説明

液体吐出装置

【課題】駆動信号の電圧値の変更に伴い圧電層の劣化の速さが変動することを考慮する。
【解決手段】圧電層の劣化に応じ、圧電層に電界を掛ける電極間の電圧値を大きい値に更新していく。このとき、圧電層に掛かる電界が大きくなっていくため、圧電層の劣化がますます促進される。そこで、1回目の更新から2回目の更新までの更新間隔Δtより、2回目の更新から3回目の更新までの更新間隔Δtを小さくする。これにより、圧電層の劣化が速くなっていくのに追随して電圧値を更新することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電層を挟む電極を有する圧電アクチュエータを備えた液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電層に電界を印加して変形させ、これにより供給流路内のインク等の液体にエネルギーを付与する圧電素子(アクチュエータ)が知られている。特許文献1では、このような圧電素子の経時的特性劣化によって生じる液滴吐出量の変動を抑制するため、液滴の吐出回数に応じて駆動信号の電圧を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−66948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者による知見では、圧電アクチュエータの劣化の程度は、(1)圧電層に電界がかけられた累積時間と、(2)かけられた電界の強度とに依存する。したがって、駆動電極に印加する電圧を大きい値に更新していくと、それによって圧電層にかけられる電界強度も大きくなるため、劣化も速くなっていく。このことを考慮しないと、電圧の更新が適切なタイミングでなされず、圧電層の劣化に追随できないおそれがある。上記特許文献1では、これらの点が全く考慮されていない。
【0005】
本発明の目的は、駆動信号の電圧値の変更において圧電層の劣化の速さが変動することを考慮した液体吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の観点によると、液体吐出装置は、液体を吐出する吐出口と、前記吐出口に液体を供給する供給流路とを有する流路ユニットと、第1電極と、圧電層と、前記第1電極との間に前記圧電層を挟む第2電極とを有し、前記第1電極及び第2電極間に駆動信号が印加されると、前記圧電層が変形して前記供給流路内の液体にエネルギーを付与する圧電アクチュエータと、基準電圧値に応じた電圧値を有する駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、前記駆動信号生成手段が生成した駆動信号を前記第1電極及び第2電極間に印加する駆動手段と、前記基準電圧値を更新する電圧値更新手段と、前記電圧値更新手段が前記基準電圧値を更新する時間間隔を設定する間隔設定手段とを備えており、前記電圧値更新手段は、前記基準電圧値を前回更新した時点からの前記第1電極及び第2電極間に電圧が印加された累積時間が、前記間隔設定手段が設定した前記時間間隔に達した場合に、前記基準電圧値を大きい値に更新し、前記間隔設定手段は、前記電圧値更新手段が前記基準電圧値を更新した場合に、当該更新された基準電圧値に基づいて前記時間間隔を小さい間隔に変更する。
【0007】
本発明の観点によると、電圧が印加された累積時間が、間隔設定手段が設定した時間間隔に到達すれば、電圧値更新手段が基準電圧値を更新する。一方、間隔設定手段は、基準電圧値が更新されると、時間間隔を小さい間隔に変更する。したがって、電圧が印加された累積時間に関する更新間隔が短くなるので、圧電層の劣化が速くなっていくのに追随して基準電圧値を適切に更新していくことができる。
【0008】
また、本発明においては、温度を検出する温度検出手段をさらに備えており、前記駆動信号生成手段が、補正された前記基準電圧値に応じた前記電圧値であって、前記温度検出手段が検出した温度が低いほど大きい前記電圧値を有する前記駆動信号を生成し、前記間隔設定手段は、前記基準電圧値を前回更新した時点からの温度の統計値に基づいて、補正された前記基準電圧値に対応した前記時間間隔を設定し、前記累積時間が当該設定された時間間隔に達した場合に、前記電圧値更新手段が前記基準電圧値を大きい値に更新すると共に、前記間隔設定手段が当該更新された基準電圧値に基づいて前記時間間隔を小さい間隔に変更することが好ましい。環境温度が低くなるほどインク等の液体の粘度が高くなるため、環境温度が高いときと比べて駆動信号の電圧値を大きくしないと、吐出口から吐出される液体の量を一定に保持できない。そこで、駆動信号生成手段が、温度に応じて基準電圧値を補正した電圧値を有する駆動信号を生成する。これにより、吐出口からの液体の吐出量が変動するのを抑制できる。
【0009】
一方、このように駆動信号の大きさを環境温度に応じて補正すると、圧電層の劣化の速さも変動する。そこで、間隔設定手段が、前回の更新時からの平均温度に基づいて、基準電圧値の補正値に対応した時間間隔を設定する。したがって、環境温度に応じて駆動信号の電圧値が補正される場合にも、圧電層の劣化に追随した適切な頻度で基準電圧値が更新される。
【0010】
また、本発明においては、前記電圧値更新手段が前記基準電圧値を更新する際の前記基準電圧値の変化幅が一定であることが好ましい。これによると、基準電圧値を更新するときの変化幅が一定であるので、簡易な構成で電圧値を更新することができる。
【0011】
また、本発明においては、前記変化幅が、前記電圧値更新手段が更新可能な最小限の大きさであってもよい。これによると、更新可能な最小限の大きさで電圧値を更新していくので、圧電層の劣化が進行していくのに細かく追随することができる。
【0012】
また、本発明においては、前記変化幅が、前記電圧値更新手段が更新可能な最小限の大きさより大きくてもよい。これによると、制御の数を減らし、簡易な構成で電圧値を更新する構成を実現できる。
