説明

液体吐出装置及びプログラム

【課題】吐出口から吐出される第1液体が増粘するのを抑制しつつ、メンテナンスにより消費される第1液体の消費量を低減する。
【解決手段】加湿メンテナンスを行うとき(S101:YES)、水の残量が第1所定量未満でなければ(S102:NO)、メンテナンス制御部は、吐出口と対向しつつキャップによって外部空間に対して封止された吐出空間への加湿空気の供給時間(加湿時間)を「通常」に決定する。水の残量が第2所定量未満でなければ(S104:NO)、メンテナンス制御部は、加湿空気の供給時間を「短縮」に決定する。このとき、メンテナンス制御部は、フラッシングにより吐出口14aの増粘したインクが全て排出されるように、フラッシングの吐出量を増加させる方向に補正する(S105)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出口から液滴を吐出する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出ヘッドのノズル内の液体(第1液体)が増粘するのを防止するために、ノズルを封止したキャップ内の空気を、空調装置を用いて加湿する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−212138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の技術によると、加湿するための水が消費されて無くなると、キャップ内の空気を加湿することができなくなり、ノズル内の液体が増粘し易くなる。この場合、ノズル内の増粘した液体を予備吐出したり、ポンプなどでノズルから液体を強制的に排出したりする必要があり、液体を多量に消費してしまう。
【0005】
ここで、キャップ内の空気を加湿することでノズル内の液体の増粘を抑制又は解消する際、キャップ内の湿度を十分高くできない等の理由によりノズル内の液体が所望の粘度になるまで十分に加湿できない場合は、ノズル内の増粘した液体を予備吐出する必要があるが、加湿と予備吐出とを併用することで、加湿をせずに予備吐出のみにより増粘を解消する場合と比較して、予備吐出により消費される液体を飛躍的に減少できることを実験的に確認した。その推定理由を、図13に基づき説明する。図13は、平衡状態における湿度と液体粘度との関係を示している。現状の液体粘度が理想状態の液体粘度(所望の粘度)に対して高い値(増粘)であり、その粘度差を解消するため加湿を行う場合、湿度差に対して粘度差が指数関数的に変化するため、加湿により理想状態との湿度差を少なくできれば粘度差(予備吐出する液体量に相当)を飛躍的に小さくできる。
【0006】
本発明の目的は、吐出口から吐出される第1液体が増粘するのを抑制しつつ、メンテナンスにより消費される第1液体の消費量を低減することができる液体吐出装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体吐出装置は、記録媒体に画像を形成する第1液体を吐出するための吐出口が形成された液体吐出ヘッドと、前記吐出口と対向する吐出空間を外部空間から封止する封止状態と、前記吐出空間を外部空間に対して封止しない非封止状態とを取り得るキャップ手段と、第2液体を貯溜する第2タンクを有しており、前記第2タンクに貯溜された第2液体により加湿された空気を前記吐出空間内に供給する空気供給手段と、前記第2タンクに貯溜された第2液体の残量を検知する第2液体検知手段と、前記吐出口から第1液体を排出させる排出手段と、前記キャップ手段、前記空気供給手段及び前記排出手段を制御する制御手段とを備えている。前記制御手段は、前記吐出空間を前記封止状態とするように前記キャップ手段を制御した後に、前記吐出空間内に前記空気が供給されるように前記空気供給手段を制御し、記録媒体に画像を形成するために前記吐出口から記録媒体へ第1液体を吐出させるのに先だって、前記吐出口から第1液体が排出されるように前記排出手段を制御し、前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が第1所定量未満になったとき、前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が前記第1所定量以上であるときと比較して、前記吐出空間内に供給される前記空気の量を減少させると共に、排出される第1液体の量を増加させる。
【0008】
本発明のプログラムは、記録媒体に画像を形成する第1液体を吐出するための吐出口が形成された液体吐出ヘッド、前記吐出口と対向する吐出空間を外部空間から封止する封止状態と、前記吐出空間を外部空間に対して封止しない非封止状態とを取り得るキャップ手段、第2液体を貯溜する第2タンクを有しており、前記第2タンクに貯溜された第2液体により加湿された空気を前記吐出空間内に供給する空気供給手段、前記第2タンクに貯溜された第2液体の残量を検知する第2液体検知手段、及び、前記吐出口から第1液体を排出させる排出手段を備えている液体吐出装置に係る、前記キャップ手段、前記空気供給手段及び前記排出手段を制御する制御手段としてコンピュータを機能させるプログラムである。前記制御手段は、前記吐出空間を前記封止状態とするように前記キャップ手段を制御した後に、前記吐出空間内に前記空気が供給されるように前記空気供給手段を制御し、記録媒体に画像を形成するために前記吐出口から記録媒体へ第1液体を吐出させるのに先だって、前記吐出口から第1液体が排出されるように前記排出手段を制御し、前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が第1所定量未満になったとき、前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が前記第1所定量以上であるときと比較して、前記吐出空間内に供給される前記空気の量を減少させると共に、排出される第1液体の量を増加させる。
【0009】
本発明によると、第2液体の残量が第1所定量未満になったときは、吐出空間内に供給される空気の量を減少させて第2液体の消費量を低減すると共に、排出される第1液体の量を増加させるため、吐出空間内に加湿された空気を供給した後に吐出口から第1液体を排出させることができる期間を長くすることができる。これにより、吐出口の第1液体が増粘するのを抑制しつつ、メンテナンスによる第1液体の消費量を低減することができる。
【0010】
本発明においては、前記制御手段が、前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が前記第1所定量未満の第2所定値未満になったとき、前記吐出空間内に前記空気が供給されないように前記空気供給手段を制御することが好ましい。これによると、第2液体タンクに第2所定値未満の第2液体を残しておくことができるため、例えば、液体吐出装置が長時間休止するときなど、より優先度の高い状況において、吐出空間に第2液体により加湿した空気を供給することができる。
