説明

液体吸収体、液体収容体及び液体噴射装置

【課題】 排出口から排出される液体を受容し、その受容した液体を円滑に拡散させて吸収することができる液体吸収体、その受容した液体を円滑に吸収して収容することができる液体収容体およびその液体収容体を備える液体噴射装置を提供する。
【解決手段】 回収タンクにはインク吸収体を収容し、その回収タンクの底面側に受容拡散部材を設け、その上面には保持部材を設けた。そしてその受容拡散部材は、拡散細孔37の内壁37aに下地膜38と撥液膜39とを積層した拡散流路40を備え、さらにその撥液膜39に撥液基39aとしてフッ素原子を有する長鎖高分子基39bを付与して撥液性を備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吸収体、液体収容体及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ターゲットに対して液体を噴射する液体噴射装置には、記録媒体としての記録用紙に対してインクを噴射するインクジェット式プリンタ(以下単に、プリンタという。)が知られている。このプリンタでは、インクの噴射不良を低減するために、インクを噴射するノズルから増粘したインクなどを吐出させるクリーニングが適宜行われている。
【0003】
このクリーニングでは、ノズルが形成されるノズル形成面をキャップで封止した後に、そのノズル形成面とキャップとで形成される空間(キャップ内空間)を吸引ポンプにより吸引してキャップ内空間を負圧にしノズルから増粘したインクを吐出している。
【0004】
さて、こうしたクリーニングでは、ノズルから吐出されるインクが吸引ポンプで吸引された後に、回収タンクに回収されている。その回収タンクは、上面が開口しており、インク吸収体が収容されている。そして、回収タンクは、吸引ポンプから回収タンクに排出されるインク(以下単に、排出インクという。)をそのインク吸収体で吸収して収容している。しかも、回収タンクは、そのインク溶媒の一部を回収タンクの上面開口部から揮発することによって、排出インクの容量を減少させ、その回収効率の向上を図っている。
【0005】
ところで、近年、こうしたプリンタでは、その印刷画像の保存性や彩色性の向上を図るために、顔料インクや高濃度インクを利用するようになっている。これらのインクは、一般的に、インク溶媒が揮発または吸収されることによって、そのインク成分(例えば、顔料)を容易に凝集して固化させてしまう。そのため、上記する回収タンクにこれらのインクが排出されると、その回収タンク内(特に、排出インクを排出する排出口の近傍)に固化したインク成分、すなわちインク残渣が堆積されるようになる。その結果、排出インクの吸収がこのインク残渣の堆積によって妨げられ、回収タンクの回収能力を低下させる問題となる。
【0006】
そこで、従来より、こうしたインクを利用する回収タンクでは、インク残渣の堆積による回収能力の低下を回避する提案がなされている(例えば、特許文献1)。特許文献1によれば、上面が開口した回収タンクに対して排出インクを排出する排出口が複数設けられている。これによれば、排出インクがインク吸収体に対して分散して吸収するように作用するので、排出インクの吸収作用を促進することができる。したがって、インク吸収体におけるインク残渣の堆積が分散され、回収タンクの回収能力が低下するのを抑制することができる。
【特許文献1】特開2001−96762
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載される回収タンクでは、インク溶媒が上面の開口部から揮発してしまう。また、排出インクを受容するインク吸収体の部位がインク溶媒との親和性が高いために、インク溶媒がインク吸収体に優先的に吸収されてしまう。このため、特に排出口の近傍では、インク吸収体の表面およびその内部でインク成分が容易に凝集して固化する。したがって、複数設けられた排出口の近傍ではインク残渣の堆積が発生してしまう。その結果、排出インクの吸収がこのインク残渣の堆積によって妨げられ、再び回収タンクの回収能力の低下を招く問題となる。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、排出口から排出される液体を受容し、その受容した液体を円滑に拡散させて吸収することができる吸収体、その受容した液体を円滑に吸収して収容することができる液体収容体およびその液体収容体を備える液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体吸収体は、導入された液体を一側面で受容し拡散させて他側面から流出させる受容拡散部材と、前記受容拡散部材の他側面から流出する前記液体を吸収保持する保持部材とを備えた液体吸収体において、前記受容拡散部材の前記液体を拡散させる流路に、撥液性を施したことを特徴とする。
