支持部材に固定することにより、インクジェット用基板で発生した熱が支持部材へ拡散することから、インクジェット用基板と支持部材との接合部の面積(以下、接地面積とも略す)が大きい程、インクジェット記録ヘッドの昇温を抑制できる。
【0005】
しかし、インクジェット記録ヘッドの昇温を抑制するためにインクジェット用基板と支持部材との接地面積を大きくしようとすると、その分インクジェット用基板のサイズが大きくなり、生産性が低下してしまう。
【0006】
このような課題を解決するために、インクジェット用基板全体を薄くする方法が考えられる。つまり、インクジェット用基板全体の厚さを薄くすることによりインク供給口の開口寸法を小さくすることができるため、インクジェット用基板のサイズを大きくせずに、インクジェット用基板と支持部材との接地面積を確保することができる。しかし、この方法を選択した場合、インクジェット用基板の強度が低下するため流路形成部材の応力によりインクジェット用基板に反りが生じ、生産上の課題が発生する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−125516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、支持部材とヘッド用基板との接地面積を確保でき、かつ生産性に優れた液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。つまり、本発明は、接地面積を十分に確保できるために高い信頼性及び放熱性を有し、生産性に優れた液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の本発明によって解決される。即ち本発明は、第一の液体を吐出するための吐出口と該吐出口に連通する第一の液流路とを構成し、空間的にそれぞれ連通する前記吐出口及び前記第一の液流路からなるノズル列を有する流路形成部材と、前記第一の液体を吐出するためのエネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子を有し、前記第一の液流路に前記第一の液体を供給するための供給口が形成されたヘッド用基板と、前記供給口に前記第一の液体を供給するための導入口を有する支持部材と、を含む液体吐出ヘッドであって、前記ヘッド用基板は前記流路形成部材が配置されている面と反対側に凹部を有し、該凹部の底部に前記供給口が前記ヘッド用基板を貫通するように形成されており、前記ヘッド用基板と前記支持部材は、前記供給口と前記導入口とが連通するように、前記凹部の底部において接合されていることを特徴とする液体吐出ヘッドである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヘッド用基板の生産性を低下させることなく、高信頼性を有し、放熱性に優れた液体吐出ヘッドを提供することができる。そのため、本発明に係る液体吐出ヘッドは印刷速度の高速化に対応することができる。
【0011】
また、本発明は、別の観点からは、耐久性を有し、かつ小型化を図ることができる液体吐出ヘッドを提供することができる。つまり、本発明の構成とすることにより、ヘッド用基板の強度を保持しつつ、供給口の寸法を小さくすることができるため、耐久性を維持しつつ小型化を図ることができる。また、吐出口の高密度に形成することができるため、吐出性能の向上も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの模式的斜視断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るインクジェットヘッド用基板と支持部材の接合を示す模式図である。
【図4】本発明の実施形態に係るインクジェット用基板の凹部及びインク供給口を形成する方法を説明するための概略工程図である。
【図5】図4(D)に続き、本発明の実施形態に係るインクジェット用基板の凹部及びインク供給口を形成する方法を説明するための概略工程図である。
【図6】従来のインクジェット記録ヘッドの構成例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドを説明するための概略断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドにおける各構成要素の配置例を説明するための概略平面図である。
【図9】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドにおいて、垂直方向に割断した形態を表す模式的斜視図である。
【図10】本発明の一実施形態を示し、図7の点線枠Xで囲われた部分に相当する拡大断面図である。
【図11】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドにおける各構成要素の配置例を説明するための概略平面図である。
【図12】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法を説明するための工程断面図である。
【図13】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置における構成例を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、液体吐出ヘッドの実施形態について説明する。また、以下の説明では、本発明の適用例として、インクジェット記録ヘッドを例に挙げて説明することもあるが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。例えば、インク記録以外にも、バイオッチップ作製や電子回路印刷に用いることができ、本発明は液体を吐出する液体吐出ヘッドに関するものである。液体吐出ヘッドとしては、インクジェット記録ヘッドの他にも、例えばカラーフィルター製造用ヘッド等も挙げられる。
【0014】
(実施形態1)
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
図1は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す断面図である。図2は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す模式的斜視断面図である。図3(a)は、本実施形態のインクジェット用基板と流路形成部材で構成される吐出素子基板を示す模式的斜視図であり、図3(b)は、支持部材を示す模式的斜視図である。
【0016】
これらの図に示すように、インクジェット記録ヘッドは、流路形成部材3が上面に形成されたインクジェット用基板1と、支持部材2とが接着剤4により接合されている。インクジェット用基板1は流路形成部材3が配置される面と反対側に凹部を有し、該凹部の底部において支持部材2と接合されている。