【0013】
また、本発明においては、先の更新直後の前記基準電圧値に対応した前記圧電層の変形量は、これに続いて更新された直後の前記基準電圧値に対応した前記変形量とほぼ同じであると共に、更新直前の前記基準電圧値に対応した前記変形量と更新直後の前記基準電圧値に対応した前記変形量との差は、前記基準電圧値の更新ごとにほぼ同じであってもよい。これによると、圧電層の変形量の変化幅がほぼ一定になるように基準電圧値を更新するので、画像形成の品質が一定の範囲に保たれる。
【0014】
また、本発明においては、前記駆動手段が、前記吐出口から液体を吐出させてから次に液体を吐出させるまでの期間には、前記第1電極及び第2電極間の電圧を一定の電圧値に保持し、前記吐出口から液体を吐出させる際には、前記駆動信号の印加により、前記第1電極及び第2電極間の電圧を一旦ゼロとした後に前記一定の電圧値に戻してもよい。この場合、液体吐出の間に圧電層に電界が掛けられ続けるため、圧電層が劣化しやすい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、電圧が印加された累積時間が、間隔設定手段が設定した時間間隔に到達すれば、電圧値更新手段が基準電圧値を更新する。一方、間隔設定手段は、基準電圧値が更新されると、時間間隔を小さい間隔に変更する。したがって、電圧が印加された累積時間に関する更新間隔が短くなるので、圧電層の劣化が速くなっていくのに追随して基準電圧値を適切に更新していくことができる
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドが適用されるインクジェットプリンタの内部構造を示す概略側面図である。
【図2】図1のインクジェットヘッドの下部構造を構成する流路ユニットの平面図である。
【図3】図2の二点鎖線IIIの範囲の拡大図である。
【図4】図4の流路ユニットにおけるIV−IV線断面図である。
【図5】図5(a)は図4のアクチュエータユニット付近の拡大図である。図5(b)は個別電極及びランドの平面図である。
【図6】制御系の構成を示すブロック図である。
【図7】個別電極に供給される駆動信号を示すグラフである。
【図8】図8(a)は、圧電層に電界を印加した累積時間と圧電層の変形量との関係を模式的に示すグラフである。図8(b)は、プリンタの電源をオンにしてからオフにするまでの装置の状態を示すタイミングチャートである。
【図9】基準電圧を更新する処理の一連の工程を示すフローチャートである。
【図10】図10(a)は、図9に示す処理を実行した場合に圧電層の変形量がどのように変動するかを示すグラフである。図10(b)は、更新の条件を変更した変形例において圧電層の変形量がどのように変動するかを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
先ず、図1を参照し、本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッド2が適用されるインクジェット式プリンタ1の全体構成について説明する。
【0019】
プリンタ1は、直方体形状の筐体1aを有する。筐体1aの天板上部には、排紙部31が設けられている。以下の説明上、筐体1aの内部空間を上から順に空間A,B,Cと区分する。空間A及びBは、排紙部31に連なる用紙搬送経路が形成された空間である。空間Aでは、用紙Pの搬送と用紙Pへの画像の記録が行われる。空間Bでは、給紙に係る動作が行われる。空間Cには、インク供給源としてのインクカートリッジ40が収容されている。
【0020】
空間Aには、4つのインクジェットヘッド2(以下、ヘッド2)、用紙Pを搬送する搬送ユニット21、用紙Pをガイドするガイドユニット等が配置されている。空間A内には、これらの機構を含めたプリンタ1各部の動作を制御して、プリンタ1全体の動作を司る制御部100が配置されている。また、プリンタ1内の環境温度を検出する温度センサ140(温度検出手段)が設置されている。
【0021】
制御部100は、外部から供給された画像データに基づいて、用紙Pに画像が記録されるよう、記録に係わる準備動作、用紙Pの供給・搬送・排出動作、用紙Pの搬送に同期したインク吐出動作等を制御する。
【0022】
制御部100は、演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)に加えて、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory:不揮発性RAMを含む)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit )、I/F(Interface)、I/O(Input/Output Port)等を有する。ROMには、CPUが実行するプログラム、各種固定データ等が記憶されている。RAMには、プログラム実行時に必要なデータ(例えば画像データ)が一時的に記憶される。ASICでは、画像データの書き換え、並び替え等(信号処理や画像処理)が行われる。I/Fは、上位装置とのデータ送受信を行う。I/Oは、各種センサの検出信号の入力/出力を行う。後述の図6に示す制御系の構成は、これらのハードウェアやROM等に格納されたソフトウェアが互いに協働することにより構築されている。あるいは、図6に示す機能部の機能に特化した専用回路等が適宜設けられていてもよい。
【0023】
各ヘッド2は、主走査方向に長尺な略直方体形状のラインヘッドである。4つのヘッド2は、副走査方向に所定ピッチで並び、ヘッドフレーム3を介して筐体1aに支持されている。ヘッド2は、流路ユニット12及び8つのアクチュエータユニット120(図2参照)を含む。画像記録に際して、4つのヘッド2の下面(吐出面2a)からはそれぞれマゼンタ、シアン、イエロー、ブラックのインクが吐出される。ヘッド2のより具体的な構成は、後に詳述する。
【0024】