【0011】
このとき、前記制御手段に対し加湿指令を入力する加湿入力手段をさらに有し、前記制御手段は、前記加湿入力手段による加湿指令が入力されたとき、前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量とは無関係に、前記吐出空間内に前記空気が供給されるように前記空気供給手段を制御することがより好ましい。これによると、第2液体の残量に関わらず強制的に吐出空間内を加湿することができる。
【0012】
本発明においては、前記液体吐出ヘッドに供給される第1液体を貯溜する第1液体タンクと、前記第1液体タンクに係る第1液体の残量を検知する第1液体検知手段とをさらに備えており、前記制御手段は、前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が前記第1所定量未満であり、且つ、前記第1液体検知手段が検知した第1液体の残量が第3所定値未満であるときの前記吐出空間内に供給される前記空気の量を、前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が前記第1所定量以上であり、且つ、前記第2検知手段が検知した第2液体の残量が前記第1所定量以上であるときの前記吐出空間内に供給される前記空気の量と同じにすることが好ましい。これによると、記録媒体に対する画像の記録に対して第1液体を優先的に使用することができる。
【0013】
また、本発明においては、前記制御手段が、前記吐出空間が前記封止状態となってから所定時間が経過する毎に、前記吐出空間内に前記空気が供給されるように前記空気供給手段を制御することが好ましい。これによると、長期間にわたり画像形成がされない場合であっても、吐出口の液体が増粘するのを抑制することができる。
【0014】
さらに、本発明においては、前記制御手段は、前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が前記第1所定量未満になったとき、前記吐出口の第1液体の濃度が前記吐出口から第1液体を安定して吐出させることができる適正濃度を超えるように、前記吐出空間内に供給される前記空気の量を減少させることが好ましい。これによると、第2液体の消費量を確実に低減することができる。
【0015】
加えて、本発明においては、前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が前記第1所定量未満になったことを報知する報知手段をさらに備えていることが好ましい。これによると、第2液体の残量が残り少ないことをユーザが把握することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、第2液体の残量が第1所定量未満になったときは、吐出空間内に供給される空気の量を減少させて第2液体の消費量を低減すると共に、排出される第1液体の量を増加させるため、吐出空間内に加湿された空気を供給した後に吐出口から第1液体を排出させることができる期間を長くすることができる。これにより、吐出口の第1液体が増粘するのを抑制しつつ、メンテナンスによる第1液体の消費量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット式プリンタの内部構造を示す概略側面図である。
【図2】図1のプリンタに含まれるインクジェットヘッドの流路ユニット及びアクチュエータユニットを示す平面図である。
【図3】図2の一点鎖線で囲まれた領域IIIを示す拡大図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿った部分断面図である。
【図5】図1のプリンタに含まれるヘッドホルダ及び加湿機構を示す概略図である。
【図6】図5の一点鎖線で囲まれた領域VIを示す部分断面図である。
【図7】図1のプリンタに含まれる全ヘッドと加湿機構との接続形態を示す概略図である。
【図8】図1のプリンタに含まれるコントローラの機能ブロック図である。
【図9】図2のインクジェットヘッドから吐出されるインクの濃度と吐出空間の湿度との関係を示したグラフである。
【図10】図1のプリンタの印刷動作を示すフローチャートである。
【図11】本発明の変形例を説明するための図である。
【図12】平衡状態における湿度と液体粘度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
先ず、図1を参照し、本発明の実施形態に係るインクジェット式プリンタ1の全体構成について説明する。
【0020】
プリンタ1は、直方体形状の筐体1aを有する。筐体1aの天板上部には、排紙部31が設けられている。筐体1aの内部空間は、上から順に空間A,B,Cに区分できる。空間A及びBには、排紙部31に連なる用紙搬送経路が形成されている。空間Cには、インクジェットヘッド10に対するインク供給源としてのインクカートリッジ39が収容されている。また、筐体1aには、ユーザインターフェースとして機能する図示しないタッチパネル47(図8参照)が設置されている。
【0021】
空間Aには、4つのヘッド10、用紙Pを搬送する搬送ユニット21、用紙Pをガイドするガイドユニット、加湿メンテナンスに用いられる加湿機構50(図5参照)等が配置されている。空間Aの上部には、プリンタ1各部の動作を制御してプリンタ1全体の動作を司るコントローラ1pが配置されている。
【0022】
コントローラ1pは、外部装置から供給された画像データに基づいて、プリンタ1各部による用紙Pの搬送動作、用紙Pの搬送に同期したインク吐出動作、吐出性能の回復・維持に係るメンテナンス動作等を制御する。メンテナンス動作は、フラッシング(画像データとは異なるフラッシングデータに基づいてヘッド10のアクチュエータを駆動することにより吐出口14aからインクを強制的に吐出させる動作であり、一部〜全ての吐出口14aにおいて行われるもの)、パージ(ポンプ等によりヘッド10内のインクに圧力を付与することにより全吐出口14aからインクを強制的に吐出させる動作)、ワイピング(フラッシング又はパージの後にワイパーにより吐出面10a上の異物を払拭する動作)、加湿メンテナンス(キャップ40により画定された吐出空間S1(図5参照)内に加湿空気を供給する動作)等を含む。なお、加湿メンテナンスについては後に詳述する。
【0023】