【0017】
流路形成部材3はインク流路5とインク吐出口6を構成し、インクジェット用基板1の上に形成されている。
【0018】
インクジェット用基板1は、インクを吐出するための電気熱変換素子等の吐出エネルギー発生素子7を複数有し、また該吐出エネルギー発生素子を駆動させるための配線等(不図示)を含むことができる。また、インクジェット用基板1はインク流路5にインクを供給するためのインク供給口8を有する。インク供給口8は前記凹部の底部にインクジェット用基板を貫通して複数形成されている。
【0019】
また、支持部材2は、インク供給口8にインクを供給するためのインク導入口9を有し、インク導入口9とインク供給口8とが連通するように前記凹部の底部においてインクジェット用基板と接合されている。なお、インクジェット記録ヘッドは、支持部材2のインク導入口9にインクを供給するためにインクを格納するインク供給部材(不図示)を備えることができる。
【0020】
また、流路形成部材3は、空間的にそれぞれ連通するインク吐出口6及びインク流路5からなるノズル列が複数形成されている。つまり、インク流路5及び吐出口6が複数配置され、複数のノズル列を形成している(図3(a)参照)。また、ノズル列毎にインクジェット用基板を貫通するインク供給口8が形成されている。また、図に示すように、ノズル列は列状に配置されていることが好ましい。一つのノズル列は例えば同一のインクを保持及び吐出することができる。
【0021】
また、本実施形態においては、一つのノズル列について一つのインク供給口8が形成されている。このインク供給口8の開口は凹部の底部にノズル列に沿って矩形状に複数形成されている。また、支持部材2は前記凹部内に納まるように凸部形状を有し、該凸部の上面に開口を有するインク導入口9が複数形成されている。各インク導入口9は接合時に各インク供給口8とそれぞれ連通するように配置され、図3(b)に示すように、複数列形成されている。一つのノズル列に複数のインク供給口が連通する構成とすることもできるが、同じノズル列に連通する複数のインク供給口は、それぞれ同一のインクを供給することが好ましい。
【0022】
本発明によれば、インクジェット用基板の生産性を低下させることなく、高信頼性を有し、放熱性に優れた液体吐出ヘッドを提供することができる。そのため、本発明に係る液体吐出ヘッドは印刷速度の高速化に対応することができる。
【0023】
以下、本発明の効果についてより具体的に説明する。信頼性や放熱性を向上させるためにインクジェット用ヘッドと支持部材との接地面積を大きくしようとすると、その分ノズル列の間隔が広くなってしまう。そのため、基板面積が大きくなってしまい、生産性に劣ることになる。一方、インク供給口の開口面積を小さくすることができれば、その分ノズル列の間隔も狭くすることができ、生産性を向上することができる。インク供給口の開口面積を小さくするにはインク供給口を異方性エッチングにより形成することが考えられるが、インクジェット用基板に用いられる一般的なウェハに異方性エッチングを用いて小さい貫通口を形成することは時間的な観点から実用的ではない。また、インクジェット用基板を全体的に薄くして異方性エッチングでインク供給口を形成すればインク供給口の開口を小さく形成することができる。しかし、インクジェット用基板を薄くすると強度が低下するため流路形成部材の応力によりインクジェット用基板に反りが生じ、生産上の障害が大きくなる場合がある。そこで、本発明のように、インクジェット用基板に凹部を形成し、この基板の厚さが薄くなった凹部の底部にインク供給口を形成することにより、インクジェット用基板の強度を維持しつつ、インク供給口の開口を小さく形成することができ、支持部材とインクジェット用基板の接地面積を大きくとることができる。したがって、信頼性や放熱性が高いインクジェット記録ヘッドを生産性よく得ることができる。
【0024】
また、本発明は、別の観点からは、耐久性を有し、かつ小型化を図ることができるインクジェット記録ヘッドを得ることができる。つまり、本発明の構成とすることにより、インクジェット用基板の強度を保持しつつ、インク供給口の開口を小さくすることができるため、耐久性を維持しつつ小型化を図ることができる。また、ノズル列の間隔を狭くすることができ、吐出口の高密度に形成することができるため、吐出性能の向上も図ることができる。
【0025】
以上の説明では、本発明の実施形態としてインクジェット記録ヘッドについて説明したが、本発明は特にこれに限定されるものではなく、上述のように、本発明はインク等の液体を吐出する液体吐出ヘッドに関するものである。インクジェット記録ヘッドを液体吐出ヘッドと把握した場合、その基本構成は同じであるが、用語の観点からは、インクは液体、インクジェット用基板はヘッド用基板、インク吐出口は吐出口、インク流路は液流路、インク供給口は供給口、インク導入口は導入口、インク供給部材は液体供給部材とそれぞれ把握できる。
【0026】
ヘッド用基板は、上述にように、流路形成部材が配置される面と反対側の面(裏面)に凹部が形成される。該凹部の形成方法は、特に制限されるものではないが、例えば結晶異方性エッチングにより形成することができる。また、ヘッド用基板は例えばシリコン基板を用いて構成することができる。この場合、前記凹部は、シリコン基板の結晶異方性エッチングにより形成することが好ましい。シリコン基板の結晶異方性エッチングを用いることにより、生産性良く、効率的にヘッド用基板に凹部を形成することができる。また、ヘッド用基板は、<100>面の結晶方位を有するシリコン基板を用いて構成される。この場合、凹部の底部はシリコン基板の結晶異方性エッチングより形成された<100>面となり、該<100>面がヘッド用基板と支持部材との接合面となる。つまり、シリコン基板の一部分が結晶異方性エッチングによって除去され、これにより露出した<100>面が支持部材とヘッド用基板の接合面となる。また、シリコン基板の厚さは、例えば0.3mm〜1.0mmとすることができる。また、前記凹部の深さは、例えば325〜675μmとすることができる。
【0027】
本発明において、流路形成部材は、空間的にそれぞれ連通する吐出口及び液流路からなるノズル列を有する。ノズル列は流路形成部材に複数設けられることができ、この場合各ノズル列毎に少なくとも1つの供給口が形成される。また、前記凹部の底部に全ての供給口が形成されている。また、図1乃至3では、1つのノズル列に沿って矩形状の開口を有する1つの供給口が形成されている形態を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、1つのノズル列に複数の供給口が形成されていてもよい。1つのノズル列に複数の供給口が形成される場合、例えば、支持部材は、同じノズル列に連通する各供給口について導入口をそれぞれ設ける構成としてもよく、また、ノズル列に連通する複数の供給口について1つの導入口を設ける構成としてもよい。