搬送ユニット21は、図1に示すように、ベルトローラ6,7及び両ローラ6,7間に巻回されたエンドレスの搬送ベルト8に加え、搬送ベルト8の外側に配置されたニップローラ4及び剥離プレート5、搬送ベルト8の内側に配置されたプラテン9等を有する。
【0025】
ベルトローラ7は、駆動ローラであって、搬送モータ19の駆動により回転し、図1中時計回りに回転する。ベルトローラ7の回転に伴い、搬送ベルト8が図1中の太矢印方向に走行する。ベルトローラ6は、従動ローラであって、搬送ベルト8が走行するのに伴って、図1中時計回りに回転する。ニップローラ4は、ベルトローラ6に対向配置され、上流側ガイド部(後述)から供給された用紙Pを搬送ベルト8の外周面8aに押さえつける。剥離プレート5は、ベルトローラ7に対向配置され、用紙Pを外周面8aから剥離して下流側ガイド部(後述)へと導く。プラテン9は、4つのヘッド2に対向配置され、搬送ベルト8のループ上部を内側から支える。これにより、外周面8aとヘッド2の吐出面2aとの間に、画像記録に適した所定の間隙が形成される。
【0026】
ガイドユニットは、搬送ユニット21を挟んで配置された、上流側ガイド部及び下流側ガイド部を含む。上流側ガイド部は、2つのガイド27a,27b及び一対の送りローラ26を有し、給紙ユニット1b(後述)と搬送ユニット21とを繋ぐ。下流側ガイド部は、2つのガイド29a,29b及び二対の送りローラ28を有し、搬送ユニット21と排紙部31とを繋ぐ。
【0027】
空間Bには、給紙ユニット1bが配置されている。給紙ユニット1bは、給紙トレイ23及び給紙ローラ25を有し、給紙トレイ23が筐体1aに対して着脱可能である。給紙トレイ23は、上方に開口する箱であり、複数種類のサイズの用紙Pを収納する。給紙ローラ25は、給紙トレイ23内で最も上方にある用紙Pを送り出し、上流側ガイド部に供給する。
【0028】
空間A及びBには、上述のように、給紙ユニット1bから搬送ユニット21を介して排紙部31に至る用紙搬送経路が形成されている。制御部100が記録指令に基づいて給紙ローラ25、送りローラ26、28、搬送モータ19等を駆動すると、給紙トレイ23から用紙Pが送り出される。用紙Pは、送りローラ26によって、搬送ユニット21に供給される。用紙Pが各ヘッド2の真下を副走査方向に通過する際、各吐出面2aからインクが吐出されて、用紙P上にカラー画像が記録される。用紙Pは、その後剥離プレート5により剥離され、2つの送りローラ28によって上方に搬送される。さらに用紙Pは、上方の開口30から排紙部31に排出される。
【0029】
なお、副走査方向とは、搬送ユニット21による用紙Pの搬送方向と平行な方向であり、主走査方向とは、水平面に平行且つ副走査方向に直交する方向である。
【0030】
空間Cには、インクユニット1cが筐体1aに対して着脱可能に配置されている。インクユニット1cは、カートリッジトレイ35、及び、トレイ35内に並ぶ4つのカートリッジ40を有する。各カートリッジ40は、インクチューブを介して、対応するヘッド2にインクを供給する。
【0031】
次に、図2〜図5を参照し、ヘッド2の構成についてより詳細に説明する。なお、図3では、アクチュエータユニット120の下側にあって点線で示すべき圧力室16及びアパーチャ15を実線で示している。
【0032】
ヘッド2は、インクのリザーバとして機能する上部構造体と、上部構造体からのインクが供給される下部構造体とを有している。上部構造体には、カートリッジ40から供給されたインクが収容される。下部構造体は、図2に示すように、流路ユニット12、及び、アクチュエータユニット120を有している。
【0033】
流路ユニット12は、図4に示すように、略同一サイズの矩形状の9枚の金属プレート12a,12b,12c,12d,12e,12f,12g,12h,12iを互いに接着した積層体である。流路ユニット12の上面12xには、図2に示すように、開口12yが形成されている。上部構造体からのインクは、開口12yを通じて流路ユニット12内へと流れ込む。内部には、開口12yから吐出口14aに繋がるインク流路が形成されている。当該インク流路は、図2〜図4に示すように、開口12yを一端とするマニホールド流路13、マニホールド流路13から分岐した副マニホールド流路13a、及び、副マニホールド流路13aの出口から圧力室16を介して吐出口14aに至る個別インク流路14を含む。
【0034】
個別インク流路14は、吐出口14aごとに形成されており、図4に示すように、流路抵抗を調整するための絞りを含む。圧力室16は、上面12xに開口し、平面視台形領域を占める圧力室群を構成し、吐出口14aは、下面(吐出面2a)に開口し、平面視台形領域を占める。両台形領域は8組あり、それぞれ流路ユニットの厚み方向に対向している。
【0035】
アクチュエータユニット120は、図2に示すように、それぞれ台形の平面形状を有し、上面12xにおいて2列の千鳥状に配置されている。各アクチュエータユニット120は、図3に示すように、圧力室群の占める台形領域上に配置されている。
【0036】
アクチュエータユニット120には、制御部100からの制御指令に基づいてドライバIC132(駆動手段)から駆動信号が供給される。アクチュエータユニット120と制御部100とは、ドライバIC132が実装された平型柔軟基板(FPC131)によって接続されている。ここでは、FPC131が、アクチュエータユニット120毎に設けられている。
【0037】
次に、図5を参照し、アクチュエータユニット120の構成についてより詳細に説明する。
【0038】
アクチュエータユニット120は、図5(a)に示すように、上から順に、個別電極123、圧電層121、共通電極124及び圧電層122が流路ユニット12の上面12xに積層された積層体である。なお、個別電極123及び共通電極124が、本発明における第1及び第2の電極と順不同に対応する。1つのアクチュエータユニット120は、1つの圧力室群全体に跨って配置されている。