搬送ユニット21は、ベルトローラ6,7、両ローラ6,7間に巻回されたエンドレスの搬送ベルト8、搬送ベルト8の外側に配置されたニップローラ4及び剥離プレート5、搬送ベルト8の内側に配置されたプラテン9等を有する。ベルトローラ7は、駆動ローラであって、搬送モータ(図示せず)の駆動により回転し、図1中時計回りに回転する。ベルトローラ7の回転に伴い、搬送ベルト8が図1中の太矢印方向に走行する。ベルトローラ6は、従動ローラであって、搬送ベルト8が走行するのに伴って、図1中時計回りに回転する。ニップローラ4は、ベルトローラ6に対向配置され、搬送方向上流側から供給されてきた用紙Pを搬送ベルト8の外周面である支持面8aに押さえ付ける。その後用紙Pは、搬送ベルト8の走行に伴い、支持面8a上に支持されつつ、ベルトローラ7に向けて搬送される。剥離プレート5は、ベルトローラ7に対向配置され、用紙Pを支持面8aから剥離し、さらに搬送方向下流側へと導く。プラテン9は、4つのヘッド10に対向配置され、搬送ベルト8の上側ループを内側から支える。
【0024】
各ヘッド10は、主走査方向に長尺な略直方体形状を有するラインヘッドである。各ヘッド10の下面は、多数の吐出口14a(図3及び図4参照)が開口した吐出面10aである。印刷に際して、4つのヘッド10の吐出面10aからそれぞれブラック、マゼンタ、シアン、イエローのインクが吐出される。4つのヘッド10は、副走査方向に所定ピッチで並び、ヘッドホルダ3を介して筐体1aに支持されている。ヘッドホルダ3は、吐出面10aが搬送ベルト8の上側ループの支持面8aに対向し、且つ、吐出面10aと支持面8aとの間に印刷に適した所定の間隙が形成されるように、ヘッド10を保持している。また、ヘッドホルダ3には、ヘッド10毎に、吐出面10aの外周を覆う環状のキャップ40が設けられている。ヘッド10及びヘッドホルダ3のより具体的な構成については後に詳述する。ここで、副走査方向とは、搬送ユニット21による用紙Pの搬送方向に平行な方向であり、主走査方向とは、水平面に平行且つ副走査方向に直交する方向である。
【0025】
ガイドユニットは、搬送ユニット21を挟んで配置された、上流側ガイド部及び下流側ガイド部を含む。上流側ガイド部は、2つのガイド27a,27b及び一対の送りローラ26を有する。当該ガイド部は、給紙ユニット1b(後述)と搬送ユニット21とを繋ぐ。下流側ガイド部は、2つのガイド29a,29b及び二対の送りローラ28を有する。当該ガイド部は、搬送ユニット21と排紙部31とを繋ぐ。
【0026】
空間Bには、給紙ユニット1bが筐体1aに対して着脱可能に配置されている。給紙ユニット1bは、給紙トレイ23及び給紙ローラ25を有する。給紙トレイ23は、上方に開口した箱体であり、複数種類のサイズの用紙Pを収納可能である。給紙ローラ25は、給紙トレイ23内で最も上方にある用紙Pを送り出し、上流側ガイド部に供給する。
【0027】
上述したように、空間A及びBに、給紙ユニット1bから搬送ユニット21を介して排紙部31に至る用紙搬送経路が形成されている。外部装置から受信した記録指令に基づいて、コントローラ1pは、給紙ローラ25用の給紙モータ(図示せず)、各ガイド部の送りローラ用の送りモータ(図示せず)、搬送モータ等を駆動する。給紙トレイ23から送り出された用紙Pは、送りローラ26によって、搬送ユニット21に供給される。用紙Pが各ヘッド10の真下を副走査方向に通過する際、順に吐出面10aからインクが吐出されて、用紙P上にカラー画像が形成される。インクの吐出動作は、用紙センサ32からの検出信号に基づいて行われる。用紙Pは、その後剥離プレート5により剥離され、2つの送りローラ28によって上方に搬送される。さらに用紙Pは、上方の開口30から排紙部31に排出される。
【0028】
空間Cには、インクユニット1cが筐体1aに対して着脱可能に配置されている。インクユニット1cは、カートリッジトレイ35、トレイ35内に並んで収納された4つのカートリッジ39、及び、図示しない水タンク54(図5参照)を有する。各カートリッジ39は、インクチューブ(図示せず)を介して、対応するヘッド10にインクを供給する。また、各カートリッジ39には、カートリッジ39に貯留されているインク残量を検出するインク残量センサ39aが設置されている(図8参照)。
【0029】
次に、図2〜図4及び図7を参照し、ヘッド10の構成について説明する。なお、図3では、アクチュエータユニット17の下側にあって点線で示すべき圧力室16及びアパーチャ15を実線で示している。
【0030】
ヘッド10は、上下に積層されたリザーバユニット11及び流路ユニット12(図7参照)、流路ユニット12の上面12xに固定された8つのアクチュエータユニット17(図2参照)、各アクチュエータユニット17に接合されたFPC(平型柔軟基板)19(図4参照)等を有する。リザーバユニット11には、カートリッジ39(図1参照)から供給されたインクを一時的に貯留するリザーバを含むインク流路が形成されている。流路ユニット12には、上面12xの開口12y(図2参照)から下面(吐出面10a)の各吐出口14aに至るインク流路が形成されている。アクチュエータユニット17は、吐出口14a毎の圧電型アクチュエータを有する。
【0031】
リザーバユニット11の下面には凹凸が形成されている。凸部は、流路ユニット12の上面12xにおけるアクチュエータユニット17が配置されていない領域(図2に示す開口12yを含む二点鎖線で囲まれた領域)に接着されている。凸部の先端面は、リザーバに接続し且つ流路ユニット12の各開口12yに対向する開口を有する。これにより、上記各開口を介して、リザーバ及び個別インク流路14が連通している。凹部は、流路ユニット12の上面12x、アクチュエータユニット17の表面、及びFPC19の表面と、若干の隙間を介して対向している。
【0032】
流路ユニット12は、略同一サイズの矩形状の9枚の金属プレート12a,12b,12c,12d,12e,12f,12g,12h,12i(図4参照)を互いに積層し接着することにより形成された積層体である。流路ユニット12のインク流路は、図2、図3、及び図4に示すように、開口12yを一端に有するマニホールド流路13、マニホールド流路13から分岐した副マニホールド流路13a、及び、副マニホールド流路13aの出口から圧力室16を介して吐出口14aに至る個別インク流路14を含む。個別インク流路14は、図4に示すように、吐出口14a毎に形成されており、流路抵抗調整用の絞りとして機能するアパーチャ15を含む。上面12xにおける各アクチュエータユニット17の接着領域には、圧力室16を露出させる略菱形形状の開口がマトリクス状に配置されている。下面(吐出面10a)における各アクチュエータユニット17の接着領域に対向する領域には、圧力室16と同様の配置パターンで、吐出口14aがマトリクス状に配置されている。
【0033】
アクチュエータユニット17は、図2に示すように、それぞれ台形の平面形状を有し、流路ユニット12の上面12xにおいて2列の千鳥状に配置されている。各アクチュエータユニット17は、図3に示すように、当該アクチュエータユニット17の接着領域内に形成された多数の圧力室16の開口を覆っている。図示は省略するが、アクチュエータユニット17は、多数の圧力室16に跨るように延在した複数の圧電層、及び、厚み方向に関して圧電層を挟む電極を含む。電極には、圧力室16毎に設けられた個別電極、及び、圧力室16に共通の共通電極が含まれる。個別電極は、最も上方の圧電層の表面に形成されている。