【0010】
本発明の液体吸収体によれば、受容拡散部材で受容された液体は、撥液性が備えられた流路によって受容拡散部材に拡散される。したがって、受容拡散部材で受容された液体は、液体と流路との間の間力が低減された流路を通じて、液体の各成分を偏倚させることなく受容拡散部材に円滑に拡散され、保持部材によって吸収保持される。これにより、液体吸収体が液体の成分の一部を優先的に吸収するのを抑制することができる。その結果、排出口近傍での液体の残渣の堆積を回避でき、液体収容体の収容能力の低下を抑制することができる。
【0011】
本発明の液体収容体は、導入される液体を液体吸収体にて吸収保持するようにした液体収容体において、前記液体吸収体は、一側面で受容した液体を拡散させて他側面から流出させる受容拡散部材と、前記受容拡散部材の他側面から流出する液体を保持吸収する保持部材とを有し、前記受容拡散部材を前記保持部材の下側に配置し、その下側に配置された前記受容拡散部材に対して前記導入される液体を受容させる。
【0012】
本発明の液体収容体によれば、受容拡散部材を保持部材の下側に配置し、液体収容体に導入される液体を受容拡散部材に受容させた。したがって、受容拡散部材で受容された液体は、受容拡散部材の上側に配置された保持部材によって気密性が向上され、液体の揮発が抑制される。その結果、排出口近傍での液体の残渣の堆積を回避でき、液体収容体の回収能力の低下を抑制することができる。また、液体を受容する受容拡散部材の上側に保持部材が配置されたことにより、液体収容体が傾いた場合であっても、保持部材が液体収容体の蓋として液体を吸収保持することができるため、液体収容体から液体が溢れ出るのを防止することが出来る。
【0013】
この液体収容体は、受容拡散部材は、前記液体を拡散させる流路に撥液性を施した。
この液体収容体によれば、受容拡散部材で受容された液体は、撥液性が備えられた流路によって受容拡散部材に拡散される。したがって、受容拡散部材で受容された液体は、液体と流路との間の間力が低減された流路を通じて、液体の各成分を偏倚させることなく受容拡散部材に円滑に拡散され、保持部材によって吸収保持される。これにより、吸収体が液体の成分の一部を優先的に吸収するのを抑制することができる。その結果、排出口近傍での液体の残渣の堆積を回避でき、液体収容体の収容能力の低下を抑制することができる。
【0014】
この液体収容体は、前記受容拡散部材が液体を受容する側から拡散する側に向かって分岐する多数の孔を前記流路にした多孔性基材である。
この液体収容体によれば、前記受容拡散部材が液体を受容する側から拡散する側に向かって分岐する孔を流路にした多孔性基材で形成されるようになる。したがって、多数の孔の分岐に沿って液体を円滑に拡散させることができる。
【0015】
この液体収容体は、前記流路の内壁面に撥液基を備える金属アルコキシドの撥液膜を形成した。
この液体収容体によれば、撥液性を備える流路の内壁面が撥液基を有する金属アルコキシドの撥液膜で形成される。したがって、液体と流路の内壁面との間の間力を撥液基によって低下させることができ、受容拡散部材で受けた液体の組成を保持して、その液体を円滑に拡散させることができる。
【0016】
この液体収容体は、前記撥液基は、フッ素原子を有する長鎖高分子基である。
この液体収容体によれば、撥液基がフッ素原子を有する長鎖高分子基で形成されるようになる。したがって、流路の内壁面にフッ素原子を有する長鎖高分子基を複雑に絡み合わせることができる。その結果、撥液膜の膜密度を緻密にすることができ、液体の特定成分を流路の内壁面や流路の外側へ浸透させることがない。そのため、液体の各成分を偏倚させることなく円滑に拡散させることができる。
【0017】
この液体収容体は、前記撥液膜は、その前記内壁面側に下地膜を有して、前記下地膜の前記撥液膜側を水酸基で終端させた後に撥液基を有する金属アルコキシドを反応させて前記撥液膜を形成した。
【0018】