【0039】
圧電層121及び122は、平面視で、互いに同一の大きさ及び形状を有し、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系セラミックスのシート状部材である。このうち、圧電層121は、積層体の積層方向に分極されている。圧電層121及び122の厚みは、いずれも15μmである。
【0040】
個別電極123及び共通電極124は、いずれもAu(金)からなり、ほぼ1μmの厚みを有する。個別電極123は、圧力室16に対向して配置されている。各個別電極123は、図5(b)に示すように、主部123a及び延出部123bから構成されている。主部123aは、平面視において圧力室16と相似な菱形形状を有し、圧力室16より一回り小さい。延出部123bは、主部123aの鋭角部から延出されて、先端が圧力室16の外側でランド126に接続する。共通電極124は、圧電層122の上面全体に亘って形成されている。共通電極124は、接地され、グランド電位に保持されている。
【0041】
ランド126は、円柱状(高さ:10μm、直径:130μm)であり、Ag−Pd(銀パラジウム)からなる。各ランド126は、FPC131によって、ドライバIC132の出力端子とそれぞれ接続され、駆動信号が選択的に供給される。
【0042】
アクチュエータユニット120は、ドライバIC132から駆動信号が供給されると、以下の通り圧力室16内のインクに圧力を印加する。駆動信号は、ランド126を介して、個別電極123に供給される。このとき、圧電層121の両電極123、124で挟まれた部分は、分極方向に電界が発生し、これと直交する方向(面方向)に縮む。一方、圧電層122は、自発的に変形しないので、圧電層121との間で歪み差が生じる。この歪み差により、個別電極123と圧力室16とで挟まれた部分(アクチュエータ120a)が、圧力室16に向かって突出する。このユニモルフ変形は、個別電極123毎に可能である。ユニモルフ変形により、圧力室16内のインクが加圧され(吐出エネルギーが付与)されると、吐出口14aからインク滴が吐出する。このように、アクチュエータユニット120には、圧力室16と同数のアクチュエータ120aが作り込まれている。
【0043】
次に、駆動信号について、図6、図7(a)及び図7(b)を参照しつつ具体的に説明する。制御部100は、図6に示すように、駆動信号生成部111(駆動信号生成手段)、供給制御部114、波形記憶部112、基準電圧記憶部113を有し、これらが協働して駆動信号の生成・供給を行う。駆動信号は、グランド電位に対して基準電位V0(>0)を通常の電位とし、単位時間内に1又は複数の方形パルスを含む。アクチュエータ120aは、各方形パルスに対応して、圧力室16内のインクを加圧する。なお、単位時間とは1印字周期であって、形成される画像の解像度に対応した単位距離を、用紙Pが搬送されるのに要する時間に相当する。
【0044】
波形記憶部112は、駆動信号の信号波形であって、1印字周期における各方形パルスの繰り出しの形態(パターン)を記憶する。各方形パルスは、それぞれが単位のパルス高と所定のパルス幅を持ち、正電位からグランド電位となった後に所定時間を介して正電位に戻るパルス情報として記憶される。繰り出しの形態は、1印字周期で吐出されるインク滴量に応じて、複数種類有る。基準電圧記憶部113は、駆動信号の通常電圧となる基準電位(グランド電位に対する電位差)V0を記憶する。
【0045】
駆動信号生成部111は、画像データに基づいて、1印字周期毎の駆動信号を生成する。このとき、波形記憶部112から繰り出し形態が選択され、通常電位として基準電圧記憶部113の基準電位V0が設定される。図7(a)は、駆動信号の一例である。図中、電圧V(>0)は基準電位V0に相当し、電圧0はグランド電位に相当する。駆動信号生成部111は、図7(a)に示すように、インクを吐出しない期間(スタンバイ期間)にも、方形パルス間の期間(通常電位となる期間)と同様に、基準電位V0を出力する。
【0046】
供給制御部114は、画像データに基づいて、1印字周期毎の供給指示信号を生成する。供給指示信号は、駆動信号の供給対象となるアクチュエータ120aと供給タイミング(印字周期)を指示する。 1印字周期毎に、供給指示信号がドライバIC132に供給され、ドライバIC132からは、供給指示信号で指示されたアクチュエータ120aに駆動信号が供給される。アクチュエータ120aは、選択的に駆動されることになる。
【0047】
駆動信号が供給されたとき、アクチュエータ120aの動作は、次の通りである。
【0048】
スタンバイ期間では、各個別電極123が基準電位V0にあり、アクチュエータ120aはユニモルフ変形している。このとき、圧力室16の容積は、U1である。ここで、1つ目の方形パルスが印加されると、個別電極123の電位が基準電位(正電位)V0からグランド電位へと変化し、ユニモルフ変形が解かれる。圧力室16の容積はU1からU2に増加し、副マニホールド流路13aからは、インクが圧力室16に供給される。さらに、個別電極123の電位がグランド電位から基準電位V0に戻ると、アクチュエータ120aはユニモルフ変形し、圧力室の容積はU1に戻る。この容積縮小により、圧力室16内のインクに正圧が印加され、吐出口14aからインクが吐出される。
【0049】
ここで、1個の方形パルスにより吐出口14aから吐出されるインクの量は、環境温度に依存する。温度が低くなるにつれて、インクの粘度が高くなり、インクの吐出量は減る。基準電位V0は、標準的温度条件下で適用される電位であって、このとき所望のインク吐出量が実現される。そこで、駆動信号生成部111は、環境温度に基づいて、基準電位V0を補正する。環境温度は、温度センサ140が検出する。標準より温度の低い条件下では、駆動信号の電位(通常電位)は、基準電位V0より高めに設定される。図7(b)は、この駆動信号の一例である。一方、標準より温度の高い条件下では、駆動信号の電位は、基準電位V0より低めに設定される。図7(c)は、この駆動信号の一例である。以上により、環境温度のよらず、吐出インク滴量がほぼ一定に保たれている。なお、本実施形態において、基準電圧記憶部113が記憶している基準電位V0は、全てのヘッド2に共通である。