【0034】
FPC19は、アクチュエータユニット17の各電極に対応する配線を有し、その途中部にドライバIC(図示せず)が実装されている。FPC19は、一端がアクチュエータユニット17、他端がヘッド10の制御基板(リザーバユニット11上方に配置。図示せず)にそれぞれ固定されている。FPC19は、コントローラ1p(図1参照)による制御の下、制御基板から出力された各種駆動信号をドライバICに伝達し、ドライバICが生成した信号をアクチュエータユニット17に伝達する。
【0035】
次に、図2、図5、及び図6を参照し、ヘッドホルダ3の構成について説明する。
【0036】
ヘッドホルダ3は、金属等からなるフレームであり、それぞれヘッド10毎に設けられたキャップ40と一対のジョイント51とが取り付けられている。
【0037】
一対のジョイント51は、図5に示すように、加湿機構50の循環流路の一端及び他端をそれぞれ構成するものであり、対応するヘッド10の主走査方向一端及び他端にそれぞれ近接配置されている。加湿メンテナンスにおいて、一対のジョイント51のうち、一方(図5の左側)のジョイント51の下面の開口51aから空気が回収され、他方(図5の右側)のジョイント51の下面の開口51bから加湿空気が供給される。
【0038】
ジョイント51は、図6に示すように、略円筒状であり、基端51x、及び、基端51xから延出した先端51yを含む。基端51xから先端51yに亘って、鉛直方向に沿った円柱状の中空空間51zが貫通している。基端51x及び先端51yの外径は異なり、基端51xの方が先端51yより外径が大きいが、中空空間51zは鉛直方向に沿って一定の径を有する。先端51yは、その上端面の外周に切欠を有し、先細り形状となっている。これにより、先端51yへのチューブ55,57一端の接続が容易である。
【0039】
ジョイント51は、先端51yがヘッドホルダ3の貫通孔3aに貫挿された状態で、ヘッドホルダ3に対して固定されている。貫通孔3aは、ヘッドホルダ3におけるジョイント51の配置位置、即ち、ヘッド10の主走査方向一端及び他端の近傍にそれぞれ形成されている。先端51yの外径は貫通孔3aの直径より一回り小さく、先端51yの外周面とヘッドホルダ3の貫通孔3aを画定する壁面との間に若干の隙間がある。この隙間は、ジョイント51をヘッドホルダ3に固定する際にシール材等が充填されることにより、封止される。
【0040】
キャップ40は、平面視でヘッド10の吐出面10aの外周を囲む環状に形成されており、固定部41cを介してヘッドホルダ3に支持された弾性体41、及び、昇降可能な可動体42を含む。
【0041】
弾性体41は、ゴム等の弾性材料からなり、基部41x、基部41xの下面から下方に突出した断面視逆三角形状の突出部41a、ヘッドホルダ3に固定された断面視T字状の固定部41c、及び、基部41xと固定部41cとを接続する接続部41dを含む。弾性体41は、上記各部を有しつつ、平面視でヘッド10の吐出面10aの外周を囲む環状に形成されている。固定部41cの上端部分は、接着剤等を介して、ヘッドホルダ3に固定されている。固定部41cはまた、各貫通孔3aの近傍において、ヘッドホルダ3と各ジョイント51の基端51xとの間に挟持されている。接続部41dは、固定部41cの下端から湾曲しつつ外側(平面視で吐出面10aから離隔する方向)に延び、基部41xの下端に接続している。接続部41dは、可動体42の昇降に伴って変形可能な程度の撓みを有する。基部41xの上面には、可動体42の下端に嵌合する凹部41bが形成されている。
【0042】
可動体42は、剛材料からなり、また、弾性体41と同様、平面視でヘッド10の吐出面10aの外周を囲む環状に形成されている。可動体42は、弾性体41を介してヘッドホルダ3に支持されつつ、ヘッドホルダ3に対して鉛直方向に移動可能である。具体的には、可動体42は、複数のギア43と接続されており、コントローラ1pによる制御の下、昇降モータ44(図8参照)の駆動に伴いギア43が回転することにより、昇降する。このとき、可動体42の下端に弾性体41の凹部41bが嵌合しているため、基部41xも可動体42と共に昇降する。弾性体41は、可動体42が昇降するとき、固定部41cがヘッドホルダ3に固定された状態で、突出部41aを含む基部41xが可動体42と共に昇降する。これにより、突出部41aの先端41a1の吐出面10aに対する鉛直方向の相対位置が変化する。
【0043】
突出部41aは、可動体42の昇降により、先端41a1が搬送ベルト8の支持面8aに当接する当接位置(図5参照)と、先端41a1が搬送ベルト8の支持面8aから離隔した離隔位置(図6参照)とを選択的に取る。図5に示すように、突出部41aが当接位置にあるとき、吐出面10aと支持面8aとの間に形成される吐出空間S1が外部空間S2から隔離されたキャップ状態(封止状態)となっている。図6に示すように、突出部41aが離隔位置にあるとき、吐出空間S1が外部空間S2と連通した非キャップ状態(非封止状態)となっている。
【0044】
突出部41aは、平面視で、吐出面10a(図2に示すヘッド10の下面)の全周に亘って吐出面10aから離隔している。また、突出部41aは、平面視で、吐出面10aを囲む略長方形となっている。
【0045】
次に、図5及び図7を参照し、加湿機構50の構成について説明する。
【0046】
加湿機構50は、図5に示すように、ジョイント51、チューブ55,56,57、ポンプ53、及び水タンク54を含む。ジョイント51は1のヘッド10に対して一対(2つずつ)設けられているが、ポンプ53及び水タンク54は、図7に示すように、プリンタ1内に1つずつ、即ち4つのヘッド10に対して1つずつ設けられている(図7参照)。チューブ55,57はそれぞれ、4つのヘッド10に共通の主部55a,57a、及び、主部55a,57aから分岐してジョイント51まで延在した4つの分岐部55b,57bを含む。
【0047】
チューブ55の一端(各分岐部55bの先端)は各ヘッド10に設けられた一方(図5の左側)のジョイント51の先端51yに嵌合し、他端(主部55aの分岐部55bと反対側の端部)はポンプ53に接続されている。即ち、チューブ55は、各ヘッド10に設けられた一方のジョイント51の中空空間51zとポンプ53とを連通可能に接続している。チューブ56は、ポンプ53と水タンク54とを連通可能に接続している。チューブ57の一端(各分岐部57bの先端)は各ヘッド10に設けられた他方(図5の右側)のジョイント51の先端51yに嵌合し、他端(主部57aの分岐部57bと反対側の端部)は水タンク54に接続されている。即ち、チューブ57は、各ヘッド10に設けられた他方のジョイント51の中空空間51zと水タンク54とを連通可能に接続している。