この液体収容体によれば、撥液膜が、水酸基で終端される下地膜に撥液基を有する金属アルコキシドを反応させて形成されるようになる。したがって、金属アルコキシドの金属原子と下地膜の酸素原子とを結合させて撥液基を有する金属アルコキシドの撥液膜を形成することができ、下地膜に形成する水酸基の分だけ流路最表面に撥液基を配置させることができる。その結果、下地膜の水酸基を増加させることによって撥液膜をより緻密にすることができ、液体の各成分を偏倚させることなく円滑に拡散させることができる。
【0019】
この液体収容体は、前記受容拡散部材が金属部材である。
この液体収容体によれば、前記受容拡散部材が金属部材で形成されるようになる。したがって、受容拡散部材で受容した液体を流路に沿って円滑に拡散させることができ、しかも、従来より利用される高分子材料などに加えて液体吸収体の材料選択肢を多くすることができ、流路の孔径や形状などの設計範囲を拡大することができる。
【0020】
本発明の液体噴射装置は、液体貯留手段に貯留される複数の成分からなる液体を液体噴射ノズルから噴射させる液体噴射ヘッドのノズル形成面を封止する封止手段と、前記ノズル形成面と前記封止手段との間の空間に前記液体噴射ノズルから吐出される液体を回収する回収手段とを備える液体噴射装置において、前記回収手段には、前記液体収容体を備えた。
【0021】
本発明の液体噴射装置によれば、前記回収手段により回収された液体は、前記液体収容体により受容され、撥液性が備えられた流路によって受容拡散部材に拡散される。したがって、受容拡散部材で受容された液体はその各成分を偏倚させることなく受容拡散部材の全体に円滑に拡散され、保持部材によって吸収保持される。これにより、吸収体が液体の成分の一部を優先的に吸収するのを抑制することができる。その結果、排出口近傍での液体の残渣の堆積を回避でき、液体収容体の収容能力の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を具体化したインクジェット式プリンタの一実施形態を図1〜図7に従って説明する。
図1および図2は、インクジェット式プリンタを示す斜視図および要部概略正断面図である。図1に示すように、液体噴射装置としてのインクジェット式プリンタ10(以下単に、プリンタ10という。)には、本体ケース11が備えられている。本体ケース11は
、プリンタ10の装置全体を覆うものであって略箱型に形成されている。
【0023】
その本体ケース11には、棒状のガイド部材12が長手方向(図1における主走査方向X)に沿って架設されている。そのガイド部材12には、キャリッジ13が主走査方向Xに沿って移動可能に挿通支持されている。そのキャリッジ13は、タイミングベルト14を介してキャリッジモータM1に連結駆動されている。そして、キャリッジモータM1を回転駆動すると、その駆動力がタイミングベルト14を介してキャリッジ13に伝達される。これにより、駆動力を受けるキャリッジ13が、ガイド部材12に沿って主走査方向Xに往復移動する。
【0024】
キャリッジ13の下部には、図2に示すように、液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド15が搭載されている。その記録ヘッド15の下面には、ノズル形成面15aが形成されている。そのノズル形成面15aには、液体を噴射させる図示しない多数の液体噴射ノズル(以下単に、ノズルという。)が形成されている。
【0025】
キャリッジ13にあってその記録ヘッド15の上側には、図1に示すように、液体貯留手段としてのインクカートリッジ16が着脱可能に搭載されている。そのインクカートリッジ16内には、液体としてのインクが記録ヘッド15に供給可能に収容されている。なお、本実施形態におけるインクは顔料インクであって、水性溶媒(溶媒成分)と分散剤で分散される顔料(分散成分)などを有するインクであるが、他成分で構成されるインクであってもよく特に限定しない。
【0026】
キャリッジ13の下方には、図1に示すように、プラテン17が配設されている。プラテン17は、ターゲットとしての記録用紙Pを支持する支持台であって、その上面には、図示しない紙送り機構が設けられている。その紙送り機構は、紙送りモータM2を駆動すると、主走査方向Xに直交する方向(図1における副走査方向Y)に向かって記録用紙Pを給送するようになっている。
【0027】
こうして、プリンタ10は、画像データに基づいて作成される画像信号が入力されると、紙送りモータM2を駆動して記録用紙Pを副走査方向Yに給紙し、キャリッジモータM1を回転駆動してキャリッジ13を主走査方向Xに往復移動する。同時に、プリンタ10は、往復動する記録ヘッド15からインク滴を噴射して記録用紙P上に印刷を施す。