【0050】
以下の表1は、基準電圧Vを補正する際の温度基準及び補正値の一例である。駆動信号生成部111は、表1に基づき、基準電位V0を補正する。温度がT1〜T2の範囲は、標準の温度条件に相当する。基準電位V0への補正は無い。温度がT1未満では、基準電位V0を、Vc=V0*1.4に補正する。これにより、方形パルスのパルス高(通常電位)が標準時より高くなるので、アクチュエータ120aの変形量が大きくなり、結果として所望の吐出量が得られる。一方、温度がT2を超えるときは、基準電位V0を、Vh=V0*0.8に補正する。これにより、方形パルスのパルス高が標準時より低くなるので、アクチュエータ120aの変形量が小さくなり、結果として所望の吐出量が得られる。
【0051】
【表1】

【0052】
ところで、アクチュエータ120aのような圧電アクチュエータを駆動し続けると、圧電層の変形特性が劣化し、インクの吐出量が少なくなっていく場合があることが知られている。このような特性劣化の影響を低減するため、従来、インクの吐出回数が一定値に達すると、駆動信号の電圧を上げて、必要な吐出量を確保する技術が採用されている。
【0053】
しかしながら、本発明者の知見によると、圧電層の劣化は、(1)電極への電圧の印加により圧電層に電界がかけられた累積時間と、(2)かけられた電界の強度とに依存する。例えば、図8(a)には、個別電極123への印加電圧をパラメータとして、電圧の累積印加時間に対する圧電層121の変形量の変化が示されている。パラメータには、V<V1<V2の関係がある。変形量は、経時的に低下し、高電圧(高電界強度)ほど低下率が大きいことが示されている。
【0054】
ここで、変形量の変化は、インク吐出量の変化を生じ、画像品質に影響する。印加電圧が高いほど、画像の品質保証限界に速く達すると言える。そのため、上述のような一定の吐出回数毎の電圧補正では、所望の変形量と補正後の変形量とに乖離が生じていく。さらに、環境温度による印加電圧の補正により、低温環境下での使用が続くと、品質保証限界により速く達する。つまり、吐出特性の劣化速度に対応した電圧補正を、環境温度の違いに応じて実施する必要がある。なお、品質保証限界は、品質変化に対するユーザの認識不能範囲に相当し、変形量が初期値より大きい上限状態と変形量が初期値より小さい下限状態とで規定される。
【0055】
そこで、本実施形態では、従来とは異なり、以下のように基準電位V0を更新する構成としている。制御部100は、図6に示すように、電圧値更新部151(電圧値更新手段)、累積時間算出部152、更新間隔設定部153(間隔設定手段)、及び、温度統計値算出部154を有し、これらが基準電位V0の更新に関与する。
【0056】
累積時間算出部152は、圧電層121に電圧が掛けられた累積時間を算出する。アクチュエータ120aを駆動するとき、印字周期は予め定められている。方形パルスの繰り出し形態において、個別電極123がグランド電位にある時間も、予め定められている。印字周期毎の繰り出し形態は、画像データで指示される。そのため、印字動作中の累積時間は、画像データに基づいて、アクチュエータ120a毎に求めることができる。これにスタンバイ状態の時間等を加えれば、各累積時間を正確に算出できる。
【0057】
上記の算出方法は、各アクチュエータ120aの駆動状況を監視するので、処理の負担が大きい。負担を軽減する必要が有れば、累積時間の算出対象を、1又は複数のアクチュエータ120aに絞っても良い。例えば、アクチュエータユニット120毎に、1つのアクチュエータ120aを算出対象と設定する。あるいは、用紙Pのサイズにかかわらず駆動される1つのアクチュエータユニット120に、1つの算出対象を定めても良い。
【0058】
また、別の算出方法を採用しても良い。これは、本実施形態が採用する方法であり、特定の算出対象を設けない。この方法では、駆動信号において、個別電極123をグランド電位にした時間を無視する。そして、個別電極123に基準電位V0(あるいは、環境温度に応じて補正された電圧値)にした大まかな期間を把握し、これを加算して、累積時間を算出する。例えば、図8(b)に示すように、装置の電源がオンの状態になっている期間のうち、装置がスタンバイ又は印刷中には、基準電位V0(あるいは、環境温度に応じて補正された電圧値)が個別電極123に供給され、スリープ中には、個別電極123が常にグランド電位に保持されるとする。この場合、累積時間算出部152は、スタンバイ又は印刷中であった期間全体の長さを現在に至るまで加算し、累積時間とする。なお、スリープ中には、例えば、先の用紙Pの印刷終了時点から次の用紙Pの印刷開始時点までの時間、所定時間スタンバイ状態が続いた後の休止状態の時間等が含まれる。休止状態では、アクチュエータ120aは、印刷指令を受けるまでグランド電位にある。
【0059】
温度統計値算出部154は、温度センサ140からの検出温度に基づいて、温度の統計値を算出する。本実施の形態では、先の基準電位更新時から現時点までに検出された温度の時間平均が、温度の統計値である。算出された統計値は、基準電位更新毎にリセットされる。
【0060】
更新間隔設定部153は、基準電位V0を更新する時間間隔を設定する。更新間隔設定部153は、さまざまな電圧値に関して、図8(a)に対応する関係式、テーブル等の情報を有している。例えば、装置の環境温度が常にT1〜T2の範囲内であるときには、駆動信号には基準電位V0がそのまま使用される。基準電位V0が個別電極123に供給され続けた場合、図8(a)によると、累積時間t1で圧電層121の変形量が品質保証限界に達する。そこで、更新間隔設定部153は、次に基準電位V0を更新するタイミングを、累積時間でt1後に設定する。これにより、次の更新時までの時間間隔が設定される。