【0028】
供給口は、例えば異方性エッチングにより形成することができる。異方性エッチングとしては、リアクティブイオンエッチング等のドライエッチングや結晶異方性エッチングを挙げることができる。また、これらのうち、リアクティブイオンエッチングを用いたボッシュプロセスにより形成することが好ましい。供給口の高さは、例えば50〜400μmとすることができる。
【0029】
支持部材の材料としては、特に制限されるわけではないが、例えば、熱伝導性に優れたアルミナ(Al23)やシリコン(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、ジルコニア(ZrO2)、窒化珪素(Si34)、炭化珪素(SiC)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などを好ましく用いることができる。また、熱伝導性及び耐インク性に優れたアルミナが好ましく用いられ、アルミナの焼結体がより好ましく用いられる。また、樹脂材料も用いることができ、例えばノリル樹脂の樹脂成形により形成されることができる。また、樹脂材料として、ポリフェニレンエーテル(PPE)とポリスチレン(PS)のポリマアロイである変性PPE(変性ポリフェニレンエーテル)も用いることができる。
【0030】
支持部材としては、特に、電気熱変換素子等の吐出エネルギー発生素子で発生した熱をヘッド用基板から接合部を通じて支持部材へ拡散させたい場合には、アルミナで形成された支持部材を用いることが好ましい。さらに、支持部材10の素材は、アルミナに限られることなく、ヘッド用基板の線膨張率と同等の線膨張率を有し、かつヘッド用基板と同等以上の熱伝導率を有する材料で構成されていることが好ましい。
【0031】
支持部材は、上述のように、ヘッド用基板の一部分を薄くした領域、つまり凹部の底部にてヘッド用基板と接合される。接合は例えば接着剤を用いて行うことができる。ヘッド用基板の端部は、厚みを維持したままの領域があるため、強度を維持することができる。支持部材は、ヘッド用基板の凹部の底部にて接合可能とするように、例えば凸部を有する形状とすることができる。また、支持部材はヘッド用基板の凹部と勘合するような凸部形状を有することが好ましい。
【0032】
流路形成部材の材料としては、例えば、感光性エポキシ樹脂、感光性アクリル樹脂などを用いることができ、光反応によるカチオン重合性化合物を用いることが好ましい。また、流路形成部材の材料としては、用いる液体の種類および特性によって耐久性などが大きく左右されるので、用いるインク等の液体によっては適当な化合物を選択することができる。
【0033】
ヘッド用基板には電気信号を伝送するための配線層を有することができ、例えばAl配線を成膜技術を用いて形成することができる。
【0034】
上述のように、液体吐出ヘッドは、支持部材の導入口に液体を供給するための液体供給部材を有することができる。液体供給部材は支持部材の導入口にインク等の液体を供給するためのタンクであり、有機、無機材のいずれも用いることができる。液体供給部材の材料としては、インク等の内部に納める液体と接触しても膨潤若しくは溶解、又は有機若しくは無機物質の溶出が生じない材質であることが望ましい。また、原材料の価格や加工のし易さから熱可塑性樹脂を好ましく用いることができ、例えばポリプロピレン、変性PPE(変性ポリフェニレンエーテル)といった汎用樹脂を主にインク供給部材として用いることができる。機械的強度を高めるために、シリカやアルミナ等を補強剤として用いてもよい。
【0035】
また、支持部材と液体供給部材はインサート成形によって一体に形成されてもよい。
【0036】
また、本実施形態としてのインクジェット記録ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、更には各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、このインクジェット記録ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の記録媒体に記録を行うことができる。
【0037】
(実施形態2)
さらに、より効率的に温度を制御することができる液体吐出ヘッドを以下に説明する。
【0038】
図7は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドの模式的断面図である。また、図8は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドの表面側(流路形成部材側)からみた各構成要素の配置位置を示す概略平面図である。また、図9は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドの一部を割断して示した模式的斜視図である。また、図7は、図8の点線A−A’における断面に対応する断面図である。
【0039】
図7に示すように、インクジェット記録ヘッドは、流路形成部材3とインクジェット用基板(ヘッド用基板)1とからなる吐出素子基板を含む。また、インクジェット記録ヘッドは、インクジェット用基板1の流路形成部材3が配置される面と反対側の面において接着剤4を用いて吐出素子基板と接合される支持部材2を含む。
【0040】
流路形成部材3はインクジェット用基板1の上に形成されている。また、流路形成部材3は、インク(第一の液体)が流れるインク流路(第一の液流路)5、インク吐出口(吐出口)6及び温度制御用液体(第二の液体)が流れる温度制御用流路(第二の液流路)10を構成している。温度制御用流路10に流れる温度制御用媒体は、特に限定されるものではないが、例えば水やオイル等を用いることができ、主にインクジェット記録ヘッドの冷却に用いられる。第一の液流路と第二の液流路とは独立している。また、第二の液体は吐出に使用されない。第二の液流路は、記録ヘッドが実施形態1の構成であることにより容易に形成することができる。
【0041】
インクジェット用基板1は、インクを吐出するための電気熱変換素子等の吐出エネルギー発生素子7を複数有し、また吐出エネルギー発生素子7を駆動させるための配線等(不図示)を含むことができる。また、インクジェット用基板1はインク流路5にインクを供給するためのインク供給口(供給口)8を有する。また、インクジェット用基板1は、温度制御用流路10に温度制御用液体を供給するための貫通口である供給用通路(第一の液通路)11と、温度制御用流路10から温度制御用液体を排出するための貫通口である排出用通路(第二の液通路)13と、を有する。