【0028】
図1に示すように、本体ケース11内の右側には、印刷を施すことのない非印刷領域が設けられている。その非印刷領域には、クリーニング機構20が備えられている。そのクリーニング機構20には、図2に示すように、封止手段としてのキャップ21、排出チューブ22、吸引ポンプ23および回収手段としての回収タンク25が備えられている。
【0029】
キャップ21は、図2に示すように、上面を開口した箱体状に形成されている。そのキャップ21は、非印刷領域に配設される図示しない昇降機構によって、主走査方向Xおよび副走査方向Yに対して直交する方向(図2における上下方向Z)に沿って往復動可能に支持されている。そのキャップ21の底面には、上下方向Zに沿って吸引孔21aが貫通形成されている。また、そのキャップ21の上縁には、可撓性部材からなる四角枠状の外枠21bが形成されている。そして、記録ヘッド15が非印刷領域に移動しキャップ21が上動すると、キャップ21の外枠21bが記録ヘッド15に当接してノズル形成面15aを封止する。これによって、キャップ21内には、ノズル形成面15aを密閉する空間、すなわちキャップ内空間が形成される。
【0030】
本体ケース11の底面にあってプラテン17の下側には、回収手段および液体収容体としての回収タンク25が配設されている。回収タンク25は、図1および図2に示すよう
に、直方体形状に形成される容器であって、その容器内部は、前記キャップ21の吸引孔21aに接続される排出チューブ22を介してキャップ内空間と連通されている。その排出チューブ22の途中には、吸引ポンプ23が配設されている。吸引ポンプ23は、図示しないポンプモータにて稼動するポンプであって、その吸引能力に相対する負圧をキャップ内空間に形成する。
【0031】
そして、吸引ポンプ23を稼動してキャップ内空間に負圧を形成すると、記録ヘッド15内にある増粘したインクがノズルからキャップ内空間に向かって吐出され、記録ヘッド15のクリーニングが行われる。このとき、キャップ内空間に吐出されるインクは、吸引ポンプ23によって吸引され、排出インクとなって排出チューブ22の下流側、すなわち回収タンク25内に排出される。
【0032】
回収タンク25は、図2及び図3に示すように、その上側に開口を有する箱体状に形成されている。また、回収タンク25の内側には略直方体形状の回収空間Rが形成されている。その回収空間R内には、図2に示すように、液体吸収体としてのインク吸収体30が収容されている。インク吸収体30は、平面視方向からみて底面部25bと略同じサイズで形成され、その上面は回収タンク25の上縁と面一となっている。また、回収タンク25の側壁25a(図3における左側壁)には、挿入部26が設けられている。挿入部26は、側壁25aの中央下側に主走査方向Xに沿って貫通形成されており、排出チューブ22が連結可能となっている。
【0033】
次に、上記回収タンク25に備えられるインク吸収体30について図4〜図7にしたがって説明する。図4および図5は、インク吸収体30を模式的に示す概略断面図および概略説明図である。また、図6および図7は、インク吸収体30の作用を示す説明図である。
【0034】
図4に示すように、インク吸収体30は、受容拡散部材35と保持部材36とを備えている。受容拡散部材35は、インク吸収体30の下側、すなわち回収タンク25の底面部25bと相対向する側にあって、その一側面(側面部35a)は排出チューブ22の先端部(排出口22a)が当接するように配置されている。また受容拡散部材35は、高分子材料で形成される多孔性基材としての多孔質シートで形成されており、多数の拡散細孔37(図5参照)が形成されている。拡散細孔37は、分散成分E(図6参照)の粒径よりも大きい孔径で形成され、受容拡散部材35の側面35aから上面35bに広がるように分岐を重ねて、貫通して形成されている。
【0035】
その拡散細孔37の内壁面としての内壁37aには、図5に示すように、下地膜38が形成されている。下地膜38は、シリコーン材料(例えば、ジメチルポリシロキサンなどのアルコキシシラン化合物)を原料としてプラズマ重合などにより形成される膜であって、図5に示すように、内壁37a全体にわたり形成されている。
【0036】
その下地膜38の内周面38aには、図5に示すように、その下地膜38を下地とする撥液膜39が形成されている。撥液膜39は、撥液基39aを有する金属アルコキシドとしてのアルコキシシラン化合物の分子膜で形成されている。その撥液膜39には、撥液基39aとしてのフッ素原子を有する長鎖高分子基39b(例えば、パーフルオロアルキル鎖)が備えられている。このため、拡散細孔37には、その内方に向かって撥液基39aを配置させることにより、撥水性と撥油性、すなわち撥液性を有する流路(拡散流路40)が形成される。