【0061】
一方、装置の環境温度がT1〜T2の範囲外となる場合、本実施形態では、基準電位V0が環境温度に応じて補正されている。このとき更新間隔設定部153は、温度の統計値に基づいて、補正された基準電位(補正電位)Vを表1より導く。例えば、かなりの低温環境下(温度がT1未満)であれば、補正電位V=V2とする。図8(a)より、圧電層121の変形量が品質保証限界に達する時点までの時間(次回更新までの時間間隔)として、このときt2(<t1)が導出される。。したがって、更新間隔設定部153は、次に基準電位V0を更新するタイミングを、累積時間がt2に達したときと設定する。これにより、基準電位V0が前回更新されてから次に更新されるまでの時間間隔が、環境温度に応じて設定される。
【0062】
更新間隔変更部153は、更新後の基準電位V0が更新前より大きいことから、新規に設定する時間間隔は、直前の時間間隔より必然的に短くする。このような処理は、基準電位V0に対する温度補正の有無にかかわらない。
【0063】
電圧値更新部151は、累積時間算出部152が算出した累積時間が、更新間隔設定部153が設定した時間間隔に達した場合に、基準電位V0を大きい値に更新する。電圧の更新幅は、以下の条件を満たす値に設定されている(図10(a)参照)。(条件1)更新直後の圧電層121の変形量は、初期値よりも大きい値であって、品質保証限界の上限状態に相当する一定値である。(条件2)更新直前の圧電層121の変形量と更新直後の圧電層121の変形量との差は、更新ごとに一定である。(条件3)更新前後の電圧の変化幅が一定である。なお、電圧の更新が累積時間の概算値や温度の統計値に基づくことなどから、更新直前や更新直後の圧電層121の変形量は、条件1〜3を厳密に満たすのではなく、実質的に満たすこととなる。
【0064】
以下、条件1〜3について説明する。条件1の特徴は、圧電層121の変形量を、初期値に戻すのではなく、初期値より大きくすることである。これにより、更新後、変形量が低下していき、品質保証限界の下限状態に達するまでの時間を長くすることができる。さらに、条件1では、更新直後の変形量を、品質保証限界の上限状態としている。これにより、次の更新までの時間を最大限に長くできる。したがって、少ない更新回数で画像の品質を確保することができる。なお、本実施形態では、圧電層121の変形量の初期値が、品質保証限界の上限状態及び下限状態のちょうど中間値になるように設定される。
【0065】
条件2は、上記で説明した更新タイミングの設定方法と条件1とから、自動的に導かれる。画像の品質は、初期の品質が基準である。更新前後において、品質的には、更新前の下限状態から、更新後の上限状態に毎回変化する。つまり、更新前後の変形量の差は、更新ごとに一定となる。
【0066】
条件3は、更新前後の基準電位V0の差と変形量の差とが更新ごとに常に一定であるという理想的な条件を満たす場合に条件1及び2と整合する。実際、電界強度と変形量との間には、広い範囲で直線関係が成り立つ。しかし、両者の関係がこれを満たさなくなったとき、例えば、更新前後の基準電位差を更新毎に大きくしなければ、条件2を満たせないときには、条件1及び2を優先的に満たすように、基準電位V0の更新幅を調整することが好ましい。
【0067】
以下、基準電圧Vを更新する処理工程の一例について、図9を参照しつつ説明する。まず、更新間隔設定部153が、最初に基準電位V0を更新するまでの時間間隔(更新間隔)Δtを設定する(ステップS1)。以下、n−1回目の基準電位V0の更新からn回目(n:2以上の自然数)の更新までの時間間隔を、更新間隔Δtと表す。次に、累積時間算出部152が、圧電層121に電界が掛けられた累積時間を算出する(ステップS2)。さらに、温度統計値算出部154が、温度センサ140からの検出温度に基づいて、温度の統計値を算出する(ステップS3)。
【0068】
次に、算出された統計値がT1〜T2の範囲内(表1参照)であるか否かを、更新間隔設定部153が判定する(ステップS4)。そして、統計値がT1〜T2の範囲内であると判定された場合には(ステップS4、Yes)、ステップS6の処理に移る。一方、統計値がT1〜T2の範囲内でないと判定された場合には(ステップS4、No)、更新間隔設定部153が、温度統計値算出部154が算出した温度統計値に基づいて、更新間隔を再設定する(ステップS5)。例えば、次回の更新がk回目(k:自然数)の更新であるとすると、更新間隔Δtを統計値に基づいて再設定し、Δt’とする。
【0069】
次に、累積時間算出部152が算出した累積時間が、更新間隔設定部153が設定した更新間隔Δt(再設定された場合はΔt’)に達したか否かを電圧値更新部151が判定する(ステップS6)。累積時間が更新間隔Δt(再設定された場合はΔt’)に達したと判定された場合には(ステップS6、Yes)、電圧値更新部151が、基準電圧記憶部113に記憶されている基準電位V0を更新する(ステップS7)。このとき、更新には、温度の統計値に基づく補正が加えられる。次に、更新間隔設定部153は、更新後の基準電位V0に基づいて、次の更新(k+1回目の更新)に関する更新間隔Δtk+1を設定する(ステップS8)。そして、ステップS2の処理に戻る。一方、ステップS6において、累積時間が更新間隔Δt(再設定された場合はΔt’)に達していないと判定された場合には(ステップS6、No)、ステップS2の処理に戻る。
【0070】
以下、図9に示す処理による基準電位V0の更新と、圧電層121の変形量との関係を図10(a)に基づいて説明する。なお、図10(a)は、累積時間と圧電層変形量との理想的な関係を示すものであり、以下の説明もこれに応じたものであるが、本実施形態の累積時間は概算値であるため、実際には、図10(a)に示すグラフからのずれが生じる。初めに、ステップS3において算出された統計値が、常にT1〜T2の範囲内である場合について説明する。