【0048】
水タンク54は、下部空間に水を貯留し、且つ、上部空間に、下部空間の水により加湿された加湿空気を貯蔵している。チューブ56は、水タンク54内の水面よりも下方に接続し、即ち水タンク54の下部空間と連通している。チューブ57は、水タンク54内の水面よりも上方に接続し、即ち水タンク54の上部空間と連通している。なお、水タンク54内の水がポンプ53に流れ込まないよう、チューブ56には図示しない逆止弁が取り付けられており、図5の矢印方向にのみ空気が流れるようになっている。また、水タンク54に貯留されている水の残量を検出する水残量センサ58が設置されている。水タンク54に貯留されている水の残量が第1所定量(後述)未満になったことを水残量センサ58が検出したとき、その旨がタッチパネル47に表示される。
【0049】
次に、コントローラ1pについて説明する。コントローラ1pは、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行するプログラム及びこれらプログラムに使用されるデータを書き替え可能に記憶する不揮発性メモリと、プログラム実行時にデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とを含んでいる。コントローラ1pを構成する各機能部は、これらハードウェアと不揮発性メモリ内のソフトウェアとが協働して構築されている。このプログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、メモリカード等の各種記録媒体に保存されており、これらの記録媒体から不揮発メモリにインストールされる。なお、記録媒体に記録された制御プログラムは、CPUで直接実行可能なものであってもよいし、不揮発メモリにインストールすることによって初めて実行可能となるものでもよい。また、暗号化されていたり、圧縮されていたりしてもよい。図8に示すように、コントローラ1pは、画像データ記憶部61と、ヘッド制御部62と、吐出履歴記憶部63と、メンテナンス制御部64と、搬送制御部65とを有している。
【0050】
画像データ記憶部61は、用紙Pに印刷すべき画像を示す画像データを記憶する。搬送制御部65は、用紙Pが所定の速度で搬送経路に沿って搬送されるように搬送ユニット21を制御する。ヘッド制御部62は、搬送ユニット21に搬送された用紙Pに画像データ記憶部61に記憶された画像データに係る画像が印刷されるように、及び、メンテナンス動作においてフラッシングが行われるようにヘッド10を制御する。
【0051】
吐出履歴記憶部63は、各吐出口14aについて、最後にインクを吐出してからの経過時間を吐出履歴として記憶している。
【0052】
メンテナンス制御部64は、加湿メンテナンスが行われるように、加湿機構50のポンプ53、可動体42(突出部41aの先端41a1)を昇降させる昇降モータ44を制御し、ヘッド制御部62を介してヘッド10を制御する。加湿メンテナンスは、キャップ状態にある吐出空間S1内が加湿された後にフラッシングが行われる動作であり、最後に印刷が行われてから所定時間が経過したときに開始される。なお、加湿メンテナンス時における下記一連の動作の間、ヘッド10、ヘッドホルダ3、及び搬送ベルト8は、所定位置に固定されている。ヘッドホルダ3は、吐出面10aと支持面8aとの間に印刷に適した所定の間隙が形成されるようにヘッド10を保持した状態で固定されている。
【0053】
メンテナンス制御部64は、加湿メンテナンスを開始すると、先ず、ギア43の回転により可動体42を下方に移動させる。印刷時においては、突出部41aは離隔位置(図6参照)にあるが、当該可動体42の下方への移動に伴い、当接位置(図5参照)に移動する。これにより、吐出空間S1が封止されてキャップ状態となる。なお、メンテナンス制御部64は、印刷時以外の待機状態又は休止状態においては、突出部41aを当接位置に移動させてキャップ状態とする。
【0054】
その後、メンテナンス制御部64は、ポンプ53を駆動し、一方のジョイント51の開口51aから吐出空間S1内の空気を回収する。このとき、開口51aから回収された空気は、ジョイント51の中空空間51z及びチューブ55内の空間を通ってポンプ53に至り、さらにチューブ56内の空間を通って水タンク54に至る。当該空気は、水タンク54の下部空間(即ち水面下)に供給される。そして、水タンク54内の水により加湿された空気(加湿空気)は、水タンク54の上部空間から排出される。このとき、水タンク54の上部空間から排出された空気の湿度は100%に近い値となっている。この加湿空気は、チューブ57内の空間を通って、他方のジョイント51の開口51bから吐出空間S1内に供給される。図5中、黒塗りの矢印は加湿前の空気の流れを示し、白抜きの矢印は加湿後の空気の流れを示す。メンテナンス制御部64は、上記のポンプ53の駆動と共に、図7に示す各分岐部55b,57bに設けられた切換弁等(図示せず)を制御することにより、分岐部55b,57bにおける空気の流れを選択的に調節する。
【0055】
このようにして開口51bから吐出空間S1内に加湿空気が供給されることにより、吐出空間S1内の湿度が上昇する。図9に示すように、吐出空間S1内の湿度が上昇するに連れて、吐出口14aのインク濃度が低下する。なお、図9は、平衡状態における湿度とインク濃度との関係を示している。メンテナンス制御部64は、水残量センサ58によって検出された水タンク54に貯留されている水の残量と、インク残量センサ39aによって検出されたカートリッジ39に貯留されているインク残量とによって、加湿空気の供給時間及びフラッシングの吐出量を調整する。
【0056】
具体的には、メンテナンス制御部64は、水タンク54に貯留されている水の残量が第1所定量以上であれば、カートリッジ39に貯留されているインク残量に係わらず、吐出口14aのインク濃度が、吐出口14aからインクを安定して吐出させることができる適正濃度X0(理想状態のインク)以上のX2となるように供給時間を「通常」に決定する。このとき、インク濃度X2が適正濃度X0未満となるように供給時間を決定してもよい。なお、水タンク54の上部空間から排出された空気の湿度は100%に近い値となっている。
【0057】
また、メンテナンス制御部64は、水タンク54に貯留されている水の残量が第1所定量未満、且つ、第2所定量(第2所定量<第1所定量)以上であり、カートリッジ39に貯留されているインク残量が第3所定量以上であれば、吐出口14aのインク濃度が、適正濃度X2以上のX3となるように供給時間を「短縮」に決定する。
【0058】
さらに、メンテナンス制御部64は、水タンク54に貯留されている水の残量が第2所定量未満であり、カートリッジ39に貯留されているインク残量が第3所定量以上であれば、吐出空間S1内に加湿空気が供給されないように、供給時間を「0」に決定する。このとき、吐出口14aのインク濃度が、インク濃度X3以上のX1となっている。