【0037】
なお、図5は、この拡散流路40の構成を説明するために、長鎖高分子基39bを整列させて模式的に記載しているが、撥液膜39はその長鎖高分子基39bをそれぞれが緻密
に絡み合った状態で拡散細孔37の内壁37aを覆っている。また、本実施形態における撥液基39aは、フッ素原子を有する長鎖高分子基39bとして具体化されているが、他の撥液性を有する基であってもよく特に限定しない。ちなみに、この撥液膜39は、下地膜38の内周面38aをプラズマ処理などによって水酸基で終端した後に、その下地膜38の内周面38aをアルコキシシラン化合物溶液に浸漬して形成した膜であるが、他の方法によって形成してもよい。
【0038】
その受容拡散部材35の上側(上下方向Z側)には、図3および図4に示すように、保持部材36が配置されている。保持部材36は、インク吸収体30の上側、すなわちプラテン17と相対向する側にあって、高分子材料からなる多孔質シートで形成されている。その保持部材36には、多数の保持細孔が形成されている。保持細孔は、分散成分Eの粒径よりも大きい孔径で形成され、その下端が拡散細孔の上端と連通するように形成されている。しかも、保持細孔は、保持部材36の下面36aから上面36bにかけて広がるように貫通して形成されている。
【0039】
そして、図6に示すように排出口22aからこのインク吸収体30に排出インクD1が排出されると、受容拡散部材35は、側面35aで排出インクD1を受け止める。側面35aに受け止められた排出インクD1は、拡散細孔37の拡散流路40に流入し、複数の拡散細孔37を介して上面35bに向かって広がるように分岐して流動する。しかも、その排出インクD1は、拡散流路40に形成される撥液膜39によって撥液されて流動する。したがって、拡散流路40を流動する排出インクD1は、排出インクD1における溶媒成分Sと分散成分Eとの割合を偏倚することなく分流して流動するようになる。この結果、拡散流路40の上端側、すなわち上面35bには、図6に破線で示すように、排出インクD1の組成を保持した状態のインク(排出インクD2)が流出される。
【0040】
上面35bに流出された排出インクD2は、図7に示すように、それぞれ保持部材36の下面36aから保持細孔に流入し、上面36bに向かって広がるように速やかに流動する。
【0041】
以上の結果、インク吸収体30は、受容拡散部材35の側面35aで受容した排出インクD1の分散成分Eあるいは溶媒成分Sを、排出口22aの近傍およびその内部に偏倚して残留させることなく円滑に拡散させて、保持部材36によって吸収保持させる。
【0042】
次に、上記実施形態の効果を記載する。
(1)本実施形態によれば、受容拡散部材35を保持部材36の下側に配置して、排出インクを受容拡散部材35に受容させた。これにより、排出インクは保持部材36によって気密性が向上され、インク溶媒の揮発が抑制される。その結果、排出口22aの近傍におけるインク残渣の堆積を低減することができ、回収タンク25の回収能力の低下を抑制することができる。
【0043】
(2)本実施形態によれば、受容拡散部材35の上側に保持部材36を配置した。これにより、回収タンク25が傾いた場合であっても、保持部材36が回収タンク25の蓋として排出インクを吸収保持するため、回収タンク25から排出インクが溢れ出るのを防止することが出来る。
【0044】
(3)本実施形態によれば、インク吸収体30の受容拡散部材35に、その側面35aから上面35bに向かって広がるように分岐を重ねる拡散細孔37を形成した。そのうえ、その拡散細孔37の内壁37aに撥液膜39を形成して、撥液性を有する拡散流路40を形成した。
【0045】
したがって、インク吸収体30は、インク組成(溶媒成分Sと分散成分Eとの割合)を保持した状態の排出インクD1を拡散流路40に沿って撥液して拡散することができる。その結果、排出口22aの近傍におけるインク残渣の堆積を確実に低減することができる。
【0046】
(4)本実施形態によれば、拡散細孔37内に撥液膜39を形成して、その撥液基39aを拡散細孔37の内方に向かうように配置させた。しかも、その撥液基39aを構成する長鎖高分子基39bを緻密に絡み合わせて拡散細孔37の内壁37aを覆うようにした。
【0047】