【0042】
図7及び8に示すように、流路形成部材3は、空間的にそれぞれ連通するインク吐出口6及びインク流路5からなるノズル列が複数形成されている。つまり、インク吐出口6及びインク流路5が複数配置され、複数のノズル列を形成している。また、ノズル列毎にインクジェット用基板1を貫通するインク供給口8が形成されている。一つのノズル列は例えば同一のインクを保持及び吐出することができる。
【0043】
また、図8においては、温度制御用流路10は、各ノズル列の両側に沿って配置されるように1つの流路で構成されている。温度制御用流路10は、温度制御用液体が供給される流入口と、温度制御用液体が排出される排出口とを有し、流入口は供給用通路11と接続され、排出口は排出用通路13と接続されている。また、温度制御用流路10は、流路形成部材3の角部付近に配置された流入口からノズル列に沿って延伸し、各ノズル列の間を通って流路形成部材3の角部付近に配置された排出口に達している。そして、温度制御用液体は、供給用通路11から温度制御用流路10に供給され、温度制御用流路10内を流れ、排出用通路13から排出される。この温度制御用流路10内に温度制御用液体が流れることにより、インクジェット記録ヘッド、より好ましくは吐出素子基板の温度を制御することができる。例えば冷却した温度制御用液体を温度制御用流路10に流すことにより、温度制御用液体が吐出エネルギー発生素子等から発生した熱を吸収することにより、インクジェット記録ヘッドの吐出素子基板を有効に冷却することができる。特に冷却した温度制御用液体を用いなくても、室温の温度制御用液体を温度制御用流路10に流すことにより、吐出エネルギー発生素子等から発生した熱を吐出素子基板の外部に放熱することができる。
【0044】
また、インクジェット記録ヘッドは、排出用通路13から排出された温度制御用液体を再度供給用通路11に供給するため、ポンプ等の液循環機構に接続される。この液循環機構は例えばインクジェットプリンタ等の液体吐出装置に備えることができる。この液循環機構によって温度制御用液体が循環する過程で温度制御用液体が放熱又は吸熱することができる。また、排出用通路13から排出された温度制御用液体の温度を有効に調整して再度供給用通路11に戻すため、液体吐出装置は液体の温度を調整することができる温度制御機構を備えることができる。また、本発明では、特に吐出エネルギー発生素子で発生した熱を有効に冷やすため、温度制御機構は液体を冷却する冷却機能を備えることが好ましい。
【0045】
液循環機構は、例えば液体が流れる配管と液体を移動するエネルギーを発生するポンプで構成することができる。
【0046】
以上の説明では、本発明の実施形態としてインクジェット記録ヘッドについて説明したが、本発明は特にこれに限定されるものではなく、上述のように、本発明はインク等の液体を吐出する液体吐出ヘッドに関するものである。インクジェット記録ヘッドを液体吐出ヘッドと把握した場合、その基本構成は同じであるが、用語の観点からは、上述の括弧で示したように、インクは第一の液体、温度制御用液体は第二の液体、インクジェット用基板はヘッド用基板、インク吐出口は吐出口、インク供給口は供給口、供給用通路は第一の液通路、排出用通路は第二の液通路とそれぞれ把握できる。
【0047】
以上の液体吐出ヘッドは、上述のように、少なくとも流路形成部材とヘッド用基板を含み、前記液循環機構を備える。流路形成部材は、インク等の第一の液体が流れる第一の液流路と、温度制御に用いられる第二の液体が流れる第二の液流路と、を構成する。ヘッド用基板は、第一の液流路に第一の液体を供給するための供給口と、第二の液流路に第二の液体を供給するための第一の液通路と、第二の液流路から第二の液体を排出するための第二の液通路と、を有する。本発明の構成とすることにより、流路形成部材内に形成された第二の液流路内に第二の液体を流すことができ、インクジェット記録ヘッド、特に吐出素子基板の温度を制御することができる。また、より好ましくは第二の液体を温度制御機構を用いて冷却して循環させることにより、吐出エネルギー発生素子で発生した熱で温度が高くなるインクジェット記録ヘッドを有効に冷却することができる。なお、本発明は冷却用に限定されるものではない。例えば、温度制御機構を用いて第二の液体を温めて循環させることにより、インクジェット記録ヘッドを適温に調整することもできる。
【0048】
流路形成部材は、特に限定されるものではないが、空間的にそれぞれ連通する吐出口及び第一の液流路からなるノズル列を複数有することが好ましい。また、ノズル列毎に少なくとも1つの供給口が形成される。図7乃至9では、1つのノズル列に沿って矩形状の開口を有する1つの供給口が形成されている形態が示されているが、1つのノズル列に複数の供給口が形成されていてもよい。
【0049】
また、流路形成部材は第一の液流路の他に温度制御に用いられる第二の液流路を構成する。該第二の液流路は、特に制限されないが、前記ノズル列に沿って、つまりノズル列の長手方向に沿って配置されることが好ましい。また、全てのノズル列の両側に沿って第二の液流路が配置されることが好ましい。
【0050】
第二の液流路の本数は、特に制限されるものではなく、一つ又は2つ以上とすることができる。例えば、図8では、第二の液体が供給される流入口と、第二の液体が排出される排出口とを有する一つの第二の液流路が形成されている。第二の液流路が一つの場合も、全てのノズル列の両側に沿うように配置されることが好ましい。また、第二の液流路は、各吐出エネルギー発生素子から第二の液流路までの水平面上における最短距離(図8のd参照)が略一定であることが好ましい。ヘッド用基板における第一の液通路及び第二の液通路は、一つの第二の液流路に一つずつ形成されていてもよいし、一つの第二の流路に複数形成されていてもよく、特に制限されるものではない。また、液の循環の効率から、第二の流路一つにつき第一の液通路と第二の液通路が一つずつ設けられていることが好ましい。
【0051】
この形態の液体吐出ヘッドは、上述のように、ヘッド用基板は流路形成部材が配置されている面と反対側に凹部を有し、該凹部の底部に全ての供給口がヘッド用基板を貫通するように形成されている。ヘッド用基板と支持部材は、前記供給口と前記導入口とが連通するように、凹部の底部において接合されている。支持部材は、供給口に第一の液体を供給するための導入口を有する。また、支持部材は、ヘッド用基板1の第一の液通路に第二の液体を供給するための第一の液経路と、第二の液通路から第二の液体を排出するための第二の液経路と、を有する。第二の液体は第二の液経路から第一の液経路に液循環機構により送液される。支持部材の導入口には液体を供給するための液体供給部材を有することができる。液体供給部材は、第二の液体を保持する機能を有することもできる。