【0059】
加えて、メンテナンス制御部64は、カートリッジ39に貯留されているインク残量が第3所定量未満であれば、水タンク54に貯留されている水の残量に係わらず、供給時間を「通常」に決定する。そして、メンテナンス制御部64は、決定した供給時間に基づいてポンプ53を駆動する。なお、ユーザからの強制加湿指令がタッチパネル47を介して入力されたとき、及び、吐出空間S1が封止されてキャップ状態となってから所定時間が経過したとき(後述)、メンテナンス制御部64は、水タンク54に貯留されている水の残量に係わらず供給時間を「通常」に決定し、決定した供給時間に基づいてポンプ53を駆動する。
【0060】
次に、メンテナンス制御部64は、後に行うフラッシングの吐出量を吐出口14a毎に決定する。加湿空気の供給時間が上述した「通常」の場合、フラッシングの吐出量は、吐出口14aにおけるインク濃度が適正濃度X0より増加した高濃度部分又はインク濃度が適正濃度X0より低下した低濃度部分となる。次に、加湿空気の供給時間が上述した「短縮」や「0」の場合、フラッシングの吐出量は、吐出口14aにおけるインク濃度が適正濃度X0より増加した高濃度部分となる。ここで、フラッシングの吐出量は「通常」<「短縮」<「0」となるように設定されている。メンテナンス制御部64は、先に決定された供給時間から低濃度部分又は高濃度部分のインク量を算出し、算出したインク量をフラッシングの吐出量に決定する。
【0061】
また、最後にインクを吐出してからの経過時間が長くなるに連れて、吐出口14aのインクが乾燥により増粘する。吐出口14aのインクが増粘していると高濃度部分の体積が大きくなる。メンテナンス制御部64は、吐出履歴記憶部63を参照し、各吐出口14aについて経過時間が長くなるに連れて大きくなるように決定したフラッシングの吐出量をさらに補正する。
【0062】
さらに、メンテナンス制御部64は、フラッシングの吐出量をカートリッジ39に貯留されているインク残量に基づいて補正する。具体的には、メンテナンス制御部64は、カートリッジ39に貯留されているインク残量が第3所定量未満であれば、加湿空気の供給時間が「通常」に対応する量となるように、決定されたフラッシングの吐出量を補正する。
【0063】
その後、メンテナンス制御部64は、吐出口14aから補正した吐出量のインクがフラッシングされるように、ヘッド制御部62を介してヘッド10を制御する。フラッシングにより吐出口14aから吐出されたインクは支持面8aに着弾する。支持面8aに着弾したインクは、図示しないクリーニング機構によりクリーニングされる。
【0064】
メンテナンス制御部64は、フラッシングが完了すると、ギア43の回転により可動体42を上方に移動させ、突出部41aを当接位置から離隔位置へと移動させる。これにより、キャップ状態から非キャップ状態に移行し、印刷可能な状態となり、加湿メンテナンスが完了する。このように、本実施形態においては、インク飛沫の離散を防止するために、キャップ状態でフラッシングが行われるが、非キャップ状態でフラッシングが行われてもよい。メンテナンス制御部64は、印刷が完了して待機状態又は休止状態となるとき、ギア43の回転により可動体42を下方に移動させ、突出部41aを離隔位置から当接位置へと移動させ、キャップ状態に移行させる。
【0065】
図10を参照しつつ、プリンタ1における印刷動作について説明する。図10に示すように、待機状態(キャップ状態となっている)において、メンテナンス制御部64は、最後に印刷が行われてから所定時間が経過したか否かによって、加湿メンテナンスを行うか否かを判断する(S101)。
【0066】
メンテナンス制御部64は、加湿メンテナンスを行うと判断したとき(S101:YES)、水タンク54に貯留されている水の残量が第1所定量未満か否かを判断する(S102)。水の残量が第1所定量未満でなければ(S102:NO)、メンテナンス制御部64は、加湿空気の供給時間(加湿時間)を「通常」に決定する。また、メンテナンス制御部64は、フラッシングの吐出量を決定する。このとき、カートリッジ39に貯留されているインク残量に基づく決定したフラッシングの吐出量の補正を行わない(吐出量通常)(S103)。
【0067】
水の残量が第1所定量未満であれば(S102:YES)、水の残量が第2所定量未満か否かを判断する(S104)。水の残量が第2所定量未満でなければ(S104:NO)、メンテナンス制御部64は、加湿空気の供給時間を「短縮」に決定する。また、メンテナンス制御部64は、フラッシングの吐出量を決定する。このとき、メンテナンス制御部64は、加湿空気の供給時間を「短縮」に決定したため、フラッシングにより吐出口14aの増粘したインクが全て排出されるように、決定したフラッシングの吐出量を増加させるよう決定する(S105)。
【0068】
水の残量が第2所定量未満であれば(S104:YES)、メンテナンス制御部64は、加湿空気の供給時間を「0」に決定する。また、メンテナンス制御部64は、フラッシングの吐出量を決定する。このとき、メンテナンス制御部64は、加湿空気の供給時間を「0」に決定したため、フラッシングにより吐出口14aの増粘したインクが全て排出されるように、決定したフラッシングの吐出量を増加させるよう決定する(S106)。
【0069】
メンテナンス制御部64は、カートリッジ39に貯留されているインク残量が第3所定量未満であるか否かを判断する(S107)。インク残量が第3所定量未満でなければ(S107:NO)、決定した供給時間に基づいてポンプ53を駆動する(S109)。インク残量が第3所定量未満であれば(S107:YES)、メンテナンス制御部64は、加湿空気の供給時間を「通常」に決定すると共に、省インクを優先してフラッシングの吐出量が必要最低限となるように、(S105及びS106において増加させる方向にした補正をキャンセルした後に)決定したフラッシングの吐出量を通常となるよう補正する(S108)。そして、決定した供給時間に基づいてポンプ53を駆動する(S109)。
【0070】
ポンプ53を駆動することによって、一方のジョイント51の開口51aから吐出空間S1内の空気を回収すると共に、加湿された空気を開口51bから吐出空間S1内に供給する。これにより、吐出空間S1内が加湿される。
【0071】
その後、印刷が開始されず、長時間(所定時間)経過した場合(S110:YES)、吐出空間S1内の湿度が低くなる(弾性体41内を透過して外部空間S2に放散や、キャップ40からの漏れなどによって外部空間S2の湿度に近くなる。)ので、メンテナンス制御部64は、再度、ポンプ53を駆動する(S111)。このときの供給時間は先に決定された時間(S103〜S105)でもよいし、「短縮」に相当する時間でもよい。
【0072】