【0071】
まず、ステップS1において更新間隔Δtが設定される。Δtは、画像の品質初期状態から品質保証限界の下限状態に至るまでの時間間隔に設定される。累積時間の算出が開始され、累積時間が増大するにつれて、図10(a)の実線に示すように、圧電層121の変形量が低下していく。
【0072】
累積時間がΔtに到達すると、品質保証限界の下限状態に到達する。そして、ステップS7において基準電位V0の1回目の更新がなされる。これにより、基準電位V0は、品質保証限界の上限状態に対応する値に更新される。このとき、温度の統計値による補正が加えられるのだが、標準温度条件下のため、補正はない。さらに、ステップS8において、次の更新までの更新間隔Δtが設定される。Δtは、更新後の基準電位V0に基づいて、品質保証限界の上限状態から下限状態に至るまでの時間間隔として設定される。
【0073】
1回目の更新以降、圧電層121の変形量が、図10(a)の実線に示すように低下していく。1回目の更新時からの累積時間がΔtに到達すると、品質保証限界の下限状態に到達する。そして、ステップS7において基準電位V0の2回目の更新(図中「2回目の更新A」)がなされる。これにより、基準電位V0は、品質保証限界の上限状態に対応する値に更新される。さらに、ステップS8において次の更新までの更新間隔Δtが設定される。Δtは、更新後の基準電位V0に基づいて、品質保証限界の上限状態から下限状態に至るまでの時間間隔として設定される。
【0074】
2回目の更新A時点からの累積時間がΔtに到達すると、ステップS7において基準電圧Vの3回目の更新(図中「3回目の更新A」)がなされる。
【0075】
Δt、Δt、Δtの大小関係は、以下のとおりとなる。まず、Δt及びΔtは、いずれも品質保証限界の上限状態から下限状態に至るまでの時間間隔である。しかし、Δtの設定時の基準電位V0は、Δtの設定時のV0よりも大きい。更新間隔設定部153は、基準電位V0が大きいほど変形量の低下が速いため、図10(a)に示すように、Δt>Δtとする。
【0076】
一方で、Δtは、画像の品質が初期状態から品質保証限界の下限状態に至るまでの時間間隔であり、図10(a)に示すように、Δt<Δtである。本実施の形態では、初期状態での変形量は、上限状態及び下限状態での変形量の中間値に設定されている。しかし、仮に、初期状態の変形量を上限状態での変形量に等しく設定された場合には、1回目の更新までの時間間隔は、a*Δt(a:a>1を満たす実数)となる。Δtを設定したとき、基準電位V0は、Δtの設定時のV0よりも大きいため、a*Δt>Δtという関係を満たすことになる。このように、ステップS3において算出された統計値がT1〜T2の範囲内である限り、a*Δt>Δt>Δt>Δt>Δt…となるように更新間隔が設定されつつ、基準電位V0が更新されていく。
【0077】
次に、ステップS3において算出された統計値がT1〜T2の範囲を外れた場合について説明する。例えば、1回目の更新後、統計値がT1未満であったとする。このとき、更新間隔設定部153は、基準電位V0の補正値Vcに基づいて更新間隔を再設定する。圧電層121の変形量は、V0より大きいVcに従って変動することから、図10(a)の破線に示されるように、実線よりも速く低下していく。そして、「2回目の更新A」よりも早いタイミングである「2回目の更新B」において、品質保証限界の下限状態に到達する。これに応じ、ステップS5において、2回目の更新時までの更新間隔が、補正値Vcに応じたΔt’に再設定される。ここで、V0<Vcであるため、Δt’<Δtである。累積時間がΔt’に達すると、ステップS7において、基準電位V0の2回目の更新がなされる。
【0078】
2回目の更新以降も統計値がT1未満であるため、圧電層121の変形量は、図10(a)の破線に示すように、実線よりも速く低下していく。これに応じ、ステップS5において、3回目の更新時までの更新間隔が、Δtより小さいΔt’に再設定される。累積時間がΔt’に達すると、ステップS7において、基準電位V0の3回目の更新がなされる(図中「3回目の更新B」)。
【0079】
以上説明した本実施形態によると、基準電位V0が大きい値に更新されていくのに伴い、更新間隔が短くなっていく。したがって、圧電層121の変形特性の劣化に追随して、基準電位V0を適切に更新できる。また、駆動信号を生成する際、環境温度の統計値に応じた補正値に対応して、更新間隔が再設定される。したがって、低温環境下や高温環境下でも、劣化に追随した基準電圧値の更新がなされる。さらに、本実施形態によると、上記条件3のように、基準電位V0を更新するときの変化幅が一定であるので、簡易な構成で電圧を更新することができる。
【0080】
なお、ステップS3において、統計値がT2を超す場合でも、基準電位V0の更新毎に時間間隔が短くなる点は共通する。しかし、各更新タイミングにおいて設定される時間間隔は、いずれの温度条件における同タイミングで設定される時間間隔に比べて、長いものとなる。
【0081】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0082】
例えば、上述の実施形態では、温度統計値算出部154が、温度の統計値として、前回の更新から現時点までにおける温度センサ140の検出温度の時間平均を算出している。しかし、その他の方法で統計値を算出してもよい。例えば、前回の更新から現時点までにおける最高値と最低値との中央値を統計値として算出してもよい。
【0083】
また、上述の実施形態では、基準電位V0が全ヘッド2に共通である。しかし、基準電位V0がヘッド2ごとに設定されてもよいし、アクチュエータユニット120ごとに設定されてもよい。この場合には、基準電位V0の更新間隔も、ヘッド2ごと、又は、アクチュエータユニット120ごとに設定される。このとき、累積時間をヘッド2ごと、又は、アクチュエータユニット120ごとに算出し、その算出結果から、ヘッド2ごと、又は、アクチュエータユニット120ごとに基準電位V0を更新してもよい。