【0052】
インクジェット用基板に形成される供給用通路及び排出用通路は、特に限定されるものではないが、設計上、RIE等のドライエッチングを用いて垂直に形成されることが好ましいと考えられる。しかし、一般的に用いられるウェハにドライエッチングを用いて貫通口を形成することは時間的な観点やコスト的な観点からあまり好ましくない。一方、インクジェット用基板を全体的に薄くすれば、ドライエッチングでも効率的に貫通口を形成することができる。しかし、インクジェット用基板全体を薄くすると強度が低下するため流路形成部材の応力によりインクジェット用基板に反りが生じ、生産上の障害が大きくなる場合がある。そこで、これらの課題を解決すべく、図7に示すように、インクジェット用基板の流路形成部材が配置される面と反対側の面に凹部を設け、該凹部の底部において支持部材とインクジェット用基板を接合する形態とする。インクジェット用基板に凹部を設ける形態とすることにより、インクジェット用基板の強度を維持しつつ、ドライエッチングを用いて該凹部内にインク供給口、供給用通路及び排出用通路を効率的に形成することができる。より具体的には、インクジェット用基板の端部は所定の厚みを有するため強度を維持することができ、さらにインク供給口や供給用通路などは基板が薄くなった部分の凹部の底部に形成するためドライエッチングを用いて開口形状を小さくすることができる。
【0053】
また、本形態は、基板強度を維持したまま、インク供給口の開口を小さくすることができるため、ノズルの高密度化やインクジェット記録ヘッドの小型化にも有利である。つまり、従来、インク供給口は一般的にシリコン基板の結晶異方性エッチングにより形成されていたが、結晶異方性エッチングは所定の傾斜をもってエッチングが進行するため、インク供給口の開口形状が大きくなる。また、ドライエッチングでインク供給口を垂直に形成するには上述のように時間的な観点やコスト的な観点から好ましくなかった。また、インクジェット用基板全体を薄くしてインク供給口の開口形状を小さくしようとすると、上述のように強度が低下し、インクジェット用基板に反りが発生しやすくなる。そこで、本実施形態では、凹部の底部に全てのインク供給口を配置することにより、インク供給口の開口形状を小さくでき、その分ノズルの高密度化やインクジェット記録ヘッドの小型化を図ることができる。また、インクジェット用基板全体を薄くするのではなく、基板の外周側は所定の厚みを有することで強度を維持できるため、反りの発生等の問題は生じない。特に本発明は、インク流路とは別に温度制御用流路を流路形成部材に形成するため、インク供給口や液通路の開口を小さくできる本形態は特に好ましい技術である。
【0054】
図7において、上述のように、インクジェット用基板1と支持部材2とが接着剤4により接合されている。インクジェット用基板1は流路形成部材3が配置される面と反対側の面に凹部を有し、該凹部の底部において支持部材2と接合されている。全てのインク供給口8、供給用通路11及び排出用通路13は前記凹部の底部にインクジェット用基板を貫通して複数形成されている。インク供給口8、供給用通路11及び排出用通路13はインクジェット用基板1の面方向に対して垂直な側壁を有する貫通口からなる。
【0055】
支持部材2は、インク供給口8にインクを供給するためのインク導入口(導入口)9を有する。また、支持部材2は、インクジェット用基板1の供給用通路11に温度制御用液体を供給するための供給用経路(第一の液経路)12と、排出用通路13から温度制御用液体を排出するための排出用経路(第二の液経路)14と、を有する。温度制御用液体は排出用経路14から供給用経路12に前記液循環機構を用いて送液することができる。
【0056】
支持部材2は、インク供給口8とインク導入口9、供給用通路11と供給用経路12、及び排出用通路13と排出用経路14がそれぞれ連通するように前記凹部の底部においてインクジェット用基板1と接合されている。なお、インクジェット記録ヘッドは、支持部材2のインク導入口9にインクを供給するためにインクを格納するインク供給部材(不図示)を備えることができる。
【0057】
また、本形態においては、上述のように、一つのノズル列について一つのインク供給口8が形成されている。このインク供給口8の開口は凹部の底部にノズル列に沿って矩形状に複数形成されている。また、支持部材2は前記凹部内に納まるように凸部形状を有し、インク導入口9、供給用経路12及び排出用経路14は該凸部の上面に開口を有する。各インク導入口9は接合時に各インク供給口8とそれぞれ連通するように配置され、複数列形成されている。また、支持部材はヘッド用基板の凹部と勘合するような凸部形状を有することが好ましい。このような支持部材は例えば成形法によって作製できる。
【0058】
本形態において、インクジェット用基板は、上述にように、流路形成部材が配置される面と反対側の面(裏面)に凹部が形成される。該凹部の形成方法は、実施形態1で示した通りである。
【0059】
本形態において、流路形成部材は、空間的にそれぞれ連通するインク吐出口及び第一の液流路からなるノズル列を複数有する。ノズル列毎に少なくとも1つの供給口が形成されており、前記凹部の底部に全ての供給口が形成されている。また、図7乃至9では、1つのノズル列に沿って矩形状の開口を有する1つの供給口が形成されている形態を示したが、これに限定されるものではなく、1つのノズル列に複数の供給口が形成されていてもよい。1つのノズル列に複数の供給口が形成される場合、例えば、支持部材は、同じノズル列に連通する各供給口について導入口をそれぞれ設ける構成としてもよく、また、ノズル列に連通する複数の供給口について1つの導入口を設ける構成としてもよい。
【0060】
また、インク供給口8、供給用通路11及び排出用通路13はドライエッチングで形成することが好ましい。ドライエッチングで形成することにより、側面をインクジェット用基板の面方向に対して垂直に形成することができ、開口形状を小さくすることができる。また、インク供給口8、供給用通路11及び排出用通路13は、ドライエッチング以外にも例えばレーザーを用いて形成することができる。
【0061】
(実施形態3)
本実施形態では、実施形態2において温度制御用流路(第二の流路)が冷却用流路である形態について図7を参照して説明する。
【0062】