その後、印刷指令を受けて印刷が開始される場合(S112:YES)、メンテナンス制御部64は、決定したフラッシングの吐出量のインクがフラッシングされるように、ヘッド制御部62を介してヘッド10を制御する(S113)。
【0073】
メンテナンス制御部64は、フラッシングが完了すると、突出部41aを当接位置から離隔位置へと移動させることで、キャップ状態から非キャップ状態に移行させる(S114)。これにより、加湿メンテナンスが完了する。その後、用紙Pに対する印刷が実行される(S115)。全ての用紙Pに対する印刷が完了すれば、メンテナンス制御部64が、突出部41aを離隔位置から当接位置へと移動させることで、非キャップ状態からキャップ状態(キャップ当接)に移行させる(S116)。キャップ状態への移行が完了すると、プリンタ1は待機状態となり、図10のフローチャートを終了する。
【0074】
以上に述べたように、本実施形態に係るプリンタ1によると、水の残量が第1所定量未満になったときは、吐出空間S1内に供給される加湿空気の量を減少(供給時間を短縮)させて水の消費量を低減すると共に、フラッシングにより排出されるインクの量を増加させるため、吐出空間S1内に加湿された空気を供給した後に吐出口14aからインクを排出させることができる期間を長くすることができる。これにより、吐出口14aのインクが増粘するのを抑制しつつ、水の消費量を低減することができる。
【0075】
そして、水の残量が第2所定値未満になったとき、加湿空気を吐出空間S1内に供給しないため、例えば、プリンタ1が長時間休止するときなどより優先度の高い状況において、吐出空間S1に加湿した空気を供給することができる。
【0076】
また、ユーザからの強制加湿指令がタッチパネル47を介して入力されたとき、水の残量とは無関係に、吐出空間S1内に加湿空気を供給することができるため、必要に応じて強制的に吐出空間S1内を加湿することができる。
【0077】
さらに、水の残量が第1所定量未満であり、且つ、インク残量が第3所定値未満であるときの吐出空間S1内に供給される加湿空気の量を、水の残量が第1所定量以上であり、且つ、インク残量が第3所定値以上であるときの吐出空間S1内に供給される加湿空気の量と同じにするため、印刷に対してインクを優先的に使用することができる。
【0078】
加えて、吐出空間S1が封止状態となってから所定時間が経過する毎に、吐出空間S1内に加湿空気を供給するため、長期間にわたり印刷が行われない場合であっても、吐出口14aのインクが増粘するのを抑制することができる。
【0079】
さらに、水の残量が第1所定量未満になったとき、吐出口14aのインク濃度が適正濃度を超えるように、加湿空気の供給時間を減少させるため、水の消費量を確実に低減することができる。
【0080】
加えて、水の残量が第1所定量未満になったとき、その旨がタッチパネル47に表示されるため、水の残量が残り少ないことをユーザが把握することができる。
【0081】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0082】
上述の実施形態においては、水の残量が第2所定値未満になったとき、加湿空気を吐出空間S1内に供給しない構成であるが、水の残量が無くなるまで加湿空気を吐出空間S1内に供給してもよい。
【0083】
また、上述の実施形態においては、ユーザからの強制加湿指令がタッチパネル47を介して入力されたとき、水の残量とは無関係に吐出空間S1内に加湿空気を供給する構成であるが、このような強制加湿指令を受け付けない構成であってもよい。
【0084】
加えて、上述の実施形態においては、水の残量が第1所定量未満になり、且つ、インク残量が第3所定値未満になったとき、吐出空間S1内に供給される加湿空気の量を、水の残量が第1所定量以上であるときと同じにする構成であるが、インク残量によって供給される加湿空気の量を変化させない構成であってもよい。
【0085】
また、上述の実施形態においては、吐出空間S1が封止状態となってから所定時間が経過する毎に、吐出空間S1内に加湿空気を供給する構成であるが、所定時間が経過しても加湿空気を供給しない構成であってもよい。
【0086】
さらに、上述の実施形態においては、水の残量が第1所定量未満になったとき、吐出口14aのインク濃度が適正濃度を超えるように、加湿空気の供給時間を減少させる構成であるが、吐出口14aのインク濃度が適正濃度を超えない範囲で加湿空気の供給時間を減少させる構成であってもよい。
【0087】
加えて、上述の実施形態においては、水の残量が第1所定量未満になったとき、その旨がタッチパネル47に表示される構成であるが、タッチパネル47に表示させない構成であってもよい。
【0088】
加えて、メンテナンス制御部64が、吐出口14a毎にフラッシングの吐出量を決定及び補正する構成であるが、全ての吐出口14aについてフラッシングの吐出量を同じに決定する構成でもよい。
【0089】
加えて、加湿メンテナンスにおいて、開口51aから回収された空気が、開口51bから吐出空間S1内に供給されるように空気が循環する構成であるが、開口51bから加湿空気が供給されていればよく、加湿空気が循環しなくてもよい。
【0090】
さらに、突出部41aは、上述の実施形態のように移動可能であることに限定されない。例えば、突出部が移動不能にヘッドホルダに固定され、突出部の先端の吐出面に対する相対位置が一定であってもよい。この場合、ヘッドホルダ又は媒体支持部の支持面を昇降させることにより、突出部の先端の吐出面に対する相対位置を変化させ、突出部が当接位置と離隔位置とを選択的に取ることができる。
【0091】
さらに、図12に示すように、キャップ240がヘッド10から独立して形成されていてもよい。この場合、キャップ240は、図示しないキャップ移動機構によって、吐出面10aと対向する位置に配置される。そして、キャップ240は、ヘッド10及びキャップ240の少なくともいずれかを昇降させることによって、キャップ240の端部241aが吐出面10aに当接する当接位置と、端部241aが吐出面10aから離隔する離隔位置とを選択的に取りうる。キャップ240が当接位置にあるとき、吐出空間S201がキャップ240によって封止され(キャップ状態)、キャップ240が離隔位置にあるとき、吐出空間S201が開放される(非キャップ状態)。
【0092】
また、循環流路の一端及び他端の開口は、ヘッド又は前記ヘッドホルダに形成され且つ吐出空間に開口する限り、形状や位置は特に限定されない。例えば、一方の開口がヘッド、他方の開口がヘッドホルダに形成されてもよい。開口が突出部に形成されてもよい。ヘッド又はヘッドホルダの表面に凹部3xを形成せず、吐出面10aと同じレベルに循環流路の一端及び/又は他端の開口を配置してもよい。開口は、平面視で、副走査方向に関して吐出面10a(又は、ヘッドに開口を形成する場合は吐出口群。以下同じ。)を挟む位置に配置されてよい。或いは、開口は、平面視で吐出面10aを挟まない位置(即ち、吐出面10aに対して一方向に関して同じ側)に配置されてよい。