【0084】
また、上述の実施形態では、図10(a)に示すように、基準電位V0の更新直前における圧電層121の変形量が品質保証限界の下限状態に対応する値となり、基準電圧Vの更新直後における圧電層121の変形量が品質保証限界の上限状態に対応する値となるように、更新の条件が設定されている。しかし、更新間隔を全体的に短くするため、品質保証限界の下限状態に至る前のタイミングで更新することとしてもよい。また、更新直後の圧電層121の変形量が品質保証期限の上限状態に対応する値より小さくてもよい。
【0085】
さらに、基準電位V0がデジタル制御されているなどの理由により、電圧を調整可能な最小の幅が規定されてもよい。このとき、図10(b)に示すように、更新前後の変形量の差が、基準電位V0に関する調整可能な最小の幅(例えば、0.1V)に設定されてもよい。この場合、圧電層121の劣化が進行していくのに対して、より細かく追随できる。
【0086】
本発明に係る液体吐出装置は、プリンタに限定されず、ファクシミリやコピー機等に適用可能である。また、液体吐出装置に適用されるヘッドの数は4に限定されず、1以上であればよい。ヘッドは、ライン式に限定されず、シリアル式でもよい。さらに、本発明に係るヘッドは、インク以外の液体を吐出してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 インクジェット式プリンタ(プリンタ)
2 インクジェットヘッド(ヘッド)
16 圧力室
100 制御部
111 駆動信号生成部
113 基準電圧記憶部
120 アクチュエータユニット
121,122 圧電層
123 個別電極
124 共通電極
132 ドライバIC
140 温度センサ
151 電圧値更新部
152 累積時間算出部
153 更新間隔設定部
154 温度統計値算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口と、前記吐出口に液体を供給する供給流路とを有する流路ユニットと、
第1電極と、圧電層と、前記第1電極との間に前記圧電層を挟む第2電極とを有し、前記第1電極及び第2電極間に駆動信号が印加されると、前記圧電層が変形して前記供給流路内の液体にエネルギーを付与する圧電アクチュエータと、
基準電圧値に応じた電圧値を有する駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、
前記駆動信号生成手段が生成した駆動信号を前記第1電極及び第2電極間に印加する駆動手段と、
前記基準電圧値を更新する電圧値更新手段と、
前記電圧値更新手段が前記基準電圧値を更新する時間間隔を設定する間隔設定手段とを備えており、
前記電圧値更新手段は、前記基準電圧値を前回更新した時点からの前記第1電極及び第2電極間に電圧が印加された累積時間が、前記間隔設定手段が設定した前記時間間隔に達した場合に、前記基準電圧値を大きい値に更新し、
前記間隔設定手段は、前記電圧値更新手段が前記基準電圧値を更新した場合に、当該更新された基準電圧値に基づいて前記時間間隔を小さい間隔に変更することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
温度を検出する温度検出手段をさらに備えており、
前記駆動信号生成手段が、補正された前記基準電圧値に応じた前記電圧値であって、前記温度検出手段が検出した温度が低いほど大きい前記電圧値を有する前記駆動信号を生成し、
前記間隔設定手段は、前記基準電圧値を前回更新した時点からの温度の統計値に基づいて、補正された前記基準電圧値に対応した前記時間間隔を設定し、前記累積時間が当該設定された時間間隔に達した場合に、前記電圧値更新手段が前記基準電圧値を大きい値に更新すると共に、前記間隔設定手段が当該更新された基準電圧値に基づいて前記時間間隔を小さい間隔に変更することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記電圧値更新手段が前記基準電圧値を更新する際の前記基準電圧値の変化幅が一定であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記変化幅が、前記電圧値更新手段が更新可能な最小限の大きさであることを特徴とする請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記変化幅が、前記電圧値更新手段が更新可能な最小限の大きさより大きいことを特徴とする請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
先の更新直後の前記基準電圧値に対応した前記圧電層の変形量は、これに続いて更新された直後の前記基準電圧値に対応した前記変形量とほぼ同じであると共に、更新直前の前記基準電圧値に対応した前記変形量と更新直後の前記基準電圧値に対応した前記変形量との差は、前記基準電圧値の更新ごとにほぼ同じであることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記駆動手段が、
前記吐出口から液体を吐出させてから次に液体を吐出させるまでの期間には、前記第1電極及び第2電極間の電圧を一定の電圧値に保持し、前記吐出口から液体を吐出させる際には、前記駆動信号の印加により、前記第1電極及び第2電極間の電圧を一旦ゼロとした後に前記一定の電圧値に戻すことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−75458(P2013−75458A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217387(P2011−217387)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】