インクジェット用基板1は、例えば、厚さ0.3〜1.0mmのシリコン基板を用いて構成されている。インクジェット用基板1の表面側には、複数のヒーター等の吐出エネルギー発生素子7が形成されている。また、インクジェット用基板1の上には流路形成部材3が形成されており、流路形成部材3はインク流路5及び吐出口6を構成している。さらに、流路形成部材3は、冷却用媒体が流れるための冷却用流路10を構成している。インクジェット用基板1を構成するシリコン基板は<100>面の結晶方位を有する。吐出エネルギー発生素子7はインク吐出口6の下方に配置されている。インク流路5及びインク吐出口6は列状に配置され、複数のノズル列を構成している。冷却用流路10は、そのノズル列周辺およびノズル列間に配置されている。インクジェット用基板1の裏面には、結晶異方性エッチングにて凹部が形成されており、これにより露出した<100>面が支持部材との接合面となっている。また、ノズル列毎に接合面から表面まで貫通するインク供給口8が形成されている。また、冷却用流路10へ冷却用媒体を供給するための供給用通路11及び冷却用流路10から冷却用媒体を排出するための排出用通路13も、接合面から表面まで貫通して冷却用流路の一部へ連通するように形成されている。
【0063】
支持部材2には、インク供給口8にインクを供給するためのインク導入口9が形成されている。また、インクジェット用基板1のインク供給口8に対応するように、支持部材2とインクジェット用基板1が接着剤4を用いて接合される。また、支持部材2には、冷却用媒体を供給用通路11へ供給するための供給用経路12と、排出用通路13から排出するための排出用経路14が、形成されている。
【0064】
冷却用媒体としては、熱容量が大きく、熱的に安定な液体が選定可能であり、例えば水が適用可能である。また、インク吐出口6より飛翔させて記録媒体に記録させるインクを冷却用媒体としても良い。
【0065】
冷却用媒体の送液は、流入口より加圧して排出口より冷却用媒体を押し出して送液してもよく、排出口より冷却用媒体を吸引することで送液してもよい。動力源としては液体を輸送可能な各種ポンプが適用可能である。ポンプはインクジェットプリンタの本体に設け、インクジェットヘッド1の冷媒用開口13に接続されることができる。
【0066】
以上のようにして、冷却用媒体を循環することが可能となるインクジェット記録ヘッドが得られ、発泡に伴う熱の排出が飛躍的に向上する。そのため、単位時間あたりのヘッドへの投入エネルギーが増大しても、記録中のヘッド温度上昇を抑制することができるようになる。したがって、ページ毎の吐出量が変動したり、高温において吐出が不安定になる等の問題の発生が抑制され、連続記録性や記録信頼性を向上することができる。
【0067】
また、図8に示すように、ノズル列を囲うように配された冷却用流路と発熱の起点となるヒーター7との基板の面方向(水平方向)における最短距離(図8のd参照)がそれぞれのヒーターにおいて一定になるように冷却用流路10を配置することが好ましい。なお、図8においては吐出口6の直下にヒーター7が存在している。該距離dが一定になることにより、熱の排出が均一化され、ノズル毎の放熱性を整合させることができる。
【0068】
(実施形態4)
本発明では、前記ヘッド基板の上に、吐出エネルギー発生素子の上方の発泡部から第二の液流路に亘って熱拡散層を配置することができる。つまり、吐出エネルギー発生素子の上に金属からなる熱拡散層が形成されており、該熱拡散層が前記第二の液流路まで展開する構成とすることができる。このような構成とすることにより、吐出エネルギー発生素子で発生した熱をより有効に第二の液流路に伝えることができる。また、前記熱拡散層は耐キャビテーション膜を兼ねることができる。
【0069】
以下、本実施形態について詳細に説明する。
【0070】
図10は、図7の点線枠Xにおける部分の拡大断面図である。図10において、インクジェット用基板1はシリコン基板の表面側に絶縁膜41およびパッシベーション膜42が形成されており、吐出エネルギー発生素子としてのヒーター7はそれら膜に内包されている。絶縁膜41およびパッシベーション膜42は、それぞれの機能を満足するような膜より形成され、例えばシリコン酸化膜又はシリコン窒化膜により形成することができる。
【0071】
ここで、熱発泡によるインク吐出方式においては、発泡した泡が消泡する際にキャビテーションが発生し、ヒーター7を破壊し、断線させる場合がある。そのキャビテーションによる破壊を軽減するために、パッシベーション膜42上に耐キャビテーション膜を設けることが一般的であり、本発明においても、パッシベーション膜42上に耐キャビテーション膜43を形成することが好ましい。
【0072】
耐キャビテーション膜としては、強度や柔軟性の観点から、金属を用いて形成される。また、金属の中でも、耐キャビテーション膜はTa(タンタル)を用いて形成されることが好ましい。
【0073】
耐キャビテーション膜43は金属より形成されるために、周囲に存在する膜(絶縁膜41、パッシベーション膜42)よりも格段に熱伝導性が高い。したがって、図10に示すように、耐キャビテーション膜43をヒーター7の上方から冷却用流路10に接する領域まで展開して配置することで、ヒーター7より発生した熱を積極的に冷却用流路10へ拡散させることが可能となる。そのため、冷却効率がさらに向上し、連続吐出における印字品位の劣化を低減可能となる。耐キャビテーション膜は、ヒーター7の上方の発泡部から冷却用流路10まで展開し、冷却用流路10の底面を構成することがより好ましい。
【0074】
(実施形態5)
図8の平面図は一実施形態を示す図であって、冷却用流路10のレイアウトや供給用通路11及び排出用通路13の配置位置はかかる機能を満足すれば良い。例えば、図11(a)又は(b)に示すように冷却用流路10、供給用通路11および排出用通路13を配置することができる。
【0075】
図11(a)では、複数の冷却用流路10がノズル列の両側に沿って配置されている。各冷却用流路10の末端部分に供給用通路11及び排出用通路13が配置されている。このような構成とすることにより、流抵抗を低減することができ、冷却用媒体の送液が容易になる。
【0076】
図11(b)では、冷却用流路10が1つ形成されており、供給用通路11及び排出用通路13は近接して配置されている。冷却用流路10は、供給用通路11側の流入口から各ノズル列の両側に沿って延伸して排出用通路13側の排出口に到達し、各ノズル列を略的に囲うように配置されている。なお、図11(b)のように、ノズル列間に2本以上の冷却用流路が形成されてもよい。
【0077】
(実施形態6)
図12(a)〜(g)は本実施形態のインクジェット記録ヘッドの製造方法を説明するための工程断面図である。
【0078】
まず、図12(a)に示すように、インクジェット用基板101を用意する。インクジェット用基板1には、ヒーター102およびそれに接続される駆動回路(不図示)が形成されている。
【0079】
次に、図12(b)に示すように、インク流路および冷却用流路10の流路型材103を形成する。流路型材103は、後工程で除去可能である必要があり、例えばアルミニウムや溶解可能な樹脂などを用いて形成できる。なお、インク流路の型材を第一の型材、冷却用流路の型材を第二の型材とも称す。