【0093】
また、上述の実施形態では、メンテナンス制御部64がフラッシングによりインクを排出する構成であるが、パージによりインクが排出されてもよい。
【0094】
本発明は、ライン式・シリアル式のいずれにも適用可能であり、また、プリンタに限定されず、ファクシミリやコピー機等にも適用可能である。さらに、インク以外の液体を吐出するものであってもよい。
【符号の説明】
【0095】
1 インクジェット式プリンタ
1p コントローラ
10 インクジェットヘッド
14a 吐出口
17 アクチュエータユニット
39 インクカートリッジ
39a インク残量センサ
40 キャップ
50 加湿機構
53 ポンプ
54 水タンク
58 水残量センサ
64 メンテナンス制御部
S1 吐出空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に画像を形成する第1液体を吐出するための吐出口が形成された液体吐出ヘッドと、
前記吐出口と対向する吐出空間を外部空間から封止する封止状態と、前記吐出空間を外部空間に対して封止しない非封止状態とを取り得るキャップ手段と、
第2液体を貯溜する第2タンクを有しており、前記第2タンクに貯溜された第2液体により加湿された空気を前記吐出空間内に供給する空気供給手段と、
前記第2タンクに貯溜された第2液体の残量を検知する第2液体検知手段と、
前記吐出口から第1液体を排出させる排出手段と、
前記キャップ手段、前記空気供給手段及び前記排出手段を制御する制御手段とを備えており、
前記制御手段は、
前記吐出空間を前記封止状態とするように前記キャップ手段を制御した後に、前記吐出空間内に前記空気が供給されるように前記空気供給手段を制御し、記録媒体に画像を形成するために前記吐出口から記録媒体へ第1液体を吐出させるのに先だって、前記吐出口から第1液体が排出されるように前記排出手段を制御し、
前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が第1所定量未満になったとき、前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が前記第1所定量以上であるときと比較して、前記吐出空間内に供給される前記空気の量を減少させると共に、排出される第1液体の量を増加させることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が前記第1所定量未満の第2所定値未満になったとき、前記吐出空間内に前記空気が供給されないように前記空気供給手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記制御手段に対し加湿指令を入力する加湿入力手段をさらに有し、
前記制御手段は、前記加湿入力手段による加湿指令が入力されたとき、前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量とは無関係に、前記吐出空間内に前記空気が供給されるように前記空気供給手段を制御することを特徴とする請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記液体吐出ヘッドに供給される第1液体を貯溜する第1液体タンクと、
前記第1液体タンクに係る第1液体の残量を検知する第1液体検知手段とをさらに備えており、
前記制御手段は、前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が前記第1所定量未満であり、且つ、前記第1液体検知手段が検知した第1液体の残量が第3所定値未満であるときの前記吐出空間内に供給される前記空気の量を、前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が前記第1所定量以上であり、且つ、前記第2検知手段が検知した第2液体の残量が前記第1所定量以上であるときの前記吐出空間内に供給される前記空気の量と同じにすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記吐出空間が前記封止状態となってから所定時間が経過する毎に、前記吐出空間内に前記空気が供給されるように前記空気供給手段を制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が前記第1所定量未満になったとき、前記吐出口の第1液体の濃度が前記吐出口から第1液体を安定して吐出させることができる適正濃度を超えるように、前記吐出空間内に供給される前記空気の量を減少させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が前記第1所定量未満になったことを報知する報知手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
記録媒体に画像を形成する第1液体を吐出するための吐出口が形成された液体吐出ヘッド、前記吐出口と対向する吐出空間を外部空間から封止する封止状態と、前記吐出空間を外部空間に対して封止しない非封止状態とを取り得るキャップ手段、第2液体を貯溜する第2タンクを有しており、前記第2タンクに貯溜された第2液体により加湿された空気を前記吐出空間内に供給する空気供給手段、前記第2タンクに貯溜された第2液体の残量を検知する第2液体検知手段、及び、前記吐出口から第1液体を排出させる排出手段を備えている液体吐出装置に係る、前記キャップ手段、前記空気供給手段及び前記排出手段を制御する制御手段としてコンピュータを機能させるプログラムであって、
前記制御手段は、
前記吐出空間を前記封止状態とするように前記キャップ手段を制御した後に、前記吐出空間内に前記空気が供給されるように前記空気供給手段を制御し、記録媒体に画像を形成するために前記吐出口から記録媒体へ第1液体を吐出させるのに先だって、前記吐出口から第1液体が排出されるように前記排出手段を制御し、
前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が第1所定量未満になったとき、前記第2液体検知手段が検知した第2液体の残量が前記第1所定量以上であるときと比較して、前記吐出空間内に供給される前記空気の量を減少させると共に、排出される第1液体の量を増加させることを特徴とするプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−139865(P2012−139865A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292970(P2010−292970)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】