したがって、インク吸収体30は、インクを構成する溶媒成分Sあるいは分散成分Eを拡散細孔37の内壁37aに捕獲することなく、排出インクD1の組成を確実に保持しながら拡散させることができる。その結果、拡散流路40の目詰まりなどを回避することができ、インク吸収体30内でのインク残渣の堆積を解消することができる。
【0048】
(5)本実施形態によれば、拡散細孔37の内壁37aに下地膜38を形成し、その下地膜38の内周面38aに撥液膜39を形成した。さらに、下地膜38の内周面38a全面を水酸基で終端した後にアルコキシシラン化合物溶液に浸漬して撥液膜39を形成した。
【0049】
したがって、インク吸収体30の受容拡散部材35には、下地膜38の内周面38a、すなわち拡散細孔37の内壁37a全内周面に沿って撥液膜39を形成することができ、排出インクD2を拡散流路40に沿って確実に撥液させることができる。その結果、拡散流路40内(受容拡散部材35)にインク残渣を堆積することなく排出インクD1を円滑に拡散させることができる。
【0050】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、受容拡散部材35を高分子材料からなる多孔質シートとして具体化したが、これを変更し、ステンレス鋼などの金属部材によって具体化してもよい。これによれば、受容拡散部材35の材料選択枝を増加させることができ、拡散細孔37の孔径や形状、それだけでなく下地膜38や撥液膜39の形成方法など、各種設計の自由度を拡張することができる。また、金属部材は高分子材料と比べて溶媒成分による膨潤がし難いため、吸収能力の把握も容易となる。
【0051】
・あるいは、その受容拡散部材35が拡散細孔37のみを備える撥液性の金属部材、つまり下地膜38および撥液膜39を備えない撥液性の金属部材であってもよい。これによれば、拡散細孔37の内壁37a表面を撥液性の金属面にすることができ、たとえば親水性の高分子材料に比べて、その内壁37a表面と溶媒成分Sあるいは分散成分Eとの間力を低減させることができる。その結果、排出インクD1の溶媒成分Sと分散成分Eとを保持しながら、その排出インクD1を円滑に拡散することができる。
【0052】
・さらには、その受容拡散部材35が拡散細孔37のみを備える金属部材、つまり撥液性を備えない金属部材であってもよい。これによると、排出インクD1を拡散させる流路の表面を金属面にすることができ、たとえばフェルト材などで形成される拡散部材に比べて、その流路表面をより緻密にすることができる。その結果、流路の表面に分散成分Eなどを捕獲することなく排出インクD1を拡散させることができ、排出インクD1の組成を保持しながら、その排出インクD1を円滑に拡散することができる。
【0053】
・上記実施を変形態では、拡散細孔37の内壁37aに下地膜38と撥液膜39とを積層する構成にしたが、これを下地膜38を形成することなく内壁37aに撥液膜39のみ
を直接堆積する構成であってもよい。もしくは、排出インクD1を撥液する撥液性部材で受容拡散部材35を形成し、拡散細孔37の内壁37aによって排出インクD1を拡散する構成、すなわち下地膜38および撥液膜39を形成しない構成であってもよい。
【0054】
・上記実施形態では、拡散細孔37にのみ下地膜38と撥液膜39を形成する構成にしたが、保持部材36の保持細孔にも、同下地膜38と撥液膜39を形成する構成にしてもよい。
【0055】
・上記実施形態では、撥液膜をアルコキシシラン化合物の分子膜として具体化したが、チタン、アルミニウムなどの金属原子からなる金属アルコキシドであってもよく撥液性を有していればよい。
【0056】
・上記実施形態では、下地膜38をシリコーン材料で形成されるプラズマ重合膜として具体化したが、拡散細孔37の内壁37aに沿って、金属アルコキシドの金属原子と反応して結合する水酸基を形成できる膜であれば何でもよい。
【0057】
・上記実施形態では、保持部材36を高分子材料からなる多孔質シートとして具体化したが、これを変更し、金属部材によって具体化してもよい。これによれば、金属材料は高分子材料と比べて溶媒成分による膨潤がし難いため、吸収能力の把握が容易となる。また、素材のリサイクルも容易にすることができる。
【0058】
・上記実施形態では、液体を顔料インクとして具体化したが、染料インクであってもよく、さらには、ELディスプレイや面発光ディスプレイ、あるいは液晶ディスプレイなどに用いられる複数の成分からなる液体であればよい。
【0059】