【0080】
次に、図12(c)に示すように、流路型材103を被覆するように、有機樹脂をスピンコートしてベークすることで、流路形成部材104を形成する。その後、インク吐出口105を形成する。インク吐出高05は、流路形成部材104を構成する有機樹脂が感光性を有しているならば、露光、現像により吐出口を形成することができ、また、感光性を有していないならば、レーザー加工やフォトリソ/エッチングにより形成することができる。
【0081】
また、流路型材103の上に流路形成部材104を形成する場合、ノズル列端部において、流路形成部材の厚さが薄くなる場合があり、そのため、ノズル列内での均一な発泡を阻害してしまう場合がある。この課題に対して、特開平10−157150号公報ではノズル列の外側に土台となるパターンを更に設け、流路形成部材の平坦性を改善している。本件においては、冷却用流路となる個所に形成される流路型材がその土台を兼ねることが可能である。
【0082】
次に、図12(d)に示すように、インクジェット用基板1の裏面に凹部106を設け、支持部材との接合面を形成する。凹部の形成としては、アルカリ溶液を用いた結晶異方性エッチングを好適に用いることができる。結晶異方性エッチングの際、流路形成部材104を保護するために、保護膜を形成してもよい(不図示)。
【0083】
次に、図12(e)に示すように、インク供給口107、供給用通路108および排出用通路109をインクジェット用基板を貫通するように形成する。これらの貫通口の形成方法としては、所定の開口パターンを有するフォトレジストからなるマスクを用いて、ドライエッチングする方法が挙げられる。ドライエッチングとしては、深堀シリコン加工技術の一つである、ボッシュプロセスが好ましい。
【0084】
次に、図12(f)に示すように、流路型材103をインク供給口107、供給用通路108、排出用通路109、およびインク吐出口105から溶解除去し、インク流路110及び冷却用流路111を形成する。除去剤としては、型材の材料や流路形成部材等の材料を考慮して選択され、型材がアルミニウムであれば酸やアルカリの溶液を用いることができ、有機樹脂であれば該有機樹脂を溶出可能な溶媒を用いることができる。
【0085】
最後に、図12(g)に示すように、支持部材112を凹部106の底面でインクジェット用基板101と接着剤116を用いて接合する。支持部材112は、インクをインク供給口107に供給するためのインク導入口113と、冷却用媒体を供給用通路108へ供給するための供給用経路114と、冷却用媒体を排出用通路109から排出するための排出用経路115と、を有する。支持部材112は、凸部形状を有し、該凸部の上面にインク導入口113、供給用経路114及び排出用経路115がそれぞれ開口し、該凸部の上面が前記凹部の底面と接合する。
【0086】
(実施例)
以下に、インクジェット記録ヘッドの製造方法の具体例について図4及び5を参照して説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
図4(A)は、シリコンを用いたインクジェット用基板101及び流路形成部材104を示している。インクジェット用基板101の表面側には、吐出エネルギー発生素子としてのヒーター102及びエッチングストップ層120が形成されている。また、ヒーター102及びエッチングストップ層120の上には絶縁層(不図示)が形成されている。エッチングストップ層120としては、500nmのアルミニウムをスパッタリングにより形成する。絶縁層としては、700nmの酸化膜をプラズマCVDにより形成する。インクジェット用基板101の厚さは700μmとする。また、インクジェット用基板の裏面には600nmの熱酸化膜106を形成する。
【0088】
また、インクジェット用基板の表面側には、インク流路の型材103が形成されている。型材103はポジ型レジストを用いる。そして、型材103及びインクジェット用基板101の上に流路形成部材104が形成されている。また、流路形成部材とインクジェット用基板との密着性を向上するためのポリエーテルアミド樹脂層からなる密着層(不図示)も形成することができる。
【0089】
さらに、インクジェット用基板の裏面側には、凹部を形成するための裏面マスク107がポリエーテルアミド樹脂を用いて形成されている。
【0090】
次に、図4(B)に示すように、インクジェット用基板101の表面及び流路形成部材104をアルカリ溶液のエッチング溶液から保護するために、保護レジスト108を形成する。保護レジスト108としては、東京応化工業社製の「OBC」を用いる。
【0091】
次に、図4(C)に示すように、インクジェット用基板の裏面を83℃のTMAH22wt%溶液に12時間浸漬することにより裏面マスク107を用いて結晶異方性エッチングを行い、接合面109を有する凹部を形成する。凹部の深さ、つまり元の裏面位置から接合面109までの距離は、600μmとする。
【0092】
次に、図4(D)に示すように、裏面マスク107及び熱酸化膜106を除去する。
【0093】
次に、図5(E)に示すように、インク供給口用マスク110を形成する。インク供給口用マスク110の材料は、感光性材料(AZP4620「商品名」、AZエレクトロニックマテリアルズ社製)を用いる。また、インク供給口用マスク110は、スプレー装置(EVG社製、EVG150「商品名」)を使って上記材料を均一に塗布した後、露光及び現像処理を行い、インク供給口に対応した開口パターンを形成する。
【0094】
次に、図5(F)に示すように、インク供給口用マスク110を用いてドライエッチングを行い、インクジェット用基板101にインク供給口111を形成する。ドライエッチングとしてはRIEを用いる。
【0095】
次に、図5(G)に示すように、インクジェット用基板101の裏面に形成したインク供給口用マスク110を除去し、続いてエッチングストップ層120及び絶縁膜を除去する。
【0096】
次に、図5(H)に示すように、保護レジスト108を除去する。また、型材103を除去しインク流路112を形成し、吐出素子基板を作製する。
【0097】
上記製造方法により得られた吐出素子基板と支持部材とをインク供給口111とインク導入口が連通するように凹部の底面で接合することにより、インクジェット記録ヘッドを得る(図1参照)。支持部材としてはアルミナを用いる。
【0098】
なお、インクジェット用基板は、ウェハ形態で図4及び5に示す工程を経過した後、ダイシング工程により切り出され、図示される個片となる。その後、支持部材のインク導入口の周囲に接着剤を塗布した後、インクジェット用基板20と接合する。
【0099】
その他、インクジェット用基板及び支持部材に対する電気的接続等(不図示)を実施する。
【0100】
上記の製造方法により製造したインクジェット記録ヘッドを用いて印字耐久試験を実施したところ、各色間の封止の信頼性も高く、また、高速印字をしても記録信頼性の高い良好な結果が得られた。
【0101】
また、本発明の効果を具体的に示すため、上記製造方法により形成したインクジェット記録ヘッドの寸法を図1及び図5を参照して具体的に示す。
【0102】
本実施例におけるインクジェット記録ヘッドの寸法を図1を用いて以下に示す。インク供給口の開口寸法aは100μmである。隣接するノズル列のインク供給口間の距離bは1100μmである。端に位置するインク供給口から裏面側凹部端部までの水平方向の距離cは300μmである。裏面側凹部端部からインクジェット用基板の端部までの距離dは500μmである。そして、インクジェット用基板全体の幅wは4100μmとなる。この際、接合部の幅Wとして、800μmを確保することが可能となる。
【0103】
これに対して、従来のインクジェット記録ヘッドの断面図を図6に示す。従来は、インクジェット用基板は、凹部以外の裏面(図6ではインクジェット用基板の最下面)において支持部材と接合されている。そのため、図1の接合部の幅Wと等しいW’を確保する為には、図6に示すようにインクジェット用基板全体が大きくなってしまう。具体的には、接合部の幅W’を上記実施例の寸法と同様に800μmとする。この場合、図6において、インク供給口の開口寸法a’は100μmである。隣接するノズル列のインク供給口間の距離b’はシリコン基板の結晶方位の影響で大きくなってしまい、1950μmとなる。また、c’は150μmである。d’は500μmである。そして、インクジェット用基板全体の幅w’は5500μmとなり、大きくなってしまう。
【0104】
以上から理解できるように、本発明により、支持部材とヘッド用基板との接地面積を十分に確保しつつ、ヘッド用基板のサイズを小さくすることが可能となる。
【符号の説明】
【0105】
1、101 インクジェット用基板(ヘッド用基板)
2、112 支持部材
3、104 流路形成部材
4、116 接着剤
5、110、112 インク流路(第一の液流路)
6、105 インク吐出口(吐出口)
7、102 吐出エネルギー発生素子
8、108、111 インク供給口(供給口)
9、107 インク導入口(導入口)
10、111 温度制御用流路(第二の液流路)
11、108 供給用通路(第一の液通路)
12、114 供給用経路(第一の液経路)
13、109 排出用通路(第二の液通路)
14、115 排出用経路(第二の液経路)
41 絶縁膜
42 パッシベーション膜
43 耐キャビテーション膜
103 流路型材
109 接合面
120 エッチングストップ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の液体を吐出するための吐出口と該吐出口に連通する第一の液流路とを構成し、空間的にそれぞれ連通する前記吐出口及び前記第一の液流路からなるノズル列を有する流路形成部材と、
前記第一の液体を吐出するためのエネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子を有し、前記第一の液流路に前記第一の液体を供給するための供給口が形成されたヘッド用基板と、
前記供給口に前記第一の液体を供給するための導入口を有する支持部材と、
を含む液体吐出ヘッドであって、
前記ヘッド用基板は前記流路形成部材が配置されている面と反対側に凹部を有し、
該凹部の底部に前記供給口が前記ヘッド用基板を貫通するように形成されており、
前記ヘッド用基板と前記支持部材は、前記供給口と前記導入口とが連通するように、前記凹部の底部において接合されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記供給口は前記ノズル列に沿って形成されている請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記凹部は、異方性エッチングにより形成される請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記凹部は、結晶異方性エッチングにより形成される請求項1〜3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記ヘッド用基板は、<100>面の結晶方位を有するシリコン基板を用いて構成されている請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記凹部の底部は前記シリコン基板の前記結晶異方性エッチングより形成された<100>面であり、該<100>面を前記ヘッド用基板と前記支持部材との接合面とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記ノズル列は複数設けられており、前記供給口は前記ノズル列毎に設けられている請求項1〜6のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記流路形成部材は、さらに、第二の液体が流れる第二の液流路を有し、
前記ヘッド用基板は、さらに、前記第二の液流路に前記第二の液体を供給するための第一の液通路と、前記第二の液流路から前記第二の液体を排出するための第二の液通路と、を有し、
前記流路形成部材と前記ヘッド用基板は、前記第二の液流路と前記第一の液通路、前記第二の液流路と前記第二の液通路、及び前記第一の液流路と前記供給口が、それぞれ連通するように形成されている請求項1〜7のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記第二の液流路は、前記第二の液体が該第二の液流路に供給される流入口と、前記第二の液体が該第二の液流路から排出される排出口と、を有し、
前記流入口は前記第一の液通路に接続し、前記排出口は前記第二の液通路に接続する請求項8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記吐出エネルギー発生素子の上に金属からなる熱拡散層が形成されており、該熱拡散層は前記第二の液流路まで展開している請求項8又は9に記載の液体吐出ヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−978(P2012−978A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99580(P2011−99580)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】