・上記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式プリンタに具体化したが、例えば、ELディスプレイや面発光ディスプレイ、あるいは液晶ディスプレイなどに用いられる液体を噴射する液体噴射装置であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明を具体化したインクジェット式プリンタを示す斜視図。
【図2】同じく、インクジェット式プリンタを示す要部断面図。
【図3】同じく、回収タンクを示す分解斜視図。
【図4】同じく、インク吸収体を示す概略断面図。
【図5】同じく、受容拡散部材を示す説明図。
【図6】同じく、インク吸収体によるインクの拡散を説明する説明図。
【図7】同じく、インク吸収体によるインクの保持を説明する説明図。
【符号の説明】
【0061】
10…液体噴射装置としてのインクジェット式プリンタ、15…液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド、15a…ノズル形成面、16・t体貯留手段としてのインクカ−トリッジ、
21…封止手段としてのキャップ、22…排出チューブ、22a…排出口、23…吸引ポンプ、25…回収手段および液体収容体としての回収タンク、26…挿入部、30…液体吸収体としてのインク吸収体、35…受容拡散部材、36…保持部材、38…下地膜、39…撥液膜、39a…撥液基、40…拡散流路、E…分散成分、P…ターゲットとしての記録用紙、R…回収空間、S…溶媒成分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入された液体を一側面で受容し拡散させて他側面から流出させる受容拡散部材と、前記受容拡散部材の他側面から流出する前記液体を吸収保持する保持部材とを備えた液体吸収体において、
前記受容拡散部材の前記液体を拡散させる流路に、撥液性を施したことを特徴とする液体吸収体。
【請求項2】
導入される液体を液体吸収体にて吸収保持するようにした液体収容体において、
前記液体吸収体は、一側面で受容した液体を拡散させて他側面から流出させる受容拡散部材と、前記受容拡散部材の他側面から流出する液体を保持吸収する保持部材とを有し、
前記受容拡散部材を前記保持部材の下側に配置し、その下側に配置された前記受容拡散部材に対して前記導入される液体を受容させることを特徴とする液体収容体。
【請求項3】
請求項2に記載の液体収容体において、
前記受容拡散部材は、前記液体を拡散させる流路に撥液性を施したことを特徴とする液体収容体。
【請求項4】
請求項3に記載する液体収容体において、
前記受容拡散部材は、液体を受容する側から拡散する側に向かって分岐する多数の孔を前記流路にした多孔性基材であることを特徴とする液体収容体。
【請求項5】
請求項3または4に記載する液体収容体において、
前記流路の内壁面に撥液基を備える金属アルコキシドの撥液膜を形成したこと特徴とする液体収容体。
【請求項6】
請求項5に記載する液体収容体において、
前記撥液基は、フッ素原子を有する長鎖高分子基であることを特徴とする液体収容体。
【請求項7】
請求項5または6に記載する液体収容体において、
前記撥液膜は、その前記内壁面側に下地膜を有して、前記下地膜の前記撥液膜側を水酸基で終端させた後に撥液基を有する金属アルコキシドを反応させて前記撥液膜を形成したことを特徴とする液体収容体。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれか1つに記載する液体収容体において、
前記受容拡散部材は金属部材であることを特徴とする液体収容体。
【請求項9】
液体貯留手段に貯留される複数の成分からなる液体を液体噴射ノズルから噴射させる液体噴射ヘッドのノズル形成面を封止する封止手段と、前記ノズル形成面と前記封止手段との間の空間に前記液体噴射ノズルから吐出される液体を回収する回収手段とを備える液体噴射装置において、
前記回収手段には、請求項2〜8のいずれか1つに記載する液体収容体を備えたことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−142718(P2006−142718A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337921(P2004−337921)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】